医療・介護関連肺炎 (nursing and healthcare...

Post on 30-Apr-2019

219 views 0 download

Transcript of 医療・介護関連肺炎 (nursing and healthcare...

肺炎診療について

高松赤十字病院六車博昭

モーニングセミナー

死因別にみた死亡率の年次推移

脳血管疾患

悪性新生物

心疾患

肺炎不慮の事故自殺

肝疾患

結核

肺炎は老人の友

「成人肺炎診療ガイドライン2017」フローチャート

「成人肺炎診療ガイドライン2017」フローチャート

肺炎の分類(発症の場所による分類)

市中肺炎(Community-aquired pneumonia:CAP)病院外で日常生活をしている人に発症する肺炎

院内肺炎(Hospital-aquired pneumonia:HAP)入院48時間以上経過した患者に新たに出現した肺炎

医療・介護関連肺炎(nursing and healthcare-associated pneumonia:NHCAP)医療ケアや介護を受けている人に発症する肺炎。下記の定義項目を1つ以上満たす。1、療養病棟に入院もしくは介護施設に入所している2、90日以内に病院を退院した3、介護を必要とする高齢者、身体障害者4、通院で断続的に血管内治療(透析、抗菌薬、化学療法、免疫抑制薬等)を受けている

市中肺炎(CAP)

①敗血症の有無の診断②重症度の判断

治療の場と治療薬の決定

•軽症~中等症

•中等症~重症

•敗血症•重症~超重症

外来 一般病棟入院 ICUまたはこれに準ずる病室へ入院

外来患者群治療

一般病棟入院患者群治療

ICU入室患者群治療

敗血症の定義

感染症に対する制御不能な宿主反応に起因した生命を脅かす臓器障害

まずquick SOFA(qSOFA)スコアが2点以上あれば敗血症が疑われる。

臓器障害の評価を行って、SOFAスコアがベースラインから2点以上増加すれば敗血症と診断される。

qSOFAスコア1)呼吸数 22回/分以上2)意識変容3)収縮期血圧100mmHg以下

敗血症および敗血症性ショックの診断のフローチャート

0点 1点 2点 3点 4点

呼吸器PaO2/FiO2(mmHg)

>=400 <400 <300 <200+呼吸補助

<100+呼吸補助

凝固能血小板数

>=15万 <15万 <10万 <5万 <2万

肝臓ビリルビン(mg/dl)

<1.2 1.2~1.9 2.0~5.9 6.0~11.9 >12

循環器MAP>=70mmHg MAP<70mmHg

DOA<5 or DOB

DOA 5.1~15 or Ad <=0.1or NOA<=0.1

DOA>15or Ad>0.1

or NOA >0.1

中枢神経Glasgow Coma Scale 15 13~14 10~12 6~9 <6

腎臓クレアチニン(mg/dl)尿量(ml/日)

<1.2 1.2~1.9 2.0~3.4 3.5~4.9<500

>5.0<200

SOFAスコア

DOA;ドパミン、DOB;ドブタミン、Ad;アドレナリン、NOA;ノルアドレナリン

重症度分類:A-DROP

A(Age): 男性70歳以上、女性75歳以上

D(Dehydration): BUN ≧21mg/dl または脱水あり

R(Respiration): SpO2 90%以下

O(Orientation): 意識障害

P(Blood Pressure): 収縮期血圧90mmHg以下

0項目: 軽症 外来治療

1-2項目: 中等症 外来または入院治療

3項目: 重症 入院治療

4-5項目: 超重症 ICU入院

ただしショックがあれば、1項目でも超重症

エンピリック治療•いわゆる初期治療。•起因菌が判明するまでの治療。

•主な原因菌の統計的頻度、予後、宿主の背景などの一般的な情報を基に決定される。

標的治療•分離菌に対応した治療

CAPのエンピリック治療抗菌薬

外来患者群内服薬•β-ラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬

•マクロライド系薬*1

•レスピラトリーキノロン*2*3

注射薬•CTRX•LVFX*3

•AZM

一般病棟入院患者群注射薬•ABPC/SBT•CTRX or CTX•LVFX*3

*非定型肺炎が疑われる場合•MINO•LVFX*3

•AZM

集中治療室入院患者群注射薬A法:カルバペネム系薬 or

TAZ/PIPC

B法+:SBT/ABPC or CTRX or CTX

C法:A or B法+AZM

D法;A or B法+LVFX*3

E法:A or B or C or D法+抗MRSA薬*4

*1 非定型肺炎が疑われる場合*2慢性の呼吸器疾患がある場合には第一選択*3結核に対する抗菌力を有しており、使用に関しては結核の有無を慎重に判断する*4MRSA肺炎のリスクが高い患者で選択する+緑膿菌を考慮しない場合

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 アモキシシリン(高用量が望ましい)

第二選択薬 レスピラトリーキノロン

(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 ペニシリン系薬(アンピシリン、ベンジルペニシリン)

第二選択薬 セフトリアキソン

第三選択薬 第四世代セフェム系(セフォゾプラン、セフェピム、セフピロム)

第四選択薬 カルバペネム系

(パニペネム・ベタミプロン、メロペネム、ドリペネム、ビアペネム、イミペネム・シラスタチン)

肺炎球菌

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)レスピラトリーキノロン

(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 スルバクタム・アンピシリン

第二選択薬 第三世代セフェム系薬(セフトリアキソン、セフォタキシム)、タゾバクタム・ピペラシリン

第三選択薬 ニューキノロン系薬

(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)

インフルエンザ菌

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

第二選択薬 レスピラトリーキノロン

(シタフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 第二、三世代セフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)、スルバクタム・アンピシリン

第二選択薬 タゾバクタム・アンピシリン

第三選択薬 ニューキノロン系薬

(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)

クレブシエラ属

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 マクロライド系薬

(クラリスロマイシン、アジスロマイシン、エリスロマイシン)

第二選択薬 ミノサイクリン、レスピラトリーキノロン

(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 ミノサイクリン、マクロライド系薬(アジスロマイシン、エリスロマイシン)

第二選択薬 ニューキノロン系薬

(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)

マイコプラズマ

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、シプロフロキサシン、パズフロキサシン)アジスロマイシン

レジオネラ

重症の場合;ニューキノロン系薬+アジスロマイシン

肺炎クラミジア、オウム病クラミジア

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 ミノサイクリン

第二選択薬 マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

第三選択薬 レスピラトリーキノロン

(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 ミノサイクリン

第二選択薬 アジスロマイシン

第三選択薬 レボフロキサシン

メチシリン感受性黄色ブドウ球菌

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

第二選択薬 マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 スルバクタム・アンピシリン、セファゾリン

第二選択薬 ミノサイクリン、クリンダマイシン

メチシリン耐性黄色ブドウ球菌

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 リネゾリド

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 バンコマイシン、テイコプラニン、リネゾリド

第二選択薬 アルベカシン

連鎖球菌

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 アモキシシリン、アジスロマイシン

第二選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

第三選択薬 レスピラトリーキノロン

(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 ペニシリン系薬(アンピシリン、ペニシリンG)、アジスロマイシン

第二選択薬 スルバクタム・アンピシリン、タゾバクタム・ピペラシリン

モラキセラ・カタラーリス外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

第二選択薬 マクロライド系薬(クラリスロマイシン、アジスロマイシン)

第三選択薬 レスピラトリーキノロン

(ガレノキサシン、モキシフロキサシン、レボフロキサシン、シタフロキサシン、トスフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 スルバクタム・アンピシリン

第二選択薬 第二・三世代セフェム系薬(セフォチアム、セフトリアキソン、セフォタキシム)

第三選択薬 ニューキノロン系薬(レボフロキサシン、しプロフロキサシン、パズフロキサシン)

嫌気性菌外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 βラクタマーゼ阻害薬配合ペニシリン系薬(スルタミシリン、アモキシシリン・クラブラン酸)

第二選択薬 レスピラトリーキノロン

(シタフロキサシン、ガレノキサシン、モキシフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 スルバクタム・アンピシリン

第二選択薬 メトロニダゾール、クリンダマイシン

外来治療の場合(内服薬)

第一選択薬 ニューキノロン系薬(シタフロキサシン、シプロフロキサシン、レボフロキサシン)

入院治療の場合(注射薬)

第一選択薬 ピペラシリン、タゾバクタム・ピペラシリン

第二選択薬 第三・四世代セフェム系(セフタジジム、セフェピム、セフォゾプラン)

第三選択薬 ニューキノロン系薬(シプロフロキサシン、パズフロキサシン、レボフロキサシン)

第四選択薬 カルバペネム系(メロペネム、ドリペネム、ビアペネム)

緑膿菌

非定型肺炎とは、マイコプラズマやクラミドフィラ(クラミジア)などの、主として非細菌性微生物によって引き起こされる肺炎であり、乾性咳嗽が強く、ペニシリン、セフェム、カルバペネム系抗生剤が無効という臨床上の特徴を持つ。

非定型肺炎

非定型肺炎と細菌性肺炎を鑑別する必要がある。

細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別

1、年齢60歳未満2、基礎疾患がない、あるいは軽微3、頑固な咳がある4、胸部聴診上所見が乏しい5、痰がない、あるいは迅速診断で原因菌が証明されない

6、末梢血白血球が10000/ul未満である

1~5の項目の5項目中3項目以上陽性 非定型肺炎疑い2項目以下陽性 細菌性肺炎疑い

この場合の非定型肺炎の感度は84%,特異度は87%

1~6の項目の6項目中4項目以上陽性 非定型肺炎疑い3項目以下陽性 細菌性肺炎疑い

この場合の非定型肺炎の感度は78%、特異度は93%

軽症~中等症CAPのエンピリック治療で考慮するポイント

1. 肺炎球菌を考慮した抗菌薬を選択する。2. 非定型肺炎ではβラクタム系薬単剤は選択しない。

3. 抗菌薬の選択に関しては非定型病原体をカバーする抗菌薬治療を提案する。

4. 細菌性肺炎が疑われる場合にはβラクタム薬単独投与を考慮する。

5. レスピラトリーキノロンが最適であるが、使用に関して結核の有無を考慮する。

6. βラクタム薬とマクロライド系薬の併用は重症例を除き有効性は証明されていない。

7. マクロライド耐性肺炎マイコプラズマやマクロライド耐性肺炎球菌に対してもマクロライド系抗菌薬の有効性が示されている。

8. ニューキノロン耐性肺炎球菌、ニューキノロン耐性インフルエンザ菌は増加していない。

レスピラトリーキノロン系薬

マイコプラズマやクラミドフィラ(クラミジア)などの非定型病原体に加えて細菌性肺炎の起因菌として最も高頻度である肺炎球菌にも有効なニューキノロン系薬。

•肺炎患者を診たら、必ず結核の可能性を考える。

•キノロン系薬を使用する場合、必ず結核のリスクアセスメントを行う。

•有症状結核患者の診断の遅れ(初診から診断に1カ月以上)の割合は21.5%、発見の遅れ(発症から診断に3カ月以上)の割合は20.4%に上る(厚生労働省「平成27年結核登録者情報調査年報集計結果について」)。

•結核患者にキノロン系抗菌薬を単独投与した場合、一時的に症状は良くなるが、結核を治癒されることはできない。

•この間に結核診断が遅れる、あるいは不適切治療に伴う薬剤耐性の誘導が起きるリスクが上昇する。

•日本では結核診断前にキノロン系抗菌薬使用率は41%との報告もある。

•結核診断前にキノロン系抗菌薬が死亡リスクを1.82倍上昇されるとの米国の報告もある(Int J Tuberc Lung Dis2012;16:1162-1167)。

•レスピラトリーキノロンのなかでトスフロキサシン(トスキサシンR、オゼックスR )は抗結核菌作用がない。

原因微生物と検査法

国内9研究(市中肺炎3077症例)上位10病原微生物

*1MSSA、MRSAを区別している201株のメタアナリシスではMRSAは28.4%であった。*2Micro-IF法による診断率(2論文) 28/922=3.0%, ELISA法による診断率(5論文)71/2011=3.5%

日本の(N)HCAP検出菌(各研究の平均と95%信頼区間)

日本のHAP検出菌(各研究の平均と95%信頼区間)

原因微生物の推定の参考となる情報

インフルエンザ流行期間 肺炎球菌、インフルエンザ桿菌黄色ブドウ球菌

大酒家、糖尿病 クレブシエラ

温泉旅行、循環式浴槽大酒家

レジオネラ

脳血管障害、変性疾患 誤嚥性肺炎

肺炎が家族や集団で流行している

マイコプラズマ、クラミドフィラ

鳥類との接触 オーム病

家畜や妊娠している猫との接触 Q熱コクシエラ

慢性気管支炎、気管支拡張症 インフルエンザ菌、緑膿菌

・尿中肺炎球菌抗原

・インフルエンザ迅速検査(流行時)

・尿中レジオネラ抗原(必要に応じて)

・喀痰検査(塗沫・培養検査);一般細菌、抗酸菌検査抗生剤投与前がよい。喀出痰の培養結果は、必ずしも原因菌を意味するものではない。(喀痰採取時に口腔内の常在菌や気道の定着菌が混入するため)

・血液培養可能であれば2セット以上

・血清検査マイコプラズマ抗体、クラミジア抗体、βDグルカン(真菌検査)など

微生物検査

外来

入院時

どうして血液培養は2セット必要なの?

1. 起炎菌の検出率が向上する。

2. コンタミネーションと起炎菌の判断が (ある程度) 容易となる。

血液培養セット数と起因菌の検出率

血液量は血液培養の検出感度を最大化するための最大の重要な要素である。

採血至適なタイミングは?

血液培養の採血は悪寒や発熱が認められたらできるだけ早く行う。発熱後時間が経てば経つほど微生物の検出率が低下する。

肺炎の臨床経過

① 診断臨床症状レントゲン(+CT)採血喀痰検査尿中抗原

②治療抗生物質(酸素)(補液)

③評価 臨床所見+画像+採血改善あり改善なし⇒抗生剤変更を考える

入院時 3日目頃

肺炎と診断が確定すれば、抗生剤はできるだけ早く投与する。(4時間以内に投与)

経過は良好なのか?

• CRP=必ずしも重症度ではない。参考にはするが。

• ベットサイドにおける肺炎の改善の指標

a.体温(解熱)

b.呼吸数の低下

c.意識状態の改善

d.咳嗽や喀痰の量

e.酸素化の改善(SpO2 ↑)など。

炎症所見(WBC, CRP)および胸部X線を早期薬効判定では評価しない

初期治療不応時の鑑別診断

•感染性因子;40~60%

•非感染性因子;15~25%

抗菌薬が効かなかった・・・

非感染性因子

•心不全•尿毒症•肺塞栓

•急性間質性肺炎•ARDS•好酸球性肺炎

•器質化肺炎•過敏性肺臓炎•薬剤性肺障害•肺胞出血•肺癌•リンパ増殖性疾患など

感染性因子細菌側の要因1. 抗菌薬がカバーしない範囲の病原体の関与

ウイルス、真菌、抗酸菌

2. 一般病原体に由来する肺炎(1)非定型肺炎(βラクタム系薬無効)

肺炎マイコプラズマ、レジオネラ、クラミジア属(2)抗菌薬耐性菌;MRSA、PRSP、BLNAR ,緑膿菌、ESBL産生菌(3)改善に時間がかかる病原体;ノカルジア属、放線菌

3. 日和見病原体等による入院後の二次感染

4. 重症感染症による急速な病状悪化敗血症性ショック、劇症型肺炎(肺炎球菌、レジオネラなど)

宿主側の要因1. 抗菌薬移行不良な病巣の形成

膿胸、肺膿瘍、ブラ内感染

2. 肺外感染巣の形成心内膜炎、骨関節炎、カテーテル感染、脳髄膜炎

3. 気道ドレナージの障害中枢型肺癌、気道異物、反復性の誤嚥、去痰不全、慢性呼吸不全

4. 基礎疾患による全身免疫機能低下HIV、免疫抑制薬投与、血液系悪性腫瘍

5. 医療機関受診の遅れによる重症化

感染性因子

薬剤側・医療側の要因

1. 抗生剤の不適切投与投与量不足、投与経路や回数が不適切

2. 治療介入開始の遅れによる重症化

3. 抗菌薬に由来する有害事象薬剤熱

感染性因子

「成人肺炎診療ガイドライン2017」フローチャート

HAP/NHCAPの診断

•一般的な肺炎も症状は、発熱、咳嗽、喀痰、息切れ、胸痛などであるが、高齢者肺炎では、食欲不振、失禁、日常の活動性低下など典型的な呼吸器症状を呈さない場合がある。

•身体所見で呼吸数の増加やSpO2低下に十分注意を払う必要がある。

個人の意志やQOLを考慮した治療・ケア

•最善の治療を行っても死が避けられない、あるいはわずかに延命できたとしても本人の価値観に照らして「よい日々だった」といえるQOLが保持できないと判断される患者に起こった肺炎は、人工呼

吸管理や広域抗生剤を用いた強力な肺炎治療ではなく、苦しみをとる緩和医療を優先して行う選択肢もあることを提示する。

•本人あるいは家族の意思を尊重し、その意思に沿って肺炎治療の開始、不開始、選択する抗菌薬の種類を多職種によって構成された医療チームとして決定する。

院内肺炎(HAP)はI-ROADを用いる

1.生命予後予測因子(I-ROAD)

①I (Immunodeficiency);悪性腫瘍または免疫不全状態②R (Respiration):SpO2>90%を維持するためにFiO2>35%を要する③O (Orientation):意識レベル低下④A (Age):男性70歳以上、女性75歳以上⑤D (Dehydration):乏尿または脱水

2.肺炎重症度規定因子

①CRP>=20mg/dl②胸部X線画像陰影の拡がりが一側肺の2/3以上

軽症群(A群) 中等症群(B群) 重症群(C群)

該当なし 該当あり

該当項目が2項目以下

3項目以上が該当

耐性菌のリスク因子

HAP/NHCAPのエンピリック治療方針

HAP/NHCAPのエンピリック治療抗菌薬Escalation治療

敗血症(-)で重症度が高くないかつ耐性菌リスク(-)

内服薬(外来治療が可能な場合)β-ラクタマーゼ阻害薬配合

ペニシリン系薬+マクロライド系薬レスピラトリーキノロン#1

注射薬SBT/ABPC、CTRX #2 、CTX #2

非定型肺炎が疑われるLVFX #1 #2

De-escalation単剤治療

敗血症(+)または重症度が高くないまたは耐性菌リスク(+)

注射薬(単剤投与)TAZ/PIPCカルバペネム系薬第4世代セフェム系薬#2

ニューキノロン系薬#1 #2

De-escalation単剤治療

敗血症(+)または重症度が高いかつ耐性菌リスク(+)

注射薬(2剤併用投与、ただしβラクタム系薬の併用は避ける)TAZ/PIPCカルバペネム系薬第4世代セフェム系薬#2

ニューキノロン系薬#1 #2

アミノグリコシド系薬#2 #3

MRSA感染を疑う場合#4

+抗MRSA薬

#1結核に対する抗菌力を有しており、使用に際しては結核の有無を慎重に判断する。#2嫌気性菌感染を疑う際には使用をされるかCLDMまたはMNZを併用する。#3腎機能低下地や高齢者には推奨されない。#4以前にMRSAが分離された既往あり、または過去90日以内に経静脈的抗菌薬の使用歴あり。

Clinical Question 09

CAP治療において、抗菌薬投与に全身投与ステ

ロイド薬を補助療法として併用することは、抗菌薬のみでの治療よりも推奨されるか。

肺炎治療におけるステロイドの役割

• AIDSに合併したニューモシスチス肺炎では有効性が立証されている。

• マイコプラズマ肺炎では多彩な免疫反応がみられ、一部に重症化するものがあり、ステロイドが有効であった症例が報告されている。

生存率に対するメタアナリシス ; サブ解析

入院期間に対するメタアナリシス

市中肺炎治療におけるステロイド薬併用の影響

•生命予後には影響せず、肺炎治癒率を変えない。

•重症症例・入院例に限ると生命予後を有意に改善させる可能性がある。

•入院期間を1日短縮させる。

CAPに対して、抗菌薬治療に全身投与ステロイド薬を併用しないことを弱く推奨する。ただし、重症CAPに対しては全身投与ステロイド薬を併用することを弱く推奨する。

下記のいずれかを5~7日間連日投与ヒドロコルチゾン 200~300mg/日プレドニゾロン/メチルプレドニゾロン 20~50mg/日メチルプレドニゾロン 1mg/kg/日

Clinical Question 09

CAP治療において、抗菌薬投与に全身投与ステ

ロイド薬を補助療法として併用することは、抗菌薬のみでの治療よりも推奨されるか。

症例;77歳、男性主訴;咳、痰、食欲不振現病歴;約10日前から咳、膿性痰が出現、3日前より食欲不振も出現したため、当院を受診した。現症:体温;37.1℃、血圧 118/60、意識清明、SpO2 92%(室内空気)、胸部聴診;右肺呼吸音減弱、湿性ラ音、

検査所見WBC 14000, CRP 18.4, UN 22.8, Cre 0.6尿中肺炎球菌抗原;陽性、尿中レジオネラ抗原;陰性、抗マイコプラズマ抗体;40倍未満、喀痰;一般細菌;S. pneumoniae

初診時胸部レントゲン、CT

入院時 退院時

ABPC/SBT 3g×3回

症例;20歳、女性主訴;発熱、咳、痰現病歴;H23年6/7頃から38℃台の発熱、咳、白色痰が出現、6/9に当院受診、セフゾン処方されたが、症状改善しなかった。6/12当院救急外来を受診、肺炎の診断で入院となった。食欲不振あり。現症:体温;39℃、血圧 126/70、意識清明、SpO2 95%(室内空気)、胸部聴診;ラ音なし、左背部呼吸音減弱、

検査所見WBC 6600, CRP 16.4, UN 6.8, Cre 0.7尿中肺炎球菌抗原;陰性、尿中レジオネラ抗原;陰性、抗マイコプラズマ抗体;40倍未満喀痰;一般細菌;常在菌、抗酸菌;G-0号、結核PCR;陰性

入院時胸部レントゲン、CT

細菌性肺炎と非定型肺炎の鑑別

1、年齢60歳未満2、基礎疾患がない、あるいは軽微3、頑固な咳がある4、胸部聴診上所見が乏しい5、痰がない、あるいは迅速診断で原因菌らしきものがない6、末梢血白血球が10000/ul未満

1~6項目、すべて満たす。

治療前 治療後MINO→PZFX

マイコプラズマ抗体;40倍未満 1280倍

•マイコプラズマ抗体(PA)は抗体価の上昇まで3~4日を要し、いったん感染して抗体が産生されると半年~1年以上残存する。•単一血清では、発症初期に抗体が陰性となるあるいは既往の感染により抗体が陽性となる等の可能性がある。•ペア血清は発症後すぐには確定診断ができない。•LAMP法によるマイコプラズマ核酸検出は発症初期(2~16日目)に検出可能と報告されている。LAMP法では発症初期の抗体が検出されない時期でも診断が可能。

マイコプラズマ遺伝子検査(LAMP法)

症例;69歳 男性主訴;発熱、食欲不振、咳喫煙歴;15×50年

現病歴;数日前より発熱、食欲不振、咳が出現。近医を受診、右肺炎と診断され、同院入院治療を受けたが、改善みられず、翌日時間外に当院を紹介され、入院。現症:体温38.9℃、BP148/82、P84、SpO2 96%(酸素マスク5L/分)、胸部;右肺湿性ラ音

検査所見WBC 6340(neut 92.2), ALP 785, AST 78, ALT 48, LDH 328, γGTP 155CRP 33.51尿中レジオネラ抗原(+)、尿中肺炎球菌抗原(-)

初診時胸部レントゲン、CT

入院時 治療後LVFX点滴治療

尿中レジオネラ抗原が陰性であれば、レジオネラ肺炎を否定してもよいか?

• レジオネラ肺炎は急激に進行し重症化しやすく、βラクタム系抗菌薬が無効である。

• 尿中レジオネラ抗原は簡便で、迅速に結果もでるため、有用性が高い。

• レジオネラ・ニューモフィリア血清型1以外の感度が低いため、陰性であってもレジオネラ肺炎を完全には否定できない。

尿中レジオネラ抗原が陰性であれば、レジオネラ肺炎を否定してもよいか?

• 発症直後の検体では抗原量が少なく、偽陰性になる場合がある。(通常肺炎発症1,2日目から陽性となり、肺炎治癒後平均6週頃まで陽性となる)

• レジオネラ肺炎が強く疑われるにもかかわらず尿中抗原が陰性の症例では一定の期間をおいて再度検査を行うことで診断できる場合もある。

• 2011年に保険適用となったLAMP法では、レジオネラ・ニューモフィラ血清群1以外のレジオネラ属菌も検出できるので、尿中抗原陰性の場合の場合は有効である。

症例;76歳 男性主訴;発熱、食欲不振、咳喫煙歴;なし現病歴; 2017/3/2頃より発熱、頭痛が出現。近医を受診、抗生剤処方されたが改善しなかった。3/7同院再診され、レントゲンで右肺炎と診断、外来でLVFX点滴を受けたが、改善みられず、3/10同日入院となった。TAZ/PIPC→MEPM+MINO投与されたが、陰影さらに悪化。3/17当科転院となった。現症:体温38.0℃、BP148/82、P84、SpO2 96%(室内空気)、胸部;ラ音なし検査所見WBC 9520(neut 71.4), ALP 493, AST 58, ALT 102, LDH 172, γGTP 245, CRP 21.49, KL-6 139尿中レジオネラ抗原(-)、尿中肺炎球菌抗原(-)

胸部Xp(当院初診時)

胸部CT(当院初診時)

気管支鏡

生検;器質化肺炎の部分像として矛盾しないが、微小組織内の評価なので他の検査所見や臨床経過などを合わせて総合的に検討してください。

入院時 ステロイド開始3日後

治療3カ月後

症例;74歳 男性主訴;胸部異常陰影喫煙歴; 40本/日×13年、40年前に禁煙

現病歴;検診で胸部異常陰影を指摘されたため、当科を受診。現症:体温36.6℃、BP148/82、P84、SpO2 97%(室内空気)、胸部;ラ音なし検査所見WBC 7210(neut 57.0), CRP 0.26, KL-6 270, CEA 8.8, シフラ 1.2, proGRP 74.4

胸部Xp(当院初診時)

胸部CT(当院初診時)

抗菌薬投与したが、陰影改善みられなかった。

気管支鏡生検;肺腺癌と診断

PK/PDの理論

薬物動態(PK)と薬力学(PD)を組み合わせて、薬剤の有効性や安全性を評価する考えかたである。

抗菌薬の臨床効果が最大限得られるように、最適な用法・用量を設定するための指標になる。

PK/PDパラメーター

PAE;post antibiotic effect;抗菌薬が細菌に接触した後に血中濃度がMIC以下あるいは消失しても持続してみられる細菌の増殖抑制効果をいう。

PK-PDパラメータと抗菌薬抗菌効果 PK/PDパラ

メーター抗菌薬

濃度依存性殺菌作用と長い持続効果(PAE)

Cmax/MIC キノロン系薬アミノグリコシド系薬

投与回数を減らし、1回投与量を

増やす

時間依存性殺菌作用と短い持続効果(PAE)

%T>MIC カルバペネム系セフェム系薬

モノバクタム系薬ペニシリン系薬

1回投与量を増やすより、1日量

を分割し、投与回数を増やす

時間依存性殺菌作用と長い持続効果(PAE)

AUC/MIC アジスロマイシンクラリスロマイシンテトラサイクリンバンコマイシン

1日投与量を増やす

抗菌剤には、大きく2種類ある

• 投与回数が多いほうが望ましい

⇒ペニシリン系、セフェム系、カルバペネム系など

• 投与回数は1回でよいが、投与量を多くして最大血中濃度を高いほうが望ましい

⇒キノロン系、アミドグリコシド系など

メロペネムの投与量、投与回数の違いによるTAM%の変化メロペネム 1g×2回 vs 0.5g×4回

治療薬物モニタリングTherapeutic drug monitoring (TDM)

注射用バンコマイシン(VCM)テイコプラニン(TEIC)アミノグリコシド系薬ボリコナゾール(VRCZ)

TDMは薬剤の有効性を確保し、副作用の発現を避けることを目的に行う。

例;アルベカシンのPK-PD

臨床効果臨床効果とCmax/MIC≧8 が相関し、目標Cmax 9-20

μg/mL とされている。専門家は、Cpeak ;15-20 μg/mLを推奨している。

有害事象腎関連副作用の発現率はトラフ濃度と関係している腎機能障害の観点からトラフ値は2 μg/mL未満とする

ご静聴ありがとうございました。