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ろう・難聴児のアイデンティティー確立に必要なこととは
~心理・環境面へのアプローチから~
東海大学健康科学部社会福祉学科 実習指導講師 高山 亨太
1 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
人は• 「得られない」ことよりも「失う」ことの方をより強く嫌がる。
• 「天国に至る道は、地獄に至る道を熟知することである」
• 政治思想家 ニッコロ・マキャベリ
2 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
ろう・難聴の子どもに対する教育制度0歳 3歳 6歳 12歳 15歳 18歳 就学前 小学校 中学校 高校 大学
特別支援学校(ろう学校)
特別支援学級(難聴学級)
特別支援学級(難聴学級)
通級指導 通級指導
特別教育支援員
保育園幼稚園
児童福祉法 取り組みに遅れ
基本的にはなし
筑波技術大学
5 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
ろう学校で採用されている 教育方法 n=118
0
17.5
35
52.5
70
聴覚活用・口話法
キュードスピーチ
手話 TC
バイリンガル
50
64
70
7
67
9 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
ろう学校における 各種サービス n=118
0
30
60
90
120早期教育・両親支援
言語療法
聴覚療法
重複障害児教育
手話通訳
カウンセリング
ソーシャルワーク
家族支援
手話クラス
人工内耳支援
91
8290
63
90
70
83
99
112
87
10 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティ (Identity)とは?
• 自分の内的な歴史の一貫性を持つことは、アイデンティティの重要な要素である(Erikson 1950)
11 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティーに影響を与える概念
生理学的な特徴 社会的に構築された概念
肌の色 「人種」
性別 「ジェンダー」
年齢 「子ども」など
障害 「障害者」
12 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティ形成危機と青年期
• アイデンティティの危機にさらされやすいのが青年期• アイデンティティの形成の問題は青年期のみに限定される発達課題ではない
• Erikson「青年期の終わりがはっきりした同一性の危機段階であるからといって、同一性形成そのものは、青年期に始まる訳でも終わるわけでもない。つまり、自我同一性形成は、その大半が生涯にわたって続く無意識的な発達過程である。そして、その根源は、早期幼年期における自己是認にまでさかのぼることができる。」
13 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
現在の日本の青年の課題
• 「同一性対同一性拡散」の問題よりも先に、同性や異性のパートナーとの対象関係である「親密対孤独」の問題に直面しやすい。(福島 1999)
14 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
青年期における自己の再構成(高田 1987)
• 身体の成熟や認知能力の発達と青年と周囲の他者との関係の2つの側面が青年期の背景にある。
• 青年期に入ると一般的に自分を批判的に見つめる傾向が強くなる。
15 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
青年期における反抗期
• 反抗期は、親から自立していく過程であり、親とは違った価値観、信念、理想を確立していこうと青年が努力していく時期である。
• 心理的離乳と呼ばれる。
16 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
文化
•アイデンティティの獲得には、ろう文化と聴者の文化をどう取り入れていくのかの問題を解決していく必要がある。(Padden&Humphries 1988)
18 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
否定的自己像• ろう・難聴児の90%は、生まれたときは聴者の文化の中におり、聴者をモデルとした従来の障害観や、それに基づく療育環境の中で、ろう・難聴児は否定的な自己像を形成していくことがある(Backer & Cokely 1980)
19 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
様々な理論モデル1.障害側面(Disability framework)から捉えたアイデンティティ(Weinberg・Sterritt 1986)「ろう」か「難聴」かで区分される考え方
2.帰属意識の側面(Social identity parameters)から捉えたアイデンティティ(Stinson・Kluwin 1996)社会における帰属意識によって、アイデンティティが決定される
3.文化的ろうアイデンティティの発展(Glickman 1996)文化的少数民族としての観点からとらえた考え方
4.適応という側面からアイデンティティを捉えた考え方
21 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
Glickman(1996)によるろう・難聴児の アイデンティティの発展
①文化的聴者(Culturally hearing)
聴者のやり方や言動に合わせ同化しようとする段階
②ろう文化と聴者文化の境界(Marginal)
両者の世界の間で揺れ動き、自身のアイデンティティに戸惑いが生じる時期
③ろう文化に傾注(Immersion)
聴者文化の価値観を中傷する時期
④二文化併存:バイカルチュラル(Bicultural)
ろう文化と聴者文化の2つの世界を肯定し、上手に生きるためのアイデンティティに統合・昇華していく段階
22 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
Holcomb(1997)による文化的自覚の発達モデル
• 聴者の価値に同調する「聴者段階」• 成人ろう者との出会いにより既存の価値観に対する疑念が生じる「不調和段階」
• 聴者との関係を希薄化し、ろう者との関係を深めていく「抵抗と没頭段階」
• 聴者への態度が和らぎ始める「内省段階」
• 両文化に融和を図る「自覚段階」23 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
Maxwell-McCaw(2001)によるデフアイデンティティ適応モデル
• 社会的グループにおける心理的アイデンティティ
• 自分が所属するグループおよび他者グループにおける姿勢
• 文化的行動• 文化的知識
24 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
デフアイデンティティ適応モデルと心理的傾向
SWL SE
聴文化適応 やや低い やや良い
ろう文化適応 高い 高い
バイカルチュラル適応 高い 高い
マージナル適応 低い とても低い
SWL=人生への満足度SE=セルフエスティーム
25 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティ発達(甲斐 2008)
• 促進要因• 手話の肯定(集団コミュニケーションが形成されている)
• デフファミリーの存在• 周りにろうの友人がいる、成人ろう者との出会いがある
26 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティ確立に向けて
• 自己や他者の文化への気づき(Awareness)
• 異文化接触に伴う心理的反応関する知識(Knowledge)
• 異文化接触に起因する問題への対処行動技術(Skill)
27 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティ発達支援プログラムの実施と評価(甲斐 2008)
• 自分のこころを他者に語る(自己理解• マイノリティ体験(他者との違い理解• 他者との考えや気持ちが違うことを理解する
• ロールプレイによる解決方法の学習• 周囲との協働する方法
28 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
バイリンガル・ バイカルチュラル
•世界的にもモノリンガルは少数者 •バイリンガル・バイカルチュラルのメリットについてもきちんと勉強すること
•ろうの子どもにとって、母語はどうあるべきか?
•母語は必ずしも母親や父親から継承、学ぶべきものとは限らない
30 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
Language Arts ASLバイリンガルプログラムの場合
•言語面の到達目標 •文化面の到達目標 •アイデンティティの到達目標 •学習面の到達目標
31 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
言語面の到達目標•自然な状況での二言語使用を促す • ASL、英語、それぞれの芸術的(artistic)使用を鑑賞する力を育てる
•ドラマ、語り、詩などを通して、それぞれの言語のランゲージ・アーツの学習体験を与える
•英語の読み書きとASLの応用力を早期に伸ばすため、児童にとって興味ある学習体験を与える
32 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
文化面の到達目標•「ろう」文化の伝統に触れる機会を与える •「ろう」以外のほかの伝統文化に触れる機会を与える
•「ろう」児と聴児が協力して、それぞれのグループの文化や言語に関するプロジェクトをする機会を与える
•異なった民族、文化、宗教、世代、性別の人々に対する前向きの態度を育てる
33 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
アイデンティティの到達目標•「ろう」のロールモデルに触れさせる •「ろう」児としての誇り、自尊感情を育てる •「ろう」者と聴者のアーティストを助言者として紹介する
•児童に創造的な自己表現、自己探求の機会を与える
•芸術的センスに恵まれた児童に、その力を伸ばす機会を与える
34 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
学習面の到達目標•学習することがおもしろいこと、創造的、アクティブなプロセスであることを実体験させる
•学習者として、また話し手、話し相手として自信を持つように指導する
•ドラマ、語り、詩などを通して、自分の興味、趣味を伸ばすように指導する
35 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
メンタルヘルスリテラシー Mental Health Literacy: MHL
• 「精神疾患に関する知識や信念をさし、それがその病気の認知や管理、そして予防に役立つようなものをさす」(Jorn, A. F. 1977)
39 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
カリキュラムモジュール案• 精神疾患に対するスティグマ
• 精神保健と精神疾患に関する適切な理解
• 特定の精神疾患に関する情報
• 精神疾患に関する経験
• 助言や支援の求め方
• 積極的精神的健康の重要性
40 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
キャリアの観点から自分の役割を果たしたり学習したりすることによっ
て、身につけてきた能力、人間関係など
学習
役割 仕事
人脈技術
能力価値 学習
役割 仕事
人脈技術
能力
価値
キャリア発達 41 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日
• 貴方を支援してきたのは誰ですか?
• 貴方の人生に貴方を激励し、今日の貴方となるのを援助してくれた人がいますか?
• そうした人々に感謝しなさい
• そして、それを次の世代に継承しなさい
• 一人の子どものメンターになりなさい
Harvard Mentoring Projectのポスターより
42 関東聴覚障害教職員懇親会 - 2014年12月19日