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光音響スピーカの再生音圧向上

Improvement in Sound Pressure Level of Photoacoustic Loudspeaker

1w110255-1 東海林 要 指導教員 及川 靖広 教授SHOJI Kaname Prof. OIKAWA Yasuhiro

概要:本研究は,光音響効果を用いて発音位置に駆動系も電気系も必要としないスピーカの実現を目指すものである.

光音響効果とは,音響信号で変調された光を物質に照射することで周期的に加熱し,近傍の空気に熱を伝えることで

熱膨張収縮を起こさせ,音波を発生させる効果である [1].本研究では光径による音圧レベルと指向性への影響を検討

した.次に測定環境が音圧レベルに与える影響を示唆し,被照射体にカーボンナノチューブを用いることによって音

圧レベル向上の検討を行った.また,レーザを変調することで楽音の再生を行った.

キーワード:光音響効果,レーザ,変調,カーボンナノチューブ

Keywords: Photoacoustic effect,Laser,Modulation,Carbon Nano Tube

1. ま え が き

光音響効果とは,断続光の照射で物質を周期的に加熱

し,同期して起こる熱膨張振動が音源となり音響波ある

いは弾性波が発生する効果である [1].この効果を利用す

ることで,音響信号で変調された光とそれを照射する物

質のみを用いた音の再生が可能であり,発音位置に駆動

系も電気系も必要としないスピーカが実現可能である.

このスピーカのメリットとして,従来のスピーカとは違

い,配線が必要なくなることが挙げられる.また,筐体

の制約がなく,ガルバノミラーなどを用いれば光を細か

く制御することができ,音源を自由に配置,移動させる

ことができる.よって,映像を映し出したスクリーン上

の任意の点から音を出すことや,狭い場所での多チャン

ネル音源再生などへの応用が期待できる.本研究では,

光径による音圧レベルの変化,再生された音の指向性に

ついて検討した.また,温度湿度による音圧レベルへの

影響を示唆し,レーザを強度変調することで光音響効果

を用いた楽音再生を行った.

2. 光音響効果における光径の影響

2. 1 光径による音圧レベルの変化

光径を 3 mm,10 mm,20 mm,30 mmに設定して

黒体スプレーを塗布したアルミニウム板に照射し,音圧

レベルの変化を検討した.また実験には 10 W のパルス

レーザを使用し,繰り返し周波数を 50 kHz に設定した.

 結果を図–1に示す.光径を小さくする程音圧レベルが

大きくなった.これは伝熱学において物質間の温度差が

大きい程エネルギーの移動量が増加する [2]ことが原因

だと考えられる.

2. 2 光径による指向性の変化

図–2 に示したように,マイクロホンを被照射体に対

して 0◦,45◦,90◦ に配置し,指向性の変化を検討した.

0 1k 2k 3k 4k 5k 6k 7k 8k 9k20

30

40

50

60

70

80

90

100

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[1] 光径 3 mm

0 1k 2k 3k 4k 5k 6k 7k 8k 9k20

30

40

50

60

70

80

90

100

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[2] 光径 10 mm

0 1k 2k 3k 4k 5k 6k 7k 8k 9k20

30

40

50

60

70

80

90

100

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[3] 光径 20 mm

0 1k 2k 3k 4k 5k 6k 7k 8k 9k20

30

40

50

60

70

80

90

100

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[3] 光径 30 mm

図–1 周波数特性 (50kHz)

光径は 3 mmと 30mmに設定し,繰り返し周波数を 50

kHz に設定した.

結果を図–3 に示す.レーザ径が 3 mm の時はマイク

ロホンの角度を変えた時,ほぼ等間隔で音圧レベルが変

化しているのに対して,レーザ径が 30 mm の時はマイ

クロホンの角度が 0◦ と 45◦ の時, 45◦ と 90◦ の時の音

圧レベルの差と比べて大きく音圧レベルが小さくなって

いる.このことから,レーザ径を大きくした方が再生さ

れる音の指向性が高くなることが分かった.

3. 測定環境及び被照射体の検討

3. 1 温度,湿度及びカーボンナノチューブの検討

本実験では,本学本庄キャンパスと西早稲田キャンパ

スで同一の測定を行い温度及び湿度が音圧レベルに与え

る影響を調べるとともに,被照射体として,アルミニウム

板に黒体スプレーを塗布した試料とカーボンナノチュー

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レーザ

45°

90°

被照射体

5[m]

3[cm]

図–2 装置図

0 45 9065

70

75

80

85

90

95

ang le [deg ]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

30 m m3 m m

図–3 レーザ径 3 mm,30 mm

マイクロホンの角度 0 ◦,45 ◦,90 ◦

ブ (以下 CNT)を塗布した試料を比較し,音圧レベル向

上を検討した.図–5に示した強度変調回路を用いてレー

ザを駆動させ 10 kHzに変調した.本庄キャンパスの温

度,湿度はそれぞれ 10 ℃,42 %,西早稲田キャンパス

の温度,湿度はそれぞれ 20 ℃,10 % であった.

結果を図–4 に示す.本庄キャンパスで測定した時の

方が西早稲田で測定した時よりも大きい音圧レベルを再

生することができた.このことより温度が低く、湿度が

高い環境が光音響効果を用いた音の再生において適した

環境であることを示唆した.また本庄キャンパスでの測

定では黒体スプレーを塗布した試料より CNTを塗布し

た試料の方が大きい音圧レベルを再生することができた

が,西早稲田キャンパスではこれとは反対の結果になり,

CNTの優位性を示すことはできなかった.

3. 2 楽音の再生

本実験では,レーザを変調することで楽音の再生を検

討した.再生音楽には Johnny B.Goode(Chuck Berry)

を用いて,本学本庄キャンパスにて CNTにレーザを照

射した.

元信号と測定信号を図–6に示す.元信号に見られる特

徴が測定信号にも見られ,楽音再生が確認できた.

4. む す び

本研究では,光音響効果を用いたスピーカを実現に向

けて音圧レベル向上を目的とした.

光径を小さくすると音圧レベルが向上することを明ら

かにした.加えて,温度が低く,湿度が高い環境が音圧

レベル向上に適していることを示唆した,また,カーボ

ンナノチューブを被照射体として音圧レベル向上を検討

したが,優位性を明らかにすることができなかった.ま

1k 10k 20k−40

−30

−20

−10

0

10

20

30

40

50

60

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[1]10kHz 黒体スプレーを塗布本庄キャンパス

1k 10k 20k−40

−30

−20

−10

0

10

20

30

40

50

60

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[2]10kHz 黒体スプレーを塗布西早稲田キャンパス

1k 10k 20k−40

−30

−20

−10

0

10

20

30

40

50

60

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[3]10kHz CNT を塗布    本庄キャンパス

1k 10k 20k−40

−30

−20

−10

0

10

20

30

40

50

60

Frequency [H z]

So

un

d P

res

su

re L

ev

el

[dB

]

[4]10kHz CNT を塗布    西早稲田キャンパス

図–4 周波数特性 (10 kHz)

図–5 回路図

T im e [s ]

Fre

qu

en

cy

[H

z]

0 5 100

1k

5k

55

60

65

70

75

80

85

90

[1] 元信号

T im e [s ]

Fre

qu

en

cy

[H

z]

0 5 100

1k

5k

15

20

25

30

35

40

45

50

[2] 測定信号

図–6 周波数特性 (10 kHz)

た光径を広くすると指向性が強くなることを明らかにし,

レーザの強度変調回路を作成し楽音の再生を確認した.

今後は光音響スピーカにおける最適環境を明らかにし

構築すること,被照射体,被照射体の形状の検討による

音圧レベル向上が課題として挙げられる.

参 考 文 献

[ 1 ] 澤田嗣朗,光熱変換分光法とその応用,学会出版センター,1997.[ 2 ] 望月貞成,村田章,伝熱光学の基礎,日新出版,1994.


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