Post on 28-Jan-2020
医療被ばく・防護の基本
獨協医科大学 放射線医学講座
同 RIセンター
獨協医科大学病院 放射線部
楫 靖
ykaji@dokkyomed.ac.jp
2018年6月25日
H30年度 放射線等安全取扱講習会主催:RIセンター共催:医療安全推進センター・SDセンター教員研修部門
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医療に関わる皆さんが放射線を正しく理解しておくことは、
きわめて重要です
患者さんから検査の被ばくについて相談される
→わかりやすく説明する
→安心して検査を受けてもらえる
→病気を正しく評価でき、医療が上手く前に進む
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内 容
放射線の安全性に関して、様々なリスクをどのように理
解し、何に注意して患者さんに伝えるとよいか
1. 総論:正当化、最適化、リスク等
2. 放射線を用いる検査:原理、リスク
3. 伝える際の注意点
4. 正しく評価する・正しく防護する
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放射線による検査で得られる情報が、医療に必要であり、
他では得られない
→ (例:被ばく線量)を過剰に制限することで、
医療を止めてはならない
1. 正当化
医療に必要な情報を得ることができる最小の侵襲
(例:被ばく線量)となるように、撮影条件を工夫する
2. 最適化
CT、X線写真などの検査を行う際には、常にこの2つが満たされなければならない
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とりあえずCT、、、はだめ。目的は何か?
年齢や体格も考慮。低ければよいのではなく本来の目的を達成できる範囲内で低減。
検査を行うことで診療が変化するか
40 %
検査前確率何もしない
検査で疾患の有無を確認する
すぐに治療に入る
0 50 100
1. 正当化検査を行い情報を得ることで、診療が変化するか? → Yes →
X○ ○
「診断・治療に関する基本的な統計学的用語について」IVR会誌, 20:385‐389, 2005
疾患Aである確率
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「最適化」の考え方放射線を使って動物の写真を撮る(仮の話)放射線の量を多くすれば細かくきれいに見えるどこまで必要か? → 「検査の目的は何?」
1003020クマか?コアラか?区別したい
○ ○×診断が可能な、できるだけ少ない被ばく線量で検査をする
被ばく線量(仮)
92. 最適化
検査をするかしないかの判断
検査施行
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大 小
医療者側が客観的に見ると
可
否検査しない
場合のリスク
検査しない場合のメリット
検査が怖い患者さん
検査時のリスク
両者を丁寧に説明し、同意を得る
医療上患者さんが
受けるメリット
専門家が示す客観的なリスクと非専門家が認知するリスクのずれ
リスク = 重篤度 ×確率
リスク = 重篤度 ×確率リスク=
なぜ、認知がずれるのか? → 次スライド
「リスク = 危険」 ではない
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ヒューリスティックス〔heuristics, 経験則〕
• 意志決定に際して複雑な問題を解決するために、だれも
が自然に用いている法則
• 短時間で判断できるが、心理的偏りを生じる
• 例として、「良い」「悪い」という感情のみでの判断
→ 「自然放射線と人工放射線だと後者の影響が悪そう」
• 目立つ情報・負の情報(危ない!)に注目しがち
• データの有意性への注意欠落13
カリウム40 セシウム137
検査のリスクを過剰にとらえてしまう
怖いものから逃げる本能のようなもの
できること:自ら納得して偏りを修正できるように、信頼性の高い情報を提供する
画像検査の種類
►電離放射線を用いる診断→被ばくあり
エックス線検査
CT
核医学検査
►電離放射線を用いない診断→被ばくなし
超音波検査(US)
磁気共鳴画像検査(MRI)
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放射線発生装置を用いる
放射性物質を用いる
放射線の出方を分けて考える
• 放射性物質:ずっと放射線が出る(時間とともに弱くなる) → 原発事故で環境中に広がった放射性物質、医療では核医学検査で使う薬
・ 放射線発生装置:スイッチを入れたときだけ放射線が出る→ 胸部X線撮影装置、CT、
放射線治療装置など
(放射性物質には)
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19
撮影で用いる放射線の量は比較的小さく、1.5m程度離れれば充分に小さくなります。回診中に偶然撮影が始まるような時は、個室であれば部屋の隅の方に、大部屋であれば、1.5~2m程度離れてください。他の患者の処置中であればそのままの位置でも被ばくは大きくありません。 放安QA
患者の撮影時に介助が必要な場合は、防護衣を着用しますが、病室に入ってから防護衣を着けると、放射線検査を仕方なく受けようと思っている患者の場合気分を害することがあります。
予め部屋の入り口で白衣の下に着用するなど、撮影される患者の気持ちに配慮した、ベッドサイドマナーの向上にも取り組んでください。
CT装置
管球からX線を放出↓
体内を通過(組織の種類に応じた吸収あり)
↓反対側にある検出器に到達
↓管球・検出器とも回転しながらデータを取得。
それを用い画像化。
原理
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スイッチを入れた時のみ放射線が出る
放射線の単位の話
CT撮影の際にX線を下腹部に○Gy 与えた(装置側で加減できる)
吸収線量(グレイ Gy)
X線○Gy を体が吸収したとき体に生じる影響の程度を△Sv と表す
影響の強さを表す線量(シーベルト Sv)
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影響の強さの表現には「等価線量」と「実効線量」の二種類ありいずれも単位はSvを使用。発がんリスクを語る時のSvは主に「実効線量」の話。(「吸収線量」Gyの立場から発がんリスクを語ることもある)
原理
放射線治療の際も局所にあてる量の単位としてGyを使う
放射線の健康影響はどのくらいか(これまでの知見)
• 影響の程度は「放射線の種類」と「量」による
• 一度に浴びるときと、同じ量を分割して浴びるときでは、
分割したほうが影響が弱くなる
• 確率的影響:線量に応じて影響が出る確率が変化する
(リスクがどのくらい増加するか)
→ 発がん・遺伝的影響
• 確定的影響:ある値を超えて初めて影響がではじめる
→ 不妊、白内障、皮膚炎、奇形、、、
100~500mSv を越えると考慮
胎児は100mGy,男性では150mGy を越えるような場合
放射線検査はこれらを十分下回っています
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リスク
2630
放射線医学総合研究所診療に役立つ放射線の基礎知識 被ばく医療に関するe‐learning
しきい線量100 mGy
しきい線量100 mGy
しきい線量300 mGy
確定的影響
リスク
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与えた
100mGy →100mSv
*Rothkamm K and Lobrich M. PNAS. 100: 5057–5062, 2003.
放射線によるDNA損傷の量
傷の種類自然の傷
(/細胞/日)放射線の傷(/細胞/100 mGy)
塩基損傷 20,000 30単鎖切断 50,000 100
二本鎖切断 10 3*
近藤宗平 .人は放射線になぜ弱いか第3版, (講談社)
二本鎖切断 を受けた細胞→ 修復/不完全修復/死
この一部が生き残るとがんの元になる可能性あり25
確率的影響
リスク
例:30歳代、急性腹症 妊娠38W CTで精査できる?
正当化:超音波検査では原因不明。帝王切開時に併せて治療ができる原因があるか、確認したい。
最適化:虫垂炎だけでなく腹部全体チェック必要。再構成が可能な条件で(通常条件)。
CT施行
可
否検査しない
場合のリスク
検査しない場合のメリット
検査時のリスク
両者を丁寧に説明し、同意を得る 27
医療上患者さんが
受けるメリット
3700
59.43 1237
9.96 330
13.46 978
13.48 782
13.46
13.46
13.46
13.46
ダイナミック撮影を1セットで1416 mGy.cm
CTDI(mGy) DLP(mGy.cm)
獨協医大病院でのCT検査線量比較
2.594.6213.711.3
21.4mSv
*換算係数 Managing Patient Dose in MultiDetector Computed Tomography(MDCT). ICRP Publication 102, Ann. ICRP, 2007.
DLP541
→ 8.1mSv
今回症例ある一定の体格であると仮定しDLPに換算係数*をかけて大まかな実効線量算出
(年齢、性別、身長、部位、使用装置により係数が変化する)。
あくまで標準的体型の人の数値ですが「100 mSvと比較してこの程度」です。CTの必要性が高いときには、この数字を思い出して下さい。
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放射線による不妊への影響は生殖腺が4,000~6,000mGy以上被ばくした場合です。自分の被ばく線量を確認して、充分に低い被ばく線量であることを確認してください。妊娠後は胎児と公衆は管理上同じ扱いとなり、胎児の線量をコントロールすることを目的とした妊婦の線量管理を従事者に適応します。 放安QA
妊活の
貴方が上司で、妊活のために放射線診療から外して欲しいと申し出を受けたときは、そのスタッフが本当にそう思うようになった背景や家族の希望などを注意深く聞き、科学的事実で対処するだけで無く、当事者の精神的な負担が無いように対応してください。
ポイント
相手のペースに合わせ丁寧に傾聴する。
質問の意図を的確に把握する。(例:被ばくの事なのか、造影剤の事なのか)
線量という数字を上手く活用する。しかし、数字に頼りすぎてはならない。
「(相手が)何を心配しているのか?」
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‘問題点に限定して答える’
分からないことは無理に説明しない。
「母親が乳癌で亡くなっている女性が、頭のCTを撮影した」→「この被ばくで、私が乳癌になる確率が高まった!」と心配
回答:乳腺にはエックス線はあたってないので確率は高くならない
通常のCT検査説明にも利用できるように電子カルテから印刷可能
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救急・時間外外来でのCT検査は説明が不十分になってしまうことがある。
後から不安を訴える方も。
左のような説明書を作り検査説明時に手渡す。待合室にもポスター掲示。
どのように安全性を伝えるか
• 検査の「正当化」と「最適化」が成立することを確認できたら、自信をもって説明する。
• 医療上で不可欠な検査であっても、リスクの説明を行う。
• 相手の心配を受け止める(否定しない)。
• 心配な部分に焦点を絞った説明をする。
• 分からないことは分からないと伝える。
• 丁寧な説明と配慮により信頼感が増す。38
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測定点の線量を基本に全身の被ばく量を考えるため、女性は卵巣に近い腹部に装着します。これが基本の線量計となります。防護衣はこの線量計を着けた後に上に着てください。
放安QA
被ばく線量を正しく評価し適切に管理するために
図:千代田テクノルHPより
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頻回に防護衣を着る業務をする場合は、さらに一つ線量計を防護衣の外、できれば頸部に着けてください。防護衣の外に出ている皮膚や眼の線量を正確に推計するためです。その他、手指が極端に被ばくすると考えられるときは指輪に線量計が着いたリングバッチも利用します。
図:千代田テクノルHPより
防護衣の外