口腔領域の成長発達と 摂食嚥下機能障害...

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口腔領域の成長発達と摂食嚥下機能障害

-重症心身障害児の配慮-

地方独立行政法人神奈川県立病院機構神奈川県立こども医療センター摂食嚥下サポートチーム・歯科

佐々木康成

退院・在宅医療支援室主催 小児医療ケア実技研修会2019年9月27日

摂食障害に導く阻害要因

摂食機能障害

精神(知的)発達遅滞

不適な食環境摂食姿勢食物内容・形態摂食器具介助方法

感覚運動体験不足

形態発育の不調和

関連筋群の非協調運動

中枢神経系の障害

機能(運動)発達遅滞

気管

硬口蓋 軟口蓋

鼻腔

上顎骨

口唇舌

舌骨

下顎骨

口腔上咽頭

口蓋帆

中咽頭

下咽頭

食道

気管

声帯輪状軟骨甲状軟骨喉頭蓋

喉頭 細菌の繁殖した食さ・歯垢や唾液が気管に入ること(誤嚥)が原因で起こる

摂食に関わる組織と誤嚥

誤嚥をきたしやすい病態①神経・筋疾患:脳血管障害(急性期:顕性誤嚥・慢性期:不顕性誤嚥)、認知症(痴呆)、パーキンソン病(咳反射、嚥下反射の低下)変性神経疾患②胃食道疾患:アカラシア、胃食道逆流、胃切除後(特に胃全摘)

③口腔~咽頭異常:歯の咬合異常、口腔内悪性腫瘍、咽頭・喉頭腫瘍

④医原性:鎮痛薬・睡眠薬、気管切開、経管栄養、副作用としての口腔内乾燥

⑤意識障害⑥寝たきり

誤嚥性肺炎

診断

嚥下障害の存在

胸部エックス線写真の浸潤陰影

末梢血白血球数の上昇(10000/μl以上)

の3所見で診断可能とされる

(日本呼吸器学会「呼吸器感染症に関するガイドライン」)

発熱や咳・痰等の臨床症状と基礎疾患および食事している場合は食事中のむせなどの聴取から本疾患を疑う

=経口摂取している場合は一時的に中断、やめるように促して診断を勧める

発達の特徴 障害された時

経口摂取準備期哺乳反射、指しゃぶり、玩具なめ、舌突出、等。

拒食、過敏、接触拒否、誤嚥原始反射の残存等。

嚥下機能獲得期下唇の内転、舌尖の固定、舌の蠕動様運動での食塊移送など。

むせ、乳児嚥下、逆嚥下、食塊形成不全、流涎など。

捕食機能獲得期顎・口唇の随意的閉鎖、上唇での取り込み(擦り取り)など。

こぼし(口唇からのもれ)、過開口、舌突出,スプーンかみなど。

押しつぶし機能獲得期口角の水平の動き(左右対称)舌尖の口蓋皺襞への押し付けなど。

丸のみ(軟性食品)、舌突出、

食塊形成不全(唾液との混和不全)など。

すりつぶし機能獲得期口角の引き(左右非対称)、頬と口唇の協調運動、顎の偏位など。

丸のみ(硬性食品)、口角からのもれ、処理時の口唇閉鎖不全など。

介助食べが主である時期(手づかみ食べ準備期、手づかみ食べ、食具食べ獲得期につながる)

小児の摂食嚥下リハビリテーション、向井美恵

摂食機能の発達摂食・嚥下において重要とされるアセスポイント

*実習あり

*実習あり

*実習あり

*実習あり

①食べ物の認知(認知期)

摂食・嚥下の流れ(5期分類)摂食・嚥下において重要とされるアセスポイント

②口への取り込みと食塊形成(準備期)

③咽頭への送り込み(口腔期)

⑤食道通過(食道期)

④咽頭通過(咽頭期)

誤嚥喉頭侵入

*実習あり

*実習あり

*実習あり

*実習あり

発達の特徴 障害された時

哺乳反射、指しゃぶり、玩具なめ、舌突出、等。

拒食、過敏、接触拒否、誤嚥原始反射の残存等。

①食べ物の認知(認知期)(発達段階分類:経口摂取準備期)

上唇の働き食物の感知量、温度、硬さなどの感知→摂取可否の選択、量の調整嚥下機能への関与

発達段階分類:捕食機能獲得期

発達の特徴 障害された時

顎・口唇の随意的閉鎖、上唇での取り込み(擦り取り)など。

こぼし(口唇からのもれ)、

過開口、舌突出,スプーンかみなど。

②口への取り込みと食塊形成(準備期)

発達の特徴 障害された時

押しつぶし機能獲得期口角の水平の動き(左右対称)舌尖の口蓋皺襞への押し付けなど。

丸のみ(軟性食品)、舌突出、

食塊形成不全(唾液との混和不全)など。

すりつぶし機能獲得期

口角の引き(左右非対称)、頬と口唇の協調運動、舌の左右運動、顎の偏位、咀嚼側」の口角が縮む、など。

丸のみ(硬性食品)、口角からのもれ、処理時の口唇閉鎖不全など。

発達段階分類:押しつぶし機能獲得期 すりつぶし機能獲得期

適した食形態指やスプーンで簡単につぶせる硬さバラバラにならない

舌だけでなく頬の動きも必要

②口への取り込みと食塊形成(準備期)

食物が歯列の上からこぼれて頬側に落ちてしまっている。

口腔機能と食形態の不調和による口腔内環境の問題

1.食物形態

固いもの、小さなもの、ばらつくものは噛みにくい

2.食物の量

処理能力超えて一口量が多すぎると

噛む動きが出にくい

3.口腔機能の問題

食物を歯の上に運ぶ

→舌の左右の動き

食物を歯の上に保持する

→舌と頬粘膜で支える

小さくなったものをまとめて

飲み込みやすい形にする

→舌の上下の動き

すりつぶしや咀嚼を困難にする食環境・口腔機能の問題

④咽頭通過(咽頭期)(発達段階分類:嚥下機能獲得期)

哺乳期 → 離乳期 → 乳歯萌出期

中咽頭の形態の比較により、成長につれて咽頭が大きくなり、それに伴って誤嚥のリスクも高くなる。

(弘中祥司 ら:平成20年度厚生労働研究報告書)

口腔・咽頭の成長変化

③咽頭への送り込み(口腔期)

生理的嚥下と障害児にみられる異常嚥下

乳児嚥下(哺乳時にみられる状態

成人嚥下

呼吸 呼気と同期するが呼吸停止は短い

呼吸を停止して行う

口唇・顎 顎が開き、上下口唇も開いている

口唇を閉鎖して嚥下

舌尖の位置 舌尖は下顎歯槽提と乳首の間

舌尖は口蓋に押し付けて固定

生理的嚥下

健常児(者)における食物摂取食べる機能の障害、金子芳洋編、医歯薬出版より引用

生理的嚥下と障害児にみられる異常嚥下

逆嚥下 舌突出嚥下

食物の流れ 舌根部から中咽頭部を開いて食塊を落とし込む

舌の使い方 舌後方を押し下げて舌根部を開く 舌を突出して舌根部を開く

異常嚥下

逆嚥下

舌突出嚥下

食べる機能の障害、金子芳洋編、医歯薬出版より引用

送り込み・咽頭通過しやすい食物の物性

舌を使って食物を口腔から咽頭へと送り込む「口腔期」では、舌を含む機能障害や形態異常があると適切に食塊を送り込みが困難→ 咽頭に送り込みやすい形状に食物を調整する必要がある

A. 主・副食品・適度に軟らかい(硬さ)・べたつかない(付着性)・まとまりやすい(凝集性)ヨーグルト、ゼリー、プリン、茶わん蒸し、絹ごし豆腐、テリーヌ、バナナ、乳児用せんべい、メロンなど

・適度に水分を含む(水分含量)全粥、全粥ミキサーゼリー、煮魚、野菜の煮物

B. 飲み物・適度にトロミがある(粘ちゅう性)

ポタージュスープ、ネクター(食品:シチュー・カレーのルー)

調理・形態の工夫

ペーストの場合は適度なとろみ (ヨーグルトレベルが基準)

温める→冷めると硬くなる

ばらつく物(サラダ,豆,ひき肉など)

調味量の利用(ケチャップ,マヨネーズ)

あんかけ(ダシ汁に増粘剤でトロミをつけたもの)

麺類

多く入らないように少量ずつ分ける

短く切って,スプーンで食べる(とろみの応用)

大きなもの→キッチンバサミなどで細長くする→

かじり取りやすい形

機能に合わせた食形態の工夫

常食(6段階)

副食(重心食)4段階

副食(軟流動食)4段階

形状、物性は、そろえる。誤嚥防止にも重要

軟食 ペースト食

食形態による熱量の変化

食物形態 カロリー(100g当たり)

重湯 21 kcal

全粥ミキサー 36 kcal (全粥に加える水分量によって変わる)

全粥 71 kcal

普通飯 168 kcal(摂食・嚥下障害の患者さんと家族のために、

インテルナ出版、東京)

形態を落とすと、必要摂取量を食べるのには多くの負担をかけ高カロリー補助食品などの工夫が必要

70~80 21 22 23 24 2550~70 20 13 14 15 1635~50 19 12 7 8 920~35 18 11 6 3 40~20 17 10 5 2 1IQ 走れる 歩ける 歩行障害 座れる 寝たきり

重症心身障害児の定義(大島の分類)

(1~4が重症心身障害児)

摂食機能における重症心身障害児のハンディ

摂食機能における重症心身障害児のハンディ

Japan Coma Scal(JCS) :意識障害尺度

III 刺激をしても覚醒しない状態300 痛み刺激に全く反応しない200 痛み刺激で少し手足を動かしたり顔をしかめる100 痛み刺激に対して、払いのけるような動作をする

II 刺激すると覚醒する状態(2桁の点数で表現)30 痛み刺激を加えつつ呼びかけを繰り返すとかろうじて開眼する20 大きな声または体を揺さぶることにより開眼する10 普通の呼びかけで容易に開眼する

I 刺激しないでも覚醒しているじょうたい(1桁の点数で表現)3.自分の名前、生年月日が言えない2.見当識障害がある1.意識鮮明とは言えない

経口摂取には、意識レベルが鮮明であることが必要。意識レベルは日時によって変化することもあり注意を要する

摂食嚥下障害と関連する重症心身障害児の合併症

・呼吸障害:扁桃肥大・舌根沈下・喉頭軟化症・胸郭変形

・消化器通過障害:胃食道逆流現象・便秘・筋緊張の亢進・痙攣およびてんかん・その他栄養障害・貧血・易感染・骨折(骨粗鬆症)・褥瘡

舌・頬・口唇の機能のバランスがくずれることで、歯列咬合の不正さらに、口唇閉じの困難など機能障害につながる

重症心身障害児においてこわれやすい軟組織と歯列咬合のバランス

頬圧

口唇圧

頬圧

舌圧

舌圧

重症心身障害児に注意が必要な誤嚥・窒息を起こしやすい食環境

食形態と機能の不調和(舌・喉頭の挙上不良、丸のみ)

一口量が多い スプーンの大きさも影響

詰め込む(嚥下前に口の中に追加する)

頸部が上向きの姿勢(喉頭が挙上しにくい)*実習あり

緊張による処理中の呼吸と嚥下のリズムのみだれ

自食している場合は見守りや声かけが必要

→誤嚥・気道の物理的閉鎖

誤嚥や誤嚥性肺炎の発症予防に対する口腔ケアの有効性

入念な口腔ケアは、気道防御反射である咳嗽反射の誘発閾値を低下せるとともに、口腔内の細菌叢や真菌層を減少させることで嚥下性肺炎の危険性を低下させる効果があり、嚥下障害に対する治療の一環として実施することが奨励される。

嚥下障害診療ガイドライン2018年版

一般社団法人 日本耳鼻咽喉科学会

Schour & Masslerの原図改変(歯・口の働きとつくり,

少年写真新聞社, 2002)

歯は

中学生いっぱい程度かかって、

智歯を考えると20歳以上までもかかって発育・成長を続ける

歯列咬合の成長

口の中の状態の把握が重要

環境による口腔の変化

歯列狭窄

口腔乾燥

開咬

舌側傾斜した下顎前歯歯肉炎・歯石沈着

(上段12歳男児 脳性麻痺 経口摂取, 下段 13歳女児 脳性麻痺 胃瘻)

誤嚥の分類と初期対策

機会誤嚥→ 食環境(態勢、食具等)の工夫

水分誤嚥→ とろみの応用・食形態の工夫

食物誤嚥→ 味覚刺激

唾液誤嚥→ ケア・マッサージ、嚥下促進訓練

嚥下機能の向上

摂食開始にあたってのチェックポイント

不顕性誤嚥の有無の診断にはVEあるいはVF検査が必要

食事中のチェックポイント・食環境(姿勢、食具など)の問題

・摂食機能と食形態のバランス

・食べ方

(ペース、一口量、介助法)

→嚥下にかかる時間、口腔内の残り具合、

食べこぼし、むせ、喘鳴、呼吸状態

・摂食量/水分量

食事以外の時間で摂食嚥下の促しに役だつリハビリ

バンゲード方式Ⅰ・受動的訓練法 指示が通じなくてもできる

・半能動的訓練法・能動的訓練法

筋刺激訓練法 口唇・頬・舌の筋肉を刺激する受動的訓練法 (一日2~3回各5分程度)バンゲード方式Ⅰ・口唇訓練外側から、指をつかって上下の口唇をそれぞれ左右にわけて(学童以上は3等分)①つまむ②膨らませる③縮める④のばす、そして⑤オトガイ部を軽くたたく・頬訓練硬さを調べるような気持ちで、人差し指と親指でゆっくりもみほぐす。頬をゆっくり、頬の中央部にあめ玉が入ったようにしっかり外側に膨らませる・舌訓練(口外法)

顎の骨のすぐ後ろのところをゆっくり上に押し上げる。舌を挙上させてその先が口蓋にふれるように

小児の摂食嚥下リハビリテーション、医歯薬出版)

・嚥下促通訓練

歯肉マッサージ嚥下運動を誘発する、口腔内の感覚機能を高めたり、唾液分泌を促したりする効果スプーンやハブラシを口に入れたときにそれを咬んでしまうような場合、それを軽減させるときもこのマッサージは効果的

参考図書

・食べる機能の障害 金子芳洋編、医歯薬出版株式会社

・小児の摂食・嚥下リハビリテーション田角勝、向井美恵編著、

医歯薬出版株式会社・嚥下障害診療ガイドライン 2018年版、

出版株式会社・誤嚥性肺炎の治療と再発予防のコツ、

Medical Rehabilitation No.160、全日本病院出版会

参考資料 すりつぶしにかかる回数 1

参考資料 すりつぶしにかかる回数 2