非病原性菌Pseudomonas fluorescens菌体成...

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非病原性菌Pseudomonas fluorescens 菌体成分(TTG)の 白斑治療効果及びその作用機序に関ずる研究 続報:TTGの各分割の作用について 7.Honda:Clinical Effect of TTG, the Extracted Component of Nonpathogenic Bacteria Pseudomonas fluorescens,and Mechanism of the Action on Leucoderma 私は1)2)前にpyrogenであるTTGを白斑局所に皮 内分劃注射し,紫外線照射を併用する白斑の新治療法を 提唱し,その治療実験並びに基礎実験に基いて,その奏 効機序をTTGの新作用として,直接的なデロジン・チ ロジナーゼ反感系促進作用と抗SH作用の両面の作用を もって白斑治癒をもたらすものと結論し,且つ,その 際,種々⑤比較実脈の結果,TTGを構成する多糖体部 (C)が,チロシン・チロジナーゼ反感系を促進する因子 であり,蛋自体部(P)が抗SH作用に関沢する因子で あろうと推論した, 末論文に於て.私はこの推論を更に確めるために, TTGを分解して,その各分劃を使用して,生化学的実 験を行い,前述した推論を裏書きするような興味ある結 果を得たので,茲に,報告する次第である. 第1童 TTGの各分劃単離実験 TTGは化学的に Lipocarbohydrate-Protein Com- plexてjあると云われている. 私は, TTGを構成している各分劃を得るために,河 西3)の大腸菌の菌体成分の酸分解に準嬢して実施した, 実験方法は,図1に示す如く, TTG gをとり,蒸 溜水lOOmlに溶解する.次いで氷酪酸を1%量加えて 沸騰水浴上で,8~10時間分解を続けると蛋白体は沈澱 してくる.エーテルで連続抽出し,リヒト部を除く,蛋 自体部は, glass alter で濾別し,その澄明濾液にアル コールを加えると多糖体部が沈澱する. エーテル抽出液を溜去して,リヒト部とする. ゛東邦大学医学部皮膚泌尿器科教室(主任 石津俊教授) 389 雄* 図1 TTGの酷酸分解(MT1) |砧゛a tlb.S?!) |.寿μal に4ヽあ衆回 )一々, 咄μ乾鯖 !6≪yi≫j (52.5%) evifititt- tr4ぐe (51J町) 蛋白体部は稀アルカ!) (pH7~8)に溶解後,稀塩酸 でPH3位にすると再沈澱する.これを数回繰返したもの を凍結乾燥し,蛋自体分劃(Pうとする. 多糖体部は蒸溜水に溶かして,アルコールで再沈澱せ しめ,これを数回繰返して凍結乾燥をし,多糖体分劃 (Cうとする.

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非病原性菌Pseudomonas fluorescens 菌体成分(TTG)の

   白斑治療効果及びその作用機序に関ずる研究

     続報:TTGの各分割の作用について

7.Honda:ClinicalEffect of TTG, the Extracted Component of Nonpathogenic Bacteria

     Pseudomonas fluorescens,and Mechanism of the Action on Leucoderma

本 田

          緒   論

 私は1)2)前にpyrogenであるTTGを白斑局所に皮

内分劃注射し,紫外線照射を併用する白斑の新治療法を

提唱し,その治療実験並びに基礎実験に基いて,その奏

効機序をTTGの新作用として,直接的なデロジン・チ

ロジナーゼ反感系促進作用と抗SH作用の両面の作用を

もって白斑治癒をもたらすものと結論し,且つ,その

際,種々⑤比較実脈の結果,TTGを構成する多糖体部

(C)が,チロシン・チロジナーゼ反感系を促進する因子

であり,蛋自体部(P)が抗SH作用に関沢する因子で

あろうと推論した,

 末論文に於て.私はこの推論を更に確めるために,

TTGを分解して,その各分劃を使用して,生化学的実

験を行い,前述した推論を裏書きするような興味ある結

果を得たので,茲に,報告する次第である.

     第1童 TTGの各分劃単離実験

 TTGは化学的に Lipocarbohydrate-Protein Com-

plexてjあると云われている.

 私は, TTGを構成している各分劃を得るために,河

西3)の大腸菌の菌体成分の酸分解に準嬢して実施した,

 実験方法は,図1に示す如く, TTG l gをとり,蒸

溜水lOOmlに溶解する.次いで氷酪酸を1%量加えて

沸騰水浴上で,8~10時間分解を続けると蛋白体は沈澱

してくる.エーテルで連続抽出し,リヒト部を除く,蛋

自体部は, glass alter で濾別し,その澄明濾液にアル

コールを加えると多糖体部が沈澱する.

 エーテル抽出液を溜去して,リヒト部とする.

゛東邦大学医学部皮膚泌尿器科教室(主任 石津俊教授)

                         ― 389

龍 雄*

図1 TTGの酷酸分解(MT1)

|砧゛a

 tlb.S?!)

 |.寿μal に4ヽあ衆回 )一々,

 咄μ乾鯖昌

  !6≪yi≫j

  (52.5%)

evifititt-

tr4ぐe

 (51J町)

 蛋白体部は稀アルカ!) (pH7~8)に溶解後,稀塩酸

でPH3位にすると再沈澱する.これを数回繰返したもの

を凍結乾燥し,蛋自体分劃(Pうとする.

 多糖体部は蒸溜水に溶かして,アルコールで再沈澱せ

しめ,これを数回繰返して凍結乾燥をし,多糖体分劃

(Cうとする.

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表1 TTGの各分割の収量(%)

TTG 分   創 限   量

MTi

多新体分割  (ッ

52.5

蚤自体分割  y 16.5

リヒト分割  Iフ trace

MT2

(フ 45

y 14

じ trace

 リヒト部は殆ど単離し得なかった.

 各分劃の収量を%で表示すれば,表1に示す如く,多

糖体分劃は45~52.5%,蛋白体分劃は14~16.5%であっ

た.

      第2章 実験方法及び実験條件

 前章の実験に於て,収得した各分劃について,チロジ

ソ・チロジナーゼ反応系促進作用及び抗SH作用が,ど

の分劃にみられるかを知るために, Warburg検圧計を

使用して酸素消費量を測定した.

   表2 実験条件Warburg検圧計37.5°C

 実験条件は,表2に示す如く,酵素としては,精製

Mushroomチロジナーゼを使用直前に,適宜稀釈して

用い, Substrateとしては,モロジン浮游液C 2 mg/cc)

を用いた.反応器容量は16~18ccで,主室にM/15燐酸

緩衝液(pH7.38) 1~0.5CC,稀釈酵素液0.6cc,各分劃

溶液,蒸溜水,グルタチオン溶液を入れて. 2.6ccと

し,側室にSubstrate 0.6cc,中央室に20%KOH 0.2

ccを入れ. 37.5±0. 05°Cの恒温槽で10~20分平衡後,側

室内容を混和し,酸素消費量を5~10分毎に50分迄測定

した.尚,グルタやオソ2 mg/ccを0.5cc主室に入れた場

合は,緩衝液を0. 5ccとした.

         第3章 実験成績

 第1節 多糖体分劃(yのチロシン・チロジナーゼ及

応系に及ぼす作用

日本皮膚科学会雑誌 第69惣 第4号

 図2に示す如く,C≒まチロシン・チロジナー七反感

系を促進する作用が認められる.

 第2節 多糖体分劃C’のグルタチオンに対する作用

 圖8に示す如く,反鷹容器中濃度62.5, 31.25及び

15.62 r/ccの各種濃度に於て,C≒よ何等の作用屯認め

底かった.

 図2 Action of Carbohydrate Fraction (C )on

    Tyrosine-Tyrosinase System

図3 Action of Carbohydrate Fraction (C) on

    Glutathione

ぷ4寸ぶ

 第3節 蛋自体分劃P’のチロシン・チロジナーゼ瓦

応系に及ぼす作用

 蛋自体分劃Pこと何等の作用も示さこい.

 第4節 蛋自体分劃Fのグルタチオンに対する作用

 圖4に示す如く,蛋自体分劃P≒ま,反塵容器中濃

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昭和34年4月20日

図4 Action of Protein Fraction(P') on

    Glutathione

imh) '0

図5 Action of Mixture(Carbohydrate and Pr-

   otein Fraction) on Glutathlone

度, 125, 62.5, 31.25, 15.62, 7.81及び8.6 r/ce の

各種の濃度に於て,グルタデオンに対して作用しなかっ

た.即ち,抗SH作用は認められなかった.

   第5節 C’及びP’のAuto-oxidation

 各分劃について,種々の濃度で実験したがAuto-

oxidationは殆んど認め得なかった.

 第6節 C’及びP’の混合液のグルタチオンに対す

る作用

 前述した各節の実験の結果,C≒よチロシン・チロジ

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ナー-ゼ反面系を,TTGと同様に促進する作用が認めら,

れたが,抗SH作用はなく,P'は,チロシン・チロジ

ナー七反感系に対して促進作用はなく,且つ抗SH作用J

も認められ底かった.

 しかるに,TTGでは,チコジン・チロジナー七反感

系促進作用と抗SH作用の両面の作用を有することは,

緒論に屯述べた如くであって,種々の比較実験から,蛋

白体部が抗SH作用に関沢するものであるうと推論して

いたところであるので,C/とP'とを混合することによ

ってTTGが有する様な抗SH作用の出現する可能性も

あり得るのではないかと思って,C´とP'の混合液を用フ

いて実験してみた.

 C'とP'の混合比を夫々3:1,1:1にして種々び

濃度で実験した結果,圖5に示す如く, C'a, P'l (C :

 187.5r/cc, P' :62.57/cc)及びC'I P'l (C': 31.25

rice, P': 31.25r/cc)が最も穎著に,抗SH作用を

呈した.しか%, C'i,P'iの如く低濃度のもので乱 混

合比如何によっては高濃度のC'3,P'lに匹敵する抗SH

作用を呈したことは,興味ある事実である.

         第4童 発熱試験

 使用したTTG.各分割及びその混合液の発熱試験をy

実施し,検討してみた.

 発熱試験は,目局, Pyrogen Test に準じて施行したl

ものである.即ち,体重2kg前後の合家兎を1週間,

23°Cの恒温室で飼育し,その環境に馴らし,7時間固定ス

して予備検温を行う.30分間隔で電位差計式熱電温度計・

で,直腸温を測定し,温度の変動のない家兎を撰定し,

発熱試験に使用するト予備検温の翌日或は翌々日の撰定し

された家兎を再び固定し,0時間,1時間,2時間の3度.

検温し,変動のないことを再確認してから,検体lr/kg

を耳静脈から注射し,以後4時間に亘り,15分間隔で検

温し,最高発熱度をとる,1検体につき3匹の家兎を使

用し,平均最高発熱度を発熱度としたものである.

 その結果は,表3に示す如く,分解前のTTGのもっ.

           表 3

Pyrogenecity TestTTG

MTi 1.05°C MT, 1.06°C

Fraction Mixture Fraction

(y ド C≒F1 C'3 P'l(y ド

0.07 0.95 0.52 0.3 0.2 0.77

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:392

発熱性に比較して,何れも低い発熱性を示している.

 CnよMT1及びMT2の由来に関係底く低発熱性とな

り,同時に施行した奢呂ニ試験に於て乱著しく毒性か弱

くなっている.特にC'とP'の混合液にっいては,その

混合比1:1及び3:1のものが,分解前のTTGのも

っ発熱性に比較して50%以上有発熱性を減少しているこ

とは,注目すべきことであると思う.

         第5童 考 按

 私は, Pyrogenの範喘に入り,化学的にLipocarbo-

hydrate-Protein ComplexであるTTGを,白斑局所

に皮内注射し.紫外線照射を併用する白斑の新治療法を

提唱し,その治療実験及び基礎実験に基いて,TTGの

局所作用としての奏効機序をTTGの新作用として,直

,接的に,チロシン・チロジナー七反面系を促進し,且つ

抗SH作用を示すと云う雨面の作用をもって白斑治癒

をもたらすものであると結論し,更に,その際,発熱性

及びPiromenとの比較実験の結果より, TTGを構成

する多糖体部分か,チロシン・チロジナー七反塵系を促

ラ進する因子であり,蛋自体部分が,抗SH作用に関輿

するものであるうと推論し,これを日皮会誌, 68, 589,

昭83に詳報した.

 しかしながら,果して, TTGを構成する各分劃が軍

触に,或は,綜合された形態で作用するのかと云う問題

に対しては,未解決であった.今同は,この問題につい

て解明するために,私は,TTGを酷酸分解して,多糖

体分劃C'及び蛋自体分劃P'を得,これをin vitro で

'実験してみた結果,圖6の模圖に示す如く,C≒ま,明

らかにチロシン・チロジナーゼ反面系を促進する因子で

あることか確認され,P≒よ単独では,抗SH作用を示

こさ次いか,C'と試験管内で混合するだけで,即ち,P'

はC'と共存する場合に抗SH作用因子として作用する

濾のであることが判明した.

 しか乱 混合比率の差により,抗SH作用の強弱の

,問題右判明した.即ち,本論文,第8章,第6節の実験

に示す如く,低濃度のものでも,即ち, C : P'か1:

1で,各々の反塵容器中濃度かS1.25r/ccのものが,

心:P'が3:1で187.5r/cc : 62.5 r/ccの高濃度のも

のと同程度の抗SH作用の強さを示した事実は, TTG

を構成する蛋自体部の比率的差によって,抗SH作用

口強弱かおることを実証したものである.

 叉,第4章に述べた如く,発熱試論に於て,C'とP'

jの混合液,即ち1 :1及び3:1の混合比のものが,分

丿解前のTTGのもっ発熱性に比較して50%以上乱それ

Tt- V

日本皮膚科学会雑誌 第69忿 第4号

図  6

 L: Lipid

 Cこ Carbohydrate (Poiysaccharide)

 P: Protein (Polysaccharide)

 C: Carbohydrate fraction

 P': Protein fraction

が減少していることは,TTGの白斑治療の際,発熱と

云う問題に於て,多発性及び巨大白斑に対する場合に,

特に初同使用量を或る程度制限しなければからないこと

を考慮するとき,副作用としての発熱と云う問題より解

放され,チロシン・チロジナーゼ反男系の促進作用と抗

SH作用も強く,且つ,臨床的により容易に使用出来る

発熱物質或は菌体成分由来の新物質がよりよい白斑治療

剤として出現する可能性を示唆するものとして,注目す

べきことであると思う.

           結   論

 TTGを酷酸分解して牧得した多糖体分劃C’及び蛋

自体分劃Fを使用して,それらの色素形成促進作用を

in vitroで実験した結果を要約すると次の如くである.

 1)C≒よ,チロシン・チロジナー七反男系の促進作

用を有するが,抗SH作用はみられない,

 2) P' !よ単独では,チロシン・チロジナーゼ反男系

の促進作用も抗SH作用奄認められない.

 8)しかるに,(yとPとの混合液の場合には,抗

SH作用を呈する.この事実は,P’がC’と共存する場

合に抗SH作用因子として作用するものと思引

 4)その際,抗SH作用の強弱はP’ :(ンの比率に

よって左右される.

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昭和34年4月20日

 5)混合液の発熱性は,分解前のTTGの示す発熱性

に比較して,50%以上七減少している.

 6)以上の実験の結果,TTGの白斑治癒作用は,

TTGを構成している多糖体部が,チロシン・チロジナ

ー七反鹿系促進因子であり,蛋白体部が抗SH作用因

子として作用するものであるとの推論を実証し,且つ,

臨床上,副作用としての発熱の問題を克服し,発熱物質

或は菌体成分由来の新物質が,よりすぐれた白斑治療剤

として出現する可能性をも示唆し得るものと思う.

393'

 本論文の要旨は,日本皮膚科学会東京地方会第372回・

例会にて発表した.

 摺筆するにあたり,御校閲を頂いた石津教授,並びに一

種々御協力を得た藤沢薬品会社関係者各位に謝意を表し

ます.

           文  献

 1)本多:東邦医誌, 4,83,昭3乙

 2)本多:日皮会誌, 68, 589,昭33.

 3)河西:日本細菌学雑誌, 5,(6), 385,昭25.

          (昭和34年2 M14H受付,特掲)