VT62プッシュプルパワーアンプ -...

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全段トランス結合,中域の張りを重視した音作り VT62プッシュプルパワーアンプ 松並希活M。-S・nqmi Ki,。kozu トリウムタングステンフィラメントを持つVT62/ 801は 自作アンプマニアの間で今なお高い人気を 持ち続けている直熱3橿送信管で,筆者はこれまで にVT62を使用したプッシュプルパワーアンプを2 台,パラシングルパワーアンプを1台発表してきた. 今回はプッシュプルアンプとし,入力と段間結合に VT62/801 VT62は別名801 (RCA)で呼 ばれている直熟型の3極送信管で す. VTe2アンプに関しては本誌 1982年2月号と1984年2月号で 紹介していますが VT62/801 はフィラメントがトリウムタング ステンのためオレンジ色に輝き, その光が魅力的で今でも根強い人 気のある真空管です. フィラメントの電圧は7.5V, 電流は1. 25Aですから消費電力は 9.4Wと大きく,また最大プレー ト電圧は800V,ゼロ信号時の最 大プレート損失は20Wとなって います. この真空管は送信管ですので内 部抵抗が高く,出力トランスはプ ッシュプル動作では16knppが必 要になります.過去に発表したも ので1982年2月号では平田電機製 作所のFX-50-16Gを便いました. このときのアンプは,リレー切り 2000/4 もトランスを使用することで音作りを行っている. 位相反転は入力トランスで行い,出力段は自己バイ アス方式とし, 670VのB電圧で10Wの出力を得 た.電源と出力のトランスにはタムラ製作所の特注 品を採用,整流回路には高電圧整流管6D22Sを起 用している. 換えによりVT25, VT52, VT62 などを使用できる方式としな 私が『無線と実験』に初めて記事 を書いた処女作でした. 次いで1984年2月号では ムラ製作所製でサン・オーディオ のオリジナル品SOT-16KM出力 トランスを使用して801Appを 発表しましたが,このトランスは 1次が16kOで100W出力容量の 大型出力トランスでした.その他 には1987年5月号に801Aパラ シングルをタムラの出力トランス F-2004を使って紹介しています. したがって関連記事としては今回 で4作目となります. 処女作から18年も過ぎると関連 パーツ類も様変わりしています. 当時は電源用フイルムコンデンサ ーはなく,オイルコンか電解コン デンサーでした.真空管アンプの 電源部に初めてフイルムコンデン サーを使用したのは1993年の5 月号に発表した91型300Bシング ルステレオアンプです.当時トラ イアルエレクトリックがドイツの ボッシュ製15FLFおよび20FLF 600Vを発売したのか最初で れがフイルムコンデンサーのパイ オニアと言えます.このとき初め てフイルムコンを使用し,その音 質に驚き感激したものです. 今回は今までのVT62/801 p アンプとは趣向を変えて製作して みました と言っても近代的な回 路ではなく,むしろ作りやすい回 路,古典的な使い方をしてみまし 本機の回路構成 まず出力回路ですが 今回は自 己バイアス式とし,出力は約10 Wを目標に設計しました.最近 はこの子のアンプ記事が少ないの と言うよりVT62が店頭から 姿を消してしまったことも原因で もありますが 製作してみようと 思い立ちました 47

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全段トランス結合,中域の張りを重視した音作り

VT62プッシュプルパワーアンプ

松並希活M。-S・nqmi Ki,。kozu

トリウムタングステンフィラメントを持つVT62/

801は 自作アンプマニアの間で今なお高い人気を

持ち続けている直熱3橿送信管で,筆者はこれまで

にVT62を使用したプッシュプルパワーアンプを2

台,パラシングルパワーアンプを1台発表してきた.

今回はプッシュプルアンプとし,入力と段間結合に

VT62/801

VT62は別名801 (RCA)で呼

ばれている直熟型の3極送信管で

す. VTe2アンプに関しては本誌

1982年2月号と1984年2月号で

紹介していますが VT62/801

はフィラメントがトリウムタング

ステンのためオレンジ色に輝き,

その光が魅力的で今でも根強い人

気のある真空管です.

フィラメントの電圧は7.5V,

電流は1. 25Aですから消費電力は

9.4Wと大きく,また最大プレー

ト電圧は800V,ゼロ信号時の最

大プレート損失は20Wとなって

います.

この真空管は送信管ですので内

部抵抗が高く,出力トランスはプ

ッシュプル動作では16knppが必

要になります.過去に発表したも

ので1982年2月号では平田電機製

作所のFX-50-16Gを便いました.

このときのアンプは,リレー切り

2000/4

もトランスを使用することで音作りを行っている.

位相反転は入力トランスで行い,出力段は自己バイ

アス方式とし, 670VのB電圧で10Wの出力を得

た.電源と出力のトランスにはタムラ製作所の特注

品を採用,整流回路には高電圧整流管6D22Sを起

用している.

換えによりVT25, VT52, VT62

などを使用できる方式としな

私が『無線と実験』に初めて記事

を書いた処女作でした.

次いで1984年2月号では タ

ムラ製作所製でサン・オーディオ

のオリジナル品SOT-16KM出力

トランスを使用して801Appを

発表しましたが,このトランスは

1次が16kOで100W出力容量の

大型出力トランスでした.その他

には1987年5月号に801Aパラ

シングルをタムラの出力トランス

F-2004を使って紹介しています.

したがって関連記事としては今回

で4作目となります.

処女作から18年も過ぎると関連

パーツ類も様変わりしています.

当時は電源用フイルムコンデンサーはなく,オイルコンか電解コン

デンサーでした.真空管アンプの

電源部に初めてフイルムコンデン

サーを使用したのは1993年の5

月号に発表した91型300Bシング

ルステレオアンプです.当時トラ

イアルエレクトリックがドイツの

ボッシュ製15FLFおよび20FLF/

600Vを発売したのか最初で こ

れがフイルムコンデンサーのパイ

オニアと言えます.このとき初め

てフイルムコンを使用し,その音

質に驚き感激したものです.

今回は今までのVT62/801 pp

アンプとは趣向を変えて製作して

みました と言っても近代的な回

路ではなく,むしろ作りやすい回

路,古典的な使い方をしてみまし

本機の回路構成

まず出力回路ですが 今回は自

己バイアス式とし,出力は約10

Wを目標に設計しました.最近

はこの子のアンプ記事が少ないの

で と言うよりVT62が店頭から

姿を消してしまったことも原因で

もありますが 製作してみようと

思い立ちました

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よく「手に入らない真空管で記

事を発表するな」と否定的な意見

を唱える人がいますが,そのよう

な人に限って製作はしない人です

作る意欲のある人は何としてでも

探し出すようです.

表1がVT62の規格表ですが

ゼロ信号時の最大プレート損失は

20Wですから,これを上回らな

いようにしなければなりません.

今回使用の電源トランスは高圧タ

ップが520V,したがって整流後

の電厘は/百倍の728Vとなりま

す.しかしご存じのように整流管

の内部抵抗によるドロップがあり

ます.実際はVT62が4本, eSN7

が2本消費しますので整流管の電

圧降下を考えると実際のB電圧は

およそ600Vになります.

仮にVT62にかけるプレート電

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圧を550Vとしプレート電流を1本

あたり0.033A(33mA)とします

と,プレート損失は550VXO.033

-18 15Wとなり最大損失の90%

になります.また特性曲線から,

負荷16knで出力15Wプッシュプ

ル動作のバイアス電圧を55Vとす

るとプレート電流は2本分で0.066

A(66mA)ですから,必要なバイ

アス抵抗は55V÷0. 066A-833【一

となりますので 市販されている

値から選ぶと820mか880創こなり

ます.本機では手荷ちに8800/50

Wのメタルクラッドがありまし

たのでこれを使いました.

プッシュフル動作に必要な位相

反転回路はトランス式とし,タム

ラのカタログ品からTN-351を使

うこととします.このトランスは

1次10kくわpで2次が40kJわpの

1 :2のドライブトランスです.

これにより前段も双3極管でプッ

シュプル動作とし,入力回路も同

じくトランス受けにしました.

このアンプは入力インピーダン

スを何knにするか迷いましたが,

価格が上殿的安いカタログ品から

タムラの小型入力トランスでTK-141を選びました TK-141は1

次10km, 2次40ktlCTの1 : 2の

トランスですがf特(周波数特性)

はそれほど良くなく,狭帯域のも

のです.今回の音の目標は,秩

帯域ながらオールトランス結合

で中城の張りのあるアンプを目標

に設計してみました 2次10kQ

に合う増幅管としてはポピュラー

をeSN7を選んでいます.

回路は極めてシンプルですが,

ノンクリッピング出力10Wで必

MJ

闘 要はを鵠幻が鶉勤が有ノ な、 JJ iii ノー郎-告期が来い前世) '[ 細

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送信管パワーアンプ/VT62プッシュプル

電圧は5V/4Aにしましたが,令

回使用したeD22Sはヒーター電

圧が6.3Vですので,エミッショ

ンは若干落ちますが5VでeD22S

のヒーターを並列にして点火して

います.型番は今世紀最後のトラ

ンスと考えPC-1999Mとなって

います.この電源トランスも従来

のPCシリーズと同寸法になって

います.

チョークコイルはA-396を,ド

ライフ告ランスは電流の多く流せ

るTN-351を選びました.このト

ランスは1次(10kQ)も2次(40k

A)もプッシュプル用になってい

る1:2のトランスです.また入力

トランスは入力10kn, 2次が40

knCT, 1: 2のカタログ品TK

-141です.

eSN7のカソードに入っている

フイルムコンテッサ-はKMコン

100llF35Vです.以上の製品はサ

ン・オーディオ(TELO3-5296-

0271)で揃えました.整流管の

eD22Sは専用ソケットとトップ

キャップ付きでテクソル(TEL

053-468-1201)から発売されてい

ます.またB電源回路の10I〈F,

50pF, 50F'F/700Vオイルフイ

Iレム・ブロックコンデンサーはク

ラシックコンポ-ネンツで入手可

能です.

シャシーはいつもお願いしてい

る中江塗工所(TELO44 - 822 - 70

19)製ですbs',自分で加工する人

は図2を参考にしてください,ま

た加工ができない人は中江塗工所

にお願いするとよいでしょう.そ

の他の部品は三栄無線で揃えまし

た 表3カシヾ-ツリストです.

配線および調整

今回のアンプはオールトランス

結合のため,回路がシンプルです

ので作業も楽に進みます.

2000/4

むしろVT62やeD22S, eS

N7のヒーター配線やACIOOVの

配線の方が手間がかかるくらいで

す.

いつも製作記事で述べています

が 各ヒーター配線とACIOOV

配線が終bったら,必ず真空管を

差して点火するか石露悪しましょう.

すべての配線後に真空管が点火し

ないと点検に手間をとり,せっか

く綺麗な配線をしてもグチャグチ

ャになり見苦しくなります,

また配線中トランス類に傷が付

かないように,ビニールカバーを

そのまま被せておくか段ボールな

どで保覆しましょう.

前頭でも述べたように整流管

eD22Sのカソードはガラスバル

ブのトップにあり,プレートはソ

ケットピン1, 3, 6, 8になり

ますので注意しましょう.また

eSN7のヒーター6.3Vの片側を

アースに落としますが これは実

際にアンプを動イ同穴態のときにど

ちらかつなぎ変えて, -ム音の少

なくなる方にしてください.

ケミコンのアースは共通にしな

いで個別にアースポイントまで引

きます.信号経路のアースは出力

段のアースから初段に向かって順

番につなぎ,入力トランスからア

ースポイントに落としています.

全部の配線が終わったら今一度

-ンダ付け不良がないか配線の切

れ鵠や-ンダ屑など挟まっていな

いかよく見ましょう. OKなら真

空管を差し,いよいよ電源を入れ

ますが,整流管が傍熱管ですので

投入したら5-7秒でB電圧が出て

きます.そこでVT62用のバイア

ス抵抗8800(R5, R6 )の両端電圧

を測り, 50-55V出ていれば出力

管は正常に働いていることになり

ます.一応念のためeSN7の電圧

も測ってみます.真空管や家庭の

電圧の差で同じ値になりませんが

回路図の近似値でよしとします.

調整箇所は別に難しいところは

ありません. -ムバランサー4個

をゆっくり回し, -ム音が一番小

さくなるように調整すれば本機は

完成です.

2個の出力トランスの間に4個のハムバランサーを配置.出力管が直熱管のため,調整

はシャシー上面から行う

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送信曹パワーアンプ/VT62プッシュプル

本機の諸特性

まず図3に示す本機の入力感度

ですがlV入力(lkHz)でク

リップ直前の最大出力は10Wで

す.電圧増幅管が1本なので入力

感度が低く, CDダイレクト再生

はやや酷ですから,プリアンプの

使用をおすすめします.

図4は本機のf特ですが オー

ルトランス結合ですので必然的に

f特は入力トランスやドライフ十

ランスで決まってしまいます.図

5は高調波歪率特性です. low

でlkHzは1.8%, 100Hzは10

kHzともに2.5%,普段家庭で聴

く音量の2Wでは0.3% (lkHz),

100Hz. 10kHzは0.7%です力†

無帰還ですからマアマアと思いま

す.これらはあくまでも測定値で

あって,実際に音楽を聴くことに

関してはまったく問題ありません

ヒアリング

さて再生した音は? f特が狭

い割には不満はまったくありませ

ん.むしろ広帯域のアンプに比べ

るとはるかに中城のエネルギー感

と情報量を感じます. f特を知ら

せないで聴かせると「仲々良いで

すね」と返事力返ってきます.特

にオールトランス結合のメリット

が生かされ 充実した満足感が得

られます.これ力斗列え(指域が30

kH2-50kHzくらいの広帯域だ

と音全体に躍動感が薄れ ボーカ

ルが後ろに下がるようになります.

なぜでしょうが,アンプ作りは本

当に不思議な世界です.

昨年の9月,秋葉原の真空管オ

-デイオフェアに本機を出品しま

した.このときは完成したばかり

だったことと,整流管eD22Sが

1本不良で5R4GYを使ったため,

抜けが今ひとつだったこととバラ

ンスにもやや不満がありました力†

今回eD223に換えてからはB電

圧も上がり, VT62特有のキラ

キラカ取れて聴きやすくなりまL

i田

本機はオールトランス結合で配

線が楽なため,経験の浅い人でも

製作が容易ですので 一度挑戦し

てみてはいかがでしょうが.

次回は低いB電圧で動作させた

2112,およびヨーロッパ管4242

のアンプを紹介します.

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