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はじめに幹細胞はわれわれの体を構成するさまざまな細胞へ

と分化する能力をもっている.このような特徴から,病気や怪我で失われた細胞を補完する移植治療への応用が期待されている.本稿ではヒト多能性幹細胞であるES細胞およびiPS細胞の培養技術の最新情報と今後の医療への応用について説明する.なお,幹細胞には体性幹細胞という医療応用に有用な細胞も存在するが,

他の解説を参照していただきたい.

ヒト多能性幹細胞の培養技術背景と歴史ヒトES/iPS細胞の培養はフィーダー細胞との共培養

系で行われてきた.フィーダー細胞を用いることでヒトES/iPS細胞が状態良く培養できる1)2).ヒトES/iPS細胞のための培養液 (培地) は血清代替物と数種類の

〈Review〉 再生医療の実現に向けた 幹細胞培養技術の開発

中川誠人

幹細胞を臨床応用するには品質が十分に担保された安全な細胞をつくることが必要である.そのためには,われわれは培養システムが一番重要であると考え,真に応用可能な培養液やコーティング剤の開発を進めてきた.幹細胞の応用は今まさにはじまったところであり,今後の発展に向けて,さらなる改良が必要である.多能性幹細胞にはES細胞やiPS細胞がある.iPS細胞は自分の体の細胞からつくり出せる細胞で,細胞移植治療や創薬などのオーダーメイド医療への活用が期待されている.本稿ではES/iPS細胞培養技術の現状と今後の展開について考えてみたい.

 新しい技術はサイエンスの発展を加速させますが,そのような技術開発には企業が大きく貢献しています.そこで 「製品特集」 コーナーでは最新のテクノロジーに注目し,第一線のアカデミア研究者にサイエンスの動向をレビューいただくとともに,開発側の各企業には具体的な製品やサービス,アプリケーション例をご紹介いただきます. 今回,再生医療をめざした細胞外環境の知見に基づく幹細胞培養や,立体組織構築のための技術の最前線にフォーカスします.

<Review>�再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術の開発    � 中川誠人�…… 2958

<協賛企業記事>株式会社�ニッピ� ……………………………… 2964

<協賛企業>株式会社高研三洋貿易株式会社株式会社ニッピ           �(五十音順)

Development of stem cell culture system for regenerative medicineMasato Nakagawa:Department of Life Science Frontiers, Center for iPS cell Research and Application, Kyoto University

(京都大学 iPS細胞研究所 未来生命科学開拓部門)

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再生医療へつながる幹細胞培養の最新テクノロジー

製品特集

実験医学 Vol. 33 No. 18(11 月号)2015

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サイトカイン・成長因子などで構成されている.フィーダー細胞の培養にはウシ胎仔血清 (FBS) を含んだ培養液を用いられている.

ヒトES/iPS細胞の培養に使われているフィーダー細胞の多くはマウス胎仔線維芽細胞の初代培養細胞,あるいはそれらを株化した細胞が使われている.他には,ヒト細胞をフィーダー細胞として用いることも可能であることが報告されている 3).フィーダー細胞を使用するときの注意点としては,毎回同じ状態のフィーダー細胞を準備することである.そうでないとES/iPS細胞の状態にも影響が出てしまう.

これらの培養条件はヒトES/iPS細胞を基礎研究の中で使うために築き上げられてきたものである 4).

ヒトES/iPS細胞の臨床応用と培養の課題細胞移植治療を考えた場合,患者の体に入る分化細

胞のもとになる細胞がヒトES/iPS細胞であることから,臨床応用に適した細胞にする必要がある.適した細胞とは質はもちろん重要だが,ここでは培養方法の点から考えてみたい.

ES/iPS細胞由来の分化細胞を使って臨床応用を行うには,治療の安全性を担保するためのルールを遵守する必要がある.厚生労働省が出している 「生物由来原料基準」 はその1つであり,「医薬品等の品質,有効性及び安全性を確保することを目的とする」,と冒頭に書かれている.ES/iPS細胞の場合,安全が担保された培養液やフィーダー細胞を使わなくてはならないということになる.

動物由来の成分,例えばFBSや血清代替物などは使用できないわけではないが,未知のウイルスのリスクなどを考慮するとできるだけ量を減らすか,使わないことが望ましい.使用する場合は採取元の動物の飼育環境から製品の製造,出荷工程まで,そして製品そのものの安全性などに関して膨大な資料を準備する必要がある.

フィーダー細胞を用いる場合は,セルバンクを構築する必要があると考えられる.セルバンクの構築には細胞調製施設 (クリーンルーム) で大量の凍結ストックの作製が必要である.また,詳細なウイルス試験も行うため,最終的にかなりの労力,時間とコストが必

要となる.また,使うときに毎回同じ細胞の状態にすることは難しく,ES/iPS細胞の性状に影響することは明白である.

最新の細胞培養技術Feeder-freeでのヒトES/iPS細胞の培養

われわれは臨床応用可能なES/iPS細胞の培養法の開発をはじめた.規制をクリアすることはもちろんだが,臨床用細胞を準備する (製造する) 現場で運用しやすい方法であることをめざした.これまで研究目的で利用していたフィーダー細胞を用いた培養方法では限界があると考え,フィーダーフリーの培養方法 (feeder-free法,Ff法) の開発を行うことを決めた.また,培養液などの試薬類には生物由来原料基準に則ったものを使用することとした.

われわれがフィーダー細胞の代わりになる基材 (コーティング材) を探していたときにlaminin-511という細胞外マトリクスのタンパク質がヒトES/iPS細胞の培養に有効であることが報告された 5).国内では,大阪大学の関口清俊教授が一歩進んだ同様の研究を行っており,laminin-511の活性断片を用いたヒトiPS細胞の培養に関する共同研究を開始した6)7).検討の結果,このlaminin-511の活性断片がヒトiPS細胞の樹立から維持培養までコーティング剤として有効であることがわかった (表).現在では,iMatrix-511という製品名で販売されている 〔㈱ニッピ〕.

次に,laminin-511の活性断片をコーティング剤に用いたときに最高のパフォーマンスを発揮する培地の開発をはじめた.ヒトES/iPS細胞の未分化能を維持するためにはbFGFなどのいくつかの成長因子が必要であることが報告されていた8)9).他にも細胞の生存,培地の安定化に必要な因子をリストアップし,それぞれの濃度と組み合わせを検討した.300もの候補培地の検討からプロトタイプの培地が完成し,ヒトES/iPS細胞の培養に有効であることが確認できた.プロトタイプでは動物由来成分を含んでいたため,一つひとつの成分を組換タンパク質などの非動物由来成分に変更していった.最終的にStemFit AK03 〔味の素㈱との共同開発〕 という培養液の開発に成功した (表).この培養液は独立行政法人 医薬品医療機器総合機構 (PMDA)

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<Review> 再生医療の実現に向けた幹細胞培養技術の開発

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との対面助言において生物由来原料基準の適用対象外であるという見解を得ている.つまり,臨床応用に用いるにあたって同意を得ることができたと考えている.iMatrix-511も同様にPMDAによる同意を得ている.

新たに開発したFf培養法とこれまでの培養法 (フィーダー法) の比較を表に示した 10).コーティング剤と培地は前述の通りである.Ff培養法では細胞のコロニーを完全にバラバラにし,シングルセルにした後に播種する方法で継代を行っており,細胞の数をカウントし,一定数の細胞を播種できることがメリットである (図

1).このことにより,作業者間,施設間でのばらつきを減らせることが期待され,運用でのメリットは大きいと考えられる.継代率は1:100とこれまでの方法を大きく上回っており,容易に大量培養を行うことが可能となった.培地交換は2日に一度で十分であることを確認しており,作業者の負担軽減につながることも大きな利点である.凍結保存は市販の試薬STEM-CELLBANKER 〔日本全薬工業㈱〕 を用いて,-80度での緩慢法で行えるため,一度に多量のストックを作製する場合にも有用である.

未来の培養技術多能性幹細胞の培養に関して現状と未来について図

2にまとめた.iPS細胞は自分自身の体の細胞からつくることがで

きるため,免疫拒絶反応のない移植治療のソースとして期待されている.また,疾患iPS細胞を用いた病態モデルの構築と創薬の進展は大いに期待される分野である.しかしながら,個々人のiPS細胞をつくるのには,コストと時間を考えると現状では技術的に難しい

と考える.医療グレードのiPS細胞の場合はさらにハードルが上がってしまう.ここでは,iPS細胞の最大のメリットである自己多能性幹細胞の活用を近い将来実現させるためのポイントについて考えてみたい.

まずはiPS細胞をつくるうえで一番重要な初期化のステップに関して問題となっているのは,誘導効率が低いことである.体細胞に初期化因子を導入することでiPS細胞への誘導を行うが,そのときにベクターという遺伝子の運び屋を使うことが一般的である.ベクターを使用する際に重要なことは,初期化される細胞のゲノムにベクターが入り込まないこと (非挿入) である.つまり,ゲノムに変化を起こさないということが重要である.われわれは現在,エピソーマルベクターというものを主に使用している 11)12).ヒトiPS細胞を樹立した当初に用いていたレトロウイルスとは異なり,エピソーマルベクターを用いた場合は導入遺伝子がホストゲノムに組み込まれることがほとんどないことが知られている.また通常のプラスミドベクターとは違い,細胞分裂に伴って導入遺伝子が複製される特徴から,iPS細胞の樹立に有効であることがわかっている.効率の点ではセンダイウイルスベクターが非常に有用である13).また,RNAによる初期化は非常に有用な技術であるが,効率の点で今後の改良が期待される 14).現状では,よくても1%程度の初期化効率であるので,将来的には10%を超える効率の実現が望まれる.

維持培養については,前述のFf培養法が有用と考える.この方法は臨床での使用も可能であることから,基礎から臨床を一貫して同じ培養法で行えるのが大きなメリットである.培養試薬は大量に使用するためコスト面が懸念材料であるので,十分なベネフィットが

表 フィーダーフリー培養法の特徴

フィーダーフリー法 フィーダー法支持細胞/基質 iMatrix-511 (組換えラミニンタンパク質)〔㈱ニッピ〕 マウスSNL細胞 (マイトマイシン処理)培地 StemFit AK03 (生物由来原料を含まない)〔味の素㈱〕 動物由来成分を含む血清を含む播種 シングルセル→カウントして一定数を播種 小さめの塊にして播種継代率 1:100 1:3培地交換 一日おき ほぼ毎日凍結保存 STEM-CELLBANKER緩慢法 (-80℃) DAP213 ガラス化法 (液体窒素)

新たに開発したフィーダーフリーの培養法と従来法 (フィーダー法) の比較表.

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得られるかどうかを考慮する必要がある.今後はより安価で高性能な培地の開発が望まれる.コーティング剤に関しては,将来的に完全合成の物質で代替できることが望まれる.

凍結保存については,試薬,凍結条件,長期保存,などさまざまな条件の改良が必要である.具体的には,より安定した生存率を達成可能な凍結保存液,最適な凍結温度条件やそのための装置,より高温で長期保存が可能な凍結保存容器,などについて技術の発展が望まれる.

分化細胞をつくる直前の段階での大量培養は応用に向けて克服しないとならない重要な技術である.スピナーフラスコなどを用いた浮遊培養系が主流であると考えられるが,他にはバッグ培養系でも大量培養が可能である 15).ポイントは均質な細胞を培養できることである.最近では培養装置だけでなく培養を安定させる試薬の開発など総合的な開発が進んでおり,将来的に工場規模で稼働させることが可能な技術の開発が望まれる 16).

ES/iPS細胞などの多能性幹細胞から分化細胞をつくるときの培養方法についても簡単に考えてみたい.細胞はシングルセルで培地のなかに浮いたままでは上手く分化することは難しい.体のなかをみるとわかるように,他の細胞とくっついていたり,細胞外マトリク

スに結合したり,多くの場合は両者の様式で何かにくっついて増殖および分化をしていると考えられる.くっつくことによりさまざま刺激を受けており,この刺激が重要である.

神経細胞への分化誘導では96-wellプレート (U底) にバラバラにした細胞を多数入れ込み,ボール様構造

(スフェア) をつくらせることでそのなかで神経細胞をつくることができる 17)18).同様にスフェアをつくらせることで拍動する心筋細胞をつくることができる.スフェアの形成により培地に触れる表面とその内側で細胞の性質に違いが出てくることで,さまざまな細胞への分化誘導が可能となっている.細胞外シグナルの種類 (=培地に含まれる成分など) により内部の細胞社会の行く末が決まってくることは興味深い現象である.最近ではラミニンなどの細胞外マトリクスに接着させて,平面培養で神経細胞や心筋細胞をつくることもできるようになり,より目的の細胞にフォーカスした分化誘導が可能となってきている 19).

多能性幹細胞から体細胞を分化誘導する研究においての最終目標は組織構築ではないだろうか.組織は多種類の細胞からなる複雑な構造をしている.組織を構成する多種類の細胞をそれぞれつくるのは現在の技術では難しい.効率,純度,成熟度,性質,などわれわれにはほとんど制御することはできない.しかし,最

図1 シングルセルでのヒトiPS細胞の培養ヒトiPS細胞のコロニーをシングルセルにし,新しい培養皿に播種した.0日目の矢頭が播種直後の1つの細胞を示す.経時的に観察することで,シングルセルから7日間で十分な大きさのコロニーを形成できることが確認できた.スケールバー=300 μm〔IncuCyteZOOM(エッセンバイオ) で撮影〕

0日目 1日目 2日目 3日目

4日目 5日目 6日目 7日目

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近の研究成果により自己組織化による組織構築技術が発展してきている.この技術では,細胞の集まりが自然にさまざまな細胞へと分化し,組織が構築される.ES細胞を使って眼杯様組織や小脳神経組織の構築が報告されている 20)21).自己組織化による分化誘導には外部環境 (=培地構成成分など) を上手に整えることが大切である.

分化誘導技術は基本的に発生における組織や細胞の分化を模倣しており,細胞がもともともっている能力を上手く引き出していることになる.自己組織化技術はその際たるものであると考えられる.今後は発生などの基礎研究を基盤とした分化誘導培養技術の発展が期待される.

今後の展望本稿ではヒトES/iPS細胞の培養技術について現状と

今後について述べてきた.国内ではヒトiPS細胞を使った臨床研究がすでには

じまっており,今後はいろいろな疾患に対してiPS細胞を使った臨床研究が行われることが期待されている.

これらは細胞移植治療であるが,別の方向としてiPS細胞技術を使った創薬研究が非常に活発である.大学と企業が連携して新たな薬を開発しようとする動きが随所でみられる.

少し先を考えたときに,移植治療でも創薬でも自己iPS細胞を使った応用の実現が望まれることは間違いないと考える.自己細胞移植であれば免疫拒絶反応のリスクはかなり低いことから,大きな治療効果を得ることも可能であろう.また,自己iPS細胞からさまざまな分化細胞をつくり,さまざまな薬の効果を検討することで本当の意味でのオーダーメイド医療が実現できるのではないだろうか.現在発展が著しいゲノム編集技術と組合わせることで,異常細胞を人為的につくり,病態モデルを使った先行的ドラッグスクリーニングも可能である.細胞での結果とそれを人体に適用したときの効果がどれほど合致するかは今後の研究データの蓄積が必要な点である.同時に,国内のロボット技術などを活用した自動培養装置の開発が必須であり,今後の発展が非常に期待される.

図2 ヒトiPS細胞の培養技術の現状と今後iPS細胞技術を応用するためには,血液などの体細胞を初期化し,維持培養し,凍結ストックを作製し,大量培養して必要な分化細胞を準備する必要がある.それぞれのステップにかかわる事項をこの図に示した.

体細胞(血液など) iPS 細胞

ゲノムへの非挿入 フィーダーフリー・ゼノフリー 緩慢法(-80℃) 大量培養

•エピソーマル•センダイウイルス•RNA•レトロウイルス など

*高効率*短期間

*安定性*操作の簡略化

*高い生存率*操作の簡略化

*均質性*高密度化

•iMatrix-511•StemFit AK03•Vitronectin•TeSR2 など

•STEM- CELLBANKER•プログラム フリーザ など

•スピナーフラスコ•培養バッグ•安定化剤 など

未分化細胞の製造

自動化 自動化

重要なポイント

現状で使われている技術(試薬など)

今後の改良において重視されるべきポイント

▪個別化医療に向けたハイスループットでの iPS 細胞の樹立・維持培養装置の自動化▪高い生存率・長期保存安定性・自動化を可能とする凍結システムの開発▪大量培養から目的分化細胞の製造までの一連の作業の自動化▪大量生産した分化細胞を使ったハイスループットスクリーニング技術の開発

初期化 維持培養 凍結 拡大培養

分化細胞の製造

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文献1) Takahashi K, et al:Cell, 131:861-872, 20072) Takahashi K & Yamanaka S:Cell, 126:663-676, 20063) Takahashi K, et al:PLoS One, 4:e8067, 20094) Suemori H, et al:Biochem Biophys Res Commun, 345:

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18) Eiraku M & Sasai Y:Nat Protoc, 7:69-79, 201119) Doi D, et al:Stem Cell Reports, 2:337-350, 201420) Eiraku M, et al:Nature, 472:51-56, 201121) Muguruma K, et al:Cell Rep, 10:537-550, 2015

中川誠人1997年,上智大学理工学部化学科卒業.2002年,奈良先端科学技術大学院大学にて博士号取得 (バイオサイエンス).学術振興会特別研究員 (PD).奈良先端科学技術大学院大学遺伝子教育研究センター,京都大学再生医科学研究所再生誘導研究分野を経て,’09年より京都大学物質-細胞統合システム拠点iPS細胞研究センター 特任講師.’10年より京都大学iPS細胞研究所 講師.

Profile

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1) ゼラチンゼラチンは,動物の皮や骨に含まれるコラーゲンを

熱抽出,あるいは加水分解や酵素分解することによって得られるコラーゲン分解物である.原料としては,ウシやブタの皮や骨がよく利用されているが,最近では魚の皮やウロコなどから抽出したゼラチンも利用されている.医療用途としては古くから経口カプセル,貼付剤などに用いられてきたが,その高い生体親和性と生分解性により近年では,DDS基材やscaffoldなどとして生体内への埋植用途にも使用されている.

われわれはこれら生体内投与の際に問題となる発熱性物質 (エンドトキシン) を低減させた低エンドトキシンゼラチン 「メディゼラチン」 を開発し,生体への埋植をターゲットとした応用開発を進めている.

エンドトキシンは生体内投与を行う医薬品,医療機器では必ず規格値が設定されるが,ゼラチンの場合 ,動物組織を原料として製造されるため,相当量のエンドトキシンが含まれることが常であった.われわれが開発したメディゼラチンの場合10 EU/g以下を規格値として設定しているため,医療機器の材料として利用する際においてもエンドトキシンの規格値のコントロールが可能である.

ゼラチンを医療用材料として考えたときのメリットは成形の自由度であり,スポンジ,シートおよびフィルムなどさまざまな形状で成形することが可能である

(図).これらの成形物は,骨の再生,結合組織の再生や表皮の再生など,埋め込む組織に合わせて選択を行うことが可能である.

2) ラミニンラミニンタンパク質は,上皮・内皮組織や脂肪細

胞・筋細胞と結合組織の境界を形成する基底膜の主要な構成タンパク質であり, α, βおよびγ鎖のサブユニッ

再生医療を支える臨床グレードの細胞培養用基質およびタンパク質分解酵素の開発

株式会社 ニッピ プロテインエンジニアリング室山本卓司

株式会社 ニッピでは,コラーゲンを中心とする細胞外マトリクスの生物学上の機能や,それらの抽出物の物性や機能について研究を行ってきており,これらの研究成果をもとに細胞培養に応用できる製品の製造販売を行ってきた.近年の再生医療分野の進展にともない,われわれは再生医療分野で利用できる臨床グレードの製品づくりに注力をしてきた.ここでは,われわれが開発してきた臨床グレードの試薬である,1)ゼラチン,2)ラミニンおよび3)コラゲナーゼについて紹介したい.

図 ゼラチン

メディゼラチン

ゼラチンスポンジ

ゼラチンフィルム

ゼラチンブロック

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トから構成されており,さまざまな生物学的機能を発揮することが知られている. α, βおよびγ鎖の組合わせによってアイソフォームが異なり,各ラミニンは細胞表面のインテグリンなどのレセプターや他の細胞外マトリクス成分,ヘパリンなどと特異的に結合する.

このラミニンタンパク質は,全長が約400〜800 kDもある巨大分子であり,近年の遺伝子工学の技術を用いても,組換えタンパク質の作製が容易ではない.大阪大学の関口清俊らは,このラミニンタンパク質のうちの,インテグリンと結合する部位を含む短い断片を作製して細胞培養基質として応用することを考案した.この断片化したラミニンタンパク質は,ラミニン-E8断片とよばれ,全長のラミニンタンパク質と変わらないインテグリンとの接着活性をもつことがわかっている.α5,β1およびγ1鎖で構成されるラミニン511タンパク質のE8断片 (ラミニン511-E8断片) は,内皮細胞や幹細胞などの細胞表面に存在するインテグリンα6β1と結合することが知られており,ES/iPS細胞の培養時には,フィーダー細胞の代替培養基質として使用することが可能である.さらに,ラミニン511-E8断片を使用した場合には,ROCK阻害剤 (Y27632) を使用せずに幹細胞様の性質を維持することができ,かつシングルセルでの継代が可能である.ラミニン511-E8断片を製品化した 「iMatrix-511」 は,現在 ,広くフィーダーフリー培養用基質として使用されている.

iMatrix-511 の臨 床 グレー ドである 「iMatrix-511MG」 は,2014年12月にPMDA (独立行政法人 医薬品医療機器総合機構) との対面助言において,生物

由来原料基準への適合性について 「異論はない」 との判断をいただき,2015 年 6 月から販売を開始した.iMatrix-511MGは,臨床応用を行うための幹細胞をin vitroで培養するための基質として使用されており,臨床研究での使用が広がってきている.

これらのラミニンの技術開発の成果が認められ,関口清俊 (大阪大学),中川誠人 (京都大学) および服部俊治 (ニッピ) は,第13回(平成27年度)産学官連携功労者表彰の文部科学大臣賞を受賞した.

3) コラゲナーゼ細胞を用いた再生医療を行う場合には,いったん生

体外へとり出した細胞をin vitroで培養し患者の体内に戻すというプロセスがとられる.自家移植においても他家移植においても,ドナーの組織から細胞をとり出す際には,組織を分解する必要がある.コラゲナーゼは,コラーゲンを特異的に分解するタンパク質分解酵素であり,再生医療において組織から細胞を分離するために,他の酵素と組み合わせた上で使用されている.われわれが臨床グレードのコラゲナーゼを開発するきっかけとなった,Ⅰ型糖尿病の治療法である膵島移植手術においても,ドナーの膵臓から膵島を分離する際にコラゲナーゼを使用している.現在,試験研究用途として広く使用されている細胞分散用コラゲナーゼは,Clostridium histolyticum産生コラゲナーゼを精製した酵素製剤がほとんどであるが,精製度は高くない場合が多く,コラゲナーゼ以外の酵素が含まれている場合が多い.また,C. histolyticum産生コラゲナー

写真1 iMatrix-511MG 写真2 ブライターゼC

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<協賛企業記事> 株式会社 ニッピ

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ゼには,ColGとColHの2種類のアイソフォームがあり,それぞれの分解対象となる基質が異なることが報告されている.また,その混合比により活性が変わる可能性があり,細胞分散効率に大きな影響を与えるという報告もある.われわれが開発したコラゲナーゼである 「ブライターゼC」 は,アイソフォームが1種類であるGrimontia hollisaeのコラゲナーゼ遺伝子を,Brevibacillus発現系に組換えることによって,高純度のリコンビナントコラゲナーゼとして作製される.1種類のリコンビナントコラゲナーゼを用いることにより,活性が安定な酵素製剤となり,臨床での使用における信頼度が高まると考えられている.

コラゲナーゼが分解する基質は,コラーゲン様配列をもったタンパク質のみであり,細胞分散に使用する際には,他のタンパク質分解酵素を最適な濃度で混合して使用する必要がある.膵島移植手術における膵島分離では,コラゲナーゼとサーモリシンの混合酵素製

剤が広く使用されているが,各酵素の混合比は固定されており,このことが個別化再生医療実現の壁となっていることが指摘されている.われわれが開発した臨床グレードのブライターゼCは,他の酵素と自由に組合わせて使用することができ,目的に合わせた最適な酵素条件をカスタマイズすることが可能となり,再生医療のさまざまな場面において活用されるものと考えている.

まとめ以上のように,われわれが研究開発してきた各種臨

床グレード試薬は,再生医療において使用する細胞を「分離」 し,「培養」 し,体内に 「埋植」 するための試薬として,広く活用されている.これからも,われわれの強みである細胞外マトリクスに関する研究を活用したさまざまな技術開発を行い,再生医療を支援する製品づくりを行っていきたいと考えている.

写真3 研究所外観

株式会社 ニッピプロテインエンジニアリング室東京都足立区千住緑町1-1-1TEL:03-3888-5184 FAX:03-3888-5136http://www.nippi-inc.co.jp/

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