産業基盤維持管理技術研究会産業基盤維持管理技術研究会
鋼橋の疲労に関する基礎知識鋼橋の疲労に関する基礎知識
2003.6.62003.6.6
長崎大学長崎大学 工学部工学部
社会開発工学科社会開発工学科
中中 村村 聖聖 三三
講演内容講演内容
疲労現象疲労現象–– 疲労とは?疲労き裂の成長過程・種類,疲労寿命の疲労とは?疲労き裂の成長過程・種類,疲労寿命の
支配要因,支配要因,SS--NN曲線曲線
鋼橋の疲労損傷事例鋼橋の疲労損傷事例
疲労強度に対する影響因子疲労強度に対する影響因子–– 鋼材強度,残留応力,応力集中鋼材強度,残留応力,応力集中
疲労設計法疲労設計法–– 疲労設計曲線,変動応力の取扱い,線形累積被害則疲労設計曲線,変動応力の取扱い,線形累積被害則
疲労強度向上法疲労強度向上法–– 応力集中の低減,残留応力のコントロール応力集中の低減,残留応力のコントロール
疲労(疲労(fatiguefatigue))とは?とは?構造物や材料が繰返し荷重を受けて強度が減構造物や材料が繰返し荷重を受けて強度が減少する現象(土木用語大辞典).具体的には繰少する現象(土木用語大辞典).具体的には繰返し荷重によってき裂が発生,進展する現象.返し荷重によってき裂が発生,進展する現象.
下フランジ
ウェブ
フランジ・ウェブ間すみ肉溶接部から発生した疲労き裂の例
疲労現象の種類疲労現象の種類
高サイクル疲労高サイクル疲労((high cycle fatigue)high cycle fatigue)–– 疲労寿命が疲労寿命が1010万回程度以上万回程度以上の疲労.の疲労.弾性疲労弾性疲労ともいともい
う.疲労寿命はう.疲労寿命は応力範囲応力範囲の関数として表わされる.の関数として表わされる.
低サイクル疲労低サイクル疲労((low cycle fatigue)low cycle fatigue)–– 疲労寿命が疲労寿命が11万回程度以下万回程度以下の疲労.の疲労.塑性疲労塑性疲労ともいう.ともいう.
疲労寿命は疲労寿命は塑性ひずみ範囲塑性ひずみ範囲の関数として表わされる.の関数として表わされる.
腐食疲労腐食疲労((corrosion fatigue)corrosion fatigue)–– 応力が繰返し負荷されることによって,応力が繰返し負荷されることによって,応力腐食割れ応力腐食割れ
の進行が著しく促進される現象の進行が著しく促進される現象
いずれも「土木用語大辞典」よりいずれも「土木用語大辞典」より
疲労亀裂の発生と成長疲労亀裂の発生と成長
き裂発生
結晶粒界
荷重の方向
第Ⅰ段階 第Ⅱ段階 第Ⅲ段階
荷重の方向
疲労き裂の成長モデル疲労き裂の成長モデル ((C. Laird)C. Laird)
き裂
き裂先端 表面
応力
τmax
τmax
(a)
(b)
(c)
(d)
(e)
a
bc
d
e
引張ひずみ
引張応力
大田・深沢: 「橋と鋼」より引用
溶接部に発生するき裂の種類溶接部に発生するき裂の種類
(a) 止端き裂 (b) ルートき裂
止端部
き裂
き裂
き裂
き裂
ルート部
すみ肉溶接部における外力の種類と疲労き裂発生様式
すみ肉溶接部からの疲労き裂
日本道路協会:「鋼橋の疲労」 より引用
疲労疲労損傷の損傷の事例 ①事例 ①(鋼げたなど(鋼げたなど))
主げた下フランジ主げた下フランジの継手部の継手部
垂直補剛材と主げた上フランジの継手部主げたウェブと面外ガセットの継手部
疲労損傷の疲労損傷の事例 ②事例 ②(鋼げたなど(鋼げたなど))
対傾構の継手部
主げた下フランジとソールプレートの継手部
疲労損傷の疲労損傷の事例 ③事例 ③(鋼床版)(鋼床版)
鋼床版縦リブとデッキプレートの継手部
鋼床版横リブと縦リブ交差部の継手部 鋼床版縦リブの継手部
疲労損傷の疲労損傷の事例 ④事例 ④(鋼製橋脚)(鋼製橋脚)
鋼製橋脚(円柱)隅角部の継手部
鋼製橋脚(角柱)隅角部の継手部
疲労損傷部位とその特徴疲労損傷部位とその特徴
プレートガーダープレートガーダー
–– 対傾構・横桁と主桁の接合部,桁端の切欠き部,ソー対傾構・横桁と主桁の接合部,桁端の切欠き部,ソールプレート部ルプレート部
アーチ,トラスアーチ,トラス
–– 補剛桁・トラス弦材と横桁の接合部,縦桁と横桁の接補剛桁・トラス弦材と横桁の接合部,縦桁と横桁の接合部等の床組,アーチ橋の垂直材上下端の接合部合部等の床組,アーチ橋の垂直材上下端の接合部
鋼床版鋼床版–– 輪荷重走行位置直下の溶接部(輪荷重走行位置直下の溶接部(UUリブの突合せ溶接リブの突合せ溶接
部,横リブと縦リブの交差部,垂直補剛材とデッキプ部,横リブと縦リブの交差部,垂直補剛材とデッキプレートの溶接部)レートの溶接部)
疲労損傷の要因疲労損傷の要因
作用外力からみた要因作用外力からみた要因
設計,製作面から見た要因設計,製作面から見た要因
作用外力からみた要因作用外力からみた要因
活荷重:車両の大型化と交通量の増大活荷重:車両の大型化と交通量の増大
風による部材の振動風による部材の振動
–– 下路ランガー橋の吊材下路ランガー橋の吊材–– 斜張橋のケーブル(レインバイブレーション,斜張橋のケーブル(レインバイブレーション,
ウェイクギャロッピング)ウェイクギャロッピング)
設計,製作面からみた要因設計,製作面からみた要因
設計上の要因設計上の要因
–– 不適切な構造ディテールの採用不適切な構造ディテールの採用–– 二次応力の発生二次応力の発生
製作上の要因製作上の要因
–– 製作誤差(ルートギャップ等)製作誤差(ルートギャップ等)–– 溶接品質の不良(割れ等の欠陥,形状不良,溶接品質の不良(割れ等の欠陥,形状不良,
のど厚不足等)のど厚不足等)
疲労損傷事例の原因別割合疲労損傷事例の原因別割合
8% 31% 12% 30% 13% 5%1%
36% 7% 28% 9% 13%3%4%
0% 20% 40% 60% 80% 100%
国内
国外
初期欠陥 応力集中 面外変形
二次応力 車両振動 風による振動
その他の振動 その他
疲労寿命曲線疲労寿命曲線((SS--NN線図)線図)応
力範
囲S r : 破断
: 未破断
m
1
SSrrmm・・NNff == constconst
疲労限
疲労寿命 Nf
疲労強度に影響を及ぼす因子疲労強度に影響を及ぼす因子
鋼材強度鋼材強度
継手形式,溶接法,溶接条件継手形式,溶接法,溶接条件
板厚板厚
工作誤差(角変形,目違い)工作誤差(角変形,目違い)
溶接欠陥溶接欠陥
溶接ルート(未溶着部)溶接ルート(未溶着部)
応力比と応力比と溶接残留応力
応力集中
溶接残留応力
作用応力範囲の種類作用応力範囲の種類
Time
Stre
ss 完全両振 R=ー1
片振引張 R=0
部分片振 R>0
片振圧縮 R=ー∞
σmax
σmin
σmax:最大応力σmin:最小応力
σr = σmax −σmin : 応力範囲σm = (σmax +σmin) / 2 : 平均応力R= σmin / σmax : 応力比
鋼材強度の影響鋼材強度の影響
母材
突合せ溶接継手 荷重非伝達型十字溶接継手
角継手
<< 母母 材材 >>鋼材強度に応じて鋼材強度に応じて疲労強度も高くなる疲労強度も高くなる
<溶接継手><溶接継手>鋼材強度は疲労強鋼材強度は疲労強
度に影響しない度に影響しない
応力集中の影響応力集中の影響
鋼材の引張強さ
降伏点
100万回時の疲労強度
平滑試験片(丸棒)
破断寿命(cycle)
応力
範囲
(kgf
/mm
2 )
Kt=2.45
Kt=3.65Kt=4.55
Kt=6.90
日本道路協会:「鋼橋の疲労」 より引用
残留応力の影響残留応力の影響
一般に疲労は引張応力の繰返しにより生じるが,外力と一般に疲労は引張応力の繰返しにより生じるが,外力として圧縮応力しか作用しない部位であっても,引張残留して圧縮応力しか作用しない部位であっても,引張残留応力が存在すると疲労き裂が生じることもある応力が存在すると疲労き裂が生じることもある..
引張域
圧縮域
内部残留応力 作用外力
の繰返し
引張応力が繰返し
作用
溶接ビード
疲労設計の基本疲労設計の基本
前提条件前提条件–– 疲労耐久性に配慮した継手の選定,構造の決定疲労耐久性に配慮した継手の選定,構造の決定–– 継手の疲労強度等級の前提となる品質の確保継手の疲労強度等級の前提となる品質の確保
当該継手部の発生応力の算定当該継手部の発生応力の算定–– 発生応力波形の計算(格子発生応力波形の計算(格子or FEMor FEM))
応力頻度解析応力頻度解析–– レインフロー法等により応力範囲の頻度分布を確定レインフロー法等により応力範囲の頻度分布を確定
疲労耐久性の照査疲労耐久性の照査–– 設計設計SS--NN線図,線形累積被害則の適用線図,線形累積被害則の適用
「鋼道路橋の疲労設計指針」における「鋼道路橋の疲労設計指針」における
疲労設計曲線疲労設計曲線
2×106回基本許容応力範囲 (MPa)
区分
30H’40H50G65F80E100D125C155B190A
5
10
100
1000
2000
繰り返し回数 N
103 104 105 106 107 108 109
13
B
D
F
H
一定振幅応力
変動振幅応力
A
G
C
E
H'
「鋼道路橋の疲労設計指針」における「鋼道路橋の疲労設計指針」における
溶接継手の疲労強度等級分類例溶接継手の疲労強度等級分類例
荷重非伝達型十字溶接継手D(止端仕上げ),E(非仕上げ)
1.,2.,3.4.
縦方向すみ肉溶接継手D
荷重伝達型十字溶接継手(完全溶け込み溶接)
D(止端仕上げ),E(非仕上げ)
6.(1),(2),(3)1.,3.,4.
ガセットをすみ肉溶接あるいは開先溶接した継手(l≦100mm)
E(止端仕上げ),F(非仕上げ)
カバープレートをすみ肉溶接で取り付けた継手(l≦300mm)E(止端仕上げ),F(非仕上げ)
フィレットを有するガセットを開先溶接した継手(フィレット部仕上げ)
D(1/3≦r/d),E(1/5≦r/d<1/3),F(1/10≦r/d<1/5)
r
d6. 1.
鋼橋に使われる代表的な継手の例①鋼橋に使われる代表的な継手の例①
横突合せ溶接継手
カバープレート
ガセット継手
縦方向溶接継手
ガセット継手
ガセット継手
荷重伝達型十字溶接継手
荷重非伝達型十字溶接継手
l
l
r
d
鋼橋に使われる代表的な継手の例②鋼橋に使われる代表的な継手の例②
カバープレート
横突合せ溶接継手
ガセット継手
ガセット継手
ガセット継手
縦方向溶接継手縦方向溶接継手
カバープレート
荷重非伝達型 十字溶接継手
荷重非伝達型 十字溶接継手
荷重伝達型十字溶接継手
d
r
変動応力の評価法変動応力の評価法
変動応力波形
0
10
20
30
40
50
60
時間
応力
(MP
a)
応力頻度分布
応力頻度解析
0
100
200
300
400
1 11 21 31 41 51 61 71
応力範囲 (MPa)
頻度
レインフロー法レインフロー法
応力
範囲
S 2−
S 3
1cycle
S 3−
S 2応
力範
囲
1cycle
S1
S2
S3
S4
S4
S3
S2
S1
S1≤S3≤S2≤S4 の場合 S1≥S3≥S2≥S4 の場合
S1
S2
S3
S4
応力
範囲
S 4−
S 1
1cycle
S4
S3
S2
S1
S 1−
S 4応
力範
囲
1cycle
応力
時間
線形累積被害則線形累積被害則
疲労寿命に達する条件
応力範囲∆σiによって部材が受けるダメージni/Ni
応力範囲∆σjによって部材が受けるダメージnj/NjNj
疲労限
Ni
(Miner則の場合 D=1.0)
DNn
Nn
Nn
Nn
j
j
i
i ≥++++++2
2
1
1応力範囲
∆σini
∆σjnj
応力範囲の頻度分布
疲労寿命Nf(注) 修正マイナー則の場合には,疲労限以下の応力範囲の影響も破線のとおり考慮する。
等価応力範囲等価応力範囲SSreqreq
変動振幅応力と同じ繰返し数で等価な疲労被害変動振幅応力と同じ繰返し数で等価な疲労被害を与える一定振幅の応力範囲.を与える一定振幅の応力範囲.SS--NN線図の傾き線図の傾きををmm=3=3とすると,次式で与えられる.とすると,次式で与えられる.
( )3
3
∑
∑ ⋅=
ii
iiri
req n
nSS
ホットスポット応力ホットスポット応力
M
止端からの距離
溶接止端
解析 or 計測で得られた表面の応力分布
T
a ba点,b点の位置例
1.0T1.5T2.0T3.0T
10.0mm
0.5T0.5T0.4T1.0T
4.0mm
A法B法C法D法E法
b点a点
ホットスポットホットスポット応力 応
力
応力
公称応力
P
「鋼道路橋の疲労設計指針」における「鋼道路橋の疲労設計指針」における
疲労疲労設計の設計のフローフロー
・継手の選定・各継手の疲労強度
実発生応力が明確
実発生応力の把握が困難
応力度による疲労照査
構造詳細による疲労設計
コンクリート床版
鋼製橋脚,二次部材など
主げたなど 鋼床版
疲労対策の基本疲労対策の基本応
力範
囲S r
疲労強度の向上
溶接継手の疲労強度
A
A’
作用応力の低減
Sr0
Sr0’
Nf0 Nf0’疲労寿命 Nf
疲労強度の向上法疲労強度の向上法
応力集中の低減(溶接部形状の平坦化)応力集中の低減(溶接部形状の平坦化)–– 溶接部の切削,研削(余盛削除,止端のグラインダー溶接部の切削,研削(余盛削除,止端のグラインダー
仕上げ)仕上げ)
–– 溶接止端部の再溶融(溶接止端部の再溶融(TIGTIG,,プラズマ)プラズマ)–– 化粧溶接法化粧溶接法–– ウォータージェットウォータージェット
残留応力のコントロール残留応力のコントロール–– 予荷重,加熱急冷予荷重,加熱急冷–– 局部加熱局部加熱–– ピーニング(ショット,ワイヤ,ハンマー)ピーニング(ショット,ワイヤ,ハンマー)–– 低変態温度溶接材料低変態温度溶接材料
止端部のグラインダー仕上げ止端部のグラインダー仕上げ
burrグラインダー
diskグラインダー
アンダーカットを取り除いた後,0.5mm程度切削する
S J Maddox: Fatigue Strength of Welded Structures
(Second Edition)より引用
プラズマによる止端部の再溶融プラズマによる止端部の再溶融
A
A
S J Maddox: Fatigue Strength of Welded Structures
(Second Edition)より引用断面A-A
ハンマーピーニングハンマーピーニング
処理後の断面
処理状況 S J Maddox: Fatigue Strength of Welded Structures (Second Edition)より引用
疲労強度向上効果の例疲労強度向上効果の例
S J Maddox: Fatigue Strength of Welded Structures (Second Edition)より引用
参考となる書籍参考となる書籍
日本鋼構造協会:「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」日本鋼構造協会:「鋼構造物の疲労設計指針・同解説」–– 溶接継手の疲労に関する種々の資料,代表的な鋼構造物の疲労設溶接継手の疲労に関する種々の資料,代表的な鋼構造物の疲労設
計例を掲載計例を掲載
土木学会:「鋼橋における劣化現象と損傷の評価」土木学会:「鋼橋における劣化現象と損傷の評価」
–– 腐食も含めた鋼橋の劣化現象と損傷事例,各種損傷の検出と健全腐食も含めた鋼橋の劣化現象と損傷事例,各種損傷の検出と健全度評価法を紹介.度評価法を紹介.
日本道路協会:「鋼橋の疲労」日本道路協会:「鋼橋の疲労」–– 疲労損傷事例とその対策についての記述が豊富疲労損傷事例とその対策についての記述が豊富
溶接学会:「溶接構造の疲労設計」溶接学会:「溶接構造の疲労設計」–– 国際溶接協会国際溶接協会((IIW)IIW)の疲労設計指針の邦訳の疲労設計指針の邦訳
日本道路協会:「鋼道路橋の疲労設計指針」日本道路協会:「鋼道路橋の疲労設計指針」
産業基盤維持管理技術研究会鋼橋の疲労に関する基礎知識講演内容疲労(fatigue)とは?疲労現象の種類疲労亀裂の発生と成長疲労き裂の成長モデル (C. Laird)溶接部に発生するき裂の種類疲労損傷の事例 ①(鋼げたなど)疲労損傷の事例 ②(鋼げたなど)疲労損傷の事例 ③(鋼床版)疲労損傷の事例 ④(鋼製橋脚)疲労損傷部位とその特徴疲労損傷の要因作用外力からみた要因設計,製作面からみた要因疲労損傷事例の原因別割合疲労寿命曲線(S-N線図)疲労強度に影響を及ぼす因子作用応力範囲の種類鋼材強度の影響応力集中の影響残留応力の影響疲労設計の基本「鋼道路橋の疲労設計指針」における疲労設計曲線「鋼道路橋の疲労設計指針」における溶接継手の疲労強度等級分類例鋼橋に使われる代表的な継手の例①鋼橋に使われる代表的な継手の例②変動応力の評価法レインフロー法線形累積被害則等価応力範囲Sreqホットスポット応力「鋼道路橋の疲労設計指針」における疲労設計のフロー疲労対策の基本疲労強度の向上法止端部のグラインダー仕上げプラズマによる止端部の再溶融ハンマーピーニング疲労強度向上効果の例参考となる書籍
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