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平成 26 年度 災害時こころの情報支援センター 事業実績報告書

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平成 26 年度 災害時こころの情報支援センター

事業実績報告書

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目次 1.大規模災害発生時の全国的な支援体制の整備(DPAT 事務局としての機能) 1)都道府県・政令市職員及び DPAT 構成員に対する研修 (1)平成 26 年度 DPAT 研修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 (2)DPAT 先遣隊研修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・2 (3)内閣府総合防災訓練への参加(宮崎県広域医療搬送訓練)・・・・・・・・・・5 (4)奈良市消防団・DMAT・DPAT 合同訓練・・・・・・・・・・・・・・・・・・8 2)DPAT の活動手法の調査研究・技術開発 (1)東日本大震災における発災直後の市町村の精神科医療ニーズ調査・・・・・14 (2)DPAT 先遣隊検討会・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15 (3)DPAT 活動マニュアルの改訂・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16 (4)災害拠点病院における精神科医療機能調査 ・・・・・・・・・・・・・・17 (5)災害精神保健医療情報支援システム(DMHISS)の改良及び使用実績・ ・ ・18 3)大規模災害時における DPAT 活動に関する支援 (1)平成 26 年 8 月豪雨・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18 (2)御嶽山噴火・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・23 (3)長野県神城断層地震・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 (4)徳島県大雪災害・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 4)DPAT 事務局としての機能の整理 (1)平時における DPAT 事務局機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 (2)災害時における DPAT 事務局機能・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31 2.地域における災害精神保健医療活動に係る支援、調査・分析等 1)平成23年東日本大震災被災者への支援内容に関するデータの収集・分析及び技術的

指導・助言 (1)3 県心のケアセンター活動報告集計・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 (2)3 県心のケアセンターの活動報告集計に対する技術的指導・助言・・・・・33 (3)3 県心のケアセンター連絡会議・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 (4)岩手県大槌町への精神科医の派遣・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33 2)1)以外の災害時の地域精神保健医療活動に係る支援、調査・分析 (1)WHO 版の心理的応急処置(PFA)の普及活動・・・・・・・・・・・・・34 (2)e-learning 研修・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34 (3)台風 26 号 伊豆大島台風・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 34

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資料 資料 1・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・35 資料 2・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・38 資料 3・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 資料 4・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・43 資料 5・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・44 資料 6・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・46 資料 7・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・47 資料 8・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・49 資料 9・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・54 資料 10・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 資料 11・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・57 資料 12・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・67 資料 13・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・74 資料 14・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・94 資料 15・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・95 資料 16・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・97

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平成 26 年度災害時こころの情報支援センター事業実績報告

平成 27 年 3 月 国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所

災害時こころの情報支援センター 1.大規模災害発生時の全国的な支援体制の整備(DPAT 事務局としての機能) 1)都道府県・政令市職員及び DPAT 構成員に対する研修 (1)平成 26 年度災害派遣精神医療チーム(以下:DPAT)研修 平成 27 年 1 月 11-12、17-18 日に、各都道府県等の DPAT 統括者、事務担当職員を対象とし

て DPAT 研修を行い、計 122 人、65 自治体が参加した。講師は計 24 名(うち災害派遣医療チ

ーム:DMAT のインストラクター4 名、日赤関係者 2 名、消防庁 2 名、防衛省 2 名)、ファシ

リテーターは 28 名(DPAT 関係者 15 名、DMAT13 名)で実施した(資料 1、2)。 内容は、1 日目は①災害時の精神医療活動概観②災害医療現場の統括③災害事例④災害医療

の基本⑤関係機関の活動⑥災害医療の指揮・調整と本部運営⑦平成 26 年度内閣府総合防災訓練

の振り返り、2 日目は、⑧災害時のロジスティックス⑨地域における研修の立案を行った(図 1)。 地域における研修の立案では、各地域ブロックに分け、関係する局所災害や大規模災害を用

いて、各地域での DPAT 研修の訓練内容について発表を行い、精神保健医療体制や課題に関す

る情報共有、意見交換を行った。また、道府県と政令指定都市で話合いが出来る貴重な場とな

った。

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図 1.平成 26 年度 DPAT 研修の様子

(2)DPAT 先遣隊研修 平成 26 年 1 月 7 日、厚生労働省により「災害派遣精神医療チーム(DPAT)活動要領」が改

定(障精発 0107 第 1 号)され、DPAT を構成する班の中で、発災当日から遅くとも 72 時間以

内に活動でき、急性期の災害派遣医療について一定の知識や技能を有する人員で構成する班を

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先遣隊とした。 そこで、急性期の災害派遣医療を習得する研修が必要となり、災害派遣医療チーム(以下:

DMAT)事務局が置かれている災害医療センターの協力を得て、平成 26 年 7 月 19‐20 日、先

遣隊登録を行った都道府県等を対象に DPAT 先遣隊研修を行った(資料 3、4)。平成 26 年 7月時点で登録のあった 14 府県のうち、13 府県(宮城県、千葉県、愛知県、三重県、兵庫県、

岡山県、広島県、山口県、徳島県、佐賀県、宮崎県、沖縄県)計 56 名に対し、60 名のスタッ

フ(日本 DMAT インストラクター15 名、日赤関係者 7 名を含む)で研修を実施した。内容は、

①DPAT 先遣隊活動の意義②災害派遣医療の指揮命令系統③災害現場でのロジスティックス④

トリアージについて⑤大規模災害における派遣準備⑥災害時の地図の使い方⑦大規模災害演習

⑧自治体における研修の立案であった(図 2)。 大規模災害演習では、南海トラフ巨大地震を想定し、機能停止した精神科病院における

DMAT と連携した患者搬送、保健所や市と連携しながら急性期の地域精神医療を行う想定の演

習を行った。 今後本研修内容に求められることは、DMAT 事務局、日赤本社等の他の災害医療支援機関の

協力による災害医療の基本のノウハウと、災害精神医療独自で構築すべき専門技術を習得する

ための系統的な訓練内容を継続していくことである。

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図 2.平成 26 年度先遣隊研修の様子

(3)内閣府総合防災訓練への参加(宮崎県広域医療搬送訓練)

上記の研修で習得した知識・技術を実践するため、平成 26 年 8 月 30 日に、宮崎県、宮崎県

精神科病院協会等の協力を得て、宮崎県内で行われた政府の総合防災訓練の中で、宮崎県内で

の精神科病院入院患者を搬送する研修を実施した(資料 5、6)。 DPAT 先遣隊研修に参加した 6 県(宮城県、千葉県、岡山県、佐賀県、宮崎県、沖縄県)計

25 名が参加した。宮崎県 DPAT 統括者の指揮の下、沿岸部の精神科病院が被災したという想定

で、DMAT1 隊と連携しながら、身体合併症患者を近隣の総合病院精神科へ、精神症状の急性

増悪が見られる患者をチャーターした民間バスで内陸部の精神科病院へ搬送する支援を行った

(図 3)。 都道府県調整本部での指揮命令系統を素早く確立する等、早期派遣に必要な技術を実践する

ことができた。一方で、下記のような課題が見られた。 ①DPAT 調整本部 ・DPAT からの到着報告がなく、活動状況が一時不明 ・搬送患者情報が錯綜し、転院調整が混乱 ②被災精神科病院 ・DMAT と DPAT の指揮命令系統が不明確 ・DMAT と DPAT の共通言語、共通書式がなく、効率的な情報共有が困難 ・精神疾患に関する搬送の優先順位の判断が困難 ③受入総合病院精神科 ・受け入れ患者情報の錯綜

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・身体合併症患者の受入病床の「割りもめ」 上記課題を背景として、最終的に身体的に最優先治療群である患者の搬送に 2 時間半を要し

た。 今後、特に災害初期に必要となる医療機関支援については、DMAT と効率的に連携できるよ

う DMAT 事務局等との協議を通じて、DMAT‐DPAT での共通言語や書式を増やし、DMATと DPAT が現場で効率的に連携できるノウハウを蓄積することが必要であり、次年度以降の総

合防災訓練への継続的な DPAT 参加は必須である。

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図 3.平成 26 年度宮崎県総合防災訓練の様子

(4)奈良市消防団・DMAT・DPAT 合同訓練 平成 27 年 2 月 9 日、災害時における連携を目標として、合同訓練を通じて消防関係者と医

療関係者との顔の見える関係を作ることを目的とし、奈良市消防団の主催で、消防団・DMAT・DPAT の合同訓練を行った(資料 7)。参加機関は、奈良市消防団、奈良市消防局、消防団員等

公務災害等共済基金、市立奈良病院 DMAT、京都第一赤十字病院(日赤救護班京都府支部)、

DPAT9 自治体(奈良県、千葉県、富山県、静岡県、大阪府、岡山県、山口県、福岡市、沖縄県)、

奈良県精神保健福祉センター、奈良市医師会、奈良市保健所、奈良市危機管理課、奈良市自主

防災防犯協議会、奈良市女性防災クラブ、奈良ロイヤルホテル、他市町村消防団、見学者も含

めて計 427 名の参加となった。 訓練内容は、奈良市における局所災害を想定し、消防団による避難誘導、避難所での傷病者

や精神科医療を必要とする被災者への対応(DMAT、DPAT との連携)等を行うことであった

(図 4)。 1)訓練Ⅰ 消防団よる避難誘導 ホテルの居室を住宅地、ホテルの広間を観光地と仮想し、計 20 名の被災者の誘導を行った。

その内の事例として、要介護高齢者 2 名の車いす搬送、寝たきり高齢者 2 名の担架搬送、避難

誘導を拒否する認知症高齢者の対応を行った。 訓練後の検証会(資料 8)では、このような避難誘導を拒否する被災者の情報共有について

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議論となった。現段階では消防団、自主防災組織等で把握した要援護者の情報について、DMAT、DPAT 等の医療チームと共有することは想定されていないため、今後の課題であるとの意見が

挙げられた。 2)訓練Ⅱ 避難所対応 自主防災組織、奈良市保健所等が運営する避難所本部の指揮の下、消防団、DMAT、日赤救

護班、救急隊、奈良市医師会、DPAT で連携し、要援護者として想定をしていた被災者全て(24名)に対し支援を行うことができた。 一方で、DPAT に関する活動については以下のような課題が挙げられた。 ①医療本部(DMAT 指揮の下活動) ・受付で得た情報が医療本部内で共有されない ②避難所活動 ・チーム全体が報告に行く、チーム全員が記録を取るなどチーム内の役割分担ができていな

い ・奈良市医師会の診察後、情報共有がないままに、再度診察を行った ③消防団との連携 ・医療本部から DPAT の活動状況が避難所本部に伝わらず、活動中の消防団は DPAT がいつ

来るか分からなかった また、消防団の PFA 対応においては以下のような課題が挙げられた。 ・団員間の情報共有がないまま、複数の団員が同じ対応を繰り返すことがあった ・各消防団から情報が挙がってきたが、まとめきれなかった(消防団統括より)

以上のように、各機関より「情報の共有」が課題として挙がった。特に各組織がどのような

指揮系統で活動をしているか共有されていなかった。まずは現場でのブリーフィングを行うこ

とが必要だったと考えられる。 地域における DPAT 活動については、消防団をはじめとする他組織との連携が必要である。

今後は、他組織と現場で効率的に連携できるノウハウを蓄積することが必要であり、次年度以

降も継続的に多組織との合同の訓練を行う必要がある。

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図 4.平成 26 年度奈良市消防団・DMAT・DPAT 合同訓練の様子

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2)DPAT の活動手法の調査研究・技術開発 (1)東日本大震災における発災直後の市町村の精神科医療ニーズ調査 ①目的

東日本大震災の被災地域において、発災直後に精神医療的対応が必要であった事例を検証す

ることにより、超急性期に求められる DPAT の医療活動内容を明らかにする。 ②方法

東日本大震災の主な被災地である岩手県、宮城県、福島県の沿岸地域の市町村(各県数か所:

表 1 参照)の保健福祉担当者を対象に、発災後 1 週間で医療的対応が必要であった事例数、そ

の内容、当時必要であった支援内容について対面でヒアリングを行った。 ③結果

発災後1週間における市町村での課題および発生事例は以下の通りであった。 課題1 薬剤が無い 医薬品の流通経路は断たれ、被災地では数週間から数カ月にわたり、必要な医薬品が不足す

る状況が続いた。また、普段服用している内服薬を携帯せずに避難する人が多く、症状が増悪

するケースが見られた。 課題2 精神科既往者の急性増悪 生活環境の急激な変化への反応により「不穏状態」「攻撃的な状態」という症状が現れるが、

近隣の医療機関も被災しているため、避難所等において自治体職員が対応した。 課題3 認知症や妊産婦の合併症 妊産婦など母子のケースで、24 条通報のような急性発症のケースがあった。また、認知症で

不眠、徘徊、周囲への被害妄想があり、薬がなく保健師が一晩中付き添って対応したケースも

あった。 課題4 避難所に居られない 乳幼児を抱えている家族や愛犬と一緒に避難してきた人の他に、精神症状のために避難所の

環境に適応できないケースもあった。避難所にて夜間大声で泣き叫ぶ、アルコール依存症で飲

酒により暴言や周囲とトラブルになる、認知症で避難所から行方不明になる等のケースがあっ

た。 課題5 医療中断者や未治療ケースの顕在化 医療機関が被災し医療中断となるケースや、自治体の保健師も把握していない引きこもり状

態の統合失調症患者が顕在化したケースもあった。 また、県保健所では、沿岸部被災保健所に警察官通報が入るが対応困難なため、内陸部保健

所へ対応依頼をしたり、第 34 条として扱わずに受診支援として受診同行したケースも多かった。

また、入院受け入れ病院が確保困難であった。 県庁では、避難所管轄の保健所の被災により、警察から県庁に通報が入り、指定医のいる病

院に移送、県庁職員が調査後、指定医 2 名による同時診察を行い要措置判断、その後、警察官

が措置入院先の病院へ移送したケースがあった。

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④考察 発災後 1 週間という超急性期における精神医療対応事例について、薬剤不足、医療中断、環

境変化による精神症状増悪事例が多く見られ、課題が明らかとなった。 発災後 48 時間以内に DMAT は被災地に入り、救急救命医療を担うが、向精神薬等の精神科

領域の薬剤は持参することはなく、精神科領域の患者対応をすることは困難な場合がある。ま

た、措置入院対応は、平時であっても大変な労力を費やすが、発災後1週間の混乱した状況下

では 1 事例発生するだけでも被災自治体職員の負担が大きくなる。これらのことから、被災状

況に応じて、DPAT が急性期から DMAT と連携し、精神医療活動を行うことが重要と考えられ

た。

表 1.ヒアリングした岩手県、宮城県、福島県の市町村の概要

(2)DPAT 先遣隊検討会 平成 26 年 4 月 29 日に平成 26 年度第1回 DPAT 先遣隊検討会を開催し、DPAT 先遣隊の設

置にあたり、意見の集約を行った。主に、DPAT 体制整備状況報告、DPAT 先遣隊の役割と訓

練体制の説明、先遣隊アンケート調査結果と検討課題(精神科トリアージ、DPAT 医薬品リス

ト)について討議した。検討会前に行った先遣隊アンケートより、DPAT 先遣隊の訓練内容へ

の具体的要望として、DMAT 訓練と効率的に連動した訓練、連携事項の確認や他機関との連携

などの要望が挙げられ、その後の研修に反映させることとなった。また、精神科トリアージに

ついては、精神科救急に関連する者のみを抽出できればよいとの意見もあったが、もう少し細

かい分類が必要ではないかという意見もあり、今後の検討課題となった。DPAT 医薬品リスト

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に関しては多めに持参する方がよいとの意見や、資機材については鎮静をかけることを想定し

た資機材があった方がよいとの意見があった。精神科薬リストについては、東日本大震災にお

いて心のケアチーム等が行った処方実績を基に、資機材リストについては DMAT を基に作成す

ることとなった。(資料 9、10、11)。 (3)DPAT 活動マニュアルの改訂 平成 25 年度に作成した DPAT マニュアルにおいて、DPAT 携行薬剤、資機材については、

意見集約を行い作成する必要があった。そこで(2)の検討会で議論し、下記の方法でリスト

を作成することに決まった。 ①精神科薬

精神科薬は下記 2 つの調査を基に、DPAT 活動 1 週間で必要な処方量を求めるため、発災か

ら 1 か月以内の精神科薬における規格毎の平均総処方量/週を算出し、規格と用量の確認・修正

を行った上で、DPAT の携行に即しているか等、精神科医師、看護師、薬剤師で検討し修正を

行った。 調査 A.厚生労働科学研究費補助金‐被災地における精神障害等の情報把握と介入効果の検

証及び介入手法の向上に資する研究(主任研究者:金吉晴)‐東日本大震災におけ

る心のケアチームの処方実態調査(分担研究者:渡) 調査 B.平成 25 年度 DPAT 研修に参加した全 67 自治体の DPAT チームリーダー(精神科

医)97 名を対象とした DPAT が携行する必要がある薬剤についての調査 ②身体科薬身体科薬

JMAT 携行医薬品リスト(成人基本セット)Ver.1.0 を基に、処方調査の実績から追加し、作

成した。 ③蘇生・処置等薬剤

DMAT 標準薬剤リスト Ver.2.0 を参考に作成した。 ④精神科注射薬

JMAT 携行医薬品リスト(精神科セット)Ver.1.0 を参考に作成した。 ⑤標準医療機器・関連機材

DMAT 標準医療機器・関連機材を基に、DPAT 活動で使用され得る機材を抽出、作成した。 ⑥医療資機材

DMAT 赤バック、黄バック医療資機材を基に、DPAT 活動で使用され得る資機材を抽出、作

成した。 上記①~⑥のリストを追加する形で、平成 27 年 1 月 DPAT 活動マニュアルを改訂した(資

料 12)。 (4)災害拠点病院における精神科医療機能調査 ①目的

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DPAT 活動にあたり、災害時こころの情報支援センターで作成された DPAT 活動マニュアル

には「DPAT の各班は、原則として、被災地域内の災害拠点病院、精神科の基幹病院、保健所、

避難所等に設置される DPAT 活動拠点本部に参集し、その調整下で被災地域での活動を行う。」

とされており、特に初期救急医療の要となる災害拠点病院の精神科医療機能を把握しておくこ

とは重要であると考えられる。 したがって、災害時における DPAT 活動拠点の検討のための基礎資料とすることを目的に、

全都道府県等に対し、災害拠点病院の精神科医療機能についてアンケート調査を行った。 ②方法

平成 26 年 11 月 10 日から 12 月 17 日の間に、全 67 都道府県・政令市担当課を対象とし、

調査を行った。調査項目は、(ア)災害拠点病院内の精神病床数、(イ)精神科外来の有無、(ウ)

精神科医師の有無(常勤精神科医師、非常勤精神科医師)である。 ③結果

回収率は 100%(全 67 自治体中 67 自治体)であったため、すべてを分析対象とした。災害

拠点病院数は 671 箇所、そのうち精神病床を有しているのは 261 箇所であった(全災害拠点病

院の 39%)。また、精神病床を有する病院の合計精神病床数は 11108 床であった。災害拠点病

院のうち、精神科外来を有しているのは 375 箇所(全災害拠点病院の 56%)であった。精神科

医師の有無 において、常勤医師を有しているのは 271 箇所、無しは 339 箇所、不明は 61 箇所

であった。非常勤医師を有しているのは 230 箇所であった。非常勤医師を有している病院の中

で、常勤医師無しは 61 箇所であった。 さらに、県ごとの人口に対する精神病床数を算出するため、総務省統計局による人口推計(平

成 25 年 10 月 1 日現在)を用いて分析を行った。その結果、1 万人に対する災害拠点病院にお

ける精神病床数は 0‐5.3床と各都道府県で異なっており、全国平均は 1.1床であった。茨城県、

京都府、山口県、香川県、鹿児島県においては有する精神病床数は 0 であった(図 5)。 ④考察

全災害拠点病院における精神科医療機能について調査した。全災害拠点病院の 39%が入院機

能を有していたが、その総数は全精神病床の 3%しかなく、災害拠点病院に精神病床を持たな

い自治体もあった。災害時には身体合併症の問題が課題となる。災害拠点病院精神病床をどの

ように機能させるか、または他にどのような医療機関で災害拠点病院精神科医療機能を担保す

るのかは、地域ごとに平時に計画を立案しておく必要があると考えられた。

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図 5.都道府県別 人口に対する災害拠点病院の精神病床数 (5)災害精神保健医療情報支援システム(DMHISS)の改良及び使用実績 平成 25 年度の開発・改良にて自県内災害の登録、活動報告の Web 入力、活動報告のグラフ

化、個票・日報の全項目ダウンロード等を可能にしたが、これに伴い、今年度はデータ移行作

業を行った。今年度は、東日本大震災の際に被災県に設置された心のケアセンターの活動報告

と、平成 26 年 8 月豪雨、御嶽山噴火、長野県神城断層地震の活動報告において使用され、固

定集計等、正常に作動することを確認した。 3)大規模災害時における DPAT 活動に関する支援 (1)平成 26 年 8 月豪雨(図 6) 平成 26 年 8 月 20 日未明、断続的な大雨で土砂災害が発生し、広島市安佐南区、安佐北区に

て土砂災害が発生し、災害救助法、被災者生活再建支援法が適用された。発災当日に厚生労働

省の指示、および DMAT 事務局からの情報提供を受け、広島県、広島市へ状況確認を行った。

22 日、広島市から広島県へ域内 DPAT の要請がなされ、瀬野川病院、広島県精神保健福祉セン

ター、広島市精神保健福祉センターの 3 チームが避難所巡回を開始した(全国初の DPAT 派遣)。

派遣に関する情報やり取りは図 7-1 の通りである。広島県・市 DPAT は 9 か所の避難所にお

いて、計 7 チームが活動し、101 件の相談、診察を行った。合計派遣日数は 46 日であった(図

8)。 当センターにおいては、DPAT 派遣に関する情報を、全自治体の DPAT 統括者、災害精神保

健医療担当者、DPAT 先遣隊登録隊員へ発信し、情報の共有を行った。また、広島県日赤支部

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と DPAT 活動状況、日赤救護班、こころのケア班に関して情報共有を行った。そこで得た情報

を基に、広島県へ DPAT と日赤の調整をするよう依頼をした(図 7-2)。 DMHISS については当センターが災害登録を行い、DMHISS に上げられた活動報告の確認

を行った。DMHISS の活動報告方法について「チーム」の概念が曖昧となり混乱が生じること

があった。また、被災者の医療費における災害救助法の取扱いについて、県や国との確認作業

があったことから、平時から法的な対応について整理しておく必要があると考えられた。 これらの専門性を要する調整、関連情報の収集・発信、DMHISS に関する運用等は、総括 1

名、関連情報収集・発信要員 2 名、DMHISS 保守・運用要員 1 名、事務要員 1 名を最低人員

とし、交代をしながら運営を行った。当センターの休日夜間体制については、広島県との協議

を行いながら、9 月 18 日まで継続した。

図 6.広島県土砂災害の概要

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図 7-1.広島県土砂災害における DPAT 派遣に関する連絡調整

図 7-2.広島県土砂災害における日赤との連携に関する連絡調整

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図 8.広島県土砂災害における DPAT 活動実績

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(2)御嶽山噴火(図 9) 平成 26 年 9 月 27 日 11 時 52 分頃、御嶽山が噴火し、長野県木曽郡木曽町、王滝村に災害救

助法が適用された。発災翌日(休日であった)、DMAT 事務局から遺族対応に関する DPAT 派

遣の可能性について確認があり、また厚生労働省からの指示を受け、長野県へ情報提供を行っ

た。長野県災害精神保健医療担当課へは休日の為連絡が取れず、DPAT 統括者へ情報提供を行

った。その後、9 月 28 日、県立木曽病院の依頼により、長野県が県立木曽病院に DPAT(県立

こころの医療センター駒ケ根チーム)を 1 隊派遣されることとなった(図 10-1)。長野県 DPATは登山者、遺族等計 11 名の診察・相談を行い、10 月 3 日に活動を終了した(図 11)。 当センターへは、平時から訓練や研修に協力を得ている日赤関係者から、日赤救護班の活動

について情報提供があった。遺族ケア等、日赤救護班との連携が必要であると考えられたため、

長野県へ日赤との連携を行うよう依頼した。その後、現地対策本部において、町・県保健師、

長野県精神保健福祉センター、長野県 DPAT、日赤で合同会議が行われた。DMHISS について

は、当センターが災害登録を行い、活動報告の代行入力を行った。 また、9 月 29 日、DMAT 事務局からの情報提供で、県庁災害対策本部が長野県 DPAT の活

動状況を不明としていることが分かったため、当センターより長野県災害対策本部へ情報提供

を行った(図 10-2)。 これらの専門性を要する調整、関連情報の収集・発信、DMHISS に関する運用等は、総括 1

名、関連情報収集・発信要員 2 名、DMHISS 保守・運用要員 1 名、事務要員 1 名を最低人員

とし、交代をしながら運営を行った。当センターの休日夜間体制については、10 月 3 日まで継

続した。

図 9.御嶽山噴火の概要

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図 10-1.御嶽山噴火における DPAT 派遣に関する連絡調整

図 10-2.御嶽山噴火における現地合同ミーティング等に関わる連絡調整

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図 11.御嶽山噴火における DPAT 活動実績

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(3)長野県神城断層地震(図 12) 11 月 22 日 22 時 8 分頃、長野県北部を震源とするマグニチュード 6.7 の地震が発生し、北安

曇郡白馬村、北安曇郡小谷村、上水内郡小川村に災害救助法が適用された。DMAT 事務局から

の情報提供を受け、EMIS を確認、厚生労働省の指示の元、長野県へ連絡し状況確認を行った。

その後も国、被災県、DMAT 事務局、日赤との情報共有を行った。11 月 27 日、安曇総合病院

が「こころのケアチーム」として白馬村・小谷村に派遣され、DMHISS については当センター

が災害登録を行い、活動記録の代行入力を行った(図 13)。

図 12.長野県神城断層地震の概要

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図 13.長野県神城断層地震における心のケアチームの活動実績

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(4)徳島県大雪災害 平成 26 年 12 月 5 日からの大雪について、厚生労働省より徳島県の精神医療機関について確

認指示があり、徳島県へ状況確認の連絡を行い、その後も DMAT 事務局との情報共有を継続し

て行った。 本災害では国から迅速な対応を求められ、DMAT 事務局との情報共有により医療救護チーム

の情報等が得られた。このことから、迅速な情報共有を図るには、国、被災県、DMAT 事務局

との連携が重要であると考えられた。 4)DPAT 事務局としての機能の整理 (1)平時における DPAT 事務局機能

厚生労働省「平成 26 年度災害時こころの情報支援センター事業に係る業務一式仕様書」では

「大規模災害発生時の全国的な支援体制の整備(DPAT事務局としての機能)」とある。そこで、

今年度のDPAT関連研修・訓練等の経験から、まずは平時において必要とされたDPAT事務局機

能について整理する。 ①活動マニュアルの作成・改定

平成 25 年度は検討会 2 回を経て作成し、これをもとに厚生労働省の活動要領が改定され

ている。平成 26 年度においては、DPAT 先遣隊検討会を経て、DPAT 携行医薬品、医療機器、

資機材リストを追加した。今年度の災害時の実際の経験等を蓄積しながら、今後も定期的に

改定していく必要がある。作成から間もないため、現時点では最低 1 年に 1 回程度の改定作

業は必要と考えられる。 ②DPAT 体制整備に関する検討会の運営 平成 25 年度は DPAT 検討会を 2 回、平成 26 年度は DPAT 先遣隊検討会を 1 回行った。

今後も、上記項目と同様、DPAT の活動手法等を継続的に検討していく必要がある。事務局

機能としては、連絡調整、資料作成等を行った。 ③DPAT 関連研修の実施

全自治体を対象とした DPAT 研修は、全国での統括者の技能を均てん化し、かつ自治体間

での情報共有を行えることが重要で、自治体単独で実施する地域内での研修とは別の意義が

ある。これは、自治体単位で任命する災害医療コーディネーター制度においても、今年度よ

り厚生労働省医政局により災害医療コーディネーター研修事業が開始されたことと同様であ

る。また、災害医療は単独チームで行うものではないため、現場活動で連携するであろう

DMAT、日赤、消防庁、防衛省等、他の災害関連機関との連携を行いながら系統的に訓練を

実施していく必要もある。これが DPAT 先遣隊研修や内閣府総合防災訓練、奈良市合同訓練

の目的である。上記 2 点の目的を達成するためには、自治体および他の災害関連機関との中

継ぎ、研修内容の取りまとめを行う部署が必要であり、その調整作業は膨大である。また、

自治体からは、本研修について次年度計画を早期に公表するよう依頼が相次いでいる。しか

しながら、現在の当センターは単年度事業であるため、次年度計画を前年から計画、調整す

ることは困難な状況にある。上記のニーズを果たすため同様の研修を継続させるには、自治

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体や関係機関との連携を迅速に図れる独立した DPAT 事務局が恒久的に設置される必要があ

る。 ④DPAT 情報の登録・更新 災害時に効率的に連絡を取ることができるよう、各自治体の体制(統括者、担当者)や DPAT先遣隊の窓口等を平時から登録し、定期的に更新する。 例;・DPAT 統括者の氏名・所属・連絡先

・自治体災害精神保健担当者の氏名・所属・連絡先 ・DPAT 先遣隊を組織する機関・窓口氏名・連絡先 ⑤都道府県・政令市に対する技術的支援 各自治体における DPAT 体制整備を円滑に進めていくために技術的支援を行う。 例;・都道府県等が設置する検討会へのオブザーバー参加(平成 26 年度 5 回)

・都道府県等が実施する研修会への講師派遣(平成 26 年度 8 回) ・資料の作成・提供

⑥DMHISS の保守・運用 災害時に効率的にシステムを使用できるよう平時より保守、運用を行う。 例;・年度切り替え時点での都道府県等事務担当者の DMHISS 登録情報確認

・67 自治体分の情報を取りまとめ ・DMHISS のマスター情報を更新 ・都道府県等からの質問等への対応 ・都道府県等の ID,PW 管理 ・管理不足自治体への ID,PW の再通知

⑦DPAT 活動の向上のための情報収集・分析等 今後蓄積される DPAT の活動記録、関連機関の情報を収集し、分析を行う。 例;・DPAT 活動記録の整理、分析

・DMAT 等の関連機関の精神保健医療に関する対応の情報収集、分析 ・東日本大震災関係厚生労働省通知集の整理 ・災害対策基本法等関係法令の整理

⑧ロジスティクスに関する情報収集・整理 DPAT 活動に必要なロジスティクスに関する情報を整理する。 例;・緊急車両手続き等、活動に関連する手続きの整理

・DPAT 資機材リスト作成・修正 ・DPAT が使用する通信機器(衛星電話、無線)情報収集・整理

(2)災害時における DPAT 事務局機能

次に、災害時における DPAT 事務局機能について、今年度の大規模災害時における DPAT 活

動に関する支援から整理する。 ①DPAT 派遣の判断にあたっての事前の情報収集・発信

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DMAT 事務局、日赤関係者や被災自治体の DPAT 統括者等より、派遣の判断に必要な発災

直後の情報を収集し、厚生労働省や DPAT 関係者に発信する。 ②DPAT 派遣に関して専門性を要する調整

厚生労働省が都道府県レベルでの派遣調整を行った後に、被災自治体の DPAT 統括者、先

遣隊、都道府県事務担当者等と連絡を取り、被災地域のニーズアセスメントを行った上で、

求められる DPAT の活動内容を整理し、更に具体的な派遣に関する調整を行う。 例;・チーム内の職種の選択

(児童精神科医、薬剤師、精神保健福祉士、臨床心理士等の有無等) ・DPAT が持参する資機材の選択(医薬品、通信機器等)

③関連情報の収集・発信 DMAT、日赤救護班、保健師チーム等の他の医療支援、被災地域の保健医療体制に関する

情報を収集し、DPAT 関係者に発信する。 例;・DMAT、日赤救護班の活動場所、活動状況

・被災地域の精神科医療機関の被災状況 ・現地での保健医療関係者のミーティングの開催状況

④DMHISS の保守・運用 発災直後の代行入力、ヘルプデスクとしての対応等を含む、保守、運用を行う。 例;・厚生労働省で行う災害フラグの立ち上げ作業が行えない場合の代行登録

・厚生労働省で行う都道府県レベルでの派遣先割当が行えない場合の代行入力 ・上記に伴う派遣先割当について厚生労働省との連絡作業 ・被災都道府県で行う活動地域割当作業等が行えない場合の代行入力 ・上記に伴う活動地域割当について被災都道府県との連絡作業 ・ID,PW 管理不足自治体への ID,PW の再通知

・Web 入力ができない等のトラブルに関する電話対応 ・掲示板機能を使った現地情報の提供

・都道府県担当者、DPAT 統括者、先遣隊の連絡先の更新作業 ・必須情報ファイルの災害センタークローズ HP へのアップ作業 ⑤被災都道府県 DPAT 調整本部支援

被災都道府県の要請に応じて、都道府県災害対策本部に設置される DPAT 調整本部にお

いて事務的支援を行う。 例;・被災都道府県 DPAT 調整本部で行う DPAT の受け入れ作業

(東日本大震災時には最大で 1 自治体 1 日約 20 チームが現地入り) ・都道府県内の精神科病院等の被災情報、避難所等の情報収集に伴う事務作業 ・精神科病院からの患者搬送に伴う事務作業

(東日本大震災では福島県で 918 人、宮城県で 300 人の患者搬送あり) ・DMAT、消防、自衛隊等の関連機関との連携及び調整に伴う事務作業 ・厚生労働省、DPAT 事務局との連絡調整の補助

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⑥事務局機能を実施するための必要最低人員 今年度の災害対応は統括 1 名(医師)、関連情報収集・発信要員 2 名(精神保健福祉士、

臨床心理士)、DMHISS 保守・運用要員 1 名(臨床心理士)、事務要員 2 名の計 5 名を最

低人員とし、休日・夜間の交代をしながら運営を行った。今年度のような局所災害の場合

における DPAT 事務局必要人員は上記を最低人員とし、今後の大規模災害に備え、より一

層の強化が必要と考えられる。

以上のような機能を行うためには、平時、災害時ともに迅速に DMAT 事務局等の災害医療関

係組織と連携体制が構築できることが不可欠であり、また自治体や他の関係機関から事務局と

して明確に認知される独立した組織編制が求められる。しかしながら、今年度においては、組

織としてではなく平時より研修や訓練等で協力関係のある関係者と当センター職員の個人レベ

ルの連携が主体となる場面が往々にしてあった。このような個人レベルで関係者との「顔の見

える関係」を深める一方で、DMAT 事務局と同様に DPAT 事務局を設置し、組織としての連携

を行える体制整備の必要がある。 2.地域における災害精神保健医療活動に係る支援、調査・分析等 1)平成 23 年東日本大震災被災者への支援内容に関するデータの収集・分析及び技術的指導・

助言 (1)3 県心のケアセンター活動報告集計

岩手県、宮城県、福島県の心のケアセンターにて DMHISS で用いられている項目での活動

報告を毎月収集し、3 県分の活動報告を取りまとめ、厚生労働省へ報告を行った(資料 13)。

(2)3 県心のケアセンターの活動報告集計に対する技術的指導・助言 心のケアセンターの活動を統一した指標で評価するため、各センターでの集計方法等に関す

る指導・助言を電話、メールで継続して行うと同時に、各心のケアセンターから寄せられた質

問とそれに対する回答を記載した資料を作成・送付し、DMHISS 項目に対する共通認識を高め

るよう活動した。

(3)3 県心のケアセンター連絡会議 平成 26 年 6 月 30 日に東北厚生局にて、岩手県、宮城県、仙台市、福島県の行政担当者、心

のケアセンター職員、復興庁・局、厚生労働省、東北厚生局、および当センター担当者の連絡

会議を実施し、心のケア事業の状況と心のケアセンターの現状と課題についてのディスカッシ

ョンや事例検討、DMHISS やデータ集計等システムに関する意見交換を行った(資料 14、15)。 (4)岩手県大槌町への精神科医の派遣 岩手県こころのケアセンターの依頼により、大槌町に定期的に精神科医を派遣し、大槌町役

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場での健康相談に応じた。

2)1)以外の災害時の地域精神保健医療活動に係る支援、調査・分析 (1)WHO 版の心理的応急処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)の普及活動

平成 23 年の東日本大震災を受けて、被災者のためのこころのケアが再度重視される中、WHOや機関間常設委員会(IASC)、各種国際的専門団体から、心理的ディブリーフィングに代わり、

緊急時における人道的かつ支持的な支援の在り方として支持されている WHO 版の心理的応急

処置(サイコロジカル・ファーストエイド:PFA)を、当センターでは平成 24 年度から日本語

に翻訳・導入し、PFA が有事の人道的支援の標準となるよう研修活動を行っている。平成 24年度、平成 25 年度と指導者育成研修を行ってきたが、今年度は日本での開催に加え、バンコク

にて各国外務省領事や医務官への指導者育成研修も実施した。指導者研修を経て講師となった

者による各地での一日研修や講義は、今年度 36 回(指導者育成研修 2 回を含む)開催された。

特に今年度は、災害派遣医療チームの DMAT、災害派遣精神医療チームの DPAT、消防局、警

察庁、および昨年度からの外務省など、実施の幅が広がっている(資料 16)。これまでの受講

者数は、今年度を含め、研修は 1200 名以上、講義は 1800 名以上となった。研修会においては、

昨年度同様、事前事後における質問紙(Pre-Post Test)が配布され、参加者の災害支援に関す

る能力と知識の自己評価、及び PFA の理解度が評価された。研修前後の質問紙の結果を比べる

と、有事における心理社会的支援に対して、研修参加者の能力と知識の自己評価及び PFA の基

礎知識に関する理解の向上が確認され、研修の有効性が認められた。 (2)e-learning 研修

平成 24 年から「災害時こころの情報支援センター」ホームページ内にて、動画/e-ラーニン

グサイトにて複数本の動画をアップロードしており、動画で使用したスライドは PDF 資料とし

てダウンロード可能となっている。今年度も引き続き、都道府県・市町村職員を対象として継

続している。また、研修の理解度を確認するテストを付けた新しい e-learning システムを検討

した。

(3)台風 26 号 伊豆大島台風 平成 26 年 4 月に大島町長から要請があり、同年 6 月から臨床心理士 1 名を毎月 1 回派遣し、

子ども家庭支援センターで保健師と情報共有を行いながら、遺児等の相談支援を行った。