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Title 口腔内腫瘤を伴ったIgD-κ型多発性骨髄腫の1例
Author(s)才藤, 純一; 高野, 伸夫; 重松, 知寛; 李, さん永; 橋
本, 貞充; 井上, 孝; 下野, 正基
Journal 歯科学報, 93(3): 341-347
URL http://hdl.handle.net/10130/2163
Right
341
臨 床-
口腔内腫癌を伴ったIgD-fC塾多発性骨髄腫の1例*
才 藤 純 一
東京歯科大学臨床検査室
(室長:金子 譲教授)
高 野 伸 夫 重 松 知 寛
東京歯科大学口腔外科学第二講座
(主任代行:重松知寛教授)
李 頭 永 橋 本 貞 充 井 上
下 野 正 基
東京歯科大学病聾学講座
(主任代行:下野正基教授)
年12月1日受付)
年12月8日受理)
孝
A Case of IgD- JC Type Multiple Myeloma with lntraoral Tumor
Junichi SAITO
Clinical Labolatory, Tokyo Dental College
(Chief : Prof. Yuzuru Kaneko)
Nobuo TAKANO and Tomohiro SHIGEMATSU
2nd. Department of Oral Surgery, Tokyo Dental College
(Chief : Prof. Tomohiro Shigematsu)
Lee Chan Young, Sadamitsu HASHIMOTO. Takashi INOUE and Masaki SHIMONO
Department of Pathology, Tokyo Dental College
(Chief : Prof. Masaki Shimono)
緒 言
多発性骨髄腫は,産生される単クローン性蛋白(M蛋
白)の種類により および
型の5型に分顛され,さらにL鎖の型によりK
型とA型に分けられている これらの骨髄腫が口腔棲
域に塵癌を形成することは極めて稀とされている 。
今回我々は,口腔内座癌の穿刺吸引綿胞診にて多発性
骨髄腫を疑い,血液,尿,および生化学検索の結果,
蛋白を伴った 型多発性骨髄腫と
診断された極めて稀な1例を経験したので報吾する。
'本論文の要旨の一部は第240回東京歯科大学学会例会(平成2年6月9日,千葉)において発表した。
-81-
症 例
患者: 70歳,女性
初診:昭和63年12月9日
主訴:左側下顎大臼歯部の腫脹
家族歴:特記すべき事項なし
既往歴: 20数年前急性腎炎にて入院。昭和63年1月7
342 才藤,他 型多発性骨髄腫の1症例
日には上腕骨の病的骨折にて某病院に入院した。レント
ゲン検査の結果,上腕部に透過性鳩卵大の境界不明瞭な
透過像が観察され,腫症が疑われたため病理組織検査を
行い と診断さ
れ,放射線医学研究所にて速中性子線 照射を受
けた。
現病歴:昭和63年11月頃,左側下顎大臼歯部の無痛性
腫脹を自覚したので近歯科医を受診, 12月9日当科を紹
介され来院した。
現症:体格は小柄で,栄養状態は不良であった。左側
下頑部にび慢性腫脹および左右の顎下リンパ節の小指頭
大の無病性腫脹を認めた。
口腔内所見:左側下顎大臼歯部を中心にした膨隆を認め
た。なお左側下顎第二大臼歯は動揺が著しく近JL頑側歯頚
部には,易出血性の肉芽組織様組織が観察された(図1 ).
図1初診時日腔内所見。左側下顎大臼歯部の腫脹がみられる。
図2 初診時オルソパントモレントゲン写真左右側
両側下顎大臼歯部に高度Ⅹ線透過性部が観察される。
図3 初診時後頭前頭位Ⅹ線写貢.頭蓋骨に多発性の打ち抜き像がみられる。
図4 穿刺吸引細胞像(パパニコロウ染色)で細胞は
戴円形孤立散在性で,ほとんどが単核であるが,2核の細胞もみられ大小不同性が認められる。
車軸状のクロマチンパターンを想起させる所見もみられる。
Ⅹ線所見:オルソパントモⅩ線写真により,左右側の
下顎大臼歯部に境界禾明敏な高度Ⅹ線透過性の像が認め
られた(図2 ).また後頭前頭位Ⅹ線写真では頭蓋骨に多
発性の打ち抜き像が認められた(図3 )o
細胞所見:左側大臼歯部よりの穿刺吸引細胞診では出
血性背景に,小型で戴円形ないし楕円形を呈する纏胞が
散在性に見られ.核は大多数が単核偏在性で,核周明庭
が認められる形賛細胞様編胞の増殖が観察された.クロ
マチンは粗額粒状で核小体の著明な腫大も認められた
-82-
歯科学報
図5 穿刺吸引細胞像 染色)
醐包葉は好塩基性に染まり,核の一側に明庭部がみられ,大きな核小体が1-2個認められる。
図6 組織像 染色,中拡大)
形賛細胞に幾似した,異型細胞が多数観察される。
(図4および5)。 上より多発性骨髄腫の推定診断のも
とに,確定診断を待るために局麻下にて生検を行った。
組織所見:生検材料のヘマトキシリン・エオジン染色
標本では,錯角化を示す憂層后平上皮に被覆された線維
性結合組織中に形賛細胞に類似した異型細胞が多数認め
られた。これらの細胞の核膜は肥厚しクロマチンに富ん
だ大型の核を持ち, 2核あるいは3核のものや核分裂像
を示すものも観察され,また周囲の間 には著明な好中
球浸潤と毛細血管の増生が見られた(図6)。メチルグ
リーン・ピロニン染色では腫褒詞田胞の核小体及び細胞賛
内は陽性を呈し(図7),免疫組織化学染色では抗IgD
と抗fC血清に対して陰性を示す細胞群が見られた(図J
8 )o以上より 型多発性骨髄腫と診断されたo
初診時検査成績:尿検査では,尿蛋白(+)で,免疫電
気泳動では尿中 蛋白も陽性であった(図
表1初診時検査成績1
343
(扶植血液検査) (尿検査)
×比重
× タンパク
Hb 7.8 g/dl * (-)ウロビリノーゲン
× 沈査
‰
秒 上皮細胞2/5
秒 蛋白(+)
血沈 11 h
Hemogram
Stab
Seg
Lympho
Mono
Eos
Baso
異型Ly
°
却
且
骨
e
U
Ⅳ
旬
0
6
8
3
0
0
2
5
3
表2 初診時検査成績2
(血液生化学検査)
T.P 6.4 g/dl CRP 7.3mg/dl
タンパク分画
TTT 0.3 KU A/G 1.89
ZTT 0.5 KU Alb 65.4 %
Al-p 359 IU/l a1 5.2 %
GOT 31 IU/i a2 9.2 %
β
LI J γ
免疫グロブリン
LAP 57 IU/i IgA 32mg/dlch-
CPK 30 IU/I IgM 42mg/dl
\ 六日 間 J
Creat l・3 mg/dl IgE 13 U/mlU.A 9.8 mg/d‡
T.chole 116 mg/d‡
T.G 73 mg/dJ
Na 143 mEq/I
K 3.8 mEq/~
cl lO2 mEq/~
ca 11.7 mg/l
-83-
才藤,他 型多発性骨髄腫の1症例
図7 組織像 染色)細胞窯と核小体はピロニンで赤色に,核内はメチル縁によって青線色に染まる。
図8 免疫組織化学標本。
(抗体:抗Ig]⊃
核偏在性の形賛綿胞様細胞の多くは陰性を示している。
9)O末櫓血液検査では高度の宴血と血沈の元進が,血
液生化学検査では とクレアチニンの重度上昇が
みられ腎機能障害が疑われた(表1 )。また血清総タンパ
クとγグロブリンはやや減少し,免疫グロブリンの定量
では が著明に増加していた(表2)。血清のセル
ロース・アセテート膜電気泳動像とデンシトメトリー像
ではa2-βおよびγ位にかろうじて識別できるM-
が認められたが(図9),免疫電気泳動像では,抗
IgI)に対して1つ,抗Kに対し2つの明瞭な
が観察された(図 また患者尿のセルロース・アセ
テート膜電気泳動像では, α2-β位に明酷なM蛋白の
存在が確認され,これは尿中に多室に出現していること
から 蛋白と考えられる。またγ位にも僅
かにM蛋白の存在が確認された(図11)。この2つの尿
中M蛋白は免疫電気泳動像において坑A:に反応するM-
図9 血清のセルロース・アセテート麓電気泳動像。患者血清は,蛋白紫色像およびデンシトメトリー像でα2-β位(矢印左)とγ位(矢印右)
にわずかにMピークが識別できる。
-84-
抗Hs
抗IgG
抗JC
抗Å
玩
抗IgD
図10 血清の免疫電気泳動像。患者血清は,矢印で示すように2つのMピークの沈降線が認められ,陰極側の矢印は型,陽極側の矢印はFC型 蛋白の存在が示唆される。 N:正常血活, P:患者血清,抗Hs:抗ヒト全血清,抗抗3種混合血清
図11患者尿および血清のセルロース・アセテート
膜電気泳動像。右は尿のデンシトメトリー像を
示す。尿にはα2-β位で血清のMピークと同じ位置に - 蛋白に由来する明瞭なM蛋白が存在し,さらにγ位には血活と異なる
もう一つのM蛋白が存在する(矢印)。
歯科学報
図12 尿の免疫電気泳動像。 2倍に濃縮した患者の
尿及び正常ヒト血清 を泳動したもの。白丸で示す2つの が認められ,左柳の
自まるはK型の 蛋白に由来し,右側の白丸はK型 に由来する。
bowとその易動度が一致していた。つまり尿中にK型
蛋白および, FC型IgDが存在するもの
と判断した 蛋白は血清中のものと同じ
易動度を示していたが, FC型IgDは血清のものより僅
かに陰極側に泳動されていて,尿中のIgDが変性した
か,または血清中と異なる修飾を受けているものと判断
した(図
345
IgG型
図13 多発性骨髄腫の型別頻度を示した図0
考 案
本邦における多発性骨髄腫の報吾によるとIgG型が
半数以上を占め,以下IgA型 型
型と涜き,今回の症例のようなIgI)型は全体の に
過ぎないといわれている(図
IgD型多発性骨髄腫の特徴としては
① : L鎖がl型である場合が多い。
② :血中M蛋白が低値である。
③ ・.血中総蛋白濃度は正常値の場合が多い。
④ : 蛋白尿を伴うことが多い。
表3 本邦における 型多発性骨髄腫報吾例
報 吾 者 年麻 性 蛋白血中M蛋白 アミロイトシス 髄外庭癌
1 2 3 4 5 6 7 8 9'1 0 n 1 2 1 3 1 4 1 5 1 6 1 7 1 8
大田ら
石田ら
仲山ら
富田ら
中沢ら
中沢ら
荻野ら
高木ら
永井ら
福原ら
筒井ら
山崎ら
広沢ら 5)
小川ら
葛西ら
田辺ら
中井ら
自験例
男
女
男
女
男
男
女
男
女
女
男
女
女
女
男
男
男
女
8 1 7 00 8 5 2 6 7 9 6 4 5 5 8 1 1 0
ウ
も
己
U
己
-
己
ワ
ー
46
0 50 40 12
∧U 2
4
7
1
7
2
5
8
0
2
6
e
U
6
1
1
3
1
1
3
TJ
B+花
i!
B+花
i!
B+花
3
5
0
己
ハ
8
7
2
7
7
6
3
1
5
0
7
1
1
8
2
5
2
1
1
2
2
2
0 7 00 8 84 5 6
+
+
+
346
A, ・11.1u ( 13.1'),,)
才藤,他 一fC型多発性骨髄腫の1症例
Å里 ′ノ′,)
図 型多発性骨髄腫のL鎖 における強度を示した図0
⑤ :腎機能障害の歩度が多いo
⑥:その他
などが挙げられている 。今回我々の経験した症例
もL鎖がfC型である点を除けばこれらの特徴を有してい
た。
高木ら22)によるIg]⊃型多発性骨髄腫のL鎖による分
幾ではK型は と報吾されており, FC型IgI)骨髄腫
が極めて稀なことがわかる。本邦におけるK型IgDを
伴う骨髄腫の報吾をまとめると表3のごとくで,本例は
本邦での18例冒にあたる。
一般的に多発性骨髄腫の髄外腫癌は剖検時にかなり高
額度に認められるが,臨床的に発見するのは難しいとさ
れている その中でもIgD型のものは比較的髄外
腫癌を作りやすいものとして知られ 前記のK型IgD
骨髄腫の18例のうち髄外腫癌の形成が見られたものは2
例で,口腔内に初発症状をみたものは今回が初例と患わ
れた。
本症例のごとくIgD型骨髄腫は,血清中の異常蛋白
濃度が低く,日常の生化学検査において見過ごしてしま
うような事もあり,このような場合も適切な穿刺吸引細
胞診の応用が迅速な診断に結びっくことが示唆された。
結 吾
我々は, 70歳女性の下顎に塵癌を形成した 型
多発性骨髄腫の-例を経験したので報告した。
謝 辞本研究を遂行するに当たり,多大なご協力を蔑きました本学
法歯学講座,水口 活助教授に深謝するとともに,数々のご協
力を凄さました本学臨床検査室,萩固(山口)恵子検蚕技師なら
びに井出典子検査技師に感謝いたします。
文 献
1)阿部恭子,山本悦秀 顔面および口腔に腫癌を形成した多発性骨髄腫の1例,冒口外誌~1970.
2)遠藤盛孝,林 誠一,大村 進,藤田浄秀,増田正
樹,大谷隆俊 口腔内腫癌を主訴としたIgD骨髄腫の1例,日日外誌
3)藤井 浩,閑 茂樹 腫癌形成性骨髄腫の臨床病理学的検討,癌の臨床
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Bachmann, R・ (1968) : Plasma cell myeloma
with D myeloma protein (IgD myeloma). Am.っ46:
5)広沢信作,永井英明,奈良信雄,桃井宏遺,工藤秀樹,浅川英男,井廻達夫 アミロイドーシスを合併した 型多発性骨髄腫の1例,内科, 51 :789-792.
6)半田美鈴,村上円人,杉浦宏策,片山常雄 :
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7) Hobbs, J. R. and Corbett, A. A. (1969) ・.
Younger age of presentation and extraosseous
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8)筒井達夫,大城 巌,竹中 徹,前田次郎 :尿中にIgD抗原を認めた -FC型骨髄塵の1例,臨床病聾,補冊9)石田 豊,佐藤 元,太田善介,大藤 真 :FC型 を有するD型骨髄塵の1症例,臨床免疫
10)葛西千枝子,高橋勝美,橋本仙一郎K型多発性骨髄腫の1例,臨床病理
ll)加納 正 多発性骨髄腫,臨血液, 30:~1215.
12)河合 忠 :血柴蛋白-その基礎と臨床-,貢医学書院,東貢.
13)太田 宏,池田 靖 ・D骨髄塵の2症例,臨血夜
14)小川正勝,石塚太一,石川正遺,夏木米芳,嵐 竪治,相引利行,横山 登,肥後 理,東野俊夫
が著効を奏した型 の1症例,杏林医会誌
15)荻野隆章,中村 功,神崎 清,藤川栄吉,柳原照生 野瀬善光,林 宏海,砂田和彦,棟久一夫
:胃癌を伴ったK型IgD多発性骨髄塵の1例, E]内会誌
16)中井真理子,石丸俊子,岩本葉子,竹村 成,林謙宏,中村 皇 二種楽のM成分I a)を認めた多発性骨髄塵の一例,日臨細胞会誌,29, 2 :355.
-86-
歯科学報
17)中沢 修,新津洋司郎,片山吏司,小山隆三,福田守遺,漆崎一郎 型 骨髄腔の2例,臨血液
18)永井賢司,甲斐一成,小笠原文雄,近藤 隆,涯辺頴介,大久保 溝,佐々寛己,丹羽豊朗,永井永二,太田 宏 型多発性骨髄腫の1例, E]血会誌, 40:
1の 中山伊知郎,泉 良治,船迫真人,山播 功,輿浩子,上江洲朝洋,谷本幸三,花野靖久,津田忠昭,太田喜一郎 型IgD骨髄腫の1例,臨血液
20)田辺和彦,苅谷克俊,兼平加寿子,七戸 浩,柘植光夫 : 型 つ骨髄腫の1例,臨床血液, 27:
21)富田勝郎,宮林克巳,山本猛重,高柳 立骨髄歴 の一例,癌の臨床, 20 :
22)高木敏之,小黒昌夫‥覧島 尚,向島 達 :
IgD骨髄腫の臨床的ならびに免疫化学的特徴一-自験3症例と本邦報吾例の文献的考察一,臨床血液128-139.
23)山田秀雄,古田 格,河合 忠 :IgI)型骨髄塵一日験3剖検例と本邦症例の文献的考察一,臨血
93, No. 3 (1993) 347
液, 12:24)山口恭広,沢村 経,縄田義夫,平野 豊,加藤允義,西本昭二,富永喜久男 比較的長期間生存
し待た1型IgD骨髄腫の1剖検例、臨床血液, 15 :140-147.
25)山崎竃弥,小林真理子,高橋勝則,斉藤憲治,榎原英夫,間 栄 :非分泌型から 型に移行した多発性骨髄塵の1例,臨血液
26)福原吾典,岩崎悦子,岡田尚武,白井大緑,内坂 建,浜野万智子,松測登代子,目連栄-郎 : NaF
治療を試みたFC型IgD骨髄塵の1例,臼内全島66 : 157.
27)島峰徹郎 骨髄塵の病理,骨髄腫のすべて,三好和夫(編 南山堂,東京.
28)河合 忠 型骨髄腫 協和企画通信,東京.
29)今村幸雄 異常免疫グロブリン症B,骨髄慮血柴蛋白と免疫グロブリン,日本血液全書(編), p
丸善,東京.30) Zawadzki,Z. A. and Edwards, G. A. (1967) :
MICOmPOnentS in immunoproliferative disord-ATl工
1 87-