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ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声を お届けする情報誌です。 北海道版 特別号 北海道病院薬剤師会 常任理事 北海道がんセンター 薬剤科長 髙崎 雅彦 先生 北海道病院薬剤師会 会長 北海道大学病院 薬剤部長 井関 健 先生 北海道における病棟薬剤業務の現状 ――病棟薬剤業務実施加算の届け出状況と取り組みの現状に ついてお伺いします。 井関 2013年7月現在で道内全575施設中の59施設、約1割が届 け出をしています。病棟薬剤業務を円滑に行うためには、どうし てもマンパワーが必要になりますので、現状は多くの病院が人員 確保を含めて準備をしている段階だと思います。病棟薬剤業務 の実施にあたり、増員をしないまま無理をして行ってしまうと、結 果的には自分で自分の首を締めることになりかねません。そこ で、北海道病院薬剤師会(以下、北病薬)としては、増員計画に ついて病院中枢部と相談しながら進めてほしいということ、ま た、その内容は薬剤師主導で決めてほしいとアナウンスしていま す。病棟業務において、「何かやってほしいことはありますか」と 聞くのではなく、まず病棟で何が必要かを把握し、『薬物療法の 有効性と安全性向上のために、私たち薬剤師はこういう仕事を します』と提示できることが重要です。そしてそのためのスタッフ 教育までを含めた準備期間を取ることが大切なのです。単に病 棟に滞在する時間が増えただけではなく、医師、看護師等医療 スタッフから薬剤師が医療のパートナーとしてしっかり機能して いるという評価が出てくれば、病棟薬剤業務はチーム医療の中 に定着していくと思います。北海道大学病院でも病棟薬剤業務 の実施を視野に入れて、今年度と来年度に大幅な増員を行い、ト レーニングをしながら業務体制を固めているところです。 髙崎 北海道がんセンターも算定に向けて準備を進めています が、やはり課題はマンパワー確保です。定数では5人の増員が認 められたものの、現時点で1人しか確保できていません。しかし、 人員が充足したあかつきには、すぐに業務が開始できるように、 モデル病棟で業務範囲や内容について検証しています。薬剤師 だけではなく、医師からも評価をしていただき、当院独自の業務 体系を作っていきたいと考えています。1997年以来、病棟担当制 で薬剤管理指導業務を実施してきましたから、新たに病棟薬剤 業務が加わっても業務そのものはスムーズにできると思っており ます。ただ、方法を間違えると、単なる使い勝手の良いスタッフと 2012 年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。 患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員 として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・北海道版 2013」では、北海道大学病院薬剤部長の井関健先生と北海道がんセンター薬剤科 長の髙崎雅彦先生のお二人に、北海道における病棟薬剤業務の現状、チーム医療の推進、薬剤師の資質向上、今後の方向性 についてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。 美瑛

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田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年9月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

北海道版特別号

北海道病院薬剤師会 常任理事北海道がんセンター 薬剤科長髙崎 雅彦 先生

北海道病院薬剤師会 会長北海道大学病院 薬剤部長井関 健 先生

■北海道における病棟薬剤業務の現状――病棟薬剤業務実施加算の届け出状況と取り組みの現状についてお伺いします。

井関 2013年7月現在で道内全575施設中の59施設、約1割が届け出をしています。病棟薬剤業務を円滑に行うためには、どうしてもマンパワーが必要になりますので、現状は多くの病院が人員確保を含めて準備をしている段階だと思います。病棟薬剤業務の実施にあたり、増員をしないまま無理をして行ってしまうと、結果的には自分で自分の首を締めることになりかねません。そこで、北海道病院薬剤師会(以下、北病薬)としては、増員計画について病院中枢部と相談しながら進めてほしいということ、また、その内容は薬剤師主導で決めてほしいとアナウンスしています。病棟業務において、「何かやってほしいことはありますか」と聞くのではなく、まず病棟で何が必要かを把握し、『薬物療法の有効性と安全性向上のために、私たち薬剤師はこういう仕事をします』と提示できることが重要です。そしてそのためのスタッフ

教育までを含めた準備期間を取ることが大切なのです。単に病棟に滞在する時間が増えただけではなく、医師、看護師等医療スタッフから薬剤師が医療のパートナーとしてしっかり機能しているという評価が出てくれば、病棟薬剤業務はチーム医療の中に定着していくと思います。北海道大学病院でも病棟薬剤業務の実施を視野に入れて、今年度と来年度に大幅な増員を行い、トレーニングをしながら業務体制を固めているところです。

髙崎 北海道がんセンターも算定に向けて準備を進めていますが、やはり課題はマンパワー確保です。定数では5人の増員が認められたものの、現時点で1人しか確保できていません。しかし、人員が充足したあかつきには、すぐに業務が開始できるように、モデル病棟で業務範囲や内容について検証しています。薬剤師だけではなく、医師からも評価をしていただき、当院独自の業務体系を作っていきたいと考えています。1997年以来、病棟担当制で薬剤管理指導業務を実施してきましたから、新たに病棟薬剤業務が加わっても業務そのものはスムーズにできると思っております。ただ、方法を間違えると、単なる使い勝手の良いスタッフと

思われてしまいますから、業務の中身はしっかり吟味したうえでスタートしようと思っています。

――病棟薬剤業務を広げるためには、現場ではどのような取り組みが必要とお考えですか。

井関 これまでの薬剤管理指導の場合は、処方が決定してから薬剤師が病棟に出向き、そこで確認して意見を言っていたわけですが、病棟薬剤業務では朝のカンファレンスへの参加などを通じて、患者さんの治療方針が決定される前の段階から薬剤師が関わります。そこでどれだけ情報提供ができるかがポイントです。病棟にいる時間が重要なのではなく、業務の質が高ければ、例えば、他の業務のために病棟を離れることがあっても、医師、看護師の見方は確実に変わってくると思います。2010年4月の医政局長通知「チーム医療の推進について」の最大の趣旨は、処方が決定される前から薬剤師が薬物療法に関わりなさいということです。病棟薬剤業務はまさしくそのための評価であり、少なくとも薬剤師はそういう意識でスタートしなければならないと思います。髙崎 診療報酬においては、病棟業務は薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務の2つに区分されていますが、実際には薬物治療は一連の流れですので、現場としてはあえて病棟薬剤業務だけを強調してアピールすることはしていません。ただ、例えば処方入力支援などのように、今まではやっていなかったこともできま

すよと、ピンポイントでアピールすることはしています。また、各病棟の特性に応じて業務に濃淡をつけることも必要だと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組み――6年制の薬学教育を受けた薬剤師の活躍が期待されていますが、育成についてはどのようにお考えでしょうか。

髙崎 6年制の卒業生をいつから臨床現場に送り出すかについては、様々な意見があります。当院は薬剤師が少ないこともありますが、まずはオールマイティーの薬剤師を育成しようという方針でやっています。新人は3カ月たって日当直ができるようになったらすぐに病棟に上げます。ひとりの薬剤師が調剤もしながら薬剤管理指導業務も行い、さらに若い薬剤師の場合は、無菌調製、製剤、TDMというように、3カ月単位で各部署を回ります。すると一連の医療の流れが自然に分かってくるのです。私は、病棟業務にしても、チーム医療にしても、現場で学び、育てられるという考えです。実践の中で、自分に足りない部分や医療に対する姿勢を医師や他職種から教えてもらう、それがチーム医療の醍醐味ではないかと思います。医師や看護師は卒業したらすぐに臨床現場に出るのに、なぜ薬剤師だけが違うステップが必要なのか。これまでの意識を変え、新しい時代の薬剤師へと飛躍するためにも、病棟薬剤業務実施加算と6年制教育は大きなチャンスだと考えています。

井関 当院でも3~4年前から、新人は1年前後の間に病棟を担当させ、そこで1~2年経験してから調剤などのセントラル業務を担当させ、また病棟に戻すということを繰り返しています。というのも、早期に病棟業務を経験することで、調剤室や製剤室での仕事の重要性あるいは改善すべき点が見えるようになるためです。また、その逆もあります。中には病棟業務を最終ゴールのように考えている薬剤師もいますが、私は、調剤も病棟業務も同じ重要度を持ってやるべきだと考えています。いろいろな経験をすることで、薬剤師として何が必要なのか体得することが重要です。実際の現場では、経験の少ない薬剤師が病棟に行くことで病棟の他職種が困っているかというとそうでもなくて、医師や看護師はむしろ最初からチームの一員として受け入れ、一生懸命に指導してくれるのです。

――チーム医療で活躍するためには、専門性も必要になると思いますが、それについてはいかがですか。

髙崎 当院はがん治療に特化した施設なので、当然のことながら薬剤師にも専門性が求められます。チーム医療で活躍するためには、やはりライセンスは必要であり、医師から信頼され、任されるためのスタートラインと言ってもいいでしょう。私は、がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師のいずれかのライセンス取得を推奨しています。他の医療スタッフもそれぞれに専門ライセンスを持っており、お互いの専門性を活かすことが患者さんのためだという共通認識があります。例えば、緩和ケアチームにおいては、オピオイドローテーションにおける薬剤の投与量や、次の薬剤をどのように決めればいいのか、必ず薬剤師に相談があります。副作用についても、薬剤師が未然に防いだり、早期に発見して対応策を提案することを期待され

北海道版 特別号

北海道版特別号

ています。また、がんの知識だけでなく、栄養に関する専門知識も必要です。手術を必要とする患者さんでも、栄養状態が悪くて手術ができない場合がありますから、栄養サポートチームに薬剤師が介入して栄養状態を改善することで、治療を一歩前に進めることができるのです(資料1)。

井関 臨床の現場では、今まで以上に専門的な能力を薬剤師に求める状況が生まれてきているのは確かです。薬剤師も医師のように診療科に特化するという方向性もあるかもしれませんが、髙崎先生のところのようながん専門病院は別として、それが果たして薬剤師としての専門性が高いと言えるのかどうかは考える余地があると思います。例えば、薬剤師が糖尿病の薬について専門知識を持っていても、糖尿病専門医にとってはそれほど魅力はないでしょう。しかし、その薬剤師が循環器の薬も、あるいは感染症についても知識があるとなれば話は別です。オールマイティーな薬剤師は無理でも、内科系と外科系くらいの区分けの中で、幅広い知識を持った薬剤師が医師をサポートすることができれば、医療安全の面からも有益ではないかという気がしています。

――薬学教育の立場から、井関先生は薬剤師のスキルアップについてどのような取り組みをされていますか。

井関 私は、「医師が処方を決定する前に介入し、処方提案できる薬剤師」が、これからの薬剤師にとって一つの目標になると考えています。そのためには、医師との信頼関係を築くことが大切であり、医療スタッフの一員として薬学の知識だけでなく、コミュニケーション能力を含めた全人的な教育が必要です。6年制教育で臨床薬学をしっかり学んだとはいっても、すぐに臨床で通用する力はありません。チームの一員として能力を伸ばしていくためには、考える力や問題解決能力が必要であり、それは卒後教育でなければ養えないと思います。北海道大学では薬学教育6年制の開始に伴い、2012年4月から大学院に「臨床薬学専攻」が新設されました。4年間の博士課程の中で、1年間の臨床薬学業務研修を行い、臨床と研究をつなぐことができる研究マインドを持った薬剤師の育成を目指しています。また、社会人コースでは、仕事を続けながらスキルアップするために学び直したいという現役の薬剤師を受け入れています。そうしたモチベーションの高い薬剤師を支援するための卒後教育プログラムを北海道から発信していこうと、他の大学、病院と協力しながら進めています(資料2)。この他、北海道の特徴としてエリアの広さ、薬剤師の札幌圏集中ということもあり、北病薬としては、北海道全体の薬剤師力を引き上げようと、保険薬局も含めた卒後教育に取り組んでいます。2012年からは北海道薬剤師会との共同事業として、遠隔研修システムを使った「医療薬学講座-在宅医療を中心に-」を開催しています。例えば、注射薬調剤の実際、がんの標準治療、緩和医療などの講習会を週1回、全7回開催し、その模様をインターネットの動画配信システムを使い、道内10数カ所にライブ方式で配信しています。これには病院薬剤師だけでなく薬局薬剤師も参加でき、のべ1000人近い人が聴講しています。このように、病院、保険薬局、そして大学が一体となって卒後教育に取り組んでいるのは、北海道の特徴だと言えます。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの薬剤師が目指す方向性や展望をお聞かせください。

井関 最近、日本学術会議で「リバース・トランスレーショナル・リサーチ」という言葉が用いられ、注目されつつあります。これは、臨床現場で問題になっている様々な事象を研究室に持ち帰り、基礎の手法を使って解析し、その結果をまた臨床に返すという研究スタイルで、薬剤師の世界にもそのままあてはめることができます。臨床現場の薬剤師が、臨床における問題点を学部に戻し、学部の手法、手技を活用して解決した上で現場に返す。臨床と研究を結ぶ両方向の軸が成立すれば、そこで世界標準に匹敵する新薬や新しい治療方法を生み出すことも夢ではないと思います。このような手法は大学だけでなく、将来は一般病院でも取り組むことが可能だと思います。今、本当の意味で薬と学が連携しなければならない時期が来ています。私はもともと薬剤師としてスタ

ートして、研究にも携わりながら、20数年間、臨床と研究をつなぐ道を探索してきましたが、このような動きが出てきたことは非常に心強いと思っています。薬剤師主導の新しい治療方法が提案でき、それが臨床現場で認められれば、薬剤師の活躍の幅もさらに広がるのではないかと期待しています。また、臨床医の多くは治療をしながら臨床研究にも取り組んでいますから、これからは医師と一緒に臨床研究ができる薬剤師が必要とされてくるでしょう。

髙崎 その通りですね。われわれも臨床の現場で、薬剤師はこんなことを考えてやっています、一緒に研究をしませんかと医師にアピールしないと駄目ですね。勇気を出してアピールすれば、賛同してくれる医師は必ず増えていくと思います。

――最後に、お二人から北海道内の薬剤師の方々へのメッセージをお願いします。

髙崎 当院は北海道の「都道府県がん診療連携拠点病院」であり、他の病院で治療が困難になった患者さんを紹介されることも少なくありません。治験も含めて様々な抗がん薬を組み合わせて治療に手を尽くしますが、それでも功を奏さないこともあります。そのような患者さんとの関わりを経験すると、薬剤師自身も変わっていきます。やはり目の前の患者さんのためにという

気持ちが一番大きなモチベーションになります。医療人としての職務と責務、倫理を現場で患者さんから学び、育っていくのではないかという気がしています。皆さんに言いたいのは、恐れずに、ハングリー精神を持って仕事に向き合い、患者さんのために自分に何ができるのかを考えてほしいということです。もう一つ、薬剤師はサイエンスを中心に大学で学んできていますので、自分たちの考えややりたいことを相手に伝える場合、科学的な根拠を数字で伝えていただきたい。数字というのはどんな職種の人にでも共通に理解できるマーカーです。大学で身につけた基礎を活用することによって、薬剤師の未来も拓けると思います。

井関 自分の目標を見つけることを薬剤師としての第一歩としてください。目標がなければ、仕事は面白くありません。私から伝えたいのは、「面白がって仕事をしよう」「もっと物事を深く追求してみよう」ということです。答えが分かっている仕事ばかりしていると、やがて答えが分からない仕事がしたいと思わなくなります。医療の現場は正しい答えはない世界です。だからこそ面白いのであり、そこで悩んだり、新たな発見をすることで、それまでとは違う世界が見えてくるはずです。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・北海道版 2013」では、北海道大学病院薬剤部長の井関健先生と北海道がんセンター薬剤科長の髙崎雅彦先生のお二人に、北海道における病棟薬剤業務の現状、チーム医療の推進、薬剤師の資質向上、今後の方向性についてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

美瑛

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北海道版 特別号

北海道病院薬剤師会 会長北海道大学病院 薬剤部長

い せき けん

井関 健 先生

北海道病院薬剤師会 常任理事北海道がんセンター 薬剤科長

たか さき まさ ひこ

髙崎 雅彦 先生

■北海道における病棟薬剤業務の現状――病棟薬剤業務実施加算の届け出状況と取り組みの現状についてお伺いします。

井関 2013年7月現在で道内全575施設中の59施設、約1割が届け出をしています。病棟薬剤業務を円滑に行うためには、どうしてもマンパワーが必要になりますので、現状は多くの病院が人員確保を含めて準備をしている段階だと思います。病棟薬剤業務の実施にあたり、増員をしないまま無理をして行ってしまうと、結果的には自分で自分の首を締めることになりかねません。そこで、北海道病院薬剤師会(以下、北病薬)としては、増員計画について病院中枢部と相談しながら進めてほしいということ、また、その内容は薬剤師主導で決めてほしいとアナウンスしています。病棟業務において、「何かやってほしいことはありますか」と聞くのではなく、まず病棟で何が必要かを把握し、『薬物療法の有効性と安全性向上のために、私たち薬剤師はこういう仕事をします』と提示できることが重要です。そしてそのためのスタッフ

教育までを含めた準備期間を取ることが大切なのです。単に病棟に滞在する時間が増えただけではなく、医師、看護師等医療スタッフから薬剤師が医療のパートナーとしてしっかり機能しているという評価が出てくれば、病棟薬剤業務はチーム医療の中に定着していくと思います。北海道大学病院でも病棟薬剤業務の実施を視野に入れて、今年度と来年度に大幅な増員を行い、トレーニングをしながら業務体制を固めているところです。

髙崎 北海道がんセンターも算定に向けて準備を進めていますが、やはり課題はマンパワー確保です。定数では5人の増員が認められたものの、現時点で1人しか確保できていません。しかし、人員が充足したあかつきには、すぐに業務が開始できるように、モデル病棟で業務範囲や内容について検証しています。薬剤師だけではなく、医師からも評価をしていただき、当院独自の業務体系を作っていきたいと考えています。1997年以来、病棟担当制で薬剤管理指導業務を実施してきましたから、新たに病棟薬剤業務が加わっても業務そのものはスムーズにできると思っております。ただ、方法を間違えると、単なる使い勝手の良いスタッフと

思われてしまいますから、業務の中身はしっかり吟味したうえでスタートしようと思っています。

――病棟薬剤業務を広げるためには、現場ではどのような取り組みが必要とお考えですか。

井関 これまでの薬剤管理指導の場合は、処方が決定してから薬剤師が病棟に出向き、そこで確認して意見を言っていたわけですが、病棟薬剤業務では朝のカンファレンスへの参加などを通じて、患者さんの治療方針が決定される前の段階から薬剤師が関わります。そこでどれだけ情報提供ができるかがポイントです。病棟にいる時間が重要なのではなく、業務の質が高ければ、例えば、他の業務のために病棟を離れることがあっても、医師、看護師の見方は確実に変わってくると思います。2010年4月の医政局長通知「チーム医療の推進について」の最大の趣旨は、処方が決定される前から薬剤師が薬物療法に関わりなさいということです。病棟薬剤業務はまさしくそのための評価であり、少なくとも薬剤師はそういう意識でスタートしなければならないと思います。髙崎 診療報酬においては、病棟業務は薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務の2つに区分されていますが、実際には薬物治療は一連の流れですので、現場としてはあえて病棟薬剤業務だけを強調してアピールすることはしていません。ただ、例えば処方入力支援などのように、今まではやっていなかったこともできま

すよと、ピンポイントでアピールすることはしています。また、各病棟の特性に応じて業務に濃淡をつけることも必要だと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組み――6年制の薬学教育を受けた薬剤師の活躍が期待されていますが、育成についてはどのようにお考えでしょうか。

髙崎 6年制の卒業生をいつから臨床現場に送り出すかについては、様々な意見があります。当院は薬剤師が少ないこともありますが、まずはオールマイティーの薬剤師を育成しようという方針でやっています。新人は3カ月たって日当直ができるようになったらすぐに病棟に上げます。ひとりの薬剤師が調剤もしながら薬剤管理指導業務も行い、さらに若い薬剤師の場合は、無菌調製、製剤、TDMというように、3カ月単位で各部署を回ります。すると一連の医療の流れが自然に分かってくるのです。私は、病棟業務にしても、チーム医療にしても、現場で学び、育てられるという考えです。実践の中で、自分に足りない部分や医療に対する姿勢を医師や他職種から教えてもらう、それがチーム医療の醍醐味ではないかと思います。医師や看護師は卒業したらすぐに臨床現場に出るのに、なぜ薬剤師だけが違うステップが必要なのか。これまでの意識を変え、新しい時代の薬剤師へと飛躍するためにも、病棟薬剤業務実施加算と6年制教育は大きなチャンスだと考えています。

井関 当院でも3~4年前から、新人は1年前後の間に病棟を担当させ、そこで1~2年経験してから調剤などのセントラル業務を担当させ、また病棟に戻すということを繰り返しています。というのも、早期に病棟業務を経験することで、調剤室や製剤室での仕事の重要性あるいは改善すべき点が見えるようになるためです。また、その逆もあります。中には病棟業務を最終ゴールのように考えている薬剤師もいますが、私は、調剤も病棟業務も同じ重要度を持ってやるべきだと考えています。いろいろな経験をすることで、薬剤師として何が必要なのか体得することが重要です。実際の現場では、経験の少ない薬剤師が病棟に行くことで病棟の他職種が困っているかというとそうでもなくて、医師や看護師はむしろ最初からチームの一員として受け入れ、一生懸命に指導してくれるのです。

――チーム医療で活躍するためには、専門性も必要になると思いますが、それについてはいかがですか。

髙崎 当院はがん治療に特化した施設なので、当然のことながら薬剤師にも専門性が求められます。チーム医療で活躍するためには、やはりライセンスは必要であり、医師から信頼され、任されるためのスタートラインと言ってもいいでしょう。私は、がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師のいずれかのライセンス取得を推奨しています。他の医療スタッフもそれぞれに専門ライセンスを持っており、お互いの専門性を活かすことが患者さんのためだという共通認識があります。例えば、緩和ケアチームにおいては、オピオイドローテーションにおける薬剤の投与量や、次の薬剤をどのように決めればいいのか、必ず薬剤師に相談があります。副作用についても、薬剤師が未然に防いだり、早期に発見して対応策を提案することを期待され

ています。また、がんの知識だけでなく、栄養に関する専門知識も必要です。手術を必要とする患者さんでも、栄養状態が悪くて手術ができない場合がありますから、栄養サポートチームに薬剤師が介入して栄養状態を改善することで、治療を一歩前に進めることができるのです(資料1)。

井関 臨床の現場では、今まで以上に専門的な能力を薬剤師に求める状況が生まれてきているのは確かです。薬剤師も医師のように診療科に特化するという方向性もあるかもしれませんが、髙崎先生のところのようながん専門病院は別として、それが果たして薬剤師としての専門性が高いと言えるのかどうかは考える余地があると思います。例えば、薬剤師が糖尿病の薬について専門知識を持っていても、糖尿病専門医にとってはそれほど魅力はないでしょう。しかし、その薬剤師が循環器の薬も、あるいは感染症についても知識があるとなれば話は別です。オールマイティーな薬剤師は無理でも、内科系と外科系くらいの区分けの中で、幅広い知識を持った薬剤師が医師をサポートすることができれば、医療安全の面からも有益ではないかという気がしています。

――薬学教育の立場から、井関先生は薬剤師のスキルアップについてどのような取り組みをされていますか。

井関 私は、「医師が処方を決定する前に介入し、処方提案できる薬剤師」が、これからの薬剤師にとって一つの目標になると考えています。そのためには、医師との信頼関係を築くことが大切であり、医療スタッフの一員として薬学の知識だけでなく、コミュニケーション能力を含めた全人的な教育が必要です。6年制教育で臨床薬学をしっかり学んだとはいっても、すぐに臨床で通用する力はありません。チームの一員として能力を伸ばしていくためには、考える力や問題解決能力が必要であり、それは卒後教育でなければ養えないと思います。北海道大学では薬学教育6年制の開始に伴い、2012年4月から大学院に「臨床薬学専攻」が新設されました。4年間の博士課程の中で、1年間の臨床薬学業務研修を行い、臨床と研究をつなぐことができる研究マインドを持った薬剤師の育成を目指しています。また、社会人コースでは、仕事を続けながらスキルアップするために学び直したいという現役の薬剤師を受け入れています。そうしたモチベーションの高い薬剤師を支援するための卒後教育プログラムを北海道から発信していこうと、他の大学、病院と協力しながら進めています(資料2)。この他、北海道の特徴としてエリアの広さ、薬剤師の札幌圏集中ということもあり、北病薬としては、北海道全体の薬剤師力を引き上げようと、保険薬局も含めた卒後教育に取り組んでいます。2012年からは北海道薬剤師会との共同事業として、遠隔研修システムを使った「医療薬学講座-在宅医療を中心に-」を開催しています。例えば、注射薬調剤の実際、がんの標準治療、緩和医療などの講習会を週1回、全7回開催し、その模様をインターネットの動画配信システムを使い、道内10数カ所にライブ方式で配信しています。これには病院薬剤師だけでなく薬局薬剤師も参加でき、のべ1000人近い人が聴講しています。このように、病院、保険薬局、そして大学が一体となって卒後教育に取り組んでいるのは、北海道の特徴だと言えます。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの薬剤師が目指す方向性や展望をお聞かせください。

井関 最近、日本学術会議で「リバース・トランスレーショナル・リサーチ」という言葉が用いられ、注目されつつあります。これは、臨床現場で問題になっている様々な事象を研究室に持ち帰り、基礎の手法を使って解析し、その結果をまた臨床に返すという研究スタイルで、薬剤師の世界にもそのままあてはめることができます。臨床現場の薬剤師が、臨床における問題点を学部に戻し、学部の手法、手技を活用して解決した上で現場に返す。臨床と研究を結ぶ両方向の軸が成立すれば、そこで世界標準に匹敵する新薬や新しい治療方法を生み出すことも夢ではないと思います。このような手法は大学だけでなく、将来は一般病院でも取り組むことが可能だと思います。今、本当の意味で薬と学が連携しなければならない時期が来ています。私はもともと薬剤師としてスタ

ートして、研究にも携わりながら、20数年間、臨床と研究をつなぐ道を探索してきましたが、このような動きが出てきたことは非常に心強いと思っています。薬剤師主導の新しい治療方法が提案でき、それが臨床現場で認められれば、薬剤師の活躍の幅もさらに広がるのではないかと期待しています。また、臨床医の多くは治療をしながら臨床研究にも取り組んでいますから、これからは医師と一緒に臨床研究ができる薬剤師が必要とされてくるでしょう。

髙崎 その通りですね。われわれも臨床の現場で、薬剤師はこんなことを考えてやっています、一緒に研究をしませんかと医師にアピールしないと駄目ですね。勇気を出してアピールすれば、賛同してくれる医師は必ず増えていくと思います。

――最後に、お二人から北海道内の薬剤師の方々へのメッセージをお願いします。

髙崎 当院は北海道の「都道府県がん診療連携拠点病院」であり、他の病院で治療が困難になった患者さんを紹介されることも少なくありません。治験も含めて様々な抗がん薬を組み合わせて治療に手を尽くしますが、それでも功を奏さないこともあります。そのような患者さんとの関わりを経験すると、薬剤師自身も変わっていきます。やはり目の前の患者さんのためにという

気持ちが一番大きなモチベーションになります。医療人としての職務と責務、倫理を現場で患者さんから学び、育っていくのではないかという気がしています。皆さんに言いたいのは、恐れずに、ハングリー精神を持って仕事に向き合い、患者さんのために自分に何ができるのかを考えてほしいということです。もう一つ、薬剤師はサイエンスを中心に大学で学んできていますので、自分たちの考えややりたいことを相手に伝える場合、科学的な根拠を数字で伝えていただきたい。数字というのはどんな職種の人にでも共通に理解できるマーカーです。大学で身につけた基礎を活用することによって、薬剤師の未来も拓けると思います。

井関 自分の目標を見つけることを薬剤師としての第一歩としてください。目標がなければ、仕事は面白くありません。私から伝えたいのは、「面白がって仕事をしよう」「もっと物事を深く追求してみよう」ということです。答えが分かっている仕事ばかりしていると、やがて答えが分からない仕事がしたいと思わなくなります。医療の現場は正しい答えはない世界です。だからこそ面白いのであり、そこで悩んだり、新たな発見をすることで、それまでとは違う世界が見えてくるはずです。

臨床と研究の融合を目指す北海道大学薬学部の教育プログラム資料2

学部教育・卒後教育(大学院教育~薬学6年制と連動)高次職能教育への参画 成果を教育へフィードバック

臨床薬学教育・研究センター

薬学科高学年次学生・既卒有資格者を対象としたスキルアップ講座・研修

●新しい業務に対応できる 薬剤師の育成●専門薬剤師認定を 目指した自己研鑽●臨床薬学研究の基盤整備

生涯研修教育

大学院(社会人コース含む)教育・研究(薬学)の充実に向けて(薬学6年制との連動)●臨床研究の推進・実施 (臨床試験計画審査・研修窓口)●医療における薬剤師 職能の評価(調査研究)●薬剤師教育方法及び 評価方法の確立と実施●生涯研修成果の評価

臨床教育・研究

臨床能力の高い薬剤師の人材確保共同研究の推進

各地域医療施設(病院・薬局)との連携/他教育機関

新しい研修プログラムに反映

研修成果研究材料

がん専門薬剤師の役割資料1

1)抗がん剤治療レジメン設計への参画と管理2)がん化学療法の処方鑑査と調製管理3)治療選択への参画と薬学的介入4)薬剤管理指導(服薬指導)及び副作用モニタリング5)緩和ケアへの参画6)医師・看護師等に対する教育及び情報提供

がんの薬物療法だけでなく、一般的な薬剤に関する薬理学的知識や合併症の病態の理解が基本適切な文献検索等で最新の情報を収集できること得られた情報から適切な治療内容を選択・提言できること

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北海道版 特別号

北海道病院薬剤師会 会長北海道大学病院 薬剤部長

い せき けん

井関 健 先生

北海道病院薬剤師会 常任理事北海道がんセンター 薬剤科長

たか さき まさ ひこ

髙崎 雅彦 先生

■北海道における病棟薬剤業務の現状――病棟薬剤業務実施加算の届け出状況と取り組みの現状についてお伺いします。

井関 2013年7月現在で道内全575施設中の59施設、約1割が届け出をしています。病棟薬剤業務を円滑に行うためには、どうしてもマンパワーが必要になりますので、現状は多くの病院が人員確保を含めて準備をしている段階だと思います。病棟薬剤業務の実施にあたり、増員をしないまま無理をして行ってしまうと、結果的には自分で自分の首を締めることになりかねません。そこで、北海道病院薬剤師会(以下、北病薬)としては、増員計画について病院中枢部と相談しながら進めてほしいということ、また、その内容は薬剤師主導で決めてほしいとアナウンスしています。病棟業務において、「何かやってほしいことはありますか」と聞くのではなく、まず病棟で何が必要かを把握し、『薬物療法の有効性と安全性向上のために、私たち薬剤師はこういう仕事をします』と提示できることが重要です。そしてそのためのスタッフ

教育までを含めた準備期間を取ることが大切なのです。単に病棟に滞在する時間が増えただけではなく、医師、看護師等医療スタッフから薬剤師が医療のパートナーとしてしっかり機能しているという評価が出てくれば、病棟薬剤業務はチーム医療の中に定着していくと思います。北海道大学病院でも病棟薬剤業務の実施を視野に入れて、今年度と来年度に大幅な増員を行い、トレーニングをしながら業務体制を固めているところです。

髙崎 北海道がんセンターも算定に向けて準備を進めていますが、やはり課題はマンパワー確保です。定数では5人の増員が認められたものの、現時点で1人しか確保できていません。しかし、人員が充足したあかつきには、すぐに業務が開始できるように、モデル病棟で業務範囲や内容について検証しています。薬剤師だけではなく、医師からも評価をしていただき、当院独自の業務体系を作っていきたいと考えています。1997年以来、病棟担当制で薬剤管理指導業務を実施してきましたから、新たに病棟薬剤業務が加わっても業務そのものはスムーズにできると思っております。ただ、方法を間違えると、単なる使い勝手の良いスタッフと

思われてしまいますから、業務の中身はしっかり吟味したうえでスタートしようと思っています。

――病棟薬剤業務を広げるためには、現場ではどのような取り組みが必要とお考えですか。

井関 これまでの薬剤管理指導の場合は、処方が決定してから薬剤師が病棟に出向き、そこで確認して意見を言っていたわけですが、病棟薬剤業務では朝のカンファレンスへの参加などを通じて、患者さんの治療方針が決定される前の段階から薬剤師が関わります。そこでどれだけ情報提供ができるかがポイントです。病棟にいる時間が重要なのではなく、業務の質が高ければ、例えば、他の業務のために病棟を離れることがあっても、医師、看護師の見方は確実に変わってくると思います。2010年4月の医政局長通知「チーム医療の推進について」の最大の趣旨は、処方が決定される前から薬剤師が薬物療法に関わりなさいということです。病棟薬剤業務はまさしくそのための評価であり、少なくとも薬剤師はそういう意識でスタートしなければならないと思います。髙崎 診療報酬においては、病棟業務は薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務の2つに区分されていますが、実際には薬物治療は一連の流れですので、現場としてはあえて病棟薬剤業務だけを強調してアピールすることはしていません。ただ、例えば処方入力支援などのように、今まではやっていなかったこともできま

すよと、ピンポイントでアピールすることはしています。また、各病棟の特性に応じて業務に濃淡をつけることも必要だと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組み――6年制の薬学教育を受けた薬剤師の活躍が期待されていますが、育成についてはどのようにお考えでしょうか。

髙崎 6年制の卒業生をいつから臨床現場に送り出すかについては、様々な意見があります。当院は薬剤師が少ないこともありますが、まずはオールマイティーの薬剤師を育成しようという方針でやっています。新人は3カ月たって日当直ができるようになったらすぐに病棟に上げます。ひとりの薬剤師が調剤もしながら薬剤管理指導業務も行い、さらに若い薬剤師の場合は、無菌調製、製剤、TDMというように、3カ月単位で各部署を回ります。すると一連の医療の流れが自然に分かってくるのです。私は、病棟業務にしても、チーム医療にしても、現場で学び、育てられるという考えです。実践の中で、自分に足りない部分や医療に対する姿勢を医師や他職種から教えてもらう、それがチーム医療の醍醐味ではないかと思います。医師や看護師は卒業したらすぐに臨床現場に出るのに、なぜ薬剤師だけが違うステップが必要なのか。これまでの意識を変え、新しい時代の薬剤師へと飛躍するためにも、病棟薬剤業務実施加算と6年制教育は大きなチャンスだと考えています。

井関 当院でも3~4年前から、新人は1年前後の間に病棟を担当させ、そこで1~2年経験してから調剤などのセントラル業務を担当させ、また病棟に戻すということを繰り返しています。というのも、早期に病棟業務を経験することで、調剤室や製剤室での仕事の重要性あるいは改善すべき点が見えるようになるためです。また、その逆もあります。中には病棟業務を最終ゴールのように考えている薬剤師もいますが、私は、調剤も病棟業務も同じ重要度を持ってやるべきだと考えています。いろいろな経験をすることで、薬剤師として何が必要なのか体得することが重要です。実際の現場では、経験の少ない薬剤師が病棟に行くことで病棟の他職種が困っているかというとそうでもなくて、医師や看護師はむしろ最初からチームの一員として受け入れ、一生懸命に指導してくれるのです。

――チーム医療で活躍するためには、専門性も必要になると思いますが、それについてはいかがですか。

髙崎 当院はがん治療に特化した施設なので、当然のことながら薬剤師にも専門性が求められます。チーム医療で活躍するためには、やはりライセンスは必要であり、医師から信頼され、任されるためのスタートラインと言ってもいいでしょう。私は、がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師のいずれかのライセンス取得を推奨しています。他の医療スタッフもそれぞれに専門ライセンスを持っており、お互いの専門性を活かすことが患者さんのためだという共通認識があります。例えば、緩和ケアチームにおいては、オピオイドローテーションにおける薬剤の投与量や、次の薬剤をどのように決めればいいのか、必ず薬剤師に相談があります。副作用についても、薬剤師が未然に防いだり、早期に発見して対応策を提案することを期待され

ています。また、がんの知識だけでなく、栄養に関する専門知識も必要です。手術を必要とする患者さんでも、栄養状態が悪くて手術ができない場合がありますから、栄養サポートチームに薬剤師が介入して栄養状態を改善することで、治療を一歩前に進めることができるのです(資料1)。

井関 臨床の現場では、今まで以上に専門的な能力を薬剤師に求める状況が生まれてきているのは確かです。薬剤師も医師のように診療科に特化するという方向性もあるかもしれませんが、髙崎先生のところのようながん専門病院は別として、それが果たして薬剤師としての専門性が高いと言えるのかどうかは考える余地があると思います。例えば、薬剤師が糖尿病の薬について専門知識を持っていても、糖尿病専門医にとってはそれほど魅力はないでしょう。しかし、その薬剤師が循環器の薬も、あるいは感染症についても知識があるとなれば話は別です。オールマイティーな薬剤師は無理でも、内科系と外科系くらいの区分けの中で、幅広い知識を持った薬剤師が医師をサポートすることができれば、医療安全の面からも有益ではないかという気がしています。

――薬学教育の立場から、井関先生は薬剤師のスキルアップについてどのような取り組みをされていますか。

井関 私は、「医師が処方を決定する前に介入し、処方提案できる薬剤師」が、これからの薬剤師にとって一つの目標になると考えています。そのためには、医師との信頼関係を築くことが大切であり、医療スタッフの一員として薬学の知識だけでなく、コミュニケーション能力を含めた全人的な教育が必要です。6年制教育で臨床薬学をしっかり学んだとはいっても、すぐに臨床で通用する力はありません。チームの一員として能力を伸ばしていくためには、考える力や問題解決能力が必要であり、それは卒後教育でなければ養えないと思います。北海道大学では薬学教育6年制の開始に伴い、2012年4月から大学院に「臨床薬学専攻」が新設されました。4年間の博士課程の中で、1年間の臨床薬学業務研修を行い、臨床と研究をつなぐことができる研究マインドを持った薬剤師の育成を目指しています。また、社会人コースでは、仕事を続けながらスキルアップするために学び直したいという現役の薬剤師を受け入れています。そうしたモチベーションの高い薬剤師を支援するための卒後教育プログラムを北海道から発信していこうと、他の大学、病院と協力しながら進めています(資料2)。この他、北海道の特徴としてエリアの広さ、薬剤師の札幌圏集中ということもあり、北病薬としては、北海道全体の薬剤師力を引き上げようと、保険薬局も含めた卒後教育に取り組んでいます。2012年からは北海道薬剤師会との共同事業として、遠隔研修システムを使った「医療薬学講座-在宅医療を中心に-」を開催しています。例えば、注射薬調剤の実際、がんの標準治療、緩和医療などの講習会を週1回、全7回開催し、その模様をインターネットの動画配信システムを使い、道内10数カ所にライブ方式で配信しています。これには病院薬剤師だけでなく薬局薬剤師も参加でき、のべ1000人近い人が聴講しています。このように、病院、保険薬局、そして大学が一体となって卒後教育に取り組んでいるのは、北海道の特徴だと言えます。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの薬剤師が目指す方向性や展望をお聞かせください。

井関 最近、日本学術会議で「リバース・トランスレーショナル・リサーチ」という言葉が用いられ、注目されつつあります。これは、臨床現場で問題になっている様々な事象を研究室に持ち帰り、基礎の手法を使って解析し、その結果をまた臨床に返すという研究スタイルで、薬剤師の世界にもそのままあてはめることができます。臨床現場の薬剤師が、臨床における問題点を学部に戻し、学部の手法、手技を活用して解決した上で現場に返す。臨床と研究を結ぶ両方向の軸が成立すれば、そこで世界標準に匹敵する新薬や新しい治療方法を生み出すことも夢ではないと思います。このような手法は大学だけでなく、将来は一般病院でも取り組むことが可能だと思います。今、本当の意味で薬と学が連携しなければならない時期が来ています。私はもともと薬剤師としてスタ

ートして、研究にも携わりながら、20数年間、臨床と研究をつなぐ道を探索してきましたが、このような動きが出てきたことは非常に心強いと思っています。薬剤師主導の新しい治療方法が提案でき、それが臨床現場で認められれば、薬剤師の活躍の幅もさらに広がるのではないかと期待しています。また、臨床医の多くは治療をしながら臨床研究にも取り組んでいますから、これからは医師と一緒に臨床研究ができる薬剤師が必要とされてくるでしょう。

髙崎 その通りですね。われわれも臨床の現場で、薬剤師はこんなことを考えてやっています、一緒に研究をしませんかと医師にアピールしないと駄目ですね。勇気を出してアピールすれば、賛同してくれる医師は必ず増えていくと思います。

――最後に、お二人から北海道内の薬剤師の方々へのメッセージをお願いします。

髙崎 当院は北海道の「都道府県がん診療連携拠点病院」であり、他の病院で治療が困難になった患者さんを紹介されることも少なくありません。治験も含めて様々な抗がん薬を組み合わせて治療に手を尽くしますが、それでも功を奏さないこともあります。そのような患者さんとの関わりを経験すると、薬剤師自身も変わっていきます。やはり目の前の患者さんのためにという

気持ちが一番大きなモチベーションになります。医療人としての職務と責務、倫理を現場で患者さんから学び、育っていくのではないかという気がしています。皆さんに言いたいのは、恐れずに、ハングリー精神を持って仕事に向き合い、患者さんのために自分に何ができるのかを考えてほしいということです。もう一つ、薬剤師はサイエンスを中心に大学で学んできていますので、自分たちの考えややりたいことを相手に伝える場合、科学的な根拠を数字で伝えていただきたい。数字というのはどんな職種の人にでも共通に理解できるマーカーです。大学で身につけた基礎を活用することによって、薬剤師の未来も拓けると思います。

井関 自分の目標を見つけることを薬剤師としての第一歩としてください。目標がなければ、仕事は面白くありません。私から伝えたいのは、「面白がって仕事をしよう」「もっと物事を深く追求してみよう」ということです。答えが分かっている仕事ばかりしていると、やがて答えが分からない仕事がしたいと思わなくなります。医療の現場は正しい答えはない世界です。だからこそ面白いのであり、そこで悩んだり、新たな発見をすることで、それまでとは違う世界が見えてくるはずです。

臨床と研究の融合を目指す北海道大学薬学部の教育プログラム資料2

学部教育・卒後教育(大学院教育~薬学6年制と連動)高次職能教育への参画 成果を教育へフィードバック

臨床薬学教育・研究センター

薬学科高学年次学生・既卒有資格者を対象としたスキルアップ講座・研修

●新しい業務に対応できる 薬剤師の育成●専門薬剤師認定を 目指した自己研鑽●臨床薬学研究の基盤整備

生涯研修教育

大学院(社会人コース含む)教育・研究(薬学)の充実に向けて(薬学6年制との連動)●臨床研究の推進・実施 (臨床試験計画審査・研修窓口)●医療における薬剤師 職能の評価(調査研究)●薬剤師教育方法及び 評価方法の確立と実施●生涯研修成果の評価

臨床教育・研究

臨床能力の高い薬剤師の人材確保共同研究の推進

各地域医療施設(病院・薬局)との連携/他教育機関

新しい研修プログラムに反映

研修成果研究材料

がん専門薬剤師の役割資料1

1)抗がん剤治療レジメン設計への参画と管理2)がん化学療法の処方鑑査と調製管理3)治療選択への参画と薬学的介入4)薬剤管理指導(服薬指導)及び副作用モニタリング5)緩和ケアへの参画6)医師・看護師等に対する教育及び情報提供

がんの薬物療法だけでなく、一般的な薬剤に関する薬理学的知識や合併症の病態の理解が基本適切な文献検索等で最新の情報を収集できること得られた情報から適切な治療内容を選択・提言できること

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田辺三菱製薬株式会社ホームページ http://www.mt-pharma.co.jp

発行月 : 平成25年9月発 行 : 田辺三菱製薬株式会社

〒541-8505 大阪市中央区北浜2-6-18お問い合せ先 : 営業推進部 06-6227-4666

ファーマスコープは病院、保険薬局で輝く薬剤師の声をお届けする情報誌です。

北海道版特別号

北海道病院薬剤師会 常任理事北海道がんセンター 薬剤科長髙崎 雅彦 先生

北海道病院薬剤師会 会長北海道大学病院 薬剤部長井関 健 先生

■北海道における病棟薬剤業務の現状――病棟薬剤業務実施加算の届け出状況と取り組みの現状についてお伺いします。

井関 2013年7月現在で道内全575施設中の59施設、約1割が届け出をしています。病棟薬剤業務を円滑に行うためには、どうしてもマンパワーが必要になりますので、現状は多くの病院が人員確保を含めて準備をしている段階だと思います。病棟薬剤業務の実施にあたり、増員をしないまま無理をして行ってしまうと、結果的には自分で自分の首を締めることになりかねません。そこで、北海道病院薬剤師会(以下、北病薬)としては、増員計画について病院中枢部と相談しながら進めてほしいということ、また、その内容は薬剤師主導で決めてほしいとアナウンスしています。病棟業務において、「何かやってほしいことはありますか」と聞くのではなく、まず病棟で何が必要かを把握し、『薬物療法の有効性と安全性向上のために、私たち薬剤師はこういう仕事をします』と提示できることが重要です。そしてそのためのスタッフ

教育までを含めた準備期間を取ることが大切なのです。単に病棟に滞在する時間が増えただけではなく、医師、看護師等医療スタッフから薬剤師が医療のパートナーとしてしっかり機能しているという評価が出てくれば、病棟薬剤業務はチーム医療の中に定着していくと思います。北海道大学病院でも病棟薬剤業務の実施を視野に入れて、今年度と来年度に大幅な増員を行い、トレーニングをしながら業務体制を固めているところです。

髙崎 北海道がんセンターも算定に向けて準備を進めていますが、やはり課題はマンパワー確保です。定数では5人の増員が認められたものの、現時点で1人しか確保できていません。しかし、人員が充足したあかつきには、すぐに業務が開始できるように、モデル病棟で業務範囲や内容について検証しています。薬剤師だけではなく、医師からも評価をしていただき、当院独自の業務体系を作っていきたいと考えています。1997年以来、病棟担当制で薬剤管理指導業務を実施してきましたから、新たに病棟薬剤業務が加わっても業務そのものはスムーズにできると思っております。ただ、方法を間違えると、単なる使い勝手の良いスタッフと

思われてしまいますから、業務の中身はしっかり吟味したうえでスタートしようと思っています。

――病棟薬剤業務を広げるためには、現場ではどのような取り組みが必要とお考えですか。

井関 これまでの薬剤管理指導の場合は、処方が決定してから薬剤師が病棟に出向き、そこで確認して意見を言っていたわけですが、病棟薬剤業務では朝のカンファレンスへの参加などを通じて、患者さんの治療方針が決定される前の段階から薬剤師が関わります。そこでどれだけ情報提供ができるかがポイントです。病棟にいる時間が重要なのではなく、業務の質が高ければ、例えば、他の業務のために病棟を離れることがあっても、医師、看護師の見方は確実に変わってくると思います。2010年4月の医政局長通知「チーム医療の推進について」の最大の趣旨は、処方が決定される前から薬剤師が薬物療法に関わりなさいということです。病棟薬剤業務はまさしくそのための評価であり、少なくとも薬剤師はそういう意識でスタートしなければならないと思います。髙崎 診療報酬においては、病棟業務は薬剤管理指導業務と病棟薬剤業務の2つに区分されていますが、実際には薬物治療は一連の流れですので、現場としてはあえて病棟薬剤業務だけを強調してアピールすることはしていません。ただ、例えば処方入力支援などのように、今まではやっていなかったこともできま

すよと、ピンポイントでアピールすることはしています。また、各病棟の特性に応じて業務に濃淡をつけることも必要だと思います。

■薬剤師の資質向上への取り組み――6年制の薬学教育を受けた薬剤師の活躍が期待されていますが、育成についてはどのようにお考えでしょうか。

髙崎 6年制の卒業生をいつから臨床現場に送り出すかについては、様々な意見があります。当院は薬剤師が少ないこともありますが、まずはオールマイティーの薬剤師を育成しようという方針でやっています。新人は3カ月たって日当直ができるようになったらすぐに病棟に上げます。ひとりの薬剤師が調剤もしながら薬剤管理指導業務も行い、さらに若い薬剤師の場合は、無菌調製、製剤、TDMというように、3カ月単位で各部署を回ります。すると一連の医療の流れが自然に分かってくるのです。私は、病棟業務にしても、チーム医療にしても、現場で学び、育てられるという考えです。実践の中で、自分に足りない部分や医療に対する姿勢を医師や他職種から教えてもらう、それがチーム医療の醍醐味ではないかと思います。医師や看護師は卒業したらすぐに臨床現場に出るのに、なぜ薬剤師だけが違うステップが必要なのか。これまでの意識を変え、新しい時代の薬剤師へと飛躍するためにも、病棟薬剤業務実施加算と6年制教育は大きなチャンスだと考えています。

井関 当院でも3~4年前から、新人は1年前後の間に病棟を担当させ、そこで1~2年経験してから調剤などのセントラル業務を担当させ、また病棟に戻すということを繰り返しています。というのも、早期に病棟業務を経験することで、調剤室や製剤室での仕事の重要性あるいは改善すべき点が見えるようになるためです。また、その逆もあります。中には病棟業務を最終ゴールのように考えている薬剤師もいますが、私は、調剤も病棟業務も同じ重要度を持ってやるべきだと考えています。いろいろな経験をすることで、薬剤師として何が必要なのか体得することが重要です。実際の現場では、経験の少ない薬剤師が病棟に行くことで病棟の他職種が困っているかというとそうでもなくて、医師や看護師はむしろ最初からチームの一員として受け入れ、一生懸命に指導してくれるのです。

――チーム医療で活躍するためには、専門性も必要になると思いますが、それについてはいかがですか。

髙崎 当院はがん治療に特化した施設なので、当然のことながら薬剤師にも専門性が求められます。チーム医療で活躍するためには、やはりライセンスは必要であり、医師から信頼され、任されるためのスタートラインと言ってもいいでしょう。私は、がん専門薬剤師、がん薬物療法認定薬剤師、緩和薬物療法認定薬剤師のいずれかのライセンス取得を推奨しています。他の医療スタッフもそれぞれに専門ライセンスを持っており、お互いの専門性を活かすことが患者さんのためだという共通認識があります。例えば、緩和ケアチームにおいては、オピオイドローテーションにおける薬剤の投与量や、次の薬剤をどのように決めればいいのか、必ず薬剤師に相談があります。副作用についても、薬剤師が未然に防いだり、早期に発見して対応策を提案することを期待され

北海道版 特別号

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ています。また、がんの知識だけでなく、栄養に関する専門知識も必要です。手術を必要とする患者さんでも、栄養状態が悪くて手術ができない場合がありますから、栄養サポートチームに薬剤師が介入して栄養状態を改善することで、治療を一歩前に進めることができるのです(資料1)。

井関 臨床の現場では、今まで以上に専門的な能力を薬剤師に求める状況が生まれてきているのは確かです。薬剤師も医師のように診療科に特化するという方向性もあるかもしれませんが、髙崎先生のところのようながん専門病院は別として、それが果たして薬剤師としての専門性が高いと言えるのかどうかは考える余地があると思います。例えば、薬剤師が糖尿病の薬について専門知識を持っていても、糖尿病専門医にとってはそれほど魅力はないでしょう。しかし、その薬剤師が循環器の薬も、あるいは感染症についても知識があるとなれば話は別です。オールマイティーな薬剤師は無理でも、内科系と外科系くらいの区分けの中で、幅広い知識を持った薬剤師が医師をサポートすることができれば、医療安全の面からも有益ではないかという気がしています。

――薬学教育の立場から、井関先生は薬剤師のスキルアップについてどのような取り組みをされていますか。

井関 私は、「医師が処方を決定する前に介入し、処方提案できる薬剤師」が、これからの薬剤師にとって一つの目標になると考えています。そのためには、医師との信頼関係を築くことが大切であり、医療スタッフの一員として薬学の知識だけでなく、コミュニケーション能力を含めた全人的な教育が必要です。6年制教育で臨床薬学をしっかり学んだとはいっても、すぐに臨床で通用する力はありません。チームの一員として能力を伸ばしていくためには、考える力や問題解決能力が必要であり、それは卒後教育でなければ養えないと思います。北海道大学では薬学教育6年制の開始に伴い、2012年4月から大学院に「臨床薬学専攻」が新設されました。4年間の博士課程の中で、1年間の臨床薬学業務研修を行い、臨床と研究をつなぐことができる研究マインドを持った薬剤師の育成を目指しています。また、社会人コースでは、仕事を続けながらスキルアップするために学び直したいという現役の薬剤師を受け入れています。そうしたモチベーションの高い薬剤師を支援するための卒後教育プログラムを北海道から発信していこうと、他の大学、病院と協力しながら進めています(資料2)。この他、北海道の特徴としてエリアの広さ、薬剤師の札幌圏集中ということもあり、北病薬としては、北海道全体の薬剤師力を引き上げようと、保険薬局も含めた卒後教育に取り組んでいます。2012年からは北海道薬剤師会との共同事業として、遠隔研修システムを使った「医療薬学講座-在宅医療を中心に-」を開催しています。例えば、注射薬調剤の実際、がんの標準治療、緩和医療などの講習会を週1回、全7回開催し、その模様をインターネットの動画配信システムを使い、道内10数カ所にライブ方式で配信しています。これには病院薬剤師だけでなく薬局薬剤師も参加でき、のべ1000人近い人が聴講しています。このように、病院、保険薬局、そして大学が一体となって卒後教育に取り組んでいるのは、北海道の特徴だと言えます。

■新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージ――これからの薬剤師が目指す方向性や展望をお聞かせください。

井関 最近、日本学術会議で「リバース・トランスレーショナル・リサーチ」という言葉が用いられ、注目されつつあります。これは、臨床現場で問題になっている様々な事象を研究室に持ち帰り、基礎の手法を使って解析し、その結果をまた臨床に返すという研究スタイルで、薬剤師の世界にもそのままあてはめることができます。臨床現場の薬剤師が、臨床における問題点を学部に戻し、学部の手法、手技を活用して解決した上で現場に返す。臨床と研究を結ぶ両方向の軸が成立すれば、そこで世界標準に匹敵する新薬や新しい治療方法を生み出すことも夢ではないと思います。このような手法は大学だけでなく、将来は一般病院でも取り組むことが可能だと思います。今、本当の意味で薬と学が連携しなければならない時期が来ています。私はもともと薬剤師としてスタ

ートして、研究にも携わりながら、20数年間、臨床と研究をつなぐ道を探索してきましたが、このような動きが出てきたことは非常に心強いと思っています。薬剤師主導の新しい治療方法が提案でき、それが臨床現場で認められれば、薬剤師の活躍の幅もさらに広がるのではないかと期待しています。また、臨床医の多くは治療をしながら臨床研究にも取り組んでいますから、これからは医師と一緒に臨床研究ができる薬剤師が必要とされてくるでしょう。

髙崎 その通りですね。われわれも臨床の現場で、薬剤師はこんなことを考えてやっています、一緒に研究をしませんかと医師にアピールしないと駄目ですね。勇気を出してアピールすれば、賛同してくれる医師は必ず増えていくと思います。

――最後に、お二人から北海道内の薬剤師の方々へのメッセージをお願いします。

髙崎 当院は北海道の「都道府県がん診療連携拠点病院」であり、他の病院で治療が困難になった患者さんを紹介されることも少なくありません。治験も含めて様々な抗がん薬を組み合わせて治療に手を尽くしますが、それでも功を奏さないこともあります。そのような患者さんとの関わりを経験すると、薬剤師自身も変わっていきます。やはり目の前の患者さんのためにという

気持ちが一番大きなモチベーションになります。医療人としての職務と責務、倫理を現場で患者さんから学び、育っていくのではないかという気がしています。皆さんに言いたいのは、恐れずに、ハングリー精神を持って仕事に向き合い、患者さんのために自分に何ができるのかを考えてほしいということです。もう一つ、薬剤師はサイエンスを中心に大学で学んできていますので、自分たちの考えややりたいことを相手に伝える場合、科学的な根拠を数字で伝えていただきたい。数字というのはどんな職種の人にでも共通に理解できるマーカーです。大学で身につけた基礎を活用することによって、薬剤師の未来も拓けると思います。

井関 自分の目標を見つけることを薬剤師としての第一歩としてください。目標がなければ、仕事は面白くありません。私から伝えたいのは、「面白がって仕事をしよう」「もっと物事を深く追求してみよう」ということです。答えが分かっている仕事ばかりしていると、やがて答えが分からない仕事がしたいと思わなくなります。医療の現場は正しい答えはない世界です。だからこそ面白いのであり、そこで悩んだり、新たな発見をすることで、それまでとは違う世界が見えてくるはずです。

 2012年度の診療報酬改定において、薬剤師の病棟業務に対する評価として「病棟薬剤業務実施加算」が新設されました。患者さんへの安全かつ適切な薬物療法の提供のために、薬剤師はその専門性を最大限発揮するとともに、チーム医療の一員として、これまで以上に積極的に医師や看護師など他職種との連携・協働を進めることが求められています。 「ファーマスコープ特別号・北海道版 2013」では、北海道大学病院薬剤部長の井関健先生と北海道がんセンター薬剤科長の髙崎雅彦先生のお二人に、北海道における病棟薬剤業務の現状、チーム医療の推進、薬剤師の資質向上、今後の方向性についてお話を伺う中から、新時代を迎えた病院薬剤師へのメッセージをお届けします。

美瑛