看護技術マトリックスの構築harp.lib.hiroshima-u.ac.jp/hbg/file/762/20080429175443/v...看護技術マトリックスの構築 ―57― マトリックス構築の経緯

看護技術マトリックスの構築

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論文要旨　近年，看護学生を取り巻く医療や社会の環境は大きく変化している。呉大学看護学部においても，各看護学講座において，看護教育及び看護の実践の場で広く適用されている，看護過程を取り入れた臨地実習を行っている。そこでは看護過程と看護技術を結び付けて学習することが必要である。なぜなら，ただ看護技術がわかったり，実践できたりするのではなく，看護過程の一連の流れのなかに，看護技術は位置づけられているからである。さらに臨床現場からも看護技術力の低下が指摘され，教育方法を模索しているところである。それらの動きを受け平成15年には，厚生労働省より「臨地実習において看護学生に許容される基本的な看護技術の考え方（案）」の指針が示されるに至った。本大学においても早々に学生の学習効果を高めることを目的に，看護技術のマトリックスを作成した。本稿は2003年度実習委員会による報告である。

キーワード：看護過程，看護技術，マトリックス

■　はじめに　近年，臓器移植や免疫治療等の高度先端医療の進歩，臨地実習時間の短縮，急激な看護の大学化，など，看護学生を取り巻く医療や社会の環境はめざましく変化している。呉大学看護学部（以下，本学とする）においても，各看護学領域において看護教育及び看護の実践の場で，看護過程を取り入れた臨地実習を行っている。そこでは看護技術と看護過程を結び付けて学習することが必要である。なぜなら，ただ看護技術がわかったり，実践できたりするのではなく，看護過程の一連の流れのなかに，看護技術は位置づけられているからである。　さらに臨床現場からも看護技術力の低下が指摘され，卒業前の看護技術の自主トレーニング1）や，技術のチェックリスト2）を作成し、教育方法を模索しているところである。それらの動きを受け，厚生労働省より平成15（2003）年には，「臨地実習において看護学生に許容される基本的な看護技

術の考え方（案）」の指針が示されるに至った。看護専門学校等の教育機関では，指針を受け，早期に学生の学習効果を高めることを目的に，看護技術のマトリックスを作成3），4）している報告がある。本学においても，検討を行っているところである。本稿は，各看護学領域で行っている看護技術教育全体の実態把握を看護技術マトリックスで示し，大学卒業時の到達度を明示することを目的とする，報告である。

■　目　的　本稿の目的は，2003年度実習委員会が，各看護学領域で実践している，看護技術のマトリックスを作成し，厚生労働省の「臨地実習において看護学生に許容される基本的な看護技術の考え方（案）」（以下，「基本的な看護技術」とする）と比し，本学の現在の看護技術教育全体の実態を把握することにある。その結果，大学卒業時の到達度を明示することである。

連絡・抜刷請求先まつばら　みゆき〒737-0004 呉市阿賀南2-10-3　呉大学看護学部

看護技術マトリックスの構築―看護学部学生の看護技術到達度の把握に向けて―

2003年度　実習委員会

松原みゆき，佐々木秀美，山内　京子加藤　重子，藤原　芳美

資　　　　　料資　　　　　料

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■　マトリックス構築の経緯　平成９年度のカリキュラム改正を受け，履修時間が削減され，また自由裁量も認められ，大学独自のカリキュラムの構築も求められている。成人領域においては，今までの「経過別・主要症状別・治療処置」に関する看護技術という分類方法ではなく、金子道子らの提唱するＡ．生涯にわたり健康障害のセルフコントロールを必要とする成人の看護，Ｂ．生活行動に障害のある成人の看護，Ｃ．感染により障害を受けた成人の看護，Ｄ．ストレスと健康障害のある成人の看護，Ｅ．特殊な状態にある成人の看護，Ｆ．生命危機状態にある患者の看護，Ｇ．身体の一部を喪失した成人の看護，Ｈ．治癒困難な成人の看護の，ＡからＨの患者の健康障害のレベル別5）に，臨地実習において看護過程を展開する中から，看護技術を学ぶ教育を実践している6）～9）。それに伴い，老年看護学領域では，加齢に伴う現象から生ずる健康問題に関わる，看護技術を主に教授している。　さらに本学では，看護技術教育，特に看護学臨地実習に重点を置いた教育を行っている。各領域ともに病院や施設での臨地実習時間数は，履修単位内で最大限に設定してある。　■　結果及び考察　今回厚生労働省より「基本的な看護技術」10）が示されたことを受け，本学において健康障害のレベルや各看護学領域の特徴に照らし，どの看護学領域で教授することが，最も学習効果が高まるかを検討し，表１看護技術のマトリックスと看護技術水準の表を作成した。　その内容は，基本的な看護技術に沿い，４つの大項目とその内訳を中項目に分類している。１．日常生活の援助技術，２．診療検査の援助技術，３．指導技術，４．共通基本技術に分類し，さらに１には１）環境調整技術，２）呼吸，３）循環，４）体温，５）食事援助技術・栄養，６）排泄援助技術，７）清潔，８）衣生活，９）休息・睡眠，10）活動・姿勢，２には１）与薬，２）創傷管理技術，３）救命救急処置技術，４）技術，３の指導技術には小項目はないが，４には１）看護過程，２）観察記録報告，３）安全安楽，４）コミュニケーションがある。　これらの中項目に，各看護学領域で行っている小項目を「水準１．教員や看護師の助言・指導により学生が単独で実施できるもの」「水準２．教

員や看護師の指導・監視のもとで実施できるもの」「水準３．原則として看護師や医師の実施を見学するもの」「水準以外のもの」の４通りに色分けしている。看護技術の水準（案）によると，「水準１．」とは実施しようとする技術が特定の患者の状態に適していると認められたものであれば、患者・家族の承諾を得て学生が主体となり単独で実施できるもの。「水準２．」とは患者・家族の承諾を得て教員や看護師の指導・監視のもとで学生が実施できるもの。「水準３．」原則として学生による実施は行わせないものとする。ただし、看護師や教員又は医師の指導監視のもとで患者の身体に直接触れない範囲で介助を行うことは差し支えないものである。　さらに各看護学領域で行っている講義（L），学内での演習（D），臨地実習での実践可能な技術（P）の３つの学ぶ場所を記載している。　本マトリックスの特徴は，学内の看護技術演習の内容だけではなく，臨地実習において学生が到達することが望ましい技術を挙げ，学内と臨地実習が連動し，技術水準を考慮した内容になっている。学生だけで実施してよい項目，看護師または教員と一緒に実施する項目，見学のみの項目別に挙げている。また、これらの看護技術に関する教育内容を一覧表にしたことで、看護教育で教授すべき看護技術について，各教員で共通認識をし，教育内容の重複を避ける指標となった。

■　今後の課題　看護技術の学習を進める上で，学生は学内で１年生から基礎看護領域による基礎看護技術教育に始まり，各看護領域の看護技術を修得しながら，２年生後期から学外の基礎看護学臨地実習Ⅱ，各専門領域の臨地実習を３年生後期から４年生前期まで実施している。　一連の学習の流れを看護技術のマトリックスと看護技術水準の表に作成した。それによる，学習効果や教育評価に関しては，次回に譲るとして，今回は作成報告に留める。

■　結　論１．本学の各看護学領域がおこなっている看護技術全体の実態把握を行った。

２．各看護学領域間における，看護技術習得の重複や継続性，看護技術の講義から学内演習，臨地実習へという，看護技術学習過程を明確

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にした。

■　おわりに　本学で作成した看護技術マトリックスと看護技術水準について紹介してきた。今後この看護技術マトリックスの重複部分については，内容の検討を行い，必要時修正を加える必要がある。その結果，

各看護学領域の授業展開へつなげる必要がある。

【謝辞】　本稿をまとめるにあたり前看護学部長金子道子先生はじめ，各専門領域の緒先生方にご協力いただき感謝いたします。

引用文献

１）稲垣美紀他：卒業直前の看護学部学生の看護技術自己トレーニング効果，大阪府立看護大学起用10巻１号：23-29，2004．

２）叶谷由佳他：臨地実習における各領域共通の看護技術チェック知ると導入の試み，看護教育44巻12号：1030-1039，2003．

３）江川万千代他：学生の学習効果を高める授業展開－福岡看護専門学校「看護技術のマトリックス」の構築－，看護教育，Vol45　No.12：1066-1071，2004．

４）渋谷恵子他：成人看護学のより一層の理解を目指して－札幌市立高騰看護学院の取り組み－，看護教育，Vol45　No.12：1066-1071，2004．

５）金子道子編集責任：成人看護学・老年看護学，看護学臨地実習ガイダンス：看護学理論のまとめと実践，大竹芳子ほか編集，医学芸術社，85-96，1999．

６）佐々木秀美：看護教育における思考訓練の重要性－デューイの反省的思考論を手がかりに。明星大学　教育学研究紀要　第18号：39-47，2003．

７）佐々木秀美：看護基礎教育における技術学に関する若干の考察－学習者参加型学習法を成人看護技術学に取り入れて－，看護学統合研究　５巻２号：55，2004．

８）松原みゆき：デューイの反省的思考（reflective thinking）の適用－成人看護学臨地実習Ⅰの取り組みに関する報告　その１－，看護学統合研究，５巻２号：19，2004．

９）松原みゆき：デューイの反省的思考の適用－成人看護学臨地実習Ⅰの取り組みに関する報告　その２－，看護学統合研究（印刷中）．

10）看護基礎教育における技術教育のあり方に関する検討会報告書　厚生労働省ホームページよりhttp://www.mhlw.go.jp/shingi/2003/03/s0317-4.html（2005年5月23日参照）．

参考文献

氏家幸子・阿曽洋子：基礎看護学技術Ⅱ　第５版，医学書院，東京：233，1994

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表1　看護技術のマトリックスと看護技術水準

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