チーム医療と信念対立 2014JSPENハンドアウト
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真のチーム医療の構築を目指して
Uプロセスを用いた信念対立解明
Hirohisa Shimizu
-Concept Book-(2014 JSPEN)
Concept Bookについて
本冊子は、真のチーム医療構築を目指して立ち上げた「チーム医療と信念対立」プロジェクトについての開発背景・開発経過を記しています。また、当プロジェクトのプレゼンやワークショップのハンドアウトでもあり、各々のワ
ークショップでは解説しきれなかった内容を補完する目的もあります。当Concept Bookは、このプロジェクトの経過によって随時、増補されていきます。そのバージョンアップの情報、およびワークショップの情報などは、Face BookやSlide
Shareでお知らせ致しますので、Followしてみて下さい。
Hirohisa Shimizu
*今回は2014JSPEN用にConcept bookの一部を抜粋しております。
Uプロセスを用いた信念対立解明Episode 6
なぜ、信念対立は解明が難しいのか?信念対立は医療現場に限らず起こり
得る。そして、「信念対立解明」に対し
ていくつかのワークショップを開催してきたが、実際に臨床現場において解明するのは難しい。それは、何故だろうか?
以下の要素を考えてみた。1)問題の複雑性
2)歪曲レンズの存在3)メンタルモデルの存在
1)問題の複雑性問題は、その性質によって、①ジグ
ソーパズル型問題と②ルービックキューブ型問題に分けられる(実際には、両者
が混在している)①ジグソーパズル型問題(技術的な
問題(煩雑な問題):課題解決に高い技
能が求められても対象だけにフォーカスし問題解決出来る。(例:ロケットを月
に飛ばす)*PDCAサイクルを回すことで解決が可能。②ルービックキューブ型問題(複雑
な問題)(適応を要する課題):自分自
身が、問題の原因の一部として組み込まれていたり、問題の全貌が解らない為
に、「認知の死角」にも原因が存在する。(例:子育て、人間関係)医療現場における問題(信念対立含
む)は、一見同一な問題に見えても実は複雑さと不安定さによって把握そのもの
が困難であり、しかもその把握には価値観の葛藤も避けがたい。(D.ショーン「省察的実践とは何か」)
そして、その複雑さ故に、自分が問題の当事者という事を忘れて部外者の仮
面をかぶりやすく、これが信念対立解明を難しくする。
「実は皆が当事者」
2)歪曲レンズの存在
誰もが生活している中で、ある一言でカチンときたり、ある相手の言動に
は、なぜかイライラしたりするといった経験はないだろうか?そんな時、我々は事実をありのまま
に観ているのだろうか?
実は、我々はすべての現象(見えるもの、見えないもの含めて)を認知でき
るわけではない。特に、自分の行動(表面的なものだけでなく、雰囲気など含
む)と相手の認知は「自分では認知出来ない領域」となる。相手も同様であり、我々はお互い盲点を持った状態でコミュ
ニケーションを取ってるのである。このGapは、コミュニケーションの量だけで
は埋められない。(フォローしようとすればするほど、悪循環にはまっていく経験は誰にもあるだろう)
煩雑な問題と複雑な問題
認知に限らず、我々の脳は全てを捉えている訳ではない。音声にしても、
聴きたい音だけを増幅したり、実際に見えていない部分を補完する機能を持つ。認知の部分について我々は、相手
の言動を「ありのまま」に受け取らずに歪曲したレンズ(以降、深層歪曲レ
ンズ)を通して捉える場合がある。これは、決して悪い作用ばかりで
なく、医療においては批判的吟味など
有用である場合もある。それでは、先程述べた我々が「カ
チン」と来る場合はどんなレンズを通っているのだろうか?
この場合の深層歪曲レンズは以下のようなレンズを通るとされる。
「私は相手に…
①攻撃されている。②見下されている。
③否定されている。④解ってもらえていない。
⑤避けられてる。このような場合、我々は、批判・
侮辱・自己弁護・逃避などの反応的態
度を取るとされる。(ジョン.M.ゴッドマン)これは、自己防衛のための反応
の一つでもあるのだが、時として人間関係をより複雑にしてしまう。まさ
に、自分も問題の片棒を担いでいると言える。
3)メンタルモデルの存在我々は目に見える行動のみで問題
を捉えがち(しかも、歪曲レンズを通して)だが、それは、氷山の一角に過
ぎず、その深層には思い込みや固定概念といった意識・無意識の前提(メン
タル・モデル)が存在する。このメンタルモデルの存在が対立を
深める原因になっており、この深層に
アクセスする事が信念対立解明において重要である。
Uプロセスを用いたワークショップデザイン今回、我々は、ワークショップをリ
デザインするのにあたり、O.シャーマー
の提唱する「U理論」を基に組み立てた。
Uプロセスの活用今回は、ワークショップ全体のデザ
インとしてUプロセスを使用した。
Uプロセスとは、まずありのままを観る事から始まる。通常、我々は物事を観察したり、人の意見を聞くときには、
自分の価値観などと照らし合わせながら、「評価・判断の声(VOJ)」を持ちな
がら観ている。このVOJや「あきらめの声(VOC)」を保留(Co-intiating)する事によって、「あるがままを観て感じる」
事が出来る。そして、「個々が十分に感じ、それを共有する」(Co-Sensing)。そ
の際に、お互いの固定概念・思い込みと
いったメンタルモデルを手放し、そこから現れるものを具現化・実体化していく
(Co-Creating)。今回のワークショップでは、Uプロ
セスの各段階を踏むのに適したワークを
配置するとともに、各々のワークの構成も「話す・聴く→感じる・共有する→一
緒に創り出す」という「小さなUプロセス」を踏むように構成した。
ワークショップのリ・デザイン
Uプロセス
リニューアルワークショップ開催
Uプロセスを用いたリニューアルワークショップ
NVC(Non-Violent Communication)「ありのままを観て、感じる」ため
には、「感情・ニーズへのアクセス」が
重要である。我々は、目に見える行動の深層に思考・感情・ニーズがある。しかし、我々は幼少期から感情を抑えること
を教えられ育ってきた。そのため、「~せねば」とか「こうあらねば」という
「評価・判断の声(VOJ)」が先立ち、自分の感情と向き合うことを阻んでいる。
今回は、NVC(Non Violent
Communication)で使われるエンパシー
サークルという手法を用いた。これは、3~4人一組となり、それぞれが、ストーリーテリングを行う。その上で、見えて
くる感情・ニーズを表出するのをグループのメンバーがサポートする手法で、内
省に対して慣れていない参加者でもサポートを得ることで、比較的容易に自分の感情・ニーズにアクセスしやすい。
ワークショップ構成
リアリスティック・アプローチの応用オランダの教育学者F.コルトハーヘ
ンは「教師教育学」の中で「氷山モデ
ル」というものを用いて説明している。どうしても、我々は目に見える行動のみに注目しがちだが、その深層には、思考
があり、その深層に感情・(意識下・無意識下の)望み(ニーズ)が存在する。
信念対立を解明する上で、この表面の行動ばかりに注目してしまうと、対立は解明されない。逆に言えば、自分(実
は対立を起こしているのは、自分に向き合ってない事が問題で、それにより事実
を歪めている事が多々ある)と相手の思考・感情と掘り下げていく事で、お互いのニーズへ辿り着く事が出来る。
今回のワークでは、お互いの実際にあった信念対立の場面のシナリオを持ち
寄ってもらい、実際の目に見える言動の行間の思考・感情を埋めていく作業を行った。
その上で、お互いのロールを取るワーク
を行いながら、その中で新たに出てくる感情・ニーズと向き合い、解明策を探し
ていく。対立が深刻なほど、実はお互い同じニーズから発生している事が多く、この作業を深く掘り下げる事が重要とな
る。
氷山モデル
F.Korthagen
メンタルモデルへのアプローチ(ITC MAPの利用)
実際にこの「信念対立解明」を行っていくと、最後の障壁となる
のは、お互いの思い込みや固定概念などのメンタルモデルの存在である。これには、ちょっとした思い
込みから、幼少期のトラウマから生じるものなど、多種多彩であ
る。今回は、メンタルモデルに比較
的容易にアクセスできるImmunity
to Change(ITC) MAPを用いてワークを行った。
ITC MAPITC MAPとは、発達心理学の権
威ロバート・ギーガンの提唱するもので、プラットフォームを用い
て、比較的容易にメンタルモデルにアクセスできる。
①まず、各々の困っている問題を呈示し、その改善目標を抽出する。
②その改善目標を阻害している自らの行動を抽出。
③②の阻害行動を取らないとしたら、不安や怖れになることを抽出し、そこから、自分の意識下に
ある裏の目標を導き出す。④③の裏の目標から、メンタル
モデルを読み取る。急に、全ての人がメンタルモデ
ルに辿り着くわけではないが、少
しのサポートで辿り着く事が出来、自己トレーニングが出来る利
点がある。
Uプロセスの応用
医療現場への応用このUプロセスは、「信念対立解明」だけでなく、医療現場での
様々な問題解決に応用可能である。
深刻な対立場面だけでなく、「ありのままを観て、感じる」だけでも、患者さんとの共感や日々の会議に今までにない変化を及ぼし、医療者自身も自分で歪曲して作り上げたストーリーに苦しむ事から解放され
るのではないだろうか?