1 事例検討の準備(意義・書き方)• 事例検討の意義(あるいは目的)
→ 指導者から指導(スーパービジョン)を受けるため、あるいは自己の実践の
振り返りや研修(修行)のため、今後の進め方の検討のため
→ うまくいった事例や困難事例、共同で担当している事例について、上司・同
僚等と情報共有したりアドバイスを得たりするため
→ 新たな技法や症例等について、学会や研究会等で発表・検討するため
→ 技法や手法について、(指導者の実践事例等を踏まえて)学ぶため
• 事例検討資料≠面接記録
事例検討資料は逐語録ではない。見る側が見やすいように要約。
記載事項例:発表者名、事例の概要、クライエントの概要、設定(時間・
回数など)、家族構成、来談経緯、生活歴、主訴/見たて、
面接経過、考察(※検討内容に関連しない項目は省略)
(参考)学会誌の論文の書き方
•本文の構成は、問題、目的、方法、結果、考察、結論、及び引用文献の各部分を含むことを原則とする(※産業カウンセリング学会)。
•問題・目的:なぜこの事例を取り上げるのか
•方法:事例の概要、クライエントの概要、設定(時間・回数など)、家族構成、来談経緯、生活歴/問題歴、主訴/見たてなど
※学生の就職相談の場合、家族構成・生活歴はまず把握しません
•結果:面接経過と結果
•考察:結果に至った理由や効果・課題などを整理
職業倫理
• どこまで書くか(特にハローワークや病院、相談機関など、複数のスタッフが記録(カルテ)を見られるような場合)
• どう保存・公開するか(記録(カルテ)の閲覧者はどこまでか、事例検討の出席者は誰か/公開範囲は)、守秘義務との関係
•誰のための(何のための)事例検討なのか、その後のカウンセリングに悪い影響を与えないか(※例えば事例検討のために今まで把握していなかった家族構成や生活歴・病歴などを聴取する、公開の可否を聞くことでカウンセリングが中断しないか等)
そもそも何を記録するのか• クライエントのこと
(資料ではA子、B県、C高校、×年4月~×+1年9月のように表す)
→ 状況(外見(服装や化粧、落ち着き等)、来所時間(早い・遅い)など問題や問題解決
に関係ありそうなこと(?))
→ 発言・行動(※発言のスピードや声の大きさ、張りなども含めて)
→ カウンセラーが受け取った感情の起伏や思考パターンなど
・ カウンセラーのこと
→ カウンセラー側の思い(思考)や感情
→ 自らの発言
・ まとめ(要約:全体的な印象、気付いたことなど)
※一般的には時系列に従って書くことが多い。
※毎回毎回の相談をダラダラと書くのではなく、「質的な転換点」で時期を分けて相談内容・結果を要約。発言の質的変化、CoとClの関係性の変化、遊戯療法であれば子どもの遊び方の変化など。
いつ書くのか、どこに保存するのか
•相談後(クライエントがいない場面)が一般的
※ただし相談中にメモを取る場合も(記憶する意識的・脅迫的努力
から開放され、クライエントに注意を向けることが可能に)
※サビカスはクライエントに許可を取った上で相談中にメモを取り、
クライエントに渡している
•保存は「所属機関で保存」「原則持ち出し不可」が一般的
※大学や機関等では「スタンドアローンのパソコンに、パスワードを
かけて保存」が推奨されている
2 事例検討を進めるために(読み方・聞き方)• 事例発表者に寄り添う(「事例発表者」中心アプローチ)
→ 優劣を競うものではない/事例発表者をあげつらう目的ではない
→ 発表者が「困っていること」「悩んでいる」「聞きたいこと」に応える
• 事例検討≒カウンセリング(自己一致、事例発表者への無条件の肯定的配慮、事例発表者への共感的理解)
→ 純粋性、真実性、透明性(素直・正直であるべき)
→ 事例発表者を独立した人格として尊重
→ 事例発表者の気持ちをできるだけ共有
• 自分がカウンセラーの立場なら?クライエントの立場なら?
※目の前に事例発表者がいない場合は多少辛辣でも(?)。
※盲目的に信じるのでも批判するのでもなく、「そこから何が学べるか」
読む(聞く)側の着眼点• クライエントの状況
• カウンセリングの設定
• カウンセラーの見たてと働きかけ
• カウンセリング関係(カウンセラーとクライエントの関係)
• カウンセリングのプロセス
•支援体制
• カウンセリングの成果
→ 「自分と何が違うか」「その事例の何が良い(改善すべき)点か」
→ 「自分ならどうする(できる)か」
3 実際の事例検討について
(1)学会誌の事例報告を見てみましょう。
(2)書籍では横山編「事例キャリア・カウンセリング」や
渡辺編「キャリアカウンセリング実践」、コクラン「ナ
ラティブ・キャリアカウンセリング」などの事例検討
(演習事例)があります。
(3)私の事例にコメントをください。
何を検討するのか
(1)書籍や学会誌の終結事例などであれば
→ 自分ならどうするか
→ どんな介入により、どんな解決が導かれているのか
→ (自分と比較して)良い点はどこか、改善点はどこか
(2)困難事例で「困っている」のであれば
→ 自分ならどうするか
→ 「できている点」「良い点」はどこか
→ 他にどんな介入が考えられるか、どんなアドバイスがあり得るか
参考文献•一般社団法人日本産業カウンセラー協会編(2014)「産業カウンセリング 産業カウンセラー養成講座テキスト」改訂第6版第4刷
•山本力・鶴田和美編(2002)「心理臨床家のための「事例研究」の進め方」北大路書房、初版第2刷
•渡辺三枝子編(2016)「キャリアカウンセリング実践」ナカニシヤ出版
• ピーター・ディヤングほか(2016)「解決のための面接技法第4版」金剛出版
• ラリー・コクラン(2016)「ナラティブ・キャリアカウンセリング」生産性出版
•横山哲夫編(1999)「事例キャリア・カウンセリング」生産性出版
•河合隼男(1990)「事例に学ぶ心理療法」日本評論社ほか
産業カウンセラー倫理綱領(面接記録とその保管)
第12条 産業カウンセラーは、カウンセリングにあたり、最良のサービスを提供し
てクライエントをケアするために、カウンセラーとしての評価・所感とは別に、面
接記録を作らなければならない。
2 面接記録は、必要な時にはいつでも取り出せる方法により、3年間は厳重に保
管する。また、記録を電子媒体に保管する場合は記録へのアクセス権の管理に
特段の措置を講じる。
3 産業カウンセラーは、自らの職務の異動、退職および能力の喪失等に際して
は、クライエントの秘密保護のため関係記録を消去するか、他の守秘管理義務
者に引継ぐなどの適切な措置を取る。
4 産業カウンセラーは、カウンセリング記録を調査や研究のために利用する場
合、クライエントの許可を得るとともに、個人が特定できないように配慮する。
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