Download - 解説1 — 油圧ポンプ可変速駆動システムの現状と課題pub.nikkan.co.jp/.../pdf_5b963a8ba5c1b-2.pdf1. 油圧ポンプ ここでは,ポンプ構造の種類ではなく,ポンプ

Transcript
Page 1: 解説1 — 油圧ポンプ可変速駆動システムの現状と課題pub.nikkan.co.jp/.../pdf_5b963a8ba5c1b-2.pdf1. 油圧ポンプ ここでは,ポンプ構造の種類ではなく,ポンプ

16 機 械 設 計

油圧システムのエネルギー損失と省エネ化

 油圧システムは,圧力を離れた場所に伝えて大きな力で物を動かしたり,保持したりする目的で使われる。一般的には,電動機で油圧ポンプを回して機械エネルギーを油圧エネルギーに変換し,その油圧エネルギーを油圧バルブで制御(コントロール)して,油圧シリンダなどのアクチュエータで再び機械エネルギーに変換することで最終的に力をコントロールする。コンパクトな機器で大きな力を発揮できるという利点が油圧システムにはある。しかし,エネルギーの変換や伝達を行う際に,図1のようなさまざまな損失が生じるため,現在ではこれらの損失を低減し,省エネを図った油圧システムが多く使われるようになってきている。 油圧システムで使われる各機器単体の高効率化や,エネルギー伝達媒体である油圧作動油にも省エネを謳ったものがラインアップされており,油

圧システムの省エネ化にもさまざまな取組み方法がある。本稿では,その中で,油圧ポンプを可変速駆動することで省エネを図った油圧システムについて説明する。

油圧源の主要素,油圧ポンプと電動機

 油圧システムには,機械エネルギーを油圧エネルギーに変換する,いわゆる油圧源が必要である。油圧源は,一般的には作動油タンクも含めた油圧ユニットとして取りまとめられている。その主な構成要素である油圧ポンプと電動機として,現在,次のようなものが使われている。 1. 油圧ポンプ ここでは,ポンプ構造の種類ではなく,ポンプ容量(押しのけ容積)に着目する。 (1)固定容量ポンプ 1回転当りのポンプ容量が常に一定(固定)。ポンプの回転数で,時間当り吐出する流量が決まる。一定回転数での運転を前提に設計されたものや,回転数を可変速して運転することを考慮して設計されたものがある。可変速運転可能なものでも,その運転可能な回転数の範囲は設計により異なる。具体的にはギヤポンプ,ベーンポンプ,ピストンポンプなどがあり,用途に応じて使い分けられている。 (2)可変容量ポンプ 1回転当りのポンプ容量が変化するメカニカル機構をポンプ自体が持つ。自身の吐出圧力や外部信号でポンプ容量が変化する。これも運転可能な回転数範囲はポンプの設計により異なる。具体的

エネルギー損失(発熱,振動,騒音)

配管の圧力損失制御バルブの損失

ポンプの損失ポンプ駆動用電動機の損失

油圧不要時の運転損失

有効エネルギー:効率の良いシステムでも40~60%程度入

力エネルギ

仕事(出力)

アクチュエータの損失

図1 油圧システムのエネルギー損失

不二越 久保 光生*

*くぼ みつお :油圧事業部 技術部産機技術室 室長

解説1 —油圧ポンプ可変速駆動システムの現状と課題

特集 油圧技術の今がわかる実務講座

Page 2: 解説1 — 油圧ポンプ可変速駆動システムの現状と課題pub.nikkan.co.jp/.../pdf_5b963a8ba5c1b-2.pdf1. 油圧ポンプ ここでは,ポンプ構造の種類ではなく,ポンプ

17第 62 巻 第 11 号(2018 年 10 月号)

油圧技術の今がわかる実務講座 特集

解説1には,可変ベーンポンプ,可変ピストンポンプな

どが使われている。 2. 電動機(モータ) 電動機にもさまざまな種類があるが,油圧システムで使われるものは,大きく2種類に分けられる。 (1)誘導電動機(非同期電動機) 構造が単純で安価,商用電源に直接接続して運転が可能。一般的には三相誘導電動機が使われ,電動機の極数と電源周波数の組合せで回転数が決まる。周波数変換するためのインバータと組み合せれば回転数を変更できるが,回転数を下げると,出力可能なトルクが低下するため,負荷特性も考慮して運転回転数を決める必要がある。現在は効率規制により IE3効率以上のものが使われ,電動機自体の省エネが図られている。 (2)同期電動機 永久磁石を使用した同期電動機が現在は一般的で,誘導電動機に比べ高価である。商用電源で直接運転はできずドライバが必要であり,本来,ドライバにより積極的に回転数を変えて運転することを目的とした電動機と言える。ただし,同期電動機でも構成部品により性能の違いが大きく,高精度な回転角度センサを持ち,ゼロ回転でも最大トルクを発生できるサーボモータもあれば,低速回転では性能が劣り,最低回転数を制限しないと使えないモータもある。性能の良いものはコストも高くなるため,油圧システムに求められる性能と許容されるコストを考慮してモータを選定する必要がある。なお,同期電動機の効率は誘導電動機よりも高く設計されたものが多く,省エネと性能という点では有利である。

油圧ポンプ可変速駆動システムの 構成

 油圧源の主要構成要素である油圧ポンプをポンプ容量の固定と可変で分け,電動機(モータ)を回転数の固定と可変で分けると

図2に示すような4つの組合せに分けられる。 ①~④の組合せは,実際に油圧システムとして存在する。それらの例を図3,図4に示す。この中

図2 油圧源(ポンプ・モータ)の構成

ポンプ容量固定

ポンプ容量可変

モータ回転数固定

(一定速)

ポンプ容量可変+

モータ回転数固定

モータ回転数可変

ポンプ容量固定+

モータ回転数可変

ポンプ容量可変+

モータ回転数可変

省エネ

省エネ

回転数制御

④③

ポンプ容量固定+

モータ回転数固定

図3 回転数固定運転の油圧システム

ポンプ容量固定

ポンプ容量可変

モータ回転数固定

(一定速)

ポンプ容量可変+

モータ回転数固定

モータ回転数可変

ポンプ容量固定+

モータ回転数可変

ポンプ容量可変+

モータ回転数可変

ポンプ容量固定+

モータ回転数固定

MM

①固定ポンプを使用した回路 ②可変ポンプを使用した回路

余剰な油を吐出し続けるため,消費エネルギーが大きい

余剰な油を吐出しないので,消費エネルギーを小さくできる

電動機は回りっぱなし,ポンプは最大圧力となり,一定のエネルギーを消費

一定速一定速

IPHギヤポンプ

NSPユニット

可変容量

図4 可変速運転の油圧システム

ポンプ容量固定

ポンプ容量可変

モータ回転数固定

(一定速)

ポンプ容量可変+

モータ回転数固定

モータ回転数可変

ポンプ容量固定+

モータ回転数可変

ポンプ容量可変+

モータ回転数可変

ポンプ容量固定+

モータ回転数固定

INVM

M

③固定ポンプをインバータ駆動 ④可変ポンプをインバータ駆動

可変速可変速 NSPi

可変容量

INV

油圧不要時に電動機の回転数を小さくし,エネルギー損失を小さくできる

アクチュエータが作動しないときも電動機は一定の回転数(低速)で運転し続けるため,多少の損失エネルギーがある

Page 3: 解説1 — 油圧ポンプ可変速駆動システムの現状と課題pub.nikkan.co.jp/.../pdf_5b963a8ba5c1b-2.pdf1. 油圧ポンプ ここでは,ポンプ構造の種類ではなく,ポンプ

18 機 械 設 計

で,図4の③,④が,本稿のテーマである,油圧ポンプの回転数を制御する油圧システム,可変速駆動システムである。

油圧ユニットにおける消費電力

 油圧ユニットの省エネについて話を進めるに当り,まず,油圧ユニットが消費する電力について考える。  W=N×q×P/η ⑴    W:消費電力[kW]   N:モータ回転数[min-1]   q:ポンプ容量[cm3/rev]   P:ポンプ吐出圧力[MPa]   η:効率 なお,ここでは,ポンプ,モータの効率を1つにまとめている。 また,油圧ポンプが吐出する流量Qは,  Q=N×q/1000[l/min] ⑵ となる。 油圧ユニットの働きは,機械を動作させるのに必要な圧力Pと流量Qを供給することである。 この油圧の出力を実現するには,先に示した①~④のどの構成でも対応できるが,実際には,使われ方(要求性能,許容コスト,運転条件)を踏まえ,システム全体としてどこで損失低減を図るかを考え,それに応じた手段を選ぶこととなる。

工作機械向け可変速駆動システム

 工作機械では,加工中のチャックやクランプのために油圧が使われており,このとき,油圧ユニットは流量Qがほとんどいらず,必要な圧力Pを保持する保圧状態にある。また,機械待機時も油圧ユニットは保圧状態にあり,工作機械の使われ方では,保圧時の消費電力を下げることが,油圧ユニットの省エネとして大きな効果が得られる。 保圧時は流量Qはほとんどいらないので,式⑵から回転数Nを小さくするか,ポンプ容量qを小さくすればよいことがわかる。また,圧力Pを一定で保持する保圧時には,式⑴から,モータ回転数Nを小さくする,あるいは,ポンプ容量qを小さくすると,油圧ユニットの消費電力を小さくできることもわかる。 ここで,回転数Nを小さくすることで保圧時の消費電力を低減する方法が,4つの組合せの中の③固定ポンプ+可変速駆動の構成であり,ポンプ容量qを小さくする方法が②可変容量ポンプ+一定回転数の構成である。図5に示すようにどちらの構成でも同じ油圧出力特性を発揮できることがわかる。 また,どちらの構成でも消費電力Wの低減が可能であるが,それぞれ手段が異なる。 ②の構成では,可変容量ポンプにより保圧時に

ポンプ容量qが小さくなり,モータ負荷トルクが小さくなることで,消費電力を低減できる。回転数を変えなくてもよいので,誘導電動機が使えるため,コスト的にメリットがある。ただし,モータは常に高速一定回転で回り続けるので,回転に伴う抵抗損失が比較的大きい。 ③の構成では,可変速モータにより保圧時に回転数Nを小さくすることで,消費電力を低減できる。ポンプ容量q図5 油圧ユニットの構成と出力特性

油圧ユニットに求められる出力特性

圧力P

流量Q

00

圧力P

ポンプ容量q

q

W

電力W

00ポンプ容量

qが可変

Q=q×N/1000

圧力P

回転数N

W

N

00

Q=q×N/1000

電力W

工作機械では長時間ここで使われる

圧力保持時

圧力保持時

Nは一定

qは一定

シリンダ動作時

クランプ,チャック時(圧力保持)

③固定ポンプ+可変速

②可変容量ポンプ+回転数一定

どちらでも実現可能

回転数Nが可変