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1.はじめに
平成 29 年 10 月 17 日から 10 月 20 日の 4 日間に渡り、国立情報学研究所において東京大学附属図書館主催、国立情報学研究所共催で大学図書館職員短期研修が開催された。本研修は、平成 29 年 4 月 1 日現在、大学等での図書館勤務年数が 2 年以上 10 年以下で年齢が 35 歳以下の職員を対象とした若手職員向けの研修で、関東地区から 47 名の受講者が集まった。 私自身、図書館に配属されてから 4 年が経過し、受講対象となったこと、並びに日頃の業務における課題解決の手立てを得るために参加した。 詳細のカリキュラムおよび配布資料については、研修要項(1)参照。
( 1 ) http://www.nii.ac.jp/hrd/ja/librarian/h29/index.html (2018-01-21)
―研修報告―
平成 29 年度大学図書館職員短期研修に参加して
櫻井真理子*
*さくらい・まりこ/明治大学 学術・社会連携部 和泉図書館事務室
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2.研修目的
大学図書館等の活動を活性化するため、大学図書館等の職員が今後の図書館の企画・活動を担う要員となる上で必要な、図書館業務の基礎知識・最新知識を修得する。
3.研修概要
本研修は、講義、海外研修報告、グループ討議で構成されていた。 ここでは、講義の要点および自身の印象に残った点について列記する。
《1 日目》 開講式並びに講師 4 名による講義が行われた。 講義 「大学図書館の現状と課題」 講師 東京大学附属図書館事務部長 高橋 努氏 ⑴ 大学図書館のミッション、目標・計画 ・教育基本法、学校教育法と大学の機能について ・図書館のミッションは大学機能実現の支援 ・ 求められている役割を果たすために、大学内および社会におい
て、図書館のプレゼンスを高める必要がある。 大学図書館のプレゼンスを高める方法としては、図書館が大学の目
標の実現、ビジョン推進のためにどれだけ貢献しているか、目に見えるかたちで示すこと、利用者にいかに役に立つ場所であることをより具体的に示すことが求められているという。学内外に向けて働きかけていく必要があることを力説されていた。
⑵ 人材の育成・確保 図書館のミッションを果たすため、人材の確保が必要。職員の資質
向上について、基礎知識の習得や専門スキルの研鑽ができる場所が必要。
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平成 29 年度大学図書館職員短期研修に参加して
⑶ 国の施策 ・ 学術情報委員会第 9 期が平成 29 年 4 月より発足している。 ・審議事項: 電子化の進展を踏まえた学術情報流通基盤の整備と大
学図書館の機能の強化について ※申し込めば傍聴が可能。配布資料、議事録も公開している。
講義 「学習/学修支援と大学図書館の役割」 講師 筑波大学図書館情報メディア系・知的コミュニティー基盤研究セン
ター教授 呑海 沙織氏 ⑴ 大学における学びとその支援に関する施策 ・ 大学図書館の整備について(審議のまとめ(2))から求められる図
書館像 ・大学図書館に求められる機能・役割 ・アクティブラーニングとその有効な方法 ⑵ 学習支援と大学図書館とラーニング・コモンズ ・大学教育を理解してはじめて、学習支援をデザインできる ・利用者志向へ 講義の中で所属する大学と図書館の基礎情報について、問われる場
面があった。図書館での「学習支援」といったサービスについて考察するにあたっては、国の施策、大学全体の方針と図書館の基礎情報を理解することがスタート地点になるという話が大変参考になった。
《2 日目》 講師 2 名からの講義があった。 講義 「大学図書館における目録実務と NACSIS-CAT の現状及び今後の
構想」
( 2 ) http://www.jaspul.org/news/asset/docs/monka_20110712_matome.pdf(2018-01-21)
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講師 東京外国語大学総務企画部学術情報課目録係 主任 村上 遥氏 ⑴ 目録とは何か ・ 資料や資料情報に秩序や構造を与えて、資料を検索できる状態に
すること ・FRBR:書誌レコードの機能要件 ・FRBR LRM:2017 年 3 月版公開 ⑵ NACSIS-CAT 概要と CAT2020 ・電子資料の普及、大学図書館における目録担当者数の減少 ・次世代目録所在情報サービスの在り方について これからの学術情報システムの在り方(3)について、NACSIS-CAT
/ ILL を中核とした従来のシステムの軽量化・合理化を図りつつ、変化への対応を行えるシステムの整備を目指すことが「これからの学術情報システム構築検討委員会」にて審議されている。
《3 日目》 講師 2 名からの講義並びに報告者 2 名より海外図書館研修の報告があった。 講義 「電子コンテンツ導入・利用の状況と課題」 講師 慶應義塾大学メディアセンター本部電子情報環境担当 森嶋 桃子氏 ⑴ 電子コンテンツの特徴 ・冊子との違い:メリット・デメリット ・提供されるのはアクセス権 ※契約しただけでは、利用者に届かないこともある。 ⑵ 電子コンテンツの提供 ・多様な契約モデルについて ・電子ジャーナル、電子ブック、データベースの種類 ※利用者の「発見」をどうサポートしていくか
( 3 ) http://www.nii.ac.jp/content/korekara/archive/korekara_doc20150529.pdf(2018-1-22)
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⑶ 課題 ・価格の上昇の主な要因 ・資料購入費の減少による冊子体予算への圧迫 ・パッケージ契約の問題点 ※図書館の予算で購入するも、特定の利用者しか閲覧できない。
講義 「学術コミュニケーションの動向」 講師 お茶の水女子大学図書・情報課情報基盤担当 香川 朋子氏 ⑴ 学術コミュニケーションの概要と背景 学術コミュニケーション 研究および学術的な著作物の作成、評価、学術コミュニケーション
への流通、将来的な利用のための保存に関わるシステム ・シリアルクライシスと論文数増加。34 年間で 3.4 倍増 ・オープンアクセスをめぐる取り組みの拡大 ⑵ 学術情報流通の課題 ・ NACSIS-CAT、JAIRO、ERDB-JP、KAKEN など各サービスの
関連性 ※ 現在、連携は進んでいるものの、コンテンツの種類によって
サービスを使い分ける必要がある。
《4 日目》 国立情報学研究所の学術コンテンツ事業紹介とグループ報告会が行われた。
4.グループ報告会
《グループ討議①》 班員の自己紹介から始まり、進め方、時間配分並びに役割分担を決めた。作業としては、各自の事前課題シートの補足説明、フリーディスカッション
(事前課題シートの作成意図の共有や疑問点の解消など)、各自の事前シート内容の再検討とグループ内で共通する課題や異なる点について、模造紙と付
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箋を使って、グルーピングを行った。
《グループ討議②≫ 前日のディスカッション内容の再確認、ベースとなる企画の選定。翌日の発表のための情報集約、発表資料の作成、発表者の決定及び発表ポイントの確認を行った。
《グループ討議③》 グループ発表および振り返りを行った。自身の班のテーマは「海外研修報告書」の訪問先を文献や報告事例の少ないノルウェーに決定した。班員全員に共通する課題として、「大学と地域連携」があり、今回の研修のテーマとして採用した。また、ノルウェーの図書館を視察する目的として、「日本での事例が少ない、大学図書館と公共図書館との連携サービスの現在に至る経緯や利用状況を確認し、日本ではどのようなサービスが提供できるかを考えること」を設定した。
受講終了後、4 日間の全てのプログラムに出席した者には修了証明書が授与された。
5.さいごに
4 日間に渡る講義を通して、自身の中で曖昧だった「大学の機能」や「大学図書館のミッション」について、再確認し、理解を深めることができた。大学、図書館業界の最新動向と国が謳っている政策を把握することは、今後の図書館における様々な企画立案やサービスを考える上でも、重要な起点になることが分かった。大学の機能・図書館の役割を念頭に日々の業務に勤しんでいきたい。 電子コンテンツに関する講義では、「契約しただけでは、利用者には届かない」といった話を受け、コンテンツそのものの見直し・購入検討も重要だが、いかに利用者に見つけてもらい活用してもらうかといったナビゲート方法を考えることも重要な役割であると課題を見出すことが出来た。
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情報リテラシーに関する講義では、「リテラシー」といっても、図書館の活用法からレポート・論文の書き方、コンピューターリテラシー等と様々な能力があることがわかった。大学でどれを重点的にやっていくのか、分析と優先順位をつけて取り組むことが重要。といった京都大学図書館の事例は大変参考になった。 グループ討議では、1 つのテーマに対して、バックグラウンドの異なる班員からのさまざまな意見や質問が飛び交った。グループに課せられた「海外研修」というテーマに対して、班員の中では、そもそも海外研修をする意義とは?と正当性や前提を確認するなど自分にはない視点を持つ者もいた。この経験から他人の視点を盛り込むことで企画に客観性が生まれ、さらにブラッシュアップされることが分かった。 本件研修では、振り返りの時間があり、更には研修の事後課題においても、自身の考えを振り返る課題が設定されていた。企画は考えて終わりではなく、事後も自身の考えを反芻することで、新たな「気付き」があり、次の企画につなげる為の重要なプロセスであると実感した。 さいごに、この研修で習得した知識とスキルを活用し、主体的に周りを巻き込んで様々な企画を提案し、実現し、結果を出せる職員となることをこの先のミッションとしていきたい。 この度は、本研修を提供してくださった東京大学附属図書館並びに国立情報学研究所の皆様、交流してくださった受講者の皆様、研修への機会を提供してくださった明治大図書館の皆様、特に本研修に送り出してくださりました職場の皆様にこの場をお借りして、感謝を申し上げます。最後になりますが、本稿執筆にあたり、助言とご尽力いただきました皆様にも厚く、お礼申し上げます。
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