定义( definition ) : 微生物感染心脏内膜面,伴赘生物 (vegetation )形成 释义 : ◆ 微生物:细菌、真菌、立克次体、衣原体等 ◆ 心脏内膜面:瓣膜、心内膜、动脉内膜
成沖 忠 教授 - kochi-tech.ac.jp · 平成19 年度 特 別 報 告 研 究 暯 題 目 rf...
Transcript of 成沖 忠 教授 - kochi-tech.ac.jp · 平成19 年度 特 別 報 告 研 究 暯 題 目 rf...
平成 19年度
特 別 報 告 研 究 書
題 目
RFマグネトロンスパッタリング法により成膜された
ZnO薄膜の分析評価
‐Analysis of ZnO thin films prepared by RF-magnetron sputtering-
指導教員
成沢 忠 教授
報告者
1 1 0 5 3 0 71 1 0 5 3 0 71 1 0 5 3 0 71 1 0 5 3 0 7
高繁 夢二
平成 20年 2月 18日
高知工科大学大学院 工学研究科 基盤工学専攻
電子光システム工学コース
i
内容梗概
本論文は近年様々なデバイス分野でその応用が期待されている II ndashVI 族化合物半
導体である ZnO(酸化亜鉛)薄膜に関する研究についての成果をまとめたものである
ZnOの持つ透明性発光特性は透明導電膜やLEDなどの応用に期待されており様々
な成膜手法で作製可能である材料が非常に安価で人体への安全性も高いことから機能
性半導体材料として知られ様々なアプローチが試みられる半導体材料であるそこで
本研究ではデバイス特性の向上に欠かすことの出来ない ZnO 薄膜における結晶構造
と薄膜密度の分析評価を行った
本論文の構成及び各章の概略について示す
第第第第1111章章章章 序論序論序論序論
近年の機能性半導体材料として期待される ZnOについてその特徴取り巻く現
状と問題点を挙げ本研究の目的を述べる
第第第第2222章章章章 理論理論理論理論
X線回折(X-ray diffractionXRD)を用いた結晶構造分析と高速イオンビームを
用いたラザフォード後方散乱分析(Rutherford backscattering spectrometryRBS)
の理論について説明をする
第第第第3333章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
本研究において作製した ZnOに関する構造と諸特性を述べまた作製に使用した
RFマグネトロンスパッタリング成長法分析評価に用いた各装置について説明を
行う
第第第第4444章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度分析密度分析密度分析密度分析評価結果評価結果評価結果評価結果
RF マグネトロンスパッタ成長を行った ZnO 薄膜について述べ成長条件変化と
熱処理前後における XRDRBS分析による構造評価を行ったこの実験で成長条件
及び熱処理による結晶の微小構造の改善と膜密度の増減を確認した
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
本研究で行った実験の結果をまとめ検討を行ったZnO 薄膜の結晶構造および
膜密度を最も結晶状態の良いものと比較した結果の結論を行いXRDRBS分析のデ
バイス特性に対する今後の展望を述べる
ii
第第第第 1111 章章章章 序論序論序論序論 1
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景 1
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的 2
第第第第 1111 章章章章 理論理論理論理論 2
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法 2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 4
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 5
215215215215 多結晶集合体多結晶集合体多結晶集合体多結晶集合体のののの特性特性特性特性 9
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 10
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法 11
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに 11
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 12
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 13
224224224224 面密度面密度面密度面密度 18
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜作製薄膜作製薄膜作製薄膜作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要 20
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜 20
311311311311 ZnO ZnO ZnO ZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 20
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置 24
321321321321 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 24
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 25
33333333 分析分析分析分析評価装置評価装置評価装置評価装置 27
331331331331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 27
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 28
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター 29
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析評価結果分析評価結果分析評価結果分析評価結果 31
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存 31
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造 31
412412412412 実験結果実験結果実験結果実験結果 32
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存 38
421421421421 試料構造試料構造試料構造試料構造 38
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果 39
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果 43
431431431431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件 43
432432432432 実験結果実験結果実験結果実験結果 44
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察 47
第第第第 5555 章章章章 結論結論結論結論 48
iii
本論文に関する発表 49
謝辞 50
本研究は科学技術振興機構高知県地域結集型共同研究事業「次世代情報デバイス用薄
膜ナノ技術の開発(平成15年 1月~平成 19年 12月)」の一部として行われた
1
第第第第1章章章章 序論序論序論序論
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景
近年液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display LCD)やプラズマディスプレ
(Plasma Display Panel PDP)に代表される薄型のフラットパネルディスプレイ関連
の技術は画像の高速応答大画面薄型化が進む成長著しい分野である最近新たに有
機EL(Organic Electro Luminescence)を使ったディスプレイの市場参入も本格化し
安価で高性能な商品が投入され一般家庭にもブラウン管テレビに代わり普及してきて
いるまた有機 EL や液晶は小型化に有利である点を生かし小型 mp3 プレイヤーや
携帯電話などへの使用が増えフィールドをさらに広げる勢いを見せている
このフラットディスプレイに共通して使用される電極には高い電気導電性(比抵抗 1
times10-3Ωcm以下)可視光領域(380~780 nm)で透過率 80以上の条件を満たす Sn
をドープした In2O3通称 ITO(Indium Tin Oxide)薄膜が一般的に用いられている
しかしITO に使われている Inはレアメタルであるため近年その価格がフラットデ
ィスプレイ関連への需要拡大で大きく高騰しているまた液晶や有機 ELディスプレイ
の駆動に必要な TFTに用いるシリコン(Si)も同様に価格が高騰も懸念されている一方
技術的な問題として次期フラットパネルディスプレイの代表格であるフレキシブルデ
ィスプレイに使われるプラスチック基板が高温に弱いという問題が挙げられる従来の
液晶の駆動に用いられた TFT を作製する際の高温処理もフレキシブルディスプレイ
に使用されるプラスチック基板の高温に弱いといった特性から作製プロセスの見直し
が必要となっている
そこでこれらの諸問題を解決するために期待される半導体材料に ZnO(酸化亜鉛)
が挙げられるZnO は資源的に豊富で過去には粉末の形で化粧品に使われていた経
緯があり人体への安全性も良く知られているまた様々な成膜手法で作製可能な材料で
あるため高温から室温に渡る幅広い温度下で良質な結晶薄膜を得られるといった特徴
があるこのように機能性に富んだ材料であるため近年では透明導電膜や TFT 活性
層材料としての研究が盛んであるまた GaN(窒化ガリウム)と同等のバンドギャッ
プを持つことなどから LED や LD の代替材料としてその他高周波デバイス(SAW)や
ガスセンサへの応用も研究機関で行われておりその汎用性をさらに広げている
2
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的
現在の薄膜デバイス特性において XRDで評価される結晶構造は特性向上において重
要な情報であるそこでデバイス特性向上の新たな試みとして ZnO 薄膜の密度を評価
することでTFT の電界効果移動度などのデバイス特性向上に繋げるため結晶構造及
び薄膜密度を分析評価することを目的として行った
今回評価に用いた ZnO薄膜はMBE(Molecular Beam Epitaxy分子線エピタキシ
ー法)や CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相堆積法)など多くの手法で作製
可能であることが知られているそこで本研究では近年の薄膜作製技術分野において成
膜速度の速さや低基板温度製膜可能で知られるRFマグネトロンスパッタ法を用いてガ
ラス基板上に作製した ZnO薄膜の分析評価を行った
第第第第1111章章章章 理論理論理論理論
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法
211211211211 はじめにはじめにはじめにはじめに 1)2)
X 線は 1895 年にドイツの物理学者 Roentgenによって発見されたがその性質がま
だ理解されなかったため X 線と名づけられたその後その様々な特性が発見されそ
の中でもラウエによる X線回折(X-ray diffractionXRD)の発見(1914年)ブラッ
グ親子によるX線回折現象を利用した結晶構造の決定(1915年)によって今日の X線
回折法を用いた結晶構造分析技術の確立に至った
X 線回折法は他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis別称 XPS)やUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり結晶粒子などの原子配
列や構造に関する情報を得る分析法である
212212212212 XXXX 線発生線発生線発生線発生とととと原理原理原理原理 1)
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X線が発生する
このような状態は数 10kVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され発生した X線はあらゆる方向に放射される電子の電荷を e電極間の電
圧を V とすると衝突する際の電子の運動エネルギーKEは衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
i
内容梗概
本論文は近年様々なデバイス分野でその応用が期待されている II ndashVI 族化合物半
導体である ZnO(酸化亜鉛)薄膜に関する研究についての成果をまとめたものである
ZnOの持つ透明性発光特性は透明導電膜やLEDなどの応用に期待されており様々
な成膜手法で作製可能である材料が非常に安価で人体への安全性も高いことから機能
性半導体材料として知られ様々なアプローチが試みられる半導体材料であるそこで
本研究ではデバイス特性の向上に欠かすことの出来ない ZnO 薄膜における結晶構造
と薄膜密度の分析評価を行った
本論文の構成及び各章の概略について示す
第第第第1111章章章章 序論序論序論序論
近年の機能性半導体材料として期待される ZnOについてその特徴取り巻く現
状と問題点を挙げ本研究の目的を述べる
第第第第2222章章章章 理論理論理論理論
X線回折(X-ray diffractionXRD)を用いた結晶構造分析と高速イオンビームを
用いたラザフォード後方散乱分析(Rutherford backscattering spectrometryRBS)
の理論について説明をする
第第第第3333章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
本研究において作製した ZnOに関する構造と諸特性を述べまた作製に使用した
RFマグネトロンスパッタリング成長法分析評価に用いた各装置について説明を
行う
第第第第4444章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度分析密度分析密度分析密度分析評価結果評価結果評価結果評価結果
RF マグネトロンスパッタ成長を行った ZnO 薄膜について述べ成長条件変化と
熱処理前後における XRDRBS分析による構造評価を行ったこの実験で成長条件
及び熱処理による結晶の微小構造の改善と膜密度の増減を確認した
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
本研究で行った実験の結果をまとめ検討を行ったZnO 薄膜の結晶構造および
膜密度を最も結晶状態の良いものと比較した結果の結論を行いXRDRBS分析のデ
バイス特性に対する今後の展望を述べる
ii
第第第第 1111 章章章章 序論序論序論序論 1
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景 1
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的 2
第第第第 1111 章章章章 理論理論理論理論 2
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法 2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 4
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 5
215215215215 多結晶集合体多結晶集合体多結晶集合体多結晶集合体のののの特性特性特性特性 9
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 10
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法 11
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに 11
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 12
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 13
224224224224 面密度面密度面密度面密度 18
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜作製薄膜作製薄膜作製薄膜作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要 20
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜 20
311311311311 ZnO ZnO ZnO ZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 20
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置 24
321321321321 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 24
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 25
33333333 分析分析分析分析評価装置評価装置評価装置評価装置 27
331331331331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 27
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 28
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター 29
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析評価結果分析評価結果分析評価結果分析評価結果 31
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存 31
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造 31
412412412412 実験結果実験結果実験結果実験結果 32
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存 38
421421421421 試料構造試料構造試料構造試料構造 38
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果 39
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果 43
431431431431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件 43
432432432432 実験結果実験結果実験結果実験結果 44
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察 47
第第第第 5555 章章章章 結論結論結論結論 48
iii
本論文に関する発表 49
謝辞 50
本研究は科学技術振興機構高知県地域結集型共同研究事業「次世代情報デバイス用薄
膜ナノ技術の開発(平成15年 1月~平成 19年 12月)」の一部として行われた
1
第第第第1章章章章 序論序論序論序論
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景
近年液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display LCD)やプラズマディスプレ
(Plasma Display Panel PDP)に代表される薄型のフラットパネルディスプレイ関連
の技術は画像の高速応答大画面薄型化が進む成長著しい分野である最近新たに有
機EL(Organic Electro Luminescence)を使ったディスプレイの市場参入も本格化し
安価で高性能な商品が投入され一般家庭にもブラウン管テレビに代わり普及してきて
いるまた有機 EL や液晶は小型化に有利である点を生かし小型 mp3 プレイヤーや
携帯電話などへの使用が増えフィールドをさらに広げる勢いを見せている
このフラットディスプレイに共通して使用される電極には高い電気導電性(比抵抗 1
times10-3Ωcm以下)可視光領域(380~780 nm)で透過率 80以上の条件を満たす Sn
をドープした In2O3通称 ITO(Indium Tin Oxide)薄膜が一般的に用いられている
しかしITO に使われている Inはレアメタルであるため近年その価格がフラットデ
ィスプレイ関連への需要拡大で大きく高騰しているまた液晶や有機 ELディスプレイ
の駆動に必要な TFTに用いるシリコン(Si)も同様に価格が高騰も懸念されている一方
技術的な問題として次期フラットパネルディスプレイの代表格であるフレキシブルデ
ィスプレイに使われるプラスチック基板が高温に弱いという問題が挙げられる従来の
液晶の駆動に用いられた TFT を作製する際の高温処理もフレキシブルディスプレイ
に使用されるプラスチック基板の高温に弱いといった特性から作製プロセスの見直し
が必要となっている
そこでこれらの諸問題を解決するために期待される半導体材料に ZnO(酸化亜鉛)
が挙げられるZnO は資源的に豊富で過去には粉末の形で化粧品に使われていた経
緯があり人体への安全性も良く知られているまた様々な成膜手法で作製可能な材料で
あるため高温から室温に渡る幅広い温度下で良質な結晶薄膜を得られるといった特徴
があるこのように機能性に富んだ材料であるため近年では透明導電膜や TFT 活性
層材料としての研究が盛んであるまた GaN(窒化ガリウム)と同等のバンドギャッ
プを持つことなどから LED や LD の代替材料としてその他高周波デバイス(SAW)や
ガスセンサへの応用も研究機関で行われておりその汎用性をさらに広げている
2
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的
現在の薄膜デバイス特性において XRDで評価される結晶構造は特性向上において重
要な情報であるそこでデバイス特性向上の新たな試みとして ZnO 薄膜の密度を評価
することでTFT の電界効果移動度などのデバイス特性向上に繋げるため結晶構造及
び薄膜密度を分析評価することを目的として行った
今回評価に用いた ZnO薄膜はMBE(Molecular Beam Epitaxy分子線エピタキシ
ー法)や CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相堆積法)など多くの手法で作製
可能であることが知られているそこで本研究では近年の薄膜作製技術分野において成
膜速度の速さや低基板温度製膜可能で知られるRFマグネトロンスパッタ法を用いてガ
ラス基板上に作製した ZnO薄膜の分析評価を行った
第第第第1111章章章章 理論理論理論理論
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法
211211211211 はじめにはじめにはじめにはじめに 1)2)
X 線は 1895 年にドイツの物理学者 Roentgenによって発見されたがその性質がま
だ理解されなかったため X 線と名づけられたその後その様々な特性が発見されそ
の中でもラウエによる X線回折(X-ray diffractionXRD)の発見(1914年)ブラッ
グ親子によるX線回折現象を利用した結晶構造の決定(1915年)によって今日の X線
回折法を用いた結晶構造分析技術の確立に至った
X 線回折法は他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis別称 XPS)やUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり結晶粒子などの原子配
列や構造に関する情報を得る分析法である
212212212212 XXXX 線発生線発生線発生線発生とととと原理原理原理原理 1)
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X線が発生する
このような状態は数 10kVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され発生した X線はあらゆる方向に放射される電子の電荷を e電極間の電
圧を V とすると衝突する際の電子の運動エネルギーKEは衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
ii
第第第第 1111 章章章章 序論序論序論序論 1
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景 1
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的 2
第第第第 1111 章章章章 理論理論理論理論 2
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法 2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 4
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 5
215215215215 多結晶集合体多結晶集合体多結晶集合体多結晶集合体のののの特性特性特性特性 9
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 10
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法 11
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに 11
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 12
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 13
224224224224 面密度面密度面密度面密度 18
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜作製薄膜作製薄膜作製薄膜作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要 20
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜 20
311311311311 ZnO ZnO ZnO ZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 20
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置 24
321321321321 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 24
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 25
33333333 分析分析分析分析評価装置評価装置評価装置評価装置 27
331331331331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 27
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 28
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター 29
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析評価結果分析評価結果分析評価結果分析評価結果 31
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存 31
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造 31
412412412412 実験結果実験結果実験結果実験結果 32
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存 38
421421421421 試料構造試料構造試料構造試料構造 38
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果 39
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果 43
431431431431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件 43
432432432432 実験結果実験結果実験結果実験結果 44
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察 47
第第第第 5555 章章章章 結論結論結論結論 48
iii
本論文に関する発表 49
謝辞 50
本研究は科学技術振興機構高知県地域結集型共同研究事業「次世代情報デバイス用薄
膜ナノ技術の開発(平成15年 1月~平成 19年 12月)」の一部として行われた
1
第第第第1章章章章 序論序論序論序論
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景
近年液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display LCD)やプラズマディスプレ
(Plasma Display Panel PDP)に代表される薄型のフラットパネルディスプレイ関連
の技術は画像の高速応答大画面薄型化が進む成長著しい分野である最近新たに有
機EL(Organic Electro Luminescence)を使ったディスプレイの市場参入も本格化し
安価で高性能な商品が投入され一般家庭にもブラウン管テレビに代わり普及してきて
いるまた有機 EL や液晶は小型化に有利である点を生かし小型 mp3 プレイヤーや
携帯電話などへの使用が増えフィールドをさらに広げる勢いを見せている
このフラットディスプレイに共通して使用される電極には高い電気導電性(比抵抗 1
times10-3Ωcm以下)可視光領域(380~780 nm)で透過率 80以上の条件を満たす Sn
をドープした In2O3通称 ITO(Indium Tin Oxide)薄膜が一般的に用いられている
しかしITO に使われている Inはレアメタルであるため近年その価格がフラットデ
ィスプレイ関連への需要拡大で大きく高騰しているまた液晶や有機 ELディスプレイ
の駆動に必要な TFTに用いるシリコン(Si)も同様に価格が高騰も懸念されている一方
技術的な問題として次期フラットパネルディスプレイの代表格であるフレキシブルデ
ィスプレイに使われるプラスチック基板が高温に弱いという問題が挙げられる従来の
液晶の駆動に用いられた TFT を作製する際の高温処理もフレキシブルディスプレイ
に使用されるプラスチック基板の高温に弱いといった特性から作製プロセスの見直し
が必要となっている
そこでこれらの諸問題を解決するために期待される半導体材料に ZnO(酸化亜鉛)
が挙げられるZnO は資源的に豊富で過去には粉末の形で化粧品に使われていた経
緯があり人体への安全性も良く知られているまた様々な成膜手法で作製可能な材料で
あるため高温から室温に渡る幅広い温度下で良質な結晶薄膜を得られるといった特徴
があるこのように機能性に富んだ材料であるため近年では透明導電膜や TFT 活性
層材料としての研究が盛んであるまた GaN(窒化ガリウム)と同等のバンドギャッ
プを持つことなどから LED や LD の代替材料としてその他高周波デバイス(SAW)や
ガスセンサへの応用も研究機関で行われておりその汎用性をさらに広げている
2
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的
現在の薄膜デバイス特性において XRDで評価される結晶構造は特性向上において重
要な情報であるそこでデバイス特性向上の新たな試みとして ZnO 薄膜の密度を評価
することでTFT の電界効果移動度などのデバイス特性向上に繋げるため結晶構造及
び薄膜密度を分析評価することを目的として行った
今回評価に用いた ZnO薄膜はMBE(Molecular Beam Epitaxy分子線エピタキシ
ー法)や CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相堆積法)など多くの手法で作製
可能であることが知られているそこで本研究では近年の薄膜作製技術分野において成
膜速度の速さや低基板温度製膜可能で知られるRFマグネトロンスパッタ法を用いてガ
ラス基板上に作製した ZnO薄膜の分析評価を行った
第第第第1111章章章章 理論理論理論理論
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法
211211211211 はじめにはじめにはじめにはじめに 1)2)
X 線は 1895 年にドイツの物理学者 Roentgenによって発見されたがその性質がま
だ理解されなかったため X 線と名づけられたその後その様々な特性が発見されそ
の中でもラウエによる X線回折(X-ray diffractionXRD)の発見(1914年)ブラッ
グ親子によるX線回折現象を利用した結晶構造の決定(1915年)によって今日の X線
回折法を用いた結晶構造分析技術の確立に至った
X 線回折法は他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis別称 XPS)やUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり結晶粒子などの原子配
列や構造に関する情報を得る分析法である
212212212212 XXXX 線発生線発生線発生線発生とととと原理原理原理原理 1)
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X線が発生する
このような状態は数 10kVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され発生した X線はあらゆる方向に放射される電子の電荷を e電極間の電
圧を V とすると衝突する際の電子の運動エネルギーKEは衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
iii
本論文に関する発表 49
謝辞 50
本研究は科学技術振興機構高知県地域結集型共同研究事業「次世代情報デバイス用薄
膜ナノ技術の開発(平成15年 1月~平成 19年 12月)」の一部として行われた
1
第第第第1章章章章 序論序論序論序論
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景
近年液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display LCD)やプラズマディスプレ
(Plasma Display Panel PDP)に代表される薄型のフラットパネルディスプレイ関連
の技術は画像の高速応答大画面薄型化が進む成長著しい分野である最近新たに有
機EL(Organic Electro Luminescence)を使ったディスプレイの市場参入も本格化し
安価で高性能な商品が投入され一般家庭にもブラウン管テレビに代わり普及してきて
いるまた有機 EL や液晶は小型化に有利である点を生かし小型 mp3 プレイヤーや
携帯電話などへの使用が増えフィールドをさらに広げる勢いを見せている
このフラットディスプレイに共通して使用される電極には高い電気導電性(比抵抗 1
times10-3Ωcm以下)可視光領域(380~780 nm)で透過率 80以上の条件を満たす Sn
をドープした In2O3通称 ITO(Indium Tin Oxide)薄膜が一般的に用いられている
しかしITO に使われている Inはレアメタルであるため近年その価格がフラットデ
ィスプレイ関連への需要拡大で大きく高騰しているまた液晶や有機 ELディスプレイ
の駆動に必要な TFTに用いるシリコン(Si)も同様に価格が高騰も懸念されている一方
技術的な問題として次期フラットパネルディスプレイの代表格であるフレキシブルデ
ィスプレイに使われるプラスチック基板が高温に弱いという問題が挙げられる従来の
液晶の駆動に用いられた TFT を作製する際の高温処理もフレキシブルディスプレイ
に使用されるプラスチック基板の高温に弱いといった特性から作製プロセスの見直し
が必要となっている
そこでこれらの諸問題を解決するために期待される半導体材料に ZnO(酸化亜鉛)
が挙げられるZnO は資源的に豊富で過去には粉末の形で化粧品に使われていた経
緯があり人体への安全性も良く知られているまた様々な成膜手法で作製可能な材料で
あるため高温から室温に渡る幅広い温度下で良質な結晶薄膜を得られるといった特徴
があるこのように機能性に富んだ材料であるため近年では透明導電膜や TFT 活性
層材料としての研究が盛んであるまた GaN(窒化ガリウム)と同等のバンドギャッ
プを持つことなどから LED や LD の代替材料としてその他高周波デバイス(SAW)や
ガスセンサへの応用も研究機関で行われておりその汎用性をさらに広げている
2
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的
現在の薄膜デバイス特性において XRDで評価される結晶構造は特性向上において重
要な情報であるそこでデバイス特性向上の新たな試みとして ZnO 薄膜の密度を評価
することでTFT の電界効果移動度などのデバイス特性向上に繋げるため結晶構造及
び薄膜密度を分析評価することを目的として行った
今回評価に用いた ZnO薄膜はMBE(Molecular Beam Epitaxy分子線エピタキシ
ー法)や CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相堆積法)など多くの手法で作製
可能であることが知られているそこで本研究では近年の薄膜作製技術分野において成
膜速度の速さや低基板温度製膜可能で知られるRFマグネトロンスパッタ法を用いてガ
ラス基板上に作製した ZnO薄膜の分析評価を行った
第第第第1111章章章章 理論理論理論理論
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法
211211211211 はじめにはじめにはじめにはじめに 1)2)
X 線は 1895 年にドイツの物理学者 Roentgenによって発見されたがその性質がま
だ理解されなかったため X 線と名づけられたその後その様々な特性が発見されそ
の中でもラウエによる X線回折(X-ray diffractionXRD)の発見(1914年)ブラッ
グ親子によるX線回折現象を利用した結晶構造の決定(1915年)によって今日の X線
回折法を用いた結晶構造分析技術の確立に至った
X 線回折法は他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis別称 XPS)やUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり結晶粒子などの原子配
列や構造に関する情報を得る分析法である
212212212212 XXXX 線発生線発生線発生線発生とととと原理原理原理原理 1)
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X線が発生する
このような状態は数 10kVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され発生した X線はあらゆる方向に放射される電子の電荷を e電極間の電
圧を V とすると衝突する際の電子の運動エネルギーKEは衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
1
第第第第1章章章章 序論序論序論序論
11111111 研究研究研究研究のののの背景背景背景背景
近年液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display LCD)やプラズマディスプレ
(Plasma Display Panel PDP)に代表される薄型のフラットパネルディスプレイ関連
の技術は画像の高速応答大画面薄型化が進む成長著しい分野である最近新たに有
機EL(Organic Electro Luminescence)を使ったディスプレイの市場参入も本格化し
安価で高性能な商品が投入され一般家庭にもブラウン管テレビに代わり普及してきて
いるまた有機 EL や液晶は小型化に有利である点を生かし小型 mp3 プレイヤーや
携帯電話などへの使用が増えフィールドをさらに広げる勢いを見せている
このフラットディスプレイに共通して使用される電極には高い電気導電性(比抵抗 1
times10-3Ωcm以下)可視光領域(380~780 nm)で透過率 80以上の条件を満たす Sn
をドープした In2O3通称 ITO(Indium Tin Oxide)薄膜が一般的に用いられている
しかしITO に使われている Inはレアメタルであるため近年その価格がフラットデ
ィスプレイ関連への需要拡大で大きく高騰しているまた液晶や有機 ELディスプレイ
の駆動に必要な TFTに用いるシリコン(Si)も同様に価格が高騰も懸念されている一方
技術的な問題として次期フラットパネルディスプレイの代表格であるフレキシブルデ
ィスプレイに使われるプラスチック基板が高温に弱いという問題が挙げられる従来の
液晶の駆動に用いられた TFT を作製する際の高温処理もフレキシブルディスプレイ
に使用されるプラスチック基板の高温に弱いといった特性から作製プロセスの見直し
が必要となっている
そこでこれらの諸問題を解決するために期待される半導体材料に ZnO(酸化亜鉛)
が挙げられるZnO は資源的に豊富で過去には粉末の形で化粧品に使われていた経
緯があり人体への安全性も良く知られているまた様々な成膜手法で作製可能な材料で
あるため高温から室温に渡る幅広い温度下で良質な結晶薄膜を得られるといった特徴
があるこのように機能性に富んだ材料であるため近年では透明導電膜や TFT 活性
層材料としての研究が盛んであるまた GaN(窒化ガリウム)と同等のバンドギャッ
プを持つことなどから LED や LD の代替材料としてその他高周波デバイス(SAW)や
ガスセンサへの応用も研究機関で行われておりその汎用性をさらに広げている
2
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的
現在の薄膜デバイス特性において XRDで評価される結晶構造は特性向上において重
要な情報であるそこでデバイス特性向上の新たな試みとして ZnO 薄膜の密度を評価
することでTFT の電界効果移動度などのデバイス特性向上に繋げるため結晶構造及
び薄膜密度を分析評価することを目的として行った
今回評価に用いた ZnO薄膜はMBE(Molecular Beam Epitaxy分子線エピタキシ
ー法)や CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相堆積法)など多くの手法で作製
可能であることが知られているそこで本研究では近年の薄膜作製技術分野において成
膜速度の速さや低基板温度製膜可能で知られるRFマグネトロンスパッタ法を用いてガ
ラス基板上に作製した ZnO薄膜の分析評価を行った
第第第第1111章章章章 理論理論理論理論
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法
211211211211 はじめにはじめにはじめにはじめに 1)2)
X 線は 1895 年にドイツの物理学者 Roentgenによって発見されたがその性質がま
だ理解されなかったため X 線と名づけられたその後その様々な特性が発見されそ
の中でもラウエによる X線回折(X-ray diffractionXRD)の発見(1914年)ブラッ
グ親子によるX線回折現象を利用した結晶構造の決定(1915年)によって今日の X線
回折法を用いた結晶構造分析技術の確立に至った
X 線回折法は他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis別称 XPS)やUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり結晶粒子などの原子配
列や構造に関する情報を得る分析法である
212212212212 XXXX 線発生線発生線発生線発生とととと原理原理原理原理 1)
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X線が発生する
このような状態は数 10kVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され発生した X線はあらゆる方向に放射される電子の電荷を e電極間の電
圧を V とすると衝突する際の電子の運動エネルギーKEは衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
2
12121212 本研究本研究本研究本研究のののの目的目的目的目的
現在の薄膜デバイス特性において XRDで評価される結晶構造は特性向上において重
要な情報であるそこでデバイス特性向上の新たな試みとして ZnO 薄膜の密度を評価
することでTFT の電界効果移動度などのデバイス特性向上に繋げるため結晶構造及
び薄膜密度を分析評価することを目的として行った
今回評価に用いた ZnO薄膜はMBE(Molecular Beam Epitaxy分子線エピタキシ
ー法)や CVD(Chemical Vapor Deposition化学気相堆積法)など多くの手法で作製
可能であることが知られているそこで本研究では近年の薄膜作製技術分野において成
膜速度の速さや低基板温度製膜可能で知られるRFマグネトロンスパッタ法を用いてガ
ラス基板上に作製した ZnO薄膜の分析評価を行った
第第第第1111章章章章 理論理論理論理論
21212121 XXXX 線回折線回折線回折線回折((((XXXX----ray diffractionray diffractionray diffractionray diffractionXRDXRDXRDXRD))))法法法法
211211211211 はじめにはじめにはじめにはじめに 1)2)
X 線は 1895 年にドイツの物理学者 Roentgenによって発見されたがその性質がま
だ理解されなかったため X 線と名づけられたその後その様々な特性が発見されそ
の中でもラウエによる X線回折(X-ray diffractionXRD)の発見(1914年)ブラッ
グ親子によるX線回折現象を利用した結晶構造の決定(1915年)によって今日の X線
回折法を用いた結晶構造分析技術の確立に至った
X 線回折法は他の分析法例えば ESCA(Electron Spectroscopy for Chemical
Analysis別称 XPS)やUPS(Ultraviolet Photoelectron Spectroscopy)のように試料
に含まれている元素の種類や量を求めるための方法とは異なり結晶粒子などの原子配
列や構造に関する情報を得る分析法である
212212212212 XXXX 線発生線発生線発生線発生とととと原理原理原理原理 1)
十分大きな運動エネルギーを持った荷電粒子が急速に減速されると X線が発生する
このような状態は数 10kVの高い電圧が陰極(フィラメント)と金属陽極(ターゲット)
の間にかけられ陰極から引き出された電子がターゲットに高速で衝突する場合に容易
に達成され発生した X線はあらゆる方向に放射される電子の電荷を e電極間の電
圧を V とすると衝突する際の電子の運動エネルギーKEは衝突直前の電子の速度ν
と電子の質量mを使って次式で与えられる
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
3
KE = eV = 2
2
1mv (2-1)
この電子の運動エネルギーはターゲット衝突時にほとんど熱となりX線の発生に変
換されるのはわずか1以下であるまた電子の衝突時に発生する 1のエネルギーす
べてが放出されるのではなく電子によっては一度の衝突の完全に運動エネルギーを開
放するものもあれば一方で一回以上の衝突を繰り返しながら徐々に減速しその度に
運動エネルギーを少しずつ開放するものもあるそのため電子が高速でターゲットに衝
突する場合に発生する X 線は様々な波長を持っておりX 線スペクトルのだらだらと
した曲線となる部分に相当する X線を連続 X線(continuous radiation)と呼ぶ
X線管球に加える電圧がある一定の値を超えると連続 X 線スペクトルにターゲッ
トを用いた金属固有の波長を持つ非常に鋭いピークが現れるこれらの鋭いスペクトル
は金属固有の波長を示すことから特性 X線(characteristic X-ray)と呼ばれるこ
の特性 X 線の波長はターゲットを構成する原子自体に深く関係するターゲットを
構成する原子をミクロな立場から考えると原子中の電子はその主量子数 nで分類でき
る KLMなどの殻にあることが知られているもしターゲットに衝突する電子が
十分大きい運動エネルギーを持ったとき図 31 のように K 殻の電子ははね飛ばされ
原子が励起状態になるすなわち K殻に空きになったとすると外殻の LもしくはM
にあるいずれかの電子がエネルギーを放出しながらその K 殻の空いた部分へ納まり
原子は通常のエネルギー状態へと戻る
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
核 K殻 L殻M殻
Kα
KβLα
また図 31にあるような KαKβと呼ばれるのは K殻の位置を L殻もしくはM殻の
図 21 原子中の電子の移動 2)
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
4
電子が占有することを示すつまり隣の殻の電子が納まる場合をα線もう一つ隣の電
子が納まる場合をβ線と定義されるただし LM殻とも複数の接近している準位をも
っているそれを図 32に示す実際 X 線構造解析X 線回折には特性 X 線が使われ
るがそれは回折に必要な単色または単色に近い X 線を必要とするためでそれはX
線管球の電流 iと印加電圧 Vから特性 X線の励起電圧 Vkを引いた差の電圧を使って
表される式から知ることができる
n
kk VVBiI )( minus= (2-2)
B は比例定数でありn は定数で約 15 であるたとえば30kVの電圧をかけた銅
の Kα線の強度は同じ波長の連続 X線に比べ約 90倍となるまた特性 X線のピーク
の半値幅は多くの場合 0001deg以下でX線回折にはかかせないも特徴となっている
特性 X 線を X 線回折に用いる場合単色に近い必要があるためよく Kα線を使用す
るがこの時発生する Kβ線は必要ないため Niなどのフィルターをかけて Kβ線強度
を弱めている
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
MⅠ
MⅢMⅡ
MⅣ
MⅤ
LⅠ
LⅡ
LⅢ
K
α1
α1
α2 β1
β3β4 β1
β3
α2
213213213213 回折回折回折回折ビームビームビームビーム 1)2)
先に X 線の発生原理および特性 X 線を述べたがこの X 線を物質中に入射すると
物質を構成する原子の周りの電子によって X 線が結晶中の原子が周期的に規則正し
く配列した結晶に入射すると「回折」と呼ばれる現象を生じるこの X 線を散乱する
因子は原子を取り巻く電子の集まりによって影響されるものでこの散乱した X 線が
図 22各種特性 X線とエネルギー準位との関係図 2)
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
5
互いに干渉しあって特定の方向に強く X線が現れることを「X線回折」という
次にブラッグの回折条件について述べる図 33のような原子の間隔dが一定である
ような単結晶に波長λの X 線を照射した場合を考える入射 X 線は結晶格子面で反射
し互いに干渉しあうので波長λの整数倍の回折線の強度が増大されこれより次式の
ブラッグの回折則が成り立つ
θλ sin2dn = (2-3)
X線回折は回折された X線の反射角θをもとめ(3-8)式よりdを求めることによ
って構造決定を行う(3-8)式においてλは照射 X線の波長で既知でありnは回折
線の次数であるが通常は n=1 としてdを求めるこのdは構造上特有の値であり
回折結果より得られる異なる次数に対応する複数のdの値についてそれぞれの回折 X
線の強度から構造が決定される
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
d
d
θ θ
θθθθ
入射X線 回折X線nλ
214214214214 結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造 1)2)
結晶とは原子から成りその原子が 3 次元空間において周期的に同じ様式を繰り返す
ような配列を取っている固体と定義されるものであり気体や液体ではなりえない形を
持っているしかしながらどんな固体も常に結晶であるとは限らず実際にはガラス
のような非晶質(amorphous)な状態で規則ある原子配列していない場合や多結晶が
それに当てはまる
そこで図 341の単位格子(unit lattice)を使って結晶系を表す単位格子のある点を
図 23 結晶による X線の回折 2)
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
6
原点として abc 軸をとりabbcca 軸がなす角をそれぞれαβγとする
この時の各々の長さ(abc)およびそれらの角(αβγ)が単位格子の格子定数(lattice
constant)となるまたこの単位格子の長さ角度に特定の値を入れると考えうる結
晶系は立法(cubic)正方(tetragonal)斜方(orthorhombic)斜方面体(orhombohedral)
六方(hexagonal)単斜(monoclinic)三斜(triclinic)の 7種類となる
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
α
βγ
a
b
c
a軸
b軸
c軸
結晶は図 341 のような単位格子で原子と原子の間に存在する面を考えた時幾つ
かの面を見ることができこの面によっては原子間距離が異なるしたがって結晶の面
内の性質は異なる面間で差がありこれがデバイス特性にも方向依存症が出てくる
その面を区別する際に用いられるのがミラー指数で以下のようにして求められる
1 結晶の単位胞の適当な軸(通常は 3軸)を座標軸とし特定の面とこの座標軸の
交点を格子定数を単位として求める
2 その逆数をとり3 組の数の比を一定にして最小の整数の組み合わせとして求め
る
3 その組み合わせを hklとすると(hkl)が1つの面に対するミラー指数となる
図 342に立方晶の主要な面のミラー指数を示す
図 24 単位格子 1)
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
7
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
(100) (110) (111)
z zz
x
y
x
y y
x
aa
a
aa
a
a
a
a
次にミラー指数を示す際括弧が違う場合があるそれはミラー指数が示す意味が軸
に対する場合や面に対する場合などがある以下にその意味を示す
1 )( klh X軸の負側で交差している面
2 hkl 等価な対称性を持つ面たとえば立方対称では{100}は
)100()010()001()001()010()100( すべてを表す
3 ][hkl 結晶の方向を示すたとえば[100]はx軸方向を表す[100]方向は(100)
面に垂直であり[111]方向は(111)面に垂直である
4 gtlt hkl 等価な方向にすべてを示すたとえばlt100gtは
]100[]010[]001[]001[]010[]100[ を表す
また今回作製した酸化亜鉛は代表的な六方晶系であるがこの六方晶系は通常 3つの
軸で表されるのに対しさらに 1つ軸が多いためミラー指数を 4指数で示す場合があ
る
3本の軸で表わす方向指数を[UVW]4本の軸の指数を[uvtw]とすると両者の関係
は以下のようになる
図 25 立方晶におけるミラー指数 4)
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
8
tuU minus= 3)2( VUu minus=
tvV minus= 3)2( UVv minus=
wW = 3)()( VUtut +minus=+minus=
Ww =
逆格子はその多くの特性が結晶格子の特性の逆であることからそのように呼ばれる
結晶格子がベクトル 321 aaa で規定される結晶格子を持っているとしたときそこでそ
れに対応した逆格子はベクトル 321 bbb で規定される
)(1
)(1
)(1
213
132
321
aaV
b
aaV
b
aaV
b
times=
times=
times=
Vは結晶の単位格子の体積 321 aaaV times=
また逆格子は次のような性質を持つ
1 逆格子の原点から hkl の座標の点に引いたベクトル Hhklはミラー指数が hkl
であるような結晶格子面に垂直であるこのベクトルは座標で次のように表
される
321H lbkbhbhkl ++= (2-7)
2 ベクトルHhklの長さは(hkl)面の面間隔の逆数に等しいすなわち
hkl
hkld
H1
= (2-8)
これらから分かることは逆格子の各点は結晶面に関係しその面の面間隔と方向
を表している
(2-4)
(2-5)
(2-6)
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
9
215215215215 多結晶集合多結晶集合多結晶集合多結晶集合体体体体のののの特性特性特性特性 2)
非常に多数の粉末結晶から成る多結晶集合体において通常 1個の結晶粒は複数の単
結晶とみなせるような微結晶からなりこの微細結晶を結晶子(crystallite)と呼ばれ
るこの結晶子サイズはときに粒径(grain size)と同じになる場合もあるが物理量
は異なる
個々の結晶粒の大きさが約 01μm(1000Å)以下になると通常「結晶粒子の大きさ」
という言葉が使われるこの結晶粒子の広がりの程度は次に示すシェラー(Sherrer)
の式によってあらわされる
θ
λ
cos
90
tB = (2-9)
B半価幅(Full Width Half Maximum)t結晶子の直径 λ入射 X線の波長
θX線入射角
歪みのない結晶粒からの回折 X線ピークは図 27 (a)に示すようなピークとなるが
多結晶の場合に葉隣接結晶の影響を受けて均一な歪みを受け格子面間隔 d が drsquoに変化
すると図 27 (b)のようにピークの位置が移動する
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
10
一方隣接結晶子間あるいは同一の結晶子内でも場所によって異なる大きさの歪み
を受け面間隔が drsquorsquo1drsquorsquo2drsquorsquo3のようにランダムに変化した図 29 (c)のような場合ピ
ークはそれぞれの面間隔からの回折の総和になるので広がったピークが得られるまた
結晶が湾曲した場合にも結晶の上部で引張変形が起こり格子面間隔は dより大きくな
り圧縮応力を受けた下部では dよりも小さくなるそのため得られるのは不均一歪み
を持ったピークとなり図 29 (c)のピーク幅が広がる
216216216216 2222 軸応力軸応力軸応力軸応力 1)3)
純引張応力を加えられた棒においては1方向のみに垂直応力が作用するしかし一
般にはいわゆる 2軸または 3軸応力系を形成して互いに垂直に2つまたは3つの方向
に応力成分が生じるしかし試料表面に垂直な方向の応力は常にゼロでありわれわれ
が応力を測ることの出来る唯一の場合である物体の表面においては3応力成分を取
り扱うことはできないこれらの表面より中にある物体の内部においてのみ応力は
3軸成分を持っている
そこで先に述べた結晶子に歪みを与えている酸化亜鉛における 2軸応力を本研究で
は次式を用いて求めた 3)
( )
minus
+minus=
0
0
13
121133132
c
cc
C
CCCCσ (2-10)
Cij弾性スティフネス定数 c実験による XRD回折ピークから求めた格子定数
図 29 結晶の不均一歪に伴うピークプロファイルの変化 2)
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
11
c0無ストレス粉末 ZnOの格子定数(JCPD Joint Committee for Powder Diffraction)
今回の弾性スティフネス定数は以下の値を用いた
C11 = 2097 GPaC12 = 1211 GPaC33 = 2109 GPaC13 = 1051 GPa
22222222 ラザフォードラザフォードラザフォードラザフォード後方散乱後方散乱後方散乱後方散乱((((Rutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRutherford backscattering spectrometryRBSRBSRBSRBS))))法法法法
221221221221 はじめにはじめにはじめにはじめに
ここでは MeV イオンビームを用いた RBS 法におけるイオンの散乱機構につい
て説明する
1900 年代初頭ラザフォードは金属板によるラジウムからの崩壊生成物として
放射されるα線の反射率測定を行い実験から重い金属であるほどその反射率は大
きいことに気づいたそこで金属板の厚さを調べるために薄い金箔を用いて実験を
行ったところα線の反射は分厚い金属板の 110 以上になった次に金箔を重ね
合わせ実験を行ったところはじめの数枚までは反射率は枚数に比例したこれは
α線の反射が金原子との 1回衝突による散乱結果であることを見出した
この 1 回衝突で大きな散乱をするためには原子内部で電荷が一様な分布を示し
ていないと考えたラザフォードは原子の中心に正電荷を持つ極めて小さく重いも
のすなわち原子核が存在することを明らかにし原子模型を決定した(1911年)
この原子核同士のクーロン散乱をラザフォード散乱と名づけられた
その後Rubin らによるラザフォード散乱を用いた材料表面の不純物測定
(1959 年)やイオンチャネリング効果の発見(1963 年)半導体へのイオン注入
による格子位置への置換率の決定(1967 年)に利用され始め今日では材料分析
評価法として定着している
RBS法では H+He+イオンのような軽元素をMeVのエネルギーで加速し
照射した試料原子の原子核との近接衝突(ラザフォード散乱)によって後方へ散乱
された入射イオンのエネルギーを検出器で測定し散乱前後のエネルギー差から元
素組成深さ分布結晶構造などの情報を得る分析手法であるこの分析手法では
大きなサンプルを必要とせず数 mm 四方で厚さ数μm の以上のサンプルであれば
分析評価が出来る上深さ分布も表面から数μmまで 100Å(10nm)とい精度で
試料をほぼ非破壊に分析できる
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
12
222222222222 イオンイオンイオンイオン散乱散乱散乱散乱 5)
イオンと原子が衝突して散乱する場合系全体の運動エネルギーが変化しない衝突
を弾性衝突もしくは弾性散乱(elastic scattering)という衝突の際入射イオン
が励起されたり原子がイオン化あるいは励起されるなどして運動エネルギーの一部
が失われるのが非弾性散乱(inelastic scattering)である
入射イオンの質量をM1速度を v散乱後の速度を v1散乱角をθ1とし標的原
子は質量M2で衝突前は静止しており衝突後の速度を v2散乱角をθ2とする(図 2
10(a))衝突後のイオン及び原子の速度は散乱角θ1とθ2によって変化するがイ
オン原子間のポテンシャルは関係しないまず散乱角θ1θ2と速度 v1v2の関係
を求めるこの場合両粒子の重心を原点とする座標系すなわち重心系を考えると
原点が v
vMM
Mug
21
1
+= (2-11)
で等速運動を行っており散乱前の入射オン標的原子は一直線上を重心に向かって
進み散乱後各粒子は他の直線上を図210(b)に示されるように重心から遠ざ
かるように進む衝突前後でエネルギー及び運動量が不変であるため衝突前後にお
いて各粒子の速度(の大きさ)は変化しない重心系で M1M2粒子の u1u2はそ
れぞれ
vMM
Muvu g
21
21 +
=minus= (2-12)
vMM
Muu g
21
12 +
== (2-13)
で与えられる図 210(a)の実験室系の各値は図 211(a)と(b)で示される
ように重心系から実験室系への座標変換により求まる結果は
( )
21
2
2
2
21
211 cos
41
+minus= θ
MM
MMvv (2-14)
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
13
2
21
22 cos
2θ
MM
Mvv
+= (2-15)
221
221
2cos
2sintan
θθ
θMM
M
minus= (2-16)
となる
この場合衝突前後のイオンの運動エネルギーの比は(2-14)及び(2-16)式より
( )
2
21
1
22
1
2
211
2
21
2
2
21
2
2
1sincoscos4
1
+
minus+=
+minus==
MM
MMM
MM
MM
v
vk
θθθ(2-17)
であるこの kは k‐因子と呼ばれイオンビームを用いた元素分析の場合必要とな
る重要因子の1つである
223223223223 エネルギーエネルギーエネルギーエネルギー損失損失損失損失 5) 6)
アルミニウムなどの金属やシリコンなどの半導体ネオンなどの気体を荷電粒子が
通過するとき電磁相互作用を通じてそれがもつ運動エネルギーを失っていく通
常この荷電粒子が単位長さ進むときに失うエネルギー量の平均値すなわち dEdx
を阻止能(stopping power)というこのエネルギーの付随の過程には入射粒子と
標的触媒の両方の電子状態がもとの状態から変化しない弾性衝突といずれかの電子
状態が変化してしまう非弾性衝突の 2種類の寄与が考えられるしたがって入射イオ
ンに対する阻止能は弾性衝突に基づく核的阻止能(nuclear stopping power)と非
弾性衝突に基づく電子的阻止能(electronic stopping power)の総和となる一般に
荷電粒子の速さ v が標的中の束縛電子の平均速度 veよりもずっと小さいときにのみ
弾性衝突が非弾性衝突よりも優勢になるそれ以外では後者の寄与がずっと大きい
核的阻止能
入射粒子のもつ運動エネルギーの一部が電子系の励起をしないで標的原子の
運動エネルギーとして与えられる過程を考える普通この過程での阻止能は 2
対衝突モデルで評価される入射粒子の原子番号を Z1速さを v標的原子の原子
番号 Z2とすると基礎となる 2 対衝突の相互作用ポテンシャル V (γ)はトーマ
スフェルミ(Thomas-Fermi)の統計モデルでは
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
14
( ) ( ) ( )TFaeZZV 2
21 γχγγ = (2-18)
と表すことができるここでaTFはトーマス-フェルミの遮蔽定数であり
( ) 2132
2
32
188530minus
+= ZZaa BTF (2-19)
であるリントハルト(Lindhard)らはV (γ)から求められる微分散乱断面積
dσは
( ) ( )212322 tftdtad TFπσ = (2-20)
で与えられることを示したここでt = ε2sin2(θ2)でありθは重心系での散乱
角εは入射原子の運動エネルギーE = (12)M1v2を無次元で表した換算エネルギー
21
2
2
21MM
M
eZZ
EaTF
+= ε (2-21)
であるさらに標的媒質の原子密度を Nとして入射粒子の軌跡の長さ x に対して
も無次元の換算量ρを
( )221
2124
MM
MMxNaTF
+= πρ (2-22)
の式で導入すると核的阻止能 Sn = -dEdxは
SnNdxdE =minus (2-23)
( ) ( )ρεπ ddeZZaMMMs TFn 4 2
21211 minus+= (2-24)
と書き直せるここで snは[エネルギー]times[面積]の次元を持っているので核的阻
止断面積(nuclear stopping cross section)と呼ばれる一方dσの表式を用いると
エネルギー移送 Tが T = Tmsin2θ2 になるので
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
15
intint ==ε
επσ
02
2
0)(
1xdxfaTTds TFm
T
n
m
(2-25)
を得るしたがって無次元の換算された阻止断面積 sn(ε)は
int=minus=ε
ερε
ε0
)(1
)( xdxfd
dsn (2-26)
となるただしTm はエネルギー移送の最大値でありTm = 4EM1M2(M1+M2)2で与
えられるsnは実質的に(2-26)式の sn(ε)で決定されるこの sn(ε)は f(x)の関数系が
求まればεというパラメータのみで決定されるユニバーサルな量である点が重要で
あるしたがって一度 sn(ε)を計算しておくとZ1Z2M1M2v のあらゆる組
み合わせに対して核的阻止能が直ちに求まる
電子的阻止能
電子的阻止能はイオンの速度 v が標的原子の束縛電子の平均速度<ve>(~Z223v0)よ
りも小さいときは v に比例する一方v が<ve>よりも大きいときには電子的阻
止能は大体(1v2)ln(v
2)に比例することが知られている
ベーテの公式
高速イオンと原子との衝突における非弾性散乱の微分散乱断面積 dσはボルン近
似を適用する応用問題の1つとしてよく知られているこの dσを用いれば電子励起
によるイオンのエネルギー損失は容易に求められる速度 v電荷 Z1e の点電荷が
原子番号 Z2の中性原子と衝突したときイオンから電子への運動移送量をh qとする
とボルン近似での微分散乱断面積は
( )AV
n qFv
eZ
qdq
d 2
0
2
1
3
8
=
h
πσ(2-27)
で与えられるここで Fn0(q)は電子系の基底状態から励起状態への遷移を表す行列要素
であり電子の位置ベクトル rjを用いると
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
16
( )0exp)(0 sum=j
jn riqnqF (2-28)
と書ける(2-27)式の<>AVは qの方向依存性を無くしてしまう平均操作を意味し
その結果qの大きさ qのみの関数となるこの操作を行っても標的原子の特別な
配向を問題にしないかぎり一般性を失わない上式(2-27)は次元を別にすれば
電子系の励起確率となるのでそれに励起エネルギーEn-E0をかけてあらゆる励起
状態|n>について和をとればイオンが単位長さ当たりに電子系に与えるエネルギー
の期待値すなわち阻止能 Seが
( ) ( )sum int
minus=
n
q
q AVnne qF
eZ
qdqEENS
max
min
2
0
22
1
30
8
υπ
h (2-29)
と評価できるここで
2max hυmq = ( ) υωυ 00min nn EEq =minus= h
である(3-29)式において qminが状態 n に依存するので積分記号とΣ記号の順序は
交換できないことに注意が必要であるそこでやや技巧的ではあるがqmin<q0<
qmaxの関係を満足する q0で上式の積分範囲を2つに分ける通常q0は電子の平均軌
道半径<γ>の逆数より小さな値を選ぶこのとき|0>と|n>の直交性(<0||n>=0)
を使えば
( ) 0||0|1|0|exp| dniqriqnriqnj
j
j
j minus=sdotsdotsdotsdot+sdotminus=sdot sumsum (2-30)
と近似できる sum=j
jrd は原子の双極子モーメント ( )sum minusj
jer に比例するのでこの
近似を双極子近時(dipole approximation)とよぶしたがってqmin<q<q0からの Se
への寄与 Se 1は双極子振動強度に関する総和則式を用いると
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
17
( )
I
q
m
NZeZ
dneZ
qdqEENS
n
q
qne
υυ
π
υπ
hh
h
h
02
22
1
0
min
2
22
1
301
ln2
8
0||8
=
gtlt
minus= sum int
(2-31)
となるここで I は原子の平均励起エネルギーとよばれ
sum minusgtlt=n
n EEdnZmI )ln(0||)2()ln( 0
2
2
2h (2-32)
で定義される
一方q0<q<qmaxからの寄与 Se 2は積分記号とΣ記号の順序を交換してトーマ
ス-ライヒ-クーン(Thomas-Reiche-Khun)の総和則式を用いると
( ) ( )
0
2
22
2
1
2
0
22
1
3
max
02
2ln
28
0|exp|8
q
m
m
NZeZ
riqnEEeZ
qdqNS
n
j
j
n
q
qe
h
h
h
h
υυ
π
υπ
=
gtsdotltminus
= sum sumint
(2-33)
と変形できる
以上の 2 つの結果から Se 1と Se 2を足し合わせれば阻止能 Seは
( )I
mNZ
m
eZSe
2
22
22
1 2ln
4 υυ
π= (2-34)
となるこの式には便宜的に選んだ q0が含まれていない(2-34)式はベー
テの(Bethe)の阻止能公式と呼ばれている
ただしこのベーテの法則を実際の高速イオンに対する電子的阻止能として解析
に用いるためには(2-34)式に種々の補正項を含んだBethe-Bloch の式(2-
35)が使われる
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
18
( ) ( )
minusminusminus
= 22
2
2
4
1 1ln2
ln4
ββυ
υπ
I
mZ
m
eZESe (2-35)
高速領域では阻止能は電子の場合と同様E-1にほぼ比例しているイオンが低
速領域(ν lt Z123ν0)に入るとLindhardらによって導かれた式
ερε
kd
d
e
minus=
(2-36)
( )
( )61
121
2
23
1
4332
2
32
1
23
21
21
2
21
1 07930
ZAAZZ
AAZZk ee cong
+
+= ξξ (2-37)
が実験をよく証明することが知られているここでA1と A2は原子量であるすな
わちこの領域では Se (E)が E に比例している
以上のことから入射イオンの電子的阻止能は低速領域では入射エネルギーEに
対しては E に比例し高速領域では 1E に比例した形をとることが分かるまた
εの大きいところすなわち入射イオンの質量が小さくかつその入射エネルギーが
高いたとえば高速プロトンビームの場合には電子的阻止能のほうが核的阻止能よ
りも大きくなり実際のエネルギー損失は前者で支配されることになるこれは入
射イオンはその運動方向をそれほど大きく変えることなく試料内に進入しつつしだ
いにその運動エネルギーを失っていくことを意味する
222222224444 面密度面密度面密度面密度 6)
イオンビームを用いた薄膜分析おいて後方散乱スペクトル中のある原子のピーク
カウント積分値 Aiが他の原子のピークから十分に分離が可能であるとき(2-38)
式を用いて薄膜中の i 番目の原子の面密度(Nt)iを求めることができる
( )( )
iR
Ri
Bii
i
EQ
eCDTRANt
sdotsdotΩsdot
sdotsdotsdotsdot=
σσ
θσ
θ
cos
1
[atomscm2] (2-38)
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
19
(σσR)i非ラザフォード散乱に対する補正率 検出器の立体角Ω[sr]
ピーク積分強度Ai [cts] 照射イオンの溜め込み電荷量Qrsquo[C]
ターゲット原子と入射イオンの阻止断面積及び散乱断面積に対する補正率CBi
ターゲット原子と入射イオンの散乱断面積[cm2sr]
DTRDead Time Ratio(測定中における)
なお上記にあるこれらの測定系は各研究室において異なる
参考文献
1) 早稲田嘉夫松原栄一郎 共著ldquoX線構造解析rdquo内田老鶴圃(1998) p4~10 p29~46
p74~80 p418~419
2)松村源太郎 訳ldquo新版 X線回折要論rdquoアグネ承風社(1980)p3~43 p125
3) SMジィー 著 長谷川文雄川辺光央 訳ldquo半導体デバイス 基礎理論とプ
ロセス技術rdquo(1987) p21~24
4) T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao J Appl Phys 46
(2007) 3319
5)藤本文範小牧研一郎 共編ldquoイオンビーム工学-イオン固体相互作用編-
(1995)p7~9 p33~40 p71
6) 合志陽一前田浩五郎佐藤公隆 共著ldquoイオン励起のスペクトルコピーとその応
用rdquop5~9 p115
7) JR Tesmer M Nastai ldquoHandbook of modern ion beam materials analysisrdquo
Materials research society (1995)
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
20
第第第第 3333 章章章章 ZnOZnOZnOZnO 薄膜薄膜薄膜薄膜作製作製作製作製評価手法及評価手法及評価手法及評価手法及びびびび装置概要装置概要装置概要装置概要
31313131 酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛酸化亜鉛((((ZnOZnOZnOZnO))))薄膜薄膜薄膜薄膜
311311311311 ZnOZnOZnOZnO のののの結晶構造結晶構造結晶構造結晶構造とととと基本物性基本物性基本物性基本物性 1) 2)
酸化亜鉛(ZnO)はペロスプカイト化合物とならんで電子セラミックス材料として双
璧をなす材質である応用範囲もゴム加硫促進剤補助及び増量剤顔料陶磁器電
線医療印刷インキ用の古典的なものからバリスタ表面弾性波フィルタ電子写
真用感光剤メタノール合成用触媒ガスセンサ蛍光体などのファインセラミックス
のカテゴリーに入るものまで多種多様である
ZnOは天然に閃亜鉛鉱として産出されウルツ鉱型(六方晶系)構造をもっており
結合の様式はイオン結合と共有結合の中間に位置している(図 31)
図 31 ZnOの結晶構造 2)
A=3249Åc=5207Åでc 軸に極性があるc 軸方向に垂直にへき開するとZn
が表面に露出した(0001)面(Zn 面と呼ぶ)及び O が露出した )1000(minus
面(O 面)が得
られるその他無極性の )0211(minus
面や )0110(minus
面がある表面にはテラスやステップの存
在することが多い
ZnOは典型的な n型半導体でこれは基本的には次式のいずれかによって生起する
)(2
1)( 2 gOeiZnZnO ++hArr
)(2
12 gOeVZnO o ++hArr
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
21
ここで Zn(i)は 1個の電子を解離した格子間亜鉛イオンVOは 1個の電子を解離した
酸素空孔e は電子である単純なバンド構造は図 32 のようなものでここでは
ドナーは格子間亜鉛に基づくものとして表現されているがこれが酸素空孔基づくか
格子間亜鉛に基づくかは決着がついていないいずれにしても Znが過剰に存在して
いることが n型半導体の原因となっているZnOは常温でウルツ鉱型構造(六方晶)
を持つが高圧下では食塩型(立方晶)となる(図 33)
22eV32eV
04eV
Ec
Ev(1)
Ev
Ev(1)Ef
((((伝導帯伝導帯伝導帯伝導帯))))
((((フェルミレベルフェルミレベルフェルミレベルフェルミレベル))))
((((価電子帯価電子帯価電子帯価電子帯))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
((((Zn((((1111))))ドナーレベルドナーレベルドナーレベルドナーレベル))))
図 32 ZnOのエネルギーレベル 1)
85
95
105
115
0 100 200 300 400 500
温度()
圧力
(kb
ar)
ZnO(食塩型)
ZnO(ウルツ鉱型)
図 33 ZnOの食塩型ウルツ鉱型構造の P-T相図 1)
ZnO 薄膜は ZnO のバンドギャップが図 32 に示されるように 32eV であるため
電子のバンド間遷移による光吸収は可視光領域(380~780nm)よりも高いエネルギー
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
22
で生じ可視光領域での透過率が非常に高いためGaや Alを添加し透明導電膜への応
用が盛んであるこの ZnO 系透明導電膜では電気的あるいは工学的に測定した移動
度を比較することにより結晶子サイズの小さな膜では粒界散乱が主な移動度の低下原
因となり結晶内の自由電子の平均自由行程よりも大きな結晶子サイズを持ちなおかつ
高いキャリア密度(n gt 5times1018cm-3)を持つような多結晶縮退半導体膜はイオン化不
純物散乱が支配的であることが報告されている
その他の ZnOの諸特性を図 33に示す
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
23
表 31 ZnOの基本物性データ 1)
融点 1975
ΔHvap kcalmol-1 129(気相としての ZnO)
蒸気圧 mm 121500 7601950
logp (mm) = -129000(Ttimes457)
+ 1702
(T=1620-1720K)
Crsquop caldeg-1mol-1 962
Srsquop caldeg-1 1043
ΔHrsquot kcalmol-1 -8324
ΔGrsquot kcalmol-1 -7608
格子エネルギー
Kcalmol-1
964
密度gcm-3 57(ピクノメータ)
567(X線)
溶解度g100g H2O 3~5times10-425
溶解度積 3times10-18
誘電率 36522
結晶構造 (1)六方晶ウルツ鉱型構造
a = 3250 c = 5207 Z = 2
d (Zn-O) =195
( 2 ) 立 方 晶 NaCl 構 造
(100kbar)
a = 4280 Z =4
密度 6912gcm-3
(3)立方晶面心構造
a = 462 Z = 4
硬度(モース)
熱伝導率
cals-1cm-1deg-1
4~5
603times10-2 93
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
24
32323232 成膜装置成膜装置成膜装置成膜装置
32 32 32 321111 スパッタリングスパッタリングスパッタリングスパッタリング法法法法 4)
スパッタリング法(sputtering単にスパッタ)は高エネルギーの粒子を固体
(targetターゲット)に照射したときにターゲットの構成原子がターゲット表面
から放出される現象をいう数百 eV~数十 keVのエネルギーのイオンがターゲットに
入射すると入射イオンとターゲット原子との核衝突で引き起こされるカスケード衝突
によりターゲット表面から放出される方向の運動量を持ったターゲット原子が現れ
ターゲットから飛び出す(図 34)スパッタの機構はこのような運動量転移機構に
よって諸現象が説明されているスパッタにより放出された粒子(スパッタ粒子)の平
均エネルギーは真空蒸着法での熱蒸発原子の 100倍以上である
11
22
11
3
22
3
イオンイオンイオンイオン
ターゲットターゲットターゲットターゲット表面表面表面表面
真空真空真空真空
ターゲットターゲットターゲットターゲット
スパッタスパッタスパッタスパッタ粒子粒子粒子粒子
カスケード
カスケード
カスケード
カスケード衝突衝突衝突衝突
図 34 スパッタリングのモデル図 3)
スパッタ蒸着法はこのようなスパッタ現象で放出されたターゲット原子を基板上
に輸送して薄膜形成を行う方法で薄膜形成法としても古くから知られていたが同時
期に発表された真空蒸着法が簡便さゆえに先に進展したのに対しスパッタ法は 1970
年代後半に入ってから進展したそして半導体製造プロセスを中心に薄膜エレクトロ
ニクスの広い分野で利用されるようになるにつれてこれに適したスパッタ蒸着法の重
要性が急速に高まってきている
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
25
322 RF322 RF322 RF322 RF マグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリングマグネトロンスパッタリング装置装置装置装置 4)5) 今回分析評価を行った ZnO薄膜は図 35のような RFマグネトロンスパッタリング
製膜装置を使用した以下にその特徴と本研究における成膜条件を示す
1)RF(高周波)スパッタ直流電源の代わりにインピーダンス整合回路を介し
た高周波(1356MHz)電源を用いてプラズマを発生させるターゲット表面は直
流的に負電位に自己バイアスされるために絶縁物もスパッタされまた 10-3Torr
台の低いガス圧でもスパッタが可能である
2)マグネトロンスパッタ電極間の電界に対して直交する磁界を印加しマグネ
トロン放電によってターゲット近傍で多量のイオンを作り蒸着速度を高める直
流 2極スパッタや高周波のみの方式の場合では二次電子の基板への入射による基
板温度上昇が著しいがマグネトロン方式では多くの電子は磁場に巻きつく運動
をしながら気体分子と衝突しエネルギーを失って基板に到達するので基板温度
の上昇は少ない陰極(ターゲット)の背後に磁石を取り付け磁力線の一部が陰
極面と平行となるようにしているこの方式では 10-5~10-3Torr程度の圧力で
もイオン電流密度が非常に大きく真空蒸着に匹敵する蒸着速度が得られる
図 35 RFマグネトロンスパッタリング成膜装置
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
26
表 32成膜時における成膜装置のコンディション
ターゲット
基板
4インチ ZnO焼結体ターゲット
(純度 99999)
無アルカリガラス
(日本電気硝子 OA-10)
φ4インチ 厚さ 07mm
ベース圧力(Pa) ≦2times10-5 Pa
導入ガス Ar 10sccm O2 30sccm
成膜圧力(Pa) 1Pa
RF power (W) 60 120 180 240 300 W
堆積レート (nmmin) 16(60W) 52(120W) 90(180W)
130(240W) 177(300W) nmmin
成膜基板温度() 150
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
27
33333333 分析分析分析分析評価装評価装評価装評価装置置置置
331 331 331 331 XRDXRDXRDXRD 分析装置分析装置分析装置分析装置 2)
本研究の XRD測定に「リガクATX-G」を使用した測定条件はすべてのサンプ
ルにおいて50keV300mAのCu Kα線を用いステップ幅及びスキャン速度001deg
05degminで 測定を行った
以下に測定に用いた XRD測定手法を示す
Out of plane回折測定
Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図を図 328に示すθは試料表面
となす角度で2θは入射 X 線と出射 X 線とのなす角度である2θθ測定は
試料を角度θ回転させると同時に検出器を角度 2θ回転させながら試料からの
回折強度を測定する測定法であるこの測定法は 2θ‐θ測定と表記したりカ
ップリングスキャンや対称反射測定などとも呼ばれるこの測定法では試料中
で格子面の法線方向が試料表面の法線と一致する結晶粒のみがブラッグの回折
条件(2dsinθ=λここでdは回折にあずかる結晶粒の格子面間隔λは X線
の波長を示す)を満たし回折に寄与することになる
θ1を試料表面と入射 X 線とがなす角度としθ2を試料表面と出射 X 線と
がなす角度とすると2θθ測定ではθ1=θとなりθ2=θとなるのでこの
測定配置を対称反射測定ともいうθ1neθ2となる配置で測定する場合が非対称
反射の測定である
この測定手法では幾何学的に試料の測定時の配置イメージがしやすく吸
収補正の扱いが簡単である一方試料基板表面に作製された薄膜試料に対しては
ほとんどの入射 X 線が試料内部へと透過するため観測される信号のほとんど
は下地基板からの情報となってしまう
θθθθ θθθθ
入射入射入射入射X線線線線 出射出射出射出射X線線線線
格子面法線格子面法線格子面法線格子面法線
試料試料試料試料
回折格子面回折格子面回折格子面回折格子面
図 36 Out of plane回折測定の 2θθ測定の配置図 2)
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
28
332332332332 イオンビームイオンビームイオンビームイオンビーム分析装置分析装置分析装置分析装置 6)7)
本実験で用いたイオンビーム分析装置はシュンケル型清流回路により加速電圧
17MV(02~17MV まで連続可変)かけることが可能でありビームエネルギー~
34MeV(1価イオン)04~51MeV(2価)最大ビーム電流 1H+20nA(10MV加
速時)4He+20nA(17MV加速時)のタンデム加速器である
イオン源加速器ビームライン及びその他の装置の概略図と分析条件を図 37と
表 33に示す
図 37 イオンビーム加速器
表 33 イオンビーム加速器のコンディション
入射ビームイオン
ビームエネルギー[MeV]
4He+
20MeV
固定検出器角[度]
168deg
溜め込み電荷量[μC]
加速管圧力[Pa]
10 μC
10-5Pa台(待機時)
4times10-4Pa(実験時)
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
29
333 333 333 333 エリプソメーターエリプソメーターエリプソメーターエリプソメーター8)9)
本研究の膜厚測定にはエリプソメーターには JAwoollam 社製エリプソメーター
を使用した測定したモデルは図 38 に示すような透明なガラス基板上にある表面
ラフネスを持った薄膜としてモデルを立てフィッテングし膜厚を求めた
以下にエリプソメトリーの原理と概要図を示す
エリプソメトリーエリプソメトリー測定とは図 39 のように試料の表面から
反射してくる光の偏光状態の変化を測定することであるこの偏光状態ではそれ
ぞれ測定波長と入射角の組み合わせで 2つのパラメータPsi(Ψ)と Delta(Δ)で表
されるこれらの値はそれぞれ p偏光と s偏光のフレネル反射係数 Rpと Rsの比と
して式 3-1に定義される
∆== i
s
pe
R
R)tan(ψρ (3-1)
エリプソメトリーは単純な反射強度や透過強度の測定に比べ以下の 3つの点で
優れている
1) 比を測定するため測定光の強度が変化しても測定可能である(標準資料の
必要がない)
2) Δから得られる位相の情報によりサブ nmの極薄膜に感度がある
3) それぞれの測定波長でΨとΔの 2つの値を測定するため反射強度や透過強
度の測定にくらべ 2倍の情報が得られる
一般的にエリプソメトリー測定では膜厚や光学定数(n k)を求めることが可能
である
透明透明透明透明ガラスガラスガラスガラス基板基板基板基板((((07mm))))
ZnO ラフネスラフネスラフネスラフネス層層層層
ZnO層層層層
図 38 エリプソメトリーにおける透明ガラス基板上の ZnOの
フィッテングモデル
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
30
s成分成分成分成分
Ep成分成分成分成分
s成分成分成分成分
p成分成分成分成分
1直線偏光直線偏光直線偏光直線偏光
3楕円偏光楕円偏光楕円偏光楕円偏光
2試料試料試料試料でででで反射反射反射反射されるされるされるされる
試料試料試料試料
図 39 エリプソメトリーの測定原理図 9)
参考文献
1) 一ノ瀬昇 著ldquo総論‐酸化亜鉛rdquoマテリアルインテグレーション Vol12 No12
(1999)
2) 池田圭吾 著ldquo薄膜多結晶酸化亜鉛のガラス基板上における成長初期過程とその物
性rdquo 2005年度 修士論文
3 ) 澤田豊 著ldquo透明導電膜の新展開rdquoシーエムシー(1999)p6~17
4)平尾孝吉田哲久早川茂 共著ldquo薄膜技術の新潮流rdquo工業調査会(1997)p85~91
5)麻蒔立男 著ldquo超微細加工の基礎rdquo日刊工業新聞社(2001)p227~236
6)海堀裕二 著ldquoRBSPIXE分析による希薄磁性半導体の評価rdquo2003年度
修士論文
7)根引拓也 著ldquoガラスキャピラリーによるMeVイオンビームの収束rdquo2003年度
修士論文
8)藤原裕之 著ldquo分光エリプソメトリーrdquo内田老鶴圃(2003)p1~9
9)J A WOOLAM JAPAN 著ldquoJ A Woollam Ellipsometerサンプル測定付録rdquo
p26~36
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
31
第第第第 4444 章章章章 XRDXRDXRDXRDRBSRBSRBSRBS 法法法法によるによるによるによる結晶結晶結晶結晶密度密度密度密度のののの分析分析分析分析評価結果評価結果評価結果評価結果
41414141 膜厚依存膜厚依存膜厚依存膜厚依存
411411411411 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFマグネトロンスパッタリング法で膜厚の異なる ZnO薄膜を超音波洗浄した透
明ガラス基板(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力 180Wガス圧 1Paガ
ス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は第 3章で述べたエリ
プソメーターを用いてフィッティングし求めた全体の膜厚はラフネスを 5050の
ラフネスがあると仮定しラフネス層2 を ZnO の膜厚に加えて全膜厚として見積も
った膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時の誤差(MSE平均二乗誤差)
を表 41示す
表 41 膜厚依存における各試料の膜厚と平均誤差
TZnO Thickness(ZnOの膜厚) RZnO Roughness(ZnOのラフネス層)
MSE Mean squared error(平均 2乗誤差)
Sample 1 TZnO= 3007 nm RZnO = 0000 nm
MSE = 1547
Sample 2 TZnO = 5303 nm RZnO = 4500 nm
MSE = 1865
Sample 3 TZnO = 6346 nm RZnO = 5335 nm
MSE = 2102
Sample 4 TZnO = 12352 nm RZnO = 3435 nm
MSE = 2065
Sample 5 TZnO = 17061 nm RZnO = 2014 nm
MSE = 5115
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
32
412 412 412 412 実験結果実験結果実験結果実験結果
図 41と図 42に成膜直後の Sample 2 における XRDの Out of plane測定及
び RBSのランダム測定スペクトルを示すXRDでは ZnOの(002)面からの回折ピー
クが確認され基板に対して垂直な成長をしていることを示したピーク位置はスト
レスフリーZnO 粉末の回折ピーク位置 2θ~3440deg(JCPDSJoint Committee for
Powder Studies)に比べ低角側(2θ~3405deg)へシフトしたピークとなったこれ
は Sample2が結晶歪みをもっていることを示している
RBS スペクトルでは Zn 原子から散乱スペクトルが 720ch 付近に現れたO 原子
(280ch 付近)のスペクトルはガラス基板のほとんどが SiO2 で構成されているためガ
ラス基板に含まれるOのバックグラウンドに隠れ ZnO薄膜のOスペクトルは確認で
きないZnスペクトルより高チャンネル側にスペクトルが現れ(800ch付近)Znス
ペクトルのバックグラウンドになっているがこれは透明ガラス基板(OA-10)に含ま
れたストロンチウム(Sr)やカルシウム(Ca)などの微量原子からのスペクトルである
式 2-38を用いて面密度を求める際にはZnスペクトルの持つバックグラウンドを
取り除いた Zn積分強度で計算を行った計算した密度はバックグラウンドを取り除
く際の補正値としてplusmn01gcm3の値を持つものとする
0
200
400
600
800
1000
1200
1400
32 33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsity(
arbu
nits
)
図 41 ZnOglass(sample 2)の Out of plane測定による XRDスペクトル
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
33
0
400
800
1200
1600
2000
200 300 400 500 600 700 800
Channel No
YIE
LD
(cou
nts
) Zn
Si
O
Sr
図 42 ZnOglass(sample 2)の RBSランダムスペクトル(検出器角 168deg)
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
34
0
1000
2000
3000
4000
5000
6000
31 33 35 372θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
30nm30nm30nm30nm
55nm55nm55nm55nm
67nm67nm67nm67nm
125nm125nm125nm125nm
171nm171nm171nm171nm
図 43 膜厚依存の(002)X線回折ピーク変化
図 43に表 41の条件で成膜した ZnOglass試料の XRDスペクトルを示すピ
ークは図 41 の XRD スペクトルと同様にガラス基板に対して垂直方向に成長して
いることを示す(002)ピークである試料の XRDスペクトルは膜厚が増加するにした
がってスペクトルの強度が増加することが分かるこのことから膜厚増加によって結
晶性が向上することが示された
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
35
3395
3405
3415
3425
3435
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
Peak p
osit
ion(d
eg)
045
055
065
075
085
095
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
FW
HM
(deg)
Peak position
FWHM
図 44 膜厚依存の(002)X線ピーク位置と FWHM変化
85
95
105
115
125
135
0 30 60 90 120 150 180
Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]Thickness[nm]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
Avera
ge c
rysta
lline s
ize[n
m]
図 45 膜厚依存の結晶子サイズ変化
図 44に膜厚依存の ZnOglassのピーク位置と半値全幅変化を示すピーク位置は
ストレスフリーZnO パウダーの(002)面ピーク(2θ~3440deg)に比べ成膜直後から低
角側へシフトしている膜厚の薄いときにはピーク位置が高く膜厚が増加するにした
がって若干低角側へシフトしたFWHMは膜厚増加にしたがって低下した
図 45の結果と式 2-9のシェラーの式を使って ZnO薄膜の結晶子サイズの計算結
果を図 46 に示す結晶子サイズは膜厚が~100nm 付近まで増加するのと比例して
87~125nmまで増加する100nm~以降では結晶子サイズは増加しなかった
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
36
0
400
800
1200
1600
2000
575 600 625 650 675 700 725
Channel NoChannel NoChannel NoChannel No
YIE
LD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)Y
IELD
(counts
)30nm
67nm
171nm
Zn
図 46 膜厚依存の RBSスペクトル変化(検出器角 168deg)
図 46に ZnOglassの膜厚依存における RBSランダム測定の結果を示すZnピー
クの強度とピーク幅の増加から測定した試料膜厚の違いが見て取れるこれらの結果か
らガラス基板によるバックグラウンドを取り除いたそれぞれ積分強度を求め結果を後
述の膜密度変化に示す
3
35
4
45
5
0 50 100 150 200
Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)Thickness(nm)
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
Densi
ty(g
cm
33 33)) ))
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
37
図 47 膜厚依存における ZnOglassの膜密度変化
図 47 に膜厚依存における薄膜密度の計算結果を示す~80nm 付近までは密度は
一定の増加を示した80nm~では膜密度に変化はなくなり一定の密度に推移した
これは図 47 の結晶子サイズの変化と似ており図 48 の Hao 氏の RBS 法を用い
た ZnOAl薄膜の結晶子サイズと密度に関する報告と同様の結果となっている 1)同様
の結果を得たことからスパッタリング成長 ZnO 薄膜の結晶子サイズが膜密度に影響
していることを明らかにしたしかしながらHao氏らの ZnO薄膜の結晶子サイズの成
長に対し本研究で作製した薄膜の結晶子サイズの成長は少ないにもかかわらず膜密度
は Hao 氏らの研究結果と近い値を示したそこで次章の投入電力依存で結晶子サイズ
と膜密度の関係を詳しく調べる
図 48 XHao氏らの実験による ZnOAlPPAの薄膜密度と膜の結晶子サイズ変化 1)
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
38
42424242 RFRFRFRF パワーパワーパワーパワー依存依存依存依存
421 421 421 421 試料構造試料構造試料構造試料構造
RFパワー依存ではZnO薄膜を膜厚依存と同様に超音波洗浄した透明ガラス基板
(OA-10)上に作製した成膜条件は投入電力を 60~300W まで変化させガス圧
1Paガス流量比 Ar = 10 sccm O2 = 30 sccmで作製を行った各膜厚は膜厚依存と
同じくエリプソメーターで測定した膜厚及びラフネスの大きさとフィッティング時
の誤差(MSE平均二乗誤差)を表 42に示す
表 41 RFパワー依存における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6373 nm RZnO = 356 nm
MSE = 281
投入電力 120W TZnO= 5882 nm RZnO = 571 nm
MSE = 1861
投入電力 180W TZnO= 5729 nm RZnO = 538 nm
MSE = 167
投入電力 240W TZnO= 5865 nm RZnO = 380 nm
MSE = 206
投入電力 300W TZnO= 5895 nm RZnO = 425 nm
MSE = 196
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
39
422422422422 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
500
1000
1500
2000
2500
3000
3500
33 34 35 36
2θ(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)60W
120W
180W
240W
300W
図 49 RFパワー依存の(002)X線回折ピーク変化
04
05
06
07
08
09
0 100 200 300rf power (W)
FW
HM
(deg
)
3390
3410
3430
3450
FWHM
Peak postion Peak p
ositio
n (d
eg)
図 410 RFパワー依存の(002)ピーク位置と FWHM変化
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
40
図 49に RFパワー依存における ZnOglassの XRDスペクトルを示す(002)ピー
クは高 RFパワーになるに従いピーク強度は小さくピーク位置は徐々に低角側にシフ
トした図 410の FWHMの計算結果も同様にこの傾向を示した図 411に図 4
10の結果を用いた結晶子サイズの計算結果を示すRFパワーが増加するに従い結晶子
サイズは減少する結果を得た
9
11
13
15
17
19
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
)
図 411 RFパワー依存の結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa) d tensile
compressive
図 412 RFパワー依存の 2軸応力変化
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
41
投入電力依存において膜厚依存では顕著に見られなかった(002)ピークのシフトから
分かる歪みについてどの程度の 2 軸応力を薄膜が与えられているかを(2-10)式を用
いて計算した結果を図 413 に示すこの結果から投入電力依存における薄膜が持つ
応力は ZnOの(002)面に対して垂直な応力であり投入電力の増加と共に圧縮応力が強
くなる結果となった
このことから投入電力が増加すると結晶に対する圧縮応力が増加し結晶子サイズの
減少が確認されたこの結果は本研究の共同研究者である古田守氏らのスパッタ成長
ZnO 薄膜における酸素原子のボンバードメントと結晶子サイズに関する報告でスパ
ッタリングにおけるプラズマ中の O原子のボンバードメントが結晶サイズ減少と歪み
を与えるという報告があるその中で RFパワーの増加と共にその結晶サイズは減少し
圧縮応力は増加する傾向が強くなる結果が示されているそのため本実験でも同様の結
果が得られたと考える 2)3)
43
44
45
46
47
48
0 100 200 300
rf power [W]
Den
sity
(gc
m3)
図 413 RFパワー依存の ZnO薄膜密度変化
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
42
RBS分析で得られた Znピークの積分値を用いて薄膜密度の計算を行ったその結果
を図 413 に示す薄膜密度は投入電力の上昇と共に増加していくことが分かるし
かし膜厚依存時と違いRFパワーが上昇した際には結晶子サイズは減少しているそ
のため結晶サイズとは別の微細な結晶構造が密度に影響を与えていると思われる
そこで XRDの結果で見られた薄膜が持つ応力について見ると圧縮応力が高い薄膜
が高密度になるような結果となっているそこで図 414 のように薄膜が高い圧縮応
力を持つとき粒界に含まれる空隙が押しつぶされることによって膜密度が減少すると
推測したそこで次に報告する ZnO 薄膜への熱処理効果の結果において膜密度に影
響を及ぼす微細構造が結晶子サイズであるのか膜の持つ応力によるものなのかを確か
める
ZnO結晶結晶結晶結晶
粒界粒界粒界粒界
空隙空隙空隙空隙
圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力 圧縮応力圧縮応力圧縮応力圧縮応力
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無圧縮応力無))))
ZnO薄膜薄膜薄膜薄膜((((圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有圧縮応力有))))
図 414 ZnO結晶の圧縮応力有無において予想されるモデル
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
43
43434343 熱処理効果熱処理効果熱処理効果熱処理効果
431 431 431 431 熱処理条件熱処理条件熱処理条件熱処理条件
本研究の共同研究者である平松氏らが ZnO 薄膜に対する熱処理効果についての報
告の中で350~400の真空熱処理によって結晶子サイズの増加と薄膜が持つ圧縮
応力が引っ張り応力へと変化するという結果が得られている 4)そこで RFパワー依
存で確認された結果が成膜後の熱処理によってどのような効果を示すかを確認する
目的で行った成膜後の熱処理は真空アニール装置(400ベース圧力~≦5times10-
3Pa 2 時間)で行った膜厚は熱処理後にエリプソメーターを用いて確認した結果で
ある結果を表 43に示す
表 41 成膜後熱処理における各試料の膜厚と平均誤差
投入電力 60W TZnO= 6002 nm RZnO = 748 nm
MSE = 299
投入電力 120W TZnO= 5247 nm RZnO = 438 nm
MSE = 213
投入電力 180W TZnO= 5200 nm RZnO = 568 nm
MSE = 205
投入電力 240W TZnO= 5036 nm RZnO = 586 nm
MSE = 207
投入電力 300W TZnO= 5498 nm RZnO = 4695 nm
MSE = 469
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
44
432 実験結果実験結果実験結果実験結果
0
400
800
1200
1600
2000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nit
s)
as-depo
400
図 415 成膜後熱処理の XRDスペクトル変化 (a) 60 W (b) 180 W (c) 300 W
図 415に熱処理後における ZnOglassの XRDスペクトルを示す図 415 (a)ではスペ
クトルの強度には大きな変化見られずピークの位置は右側へシフトした図 415 (b)
及び(c)では熱処理前に比べピーク強度は高くなりピークは(a)と同様に高角側へとシフト
した
0
400
800
1200
1600
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
0
1000
2000
3000
32 33 34 35 36 37
2θω(deg)
Inte
nsi
ty(a
rbu
nits)
as-depo
400
(a) (b)
(c)
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
45
9
12
15
18
21
24
27
0 100 200 300rf power (W)
Aver
age
cryst
alli
ne
size
(nm
) d as-deposited
Annealing 400
図 417 成膜後熱処理の ZnO結晶子サイズ変化
-6
-4
-2
0
2
4
0 100 200 300
rf power (W)
Bia
xia
l st
ress
(G
Pa)
as-deposited
Annealing 400
tensile
compressive
図 418 成膜後熱処理の 2軸応力変化
図 417 に熱処理前後の ZnO 薄膜の結晶子サイズを示す結晶子サイズは熱処理
前と比較して投入電力変化試料全てで増加が確認された投入電力 60W で 244nm の
全資料中で最も大きな結晶子となった高 RFパワーで成膜した膜になると共に結晶子
サイズは減少し300W で成膜された膜の結晶子サイズが全試料中最も小さい 177nm
を示した
熱処理後の薄膜が持つ 2軸応力の変化を図 418に示す熱処理前には投入電力が
増加すると共に圧縮応力が高くなる結果となったが熱処理後には試料全てが引っ張り
応力へと変化したこの結果も結晶子サイズの結果と同様に平松氏らの行った実験と同
じ結果を示している 4)
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
46
4
41
42
43
44
45
46
47
48
49
0 100 200 300
rf power (W)
Den
sity
(gc
m3)
as-deposited
Annealing 400
図 419 成膜後熱処理の ZnO薄膜の密度変化
図 419 に熱処理前後の投入電力を変化させた ZnO 薄膜密度をRBS 法を用いて計
算した結果を示す熱処理前には投入電力増加と共に膜密度は増加したが結晶子サイ
ズは減少する結果となっていた熱処理後の膜密度は低圧縮応力であった 60W で成膜
された試料では密度の変化は見られなかった高圧縮応力を持った 300Wで成膜された
試料では密度が減少する結果となった熱処理後の試料の密度は 60W の試料が最も高
く300Wの試料が最も低い結果となった
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
47
44444444 まとめとまとめとまとめとまとめと考察考察考察考察
膜厚依存ではスパッタリングによる ZnO 薄膜の成長法で諸論文で報告されている
膜厚増加することで結晶成長することを XRD スペクトルで確認した 1)結晶成長は
~100nmまでは急激に増加し100nm~は結晶子サイズの大きさに変化がなかったこと
が確認された同じく膜密度の増加と飽和する現象が似ていることから結晶子サイズ
増加は膜密度が増えるための要因の 1つであることを明らかにした
投入電力を変化させたときの結晶性の違いが膜密度に与える影響を調べるために投
入電力変化を行った結晶子サイズは投入電力増加と共に減少し薄膜密度は増加する
結果となった膜厚依存とは逆の結果となったことから結晶子の大きさとは別の現象
が影響していると推察したそこで ZnO薄膜の持つ 2軸応力に注目しXRDの結果か
ら応力の計算を行ったその結果薄膜が高い圧縮応力を持つ薄膜が高薄膜密度になる
傾向を示したこのことから粒界中の空隙が圧縮応力を受けることで減少し薄膜密度
の増加に繋がると推測した
投入電力依存で推測した高圧縮応力膜が高薄膜密度になるという可能性を明らかに
するために真空中で 400の熱処理を行った熱処理によって全ての試料の結晶性は向
上し圧縮応力は緩和され引っ張り応力へと変化した薄膜密度は熱処理前に低圧縮応
力だった試料の密度は変わらず高圧縮応力であった薄膜の密度は減少した
以上の結果から ZnO 薄膜の膜密度は結晶子サイズの大きさと薄膜が持つ 2 軸応力に
影響されることを明らかにした
参考文献
1)X Hao J Ma D Zhang T Yang H Ma Y ang C Cheng and J Huang Appl Surf
Sci 183 (2001) 137
2)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao Jpn J Appl
Phys 46 (2007) 4038
3)M Furuta T Hiramatsu T Matsuda C Li H Furuta and T Hirao submitted to J
Non-Cryst Solids
4)T Hiramatsu M Furuta H Furuta T Matsuda and T Hirao Jpn J Appl Phys 46
(2007) 3319
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
48
第第第第5555章章章章 結論結論結論結論
今回の実験では RF マグネトロンスパッタ法を用いてガラス基板上に成膜された
ZnO 薄膜の結晶構造と薄膜密度を XRD 及び RBS 法を用いて評価した特に結晶性と
薄膜密度との関係性に着目しデバイス特性向上に繋げることを目的として行った本
実験の結果と考察から次の結論とデバイス特性に対する展望を述べる
1) ZnO薄膜の膜厚を増加することで薄膜密度は増加することが分かった密度増
加は結晶子サイズの増加が1つの要因であることを明らかにした
2) 投入電力を増加と共に結晶子サイズの減少と膜密度増加が確認された
3) 成膜後の熱処理によって結晶子サイズは全試料で増加が確認された同時に熱処
理前に圧縮応力を持った膜が熱処理後に引っ張り応力へと変化する
4) 膜密度が減少した試料は熱処理前に圧縮応力の高い膜であったことから圧縮応
力が密度を増加させる要因であることが分かった
これら結果より薄膜の結晶構造と膜密度の関係性を明らかにすることが出来た
以下にこの結果を踏まえてデバイス特性向上への展望を述べる
ZnO の結晶サイズが結晶内の自由電子の平均自由行程よりも小さい場合に粒界散乱
の影響が強くなるという報告があるこれは結晶サイズの減少で結晶間の粒界中に含ま
れる空隙が電子の移動を阻害するためであるX Hao 氏らの研究でも膜厚を増加させ
ることで膜密度が増加し粒界散乱が減少することで抵抗率が低減したという報告がさ
れている 1) 一方成膜した薄膜中に高温の熱処理を行い低抵抗化を図る際には低
パワーで成膜した試料の方が密度はほぼ同じで結晶性が良い結果となるまた高温処理
を含んだ TFT の作製プロセスでも高投入電力よりもむしろ低投入電力で成膜すること
で特性向上に繋がると推測する
以上のことから本研究で明らかにした密度増加の要因を明らかにすることは粒界散
乱減少に繋がり導電率や電界効果移動度などのデバイス特性向上をもたらすと考える
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
49
本論文に関する発表
論文
Y Takashige T Matsuda T Hiramatsu C Li T Nebiki K Morisawa A
Shimokata H Furuta M Furuta T Hirao and T NarusawaldquoGrowth and post
deposition annealing of ZnO thin films studied by X-ray diffraction and Rutherford
backscattering spectrometryrdquo submitted to Jpn J Appl Phys
学会発表
1)高繁夢二 松田時宜 平松孝浩 根引拓也 下方晃博 古田寛 古田守 平尾孝 成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ成長 ZnO 多結晶薄膜の RBS 法による界面評価および密度測定」
2007 年 3月 28 日 平成 18 年春季 第 54 回応用物理学会学術講演会
2)高繁夢二松田時宜平松孝浩根引拓也下方晃博古田寛古田守平尾孝成沢忠
「RF マグネトロンスパッタ法により成膜された ZnO 薄膜密度に対する熱処理効果」
2007 年 9月 7日 平成 19 年度秋季 第 68 回応用物理学会学術講演会
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します
50
謝辞
本研究は高知工科大学電子光システム工学科 成沢忠教授の指導の下で行われてき
たものである成沢教授には本研究の遂行及び本論文に関しまして多大なご指導ご指
摘ご助言を賜りましたまた本研究に携わるにあたり総合研究所 平尾孝教授をは
じめ総合研究所に所属される方々には試料作製から分析評価機器の使用法に渡り数々
のご指導ご鞭撻を頂きましたこの研究は多くの方々の多大なるご助力によって達成
されたものであり私の人生において様々な経験と知識を与えて頂いた貴重な時間とな
りましたここで心より感謝の意を表します
総合研究所 平尾孝教授古田守准教授松田時宜助手平松孝浩助手古田寛准教
授季朝陽准教授ならびに総合研究所所属の方々には ZnO薄膜作製及び X線回折分析装置
の使用に際してご親切なご指導を頂き深く感謝の意を表します
高知工科大学電子光システム工学コースの根引拓也氏には学部生時代からイオンビ
ーム加速器の使用法をはじめ多種多様なご意見ご協力を頂き誠に感謝いたします
総合研究所 山田高寛助手には薄膜の膜厚測定の用いたエリプソメーターの使用法につ
いてご指導ご協力を頂き深く感謝いたします
副指導員の八田章光教授古田守教授にはお忙しい中有益なご指導とご助言を頂き感
謝いたします
最後に本研究だけに関わらず学生生活の全てにおいて私を支えてくださった方々に心
より感謝の意を表します