数値シミュレーションへの誘い*
早稲田大学理工学術院 基幹理工学部数学科 教授
田端正久
1
数値シミュレーションへの誘い
田端正久
早稲田大学理工学術院基幹理工学部数学科
日本数学会秋季総合分科会市民講演会2011年10月1日, 松本中央公民館6階ホール
内容
はじめに-数値シミュレーション
解析的に解ける問題の場合
解析的には解けない問題の場合
おわりに
2
はじめに-数値シミュレーションとは
種々の現象を解明し事前にそれらを予測し,有害なものは未然に防ぎ,有用なものはそれらを得る方法を開発する.
現象の解析には,数学モデルを作成.
現象が複雑になれば,その数学モデルを解くにはコンピュータが必須.
数値的に現象を模擬することを,数値シミュレーションという.
3
現象の解析
現象
物理実験 数学モデル
解析解/数値解実験データ
4
構造物の変形車の周りの空気の流れ血液の流れ電磁気,気象,ファイナンス...
* 日本数学会市民講演会,松本中央公民館6階ホール,2011 年 10 月 1 日
解明すべき最近の重大現象
東日本大震災の津波
福島第一原発事故,放射能汚染
5
数値シミュレーションの特長
定量的解析が可能.
2次的な物理量の計算も容易.
パラメータの変更,形状の変更が容易.
物理実験では危険,不可能な状況のシミュレーションも可能.
コストと時間の軽減(産業界)
6
1. 数学モデルが解析的に解けるとき
7
数学モデルが解析的に解けるとき
数学モデル 厳密解
8
解析的手法
9
飛球の運動
飛球の解析
現象:ボールの運動
10
城島の飛球はどこまで飛ぶか?
ホームランか?
フライでアウトか?
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数学モデルの作成
( ), ( ) : x t y t t時刻 でのボールの位置
時刻,独立変数:],0[ Tt
x
y ( ), ( )x t y t
2, :[0, ]x y T 未知関数
)( るバットの高さは無視すホームベース原点:
原点からの水平距離ボールの飛ぶ方向への:x
ボールの高さ:y
0V
12
座標を定める
x
y
O
13
数学モデル1
ボールに働く力:
重力
重力
林檎は地面に落ちる
m f ニュートンの第2法則:
力加速度質量
14
数学モデル1の常微分方程式系
2m/s8.9: 重力加速度,g
って飛び出すときのボールがバットに当た:0V
( ), ( )x t y t
ボールが飛ぶ角度:
2
2
0
(0 )
(0) sin
(0) 0
d ym mg t
dt
dyV
dt
y
ボールの質量:mmg
m/s50初速度,
2
2
0
0 (0 )
(0) cos
(0) 0
d xm t
dt
dxV
dt
x
15
数学モデル1の解
cos)0( 0Vdt
dx
)0(02
2
tdt
xdm
0)0( x
:常微分方程式
:初期条件
この方程式の解: tVtx )cos()( 0
同様にして2
02
)sin()( tg
tVty
x
y
0V
16
50 100 150 200 250
20
40
60
80
y60
4530
xO
数学モデル1: いくつかの軌跡
17
数学モデル2
ボールに働く力:
重力
重力
空気抵抗
動いている物はやがて止まる空気抵抗
林檎は地面に落ちる
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数学モデル2の常微分方程式系))(),(( tytx1s245.0,: 空気抵抗係数k
mg( , )dx dy
mkdt dt
力速度と反対方向に働く 粘着境界条件
2
2
0
(0 )
(0) cos
(0) 0
d xm t
dt
dxV
dxmk
dt
x
dt
2
2
0
(0 )
(0) sin
(0) 0
d ym mg t
dt
dyV
dt
dym
dt
y
k
19
数学モデル2の解
cos)0( 0Vdt
dx
2
2(0 )
dxmk
dt
d xm t
dt
0)0( x
:常微分方程式
:初期条件
この方程式の解:
同様にして )sin)(1(
1)( 02
kVgegktk
ty kt
k
Vetx kt cos
)1()( 0
20
数学モデル2: いくつかの軌跡
20 40 60 80 100
10
20
30
40
50
y
x117
60
45
3034
O
2. 数学モデルが解析的に解けないとき
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現象の解析
現象
物理実験 数学モデル
解析解/数値解実験データ
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構造物の変形車の周りの空気の流れ血液の流れ電磁気,気象,ファイナンス...
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偏微分方程式によるモデル化
空間:3次元, x, y, z
時間:1次元, t
複数の独立変数偏微分: , , ,
x y z t
ほとんどの現象は偏微分方程式でモデル化され,ほとんどの場合,解析的に解けない.
人間の生活空間:
数学モデルの解法
連続問題(偏微分方程式)
厳密解
離散問題(+, -, *, /)
数値解
コンピュータ
数値解析
24
離散化 収束
25
数値解の後処理
視覚化(動画化)
現象
数値解
25
計算機
連続体力学の巨人達 Newton (1642-1727) ニュートン
Euler (1707-1783) オイラー
Lagrange (1736-1813) ラグランジュ
Laplace (1749-1827) ラプラス
Fourier (1768-1830) フーリエ
Gauss (1777-1855) ガウス
Poisson (1781-1840) ポアソン
Navier (1785-1836) ナヴィエ
Green (1793-1841) グリーン
Dirichlet (1805-1859) ディリクレ
Stokes (1819-1903) ストークス
Maxwell(1831-1879) マクスウェル
Neumann (1832-1925) ノイマン
26
ナヴィエ・ストークス方程式27
fuuuu
p
Ret
1
0 u
非線形偏微分方程式系
コンピュータは必須
世界最初のコンピュータENIAC, 1945年
それ以前には考えられなかった方法
高速のコンピュータで代表的な偏微分方程式が現実的に解けるようになったのは,20世紀末
連続体力学の巨人達は,重要な偏微分方程式を導いたが,それらの解の詳細を見ることができなかった!
28
数学モデルの解法,数値解析
連続問題(偏微分方程式)
厳密解
離散問題(+, -, *, /)
数値解
コンピュータ
数値解析
29
離散化 収束
30
偏心円管領域を流れる流量の解析
圧力高 低
断面
x
y
31
流速から流量を求める
0,0, ,u x y流速:
0u
0u
u u
x x y y
x
y
:圧力勾配
:流体の粘性
,Q u x y dxdy
流量
ポアソン方程式
,u x y を解析的に求めることはできない!
32
離散化手法:有限要素法
要素分割:h 要素サイズ
離散問題 PN大規模 元 連立一次方程式
1
, ,PN
h j jju x y u x y
,j x y:jP 節点
:ju 未定係数
, 1,...,j Pu j N未知数
1,149PN
N元連立一次方程式33
2 :N 鶴亀算,鶴亀2種
鶴と亀は全部で5匹,足の数は全部で16本のとき鶴は何匹(羽),亀は何匹いるか.
5x y
2 4 16x y
1,149 : 1,149N 種類の動物の問題
10,000 (PC)N
100,000,000N スーパーコンピュータ
コンピュータは必須
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数値解
hu
hu
,h
h hQ u x y dxdy
流量
コンピュータ
j pu N未知数 に関する大規模 元 連立一次方程式を解く
, 1,..., ,j pu j N解 を得る
1
, ,pN
h j jju x y u x y
数値解
35
収束性と誤差評価
0h
:hu u 収束性粗分割
密分割
:h Xu u ch 誤差評価, :収束精度
1X H : =1
2X L : =2
36
非圧縮粘性流体の定常流
0
0
u0
0
u
21 2
0
x
u
1
Rep u u u 0
0 u
定常ナヴィエ・ストークス方程式
37
3,500Re
定常流の流線
38
ナヴィエ・ストークス方程式
界面で曲率に比例した表面張力
0,1, .., m流体 滑り,または粘着
1,...,i m
複数流体の流れ問題
0 t
,i i
0 0,
i t
n
1 t
m t i t
それぞれの流体の占める領域が未知:それらも求めなければならない
容器境界
39
32,N 1
16t
0
1f
1,2
SC01s
条件
1 2
湾曲管内気泡上昇問題
0 0100, 2
1 10.1, 1
15T
0,0
滑り
40
単一気泡上昇問題
0,0
2,1
1 100
2 0.1
1
0f
BC slip
0.0, 1.0, 2.0, 3.0
10T
11 2
2 1
4
1r
2
1
2
BB1a_e-1
41
32N
580,4eN
10T 1
8T
706,182*353,9)DOF( u
387,2)DOF( p
0.0 0.1 3.00.2
Re 8.8
気泡上昇問題,表面張力依存性
0.0t 5.0t
42
0.0
形状の表面張力依存性
5.0t
1.0 2.0 5.0t 5.0t
3.0
43
43
32,N 1
64t
0
1f
1,2
NSC01s
1
0 0100, 2
i0.1, 1i
30T
1,..,9i
slip BC
0,0
湾曲管内複数気泡上昇問題
44
44
32,N 1
128t
0
1f
0,0
1,2
FDT03s
slip BC15T
複数液滴落下問題
0 00.1, 0.01
100, 0.2i i
0.1
1,2,3i
45
8,524ne
3 38,841np
4,564ne
3 21,021np
46
32,N 1
128t
0
1f
0,0
1,2
FDT04s
slip BC15T
0 00.1, 0.01
100, 0.2i i
0.1
1,2,3,4i
複数液滴落下問題(縦)
47砂時計形状容器内流体移動問題
32,N 1
8t
0.5,0
0.5,2
HG02d-ch1-rm0.5
1
0
nonslip BC
2
e e r100, 0.5, W =10,R 1, F 0.5r r
1 1 1, , 100,0.5,0.1
0 0, 1,1 75T
0
2f
48
おわりに 「紙と鉛筆があればできる」というわけにはいかない.コンピュータは必要.
京スーパーコンピュータ, K-computer
演算性能 (=京=10 Peta)フロップス
をすぐに使える環境でなくても...
最近のPCは数値シミュレーションを行う能力を十分備えている(ほとんどの2次元問題,工夫により3次元問題も).
新しい離散スキームの開発
大規模連立一次方程式の効率的な解法の開発
収束性の証明など数値解の解析
これらに対しては数学からの大きい寄与が切望されている.
「数学とコンピュータは現代の万能ツール」
ジャック・ルイ・リオンス, 1991年日本賞受賞講演での言葉
49
参考文献[1] R. アデア,ベースボールの物理学,中村和幸訳,紀伊
国屋書店,1996.
[2] 田端正久/中尾充宏,偏微分方程式から数値シミュレー
ションへ/計算の信頼性評価,講談社,2008.
[3] 田端正久,偏微分方程式の数値解析,岩波書店,2010.
[4] 田端正久,数値解析で解く,特集:解けない方程式を解
くには,数学セミナー,45(2008), 34-39.
[5] Tabata, M. Numerical simulation of fluid movement in an
hourglass by an energy-stable finite element scheme,
Computational Fluid Dynamics Review 2010, 29-50, Eds.
Hafez, M. N. et al., World Scientific, Singapore, 2010.
50
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