Post on 30-Apr-2019
非病原性菌Pseudomonas fluorescens 菌体成分(TTG)の
白斑治療効果及びその作用機序に関ずる研究
続報:TTGの各分割の作用について
7.Honda:ClinicalEffect of TTG, the Extracted Component of Nonpathogenic Bacteria
Pseudomonas fluorescens,and Mechanism of the Action on Leucoderma
本 田
緒 論
私は1)2)前にpyrogenであるTTGを白斑局所に皮
内分劃注射し,紫外線照射を併用する白斑の新治療法を
提唱し,その治療実験並びに基礎実験に基いて,その奏
効機序をTTGの新作用として,直接的なデロジン・チ
ロジナーゼ反感系促進作用と抗SH作用の両面の作用を
もって白斑治癒をもたらすものと結論し,且つ,その
際,種々⑤比較実脈の結果,TTGを構成する多糖体部
(C)が,チロシン・チロジナーゼ反感系を促進する因子
であり,蛋自体部(P)が抗SH作用に関沢する因子で
あろうと推論した,
末論文に於て.私はこの推論を更に確めるために,
TTGを分解して,その各分劃を使用して,生化学的実
験を行い,前述した推論を裏書きするような興味ある結
果を得たので,茲に,報告する次第である.
第1童 TTGの各分劃単離実験
TTGは化学的に Lipocarbohydrate-Protein Com-
plexてjあると云われている.
私は, TTGを構成している各分劃を得るために,河
西3)の大腸菌の菌体成分の酸分解に準嬢して実施した,
実験方法は,図1に示す如く, TTG l gをとり,蒸
溜水lOOmlに溶解する.次いで氷酪酸を1%量加えて
沸騰水浴上で,8~10時間分解を続けると蛋白体は沈澱
してくる.エーテルで連続抽出し,リヒト部を除く,蛋
自体部は, glass alter で濾別し,その澄明濾液にアル
コールを加えると多糖体部が沈澱する.
エーテル抽出液を溜去して,リヒト部とする.
゛東邦大学医学部皮膚泌尿器科教室(主任 石津俊教授)
― 389
龍 雄*
図1 TTGの酷酸分解(MT1)
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咄μ乾鯖昌
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(52.5%)
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(51J町)
蛋白体部は稀アルカ!) (pH7~8)に溶解後,稀塩酸
でPH3位にすると再沈澱する.これを数回繰返したもの
を凍結乾燥し,蛋自体分劃(Pうとする.
多糖体部は蒸溜水に溶かして,アルコールで再沈澱せ
しめ,これを数回繰返して凍結乾燥をし,多糖体分劃
(Cうとする.
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表1 TTGの各分割の収量(%)
TTG 分 創 限 量
MTi
多新体分割 (ッ
52.5
蚤自体分割 y 16.5
リヒト分割 Iフ trace
MT2
(フ 45
y 14
じ trace
リヒト部は殆ど単離し得なかった.
各分劃の収量を%で表示すれば,表1に示す如く,多
糖体分劃は45~52.5%,蛋白体分劃は14~16.5%であっ
た.
第2章 実験方法及び実験條件
前章の実験に於て,収得した各分劃について,チロジ
ソ・チロジナーゼ反応系促進作用及び抗SH作用が,ど
の分劃にみられるかを知るために, Warburg検圧計を
使用して酸素消費量を測定した.
表2 実験条件Warburg検圧計37.5°C
実験条件は,表2に示す如く,酵素としては,精製
Mushroomチロジナーゼを使用直前に,適宜稀釈して
用い, Substrateとしては,モロジン浮游液C 2 mg/cc)
を用いた.反応器容量は16~18ccで,主室にM/15燐酸
緩衝液(pH7.38) 1~0.5CC,稀釈酵素液0.6cc,各分劃
溶液,蒸溜水,グルタチオン溶液を入れて. 2.6ccと
し,側室にSubstrate 0.6cc,中央室に20%KOH 0.2
ccを入れ. 37.5±0. 05°Cの恒温槽で10~20分平衡後,側
室内容を混和し,酸素消費量を5~10分毎に50分迄測定
した.尚,グルタやオソ2 mg/ccを0.5cc主室に入れた場
合は,緩衝液を0. 5ccとした.
第3章 実験成績
第1節 多糖体分劃(yのチロシン・チロジナーゼ及
応系に及ぼす作用
日本皮膚科学会雑誌 第69惣 第4号
図2に示す如く,C≒まチロシン・チロジナー七反感
系を促進する作用が認められる.
第2節 多糖体分劃C’のグルタチオンに対する作用
圖8に示す如く,反鷹容器中濃度62.5, 31.25及び
15.62 r/ccの各種濃度に於て,C≒よ何等の作用屯認め
底かった.
図2 Action of Carbohydrate Fraction (C )on
Tyrosine-Tyrosinase System
図3 Action of Carbohydrate Fraction (C) on
Glutathione
ぷ4寸ぶ
第3節 蛋自体分劃P’のチロシン・チロジナーゼ瓦
応系に及ぼす作用
蛋自体分劃Pこと何等の作用も示さこい.
第4節 蛋自体分劃Fのグルタチオンに対する作用
圖4に示す如く,蛋自体分劃P≒ま,反塵容器中濃
昭和34年4月20日
図4 Action of Protein Fraction(P') on
Glutathione
imh) '0
図5 Action of Mixture(Carbohydrate and Pr-
otein Fraction) on Glutathlone
度, 125, 62.5, 31.25, 15.62, 7.81及び8.6 r/ce の
各種の濃度に於て,グルタデオンに対して作用しなかっ
た.即ち,抗SH作用は認められなかった.
第5節 C’及びP’のAuto-oxidation
各分劃について,種々の濃度で実験したがAuto-
oxidationは殆んど認め得なかった.
第6節 C’及びP’の混合液のグルタチオンに対す
る作用
前述した各節の実験の結果,C≒よチロシン・チロジ
391
ナー-ゼ反面系を,TTGと同様に促進する作用が認めら,
れたが,抗SH作用はなく,P'は,チロシン・チロジ
ナー七反感系に対して促進作用はなく,且つ抗SH作用J
も認められ底かった.
しかるに,TTGでは,チコジン・チロジナー七反感
系促進作用と抗SH作用の両面の作用を有することは,
緒論に屯述べた如くであって,種々の比較実験から,蛋
白体部が抗SH作用に関沢するものであるうと推論して
いたところであるので,C/とP'とを混合することによ
ってTTGが有する様な抗SH作用の出現する可能性も
あり得るのではないかと思って,C´とP'の混合液を用フ
いて実験してみた.
C'とP'の混合比を夫々3:1,1:1にして種々び
濃度で実験した結果,圖5に示す如く, C'a, P'l (C :
187.5r/cc, P' :62.57/cc)及びC'I P'l (C': 31.25
rice, P': 31.25r/cc)が最も穎著に,抗SH作用を
呈した.しか%, C'i,P'iの如く低濃度のもので乱 混
合比如何によっては高濃度のC'3,P'lに匹敵する抗SH
作用を呈したことは,興味ある事実である.
第4童 発熱試験
使用したTTG.各分割及びその混合液の発熱試験をy
実施し,検討してみた.
発熱試験は,目局, Pyrogen Test に準じて施行したl
ものである.即ち,体重2kg前後の合家兎を1週間,
23°Cの恒温室で飼育し,その環境に馴らし,7時間固定ス
して予備検温を行う.30分間隔で電位差計式熱電温度計・
で,直腸温を測定し,温度の変動のない家兎を撰定し,
発熱試験に使用するト予備検温の翌日或は翌々日の撰定し
された家兎を再び固定し,0時間,1時間,2時間の3度.
検温し,変動のないことを再確認してから,検体lr/kg
を耳静脈から注射し,以後4時間に亘り,15分間隔で検
温し,最高発熱度をとる,1検体につき3匹の家兎を使
用し,平均最高発熱度を発熱度としたものである.
その結果は,表3に示す如く,分解前のTTGのもっ.
表 3
Pyrogenecity TestTTG
MTi 1.05°C MT, 1.06°C
Fraction Mixture Fraction
(y ド C≒F1 C'3 P'l(y ド
0.07 0.95 0.52 0.3 0.2 0.77
:392
発熱性に比較して,何れも低い発熱性を示している.
CnよMT1及びMT2の由来に関係底く低発熱性とな
り,同時に施行した奢呂ニ試験に於て乱著しく毒性か弱
くなっている.特にC'とP'の混合液にっいては,その
混合比1:1及び3:1のものが,分解前のTTGのも
っ発熱性に比較して50%以上有発熱性を減少しているこ
とは,注目すべきことであると思う.
第5童 考 按
私は, Pyrogenの範喘に入り,化学的にLipocarbo-
hydrate-Protein ComplexであるTTGを,白斑局所
に皮内注射し.紫外線照射を併用する白斑の新治療法を
提唱し,その治療実験及び基礎実験に基いて,TTGの
局所作用としての奏効機序をTTGの新作用として,直
,接的に,チロシン・チロジナー七反面系を促進し,且つ
抗SH作用を示すと云う雨面の作用をもって白斑治癒
をもたらすものであると結論し,更に,その際,発熱性
及びPiromenとの比較実験の結果より, TTGを構成
する多糖体部分か,チロシン・チロジナー七反塵系を促
ラ進する因子であり,蛋自体部分が,抗SH作用に関輿
するものであるうと推論し,これを日皮会誌, 68, 589,
昭83に詳報した.
しかしながら,果して, TTGを構成する各分劃が軍
触に,或は,綜合された形態で作用するのかと云う問題
に対しては,未解決であった.今同は,この問題につい
て解明するために,私は,TTGを酷酸分解して,多糖
体分劃C'及び蛋自体分劃P'を得,これをin vitro で
'実験してみた結果,圖6の模圖に示す如く,C≒ま,明
らかにチロシン・チロジナーゼ反面系を促進する因子で
あることか確認され,P≒よ単独では,抗SH作用を示
こさ次いか,C'と試験管内で混合するだけで,即ち,P'
はC'と共存する場合に抗SH作用因子として作用する
濾のであることが判明した.
しか乱 混合比率の差により,抗SH作用の強弱の
,問題右判明した.即ち,本論文,第8章,第6節の実験
に示す如く,低濃度のものでも,即ち, C : P'か1:
1で,各々の反塵容器中濃度かS1.25r/ccのものが,
心:P'が3:1で187.5r/cc : 62.5 r/ccの高濃度のも
のと同程度の抗SH作用の強さを示した事実は, TTG
を構成する蛋自体部の比率的差によって,抗SH作用
口強弱かおることを実証したものである.
叉,第4章に述べた如く,発熱試論に於て,C'とP'
jの混合液,即ち1 :1及び3:1の混合比のものが,分
丿解前のTTGのもっ発熱性に比較して50%以上乱それ
Tt- V
日本皮膚科学会雑誌 第69忿 第4号
図 6
L: Lipid
Cこ Carbohydrate (Poiysaccharide)
P: Protein (Polysaccharide)
C: Carbohydrate fraction
P': Protein fraction
が減少していることは,TTGの白斑治療の際,発熱と
云う問題に於て,多発性及び巨大白斑に対する場合に,
特に初同使用量を或る程度制限しなければからないこと
を考慮するとき,副作用としての発熱と云う問題より解
放され,チロシン・チロジナーゼ反男系の促進作用と抗
SH作用も強く,且つ,臨床的により容易に使用出来る
発熱物質或は菌体成分由来の新物質がよりよい白斑治療
剤として出現する可能性を示唆するものとして,注目す
べきことであると思う.
結 論
TTGを酷酸分解して牧得した多糖体分劃C’及び蛋
自体分劃Fを使用して,それらの色素形成促進作用を
in vitroで実験した結果を要約すると次の如くである.
1)C≒よ,チロシン・チロジナー七反男系の促進作
用を有するが,抗SH作用はみられない,
2) P' !よ単独では,チロシン・チロジナーゼ反男系
の促進作用も抗SH作用奄認められない.
8)しかるに,(yとPとの混合液の場合には,抗
SH作用を呈する.この事実は,P’がC’と共存する場
合に抗SH作用因子として作用するものと思引
4)その際,抗SH作用の強弱はP’ :(ンの比率に
よって左右される.
昭和34年4月20日
5)混合液の発熱性は,分解前のTTGの示す発熱性
に比較して,50%以上七減少している.
6)以上の実験の結果,TTGの白斑治癒作用は,
TTGを構成している多糖体部が,チロシン・チロジナ
ー七反鹿系促進因子であり,蛋白体部が抗SH作用因
子として作用するものであるとの推論を実証し,且つ,
臨床上,副作用としての発熱の問題を克服し,発熱物質
或は菌体成分由来の新物質が,よりすぐれた白斑治療剤
として出現する可能性をも示唆し得るものと思う.
393'
本論文の要旨は,日本皮膚科学会東京地方会第372回・
例会にて発表した.
摺筆するにあたり,御校閲を頂いた石津教授,並びに一
種々御協力を得た藤沢薬品会社関係者各位に謝意を表し
ます.
文 献
1)本多:東邦医誌, 4,83,昭3乙
2)本多:日皮会誌, 68, 589,昭33.
3)河西:日本細菌学雑誌, 5,(6), 385,昭25.
(昭和34年2 M14H受付,特掲)