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日本語教材の変遷と現状

早稲田大学大学院日本語教育研究科

吉岡 英幸

Ⅰ.日本語教材研究の視点

1.教材分析の視点

(1)作成方針 (2)学習対象者

(3)レベル (4)学習内容

(5)シラバス (6)学習項目

(7)練習問題 (8)指導法

(9)構成 (10)学習時間数

(11) 付属教材 (12)媒体

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(1)作成目的

・日本語の基本文型に習熟させること

(『日本語初歩』)

・自然な会話遂行能力の育成

(『JAPANESE FOR EVERYONE』)

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(2)学習対象者

・一般成人 ・留学生・大学生

・ビジネスパーソン ・技術研修生

・年少者 ・地域日本語教育

・看護士・介護福祉士・医師

・短期滞在者・旅行者・帰国子女

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(3)レベル

・初級

・初中級

・中級

・中上級

・上級

・超上級・超級

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(4)学習内容

言語知識

(文法・文型、語彙、文字、発音/日本事情)

言語技能

(読解、聴解、作文・文章表現、会話・口頭表現)

総合

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(5)シラバス

・構造(文法)シラバス

・機能シラバス

・場面シラバス

・話題シラバス

⇒複合シラバス など

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(6)具体的な学習項目

-その量、配列-

文型、語彙、漢字などが

どんな種類

いくつぐらい

どんな提出順

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(7)練習問題などの内容や形態

・パターン・プラクティス

・ゲーム

・ロールプレイ

・一斉指導や1人に当てる個別活動

・ペア・ワーク、グループ・ワーク

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(8)指導法

・直接法

・ピアラーニング

・暗記が中心

・問題発見学習など

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(9)構成

課の構成

・本文

・練習

・文型 など

全体構成

・登場人物

・シラバスリスト など

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(10)学習時間数

20時間~300時間

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(11)付属教材(例「みんなの日本語」本冊)

・翻訳・文法解説

・漢字練習帳、漢字カードブック

・導入・練習イラスト集

・練習C/会話イラストシート

・やさしい作文

・書いて覚える文型練習帳

・聴解タスク25

・初級で読めるトピック25

・会話ビデオ、絵教材

・教え方の手引き など

Ⅰ‐1.教材分析の視点

(12)媒体

・活字媒体

・音声テープ

・OHPシート

・ビデオ

・CD、DVD など

Ⅰ‐1.教材分析の視点

その他

・媒介語

・自習の可能性

・体裁・価格、イラスト など

Ⅰ‐2.教材研究の視点・方法

・コース運営のため適当な教材を選択

⇒ 教材分析の視点

・作成者の日本語教育観を見る

⇒ 作成者の背景と教材分析

・その教材が作成された背景をさぐる

⇒ 発行機関、社会のニーズなど

Ⅰ.日本語教材の変遷

1.出版数、発行機関から見た教材の変遷

・1946年~2010年の教材

⇒ 約1500種

・受験のための教材、辞典類は除外

・シリーズ教材は原則として1種とする

日本語教材の出版数

Ⅰ‐2.学習内容から見た教材の変遷

(1)総合教材、技能教材

Ⅰ・2.(2)言語知識教材

文字教材の内訳

日本事情教材、専門・教科教材

3.学習対象者別から見た日本語教材の変遷

4.媒体から見た日本語教材の変遷

5.必要な日本語能力観から見た変遷

(1)大学生対象の教材

必要な能力、技能、ストラテジー

・『研究発表の方法』(96)

・『大学生と留学生のための論文ワークブック』(97)

・『留学生のためのストラテジーを使って学ぶ文章の読

み方』(05)

・『アカデミック・スキルを身につける聴解・発表ワー

クブック』(07)

・『大学・大学院留学生のためのやさしい論理的思考ト

レーニング』(09)

現行の教材から見た大学生に必要な能力

[大学での研究活動に必要な]

・論理的、批判的思考力

・レポートや論文の作成能力

・講義などの聴解力やノートテイキング、

文献講読のストラテジー

・研究発表の方法 など

(2)ビジネス教材

『実社会で求められるビジネスマナー」(91)

『日本語ビジネス文章の書き方』(99)

『ビジネス情報」の見方、読み方、基礎編』(03)

『ビジネス日本語会話 商談・取引編』(08)

『しごとの日本語 電話応対基礎編』(08)

『人を動かす!実践ビジネス日本語会話』(08)

現行のビジネス教材から見た

ビジネスパーソンに必要な知識、能力

・職場で使用される用語

・紹介、会議・電話、メールなどの待遇表

現を中心とした日本語の使い分け

・ビジネスマナーや日本的企業の慣習など

についての知識、理解

日本企業の求める人材

考え抜く力、チームワークで働く力

「社会人基礎力」経済産業省(06)

A.前に踏み出す力

①主体性 ②働きかける力 ③実行力

B.考え抜く力

④課題発見力 ⑤計画力 ⑥創造力

C.チームで働く力

⑦発信力 ⑧傾聴力 ⑨柔軟性 ⑩情況把握力

⑪規律性 ⑫ストレスコントロール力

Ⅰ.日本語教材の現状と新しい動向

1.1946年~1980年代前半の日本語教材

・日本語の基本的な文型に習熟させることを

目標。(『日本語初歩』81)

・構成ー「本文」「練習-まるうめ、わくう

め、おきかえ、言いかえ」「新しい言葉」

直接法、文型積み上げ式、

言語事項重視

2.1980年代後半以降の教材

・第一に文法を体系的に習得、第二に日本の生活

で日々直面する場面でコミュニケーションがで

きるように~(『文化初級日本語』87)

・話し言葉を中心に、実際の場面、文脈に合った

自然な会話能力遂行の育成、基礎的な文型・言

語形式の習得を目的

(『JAPANESE FOR EVERYONE』90)

コミュニケーション重視

学習者の自主的な活動を重視した教材

・『ロールプレイで学ぶ会話』(87)

・『コミュニケーション重視の学習活動1

プロジェクトワーク』(88)

・『初級日本語ドリルとしてのゲーム教材50』(92)

・『クラス活動集101』(94)

・『ロールプレイで学ぶ中級から上級への日本語会話』(00)

暗記や反復練習 意味ある活動

ペア・ワーク、グループ・ワーク

(基本は文型積み上げ式)

3.2010年以降の日本語教材

日本語で何ができるか・「CAN‐DO」

・新日本語能力試験

「課題遂行能力のためのコミュニケー

ション能力を測る」

・国際交流基金

「JF日本語教育スタンダード」

・欧州評議会-CEFR

カリキュラムの目標の転換

「トピックの中で、自分が伝えたいことを

日本語で表現するためにどんな文型が必要か

を学習者自身が考え、選び、学ぶ」

『WEEKLYJ:日本語で話す6週間』(12)

日本語で何ができるか 文型や語彙

教師の役割についての考えの変化

・「日本語習得の主役は学習者であるというのが本

書の考え方」で「従来の教科書のように文法・文型

中心でなく、テーマ中心に作成」

『NEJ:テーマで学ぶ基礎日本語』(12)

・「コミュニケーション能力の育成を重視する教室

では、教師はファシリテーターに徹することが

肝要である」

『会話の授業を楽しくするコミュニケーション

のためのクラス活動40』(11)

日本語教育百年の転換期

文型・語彙という表現形式優先

自分が何を伝えたいかという内容優先

・・・・・・・・・・・

教師主導:教師はモデルであり支配者

学習者主体:教師はファシリテーター

どのような日本語教育を目指すのか?

どのような日本語能力を育成するか?

日本語教材・実践の在り方

吉岡 英幸