有明海と八代海の潮汐・潮流について - 九州大...

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有明海と八代海の潮汐・潮流について

九州大学 田井 明橋本彰博

鹿児島大学 齋田倫範長崎大学 多田彰秀

諫早湾潮受け堤防排水門からの排水の様子(2009/8/3)

有明海・八代海で赤潮や貧酸素水塊の発生により,深刻な漁業被害が生じている.

漁獲量は減生じているか不安定であり,両海域の将来に不安が抱かれている.

しかし,諫早湾干拓事業に関する論争で示されているように,海域の最も基本情報である潮汐・潮流に関する知見も未だに不十分で統一見解が得られていない.

有明海・八代海の水環境特性を理解すること目標

両海域の潮汐・潮流の知見(特性,過去からの長期的な変化,将来予測)を深める

得られた知見を多くの人(物理を専門としない研究者を含む)に利用してもらう.

本日の発表内容 → 物理の専門家の立場から行いたいこと

基本場となる潮汐・潮流などの知見を深め,物質輸送や海水交換を明らかにする

しかし,物理の専門家だけでは解決しないことは明らか.

水平移流

貧酸素水塊

光合成

呼吸死滅

酸素消費

鉛直輸送

海面からの供給

酸素供給<酸素消費 貧酸素化

潮汐・潮流が重要であることの一例 (貧酸素化について)

鉛直輸送は密度成層が発達すると小さくなる.密度成層を破壊する作用は潮流の大きさに支配される.

潮汐に対応して海底起源の乱れが発達している

有明海における鉛直混合強度の実測例

乱流エネルギー散逸率の25時間観測結果

潮汐・潮流の長期変化について

要因1.地形改変による潮汐の減少要因2.地形改変による入退潮量の減少要因3.18.6年周期の月の昇交点運動による潮汐の変動要因4.外海の潮汐の変化

有明海・八代海の潮汐・潮流を変化させる主な要因

各要因の変化に対する寄与の大きさを検討する.

最も大きいM2分潮を対象とする

有明海有明海 八代海八代海

1900年代1677km2 1017km2

20世紀中の地形改変の様子

有明海有明海 八代海八代海

1900s

1990s

1960年代1636km2 991km2

20世紀中の地形改変の様子

有明海有明海 八代海八代海

1900s1960s

1900s1960s

1980年代(諫早湾干拓前)1583km2 970km2

20世紀中の地形改変の様子

有明海有明海 八代海八代海

1900s1960s

1900s1960s

1980s

2000年代(諫早湾干拓後)1545km2 970km2

20世紀中の地形改変の様子

潮汐・潮流の長期変化について

要因1.地形改変による潮汐の減少要因2.地形改変による入退潮量の減少要因3.18.6年周期の月の昇交点運動による潮汐の変動要因4.外海の潮汐の変化

有明海・八代海の潮汐・潮流を変化させる主な要因

各要因の影響を定量的に見積もるために数値シミュレーションと実測データの解析結果を用いる.

・格子サイズ 10秒・格子数 438×468×10・水平渦粘性 Smagorinsky・干潟モデル 内山(2004)

全ケースで南側開境界に振幅0.7mのM2潮を与えて検討を行った.

数値シミュレーションの概要

・1900年代・1960年代・1980年代(堤防建設前)・2000年代(堤防建設後)

1.5131.178本発表で用いたモデル

1.5811.255国調費モデル

1.5371.227公害等調整委員会専門委員報告書のモデル

1.5131.195実測値(2001年)

大浦三角検潮所

本発表で用いたモデルの再現性

M2分潮振幅の口之津を基準とした増幅率の比較

(公害等調整委員会専門委員報告書より引用)

152.1(1.513)118.4(1.178)100.52000s

153.6(1.534)118.7(1.186)100.11980s

154.9(1.555)119.1(1.196)99.61960s

154.9(1.572)119.1(1.208)98.61900s

大浦

(湾奥)

三角

(湾央)

口之津

(湾口)

増幅率は顕著に減少しているが,振幅は口之津の振幅が増加することにより,増幅率より減少率が少ない

海岸線の変化によるM2潮潮汐振幅の変化(数値シミュレーション)

福江1964年~

長崎1960年~

口之津1968年~

大浦1962年~

三角1931年~

枕崎1956年~

実測データの解析は有明海付近で最も古くから観測が行われている三角のデータを用いた

1931年7月の潮汐観測原簿

・1961年以降は日本海洋データセンターにより電子化されたものを使用・1931年6月~1960年12月の間は現存する潮汐観測原簿を手作業で電子化

諫早湾干拓事業以前の湾奥部の干拓による潮汐の減少(要因1)外海の潮汐の変化(要因6)

1930年代 → 122.7cm1960年代 → 121.5cm1980年代 → 122.0cm2000年代 → 119.2cm

全期間を通じて3.5cmの減少

減少量 = 干拓の影響 + 外海の潮汐の減少の影響

三角において

3.5cm = 0.7cm + 2.8cm

要因1.地形改変による潮汐の減少要因3.18.6年周期の月の昇交点運動による潮汐の変動要因4.外海の潮汐の変化

20世紀中に生じたM2潮振幅の減少の大部分は干拓などの海岸線の変化ではなく,外海のM2潮振幅の減少であるこ

とを示した.

内湾~外洋を対象とした潮汐振幅の変動・変化について世界各地の潮汐データを対象に解析を行なう.

しかし,潮汐振幅の長期変動・変化に関する研究報告はない

要因4.外海の潮汐の変化

調和解析を行なった地点(データ:日本海洋データセンター)

要因4.外海の潮汐の変化

調和解析を行なった地点(データ:ハワイ大学海面センター)

要因4.外海の潮汐の変化

要因4.外海の潮汐の変化

調和解析を行ないM2潮振幅に対して順位相関検定を行なう.

日本の沿岸では減少傾向となっている.

要因4.外海の潮汐の変化

調和解析を行ないM2潮振幅に対して順位相関検定を行なう.

一定の傾向は検出できない

諫早湾干拓以前の干拓 諫早湾干拓

18.6年周期の極大期と極小期の差

湾奥においては以前の干拓と18.6年周期の変動の影響が大きい.島原半島沿いでも諫早湾干拓より18.6年周期の変動の方が大きい

要因1.地形改変による潮汐の減少要因2.地形改変による入退潮量の減少要因3.18.6年周期の月の昇交点運動による潮汐の変動

有明海・八代海の水環境特性を理解すること目標

両海域の潮汐・潮流の知見(特性,過去からの長期的な変化,将来予測)を深める

得られた知見を多くの人(物理を専門としない研究者を含む)に利用してもらう.

本日の発表内容 → 物理の専門家の立場から行いたいこと

現在,開発しているPOMのコードを公開して多くの人に利用してもらう

・多くの人の改良が加わり開発スピードが上がる.・物理場が専門でない人の要請に応える.・数値シミュレーションの社会的信頼性を向上させる etc.

計算コスト

・パソコン → Corei7搭載の昨年の最新だったもの(15万円)・コンパイラ → Intel Fortran linux版・図化ソフト → AV似非(無料),GMT(無料)・電気代 → ?

計算スピード

格子数:468×438×10計算ステップ:外部モード1秒,内部モード5秒

実時間の7倍(15日分の計算なら2日程度)

現在,ソースコードを共有している方々

・長崎大学(多田先生),鹿児島大学(齋田先生)

・福岡大学伊予岡先生,九州大学流域システム工学研究室・ハサヌディン大学,パル大学(インドネシア共和国)

興味をもたれた方は田井までお声をかけて下さい!