欧州単一効特許と統一特許裁判所«– 文 特許研究 PATENT STUDIES No.55 2013/3 31 第1章 欧州単一効特許と統一特許裁 判所の実現までの経緯
特許法 35 条と職務発明制度についての理論と実証
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特許法特許法 3535 条と職務発明制条と職務発明制度についての理論と実証度についての理論と実証
―― 報奨をめぐる判決・和解と制度改定 報奨をめぐる判決・和解と制度改定のの
イベント・スタディ ―イベント・スタディ ―山崎福寿・井上綾子山崎福寿・井上綾子
研究テーマ研究テーマ1.近年の「相当の対価」をめぐる裁判判決や和1.近年の「相当の対価」をめぐる裁判判決や和
解成立は、企業価値にどのような影響を及ぼす解成立は、企業価値にどのような影響を及ぼすかか
⇒ ⇒ 「オリンパス事件」の各判決と「オリンパス事件」の各判決と 「青色発光ダイオード事件」の和解についての 「青色発光ダイオード事件」の和解についての イベント・スタディ分析 イベント・スタディ分析
2.企業の報奨制度改定は企業価値にどのような2.企業の報奨制度改定は企業価値にどのような影響を及ぼしたか影響を及ぼしたか
⇒⇒ 発明者寄りの報奨制度改定を行った企業につい発明者寄りの報奨制度改定を行った企業についてのイベント・スタディ分析てのイベント・スタディ分析
完備契約ケース完備契約ケース 両者の利得合計両者の利得合計 ・・・ ・・・
(( 11 ))** F.O.C.F.O.C.
・・・( ・・・( 22 )⇒企業の最適)⇒企業の最適なな
研究活動水準 研究活動水準
・・・( ・・・( 33 )⇒研究者の最)⇒研究者の最適な適な
努力水準 努力水準
)()( RcxRxvy
01
Rvx
y
0)(
cxvR
y
特許法特許法 3535 条と不完備契約条と不完備契約 発明の「相当の対価」が、自由な契約のもと発明の「相当の対価」が、自由な契約のもと
で決定される場合で決定される場合 ⇒コースの定理が成立し、どちらに権限を帰 ⇒コースの定理が成立し、どちらに権限を帰
属させても本質的には変わらない属させても本質的には変わらない 特許法特許法 3535 条の存在=発明者と企業側の間の自条の存在=発明者と企業側の間の自
由な契約を超越した裁判所の判断が存在する由な契約を超越した裁判所の判断が存在する ⇒「相当の対価」の額が事後的に裁判官によ ⇒「相当の対価」の額が事後的に裁判官によ
って決定される。しかも算定基準は曖昧って決定される。しかも算定基準は曖昧 ⇒ ⇒ 事前の完備契約が不可能事前の完備契約が不可能
↓↓
不完備契約下での両者の活動水準は?不完備契約下での両者の活動水準は?
交渉モデル(ナッシュ交渉解)交渉モデル(ナッシュ交渉解)
2期間モデル2期間モデル 1期 2期 1期 2期
開発投資x 交渉 成果 開発投資x 交渉 成果の実現の実現
研究努力R 決裂した時の 研究努力R 決裂した時の outside outside option option ((vvf , f , vvi i ))
不完備契約ケース不完備契約ケース 企業にとっての利得企業にとっての利得
・・・( ・・・( 44 ))
発明者にとっての利得発明者にとっての利得
・・・( ・・・( 55 )) F.O.C.F.O.C. ( ( 66 ) <完備契約ケース⇒投資過) <完備契約ケース⇒投資過
少 少 ( ( 77 ) <完備契約ケース⇒努力水) <完備契約ケース⇒努力水
準過少準過少
012
R
v
RcRvRvRvRxvfi
i
i2
0
2
c
vvxvfi
「相当の対価「相当の対価 vvii 」変化の影響 そ」変化の影響 そのの 11
xx
D → D’D → D’
EE11
IIxx11
xx00 E E00
II
D D’D D’ RR00 R R11
均衡 均衡 EE00
(成果 (成果 RR00 ・・投資投資 xx00 )) ↓ ↓ VV00 上昇上昇 研究者インセンティブ 研究者インセンティブ 上昇 上昇 ↓ ↓ 努力水準 努力水準 c(R)c(R) 上昇上昇 ↓ ↓ 均衡 均衡 EE11
(成果(成果 RR11↑↑ ・投資・投資 xx11↑↑ ))
相当の対価の影響 その2相当の対価の影響 その2
R0R1
X0
X1
E0
E1
均衡均衡 E0E0
(成果 (成果 R0R0 ・投資・投資 x0x0 ))
↓ ↓ ViVi 上昇上昇
開発投資の減少( 開発投資の減少( BeliefBelief ))
↓ ↓
努力水準 低下 努力水準 低下
投資水準低下 投資水準低下
↓ ↓
均衡 均衡 E1E1
相当の対価相当の対価 VVii 変化が及ぼす変化が及ぼす企業利潤への影響企業利潤への影響
・・・( ・・・( 88 ))
所得再分配効果 インセンティブ効果 所得再分配効果 インセンティブ効果 ↓↓どちらの効果が大きいか?どちらの効果が大きいか? 企業による報奨制度の導入・改定企業による報奨制度の導入・改定 「相当の対価」に関する判決・和解 = 「相当の対価」に関する判決・和解 = VVii の変の変
化 と捉え、企業価値に及ぼす影響をイベント化 と捉え、企業価値に及ぼす影響をイベント・スタディ分析により検討・スタディ分析により検討
i
fi
i
f
dv
dRvvxvR
v))((
2
1
職務発明に関する最近の主要判例職務発明に関する最近の主要判例企業企業 判決裁判判決裁判
所所 .. 時点時点発明者の発明者の貢献程度貢献程度
職務発明規定職務発明規定による支払額による支払額 判決判決
オリンパオリンパスス
最高裁最高裁H15.4.2H15.4.222
5%5% 21.121.1 万万円円
228.9228.9 万万円円
日立金属日立金属 東京地裁東京地裁H15.8.2H15.8.299
10%10% 103.7103.7 万万円円
1128.81128.8万円万円
日立日立 東京高裁東京高裁H16.1.2H16.1.299
14%14% 232232 万円万円 11 億億62846284 万万円円
日亜化学日亜化学工業工業
東京地裁東京地裁H16.1.3H16.1.300
50%50% 22 万円万円 604604 億億30013001 万万円円
味の素味の素 東京地裁東京地裁H16.2.2H16.2.244
2%2% 10001000 万万円円
11 億億89358935 万万円円
オリンパス判決に関するオリンパス判決に関する実証分析実証分析
オリンパス事件とは・・・オリンパス事件とは・・・ オリンパスの元社員が発明の対価の不足額 オリンパスの元社員が発明の対価の不足額
を請求して起こした裁判。平成を請求して起こした裁判。平成 1515 年年 44 月月2222 日に日に 11 審、審、 22 審を支持する最高裁判決が審を支持する最高裁判決が下された。 下された。
22 審の高裁判決は、近年の職務発明論議審の高裁判決は、近年の職務発明論議の発端となった。『職務発明規定による事前の発端となった。『職務発明規定による事前の支払いの有無に関わらず、発明者には「相の支払いの有無に関わらず、発明者には「相当の対価」についての事後的な対価請求権が当の対価」についての事後的な対価請求権が存在する』と言う判決内容。企業に発明者へ存在する』と言う判決内容。企業に発明者へのの 229229 万円の支払いを命じた。万円の支払いを命じた。
青色発光ダイオード事件に関する青色発光ダイオード事件に関する実証分析実証分析
青色発光ダイオード事件とは・・・青色発光ダイオード事件とは・・・ 元従業員の中村氏が日亜化学工業に対 元従業員の中村氏が日亜化学工業に対
して起こした裁判。青色発光ダイオードして起こした裁判。青色発光ダイオードの世界初の実用化に対し、東京地裁はの世界初の実用化に対し、東京地裁は200200 億円の請求額全額を認めた。この判億円の請求額全額を認めた。この判決では発明の相当の対価を約決では発明の相当の対価を約 604604 億円と億円と算出し大きな話題となった。その後和解算出し大きな話題となった。その後和解が成立。和解金は相当の対価が成立。和解金は相当の対価 66 億円と遅億円と遅延損害金を合わせ、合計約延損害金を合わせ、合計約 8.48.4 億円。億円。
今回の実証研究での解釈今回の実証研究での解釈 オリンパス事件の判決オリンパス事件の判決 ⇒高額な「相当の対価」と発明者の ⇒高額な「相当の対価」と発明者の
事後的請求権を認める = 事後的請求権を認める = VV00 の上昇の上昇 青色発光ダイオード事件の和解青色発光ダイオード事件の和解 ⇒ ⇒ 前判決での莫大な「相当の対価」前判決での莫大な「相当の対価」
額が大幅に引き下げられる = 高額過額が大幅に引き下げられる = 高額過ぎたぎた VV00評価の下方修正評価の下方修正
分析手法(イベント・スタデ分析手法(イベント・スタディ)ィ) 今回使用したイベント・スタディの概要は・・今回使用したイベント・スタディの概要は・・
・・ 分析対象となるイベント(出来事)が起こらな 分析対象となるイベント(出来事)が起こらな
かったとしたら実現していたであろう収益率と、かったとしたら実現していたであろう収益率と、実際の収益率の差を「異常収益率実際の収益率の差を「異常収益率 Abnormal Abnormal ReturnReturn 」として求め、その分析・検定を行う。」として求め、その分析・検定を行う。
*異常収益率が有意に正(負)*異常収益率が有意に正(負)⇒⇒そのイベントは対象企業の価値を高める(低そのイベントは対象企業の価値を高める(低
める)方向へ作用しためる)方向へ作用した*サンプル全体が受ける影響によるバイアス除去*サンプル全体が受ける影響によるバイアス除去
のため、コントロール・グループの統計量とののため、コントロール・グループの統計量との差分を取り、イベントの影響の有意性を検証差分を取り、イベントの影響の有意性を検証
モデルモデルitmtiiit RR
の市場収益率日における
の株式投資収益率日における企業
TOPIXtR
itR
mt
it
)ˆˆ(ˆ miiiiii RRRRAR
推定ウィンドウ イベント・ウィン 推定ウィンドウ イベント・ウィンドウドウ
-204 -204 -5 0 2 4 6-5 0 2 4 6 (( イベントイベント日日 ))
分析結果分析結果 差差日数日数
地裁判決地裁判決 高裁判決高裁判決 最高裁最高裁 和解和解
33 日間日間 0.00020.0002 0.01680.0168
******0.00360.0036 0.01060.0106
******
55 日間日間 0.00310.0031 0.02080.0208
******-0.0059-0.0059 0.00850.0085
****
77 日間日間(( 99 日日
間)間)
0.00950.0095 0.02170.0217
******-0.0099-0.0099
**0.01630.0163
******
報奨金額上限の上昇などの報奨制度改定報奨金額上限の上昇などの報奨制度改定 (V(V00 上昇)上昇)
研究者の 経営上の 研究者の 経営上の 発明意欲増大 不安定性の増大 発明意欲増大 不安定性の増大(インセンティブ効果+) (所得再分配効果-)(インセンティブ効果+) (所得再分配効果-)
↓↓ & &
技術革命促進 職場の 技術革命促進 職場の 不平等感の増大 不平等感の増大
↓ ↓ ↓↓ 企業価値の上昇 企業価値の上昇 ⇔⇔ 企業価値の下落 企業価値の下落
どちらが大きいか?どちらが大きいか?
報奨制度導入のイベント・スタデ報奨制度導入のイベント・スタディィ
itmtiiit RR
の市場収益率日における
の株式投資収益率日における企業
TOPIXtR
itR
mt
it
)ˆˆ(ˆ miiiiii RRRRAR
モデルモデル
推定ウィンドウ イベント・推定ウィンドウ イベント・ウィンドウウィンドウ
SS₁ ₁ SS₂₂ SS33
-160or-140or-120 -160or-140or-120 -21 -10 -1,0 1,2 -21 -10 -1,0 1,2
1010
分分析析結結果果
140140日日
day AAR AAR の Z検定
統計量
AARの順位検定
統計量 CAR
CAR の Z検定
統計量
-10 0.299 0.850 0.356
-9 0.580 1.484 -0.186
-8 0.603 1.642 2.187**
-7 -0.976 -2.600*** 0.466
-6 0.099 0.391 0.923 1.229 1.123
-5 0.735 2.333** 0.804
-4 -0.109 -0.566 0.899
-3 0.001 0.098 0.448
-2 -0.111 -0.289 -0.405
-1 0.109 0.207 -0.210
0 0.669 2.259** 2.504** 1.195 2.851***
1 0.525 1.773 1.408
2 0.044 0.010 0.658
3 0.548 1.822* 0.277
4 0.393 0.831 0.634
5 -0.163 -0.253 -1.188
6 -0.348 -0.762 0.737 0.622 0.391
7 0.727 1.693* 1.328
8 -0.287 -1.049 1.871*
9 -0.263 -1.181 1.429
10 -0.031 0.061 -1.706*
報奨制度改定に関する報奨制度改定に関する CARCAR の推移の推移(推定期間(推定期間 140140 日)日)
0
0.5
1
1.5
2
2.5
3
3.5
4
τ -10 -9 -8 -7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9
イベント期間(τ )
CAAR
考察考察オリンパス事件の判決・報奨制度改定によるオリンパス事件の判決・報奨制度改定による VV00 の変化の変化
↓↓インセンティブ効果インセンティブ効果等による等による 所得再分配 所得再分配等による等による
企業利得増大効果 > 企業利得減少効果 企業利得増大効果 > 企業利得減少効果
(+) (-)(+) (-)
青色発光ダイオードの和解による 青色発光ダイオードの和解による VV00 の変化の変化 ↓ ↓経営リスク、 研究者のインセン経営リスク、 研究者のインセン
ティブティブ財政負担の減少財政負担の減少等等によるによる 低下 低下等による等による
企業利得増大効果 企業利得増大効果 >> 利得減少効果 利得減少効果
(+) (-)(+) (-)