弁理士会研修 グローバル知財管理 国際税務  2015/12/14

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+ 戦略的なグローバル知財管理 〜知財をめぐる国際税務の動き〜 20151214日本弁理士会関東支部会員研修 共永総合法律グループ 竹田・長谷川法律事務所 弁理士 松本浩一郎

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戦略的なグローバル知財管理〜知財をめぐる国際税務の動き〜

2015年12月14日

日本弁理士会関東支部会員研修

共永総合法律グループ 竹田・長谷川法律事務所

弁理士 松本浩一郎

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1. はじめに

2015/12/14 弁理士 松本浩一郎 2

+特許移転で課税逃れ?

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どういうことか?

税率の低い国・地域に所在するグループ会社へ特

許を移転

そこに対してロイヤルティを支払

税率の高い国(日本、米国、等)から税率の低い

国(アイルランド等)へ所得を移転

企業グループ全体での法人税額を節減

(出所:日本経済新聞、2015年9月1日)

高税率国 低税率国

特許権ロイヤルティ

+ここ数年の国際税務の大きな動き

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企業価値の源泉が

無形資産(知的財産)

へシフト

無形資産の移転による

節税増加

パテント・ボックス税

制導入(国内引止、海

外流出防止)

過度の節税策への批判

(スタバ、Google、

Apple等)

租税回避防止で

国際協調

(BEPSプロジェクト)

各国での税制改正へ

前頁の記事はこれ

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2. 無形資産の価値増加と節税

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+企業価値の源泉が無形資産にシフト

0%

20%

40%

60%

80%

100%

1975 1985 1995 2005 2015

S&P500株式時価総額の構成

無形資産 有形資産

(出所:Ocean Tomo, LLC)

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1990年位までは、企業価値の源泉は、工場、設備、店舗といった製造・販売を担う有形資産が中心

経済のグローバル化による途上国の台頭は、製造能力の供給増をもたらし、相対的に有形資産の価値が減少

同時に、途上国は需要者としても重要性を増し、技術やブランドの価値が増加

更にITが企業活動に広く活用されるようになり、ソフトウェア投資も増加

この結果、企業価値の源泉は有形資産から技術やブランドといった無形資産へとシフト

価値ある無形資産をどこに置くかが、企業経営上の重要な課題へ浮上

+無形資産の特徴

有形資産 無形資産

主な種類土地、建物、工場、設備、機械、器具、備品、自動車

技術(特許)、ブランド(商標)、デザイン(意匠)、ノウハウ、ソフトウェア、著作物

取得の方法 工場建設、設備購入 研究開発、広告宣伝

会計上の取扱い 資産計上→減価償却 一時の費用

所在地の移転 困難(物理的に運ぶ必要がある) 容易(書類上の手続きだけ)

価値評価 比較的容易(取引市場が存在)困難(個別性が強く、取引市場も存在しない)

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「移転が容易」で「価値評価が困難(=税務当局も分からない)」であることは、

節税にとっては好都合

+特許移転による節税のイメージ

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高税率国(30%)

低税率国(10%)

売上高 500

原価・経費 ▲400

営業利益 100

課税所得 100

法人税 ▲30

税引後利益 70

営業利益 100

ロイヤルティ支払 ▲50

課税所得 50

法人税 ▲15

税引後利益 35

ロイヤルティ収入 50

課税所得 50

法人税 ▲5

税引後利益 45

特許移転前

特許移転後

特許権

+特許移転にかかる問題点

移転時の売却益

特許権を低課税国へ移転する際には、一定の対価を受領する必要がある

一般に特許権は資産計上されていないため、対価の全額がそのまま特許権売却益となり、高課税国において課税されてしまう(=節税ができなくなってしまう)

節税効果を享受し、さらにそれを最大とするためには、可能な限り低くすることが望ましい

高課税国の税務当局に対して説明ができなければ、後日課税を受ける可能性がある

移転後のロイヤルティ

特許権の移転後は、ロイヤルティを支払うことにより、利益を低課税国へ移転することとなる

このため、ロイヤルティ料率については、可能な限り高くすることが望ましい

ただし、高課税国の税務当局に対して説明ができなければ、支払ったロイヤルティの損金性について争いとなる可能性がある

他方、場合によっては、低課税国の税務当局から、ロイヤルティの金額が小さすぎると主張される可能性も

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国境をまたぐグループ会社間の取引価格は「独立企業間価格」とすることが原則

(移転価格税制)

+費用分担契約

一度完成してしまった知的財産を後で移転しようとすると、前述のような問題が発生

そこで、低課税国の知財保有会社に原始的に知的財産を帰属させる手法が発達

費用分担契約(Cost Sharing Agreement; CSAまたはCost Contribution Agreement; CCA)とは、「関連参加者が、費用分担契約の対象となる無形資産の開発に要する費用について、関連参加者の予測便益割合に比例して分担する契約」

これにより、後からの知的財産の移転を行うことなく、最初から低課税国の事業体に知的財産を帰属させることが可能

なお、費用分担契約に後から新たな参加者が加わる場合には、それまでに完成した知的財産の持分を取得することとなるため、既存の参加者に対価を支払う必要が生ずる これを「バイ・イン(buy-in)」という

また、同様に費用分担契約から抜ける参加者については、既存の持分を売却することとなるため、残る参加者から対価を受け取る必要が生ずる これを「バイ・アウト(buy-out)」という

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3. パテント・ボックス税制

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+パテント・ボックス税制とは

概要

特許等から生じる所得について、軽減税率を適用する制度

研究開発税制が、研究開発費を投資する段階での減税措置であるのに対して、パテント・ボックス税制はその成果物の活用段階における減税措置

対象となる知的財産の種類、所得の範囲などについては国毎に異なる

制度の目的

外国企業の研究開発拠点の呼び込み、国内企業の研究開発拠点の流出防止

ひいては、国内における雇用(特に高付加価値職種)の増加

歴史

2001年にフランス(法人は2007年)が導入

現在、ハンガリー(2003年)、ベルギー(2007年)、オランダ(2007年)、ルクセンブルク(2008年)、スペイン(2008年)、中国(2008年、IP優遇税制)アイルランド(2009年、IP優遇税制)、スイス(2011年、州レベル)及びイギリス(2013年)で導入済

日本では、製薬企業のほか、経団連が2013年度税制改正要望で取り上げたが、未導入

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+パテント・ボックス税制の効果

ダイキン工業

ベルギーのパテント・ボックス税制を活用

全館空調装置の特許で2億円節税

資金は寒冷地向け暖房の開発へ

特許の一部をベルギーへ移転

(2013年6月29日日経朝刊)

フィアット・クライスラー

経営統合にあたり、名目上の本社をオランダ、実質的な本社機能をイギリスに置き、イギリスで納税

グラクソ

税制改正を受け、英国内の製造拠点に5億ポンドを投資し、新工場建設や千人の新規雇用を行うと発表(2012年3月、AP)

ハインツ(ケチャップで有名)

2013年6月に、オランダに米国外で最大の研究開発センターを開設

国名パテントボックスの適用税率

ベルギー 6.8%

フランス 15%

ハンガリー 9.5%

ルクセンブルク 5.76%

オランダ 5.0%

スペイン 15%

イギリス 10%

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+イギリスのパテント・ボックス税制

概要 2013年4月1日導入 特許発明にかかる課税所得の法人税率が10%に低減(標準税率20%)

対象者 特許発明の実施による課税所得があり、法人税が課されていること

特許権または独占実施権を有しており、自社またはグループ会社が開発を実施

対象特許権 イギリス特許 欧州(EPO)特許 その他欧州13カ国(ドイツ、フィンランド、スウェーデン等)

自社またはグループ会社が特許発明の創作・開発を行っているか、特許発明を活用した製品開発を実施

対象となる収入

特許製品、特許技術が組み込まれた製品の販売による収入

ライセンス収入

特許権の売却による収入

他社の権利侵害に伴う収入

その他特許に関連する賠償金収入、保険金収入

製造方法特許を実施している場合や特許実施品によるサービスを提供している場合は、想定ロイヤルティ

2013年4月の制度導入以降、639社が合計で3億3500万ポンド(約620億円)の恩恵を享受

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4. 行き過ぎた節税対策

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+多国籍企業の税逃れが問題に

2012年頃から多国籍企業による合法的な課税逃れが国際的な問題に

2012年10月、ロイター社が英国スターバックスの税逃れについてスクープ

消費者の反発を招き、大規模な不買運動に発展

課税逃れを指摘された企業が相次いで議会に呼び出されて追求を受ける事態に

2012年11月、スターバックスのグローバルCFO、アマゾンの取締役(公共政策担当)、グーグル英国部門CEOが英国議会の決算委員会で英国における利益について説明

スターバックスは過去3年英国で法人税を払っておらず、同国に進出してからの15年間でただ1度、2006年に600万ポンドの利益を上げただけ

アマゾンの昨年の欧州での売上高が91億ユーロ(約9200億円)だったのに対し利益が2000万ユーロ

グーグルが昨年支払った税金は600万ポンド(約7億5600万円)

2013年5月、アップルのCEOが米国議会上院の公聴会に招致

巨額の海外資産移転により課税を逃れている

実質的な法人税率が2%のアイルランドの子会社に多額の利益を移転している

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+スターバックスの事例

2012年10月、ロイター通信が「1998年の英国進出から14年間で735店舗を展開、売上高累計30億ポンド以上の同社が、これまでに支払った法人税はわずか860万ポンド」「同社の英国事業は進出以来一貫して赤字」「(2009年から2011年までの)過去3年間で、売上高12億ポンドに対して、法人税ゼロ」と報道

赤字の理由の一つとして、コーヒー製法、ブランド、接客マニュアルといった知的財産権の使用料(売上高の6%)を、グループのオランダ法人へ支払っていることがあげられる

さらに、グループのスイス法人から割高なコーヒー豆を仕入れ、グループの米国法人から借入をしてその利息を支払う、なども合わせて実施

その後、欧州委員会の調査で、同社関連の知的財産はイギリスの有限責任パートナーシップ(Alki, L.P.)が所有していることが判明

前記オランダ法人は当該LPへロイヤルティを支払うことにより、オランダ政府の了解のもと、オランダでの法人税支払いを免れていた

欧州委員会はこれを違法な「国家補助」と認定し、オランダ税務当局に追徴課税を指示

スターバックスは、英国への自主的納税、欧州統括会社の英国への移転、Alkiパートナーシップの清算を発表

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+スターバックスの仕組みの概要

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米国本社

欧州統括会社

ロースト子会社

販売会社

IP保有

LP

コーヒー豆販社

イギリス オランダ スイス

コーヒー豆コーヒー豆

ロイヤルティ

+Double Irish with a Dutch Sandwich (DIDS)

米国企業が、海外事業におけるIP関連収益を法人税率の低い国・地域(バミューダ、ケイマン、ヴァージン諸島等)へ蓄積するための仕組み

まず、対象とする無形資産を海外で使用する権利(本権または使用権)を、アイルランドのIP保有会社へ移転

移転に際して、米国から直接移転すると譲渡益に課税されるため、費用分担契約などを使って実質的に移転

IP保有会社はアイルランド法人であるが、管理支配地をバミューダとすることで、アイルランド税法上はバミューダ法人と扱われる(=法人税の課税なし)

IP保有会社は、保有IPをオランダ法人にライセンスし、オランダ法人はアイルランドの事業会社にライセンス

事業会社(アイルランド法人)からオランダ法人へのロイヤルティは、両国間の租税条約により源泉税なし、オランダ法人からIP保有会社へのロイヤルティは、オランダの税制により源泉税対象外

最後に、米国のタックスヘイブン税制の適用を避けるため、アイルランドの事業会社及びオランダ法人をそれぞれIP保有会社の支店とみなす米国税法の規定を使用(これにより、IP保有会社は海外事業という事業実体を有することとなる)

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+グーグルの仕組みの概要(DIDS)

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米国本社

ロイヤルティ授受会社

事業会社

IP保有会社税務上:バミューダ法人

管理機能

アイルランド オランダバミューダ

ロイヤルティ

世界からのロイヤルティ

管理

+国家補助

EUの執行機関にあたる欧州委員会は2014年6月以降、法人税優遇措置を対象とした詳細調査を進めてきた

対象会社は、アップル、スターバックス、アマゾン、フィアット・クライスラーの金融部門であるフィアット・ファイナンスの4社

対象国は、アップルはアイルランド、スターバックスはオランダ、アマゾンとフィアット・ファイナンスはルクセンブルク

2015年10月、欧州委員会はスターバックスとフィアット・クライスラーが欧州で受けた優遇税制が「違法」との判断を公表

税優遇を提供したオランダとルクセンブルクに、過去の優遇分を追加徴税で取り戻すよう指示

金額はそれぞれ2千万〜3千万ユーロ

オランダはスターバックスに対して、スターバックスのオランダ法人が英国のグループ企業へ多額の技術料(ロイヤルティ)を支払うなどして、オランダでの法人税の納税額を少なく済ませる課税手法を容認

フィアットはルクセンブルクの金融子会社の資本金などを少なく見積もり、法人税の課税所得を実際の20分の1程度に抑制

ただし、スターバックス、オランダ当局、ルクセンブルク当局は、それぞれ反論、反対意見を表明

2015年12月、欧州委員会はルクセンブルクがマクドナルドに提供した税優遇に「違法」の疑いがあるとして正式調査に着手したと発表

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5. BEPSプロジェクト税源浸食と利益移転(Base Erosion and Profit Shifting)

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+BEPSプロジェクト

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年月 事項

2012/6 OECD租税委員会本会合においてプロジェクト開始G20サミットでBEPS防止の必要性

2013/2 BEPSに関する初期的報告書を公表

2013/6 G8サミットで、BEPSプロジェクト支持

2013/7 15の行動(アクション)からなる「BEPS行動計画」を公表

2013/9 G20サミットに行動計画を報告

2014/9 行動計画のうち7つの行動に関する第一弾報告書を公表

2014/11 第一弾報告書をG20サミットで報告

2015/10 最終報告書を公表G20財務大臣会合で報告

2015/11 G20サミットで報告

BEPSプロジェクトとは

企業活動のグローバル化に各国の税制、国際課税ルールが追い付かず、多国籍企業の活動実態とルールの間にずれ

多国籍企業がこの「ずれ」を活用した課税逃れを行うこと(BEPS)がないように、国際課税ルールを見直すもの

経緯

OECD租税委員会(議長:浅川財務省財務官)は、2012年6月に「税源浸食と利益移転」(Base Erosion and Profit Shifting)に対処するためのプロジェクト開始

2013年7月に「BEPS行動計画」を公表

2014年9月に第一弾報告書、2015年10月に最終報告書を公表し、G20財務大臣会合およびG20サミットで報告

今後の取り組み

各国では、必要な法整備および租税条約改正の実施

OECDでは、各国の実施状況をモニタリング

+実質性、透明性、予見可能性がプロジェクトの三本柱

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1. 実質性:多国籍企業は価値が創造されるところで税金を支払うべき

1. 電子経済の発展への対応 行動1 電子経済の課税上の課題への対応

2. 各国制度の国際的一貫性の確立 行動2 ハイブリッド・ミスマッチ取極めの効果の無効化

行動3 外国子会社合算税制の強化 行動4 利子控除制限 行動5 有害税制(パテント・ボックス税制を含む)への対抗

3. 国際基準の効果の回復 行動6 条約濫用の防止 行動7 人為的な恒久的施設(PE)認定回避

行動8-10 移転価格税制と価値創造の一致

2. 透明性

1. 透明性の向上 行動5 企業と税務当局間の事前合意にかかる自発的情報交換

行動11 BEPS関連のデータ収集・分析方法の確立

行動12 タックス・プランニングの義務的開示

行動13 移転価格税制にかかる文書化

3. 予見可能性

1. 法的安定性の向上 行動14 より効果的な紛争解決メカニズムの構築

2. BEPSへの迅速な対応 行動15 多国間協定の開発

+最終報告書:行動5有害税制への対抗

知的財産優遇税制の有害性除去

知的財産開発費用に占める国内での自社開発支出の割合に応じて、優遇税率を適用する所得の額を算定

グループ会社への委託費(外注費)は、自社開発支出の3割を上限に自社開発支出へ含める

他社の知的財産の取得費(買収費)は、自社開発支出に含めない

→知的財産の移転の無効化

既存の知的財産優遇税の廃止

知的財産優遇税制を有する国は、2015年中に、新基準の適用に伴う必要な改正作業を開始

新制度対応は2016年6月末までに完了

既存の優遇税制の新規適用は、2016年6月末まで、または新基準に沿った制度が発効するまで停止

既存の優遇税制適用者に対する経過措置を終了し、既存制度を完全に廃止

それまでは、既存優遇者のみが優遇を受けられる

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+最終報告書:行動8無形資産に関する移転価格ルール

無形資産の定義

広範かつ明確な定義を採用

具体的には、「有形資産または金融資産でないもので、商業活動における使用目的で所有または管理することができ、比較可能な独立当事者間の取引ではその使用または移転に際して対価が支払われるような資産」と定義

経済的利益の帰属:価値創造に沿った配分

単なる法的所有権のみでは、その使用による利益の配分を受ける資格なし

無形資産の開発、維持、保護、使用に関する重要な機能を果たしている関連会社は、適切な対価を受けることができる

資金を提供する関連企業が、無形資産の利用に何の機能も果たしていない場合、リスクフリーレートまでの利益しか受け取る権利がない

DCF法が適用できる場合のガイダンス拡充

評価困難な無形資産(Hard-To-Value Intangibles)

比較可能な独立企業間取引が存在せず、将来生み出される収益について信頼できる予測がないような無形資産

評価困難な無形資産について、いわゆる「所得相応性基準」を策定

予測便益と実際の利益とが一定以上乖離した場合に、税務当局が実際の利益に基づいて独立企業間価格を評価する

ただし、以下のいずれかの場合は適用除外

移転当時の予測収益が合理的であり、合理的であることが信頼に足る証拠でサポートされている場合

当該移転が税務当局の事前確認(APA)の対象とされている場合

移転時点と実際に所得が発生した時点とを比較して、所得の乖離が20%以下の場合

20%以下の乖離が連続して5年間経過した場合

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+最終報告書:行動13多国籍企業の企業情報の文書化

移転価格に関連して、多国籍企業に対して、以下の3種類の文書を共通様式に従って作成・準備(または税務当局に提出)することを義務付け

ローカルファイル

グループ各社がそれぞれ作成

グループ会社間取引について、独立企業間価格を算定するための詳細な情報

独立起業原則の順守状況確認、移転価格課税を行うために使用

マスターファイル

親会社が作成

多国籍企業グループの事業活動の全体像に関する定性的情報(組織、財務、事業の概要等)

多国籍企業グループ内の重大な移転価格リスクの存在を評価するために使用

国別報告書

親会社が作成

多国籍企業グループの事業活動の全体像に関する定量的情報(事業を行う各国ごとの、所得、納税額の配分等)

多国籍企業グループ内の移転価格リスクの存在を評価するために使用

提出

これらの文書は、親会社が、親会社が所在する国の税務当局に提出

親会社税務当局は、子会社が所在する国の税務当局に、自動的情報交換で共有

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+ローカルファイルに記載する情報

対象事業体

当年度又は直近の年度において対象

事業体の関与または影響のあった事

業再編や無形資産譲渡に関する説明、

対象事業体に影響を与えた取引の説

明を含む、対象事業体の事業と事業

戦略の詳細な説明。

関連者間取引

各関連者間の重要な取引(製造に関す

る役務の調達、商品購入、役務提供、

ローン、資金調達及び契約履行保証、

無形資産ライセンス等)と取引背景の

説明。

対象事業体が関与する関連者間取引

カテゴリーごとに、関連者間支払い

及び受取り額(製品、サービス、ロイ

ヤルティ、金利等の支払い及び受取

り、国外の支払い者または受取り者

の納税地ごとに記載)。

関連者間取引カテゴリーごとの関連

者間取引に係る関連者の特定と、関

連者間の関係。

対象事業体により締結された全ての

重要な関連者間契約書の写し

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+マスターファイルに記載する情報

主要事業の概要

事業における利益の重要な源泉

サプライチェーン(商流及び物流)を示す図

R&D以外の関連者間役務提供に関する取決めのリスト及び説明

サプライチェーンに関する主要な地理的マーケットの説明

付加価値創出に対する各事業体の貢献に関する機能分析

対象年度における事業再編、事業買収、事業売却の概要

保有する無形資産

無形資産の開発、所有、活用に関する包括的戦略の概要(主要なR&D施設とR&D管理部門の所在地を含む)

重要な無形資産及びそれらの法的な所有事業体リスト

無形資産に関係する事業体間の重要な契約リスト(費用分担契約、主要な研究の役務提供契約、ライセンス契約を含む)

R&Dと無形資産に関するグループ内移転価格ポリシーの概要。

対象年度中における無形資産の重要な持分のグループ内譲渡に関する概要(関係する事業体、所在国及び対価を含む)

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6. おわりに

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+国際税務の観点からの知財管理

企業活動のグローバル化に伴い、生産活動も研究開発活動も、国内外で実施

そこで、グループ全体で知的財産をどのように管理するかが新たな課題に

一般的に、日本企業がグループ経営における知財管理を検討する場合、権利の帰属を本社に集中させる(集中管理)か、現地法人に帰属させるか(分散管理)という観点が中心的

しかし、知的財産の価値を最大化(=知財収益にかかる税金を最小化)するためには、税務上の検討も必要

「税金は知財の本質的な価値とは関係ない」という考え方もあるが、少なくとも営利企業としての知財は収益獲得手段に過ぎないので、税金を最小にすることによって、知財の価値は上昇

行き過ぎた節税は問題となり得るが、税金コストの差は、研究開発費や広告宣伝費の差となり、やがて技術力や販売力の差、競争力の差へと繋がっていく

グローバル知財管理には、Tax Compliance(正しい納税)とTax Planning(戦略的な節税)のバランスが必要

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2015/12/14弁理士 松本浩一郎

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ご清聴ありがとうございました

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