閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療 · Arterial...

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Arterial Stiffness No によって する があるこ ある( てくる 患あ るい て粥 による ,す わち る。バージャー 因による れてい い。そ ため,以 ,す す)。こ あり, い(1する患 において ,た 患による する患 ある(2。また, する患 く, あって より ある。 あれ あるほ く, 患により する い。 圧(ABI)が けれ る(1ABIが %に して ), 煙そして がある。また, 圧, ホモシステイン 閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療 William R. Hiatt, M.D. (訳)桜井恒久 名古屋大学第一外科助教授 表1 閉塞性動脈硬化症,跛行および関連する心臓血管疾患の頻度 Schroll and Munck 1) 666 >60 男性 16 6 女性 13 1 Meijer et al. 2) 7,715 >55 男性 17 2 48 女性 21 1 33 Fowkers et al. 3) 1,592 55-74 両者 18 5 54 Newman et al. 4) 190 >60 両者 27 6 47 Newman et al. 5) 5,084 ≧60 男性 14 56 女性 11 2 40 Zheng et al. 6) 15,792 45-64 男性 3 1 21 女性 3 1 5 ての 0.9 のが である。ダッシュの データ されていない。 研究者 症例数 年齢 性別 閉塞性動脈硬化症 跛行 心臓血管疾患 Medical Treatment of Peripheral Arterial Disease and Claudication 頻度(%) Translated with permission in William R Hiatt:Medical Treatment of Peripheral Arterial Disease and Claudication The New England Journal of Medicine Vol No May Copyright ○ c Massachusetts Medical Society All rights reserved この論文は、「Arterial Stiffness」WEBサイトに掲載されています。その他の論文はこちら Click "Arterial Stiffness" web site for more articles.

Transcript of 閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療 · Arterial...

Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

下肢の動脈が動脈硬化によって閉塞する末梢動脈

疾患は全身に動脈硬化症があることを示す重要な所

見である(訳注:本論文に出てくる末梢動脈疾患あ

るいは末梢血管疾患はすべて粥状硬化症による慢性

動脈閉塞症,すなわち閉塞性動脈硬化症のことであ

る。バージャー病や他の原因による動脈疾患は含ま

れていない。そのため,以後,すべて閉塞性動脈硬

化症と訳す)。この罹患率は,50歳代以上に限れば,

約12%であり,男女差はない(表1)7, 8)。閉塞性動脈

硬化症を有する患者においては,たとえ心筋梗塞

や脳卒中の既往がなくとも,心血管疾患による死

亡の危険性は冠動脈疾患や脳血管障害を有する患

者とほとんど同等である(表2)12, 15)。また,閉塞性

動脈硬化症を有する患者では総死亡率に男女差はな

く,無症状であっても健常者よりも高値である。閉

塞性動脈硬化症が重症であればあるほど心筋梗塞,

脳卒中の危険が高く,血管疾患により死亡する可能

性が高い。足関節上腕血圧比(ABI)が低ければ低い

ほど,心血管事故の危険性が高くなる(図1)17, 18)。

ABIがもっとも低い重症虚血肢の患者では年間の死

亡率は25%にもなる19)。

閉塞性動脈硬化症の主要な危険因子としては高齢

(40歳以上),喫煙そして糖尿病がある。また,高脂

血症,高血圧,高ホモシステイン血症も重要な危険

閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

William R. Hiatt, M.D.(訳)桜井恒久 名古屋大学第一外科助教授

表1 閉塞性動脈硬化症,跛行および関連する心臓血管疾患の頻度

Schroll and Munck1) 666 >60 男性 16 6 -女性 13 1 -

Meijer et al.2) 7,715 >55 男性 17 2 48女性 21 1 33

Fowkers et al.3) 1,592 55-74 両者 18 5 54Newman et al.4) 190 >60 両者 27 6 47Newman et al.5) 5,084 ≧60 男性 14 56

女性 11 2 40Zheng et al.6) 15,792 45-64 男性 3 1 21

女性 3 1 5

すべての研究で足関節上腕血圧比が0.9未満のものが閉塞性動脈硬化症の診断基準である。ダッシュの部位はデータが発表されていない。

研究者 症例数 年齢 性別閉塞性動脈硬化症 跛行 心臓血管疾患

Medical Treatment of Peripheral Arterial Disease and Claudication

頻度(%)

Translated with permission in 2001, William R. Hiatt:Medical Treatment ofPeripheral Arterial Disease and Claudication. The New England Journal ofMedicine, Vol. 344, No. 21, 1608-1621, May 24, 2001.Copyright ○c 2001 Massachusetts Medical Society. All rights reserved.

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Criqui et al.9) 38-82 男性 256 1.7 6.2 3.3(1.9-6.0) 5.1(2.4-10.8) 3.9(1.5-10.6)女性 309 1.2 3.3 2.5(1.2-5.3) 4.8(1.6-14.7) 5.7(1.4-23.2)

Vogt et al.10) ≧65 女性 1492 1.1 5.4 3.1(1.7-5.5) 4.0(1.3-8.5) 4.5(1.5-6.7)Leng et al.11) 55-74 両者 1592 2.0 3.8 1.6(0.9-2.8) 2.7(1.3-5.3) -

(跛行症状あり)2.0 6.1 2.4(1.6-3.7) 2.1(1.1-3.8) -

(無症状)Newman et al.12) ≧65 両者 5714 4.5 7.8 1.5(1.2-1.9) 2.0(1.1-2.8) 2.9(1.8-4.6)Newman et al.13) ≧60 男性 669 1.5 5.3 3.0(2.8-5.3) - 3.4(1.3-8.9)

女性 868 1.3 3.8 2.7(1.6-4.6) - 3.3(1.3-8.6)Kornitzer et al.14) 40-55 男性 2023 0.4 1.0 2.8(1.4-5.5) - 4.2(1.7-10.5)

(無症状)

閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

表2 閉塞性動脈硬化症の患者における全死亡および心臓血管疾患による死亡のリスク

ASOは閉塞性動脈硬化症,RRは相対危険率,CIは信頼区間を示す。ダッシュの部位はデータが発表されていない。

図1 足関節上腕血圧比(ABI)の測定法収縮期血圧はドプラ超音波血流計を用いて両上腕および両下肢の足関節部の足背動脈(DP)と後脛骨動脈(PT)で測定する。上腕血圧は両肢の高い方とする。足関節血圧も足背動脈と後脛骨動脈で測定した高い方とする。ABIは高い方の足関節血圧を高い方の上腕血圧で除して算出する。ABI値と疾患の程度に関しては上に示した。ただし,ABIが1.3以上のときは動脈が石灰化し,カフによって圧迫できないことを示唆している。このようなときはその部位の本当の血圧値を得ることはできない。そして,閉塞性動脈硬化症を診断するためには他の検査が必要となる。典型的には,跛行の患者のABIは0.41から0.90であり,重症虚血では0.40以下となる。

右ABI=

左ABI=

高い方の右足関節血圧

高い方の上腕血圧

高い方の左足関節血圧

高い方の上腕血圧

右上腕収縮期血圧

右足関節収縮期血圧 左足関節収縮期血圧

左上腕収縮期血圧

ABIの解釈

>1.30 圧迫不能0.91~1.30 正常0.41~0.90 軽度から中等度の

閉塞性動脈硬化症0.00-0.40 重症の

閉塞性動脈硬化症

最初に心臓血管疾患が認められなかった患者

RR(95% CI)1年ごとのパーセント

研究者 年齢 性別 症例数 全死亡 心臓血管疾患による死亡

対照 ASO RR(95% CI) 全患者

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下肢症状を起こす 他疾患の検索

ABIの低下なし

トレッドミル運動 負荷後のABIの測定

ABI 0.91~1.30

ABIの低下あり

年齢が50~69で喫煙者あるいは糖尿病患者 年齢が70歳以上 運動時の下肢痛 下肢の脈拍所見の異常 冠動脈,頸動脈あるいは腎動脈疾患

足関節上腕血圧比(ABI)の測定

閉塞性動脈硬化症

ABI>1.30

Pulse Volume Recording(PVR) 第1趾血圧測定 Duplex Scanning

ABI≦0.90

正常所見: ASOなし

異常所見

Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

因子である5, 8, 20)。閉塞性動脈硬化症の患者は,これ

らの危険因子を有すること,動脈硬化症は全身疾患

であること,虚血性疾患の発症の危険が高いことか

ら,積極的な危険因子の修正や抗血小板薬療法も含

めた二次予防対策の対象者と考えるべきである21, 22)。

しかしながら,閉塞性動脈硬化症を有する患者は,

冠動脈疾患の患者に比べて脂質降下薬および抗血小

板薬の使用に関しては見過ごされている23, 24)。

閉塞性動脈硬化症の患者の約1/3には典型的な跛

行症状がある(表1)。ここで言う跛行とは歩行時に

一側あるいは両側の下肢,主に腓腹部に痛みが生じ,

それ以上歩けなくなるが,その痛みは安静によって

消失する症状のことである25)。これらの患者では跛

行症状はゆっくりとしか進行しない。すなわち,5

年以内に跛行症状が悪化するものは25%しかいない

し,切断術が行われるのはわずか5%である26)。重

症虚血肢(安静痛,虚血性潰瘍・壊死)となるのは

5%から10%の患者だけであるが,かれらの下肢切

断となる危険率は高い19)。ABIが低値であることか

ら閉塞性動脈硬化症を有すると診断した患者の50%

以上は典型的な跛行症状や安静時の虚血症状はな

い。そのかわりに,歩行能力やQOLの低下をきたす

違う型の運動時の下肢痛を有する27, 28)。このように,

閉塞性動脈硬化症のほとんどの患者は日常生活を制

限するような身体機能の低下が見られる。

跛行の患者における治療の目標は運動時の症状

を軽減し,歩行能力およびQOLを改善することで

ある。この目標は,安静時痛の消失,虚血性潰瘍

の治癒および肢喪失の防止をつけ加えれば,重症

虚血肢においても同様である。閉塞性動脈硬化症

の診断と治療の方法に関しては,内科的および外

科的治療についての最近のconsensus publicationのな

かで詳細に検討されている(訳注:これは日本脈管

学会編集の下に「下肢閉塞性動脈硬化症の診断・治

療指針」として翻訳文が出版されている)29)。本稿

では閉塞性動脈硬化症の患者における症状改善の

図2 閉塞性動脈硬化症が疑われる患者の評価高齢や動脈硬化症の危険因子を有することで閉塞性動脈硬化症のリスクが高いとき,運動時に下肢痛が生じたり,病歴や身体所見から説明できない肢端部の潰瘍があるときは閉塞性動脈硬化症の検査をするべきである。ABIが1.30以上の患者ではPulseVolume Recording(PVR),第1趾の血圧測定,末梢動脈の超音波二重走査法(Duplex Scanning)による検査をして,閉塞性動脈硬化症の有無を診断する。ABIが0.91から1.30で,運動時の下肢痛を訴える患者では歩行負荷試験を行う必要がある。安静時のABIが0.90以上であっても,運動後ABIが20%以上低下すれば閉塞性動脈硬化症と診断できる。ABIが0.90以下のときは患者はおそらくは閉塞性動脈硬化症を有している。そして,それ以上の検査は不要である。

臨床的特徴

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閉塞性動脈硬化症

重症虚血 跛行重症度の評価  PFWDおよびMWDの測定  SF36およびWIQなどの質問票

跛行の治療  監督下運動療法  シロスタゾール

血行再建術  血管形成術  バイパス手術

病変の診断  血行動態的診断  Duplex Scanning  MR angiography  通常の動脈造影

危険因子の修正  禁煙  LDLコレステロール<100mg/dl  Hemoglobin A1c<7%  血圧<130/85mmHg  ACE阻害剤  抗血小板療法   アスピリン,シロスタゾール

心血管疾患の 危険因子の評価

症状の改善

続行

症状の悪化

閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

ための治療方針のなかで,特に危険因子の修正お

よび抗血小板療法を中心にレビューした。診断と

治療の概要は図2および図3にまとめた。

禁煙

禁煙は重症虚血への進展を遅らせ,心筋梗塞と

心血管疾患による死亡のリスクを減らす30)。しかし

ながら,禁煙が跛行症状を改善させるかどうかは

明確ではない。著者らは報告されたデータをmeta-

analysis したが,その結果,禁煙はトレッドミル上

での最大歩行距離を改善させてはいなかった31)。し

かしながら,禁煙プログラム,ニコチン補充療法

およびbupropionのような抗うつ剤の使用は推奨さ

れるべきものである32)。

高脂血症の治療

多くの臨床研究で,冠動脈疾患を有する患者にお

いて血清コレステロール値を低下させることは有益

であることは明らかになっている33)。閉塞性動脈硬

化症の患者ではスタチンによる治療は血清コレステ

ロール値を低下させるのみならず,血清P-selectin値

のような動脈硬化症のマーカーも含め,動脈の内皮

図3 閉塞性動脈硬化症を有する患者の評価と治療閉塞性動脈硬化症のすべての患者では,症状の程度にかかわらず,図中に示した治療目標をめざして危険因子の治療を行うべきである。また,アスピリンあるいはクロピドグレルによる抗血小板療法が必要である。アンギオテンシン変換酵素阻害剤は,血圧降下とは無関係に心血管事故を予防する効果があるので投与を考慮する。トレッドミル上での痛みを感じるまでの歩行距離(PFWD)および最大歩行距離(MWD)の測定は跛行の程度や治療の効果を客観的に評価する方法である。また,跛行による生活の制限や治療の反応を定量的にみる他の方法としては,Medical OutcomesShort Form 36(SF36)やWalking Impairment Questionnaire(WIQ)などの質問票を用いて身体機能をスケール化する方法がある。SF36は閉塞性動脈硬化症に限らず一般的に用いられるものであり,WIQは閉塞性動脈硬化症患者を対象に作られたものである。跛行の治療は運動療法とシロスタゾールのような薬剤から始めるべきである。症状が改善しなかったり,生活に困っていたり,症状が悪化した患者では,血管内治療や外科的治療のために閉塞性病変の部位を調べなくてはならない。無侵襲的にこれを診断する方法としては下肢分節血圧の測定やPulse Volume Recording(PVR)による検査がある。超音波二重走査法(Duplex Scanning)やMR angiographyは部位診断に関しては高いsensitivityとspecificityを有している。この両者間ではMR angiographyの方がsensitivityは高い。しかし,ほとんどの患者では,手術や血管形成術の前に通常の動脈造影が依然として必要である。重症虚血肢では多くの場合ABIは0.4未満であり,血行再建術が必要であると思われるので最初から閉塞性病変の部位を調べるべきである。LDLはlow density lipoprotein :低比重リポタンパクを示す。

危険因子の修正

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

機能も改善させる34, 35)。食事療法,cholestyramine,

probucol,ニコチン酸などの種々の方法で4ヵ月から

3年にわたり脂質低下療法を受けた閉塞性動脈硬化

症の698人の患者を対象にしたmeta-analysisの報告が

ある36)。その結果では,統計学的に有意の違いは認

められなかったが,治療を受けた患者の総死亡率は

0.7%であり,一方偽薬を投与された患者の総死亡

率は2.9%であった。また,脂質低下療法は,動脈

造影所見および跛行症状の点から,疾患の進行を遅

らせていることも認められた。

末梢血管の動脈硬化症に対する脂質低下療法の効

果を評価した研究もいくつか行われている。

Cholesterol Lowering Atherosclerosis Studyでは冠動脈

および末梢動脈に病変を持ち,食事療法を受けてい

る188名の男性を対象とし,無作為にかれらを偽薬

群とcholetipol + niacin群に分けて検討している。そ

の結果,脂質低下療法は大腿動脈の動脈硬化症の進

展の防止あるいは退縮に関係していた37)。St. Thomas

trialでは25名の男性を食事療法およびcholestyramine,

ニコチン酸あるいはclofibrateの投与で平均19ヵ月間治

療した結果を検討している。その結果,脂質低下療

法は大腿動脈の動脈硬化症の治療に有益であること

が示された38)。一方,Probucol Quantitative Regression

Swedish Trialでは末梢動脈に病変を持ち,食事療法

およびcholestyramineの投与を受けている303名の患

者を対象とし,無作為にかれらを偽薬群とprobucol

群に分け,3年間投与した結果を検討している39)。

Probucolは 血清LDLコレステロール値およびHDLコ

レステロール値を低下させ,抗酸化作用を有してい

るが,この研究では大腿動脈の動脈硬化症および足

関節上腕血圧比(ABI)に対するこのprobucolの効果

は認められなかった。

血清Lp(a)リポプロテイン値を減少させるplasma

apheresisに関する最近の研究では,冠動脈疾患を有

している42名の患者を対象とし,無作為にかれらを

simvastatinのみ投与する群とsimvastatin投与に加えて

plasma apheresisを行う群に分けて2年間の治療を行

い,その結果を検討している40)。両治療を併用した

群では血清Lp(a)リポプロテイン値は19%低下した

が,simvastatinのみ投与する群では逆に15%増加し

ていた(p<0.001)。末梢動脈の評価は大腿動脈と下

腿動脈のduplexによる画像診断所見をエンドポイン

トとして行われた。研究終了の時点で血行動態的に

有意な狭窄を持つ患者の数はsimvastatinのみ投与す

る群では6名から13名に増加したのに対し,両治療

を併用した群では逆に9名から7名に減少していた

(p=0.002)。apheresisは高脂血症を治療する方法と

して実用的ではないが,本研究の結果は高血清Lp(a)

リポプロテイン値は閉塞性動脈硬化症の進展に重要

な役割を有していることを示唆している。

脂質低下療法の効果を下肢の臨床症状をエンドポ

イントとして評価した研究がほかにも二つある。

Program on the Surgical Control of the Hyperlipidemias

は838名の患者を対象に,高脂血症に対するileal-

bypass手術の効果を調べたrandomized trialである41)。

ileal-bypass手術を受けた患者の5年後の結果では,

対照群に比べ,足関節上腕血圧比(ABI)低値の相対

危険率は0.6(95%信頼区間:0.4~0.9,危険率の低

下:15%ポイント,p<0.01)であり,また跛行ある

いは重症虚血の相対危険率は0.7(95%信頼区間:

0.2-0.9,危険率の低下:7%ポイント,p<0.01)であ

った。Scandinavian Simvastatin Survival Studyにおい

て,simvastatinで治療された患者の跛行発症あるい

は跛行悪化の相対危険率は,偽薬を投与されていた

患者と比べた時,0.6(95%信頼区間:0.4~0.9,危

険率の低下:1.3%ポイント)であった42)。

まとめると,脂質低下療法は,閉塞性動脈硬化症の

患者において,かれらがしばしば冠動脈および脳動脈

疾患を合併する点も考慮し,有益である。閉塞性動脈

硬化症の患者においては血清LDLコレステロール値を

100mg/dl未満に,血清トリグリセリド値を150mg/dl未

満にするようにとの勧告が最近出ている43)。治療と

してはスタチン製剤が最初に投与されるべきであ

るが,ニコチン酸は糖代謝を悪化させることなく

血清HDLコレステロール値を上昇させ,血清トリ

グリセリド値を低下させるので,これも重要な薬

剤である44)。

糖尿病の治療

血糖を厳密にコントロールすることは糖尿病の最小

血管障害を予防するが,大血管障害を予防するかどう

かはいまだ不明である。Diabetes Control and

Complications Trialでは1型糖尿病の1441名の患者を対象

にし,通常にインスリン治療を行った場合と,厳密に

行った場合を比較した。厳密に治療を行った場合は心

血管事故が減少する傾向が認められたが(p=0.08),

閉塞性動脈硬化症に対しては効果はなかった45)。2型

糖尿病の3,867名の患者を対象にし,sulfonylureaあるい

はインスリンで厳密に薬物治療を行った場合と食事療

法のみ場合を比較したUnited Kingdom Prospective

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閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

Diabetes Studyにおいても結果は同様であった。厳密に

治療を行った場合は心筋梗塞が減少する傾向が認め

られたが(p=0.05),閉塞性動脈硬化症による死亡

や切断に対しては効果はなかった(相対危険率:0.6,

95% 信頼区間:0.4~1.2)46)。これらの結果は1型お

よび2型糖尿病患者に対して厳密に血糖コントロー

ルを行っても閉塞性動脈硬化症を改善させることは

できないことを示唆しているかもしれない。

高血圧の治療

高血圧は,Joint National Committeeでも認められ

ているように22),閉塞性動脈硬化症の重要な危険因

子である。しかし,高血圧に対する治療が閉塞性動

脈硬化症の進展を防止し,跛行の危険を減少させる

かどうかはわかっていない。βブロッカーは閉塞性

動脈硬化症の症状を悪化させる作用があると考えら

れてきた22)。この問題がでてきたのはβブロッカー

を服用している患者では下肢血流が減少し,跛行が

悪化するとの初期の症例報告のためである47)。

atenololあるいはCaブロッカーを単独で投与した場

合は皮膚温およびトレッドミル上での最大歩行距離

に影響を与えなかったが,両者を併用すると最大歩

行距離は9%減少したとの報告がある48)。また,他

の研究では,選択的および非選択的βブロッカーと

も閉塞性動脈硬化症患者の末梢循環を悪化させるこ

とはないと報告されている49)。これらの研究を詳細

にレビューし,meta-analysisした結果では,βブロ

ッカーは重症のため慎重投与とされている患者を除

けば,閉塞性動脈硬化症患者に安全に投与できると

考えられる50, 51)。

アンギオテンシン変換酵素阻害剤は,閉塞性動脈

硬化症患者に投与された場合,血圧降下から期待さ

れる以上に心血管事故を予防する効果があると考え

られる。Heart Outcomes Prevention Evaluation Studyで

は,ABI:0.9未満を診断基準とすれば,対象とした

9,297名中4,051名(44%)が閉塞性動脈硬化症を有し

ていた52)。全対象の検討では,血管疾患による死亡,

非致死性の心筋梗塞および脳卒中などの一次エンド

ポイントの発生率は偽薬群で17.7%であったのに対

し,ramipril群では14.1%であった。このramiprilの効

果は対象が閉塞性動脈硬化症を有する,有さないに

かかわらず同様であった(図4)。本研究は心血管疾

患の2次予防の検討では閉塞性動脈硬化症の患者を

含めることが重要であることを明らかにしただけで

なく,アンギオテンシン変換酵素阻害剤はこれら閉

塞性動脈硬化症患者の心血管事故のリスクを減少さ

せることも示唆している。

他の危険因子の治療

血清ホモシステインの高値は閉塞性動脈硬化症

の独立した危険因子であり,心血管疾患による死

亡のリスクも増加させる20)。ホモシステインは

LDLコレステロールの酸化を促進する。それに加

え,反応性酸化物を形成することによって,ホモ

システインは血管内皮の機能を低下させ,血管平

滑筋を増殖させ,動脈硬化を進行させる53)。血清

高ホモシステイン血症の原因としてはホモシステ

イン代謝の遺伝的欠陥,ビタミンB12代謝の変化そ

して葉酸の摂取不足がある。ビタミンB12を補った

り,食物を葉酸で強化することにより血清ホモシ

ステイン値を低下させることができる54)。ビタミ

ン補給療法は簡単であるにもかかわらず,血清ホ

閉塞性動脈硬化症あり

患者数 偽薬群における 心血管事故の発生率

ramipril群の相対危険率

4046

5251

22.0

14.3閉塞性動脈硬化症なし

0.6 0.8 1.0 1.2

図4 閉塞性動脈硬化症の有無とramiprilの効果(Heart Outcomes Prevention Evaluation Study)血管疾患による死亡,非致死性の心筋梗塞および脳卒中などを合計した心血管事故の比率はramiprilで治療された患者で低かった。その比率は閉塞性動脈硬化症を有する患者と有しない患者で有意の違いはなかった。グラフに示した横棒は95%信頼区間を示している。また,1.0より値が小さいほどramiprilが有効であることを示している。

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

モシステイン値の低下が閉塞性動脈硬化症の患者

に有益であることを示した臨床試験はない。

エストロゲン療法は閉経後の女性の心血管疾患の

リスクを減少させる。自然閉経した2,196名の女性

住民を対象にした調査によれば,1年あるいはそれ

以上にわたるエストロゲン療法は,ABI:0.9未満を

診断基準として,閉塞性動脈硬化症の頻度を減少さ

せた(オッズ比:0.5,95%信頼区間:0.2~0.8)55)。

Heart and Estrogen/Progestin Replacement Study では

エストロゲン療法の効果が冠動脈疾患を有する閉

経後の2,763名の女性を対象に検討された56)。大動

脈あるいは頸動脈手術,下肢の血行再建術あるい

は切断からみた動脈疾患の頻度はエストロゲン療

法によって変わらなかった。そのうえ,エストロ

ゲン療法は,おそらくそのプロトロンビン効果の

ため,大腿膝窩動脈バイパスを受けた女性のグラ

フト開存率を低下させた57)。このように,現在の

ところ,エストロゲンは閉経後の女性の閉塞性動

脈硬化症の治療に用いる適応はない。しかしなが

ら,エストロゲン療法の適応がある女性に閉塞性

動脈硬化症があっても,閉塞性動脈硬化症の存在

はエストロゲン療法の禁忌とはならない。

抗血小板療法

心血管疾患を有する患者において,抗血小板剤

は非致死性の心筋梗塞,脳卒中および血管疾患に

よる死亡のリスクを減少させる。これらの結果は

Antiplatelet Trialists' Collaborationによって集計され

た抗血小板薬療法(おもにアスピリン)の研究結果

のmeta-analysisに基づいている。このAntiplatelet

Trialists' Collaborationは急性あるいは陳旧性の心筋

梗塞,脳卒中あるいは閉塞性動脈硬化症などの血

管疾患を有している102,459名の患者を対象として

いる58)。そこでのもっとも重要な結論は,致死性

あるいは非致死性の心血管事故の頻度が対照群で

は11.9%であったものが,治療群では9.5%に減少

していることである。このように,アスピリンは

心血管疾患を有する患者の2次予防に推奨される。

閉塞性動脈硬化症患者において抗血小板薬の使用

を支持するデータはつぎに述べる。

アスピリン(Aspirin)

Antiplatelet Trialists' Collaborationの解析のなかには

3,295名の跛行症状を有する患者が含まれている。こ

れらの患者において,平均27ヵ月後の心筋梗塞,脳

卒中および血管疾患による死亡の頻度は抗血小板療

法を受けている患者では9.7%であったが,一方対照

群では11.8%であった。これは18%の減少を示して

いるが,統計学的には有意ではなかった。末梢動脈

の血行再建術あるいは血管形成術を受けた1,928名の

患者を対象とした検討でも,結果は同様であった。

これらの結果の解釈は次のごとく異なってくる。

American College of Chest Physiciansは閉塞性動脈硬化

症の患者は1日あたり81mgから325mgのアスピリン

を服用するように勧めている59)。一方,Food and

Drug Administration(FDA)の研究班は閉塞性動脈硬

化症の患者に指示できるようなアスピリン治療の十

分な根拠を見つけることはできなかった60)。

アスピリンが閉塞性動脈硬化症の患者において虚

血性疾患の全体のリスクを減少させる効果は統計学

的に有意ではないが,アスピリンは末梢循環に良好

な影響を与える可能性がある。たとえば,一次予防

を調べたPhysicians' Health Studyにおいて,アスピリ

ンはその後の末梢血行再建術の必要性を減少させて

いた61)。Antiplatelet Trialists' Collaborationでは,大伏

在静脈,人工血管を用いたバイパス手術あるいは血

管形成術を受けた3,226名の閉塞性動脈硬化症患者を

平均19ヵ月間folow-upし,アスピリン治療はその開

存率を有意に改善させたことがわかった62)。グラフト

の閉塞は対照群では25%であったが,アスピリン群で

は16%であり,全体的にみれば,43%の減少であった。

抗血小板療法の処方にはすべてアスピリンが含まれて

いた。アスピリン単独投与は,dipyr idamole,

sulfinpyrazoneあるいはticlopidineとの併用に比べて,

グラフト閉塞予防に関しては同様の効果であった。

また,高容量アスピリン投与(1日600mgから1500mg)

と低容量投与(1日75mgから325mg)の間にも違いは

なかった。

チクロピジン(Ticlopidine)

チクロピジンは血小板のadenosine diphosphate受

容体を阻害することによって血小板活性を抑制す

るthienopyridine系の薬剤である。閉塞性動脈硬化症

の患者においてチクロピジンは致死性あるいは非

致死性の心筋梗塞,脳卒中のリスクを減少させる

のに偽薬より有効であった63)。チクロピジンは跛行

の重症度や血管外科手術の必要性を減少させたとの

報告もある64, 65)。しかしながら,この薬剤に対する

期待は血小板減少症,好中球減少症(服用患者の2~

3%の発症)や厳密な血液学的検査が必要となる血小

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閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

板減少性紫斑病(服用患者2,000~4,000人に1人の発症)

によって減少した66, 67)。この問題のため,他の

thienopyridine系の薬剤が開発されることとなった。

クロピドグレル(Clopidogrel)

クロピドグレルはチクロピジンより血液学的副作

用が少ないthienopyridine系の薬剤である。クロピド

グレルの使用を推奨する最初のデータはClopidogrel

versus Aspirin in Patients at Risk of Ischaemic Envents

(CAPRIE)trialによってもたらされた。この研究で

は19.000名以上の最近発症した心筋梗塞,脳卒中あ

るいは閉塞性動脈硬化症(6,452名)の患者を対象に

クロピドグレル(1日75mg)とアスピリン(1日325mg)

が投与され,その結果が比較検討された15)。閉塞性

動脈硬化症の患者はABI:0.85以下の跛行あるいは

末梢血行再建術,血管形成術,切断術の既往を有し

ていた。このようにこれらの患者は何らかの症状を

訴え,中等度以上の末梢動脈病変を有していた。ク

ロピドグレルは致死性あるいは非致死性の脳卒中,

心筋梗塞あるいは他の血管疾患による死亡を1次エ

ンドポイントとしてみた場合,全体としては8.7%減

少させていた(p=0.04)(図5)。この結果から,FDA

は閉塞性動脈硬化症を含めて動脈硬化性疾患を有す

る患者の2次予防としてクロピドグレルを承認した。

CAPRIE trialではクロピドグレルもアスピリンも大

きな副作用はなかった。しかしながら,クロピドグ

レル投与の初期で血小板減少性紫斑病が発症したと

の報告が最近あった68)。その血小板減少性紫斑病の

発症リスクは100万人あたり4人ほどで,定期的な血

液学的検査が必要となる頻度ではない。

CAPRIE trialでは脳卒中,心筋梗塞あるいは閉塞

性動脈硬化症を有する患者の間でその治療効果に

違いがあった。6,452名の動脈硬化性疾患の患者で

は1次エンドポイントの1年あたりの発生率はアス

ピリン投与群で4.9%,クロピドグレル投与群で

3.7%であり,相対的には23.8%減少させていた。

この治療効果は脳卒中あるいは心筋梗塞の患者の

場合より大きかった。しかしながら,この違いは

偶然の結果かもしれない(図5)。

他の抗血小板剤

PicotamideはトロンボキサンA2合成酵素を抑制し,

トロンボキサンA2受容体を阻害する。2,304名の閉

塞性動脈硬化症の患者を対象にした18ヵ月間の研究

では,Picotamideは致死性あるいは非致死性の虚血

性疾患の発症を偽薬群より19%減少させた69)。この

薬剤に関してはこれ以上の研究はその後なされてい

ない。Ketanserineは抗血小板効果をもつS2セロトニ

ン受容体の拮抗薬である。3,899名の閉塞性動脈硬

化症の患者を対象にした大規模な研究では,死亡率

はKetanserine投与群が,統計学的有意差はないが,

わずかに高かった。これは,おそらく,心臓のQT

時間の延長に関係しているとおもわれる。また,

Ketanserineは跛行症状を改善させなかった70, 71)。

全患者

閉塞性動脈硬化症患者

心筋梗塞患者

脳卒中患者 患者数

6,431

6,302

6,452

19,185

リスク低下率(%) アスピリン有効 クロピドグレル有効

-40 -30 -20 -10 0 10 20 30 40

図5 Clopidogrel versus Aspirin in Patients at Risk of Ischaemic Envents(CAPRIE)trialの結果閉塞性動脈硬化症の患者群では,致死性あるいは非致死性の脳卒中,心筋梗塞あるいは他の血管疾患による死亡を1次エンドポイントとしてみた場合,1年あたりのその発生率はアスピリンを服用していた患者では4.9%であり,一方クロピドグレルを服用していた患者では3.7%であった。すなわち,クロピドグレルでの発生率はアスピリンと比べて23.8%低い。この減少は心筋梗塞あるいは脳卒中の患者群よりも閉塞性動脈硬化症の患者群で大きかった。グラフに示した横棒は95%信頼区間を示している。

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

まとめると,閉塞性動脈硬化症の患者は全身性

の動脈硬化症を有しており,心血管疾患やそれに

よる死亡のリスクが高い。結論はまだ出ていない

が,アスピリンは閉塞性動脈硬化症の患者に今後

発症する虚血性疾患の予防のために最初に投与さ

れるべき抗血小板剤であると考えられる。アスピ

リンは,また,グラフトの開存性を維持するのに

有効であり,末梢血管の血栓性閉塞も予防する可

能性がある。クロピドグレルは閉塞性動脈硬化症

患者における虚血性疾患の予防薬としてFDAの承

認を受けており,アスピリンよりも有効であるか

もしれない。

治療の目標

跛行患者は運動能力や全体の活動性に著しい障害

を有している。トレッドミル上で運動させて測定し

た最大酸素消費量は同年代の健常者の50%ほどで,

これは NYHA3度の心不全患者と同等である72)。そ

のうえ,わずかな短い距離を歩くのが,ゆっくりと

したスピードであっても,きわめて困難である。歩

行能力の低下は日常生活の活動性やQOLの低下に関

連する28, 73)。運動能力およびQOLの改善は閉塞性動

脈硬化症患者における治療の重要な目標である。

運動療法

跛行に対する最初の非薬物的治療はきちんとし

た運動療法プログラムである。この結果は,多く

は症例数が少ないが,20以上のrandomized trialで示

されている74)。運動は単にトレッドミル上の最大歩

行距離を伸ばすだけでなく,QOLや地域での活動

性(すなわち,一定のスピードで,あるいは一定の

距離を歩く能力)を改善する75)。厳格な運動療法プ

ログラムはバイパス手術と同等の有効性をもつ可

能性があり,血管形成術より有益かもしれない76, 77)。

Randomized trialsのmeta-analysisの結果では,運動療

法はトレッドミル上の最大歩行距離を179m増加さ

せている(95%信頼区間:60~298)31)。トレッドミ

ルでのこのような増加は平地ではもっと長く歩く

ことができることを意味している。

運動療法は明らかに効果があるが,そこにはいく

つかの問題がある。最良の結果を得るためには,典

型的には心臓のリハビリのように,運動療法プログ

ラムは監督下で行われ,そしてやる気のある患者が

必要である78)。しかしながら,監督下の運動療法プ

ログラムによる治療は健康保険では支払われず,こ

れがその普及を妨げている。運動療法は定期的に行

わなければならず,さもなければその有効性は失わ

れてしまう。このように,運動は跛行患者の最初の

治療として推奨されているけれども(図3),どこで

も行うことができないこと,そして健康保険で支払

われないことが運動療法の有効性を制限している。

運動療法がどのようなメカニズムで有効性を発揮す

るかについては多くの研究がある。運動は下肢への血

行に本質的な変化を生じさせないし,また生じた変化

から臨床的な反応を予測することもできない79)。血行

動態的な変化がないにもかかわらず80),運動療法

は下肢での酸素利用を改善している。筋肉内の

carnitine代謝の改善でわかるように81),骨格筋の中

間代謝も運動によってよい影響を受ける82)。

血管拡張剤

papaverineのような血管拡張剤は跛行の治療のた

めに研究された最初の薬剤である。しかしながら,

いくつかのcontrolled trial が行われたものの,この

ような薬剤の臨床的効果を示すことはできなかっ

た83)。この理由として以下のような病態生理学的

な説明が行われている。すなわち,運動中,狭窄

あるいは閉塞病変より末梢にある抵抗血管は虚血

に反応して拡張している。これらの血管は内因性

の因子により拡張するので,血管拡張剤は影響を

与えない。むしろ,他の血管の抵抗を落とす結果,

血流を灌流不足の筋肉から取ってしまう「スチー

ル現象」を生じてしまうかもしれない。また,血

管拡張剤は体血圧を低下させてしまうので,局所

の灌流圧も低下させる可能性がある。このように,

現在のところ跛行の治療に血管拡張剤を使用する

ことを支持するデータはない。

ペントキシフィリン(Pentoxifylline)

ペントキシフィリンは赤血球や白血球の変形能を

改善し,血清フィブリノーゲン値を低下させ,そし

て抗血小板作用をもつmethylxanthineの誘導体であ

る84)。この薬剤は1984年に跛行の治療薬として承認

されている。初期のrandomized trialのひとつでは,

ペントキシフィリン投与群は偽薬群と比べて,ト

レッドミル上の最大歩行距離を12%増加させてい

た。しかし,治療前と比べたとき,歩行距離の増

加は両群間で違いは認められなかった(表3)85)。他

跛行に対する薬物以外の治療

跛行に対する薬物療法

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閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

の研究では,ペントキシフィリン投与群は偽薬群

と比べて,トレッドミル上の最大歩行距離を21%

増加させていた86)。しかし,これは統計学的に有

意の違いではなかった。同様に,最近の研究では

トレッドミル上の最大歩行距離の増加や質問票に

よって評価した活動状況において,ペントキシフ

ィリンの投与は偽薬と比べて決して有効ではなかっ

た。ペントキシフィリンを用いた研究のmeta-

analysisの結果,トレッドミル上の最大歩行距離の増

加は正味44mであった(95%信頼区間:14~74m)31)。

他のmeta-analysisやレビューの結果でも,ペントキ

シフィリンは歩行能力の改善に関してはわずかな

効果しか持たず,この薬剤を普及させることを支

持する証拠は不十分であった31, 88, 101, 102)。

シロスタゾール(Cilostazol)

シロスタゾールは1999年にFDAによって跛行の治

療薬として承認されている。シロスタゾールの主な

作用はphosphodiesterase type 3を阻害し,細胞内の

cyclic AMP濃度を上昇させることである。シロスタ

ゾールはチトクロームp450の3A4 isoform(CYP3A4)

と,軽度ではあるが2C19と1A2によって肝臓内で代

謝を受ける。この薬剤はCYP3A4酵素システムを阻

害しないが,CYP3A4を阻害する他の薬剤は血清中

のシロスタゾール濃度を上昇させる可能性がある103)。

シロスタゾールは血小板凝集,動脈内血栓の形成お

よび血管平滑筋の増殖を抑制し,血管拡張を惹起す

る104, 105, 106)。しかしながら,前述したように,血管

拡張剤や抗血小板薬は跛行による運動障害を改善し

ない。それ故に閉塞性動脈硬化症におけるシロスタ

ゾールの作用メカニズムは不明である。

表3 跛行患者の薬物療法

薬剤と研究 症例数 投与量 治療期間 net MWD p値 機能評価の結果

PentoxifyllinePorter er al.85) 128 1.2g/day,経口 6 12 0.19 NDLindgarde et al.86) 150 1.2g/day,経口 6 21 0.09 NDDawson et al.87) 698 1.2g/day,経口 6 0 0.82 NegativeHood et al.88) 511 種々 種々 30 <0.05 NDCilostazolDawson et al.89) 81 200mg/day,経口 3 73 <0.01 PositiveMoney et al.90) 239 200mg/day,経口 4 32 <0.001 PositiveBeebe et al.91) 516 200mg/day,経口 6 82 <0.001 PositiveDawson et al. 87) 698 200mg/day,経口 6 33 <0.001 PositiveNaftidrofurylMoody et al.92) 188 600mg/day,経口 6 11 0.27 NDTrubestein et al.93) 104 600mg/day,経口 3 16 NS NDAdhoute et al.94) 94 633mg/day,経口 6 32 <0.001 PositivePropionyl levocarnitineBrebetti et al.95) 188 1~3g/day,経口 6 27 0.049 NDBrebetti et al.96) 104 2g/day,経口 12 41 <0.01 PositiveProstagrandinsBelch et al.97) 80 PGE1,種々,点滴 2 70 <0.01 PositiveDiehm et al.98) 213 PGE1,60μg/day,点滴 2 41 <0.05 NDLievre et al.99) 83 Beraprost,120μg/day 3 50 NS ND

経口Lievre et al.100) 424 Beraprost,120μg/day 6 25 0.004 Positive

経口TiclopidineBalsano et al.64) 121 500mg/day,経口 21 33 <0.01 ND

net MWD は偽薬群との比較で実薬群の正味の最大歩行距離(MWD)の改善度を示す。NSはnot significantと報告されているだけでp値が記載されていないものを示す。機能評価は治療のQOLに関する効果を質問票を用いて行われた。NDはこれが行われていないものを示す。

(%)(カ月)

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

milrinoneのようなphosphodiesterase type 3阻害剤は

心不全を治療する変力性の薬剤として開発されてき

た。慢性心不全の患者では,milrinoneによる治療は

死亡率を増加させた107)。milrinoneと比較して,シ

ロスタゾールは心臓の変力性作用はほとんどない

が,同等の血管拡張作用と血小板凝集抑制作用をも

つことがわかっている108)。

今までに,1,534名の跛行患者を対象として,シ

ロスタゾールと偽薬のrandomized, controlled trials が

4報報告されている(表3,図6)87, 89, 90, 91)。4つの報

告とも,すべて,シロスタゾール(100mgを1日2回

投与)は偽薬と比べて,トレッドミル上での痛みを

感じるまでの歩行距離および最大歩行距離を増加さ

せていた。シロスタゾールを50mg,1日2回の投与

でも最大歩行距離の増加が認められている91)。シロ

スタゾール(100mgを1日2回投与)は偽薬のみならず,

ペントキシフィリンよりも優れていたとの報告もあ

る87)。3つの研究においては,質問票から評価した

いくつかの身体機能やQOLを改善していた89, 90, 91)。

また,本薬剤はABIをわずかながら増加させ,血清

HDLコレステロール値を上昇させている90)。

シロスタゾールのもっとも多い副作用は頭痛であ

る。FDA Cardiovascular and Renal Drugs Advisory

Committee に1998年7月に提出された資料によると,

頭痛の頻度は100mgを1日2回投与した場合は34%で

あり,一方偽薬では14%であった。その他に,一過

性の下痢,動悸,めまいなどが報告されている。シ

ロスタゾールとアスピリンは同時に投与できる。し

かし,シロスタゾールとクロピドグレルを同時投与

したときの安全性に関するデータはない。この種の

薬剤では死亡のリスクを上げるのではないかとの問

題があることから,2,000人以上の患者を6ヵ月間追

跡調査された結果がFDAへ報告されている。その結

果,心血管死の頻度はシロスタゾール投与群では

0.6%であり,偽薬群では0.5%であった。心筋梗塞

はシロスタゾール投与群では1.5%,偽薬群では

1.1%発症していた。milrinoneでの経験から,シロス

タゾールは,はっきりとはしないが,心不全を有す

る跛行患者には投与すべきではないと考えられる。

ナフチドロフリィル(Naftidrofuryl)

ナフチドロフリィルは長年ヨーロッパで跛行の

治療薬として用いられてきた。5-hydroxytryptamine

受容体を拮抗するなどの作用機序が考えられてい

る。5報のナフチドロフリィルと偽薬のcontrolled

trials を詳細にレビューした結果,つぎのようなこ

とが明らかとなった。すなわち,ナフチドロフリ

ィルは痛みを感じるまでの歩行距離を増加させる

が,最大歩行距離は増加させなかった(表3)。しか

し,心血管事故の頻度を減少させていた109)。この

薬剤はアメリカでは用いることができない。

レボカルニチン(Levocarnitine)およびプロピオニィル

レボカルニチン(Propionyl levocarnitine)

閉塞性動脈硬化症患者では,下肢の骨格筋内で代

謝異常が生じている110)。この異常としては虚血筋

内のミトコンドリアの電子伝達系の活動障害や酸化

代謝の中間物質(acylcarnitines)の蓄積などが考えら

シロスタゾール,1日200mg投与

ペントキシフィリン,1日200mg投与

シロスタゾール,1日200mg投与

シロスタゾール,1日200mg投与

シロスタゾール,1日200mg投与

シロスタゾール,1日200mg投与

患者数

698

516

239

81

偽薬有効 薬剤有効

0.6 0.8 1.0 1.2 1.4 1.6 1.8

図6 跛行治療に関する4つのシロスタゾールと偽薬のrandomized, controlled trials の結果図は偽薬に対するシロスタゾールの最大歩行距離の比と95%信頼区間を幾何学的に示している。

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閉塞性動脈硬化症と跛行の内科的治療

れる111, 112)。運動は筋肉内にacylcarnitinesが多く蓄積

する患者においてもっとも障害される。このように,

跛行は血流量の減少のみでなく,骨格筋内の代謝異

常によっても生じる。レボカルニチンやプロピオニ

ィル レボカルニチンは虚血筋内の代謝を改善し,

運動能力をあげる可能性がある。レボカルニチン

(2gを1日2回投与)はトレッドミル上での最大歩行距

離を改善したが,プロピオニィル レボカルニチ

ン(カルニチンのアシル化したもの)はレボカルニ

チンよりもっと有効であった113)。730名を対象とし

た2つの多施設研究では,プロピオニィル レボカ

ルニチンを投与された患者では,偽薬群に比べて,

トレッドミル上での痛みを感じるまでの歩行距離

および最大歩行距離を増加させていた95, 96)。また,

本剤は偽薬群に比べてQOLを改善し,副作用もほ

とんどなかった96)。プロピオニィル レボカルニチ

ンの使用はいまだアメリカでは承認されていない。

プロスタグランディン製剤(Prostagrandins)

プロスタグランディン製剤は当初重症虚血肢を

有する患者の治療薬として研究されてきた。その

ときの一次エンドポイントは安静時痛の改善,虚

血性潰瘍の治癒そして切断率の低下であった114, 115)。

跛行患者を対象に行われた研究はほとんどなかっ

た。90名の跛行患者にリポ化プロスタグランディ

ンE1を静脈内投与した研究では,この薬剤はトレ

ッドミル上での最大歩行距離を増加させ,QOLを

改善させた97)。プロスタグランディンの経口薬は

まだ十分に研究されていない。beraprostを用いた小

規模な研究では,beraprostは中等度に有効であるが,

容量を多くすると頭痛,顔面紅潮,消化管症状な

どの副作用が問題となった99)。最近の研究では,

beraprostはトレッドミル上での最大歩行距離を増加

させ,QOLを改善し,心血管事故の頻度を減少さ

せることが認められた(表3)100)。閉塞性動脈硬化

症患者におけるプロスタグランディン製剤の使用

に関しては今後の検討が必要である。

他の薬剤

キレート剤,ビタミンEあるいはテストステロン

は跛行に対して効果はない116, 117, 118)。予備研究の結

果で効果が期待できるものとしては,buflomedil,

Ginkyo biloba, inositol niacinate, defibrotide, verapamil,

抗凝固剤そしてarginineがあるが,いまだ大規模な

臨床試験で評価されていない119~125)。

閉塞性動脈硬化症は歩行能力やQOLを低下させ,

有病率や死亡率のリスクを高める動脈硬化症の有

力な一疾患である。残念ながら,閉塞性動脈硬化

症では危険因子の修正,抗血小板剤の使用,症状

の治療が十分には行われていない。特に閉塞性動

脈硬化症を対象とした臨床研究では高脂血症,糖

尿病,高ホモシステイン血症やその他の危険因子

への介入がどの程度有用であるかを調べる必要が

ある。これらの問題があるにもかかわらず,閉塞

性動脈硬化症の患者は,冠動脈疾患の患者と同様

に,二次予防を考慮する対象である。アンギオテ

ンシン変換酵素阻害剤は,心血管事故を減少させ

る可能性がある。また,抗血小板剤は閉塞性動脈

硬化症の患者において致死性あるいは非致死性の

虚血性疾患を減少させるのに有効である。抗血小

板剤の使用を支持するデータの方がアンギオテン

シン変換酵素阻害剤の使用を支持するデータより

も多い。すべての患者にアスピリンの投与を考え

るべきである。アスピリンの代わりとしては,よ

り効果が期待できるクロピドグレルがある。

跛行症状や運動障害に対する内科的療法は今では

よく確立されている。医師の監督下で行う歩行訓練

は,リスクが低く運動に関係する身体能力を著しく

改善させる可能性があるので,すべての患者におい

て最初に考慮するべき治療法である。身体状況を改

善する薬剤も使用できる。ペントキシフィリンの効

果は限られているが,シロスタゾールは痛みを感じ

るまでの歩行距離および最大歩行距離を増加させ

QOLを改善させる。プロピオニィル レボカルニチ

ンのような他の薬剤が跛行や重症虚血の治療に用い

れるかどうかは現在研究中である。

結論

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Arterial Stiffness動脈壁の硬化と老化 No.1 2001

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