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18 プ レ ス 技 術

塑性加工における IoT活用によって品質管理や加工技術の高度化、新しい市場開拓など多くの可能性がある。しかし、その実現には多くの課題があり、鍛圧機械メーカー、金型メーカー、プレス部品メーカーを巻き込んだ産学連携で、IoTプラットフォームをつくることが重要である。それに対する学会や工業会の取組について紹介し、さらに IoT活用のメリットおよび今後の展望について解説する。インターネットおよび低コストセンサの普及を

背景に、IoT社会への変革が活発化している。製造業もつながる工場など、IoTへの取組みが盛んに行われている。塑性加工業界も例外ではないが、素材変形の複雑さや金型内の各種現象の見える化の難しさなどで、塑性加工の IoTへの取組みは遅れており、課題整理、要素技術開発など、本格的な取組みはこれからといえる。このような情勢の中、本稿では、学会や工業会の動向、金型内の可視化技術、加工プロセスモニタリング技術などIoTへの取組事例を紹介し、さらに IoTを活用した塑性加工の将来展望について述べる。

塑性加工における IoT化の課題と取組み

1.塑性加工 IoT 化の課題

1980年代末、日本経済の高度成長を推進力にものづくり自動化、知能化への取組が行われた。

当時、FA(Factory Automation)や IMS(Intel-ligent Manufacturing System)が提唱され、NC(数値制御)工作機械や産業用ロボットを活用した工場での作業や工程の自動化が開発され、ロボット化・CAD・CAM・プロセス制御などの実用化が進められてきた1)、2)。その影響はプレス加工などの塑性加工にも及び、ロボット・CAD・CAMの導入による自動生産技術開発が進められた。しかし、工作機械などと比較して、プレス加工の場合、機械の動きが単純であるものの、金型が多種多様であり、素材の変形も複雑であることからプロセス見える化や自動制御技術が思うほど進まなかった。2000年に入って、サーボプレスの商用化に伴

い、プレス加工がアナログ技術からデジタル化への変遷が始まり、また近年、IoT社会への推進から、製造業がコネクティッド・インダストリー(Connected Industries)が提唱され、コネクティッド・インダストリーの実現による新たな産業構造の構築に至る可能性がある3)ことから、塑性加工においてもプロセス見える化や生産技術の知能化などが再び注目されるようになった。鍛圧機械メーカーによって、IoT化に向けたシ

ステム KOMTRAX4)や V-factory5)などのインターネット上の生産管理システムが開発されているものの、塑性加工特有の材料変形の複雑さ、金型構造の多様性などへ対応したプロセスの見える化のためのセンシング技術および情報処理技術がほとんどできていない。塑性加工の重要な情報をIoT化するためには、塑性加工の特異性である高

*(ヤン ミン):大学院 システムデザイン研究科 教授〒191-0065 東京都日野市旭が丘 6-6TEL/FAX:042-585-8440

塑性加工における IoT活用と加工領域、市場開拓の可能性

首都大学東京 楊 明*

総論

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特集 塑性加工に活かす IoT

第 56巻 第 12号(2018年 11月号) 19

インターネット

プロセス制御システムProcess control system

情報抽出処理システムInformation abstracting system

ソフトセンシングシステム(プロセス予測)Soft sensing system(Process prediction)

知識ベース/データベースKnowledge-base/Database

機械・金型情報統合処理システム

Machine-die integratedInformation processing system

サーボプレス機械

機械内蔵センサMachine embedded

sensors

金型内蔵センサTool/Die embedded

sensors

インターフェースInterface

応力負荷、多様で複雑形状金型に対応したセンサや配線をなくした無線通信システムなどの要素技術の開発、さらにセンシング情報から、どのように有用な素材変形状態や素材と金型の接触状態・潤滑状態などのプロセスに関する情報を抽出するかが最も重要な課題である。また、プレス加工業界にお

いて、鍛圧機械メーカーがプレス機械を扱うが、金型は主にユーザーサイドが扱うため、IoTに必要な機械からの情報、および金型からの情報を統一的に扱うことができていないという課題がある。2.学会、業界の取組み

塑性加工の IoTを実現するには、塑性加工の特異性に対応したセンサ技術、信号の処理技術、塑性加工の知識に基づく情報処理技術、さらにネットワークやデータベース技術など幅広い分野の学問と知識が必要とする。これらは、1企業や 1業界だけでは対応しきれない課題であるため、学会主導の学学連携や産学連携による共通課題への取組みが期待される。鍛圧機械メーカー、金型メーカー、プレス部品メーカーを巻き込んだ産学連携で、プレス加工 IoTプラットフォームをつくることが重要である。図 1にプレス加工 IoTプラットフォームの概要を示す。機械・金型統合処理システム、複雑な変形を伴うプロセス情報の抽出処理システム、インターネットを介した知識ベースおよびプロセス制御システムなどが重要な開発要素と考えられる。日本塑性加工学会が昨年度から「プロセス可視

化・知能化技術分科会」を設置し、産学官からの会員約 30名で活動している。各種センサ技術(ハードセンシング)、プロセスシミュレーション技術(ソフトセンシング)、CAE技術(最適設計)、さらにこれらの技術をサーボプレスに適用したデジタル制御技術の調査・研究を目的とする。具体的に下記の項目が主な調査・研究活動の対象としている6)。

①サーボプレスモーション利用技術および各種現象の計測技術②各種モーションに関するプロセスシミュレーション技術

③マイクロセンサ創製および利用技術(金型内蔵センサなど)

④プロセスシミュレーション(ソフトセンシング)と各種センサ情報(ハードセンシング)と融合したプロセス可視化技術

⑤センシング技術とサーボプレス制御技術との融合によりモーションの最適化

⑥IoT融合による情報管理技術・データプロセス技術昨年度から天田財団から助成を受け、「デジタ

ルプレス加工のプロセス見える化・知能化技術開発」に関する研究を分科会メンバー主導で進めている。また、日本塑性加工学会と日本鍛圧機械工業会が組み、「プレス加工におけるプロセスセンシングに関する研究」に関する産学共同研究を昨年度から実施し、鍛圧機械メーカーの共通課題を取り上げ、共同研究の実施とその成果の共有を進めている。詳しくは本特集の解説 2をご参照いただきたい。

プロセス見える化、知能化、IoT活用の現状

上述した塑性加工 IoT化のための各種課題に対する取組みとして、金型内情報の可視化技術、

図 1 プレス加工 IoT プラットフォームの概要