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5BI-507A-2019年11月作成(審)19Ⅹ139
1853年、現在の熊本県阿蘇郡小国町に生まれた北里柴三郎は、熊本医学校(現 熊本大学医学部)で学んだ後、1874年(21歳)に東京医学校(現 東京大学医学部)に入学し、在学中に予防医学の仕事に就くことを決意しました。1883年に内務省衛生局に入局、そして1886年からはドイツに留学し、病原微生物学研究の第一人者であるローベルト・コッホに師事しました。
北里は留学中の1889年(36歳)に破傷風菌の純粋培養に成功し、その毒素を中和する免疫抗体を発見、そしてそれを応用し、血清療法を開発しました。さらに、同じくコッホの弟子であったベーリングと連名で論文「動物におけるジフテリアと破傷風の血清療法について」を発表しました。これらの功績により、北里は一躍世界的な研究者として名声を博すこととなりました。1892年に帰国後、福澤諭吉らの援助を得て私立伝染病研究所(1899年に国立伝染病研究所を経て、
現 東京大学医科学研究所)を設立し、所長として活躍しました。また、香港で流行したペストの調査のため現地に赴き、1894年(41歳)にはペスト菌を発見しました。
1914年(61歳)に国立伝染病研究所の所長を辞任し、新たに北里研究所を設立しました。多くの優秀な門下生を輩出した他、細菌学・免疫学の講習会を実施するなど、教育活動や衛生行政 等の分 野でも大きく貢 献しました。また、1917年(64歳)慶應義塾大学医学科(現 同大学医学部)を創設し、初代科長として大学の発展に尽力しました。さらに、日本医師会などの医学団体や病院の設立にも従事し、わが国の公衆衛生や予防医学、医学教育の発展に大きな足跡を残しました。
「病気を未然に防ぐことが医者の使命」という予防医学への信念をもとに、破傷風菌の純粋培養や血清療法の確立、ジフテリアと破傷風の抗血清開発など、
細菌学の分野で多大な功績を上げ、国内外での感染症予防と治療に貢献した北里柴三郎博士。
今回は近代医学の父とも呼ばれ、新千円札の図柄に選ばれた博士の足跡についてご紹介します。北
里
柴三郎
ワクチンはじめて物語 6
近代日本医学の先駆者
米国では、1996年から水痘ワクチンの定期接種(生後12~18カ月で1回接種)が開始され、ワクチン接種率が上昇するとともに水痘患者数は減少の一途をたどりました。 しかし、その後は水痘患者数の減少によって自然感染のブースター効果が減弱したことによるワクチン接種後罹患
(breakthrough水痘)患者が相対的に増加し、カリフォルニア州アンテロープ・バレーにおける調査では、2004年にbreakthrough水痘患者がワクチン未接種の水痘患者数を上回ったことが明らかとなりました(図)。Breakthrough水痘は発疹数も少なく軽症な場合が多いですが、感染源となりうる点が問題となっています。この結果等をもとに、米国では2006年から現在まで水痘ワクチンの2回接種
(生後12~15カ月、4~6歳)が推奨され、再び患者数は減少傾向にあります。
Chaves SS, et al. N Engl J Med 2007; 356(11): 1123. Figure 1.服部文彦, 吉川哲史. 小児科 2019; 60(3): 292. 図1.
新村眞人. 帯状疱疹・水痘―予防時代の診療戦略. メディカルトリビューン, 2016. p.179.より作図
米国における水痘ワクチン定期接種導入後のワクチン接種状況と水痘患者の推移
図
【参考文献】● 服部文彦, 吉川哲史. 小児科 2019; 60(3): 291-297.● 新村眞人. 帯状疱疹・水痘―予防時代の診療戦略. メディカルトリビューン, 2016.
p.99, 179-180.
予防医学への道を志しドイツ留学でコッホに師事
破傷風やジフテリアの血清療法を開発
日本の近代医学の黎明期に予防医学の礎を築く
定期接種開始(生後12~18カ月で1回接種)
(人)
(年)
水痘患者数
ワクチン接種率
(%)3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
01995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
1009080706050403020100
breakthrough水痘患者が増加し、未接種患者数を上回る
ワクチン接種率上昇に伴い、水痘患者数減少
接種済み 未接種 ワクチン接種率
米国の水痘ワクチン接種状況と疫学
【参考文献】● 北里研究所ウェブサイト. 北里柴三郎記念室. 北里柴三郎の生涯(https://www.kitasato.ac.jp/jp/kinen-shitsu/shibasaburo/lifetime.html)
● 北里大学北里研究所病院ウェブサイト. 北里研究所病院を知る. 近代日本医学の父、北里柴三郎 受け継がれる北里精神の原点
(https://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/special/dna/hokken_origin. html)
● 小安重夫. 感染症と免疫学の戦いの歴史. 微研ミュージアム, 2010. 11.北里 柴三郎
写真提供:学校法人北里研究所
2014年10月に水痘ワクチンが定期接種化され、5年が経過しました。以降、水痘患者数は着実に減少している一方で、罹患年齢の中心が定期接種対象外の年齢層である年長児に移行しつつあり、さらに水痘ワクチン未接種の水痘患者はワクチン接種後罹患患者より症状が重いことが示されています。水痘のさらなる制御に向けては、ワクチン2回接種の徹底と定期接種対象外の年長児へのキャッチアップ接種が重要であり、より適切な予防接種の実施が望まれます。
今号の 水痘のさらなる制御を目指して
2019 Vol.08
感 染 症 予 防 の 明日へつながる
ワクチンの
米国の水痘ワクチン接種状況と疫学
Close Up 第8回 水痘
水痘のさらなる制御を目指して~ワクチン2回接種の徹底と年長児へのキャッチアップ接種を~
[監修] 藤田医科大学医学部 小児科学 主任教授 吉川哲史先生
ワクチンはじめて物語近代日本医学の先駆者 北里 柴三郎
6
500nm
水痘・帯状疱疹ウイルスは、ヘルペスウイルス科のα亜科に属するDNAウイルスであり、他のヘルペスウイルスと同様に初感染の後、知覚神経節に潜伏感染する。
[Close Upウイルス]水痘・帯状疱疹ウイルス
わが国では、2014年10月に生後12~36カ月の水痘既往歴のない乳幼児を対象とし、乾燥弱毒生水痘ワクチン
(水痘ワクチン)の定期接種が導入されました。接種回数は2回で、1回目は生後12~15カ月の間に行い、2回目は3カ月以上あけて、標準として1回目を接種して6~12カ月を経過した後に接種します。参考として、水痘ワクチンの定期接種機会と年齢の関係を示します(表1)。 定期接種化後、水痘患者数は顕著に減少しています。国立感染症研究所の感染症発生動向調査によると、小児科定点からの患者報告数は、定期接種化前の2012年は約19.6万
例でしたが、2015年には約7.8万例、2017年は約6万例へと推移しています2)。報告された患者の年齢分布は、2012年には0~3歳が約6割を占めていましたが、2017年には約3割まで低下しています(図1)。水痘ワクチンの定期接種化によって、定期接種対象年齢層における水痘患者が減少をみせる一方で、2回接種完遂が不十分と考えられる年齢層の年長児に、罹患年齢の中心が移行しつつあると推察されます。
監修者らは愛知県内の小児科開業施設および関連医療機関(Nagoya-VZV study group)において、ウイルス学的に確定診断された水痘患者を継続的にモニタリングし、2015年調査開始後の累積発生状況を解析しています。 本調査において、2015年9月1日~2018年8月31日までに発生した水痘疑いの患者554例から水疱拭い液を採取し、Direct LAMP法またはReal-time PCR法にてウイルス学的に検出したところ、415例の水痘・帯状疱疹ウイルス
(VZV)感染が確認されました(図2)。 さらにそのVZV感染患者415例を、水痘ワクチンの接種歴(未接種、1回接種、2回接種)で分けて解析を行いました。水痘ワクチンを接種したにもかかわらず水痘に罹患した人をbreakthrough水痘患者と言いますが、ワクチン未接種の水痘患者とbreakthrough水痘患者の臨床像を比較した結果、未接種の自然水痘患者はbreakthrough水痘患者より症状が重いことが示されました(表2)1)。
国立感染症研究所の2018年度感染症流行予測調査の「予防接種状況(接種歴不明者を含む場合)」より、0~12歳についてみてみると、2回接種の割合が最も多いのは3歳児の73%(1回接種は6%)、その次に多いのは4、5歳児の66%でした(図3)。 7歳以上の2回接種の実施率は20%を下回っており、現在、水痘患者の中心が年長児に移行していることを鑑みると、定期接種であるか否かによらず、2回接種の徹底が望まれます。
今後の課題として、定期接種における1~2歳児への水痘ワクチン2回接種の実施率が十分とは言い難いため、接種の徹底が求められます。1回目の接種は麻しん風しん混合
(MR)ワクチン1回目との同時接種として実施されることが多いですが、2回目の接種は忘れられやすいため留意すべき点と言えます。 次に求められるのは定期接種対象外の年長児のワクチン未接種者、および1回接種者へのキャッチアップ接種です。水痘のコントロールのため、定期接種の有無にかかわらず2回接種の完遂が極めて重要と考えられます。水痘のさらなる制御を目指し、今後も水痘患者のモニタリングの継続と、より適切な予防接種の実施が望まれます。
2014年10月からの水痘ワクチン定期接種(2回接種)導入に伴い、水痘患者数は着実に減少している一方で、罹患年齢の中心が定期接種対象外の年齢層である年長児へと移行しつつあります。また、Nagoya-VZV study groupの調査において、水痘ワクチン未接種の水痘患者はワクチン接種後罹患(breakthrough水痘)患者に比べ、より症状が重いことが示されています1)。特に年長児での予防接種の実施が十分とは言い難く、これからも水痘患者の発生動向に注視が必要と言えます。今回は、水痘ワクチン2回接種の徹底と、定期接種対象外の年長児へのキャッチアップ接種の重要性についてご紹介します。
[監修]吉川哲史 先生藤田医科大学医学部 小児科学 主任教授
1)服部文彦, 吉川哲史. 小児科診療 2019; 6: 703-707.2)国立感染症研究所. 感染症発生動向調査事業年報2012年(平成24年)~2017年(平成29年)確定報告データ. 集計表一覧. 第12-1表(https://www.niid.go.jp/niid/
ja/survei/2270-idwr/nenpou/8555-idwr-nenpo2017.html)
2回接種の実施率は十分と言えず年長児の実施率はより低い
望まれるワクチン2回接種の徹底と年長児へのキャッチアップ接種
水痘患者数減少の一方で罹患年齢の中心が年長児に移行
ワクチン未接種の水痘患者はbreakthrough水痘患者よりも症状が重い水痘のさらなる制御を
目指して ~ワクチン2回接種の徹底と年長児へのキャッチアップ接種を~
第8回 水痘
図3 0~12歳における水痘ワクチンの実施率(2018年度)
図1 水痘患者の小児科定点報告数の推移と年齢割合(2012~2017年)
国立感染症研究所. 感染症流行予測調査グラフ. 年齢/年齢別の水痘ワクチン接種状況, 2018年(https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8857-varicella-yosoku-vaccine2018.html)より作図
表2 ワクチン接種歴別にみた水痘患者415例の臨床像比較
服部文彦, 吉川哲史. 小児科診療 2019; 6: 706.表より一部改変
P値
<0.001
0.116
<0.001
該当なし
発熱(38.5℃以上)
有熱期間*3
初診時発疹数*7
合併症
未接種(n=146)
64例*1
(44.4%)
1.59±1.11*4
20個*8
(1~120)
皮膚化膿症 2例髄膜炎 1例
1回接種(n=206)
59例*2
(28.8%)
1.54±0.63*5
10個*2
(1~123)
皮膚化膿症2例
2回接種(n=63)
12例(19.0%)
1.10±0.30*6
9個*9
(1~50)
0例
国立感染症研究所. 感染症発生動向調査事業年報2012年(平成24年)~2017年(平成29年)確定報告データ. 集計表一覧. 第12-1表
(https://www.niid.go.jp/niid/ja/survei/2270-idwr/nenpou/8555-idwr-nenpo2017.html)より作図
水痘ワクチンの定期接種機会と年齢の関係表1
予防接種ガイドライン等検討委員会. 予防接種ガイドライン2019年度版.予防接種リサーチセンター, 2019. 12-13.を参考に作表
2019
0歳
2018
1歳
2017
2歳
2016
3歳
2015
4歳
2014
5歳
2013
6歳
2012
7歳
2011
8歳
2010
9歳
2009
10歳
2008
11歳
2007~
12歳~
出生年度(年度)
2019年度に迎える年齢
定期としての接種機会(定期接種開始:2014年10月~)
2014年10月より定期接種開始
(人)
(年)
水痘患者報告数
年齢割合
(%)200,000
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
02012 2013 2014 2015 2016 2017
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
15歳以上10~14歳8、9歳6、7歳4、5歳3歳2歳1歳0歳患者報告数
図2 水痘患者の実験室診断フロー(Nagoya-VZV study group)
Direct LAMP法陰性 168例
除外 1例(Okaワクチン株)
除外 46例(ワクチン接種歴
の詳細不明)
Direct LAMP法陽性 386例
Real-time PCR法陰性 92例
Real-time PCR法陽性 76例
VZV DNA陽性461例(83.6%)
全症例 554例
415例
吉川哲史先生よりご提供
*1:n=144、 *2:n=205、 *3:平均値±標準偏差、 *4:n=54、 *5:n=51、*6:n=11、 *7:中央値(最小~最大)、 *8:n=143、 *9:n=62
0~5カ月
6~11カ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳
ワクチン実施率
1009080706050403020100
(%)
0
38
63
83
15 16
12
49
22
15
63
16
5
73
6515
155510
66 66
119211
34
26
21
415
14
33
33
2
19
8歳
16
30
34
911
9歳 10歳
7
25
42
4
23
37
49
57
11歳
38
45
510
12歳
31
50
17
2回接種 1回接種 接種無し その他 不明
00
2
10
0
2
2 2 1
11
2回 なし
(経過措置として:2014年10月~2015年3月)
1回
わが国では、2014年10月に生後12~36カ月の水痘既往歴のない乳幼児を対象とし、乾燥弱毒生水痘ワクチン
(水痘ワクチン)の定期接種が導入されました。接種回数は2回で、1回目は生後12~15カ月の間に行い、2回目は3カ月以上あけて、標準として1回目を接種して6~12カ月を経過した後に接種します。参考として、水痘ワクチンの定期接種機会と年齢の関係を示します(表1)。 定期接種化後、水痘患者数は顕著に減少しています。国立感染症研究所の感染症発生動向調査によると、小児科定点からの患者報告数は、定期接種化前の2012年は約19.6万
例でしたが、2015年には約7.8万例、2017年は約6万例へと推移しています2)。報告された患者の年齢分布は、2012年には0~3歳が約6割を占めていましたが、2017年には約3割まで低下しています(図1)。水痘ワクチンの定期接種化によって、定期接種対象年齢層における水痘患者が減少をみせる一方で、2回接種完遂が不十分と考えられる年齢層の年長児に、罹患年齢の中心が移行しつつあると推察されます。
監修者らは愛知県内の小児科開業施設および関連医療機関(Nagoya-VZV study group)において、ウイルス学的に確定診断された水痘患者を継続的にモニタリングし、2015年調査開始後の累積発生状況を解析しています。 本調査において、2015年9月1日~2018年8月31日までに発生した水痘疑いの患者554例から水疱拭い液を採取し、Direct LAMP法またはReal-time PCR法にてウイルス学的に検出したところ、415例の水痘・帯状疱疹ウイルス
(VZV)感染が確認されました(図2)。 さらにそのVZV感染患者415例を、水痘ワクチンの接種歴(未接種、1回接種、2回接種)で分けて解析を行いました。水痘ワクチンを接種したにもかかわらず水痘に罹患した人をbreakthrough水痘患者と言いますが、ワクチン未接種の水痘患者とbreakthrough水痘患者の臨床像を比較した結果、未接種の自然水痘患者はbreakthrough水痘患者より症状が重いことが示されました(表2)1)。
国立感染症研究所の2018年度感染症流行予測調査の「予防接種状況(接種歴不明者を含む場合)」より、0~12歳についてみてみると、2回接種の割合が最も多いのは3歳児の73%(1回接種は6%)、その次に多いのは4、5歳児の66%でした(図3)。 7歳以上の2回接種の実施率は20%を下回っており、現在、水痘患者の中心が年長児に移行していることを鑑みると、定期接種であるか否かによらず、2回接種の徹底が望まれます。
今後の課題として、定期接種における1~2歳児への水痘ワクチン2回接種の実施率が十分とは言い難いため、接種の徹底が求められます。1回目の接種は麻しん風しん混合
(MR)ワクチン1回目との同時接種として実施されることが多いですが、2回目の接種は忘れられやすいため留意すべき点と言えます。 次に求められるのは定期接種対象外の年長児のワクチン未接種者、および1回接種者へのキャッチアップ接種です。水痘のコントロールのため、定期接種の有無にかかわらず2回接種の完遂が極めて重要と考えられます。水痘のさらなる制御を目指し、今後も水痘患者のモニタリングの継続と、より適切な予防接種の実施が望まれます。
2014年10月からの水痘ワクチン定期接種(2回接種)導入に伴い、水痘患者数は着実に減少している一方で、罹患年齢の中心が定期接種対象外の年齢層である年長児へと移行しつつあります。また、Nagoya-VZV study groupの調査において、水痘ワクチン未接種の水痘患者はワクチン接種後罹患(breakthrough水痘)患者に比べ、より症状が重いことが示されています1)。特に年長児での予防接種の実施が十分とは言い難く、これからも水痘患者の発生動向に注視が必要と言えます。今回は、水痘ワクチン2回接種の徹底と、定期接種対象外の年長児へのキャッチアップ接種の重要性についてご紹介します。
[監修]吉川哲史 先生藤田医科大学医学部 小児科学 主任教授
1)服部文彦, 吉川哲史. 小児科診療 2019; 6: 703-707.2)国立感染症研究所. 感染症発生動向調査事業年報2012年(平成24年)~2017年(平成29年)確定報告データ. 集計表一覧. 第12-1表(https://www.niid.go.jp/niid/
ja/survei/2270-idwr/nenpou/8555-idwr-nenpo2017.html)
2回接種の実施率は十分と言えず年長児の実施率はより低い
望まれるワクチン2回接種の徹底と年長児へのキャッチアップ接種
水痘患者数減少の一方で罹患年齢の中心が年長児に移行
ワクチン未接種の水痘患者はbreakthrough水痘患者よりも症状が重い水痘のさらなる制御を
目指して ~ワクチン2回接種の徹底と年長児へのキャッチアップ接種を~
第8回 水痘
図3 0~12歳における水痘ワクチンの実施率(2018年度)
図1 水痘患者の小児科定点報告数の推移と年齢割合(2012~2017年)
国立感染症研究所. 感染症流行予測調査グラフ. 年齢/年齢別の水痘ワクチン接種状況, 2018年(https://www.niid.go.jp/niid/ja/y-graphs/8857-varicella-yosoku-vaccine2018.html)より作図
表2 ワクチン接種歴別にみた水痘患者415例の臨床像比較
服部文彦, 吉川哲史. 小児科診療 2019; 6: 706.表より一部改変
P値
<0.001
0.116
<0.001
該当なし
発熱(38.5℃以上)
有熱期間*3
初診時発疹数*7
合併症
未接種(n=146)
64例*1
(44.4%)
1.59±1.11*4
20個*8
(1~120)
皮膚化膿症 2例髄膜炎 1例
1回接種(n=206)
59例*2
(28.8%)
1.54±0.63*5
10個*2
(1~123)
皮膚化膿症2例
2回接種(n=63)
12例(19.0%)
1.10±0.30*6
9個*9
(1~50)
0例
国立感染症研究所. 感染症発生動向調査事業年報2012年(平成24年)~2017年(平成29年)確定報告データ. 集計表一覧. 第12-1表
(https://www.niid.go.jp/niid/ja/survei/2270-idwr/nenpou/8555-idwr-nenpo2017.html)より作図
水痘ワクチンの定期接種機会と年齢の関係表1
予防接種ガイドライン等検討委員会. 予防接種ガイドライン2019年度版.予防接種リサーチセンター, 2019. 12-13.を参考に作表
2019
0歳
2018
1歳
2017
2歳
2016
3歳
2015
4歳
2014
5歳
2013
6歳
2012
7歳
2011
8歳
2010
9歳
2009
10歳
2008
11歳
2007~
12歳~
出生年度(年度)
2019年度に迎える年齢
定期としての接種機会(定期接種開始:2014年10月~)
2014年10月より定期接種開始
(人)
(年)
水痘患者報告数
年齢割合
(%)200,000
180,000
160,000
140,000
120,000
100,000
80,000
60,000
40,000
20,000
02012 2013 2014 2015 2016 2017
100
90
80
70
60
50
40
30
20
10
0
15歳以上10~14歳8、9歳6、7歳4、5歳3歳2歳1歳0歳患者報告数
図2 水痘患者の実験室診断フロー(Nagoya-VZV study group)
Direct LAMP法陰性 168例
除外 1例(Okaワクチン株)
除外 46例(ワクチン接種歴
の詳細不明)
Direct LAMP法陽性 386例
Real-time PCR法陰性 92例
Real-time PCR法陽性 76例
VZV DNA陽性461例(83.6%)
全症例 554例
415例
吉川哲史先生よりご提供
*1:n=144、 *2:n=205、 *3:平均値±標準偏差、 *4:n=54、 *5:n=51、*6:n=11、 *7:中央値(最小~最大)、 *8:n=143、 *9:n=62
0~5カ月
6~11カ月 1歳 2歳 3歳 4歳 5歳 6歳 7歳
ワクチン実施率
1009080706050403020100
(%)
0
38
63
83
15 16
12
49
22
15
63
16
5
73
6515
155510
66 66
119211
34
26
21
415
14
33
33
2
19
8歳
16
30
34
911
9歳 10歳
7
25
42
4
23
37
49
57
11歳
38
45
510
12歳
31
50
17
2回接種 1回接種 接種無し その他 不明
00
2
10
0
2
2 2 1
11
2回 なし
(経過措置として:2014年10月~2015年3月)
1回
発行:一般財団法人 阪大微生物病研究会/田辺三菱製薬株式会社 バックナンバーはこちらhttps://www.biken.or.jp/medical/vaccinenomichi
5BI-507A-2019年11月作成(審)19Ⅹ139
1853年、現在の熊本県阿蘇郡小国町に生まれた北里柴三郎は、熊本医学校(現 熊本大学医学部)で学んだ後、1874年(21歳)に東京医学校(現 東京大学医学部)に入学し、在学中に予防医学の仕事に就くことを決意しました。1883年に内務省衛生局に入局、そして1886年からはドイツに留学し、病原微生物学研究の第一人者であるローベルト・コッホに師事しました。
北里は留学中の1889年(36歳)に破傷風菌の純粋培養に成功し、その毒素を中和する免疫抗体を発見、そしてそれを応用し、血清療法を開発しました。さらに、同じくコッホの弟子であったベーリングと連名で論文「動物におけるジフテリアと破傷風の血清療法について」を発表しました。これらの功績により、北里は一躍世界的な研究者として名声を博すこととなりました。1892年に帰国後、福澤諭吉らの援助を得て私立伝染病研究所(1899年に国立伝染病研究所を経て、
現 東京大学医科学研究所)を設立し、所長として活躍しました。また、香港で流行したペストの調査のため現地に赴き、1894年(41歳)にはペスト菌を発見しました。
1914年(61歳)に国立伝染病研究所の所長を辞任し、新たに北里研究所を設立しました。多くの優秀な門下生を輩出した他、細菌学・免疫学の講習会を実施するなど、教育活動や衛生行政 等の分 野でも大きく貢 献しました。また、1917年(64歳)慶應義塾大学医学科(現 同大学医学部)を創設し、初代科長として大学の発展に尽力しました。さらに、日本医師会などの医学団体や病院の設立にも従事し、わが国の公衆衛生や予防医学、医学教育の発展に大きな足跡を残しました。
「病気を未然に防ぐことが医者の使命」という予防医学への信念をもとに、破傷風菌の純粋培養や血清療法の確立、ジフテリアと破傷風の抗血清開発など、
細菌学の分野で多大な功績を上げ、国内外での感染症予防と治療に貢献した北里柴三郎博士。
今回は近代医学の父とも呼ばれ、新千円札の図柄に選ばれた博士の足跡についてご紹介します。北
里 柴三郎
ワクチンはじめて物語 6
近代日本医学の先駆者
米国では、1996年から水痘ワクチンの定期接種(生後12~18カ月で1回接種)が開始され、ワクチン接種率が上昇するとともに水痘患者数は減少の一途をたどりました。 しかし、その後は水痘患者数の減少によって自然感染のブースター効果が減弱したことによるワクチン接種後罹患
(breakthrough水痘)患者が相対的に増加し、カリフォルニア州アンテロープ・バレーにおける調査では、2004年にbreakthrough水痘患者がワクチン未接種の水痘患者数を上回ったことが明らかとなりました(図)。Breakthrough水痘は発疹数も少なく軽症な場合が多いですが、感染源となりうる点が問題となっています。この結果等をもとに、米国では2006年から現在まで水痘ワクチンの2回接種
(生後12~15カ月、4~6歳)が推奨され、再び患者数は減少傾向にあります。
Chaves SS, et al. N Engl J Med 2007; 356(11): 1123. Figure 1.服部文彦, 吉川哲史. 小児科 2019; 60(3): 292. 図1.
新村眞人. 帯状疱疹・水痘―予防時代の診療戦略. メディカルトリビューン, 2016. p.179.より作図
米国における水痘ワクチン定期接種導入後のワクチン接種状況と水痘患者の推移
図
【参考文献】● 服部文彦, 吉川哲史. 小児科 2019; 60(3): 291-297.● 新村眞人. 帯状疱疹・水痘―予防時代の診療戦略. メディカルトリビューン, 2016.
p.99, 179-180.
予防医学への道を志しドイツ留学でコッホに師事
破傷風やジフテリアの血清療法を開発
日本の近代医学の黎明期に予防医学の礎を築く
定期接種開始(生後12~18カ月で1回接種)
(人)
(年)
水痘患者数
ワクチン接種率
(%)3,000
2,500
2,000
1,500
1,000
500
01995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 2002 2003 2004
1009080706050403020100
breakthrough水痘患者が増加し、未接種患者数を上回る
ワクチン接種率上昇に伴い、水痘患者数減少
接種済み 未接種 ワクチン接種率
米国の水痘ワクチン接種状況と疫学
【参考文献】● 北里研究所ウェブサイト. 北里柴三郎記念室. 北里柴三郎の生涯(https://www.kitasato.ac.jp/jp/kinen-shitsu/shibasaburo/lifetime.html)
● 北里大学北里研究所病院ウェブサイト. 北里研究所病院を知る. 近代日本医学の父、北里柴三郎 受け継がれる北里精神の原点
(https://www.kitasato-u.ac.jp/hokken-hp/special/dna/hokken_origin. html)
● 小安重夫. 感染症と免疫学の戦いの歴史. 微研ミュージアム, 2010. 11.北里 柴三郎
写真提供:学校法人北里研究所
2014年10月に水痘ワクチンが定期接種化され、5年が経過しました。以降、水痘患者数は着実に減少している一方で、罹患年齢の中心が定期接種対象外の年齢層である年長児に移行しつつあり、さらに水痘ワクチン未接種の水痘患者はワクチン接種後罹患患者より症状が重いことが示されています。水痘のさらなる制御に向けては、ワクチン2回接種の徹底と定期接種対象外の年長児へのキャッチアップ接種が重要であり、より適切な予防接種の実施が望まれます。
今号の 水痘のさらなる制御を目指して
2019 Vol.08
感 染 症 予 防 の 明日へつながる
ワクチンの
米国の水痘ワクチン接種状況と疫学
Close Up 第8回 水痘
水痘のさらなる制御を目指して~ワクチン2回接種の徹底と年長児へのキャッチアップ接種を~
[監修] 藤田医科大学医学部 小児科学 主任教授 吉川哲史先生
ワクチンはじめて物語近代日本医学の先駆者 北里 柴三郎
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水痘・帯状疱疹ウイルスは、ヘルペスウイルス科のα亜科に属するDNAウイルスであり、他のヘルペスウイルスと同様に初感染の後、知覚神経節に潜伏感染する。
[Close Upウイルス]水痘・帯状疱疹ウイルス
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