花の縁 01-07-10
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10)椿の花に関わりの深い植物用語 椿の花は大きく美しいために、桜などと違い細部までよく見える。桜の雄蕊は見え
なくても椿はその雄蕊の色や形が、花の善し悪しを決めるポイントにもなってくる。
桜が花の一つ一つよりも枝ぶり全体を見るのに対し、椿は花のディティールの方が
はるかに大きな問題になるのだ。そのために椿の図鑑にも、植物学的な専門用語
がしばしば登場する。ここではその代表的なものをいくつか紹介しよう。
(A)雄蕊の呼称に関して
雄蕊の姿などじっくりと見る機会は滅多にないだろうが、一番上の花粉の袋が着
いているところが『葯』(ヤク)といわれる部分で、それを支えているのが『花糸』(カシ)
である。先にも述べたように、この葯の部分が時として花弁化して『旗弁』(ハタベン)
となるのである。ちょうど花糸を旗ざおにして、小旗のように見えるのでこのように呼ば
れている。一方、雌蕊の方は一番先の部分が『柱頭』(チュウトウ)、その下の細長い部分
が『花柱』(カチュウ)、そして一番下の太く大きくなっているところが『子房』(シボウ)
で、種子はここにできる。これらの呼称は植物の花すべてに共通している。
筒蕊=ツツシベ
雄蕊の形状が筒状になっているもので、一重咲、八重咲に多い。しかしこの形状は
さまざまで、先細りのもの、先太りのもの、また色も白に近いもの、黄色の濃いもの
などがある。閉じ芯(トジシン)といわれるものは、筒蕊の一種であるが、葯が互いに
くっついて離れず、先が砲弾状になっているものをいう。
梅芯=バイシン
肥後椿に特有のタイプで、花糸は太く長くて、葯は広く大きく散開する。肥後椿
の善し悪しは、この雄蕊に負うところが大きいといわれており、特に花糸は太い
ものから、もやし芯、並芯、糸芯というふうに 3 種類に区別されている。
侘芯=ワビシン
雄蕊の葯が退化したものをいう。従ってこの仲間は種子ができない。にもかかわらず
この種類が相当にあるのは、もともと太郎冠者の実生と、一重の藪椿、雪椿の枝変
わりにより生じたものであるからといわれている。
輪芯=ワジン
筒芯が太く短く葯が輪状に並ぶものをいう。
(B)花弁の呼称に関して
椿の花弁は蘭の仲間を除いたら、おそらく他のどの花よりも変化に富んでおり、その
特徴によりそれぞれに名称が着いている。また開花直後から散り際に至るまでの
ほんの数日の間に、花弁の形は大きく変化するものが多い。
剣弁=ケンベン
花弁の両側が内曲し花弁の中央部は樋状になり、その結果花弁の先が尖ってくる
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もので、桔梗咲の重要なポイントである。
爪折れ弁=ツマオレベン
花弁の先が内曲して花全体の立体感をいっそう増したように見える。千重咲のもの
に比較的多く見ることができる。
中折れ弁=ナカオレベン
花弁の基部から弁先にわたり樋状に縦に折れたような形になる。蓮華咲の花弁は
このタイプのものが多い。樋状弁とか、樋形弁、刳り形弁(クリガタベン)などと
いわれることもある。花全体に奥行きができて、優雅な花形となる。
旗弁=キベン(ハタベンとも言う)
雄蕊の葯の部分が花弁化して、小花弁を形成するものである。この旗弁が多く見
られるのも椿の特徴である。桜の品種『御車返し』も、この旗弁が多く見られる
ことは桜の項でも述べた通りである(01-06-01-25 参照)。
兎耳弁=トジベン
大きな旗弁がウサギの耳のように立ち上がったもので、多くの場合中折れして花
のボリューム感を盛り上げる。洋種の椿の牡丹咲などに多く見られる。
(C)変り葉の呼称に関して
椿の葉は花形と同様に変化が多く、中には観葉植物と見まごうほどに美しいものも
ある。一般的には花に雲状斑の入る品種は多少の差はあれ、葉に黄緑色の斑が不規則
に入ることが多い。また斑の入り方が大きいほど、花の雲状斑も大きいことが多く、品種
を選ぶときの参考になる。実生の品種には吹掛けや覆輪など、さまざまな斑が出る
ものもあるので、育ててみるとおもしろい。
百合葉
文字通り百合のように細い葉をした椿で『百合椿』と呼ばれる品種がその代表で
ある。この他にも『孔雀』など、いくつかがこのタイプに属する。
鋸葉
葉の外縁部に鋸の歯のようなギザギザがあるもので、歯の大きさや深さの差こそ
あれ、ほとんどの椿は鋸葉である。椿の品種はこの歯形で特定することも多い。
金魚葉
葉の先端が金魚の尻尾のように3裂するものがあり、これを『金魚葉椿』と呼んで
いるが、この 1 種以外に見ることはできない。
錦葉
葉に美しい斑のはいる種類で、観葉植物のようにそれだけでも鑑賞価値が高い。
その代表に『錦葉黒椿』がある。また覆輪一休は葉縁に沿って黄緑色の斑が入る。
この他にも変り葉には『盃葉』『桜葉』『柊葉』など多くの種類がある。また椿の特徴
を現わすものとして、葉の細かい形状があるがここでは省略したい。
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宝珠咲の『崑崙黒』、黒赤に近い花色は美しく、開花が進むとやがて花芯を現す。しかし花芯は
雄蕊がやや貧弱であり、これがこの椿の唯一の欠点でもある(川口市安行見本園)。
このためか最近ではあまり販売されているのを見なくなってしまった(川口市安行見本園)。
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昔懐かしい『乙女椿』。今では挿し木でよく増えるため接木の台木として用いられることが多い。
これは日本産の古い品種『鈴鹿の関』。この『安行見本園』や、『神代植物公園』など歴史の
ある植物園には、こうした古典的な品種が多く栽培され、新品種は比較的少ない。
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「梅の香り」、山茶花との交配種なのか散椿である。山茶花が咲き始める 11 月頃から咲き
出して、寒椿が終わるら 3 月末まで、ほぼ 5 ヶ月間、冬中を咲き続ける。
『日暮』と称する椿はあちこちにあり、いくらか違っているようだがこれは関東のものである。
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これも関東の日暮である。ほぼ蓮華咲で、花は大きからず小さからず、紅白のバランスもよい。
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『レディケイ』これも古い品種であるが、明るい赤が美しい西洋椿である(川口市安行見本園)。
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『サニーサイド』はアメリカのカルフォルニア、ヌッチオ農園(Nuccio’s Nurseries)で開発
されたラッパ咲きの中輪椿である。蕊の形もよく、万人好みの花容で人気も高い。
「玉錦」、玉之浦に似るが、弁縁の白覆輪はいっそうのこと広く、花形は蓮華咲である。
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『紅千鳥』は八重咲き中輪である。神代植物公園の椿エリアでふと顔を上げると、この椿が目の前に
突然現れて思わずシャッターを切った。周囲には春の陽光があふれていた。まさに木偏に春である。
「白露錦」、八重抱え咲きで「袖隠し」と同様、江戸時代からの名花だが、生育は遅い。
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「紋繻子」(モンジュス)は丈夫で、白斑の大小は異なるものの、この花形を崩すことはない。花弁は
やや波状となり、花全体にやさしげな立体感を作り出している(さいたま市浦和区)。
紋繻子の紅花がこの「繻子重」(シュスガサネ)である。朱赤色に近い赤は見事である。
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「江戸錦」、蓮華咲の美しい花だが、4 月になってから咲き始める遅咲き種である。最後の春
を飾って、やがて次の花盛りのバトンをバラへと託す椿のアンカーとでもいえようか。
黒椿の実生椿、親ほど黒味はないが花形は親よりも勝り、完全な蓮華咲である。
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品種名不詳の椿である。花弁の表は白みを帯び裏面はやや濃い紅が差す。一見すると「月譚」
(01-07-06-13)や「意宇の里」(01-07-06-11)に似るが、本種は八重咲である(埼玉県深谷市)。
『百合椿』は筒咲き、筒蕊の中輪で、咲き進むと弁先が外曲してラッパ咲きになる(神代植物公園)。
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最近市場に登場した『湊晨侘介』(ソウシンワビスケ)。まだ珍種の部類か。
深谷市の平井一正氏が開発した新花、頌花宴(ショウカエン)である。
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「白金魚葉椿」、花は中輪で、咲き進むに従って平開するが、葉の形が楽しい。同様の葉を
持つものに金魚葉椿があるが、こちらの花は濃い桃色である。
「金魚葉椿」の葉、神様は時々こんな悪戯をする。人間へのプレゼントであろうか。
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こちらは同じ葉変わりの「盃葉椿」である。花は明るい真紅で美しい。
消毒薬がビッシリついて分かり難いかも知れないが、葉は全体が凸面になっている。目次に戻る
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