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Transcript of URL - HERMES-IR | HOMEhermes-ir.lib.hit-u.ac.jp/rs/bitstream/10086/11655/1/...中 世 初 期 + 地...
「
中世
初期+
地
中海世
界の
社会経済的発展の
綜合的理
解の
ため
に
( 1 ) 「 中世 初期+ 地 中海世 界 の 社 会 経済的 発展 の 綜合的 理解 の た め に
紀元
後四
世
紀か
ら
数
世
紀に
わた
る、
い
わ
ゆ
る
「
古代末
期・
中世
初期+
の
時期に
、
地
中
海周
辺
と
そ
の
隣接諸地
域
で
進行し
た
社
会
経
済発展を
、
相
互に
連関
しあ
っ
た一
つ
の
全
体
とし
て
綜合的に
把
握し
ょ
う
と
す
る
研
究
者は
、
さ
まざ
ま
な
研
究内
的障害に
つ
き
当
ら
ざ
る
を
得な
い
で
あ
ろ
う。
た
と
え
ば、
専門
化し
細分化
しっ
つ
今日
に
い
た
っ
て
い
る
とこ
ろの
、
問題の
地
域
と
時代に
関係
する
諸
研
究部門は
、
そ
れ
ぞ
れ
に
固有の
価値観を
前
提に
、
方
法を
樹立し
、
問題設
定
を
お
こ
ない
なが
ら
独
白の
学問
伝統を
つ
く
り
上
げて
お
り、
こ
れ
ら
諸
部門を
横に
見
とお
すこ
とは
ま
す
ま
す
困
難と
な
り
つ
つ
あ
る。
また
、
さ
まざ
ま
な
条件か
ら、
研究
密度の
点で
、
専門分
野に
よっ
て
は
過
密化
とも
称
すべ
き
現
象が
み
られ
る
渡
辺
金
一
反
面、
稀薄な
分
野も
あ
り、
こ
の
ア
ン
バ
ラ
ン
ス
ほ、
前者が
後者をび
き
ずり
、
こ
れ
に
場違い
な
課題設
定
を
強い
る
とい
う、
好ま
しか
ら
ざる
研
究
情況
を
生
ん
で
い
る。
そ
こ
で、
踪
合
的な
歴史理
解を
め
ざ
す上
記の
研究
者
は、
歴
史学本
来の
、
史料に
基づ
く
実
証
研
究に
入
る
に
先
立っ
て、
自らが
用い
る
概念の
整理
と、
自己の
研
究が
す
すむべ
き
道に
つ
い
て
の
オ
リ
エ
ン
テ
ー
シ
ョ
ン
とを
、
お
こ
な
わ
ざ
る
を
得ない
で
あ
ろ
う。
以
下に
取
上
げよ
うと
する
の
も
こ
の
問題に
関
わ
る。
ソ
ビ
エ
ト
科
学ア
カ
デ、、
、
-
版『
世
界史』
の
「
中
世+
iの
序
論に
は、
本
題に
関わ
る
つ
ぎ
の
よ
うな
叙述が
み
られ
る。
5 3 3
一 棟論叢 第 七 十六 巻 第 六 号 ( 2 )
すな
わ
ち、
「
古
代か
ら
中世へ
の
変り
目の
世
界
史
に
最も
重
要な
役割
を
演じ
た
の
は、
古
代
文
明の
五
大
中心
地+
で
あ
り、
そ
れ
は、
仙
漠帝
国、
㈲
中
央ア
ジ
ア
の
ク
シ
ャ
ン
帝
国、
㈲
イ
ン
ド
の
グ
ブ
タ
帝国
、
㈲イ
ラ
ン
、
メ
ソ
ポ
タ
ミ
ア、
中央ア
ジ
ア
の一
部を
含むサ
サ
ン
帝国
、
㈲西
お
よ
び
南ヨ
ー
ロ
ッ
パ
、
北
ア
フ
リ
カ、
前方ア
ジ
ア
含むロ
ーマ
帝
国
で
あっ
た、
とい
ぅ指摘
、
お
よ
び、
「
世
界
史
的に
み
た
封建制の
発生
に
つ
い
て
い
え
ば、
すべ
て
の
民
族が
奴隷制
を
経
過
して
封建制に
到
達し
た
わ
け
で
は
なか
っ
た+
の
で
あ
り、
「
び
じょ
う
に
多
く
の
民
族が
原
始共
同
体
制
度か
ら
直
接に
封建制に
移っ
て
し
ま
い、
社
会発展の
奴
隷制的
段階
を
経な
かっ
た+
、
とい
う
指
(
1)
摘、
が
そ
れ
で
あ
る。
何
故こ
の
よ
うな
指摘が
な
さ
れ
ね
ば
な
ら
ない
の
か。
本
題
の
関
係上
、
上
記の
、
古代
文
明の
五
大
中心
地の
一
つ、
㈲ロ
ー
マ
帝
国、
を
直接の
考察対
象に
据え
つ
つ、
こ
の
間題を
つ
き
つ
め
て
ゆ
く
と、
『
世
界史』
で
前
提さ
れ
て
い
る
概
念の
ワ
ク
組み
そ
の
もの
が、
果し
て
適切
か
ど
うか
とい
う
疑
問に
つ
き
当ら
ざ
る
を
得な
く
なる
。
マ
ル
ク
シ
ズ
ム
の
発展段階
説の
検討そ
の
もの
は
こ
こ
で
の
直接の
課題
で
は
ない
が、
少
な
く
と
旦一
一口い
う
る
こ
とは
、
民族
的社
会(
『
世
界
史』
の
表現
に
お
ける
「
原
始共
同
体
制
度+
)
か
ら
階
級社
会へ
の
移
行の
プ
朗-
ヘリ
ロ
セ
ス
と、
一
た
ん
成立
し
た
階
級社
会に
お
ける
一
つ
の
形
態
ヽ
ヽ
ヽ
か
ら
他の
形
態へ
の
そ
れ
と
は、
少
な
く
と
も
理
論的に
は、
次
元を
異に
する
と
み
る
べ
き
で
あ
る
に
も
拘ら
ず(
歴
史展
閲の
ヽ
ヽ
ヽ
ヽ
ヽ
具体
的な
場に
即し
て
考え
れ
ば、
両プ
ロ
セ
ス
は
相
互
に
甥
接
に
関わ
り
あい
なが
ら
進行
する
。
た
とえ
ば、
漠帝
国
とロ
ー
マ
帝
国とい
う
古代
世
界帝
国の
そ
れ
ぞ
れ
の
後継
国
家
と、
朝
鮮半島や
日
本
列
島の
諸
民
族、
ない
し、
ゲ
ル
マ
ン
●
ス
ラ
グ●
ア
ラ
ブ
諸
民
族、
との
関
連の
ご
とき)
、
『
世
界史』
で
は
そ
れ
が
明
瞭に
意識さ
れ
ず、
結果として
単線
的
な
歴
史理
解に
ぁ
わっ
て
い
る
の
で
は
ない
か、
とい
う
疑問が
そ
れ
で
ある
。
別の
言
葉で
表
現
すれ
ば
こ
う■で
あ
る。
す
な
わ
ち、
ア
ジ
ア
的生
産様式に
せ
よ、
奴
隷
制に
せ
よ、
封建制に
せ
よ、
こ
れ
らは
い
ずれ
も、
共
同
体
的
関
係が
優勢な
氏族
社
会の
階
級社
会へ
の
移行の
結果と
して
成
立し
た
諸
社
会を
ど
う把
え
る
か、
とい
う文
脈で
そ
も
そ
も
問題
と
なる
概念だ
、
とい
うの
が
私
の
考え
で
あ
る。
こ
れ
に
反し
て、
こ
れ
ら
概念か
らア
ジ
ア
的
生
産様
式
1奴
隷制
-封
建制
とい
う
発展
系列
を
構想する
こ
と
は、
直接生
産
者の
解
放とい
う
立
場を
基
軸に
して
、
人
類
史の
過
去の
諸
積層
(
フ
ォ
ル
マ
テ
ィ
オ
ー
ネ
ン
)
を、
意味を
( 3 ) 「 中世初期+ 地 中海世 界 の 社 会 経 済的 発 展 の 綜合的 理解 の た め に
もり
た一
つ
の
発展段
階と
考え
る
と
き、
また
そ
の
限
りに
お
い
て、
成
立
する
思
考なの
で
あ
る。
つ
ま
り、
マ
ル
ク
シ
ズ
ム
の
か
か
る
発展段階の
シ
ェ
ー
マ
は、
そ
もそ
も、
一
た
ん
成立
し
た
階級
社
会の
つ
づ
く展開
、
ない
し、
他の
形
態の
階
級社
会へ
の
具
体
的移行
過
程を
説明
す
る
た
めに
構想さ
れ
た
概念
装
置で
は
必
ずし
も
ない
こ
と、
を
念頭に
お
くぺ
きで
あ
ろ
う。
こ
の
よ
うな
、
一
た
ん
成立
し
た
階級社
会に
つ
い
て
の
歴
史理
論は
、
率直に
い
っ
て、
マ
ル
ク
シ
ズ
ム
の
なか
で
まだ
つ
く
ら
れ
て
い
ない
、
とい
っ
た
方が
正
しい
で
あ
ろ
う。
こ
う
考えて
くる
と、
私に
は、
た
と
え
ば
ソ
ビ
エ
ト
の
古
代
史家メ
リ
キ
シ
ビ
リ
の
提示
する
、
天
衣
無縫と
もい
うぺ
き、
お
お
ら
か
な
概
念的ワ
ク
組み
の
方が
、
む
し
ろ
傾聴
すべ
き
も
(
2)
の
を
含ん
で
い
る
よ
うに
思
わ
れ
て
くる。
こ
の
グ
ル
ジ
ア
人
古
代史家は
、
社
会
発
展の
基本
的諸
段階
とし
て
は、
川
最初の
無階
級社
会、
㈲
階級社
会(
そ
の
小
区
分
とし
て、
∽初
期階
級社
会ない
し
未
発展階級
社
会、
00発
展し
た
階
級
社
会、
㈹
後期
階
級社
会ない
し
無階級へ
の
過
渡的
社
会)
、
㈲
発
展し
た
無階殻社
会、
の
三
段階が
考え
られ
る
に
すぎ
ない
こ
と、
歴史上
で
存在し
た
個々
の
社
会経済的諸
構成
体は
、
こ
の
発
展段
階概念とは
区
別
さ
る
ぺ
き
顆型
概
念とし
て
理
解さ
れ
ね
ば
な
ら
ない
こ
と、
を
説くの
で
あ
る。
こ
の
注
目
すべ
き
論考に
い
ち
早
く
着目し
た
の
が、
第二
次
大
戦後に
お
ける
ア
ジ
ア
的
生
産様式
論争復活の一
旗手
、
フ
ラ
ン
ス
の
『
パ
ン
セ
』
誌で
あ
り、
同
誌
は
そ
の
フ
ラ
ン
ス
語
訳
を
掲載した
が、
興
味あ
る
の
は、
そ
れ
に
つ
づ
い
て
収
録さ
れ
て
い
る、
既成の
マ
ル
ク
シ
ズ
ム
史学を
代
表し
て
の、
シ
ャ
ル
(
3)
ル
・
パ
ラ
ン
の
批
判で
あ
る。
そ
れ
を
要約すれ
ば、
川メ
リ
キ
シ
ビ
リ
は
歴史に
お
ける
生
産力の
発展の
役割を
無
視し
て
い
る。
か
れ
は、
原始社
会か
ら
階
級社
会へ
の
移行の
さ
い
に
は
か
か
る
契機を
認
める
が、
ア
ジ
ア
的生
産様式
、
奴隷制
、
封
建制を
、
生
産力の
発展に
伴っ
て
継起的に
出現す
る
諸
発展
段
階
とは
み
ず、
階級
社
会に
お
ける
歴史的大
変革の
起
動力
を
専ら
階
級
闘
争(
階
級対
立の
焼烈化に
伴う
階級
闘争の
激
化)
に
も
とめ
て
い
る。
㈲メ
リ
キ
シ
ビ
リ
は
生
産様式の
よ
う
な
基本
概念を
類型
概念と
解
す
る
が、
そ
れ
ほ
誤り
で
あ
り、
あ
くま
で
も
発展段
階
概念と
して
う
け
とる
ぺ
き
だ。
つ
ま
り、
奴
隷制的段階は
、
次の
封建制的段階
を
萌芽の
う
ちに
宿さ
ね
ば
な
ら
ず、
封建制的
段階
白休
も
また
資本
主
義的段階を
萌芽の
う
ちに
宿さ
ね
ば
な
ら
ない
の
で
あっ
て、
た
とえ
ば
真
の
封建制とは
、
奴隷制古
代の
重
要な
技術的
成果を
継承
す
脚
一 橋 論叢 第 七 十六 巷 第 六 号 ( 4 )
る一
方、
直接生
産
者に
拡大
再
生
産の
可
能性を
与え
、
そ
の
結果
、
資本主
義の
生
成に
必
要な
新し
い
生
産力の
成熟を
ゆ
る
すよ
うな
、
搾取
状態を
う
ちに
含む
生
産
様
式で
な
け
れ
ば
な
らない
、
とい
うの
で
ある
。
果し
てパ
ラ
ン
の
こ
の
批
判は
妥当で
あ
ろ
うか
。
発展段階概
念と
類型
概念とい
う論点
切
に
つ
い
て
は、
発
展段階概念の
一
点
張りが
ゆきつ
い
た
動き.の
とれ
ない
情況
か
らの
脱出を
も
とめ
て、
類型
概念の
見直し
と
後者に
よ
る
前者の
代
置が
、
し
か
も
き
わ
め
て
重
要な
部
分に
つ
い
て
お
こ
(
1)
な
わ
れ
て
い
る
の
が
現
状だ
とい
うこ
と
だ
け
を
指摘し
た
上
で、
生
産力の
論点
肘に
つ
い
て
い
う
な
ら
ば、
い
か
に
概
念的に
規
定
する
に
せ
よ
そ
れ
は、
お
そ
ら
く
歴史学が
対
象と
する
よ
う
な
時
間を
は
る
か
に
越え
、
史
前史を
も
含め
た
総
体
とし
て
の
人
類史を
問題に
する
と
き、
は
じ
め
て
意味を
もっ
て
くる
よ
ぅな
概念だ
と
私は
考える
。
そ
の
意味で
、
竹内
芳郎の
指摘
、
「
人
類を
巨
視的
に
見る
とき
、
人
類の
最初
に
して
最大の
生
産技術革命(
し
た
が
っ
て
また
文
化
革命)
は
新
石
器
時
代に
お
こ
り、
そ
の
ご
十
八
世
紀西
欧の
(
産業革
命)
を
迎
える
ま
で、
実に
数千
年に
わ
た
る
長い
停滞
状態に
お
ちい
っ
て
い
た
(
5)
とい
え
る+
は
た
しか
に
正
鵠を
穿っ
た
発
言
だ。
少
な
く
と
も
生
産関
係を
変え
て
ゆ
く
起動力
と
し
て
の
生
産
力
の
発
展
榔
(
た
ん
な
る
道
具や
技術の
発明
や
改
良
1こ
れ
は
常に
行わ
れ
た
-とは
区
別
さ
るぺ
き)
の
ご
とき
、
資本
主
義を
別
と
すれ
ば、
歴
史
学の
対
象と
なる
よ
う
な
時間
帯の
な
か
で、
果
し
て
問
題に
し
得る
で
あ
ろ
うか
。
むし
ろ
逆に
、
た
と
え
ば、
奴
隷制社
会の
衰退
と
封建的
諸
関
係の
形
成との
時
期とい
わ
れ
る
舌代
末期に
つ
い
て
生
産
力の
発
展が
証
明
さ
れ
ず、
反
対
に
生
産力の
停滞ない
し
は
低下
を
前
提と
し
な
けれ
ば
な
らな
い
と
する
認
識が
、
東ヨ
ー
ロ
ブ
パ
を
含め
た
最近の
研
究
動向
(
6)
と
なっ
て
い
る
こ
とに
着目
し
て
お
こ
う。
こ
う
考えて
来る
と、
メ
リ
キ
シ
ビ
リ
はパ
ラ
ン
の
批
判に
一
向
痛
棒を
感じ
る
必
要は
ない
。
だ
が
メ
リ
キ
シ
ビ
リ・
テ
ー
ゼ
に
決定
的な
欠陥の
あ
る
こ
と
も
同
時に
認め
ない
わ
け
に
ほ
ゆ
か
ない
。
そ
れ
は
い
う
ま
で
も
ない
、
資本
主
義の
歴史
的位
置
づ
けに
関し
て
で
あ
る。
そ
もそ
も、
か
れ
の
い
わ
ゆる
(
発展
し
た
無階
級
社会)
へ
の
展望自体
、
資本主
義と
そ
こ
で
成
立
し
た
学
問に
よっ
て
は
じめ
て
開か
れ
た
の
で
あっ
て、
そ
れ
以
外の
階級社
会で
は
お
そ
ら
く可
能で
は
なか
っ
た
で
あ
ろ
う。
そ
れ
ば
か
り
で
は
ない
。
西ヨ
一
口
フ
パ
で、
そ
し
て
西ヨ
一
口
(
7)
ッ
パ
で
の
み
成
立し
た
資本主
義は
地
球的
規模で
の
拡大を
通
( 5 ) 「 中 世初 期+ 地 中海世 界 の 社 会 経済的 発展 の 綜合 的 理 解 の た めに
じて
、
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
以
外の
伝統
社
会を
例外
な
く
う
ちに
ま
きこ
み、
こ
れ
に
さ
ま
ざ
ま
な
対
応を
強い
る
こ
とに
なっ
た
の
で
あ
る。
さ
てV
中
世
初期地
中
海世
界と
そ
の
周
辺地
帯の
社
会
経
済・
的発
展の
統一
把
握
とい
う
本
題に
た
ち
も
どっ
て、
い
ま
まで
述べ
て
き
た
とこ
ろ
を
ま
とめ
て
み
る
と、
マ
ル
ク
シ
ズ
ム
歴
史
理
論に
お
け
る
封建制概
念は
、
ゲル
マ
ン
・
ス
ラ
グ・
ア
ラ
ブ
民
族な
ど、
氏
族社
会か
ら
出発し
て、
こ
の
時期の
さ
ま
ざ
ま
な
自然的
・
歴
史的
条件の
も
とで
国家
形成を
お
こ
ない
、
ま
た
そ
の
さ
い
い
わ
ゆ
る
世
界宗教の
い
ずれ
か
と
接
触しっ
つ、
階級社
会を
つ
く
り上
げ
て
い
っ
た
民
族の
歴
史を
理
解する
た
めに
こ
そ
本
来ふ
さ
わ
しい
概念だ
、
とい
うこ
とに
な
り、
こ
れ
に
反し
て、
まご
うか
た
な
き
階級社
会
で
あ
る
古
代ロ
ー
マ
社
会の
直接の
後産着た
る
ビ
ザ
ン
ツ
社
会に
適用し
ょ
うと
する
と
(
前
者を
典型
的な
奴
隷制社会
とすれ
ば、
(
民
族大
移
動)
を
蒙ら
なか
っ
た
後者で
は、
そ
こ
か
らの
メ
タモ
ル
フ
ォ
ー
シ
ス
が、
した
が
っ
て
封建制へ
の
内
的転
成が
辿れ
る
筈で
あ
る
に
も
拘ら
ず)
、
さ
ま
ざ
ま
な
困
難に
逢着し
て
し
ま
うこ
と
は、
(
8)
い
わ
ゆ
る
ビ
ザ
ン
ツ
封建制論争の
経過
が
示
すとお
り
で
あ
る。
お
そ
ら
くそ
の
困
難の
程
度は
、
秦漠帝
国い
ご
の
中国
史を
ど
う
把
える
か
とい
う課題の
場合と
、
相
通
ずる
も
の
が
あ
ろ
う
(
しか
し
なが
らこ
れ
は
同
時に
、
「
中
世
初期+
に
お
け
る
ビ
ザ
ン
ツ
史と
中国
史の
比
較とい
う、
新
しい一
課
題の
設
定へ
の
道を
拓く)
。
そ二
〕
で
つ
ぎに
、
封建制
概念は
、
上
記
の
諸
民
族の
歴史を
理
解する
上で
有効性を
自ら
に
主
張し
得る
か、
とい
う
問題
に
移ろ
う。
民族
的社
会か
ら
封建制へ
の
移行は
、
同
時に
支
配・
被支
配関係の
確立
、
つ
ま
り
国家
形成の
プ
ロ
セ
ス
で
も
ある
。
そ
こ
で
考察は
国家
論に
ふ
み
こ
まざ
る
を
得な
くな
る
が、
ソ
ビ
エ
ト・
ア
カ
デ、
、
、
-
版
『
世
界史』
の
概
念的ワ
ク
組み
ほ、
封
建制の
場合で
も、
生
産手
段の
所有関
係を
基軸に
し
て
い
る
た
め、
封建制の
成立
過
程で
の
重
要ない
ま一
つ
の
側面を
見
落す
結果と
なっ
て
い
る
よ
う
に
思
える
。
こ
の
点に
ズ
バ
リ
切
り
込
ん
で
い
る
の
が
竹内
芳郎
で
あっ
て、
か
れ
は、
生
産手
段
の
所有関
係を
基礎に
し
た
(
階
級
国
家
論)
と、
社
会の
公
的
機
能の
独
占か
ら
由来する
分
業関係
を
基
礎に
し
た
(
分
業国
家
論)
と
は、
「
た
とえ
実
体
的に
は
相
覆うこ
とが
多い
と
し
ヽ
ヽ
て
も、
本
来は
異次
元の
もの+
で
あ
る
と
明
快
に
の
べ
て
い
(
9)
る。
▲7
さ
て、
社会
関
係に
お
ける
分
業関
係が
個々
の
民
族で
具
体
お
一 橋論叢 第 七 十 六 巷 第 六 号 ( 6 )
的に
とる
形
態が
、
そ
れ
ぞ
れ
の
民
族が
お
か
れ
た
自然的
・
歴
史的条件に
応じ
て
さ
ま
ざ
ま
で
あ
る
こ
とは
言うま
で
も
ない
(
∽)
が、
本題との
関わ
りで
重
安な
、
軍
事的
な
契機に
導か
れ
た
封建化
(
侵入
、
移動
、
征
服な
どが
日
常化し
て
い
た
中
世
初
期の
地
中
海周
辺の
政治
事情を
想
え
!)
に
つ
い
て、
こ
の
分
業の
観点か
ら
最も
示
唆に
富ん
だ
説
明を
吾々
に
与
え
て
く
れ
る
の
が、
私の
知る
限り
ウェ
ー
バ
ー
で
ある
。
ウェ
ー
バ
ー
は
『
古
代社会
経
済史』
「
序説+
の
冒頭で
、
古
代の
ギ
リ
シ
ア・
ロ
.-
マ
お
よ
び
中世の
ゲル
マ
ン
民
族の
そ
れ
ぞ
れ
の
初期の
時
代を
比
較考察し
なが
ら、
つ
ぎ
の
よ
うに
述
べ
て
い
る。
川一
方で
農
業労働の
集約化
とそ
れ
へ
の
住民
大
衆の
専業化
、
他方
で
軍
事技術の
発展と
職業的
戦士
層の
分
化、
とい
う(
分
業)
が
(
農民
共
同
組織)
の
な
か
で
展開し
、
こ
れ
ら
戦士
層が
み
ずか
らの
生
活
維持を
目
的とし
て
防
衛力
を
も
た
ない
住
民
大
衆を
搾取
しょ
う
と
する
事情は
、
古
代の
場合に
も
中
世の
場合に
も
び
と
し
く
認
め
られ
、
こ
れ
を
(
封
建制度)
と
名
付
けて
一
向
差
支
え
ない
、
似た
だ
古
代
と
中世
と
で
は、
そ
れ
ぞ
れ
の
お
か
れ
た
地
理
的条
件の
違い
(
地
中
海
周
辺
か
内
陸ヨ
ー
ロ
ッ
パ
か)
に
応
じて
、
(
封建
制
度)
の
現
象形態が
異る
(
戦士
団の
恭
リ
ス
集住か
、
個々
の
戦士
相互
(
11)
間の
(
個人
主
義)
的レ
ー
エ
ン
関係か)
、
と。
基
本
的に
は
こ
れ
と
あ
ま
り
変ら
ない
事
情を
中
世
初期の
ス
(
1 2)
ラ
グ
民
族
(
た
とえ
ば
キエ
フ
・
ル
ス
国
家)
に
想
定
する
こ
と
は、
さ
ほ
ど
困
妊で
は
な
か
ろ
う。
問題は
、
イ
ス
ラ
ム
教
徒と
し
て
中世
初期の
地
中
海世
界に
登
場し
、
大
規模の
征
服を
お
こ
な
うア
ラ
ブ
民
族の
場合で
ある
。
分
業関
係お
よ
び
こ
れ
と
関
連し
なが
ら
進行する
所有関
係、
とい
う
上
記の
シ
ェ
ーマ
ほ、
少
な
く
とも
そ
の
ま
まの
か
た
ちで
ほ、
ア
ラ
ブ
民
族の
中
世
初
期の
歴
史に
は
通
用で
き
ない
よ
うに
み
える
か
らで
あ
る。
そ
こ
で
従
来何が
な
さ
れ
た
か
とい
え
ば、
西ヨ
ト
ロ
ッ
パ
封建
制の
類似制度を
イ
ス
ラ
ム
社
会の
なか
に
い
わば
文
脈ヌ
キ
で
さ
が
し
も
とめ
、
イ
ク
タ
一
別
に
そ
れ
を
見出
すこ
とが
で
き
る
と
考え
て、
こ
れ
を
軸に
精精イ
ス
ラム
封建制
史論を
展開
す
る
こ
とだ
っ
た
の
で
は
な
か
ろ
うか
。
しか
し
なが
らカ
ー
エ
ン
(
13)
が
明
らか
に
し
た
よ
うに
、
大
征
服
時代お
よ
び
そ
れ
に
つ
づ
く
ア
ラ
ブ
民
族初期の
歴
史に
お
い
て、
イ
ク
タ
ー
とは
、
後期ロ
ー
マ
・
ビ
ザ
ン
ツ
帝国で
す
で
に
普
及し
て
い
た
e
mpFyt
e
宏-
s
つ
ま
り、
開
発義務を
伴っ
た
土
地
所有の
形
態に
相当し
て
い
た。
そ
して
こ
の
よ
うな
内
容の
イ
ク
タ
ー
が
意味が
え
をし
、
非ア
ラ
ブ
人か
ら
成る
職業的戦士
層に
一
定
地
区か
らの
租税
∂3 ∂
( 7 ) 「 中世 初期+ 地 中海世 界の 社会 経済 的発展 の 踪合的 理 解 の た め に
収入
を、
従
来の
俸給の
代りに
、
指定
する
方
式とし
て
大
規
模に
活
用
さ
れ
始め
る
の
は、
十
世
紀の
は
じ
め
以
後の
ア
ブ
バ
ス
朝
時代
、
こ
と
に
ブ
ワ
イ
朝
軍事政
権の
と
き
で
あっ
た。
イ
タ
タ
ー
制の
歴史が
こ
の
よ
うだ
と
する
と、
イ
ク
タ
ー
が
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
の
フ
ィ
ー
フ
的意味を
未だ
も
ちあ
わせ
て
い
ない
ア
ラ
ブ
民
族初
期の
三
世
紀聞ほ
ど
は、
こ
の
イ
ス
ラ
ム
封建制史
論で
は
空自の
時
期と
して
と
りの
こ
さ
れ
て
し
ま
わ
ざ
る
を
得
ない
。
(
1 4)
し
か
し
な
が
らこ
うな
る
の
も、
ヒ
ン
ツェ
を
含め
て
こ
の
種
の
封建制史論が
あ
ま
りに
もヨ
ー
ロ
ッ
パ
的パ
タ
ー
ン
の
封建
制概念に
ふ
りま
わさ
れ
た
当然の
結果に
す
ぎ
ない
。
ア
ラ
ブ
民
族が
ウ
ン
マ
とい
う
同一
信仰共同
体
を
結成し
て
大征
服を
行っ
たこ
と、
また
こ
の
大
征
服が
行わ
れ
た
の
が、
地
中
海周
辺
とい
う
特殊の
自然的
歴
史
的環
境に
お
い
て
で
あっ
た
こ
と
(
後述)
、
こ
れ
ら
諸
点が
ア
ラ
ブ
民
族の
最初の
三
世
紀ほ
どの
社
会経
済的発展の
基
本
線を
把えよ
う
と
する
研究
者を
眩惑
さ
せ
て
い
る
に
す
ぎ
ない
。
生
産様式に
お
ける
所
有関
係、
つ
ま
り
(
階級
国家
論)
的視座が
、
共
同
体
的関
係を
色
濃く
残
した
ア
ラ
ブ
民
族の
こ
の
時期の
理
解に
必
ずし
も
成
功し
て
い
ない
よ
うに
見え
る
(
た
と
え
ばソ
ビ
エ
ト
科学ア
カ
デ、
、
、
-
版
『
世
界史』
の
該当
箇処)
の
に
反し
、
(
分
業
国
家
論)
の
そ
れ
は
は
る
か
に
有
効
で
あ
る。
た
だ
そ
れ
ほ、
つ
ぎの
よ
うな
理
解の
手
順を
経
て
の
話し
で
あ
る
が。
ア
ラ
ブ
民
族は
、
い
まの
べ
た
よ
うに
、
宗教
団体ウ
ン
マ
と
し
て
(
聖
戦)
を
遂
行する
過
程で
、
征
服先き
の
住民に
対
し、
同
時に
軍
事的支
配集団と
り
も
なお
さ
ず国
家
-ム
ス
リム
に
お
ける「
国
家+
概念の
欠
如に
も
拘ら
ず
-となっ
た
の
で
ある
。
そ
の
さ
い
に
か
れ
ら
は、
征
服
地
で
あ
る
旧ビ
ザ
ン
ツ
帝
国
と
旧サ
サ
ン
朝ベ
ル
シ
ア
帝
国との
諸
属
州の
、
国
家
行
政
機
構、
社
会
関係
、
経
済状態を
、
そ
こ
の
住民
と
もど
も
全
体
と
し
で
そ
の
ま
ま
う
けつ
ぎ、
機能さ
せ
つ
づ
けた
。
そ
して
、
こ
うし
て
吸い
上
げた
租税収入
に
か
れ
ら
は、
登
録先
き
の
ディ
(
1 5)
ワ
ー
ン
か
らの
貨幣に
よ
る
年金
(′
且抑
、
)
支
給を
通
じて
(
貨
幣
経
済の
広汎な
普
及
を
想
え
!)
与っ
た
の
で
あ
る。
こ
れ
をヽ
要する
に、
ゲル
マ
ン
民
族に
お
い
て
基
本
的に
は
氏
族
社
会
内
(
1 6)
で
進行し
た
兵
農分
離(
お
そ
ら
くこ
こ
に、
ブ
ル
ン
ナ
ー
の
い
う
「
ヨ
一
口
γ
パ
の
農民+
の
「
独
白の
性格+
の一
原
因が
あ
ろ
うか)
は、
ア
ラ
ブ
民
族で
は、
同
時に
ム
ス
リ
ム
たる
自分
た
ち
と、
征
服先きの
非ア
ラ
ブ・
ジ
ン
、、
、
との
問で
展開し
た
とい
うこ
とが
で
き
よ
う。
∂3 9
一 橋論叢 第 七 十 六 巻 第六 号 ( 8 )
以
上、
封建制概
念の
吟
味は
、
い
さ
さ
か
なが
き
に
わ
たっ
て
し
まっ
た
が、
こ
れ
ま
で
述べ
て
来た
とこ
ろか
ら
も
明ら
か
なよ
うに
、
封建制
は
人
類の
歴
史が
必
ず通
過し
な
け
れ
ば
な
ら
ない
発展
段階と
し、
■そ
れ
を
個々
の
民
族に
つ
い
て
検証
し
ょ
ぅ
と
する
こ
とな
ど、
さ
い
しょ
か
ら
私の
頭に
は
ない
。
封
建制に
限ら
ず、
総じ
て
私が
使
用
する
概念
一
般は
、
歴
史
的
現
実認
識の
た
め
の
ホ
イ
リ
ス
テ
ィ
ッ
シ
ュ
な
手
段に
す
ぎ
ない
。
こ
の
こ
と
をこ
と
わっ
た
上で
私
自身は
、
古
代末期
-中
世
初
期の
地
中
海世
界を
、
つ
ぎ
の
よ
うな
複線構造
と
して
提
示し
たい
。
す
な
わ
ち、
川
「
古
代+
(
そ
れ
は、
時代
的に
最
も
遡
る
時代とい
う
意味で
は
な
く、
むし
ろ
「
古
典古
代+
と
した
方が
ふ
さ
わ
し
く、
い
ずれ
に
せ
よ、
ソ
ビ
エ
ト・
ア
カ
デ、
、
、
-
版『
世
界史』
の
い
わ
ゆる
古
代文明の
五
大
中心
地
で
の
み
存
在し
た)
で
完成
さ
れ
た、
ロ
+
マ
とい
う「
世
界帝
国+
の
後
継国家の
系列
、
㈲こ
の
文
明の
中心
か
らの
影響の
も
とで
、
(
野蛮)
な
妖態か
らぬ
け
出て
、
最初の
国家
形
成
を
行い
、
そ
の
さ
い、
キ
リ
ス
ト
教に
せ
よ、
イ
ス
ラム
に
せ
よ、
ユ
ダ
ヤ
教と
な
ら
ん
で
地
中海世
界を
故郷
と
す
る
世
界宗
教とさ
い
し
ょ
の
ふ
れ
あ
い
を
もっ
た
ゲ
ル
マ
ン
・
ス
ラ
グ・
ア
ラ
ブ
民
族の
系列
、
が
そ
れ
で
あ
る。
こ
の
座
標軸が
もつ
ホ
イ
リ
ス
テ
ィ
ッ
シ
ュ
な
効用は
、
た
と
細】
八
J
え
ば、
こ
うし
て
同一
系列上
に
な
らべ
られ
た
(
つ
ま
り
比
較
可
能上
なっ
た)
ゲル
マ
ン
・
ス
ラ
グ・
ア
ラ
ブ
民
族そ
れ
ぞ
れ
の
発
展相
互
間の
特
質を
明
ら
か
に
する
企て
に
道を
拓く
点に
あ
ろ
う。
ま
た、
こ
れ
と
同
様の
座標軸は
、
い
ま一
つ
の
古
代
文
明の
中心
地
で
あ
る
中
国の
秦漠帝
国と
そ
の
周
辺
地
域の
続
く
歴史に
も
設
定
す
る
こ
とが
で
き
る
で
あ
ろ
う。
す
な
わ
ちこ
こ
で
も、
北
方
か
らの
民
族移
動を
経て
隋唐
帝
国に
帰着する
、
「
古
代+
の
世
界帝
国の
後継
国
家の
系列
と、
そ
の
周
辺に
あ
っ
て、
こ
の
文
明の
中心
と
政
治
的交渉を
介し
なが
ら、
そ
の
制度文
物を
摂取
する
と
と
もに
、
こ
こ
で
完成さ
れ
た
儒教を
ほ
じ
め
と
する
中
国思
想、
こ
こ
を
経由し
た
印
度の
仏教
と
ふ
れ
あい
な
が
ら、
国
家
形成
を
行う
朝
鮮
半島お
よ
び
日
本
列島
の
諸
民
族の
系列
、
とが
見
出さ
れ
よ
う。
そ
して
、
た
と
えば
、
地
中海世
界
と
そ
の
周
辺
地
帯で
国
家形
成
を
み
た
諸
民
族
との
比
較を
通
じ
て、
世
界史的に
み
た
日
本に
お
ける
天
皇制成立
の
特
質解
明に
近づ
く
道も
び
らけ
よ
うし
(
座標軸を
欠い
た
ヨ
ー
ロ
γ
パ
と日
本
との
此
較の
ご
と
き、
所詮
、
思い
つ
き
の
域を
出
ない
で
あ
ろ
う)
、
さ
らに
は
ま
た、
世
界
帝
国
理
念、
官僚制
、
官官
、
中
央政
府と
地
方
行
政
機
構との
、
文
官と武
( 9 ) 「 中世 初期+ 地 中海世 界の 社会経済 的発展 の 綜合 的理 解 の た め に
官との
対
立
と
調
整、
土
地
所有農民
を
め
ぐる
皇帝と
地
方
豪
族との
抗争など
、
さ
ま
ざ
まの
類似点
を
もっ
て
い
る
東口
ー
マ
・
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国と
隋唐帝
国
とを
比
較す
る
こ
とに
ょ
っ
て、
そ
れ
ぞ
れ
の
他に
対
する
特
質を
把
握
する
こ
とも
出来る
よ
う
に
な
る
で
あ
ろ
う。
以
上の
構想は
、
ヒ
ン
ツェ
『
封建制の
本
質と
拡大』
の
概
念的ワ
ク
絶と
ふ
れ
あ
う
点が
少な
くない
の
で、
こ
の
点
に
つ
い
て
以
下
で
簡単に
、
明
確化し
て
お
く必
要が
あ
ろ
う。
ま
ず第
一
に
指摘し
て
お
か
な
けれ
ば
な
らない
の
は、
そ
れ
ぞれ
の
ネ
ラ
イ
の
そ
も
そ
もの
ちが
い
で
ある。
私の
場合ほ
、
あ
く
まで
も
古代
末期
、
中
世
初
期の
地
中
海世
界の
全
体
的把
握が
窮極の
認識目
標で
あ
り、
そ
れ
に
資する
限
りで
の、
た
と
え
ば
ゲル
マ
ン
民
族とア
ラ
ブ
民
族
と
で
の
「
封建制+
展開
の
リ
ズ
ム
の
異同で
あ
る。
封建
制の
比
較研
究が
主
眼で
あ
る
ヒ
ン
ツェ
に
は、
か
か
る
(
場)
そ
の
もの
の
個性化
的認
識が
目標で
は
ない
。
た
し
か
に
か
れ
は
フ
ラ
ン
ク
王
国に
お
ける
封
建制の
成
立に
さ
い
し、
「
ロ
ー
マ
帝
国の
文
化・
文
明
と
の
接
触+
の
契機に
重
要な
意義を
附す
。
し
か
し
なが
ら、
か
れ
は
こ
れ
を
素
材と
し
て、
「
封建制は
一
国の
内
在的な
発
展の
産
物で
ほ
な
く、
諸
大文化
圏に
お
い
て
の
み
出現
する
よ
う
な、
一
つ
の
世
界史的な
出会い
の
そ
れ
で
あ
る+
と
か、
「
全
き
意
味に
お
け
る
封
建制ほ
、
部族か
ら
国家へ
の
ノ
ー
マ
ル
な
直
線
的発展が
世
界史的
な
出会い
に
ょっ
て
方
向を
転ぜ
ら
れ、
性
急な
領土
拡大
主
義(
H
mpe
ユ巴訂
ヨ亡∽
)
が
将来さ
れ
る
と
こ
ろ
に
の
み、
原
則とし
て
あ
ら
わ
れ
る+
と
か
い
っ
た、
封
建制
の一
般命題を
樹立
し、
こ
れ
に
該
当
する
歴史現
象を
あ
げる
(
1 7)
丈に
お
わ
っ
て
い
る。
とこ
ろ
が、
そ
もそ
も理
想
型
概念の
効
用と
は、
さ
き
に
も
の
べ
た
よ
うに
、
特定の
歴
史現
象の
同一
性を
確認
する
た
め
の
手
段に
つ
き
る
の
で
は
な
く、
むし
ろこ
れ
を
出発点
とし
て、
か
か
る
現
象の
そ
れ
ぞ
れ
が
他に
対し
て
持っ
て
い
る
特
性把
握を
研
究
者に
促す
た
めの
発条で
あ
っ
た
筈だ
。
「
比
較史+
と
銘うっ
た
研
究
書は
畢葺こ
の
域を
出な
い、
とい
え
ば
そ
れ
まで
だ
が、
封建制の
比
較史とし
て
出来
が
よ
い、
とい
わ
れ
る
ヒ
ン
ツェ
の
作品
も、
こ
う
して
、
比
較
史が
陥
り
易い
轍に
は
ま
り
込ん
で
し
まっ
た。
(
1)
ソ
ビ
エ
ト
科
学ア
カ
デ、
、
、
-
版
『
世
界
史』
中
世
-、
㍍-
-
IN
-
P
(
2)
ゲ・
ア・
メ
リ
キ
シ
ピ
ソ
「
最
古の
階
殻諸
社
会の
性
格の
問
題に
よ
せ
て+
渡辺
金一
・
稔木
栄三
訳
『
オ
リ
エ
ン
ト』
㍍.
空中
(
-
讃J、
怠-
00
○
お
よ
び、
福富正
実
編
訳
『
ア
ジ
ア
的
生
産様
式論争の
復活』
(-
苫β
N
苫1ピ山
●
∂4 J
一 橋論叢 第七 十六 巷 第六 号 ( 1 0 )
(
3)
《
勺
芸乱造
C
㍍舛バー
:
(-
宗N
、
丘.
(
4)
た
と
え
ば、
「
類型
論と
発
展段
階
諭の
統
ご
を
目
指し
た
有馬文
雄
「
人
類史=
世
界史の
再
構成
-前近
代
的
諸
社
会
を
中
心
に
-+
『
大
同工
業
大
学
紀要』
舛
(
-
笥占
ローい
N
の
「
多
系
的
発展
段階
論+
や、
竹
内
芳
郎
『
国
家と
文
明
-歴史の
全
体
化
理
論序
説
1』
(-
¢
諾)
の、
生
産様式概
念の
顆型
概
念
と
し
て
の
理
解
方
法の
ご
と
き
(
-
山
N
--
山
い
)
。
(
5)
竹内
、
前掲書
ミ.
(
6)
弓
削達
「(
奴
隷所
有
者的
構
成)
の
衰退
を
め
ぐ
る
理
論
的
諸
問
題
-最近の
研
究動向に
つ
い
て.
の
一
管
見
か
ら
-+
『
西
洋
史研
究』
新
輯-
く
(-
当山
)
聖T
--
-
P
(
7)
こ
と
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
に
関
し
て
い
う
な
ら
ば、
た
しか
に
封建
制とい
う
階級
社
会は
、
自らの
胎内
か
ら
資本
主
義とい
う
別の
階
級
社
会
を
生み
出し
た。
だ
が
そ
れ
ほ
果
して
、
パ
ラ
ン
の
い
う
生
産力と
生
産関
係の
視
点
か
ら
説
明で
きる
で
あ
ろ
うか
。
私
自
身の
見と
お
し
を
述べ
る
な
ら
ば、
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
の
「
中世+
と
「
近
代+
と
ほ、
ワ
ン
・
セ
ッ
ト
の
c
O
nt
F
喜m
と
し
て
把
握
す
べ
き
で
は
ない
か、
とい
う
点に
あ
る。
農民
と
手工
業市
民
と
が
都市
の
市場を
介して
互い
に
売手
・
買手の
二
重
性
を
お
ぴ
て
向
き
あ
う
(
こ
れ
を
等
価交
換法
則の
貫徹と
よ
ぷ
な
ら
ば、
い
わ
ゆ
る
「
局
地
市
場圏+
の
成立)
とい
う、
別に
変
哲も
ない
こ
の
関
係。
それ
が
ど
うし
て
「
古
代+
で
は
出
来上
ら
なか
っ
た
の
か。
こ
れ
に
反し
て、
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
封建社
会の
お
か
れ
た
特
殊な
計
ヽ
ヽ
然的
・
歴史的
諸条
件の
なか
で、
そ
して
そ
の
な
か
で
の
み、
い
か
に
そ
れ
が
可
能
と
なっ
た
か。
それ
こ
そ、
マ
ッ
ク
ス
ー
ウエ
ー
バ
ー
『
古代
社
会
経済
史
-古
代
農
業
事
情-』
渡辺
金
丁弓
削
達訳
(
-
設β
が
古
代・
申
せ
都
市
比
較論
(
会○
-怠○
)
を
通
じ
て
展開し
た
主
題で
あ
る。
(
8)
渡辺
金一
「
ビ
ザン
ツ
封建制の
諸
問
題-論争の
展望
1+
『
ビ
ザン
ツ
社
会
経
済
史
研
究』
(
-
漂∞
)
い
-誓
お
よ
び、
ピ
グ
レ
フ
ス
カ
ヤ
他
『
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国
の
都
市
と
島
村』
渡
辺
金一
訳
(
-
漂00
)
已・
卜へ
忘&p
訂
§内
払
如
実音b
ミ
勺言監~
言古h
丸
ま
芸Q
礼恥
礼Q
甘Q
軋
g託Q
途
札Q
ごミ
尽叫
言
ぎ≧邑叫
声
《
河e
c
Fe
言Fe
∽
i
已e
T
ロ
邑○
ロ
巴e∽
㌢
-
P
-
∈
m
誉2
d
仁
ヨ
賀已∽
me
》.
弓
3(
-
笥占
な
お
こ
の
最後の
書
物に
収
録さ
れ
た
論文の
大
半
ほ、
第
十二
回
国
際ビ
ザン
ツ
学会
議
(
-
宗こ
で
ソ
ビ
エ
ト・
ビ
ザン
チ
ェ
ス
ト
た
ちが
お
こ
なっ
た
共同
報
告の
フ
ラ
ン
ス
語
版で
ある
が、
すで
に
それ
に
先立
ち
前掲
訳
書で
日
本
語
訳
済
み。
紆
余
曲
折を
経て
い
ま
到
達し
たこ
の
地
点
に
立っ
て、
私の
上
掲
論文
集
発
刊に
さ
い
し
寄せ
ら
れ
た、
封建制の
概
念規
定が
曖
昧だ
と
い
う
批判
、
さ
らに
は、
ウ
ダル
ツ
ォ
プア
の、
「
渡辺
はビ
ザン
ツ
封
建
制の
問題に
つ
い
て
の
専門
家た
ちの
論争を
く
わ
し
く
分
析し
、
そ
の
こ
とに
よっ
て、
か
れ
自
身、
ビ
ザン
ツ
に
お
け
る
封
建的
諸
関
係
の
存
在その
もの
を
認
め
て
い
る。
云
々
+
(
卜屯
息Q
札
已計芸
包
む
bヾ内包
喜P
毛)
とい
う
指摘
、
に
答え
る
た
め
に
も、
本
稿に
つ
づ
い
て、
私
自
身の
ビ
ザン
ツ
像を
提
示
し
な
け
れ
ば
な
ら
ない
。
(
9)
竹
内、
前掲
書、
「
第
二
革
国
家の
問題+
-
山
¢
-N
芦
竹
内
の
提案する
国家
論の
第
三の
柱と
して
の
(
幻
憩
国
家論)
に
該
∂4 2
( 1 1 ) 「 中世 初期+・ 地 中海世 界の 社 会経済 的発展 の 綜合 的理 解 の た め に
当
する
テ
ー
マ
の
一
つ
が、
中世
初期の
地
中
海世
界に
つ
い
て
い
え
ばお
そ
ら
く、
一
方
で、
「
政
治的オ
ル
ト
ド
ク
シ
ー+
の
問題を
か
か
えこ
んで
い
たピ
ザン
ツ
帝
国で
あ
り
(
渡辺
金一
「
ビ
ザン
ツ
理
解へ
の
道
-H.
・
G.
宮c
打
の
二
点の
近
業
-+
『
南欧
文
化』
3
(
-
笥8
)
、
他
方
で、
キ
リ
ス
ト
教な
い
し
イス
ラ
ム
とい
う世
界宗教と
ふ
れ
あ
うこ
とに
よっ
て
ゲル
マ
ン
・
ス
ラ
グ・
ア
ラ
ブ
国家が
か
か
えこ
む
に
い
たっ
た、
政
治い
宗教の
問題で
あっ
た、
とい
えよ
うか
。
(
1 0)
た
と
え
ばメ
リ
キ
シ
ビ
リ、
前
掲
論文
、
渡辺
・
松木訳
巴-
福富
訳い
○
叫
に
よ
れ
ば、
東洋の
大
潅
漑社
会の
よ
うに
、
共
同
体
的性
樟を
保
ち
続けて
い
る
所
有・
経
済
運営形
態と
専制
国
家
機
構と
が
結合し
た
形態
、
古
代
ギ
ヮ
シ
ア
・
ロ
ー
マ
や
中
世ゲ
ル
マ
ン
民
族の
場合の
よ
うに
、
戦闘上
の
要請か
ら
生
み
出さ
れ
た
(
軍事寄生)
国
家や
人野蛮)
国
家、
舌
代エ
ジ
プ
ト
の
よ
うに
、
一
社
会の
経済活
動を
指導する
機
能が
神
殿の
手に
集中
さ
れ
た
神政
社
会、
フ
:-
キ
ア
人の
よ
うに
、
国
際中
雁
貿易
が
発達を
み
た
とこ
ろ
で
の
商
業・
高利貸
貴族
主
導
型
の
社
会、
の
ご
と
き。
(
1 1)
ウェ
ー
バ
ー、
前掲香山
-u
・
(
1 2)
た
と
え
ば、
松
木栄三
「
ロ
シ
ア
封
建制
成立
の
前提に
つ
い
て+
『
歴史学
研
究』
CCC「-
H
(-
苫¢
-h
)
誌1コr
(
1 3)
C-
.
C
旨e
ロ.
卜.
計6
g訂達
乳
:、
貴弘
一
礼
ま
ト
㌔
§
き1
~
一句
h恥
覧P
CQ
邑3.ひ邑旨達
恥
葺恥
已h
替音内
岩§竹
篭計
恕h
h
Q
3.監h
§
監鼓す
已訣
《
Aロ
n
巴e
豊
Ec
。
n・
・
SO
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ぎくー
I
H
(-
¢
訟)
N
h
-
諾
お
よ
ぴ、
芦-
ゝま
ゎ
芸已
礼血
こ白
帆
吉計丸
賢苗
…恵
虫か
ご、
怠
邑叫
Q
莞
篭~
、
害哉恥
丸
ま
さ岩≠
札
ご
もQ
札
邑琶∵
《
甘弓
邑○{
EP
昌一
∽OC.
]
悪賢.
〇{
t
Fe
Oユe
ロt
》
H
I
-
(-
漂○)
-
-N
〇・
(
1 4)
0・
ヒ
ン
ツ
ェ
『
封
建
制
の
本
質
と
拡
大』
阿
部
謹
也
訳
(
-
課か
)
(
1 5)
C-
一
C
旨e
ロ
㌧A
軍.
《
ヨ恥
印篭〕
邑阜
邑訂
卑小
監
守苫
》
冨弓
e
di
t
訂2
i
\
N
N
り
ーご〇・
(
1 6)
オ
ッ
ト
エブ
ル
ン
ナ
ー
『
ヨ
一
口
ヲ
パ
ーその
歴史と
精
神』
石
井他
訳
(-
笥占
い
○
か
-い
N叫
・
(
1 7)
ヒ
ン
ツェ
、
前
掲
書、
ぷ訟・
な
お
そ
の
他、
ヒ
ン
ツ
ェ
批
判を
試
み
れ
ば、
「
歴史に
お
い
て
し
ば
し
ば一
種の
規
則
性
を
も
っ
て
く
りか
えさ
れ
る
社
会
学的
現
象と
も
呼
ば
れ
る+
「
部
族
制
度か
ら
国
家制
度へ
の
ノ
ー
マ
ル
な
発
展+
(
窒)
な
る
もの
を
私
自
ヽ
ヽ
ヽ
身ほ
知ら
ない
。
む
し
ろ、
歴史学で
対
象と
する
よ
うな
国
家
形
成
は、
必
ずと
い
っ
て
よ
い
ほ
ど、
先
進
文
明と
の
出会い
に
よっ
て
こ
の
「
自
然的
・
規則的
な
進行
過
程+
が
プ
レ
る
と
きに
お
こ
る
の
で
は
ない
か。
ま
た、
か
れ
は、
「
実物
経済
が
支
配
的
で
あ
り、
道路
・
交通
手
段が
不
十
分で
、
常備
軍、
官僚制
、
貨幣
貢
納体
系の
よ
うな
合理
的、
ア
ン
シ
ュ
タ
ル
ト
的
組織が
欠如
し
て
い
る+
条件
(
窒)
を
重
視
し、
「
ア
ラ
ブ
帝
国の
よ
う
に、
封建
制が
貨
幣
経
済的
諸
事情の
な
か
か
ら
発
展した
と
こ
ろに
お
い
て
も、
まさ
に
古
代
貨幣
経
済の
崩
壊、
実物
経
済へ
の
後退こ
そ、
その
成
立に
か
か
わ
る
決定
的
事実+
(
長と
し
て
い
る
が、
革
3
事的
イ
タ
タ
一
利の
よ
う
な
「
軍
事体
制が
メ
ソ
ポ
タ
ミ
ア
に
出
現
朗
一 橋論叢 第 七 十六 巷 第 六 号 ( 1 2 )
した
十世
紀は
、
こ
の
地
方に
とっ
て、
商業発展の
絶頂期で
あ
り、
大
商人
財産が
形
成
さ
れ、
高度
な
貨
幣
流
通
が
あっ
た
時
代+
で
あっ
て、
ヒ
ン
ツェ
の
事
実認
識の
あや
ま
りで
あ
る
の
み
な
ら
ず、
「
封建
粗
放と
実
物
経
済
との
結
合
とい
う
単
純
な
考
え
は
要再検
討、
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
その
も
の
に
つ
い
て,もこ
の
点、
要
再考+
(
C-
・
CP
F
昌-
卜、
計石
g叫
冨礼
:、
貴弘
:〇
.
c
:良
二.
+
ざ・
札
已一
恵:
-
N)
とい
うこ
と
に
なる。
〓
概念整理
の
他の
一
環とし
て、
こ
とに
、
中世
初
期の
地
中
海世
界とそ
の
周
辺
地
帯の
社
会経済
的発展の
綜
合的
理
解、
の
ご
と
き
テ
ー
マ
を
扱う
際に
重
安とな
る、
ま
た
そ
の
限
りに
お
ける
、
歴
史に
お
ける
地
理
的
自然の
問題に
もふ
れ
な
けれ
ば
な
ら
ない
。
い
わ
ゆる
地
理
決
定論や
、
そ
の一
亜
種と
もい
ぅぺ
き
ゲオ
ポ
リ
テ
ィ
ー
ク
が
誤
り
だ
か
ら
とい
っ
て、
だ
か
ら
歴
史に
お
ける
地理
的
要因を
軽視
して
よ
い、
とい
うこ
とに
は
な
ら
ない
で
あ
ろ
う。
こ
の
点、
「
歴
史と地
理
と
の
.ディ
ア
レ
ク
テ
ィ
ー
ク+
を
提唱
した
フ
ラ
ン
ス
の
い
わ
ゆ
る
「
ア
ナ
ー
ル
学派+
の
巨匠フ
エ
ル
ナ
ン
・
ブ
ロ
ー
デル
に
は
傾
聴
すべ
き
もの
が
あ
る。
か
れ
は、
十
六
世
紀の
地
中
海世
界を
主
題と
し
た
浩翰な
名
(
1)
著の
第一
版の
序
文に
お
い
て、
地
理
的時間
、
社
会
的時間
、
必】
hJ
個人
的時
間、
の
三
次元
的歴史
構造
把
握
を
提案し
、
こ
れ
に
した
が
っ
て
三
部に
分かっ
て
本
文の
叙述を
す
す
めて
い
る。
こ
うし
て、
第一
部が
扱
うの
は、
「
い
わ
ば
動か
ない
歴
史、
環
境
と
の
関
係に
お
け
る
人
間の
歴
史+
、
「
緩慢に
流れ
つ
つ
形を
変え
て
ゆ
く
歴史
、
し
ば
しば
執拗な
逆流と
、
絶え
ず再
開
する
還
流
とか
ら
成っ
て
い
る
歴
史+
、
第二
部が
扱うの
ほ、
「
こ
の
動か
ない
歴史の
上
に
緩慢
に
律動する
歴
史+
、
し
か
し
なが
ら、
第三
部の
対
象た
る
政
治
的事件に
底流として
働い
て
い
る
詔
力の
歴
史、
つ
ま
り
「
さ
まざ
ま
な
人
間集団
と
集
団化の
歴
史+
、
具体
的に
ほ、
「
さ
ま
ざ
ま
な
経
済と国
家
と
社
会と
文
明の
歴
史+
、
第三
部が
扱うの
は、
「
潮
汐が
そ
の
力づ
よ
い
運
動で
水
面
に
お
こ
す
とこ
ろの
浪
立
ち+
、
と
もい
うべ
き、
「
短い
、
急速
一
な、
神経
質な
、
テ
ン
ポ
の
歴史+
、
とい
うこ
と
に
な
る。
こ
れ
を
要する
に、
「
恒
常+
(
勺e
r
ヨ
冒e
nC
e)
の
歴
史、
「
構
造+
(
st
r
宍t
亡
且の
歴
史、
「
事件+
(
賢㌢e
me
nt
)
の
歴
史、
の
三
次
元
的歴
史構造
把握と
する
こ
とが
で
きよ
う。
ブ
ロ
ー
デル
は、
歴
史
書に
附さ
れ
る
の
を
常と
する
、
あ
ら
( 1 3 )・ 「 中世 初期+ 地 中海世 界 の 社 会 経 済的 発展 の 綜合的 理 解 の た め に
ずもが
な
の
地
理
学的
序論
以
上の
、
い
わ
ば、
十
六
世
紀に
遡
及さ
れ
た
地
中海地
理
学に
、
そ
の
著書の
第一
部全
体
を
さ
く
の
で
あ
る
が、
同
じ
地
中
海の
中
世
初期に
つ
い
て
も、
同
様の
企て
ほ
可能で
あ
ろ
う
か。
こ
こ
で
も
私は
、
すで
に
の
べ
た
中世
初期地
中
海世
界の
複
線構造か
ら
考察を
は
じ
める
の
が
適切
だ
と
考え
る。
すな
わ
ち、
古代ロ
ー
マ
帝
国の
直接の
、
連続的な
、
後継国
家
とし
て、
同一
の
地
理
的
環境をそ
の
ま
まび
き
つ
い
だ
後
期ロ
ー
マ
・
ビ
ザ
ン
ツ
帝国の
場合と
、
ま
さ
に
こ
の
時期に
、
移動の
結果
として
地
中
海と
そ
の
周
儲地
帯とい
う
新しい
地
理
的
環
境に
入
りそ
の
なか
で、
国
家
形成
過
程が
進行す
る
ゲル
マ
ン
民
族、
ス
ラ
グ
民
族、
ア
ラ
ブ
民
族以下
の
場合と
は、
区
別し
て
考察すべ
きだ
ろ
う
と
考え
る。
黒海の
水
がエ
ー
ゲ
海に
流れ
入
る
ボ
ス
ポ
ー
ス
海峡の
ほ
と
り、
バ
ル
カ
ン
を
小ア
ジ
ア
とつ
な
ぐ
陸
橋上の
一
角に
新首都
コ
ン
ス
タ
ン
テ
ィ
ノ
ー
プ
ル
を
設
置する
こ
と
に
よ
っ
て、
新た
な
地
理
的可
能性をひ
き
出し
、
そ
れ
を
現
実
化
した
後期ロ
ー
マ
・
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国の
存在自体が
、
歴史地
理
学的
関心
をひ
きつ
ける
現
象で
あ
る
こ
とほ
、
い
うま
で
も
ない
。
事実
、
い
ま
か
らほ
ぼ
四
十
年ほ
ど
前に
、
すで
に
フ
ィ
リ
ッ
プ
ソ
ン
が
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国を
地
理
学的
考察の
対
象に
し
た。
ブ
ロ
ー
デル
が
フ
ラ
ン
ス
の
ブ
ラ
ー
シ
ュ
の
人
文地
理
学の
伝
統を
担うの
に
対
し、
フ
ィ
リ
ァ
プ
ソ
ン
は、
政
治地
理
学、
つ
ま
り、
個々
の
国家の
地
理
学的研
究を
創始し
た
ド
イ
ツ
の
ラ
ッ
ツェ
ル
の
伝
統に
属して
い
る。
か
れ
は、
政
治地
理
学の
課
題を
規定し
て、
歴
史的
諸
国
家の
「
空
間
的特
質+
解明
、
つ
ま
り、
「
国
家
領域の
所在
、
外
延、
形
姿、
構
成、
国
境、
さ
らに
は、
そ
の
自然
的・
経済的
・
民
族
的
所与
を、
時間的
変
化の
粕に
お
い
て
観察する
こ
と+
とし
、
あ
わ
せ
て、
対
象と
する
個々
の
国
家の
国
家
思
想、
担い
手た
る
民
族、
政
治を
方
向づ
け
る
支
配
者そ
の
他
の
権
力、
政
治
的・
文
化
的・
社
会
的・
経
済的諾
力、
な
ら
び
に
こ
れ
ら
諸関
連の
時間的発展
、
さ
らに
は、
隣接諸
国家
、
諸
民
族との
関
係、
な
ど
を
も
顧慮
すべ
き
だ
と
し
た。
そ
して
、
可
能性と
し
て
の
こ
の
種の
空
間
的諸
条件お
よ
び
歴史に
お
ける
そ
の
実現の
有無と
態様と
を
(
2)
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国に
つ
い
て
追
究し
た
の
で
あ
る。
も
ち
ろ
ん
フ
ィ
リ
プ
ソ
ン
の
こ
の
研
究が
、
当
然の
こ
となが
ら、
全
体
とし
て、
か
か
る
地
理
学的観点か
ら
する
ビ
ザ
ン
ツ
史の
諸
問題の
所在
の
指
摘に
お
わっ
た
の
は
当
然で
あ
る。
そ
し
て
最近よ
うや
く、
タ
ラ
ソ
ク
ラ
テ
ィー
た
と
えば
、
ビ
ザ
ン
ツ
帝国に
お
ける
海上
支
配の
実態と
意味
細
一
橋論叢 第 七 十 六 巻 琴六 号 ( 1 4 )
と
射程距離に
つ
い
て、
あ
る
い
は、
ス
ラ
グ
民
族の
バ
ル
カ
ン
南下
、
ない
し、
ア
ラ
ブ
民
族つ
づ
い
て
トル
コ
民
族の
小
ア
ジ
ア
侵入
、
が
そ
れ
ぞ
れ
の
地
域で
び
きお
こ
し
た
と
こ
ろの
、
国
家行政
、
軍事制
度、
教
会
行政
、
民
族
構成
、
社
会
構造
、
居
住関係
、
経
済状
態、
言
語
事情
、
な
どの
諸
生
活
領域で
の
変
化を
確定し
解
明し
ょ
う
と
する
諸
研究
が
緒に
つ
き
は
じ
めた
とこ
ろで
あ
る。
以上
の
よ
うに
、
地
理
学的考察ほ
こ
ん
ご
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国の
歴史理
解に
本質的
な
寄与
を
も
た
ら
すこ
と
が
期待さ
れ
る
が、
他
方、
地
中海地
域
ない
しそ
の
周
辺・
隣接諸地
域
で
ゲル
マ
ン
・
ス
ラ
グ・
ア
ラ
ブ
な
どの
諸
民
族が
、
そ
の
歩み
の
なか
で
は
じ
めて
の
国家
形成を
お
こ
なっ
た
と
き、
そ
れ
ぞ
れ
の
場の
自然
的環境が
こ
の
過
程に
方
向づ
け
をお
こ
ない
、
そ
の
経
過
に
重
要な
刻印を
押し
た
で
あ
ろ
うこ
と
も
また
想
像する
に
難
く
ない
。
こ
こ
で
は、
ゲル
マ
ン
・
ア
ラ
ブ
の
両
民
族を
例に
と
っ
て
み
る
こ
とに
し
よ
う。
移動の
結果とし
て
ゲル
マ
ン
民
族が
定
住
する
に
い
たっ
た
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
が、
地理
的に
は
さ
ま
ざ
まの
地
域か
ら
成
り
立
っ
て
い
た
こ
とは
い
うま
で
も
ない
。
し
か
し
なが
ら、
よ
くい
われ
る
よ
うに
、
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
中世
史の
主
要舞台で
あ
る
ガ
リ
ア
を
中
心
とし
た
内陸
地
帯は
、
緯度
、
気候
、
植生
、
地
形、
胡】
L
J
河
川
など
、
数多くの
点
で、
南
に
隣
接し
た
地
中
海沿
海地
帯
とは
異っ
て
い
た。
そ
れ
らの
点に
つ
い
て
は
最近
少な
くない
(
3)
概説
書に
ゆ
だ
ね
る
こ
と
と
し、
い
ま
の
ぺ
た
中
世
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
の
中枢
部が
、
一
口
に
い
っ
て
森林地
帯で
あっ
た
こ
と
(
も
ちろ
ん、
自然の
、
ない
し、
ケ
ル
ト
時代
、
ロ
ー
マ
支
配時
代
に
拓か
れ
たい
くつ
もの
林間の
空地
を
含
み
つ
つ
で
は
あ
る
が)
を、
フ
ル
カ
ン
か
ら
借用し
て
デュ
ビ
イ
が
そ
の
近
著の
さ
い
しょ
に
掲げて
い
る
「
中世
初期
森
林
分
布
図+
が
吾々
に一
(
4)
日
瞭然に
示し
て
くれ
る。
こ
の
よ
うな
自然
と
そ
こ
で
お
こ
な
わ
れ
る
生
活
様
式が
い
か
な
る
もの
で
あっ
た
か。
紀元
後一
世
紀の
ゲ
ル
マ
ニ
ア
に
つ
い
て
ロ
ー
マ
の
歴
史
家タ
キ
ト
ゥ
ス
が
地
中
海サ
イ
ド
か
ら
(
し
た
が
っ
て
明
らか
に
地
中
海の
自然とそ
の
なか
で
い
と
な
まれ
る
生
活
様式と
対
照さ
せ
な
が
ら)
記録して
い
る
とこ
ろ
は、
民
族
移動後の
ガ
リ
ア
ま
で
を
含ん
だ
ゲル
マ
ン
民
族定
住地
域の
状態を
も
同
時に
、
吾々
に
類推さ
せ
て
くれ
よ
う。
タ
キ
ト
ク
ス
云
く、
「
土地
は
そ
の
姿に
幾分の
変化
は
あっ
て
も、
一
般
よ
り
す
れ
ば
森林に
蔽わ
れ
て
物凄い
か、
或は
沼地が
連なっ
て
荒涼た
る
もの
、
し
か
も
ガ
リ
ア
諸地
方に
面
する
方は
湿
潤
l
ノ
( 1 5 ) 「 中世 初 期+ 地 中海 世界 の 社 会 経済 的発 展 の 綜合 的 理 解 の た め に
が
強
く、
ノ
ー
リ
ク
ム
、
パ
ン
ノ
ニ
ア
を
望む
地
方
は
風が
は
げ
し
い。
土
地
は
農産に
は
豊
餞で
ある
が、
果樹を
生
ずる
に
堪
え
ず、
ま
た
家
畜は
豊
富で
は
あ
る
が、
そ
の
体ほ
お
お
むね
小
さ
い。
+
(
第一
部、
五)
「
ゲル
マ
ニ
ア
諸
族に
は一
つ
も
都市に
住む
もの
が
ない
こ
と、
ま
た
か
れ
ら
は
そ
の
住居
が
互に
密接
し
て
い
る
こ
とに
、
堪える
こ
とさ
え
で
き
ない
の
は、
.人の
知
る
とこ
ろ
で
あ
る。
か
れ
らは
、
泉が
、
野原
餅、
林が
、
そ
の
心
に
か
な
う
ま
まに
、
散り
散りに
分
れ
て
住居
を
営む
。
+
(
第
一
部、
十
六)
「
飲
料に
ほ
大
麦もし
くは
小
麦よ
り
醸造さ
れ、
幾分ブ
ド
ウ
酒に
似た
液が
あ
る
が、
ラ
イ
ン
・
ド
ナ
ウ
河
岸に
近い
もの
は、
ブ
ド
ウ
酒を
も
購っ
て
い
る。
食物は
簡素に
し
て、
野生の
果実
、
新しい
獣肉
、
あ
る
い
は
凝
乳。
か
れ
らは
特に
調
理に
念を入
れ
ず、
調味料も
な
しに
餓えをい
や
す。
し
か
し
か
れ
らは
渇き
に
対
し
て
は
こ
の
節制が
な
い。
も
し
そ
れ、
か
れ
らの
欲
する
だ
け
を
給する
こ
とに
ょ
っ
て、
そ
の
酒
癖をほ
しい
まま
に
せ
し
め
る
と
す
れ
ば、
か
れ
らは
武器に
よ
る
よ
り
もむ
し
ろ
容易
に、
そ
の
悪癖に
よ
っ
て
征
服せ
られ
る
(
5)
で
あ
ろ
う。
+
(
第一
部、
二
十三)
等々
。
タ
キ
ト
ク
ス
が
地
中
海の
自然
、
そ
こ
で
の
生
活
様式
とい
か
よ
うに
か
対
比さ
せ
なが
ら
描い
て
い
る
ア
ル
プ
ス
以
北
の
こ
の
よ
う
な
自
然
環
境は
、
七
とえ
ば、
開
墾や
人口
増加
など
の
要
因に
ょ
っ
て
そ
の
景観を
変え
て
ゆ
く
で
あ
ろ
う。
こ
外
よ
うな
生
活
様
式も
、
た
と
え
ば、
地
中
海地
域か
らの
製パ
ン
用小
麦
や
ブ
ド
ウ
の
栽培の
伝
播と
普
及
(
そ
れ
は
また
、
キ
リ
ス
ト
教
の
聖餐に
お
け
る
キ
リ
ス
ト
の
肉
と血
とし
て、
キ
リ
ス
ト
教普
(
6)
及
ときっ
て
も
き
れ
ない
もの
で
あっ
た)
に
よ
っ
て
そ
の
内
容
を
変え
て
ゆ
く
で
あ
ろ
う。
しか
し
なが
らこ
れ
らの
変化
は、
古
代
文明を
遺
産と
して
継
承
して
い
る
当
時の
地
中
海世
界か
ら、
た
ま
た
ま、
程よ
い、
恰好の
距
離に
お
か
れ
た
こ
の
内
陸
西ヨ
ー
ロ
ッ
パ
の
森外地
帯の
なか
で
(
そ
し
て
お
そ
ら
くこ
の
森林地
帯
の
お
か
げ
で、
ユ
ー
ラ
シ
ア
大
陸の
ス
テ
ア
プ
か
らの
騎馬
民族の
攻
撃か
ら
も、
ピ
レ
ネ
ー
山
脈を
越え
て
ガ
リ
ア
に
侵入
し
ょ
う
と
した
ア
ラ
ブ
民
族の
騎兵軍か
ら
も
比
較的
有効
に
掩護さ
れ
つ
つ)
ゆっ
く
りし
た
テ
ン
ポ
で
進行し
た。
こ
の
な
か
か
ら
中世
都
市や
、
また
、
部族国
家か
らシ
ャ
ル
ル
マ
ー
ニ
ュ
の
統一
帝
国を
経て
封建国
家、
身分
制国家
な
どの
さ
ま
ざ
まの
形態
を
経
なが
ら、
国家の
名に
催
す
る
さ
い
し上
の
国
家で
ある
近
代国
家が
成
立し
て
くる
過
程そ
の
もの
も
そ
う
で
あっ
た。
そ
し
て
な
に
よ
り
も、
古典古
代の
精神的
通産との
、
▲7
時間をか
けた
、
と
らわ
れ
ない
、
納
得の
ゆ
く
まで
の
独
特の
朗
一 橋論叢 第七 十 六 巷 第六 号 ( 16 )
対
話が
お
こ
な
わ
れ
た
の
は、
そ
し
て
ま
た
そ
れ
が
唯一
可能で
(
7)
あっ
たの
は、
ま
さ
に
こ
こ
で
あっ
た。
そ
れ
は、
古代文
化が
常時
現
存す
るビ
ザ
ン
ツ
帝
国や
、
ま
た、
後期ロ
ー
マ
帝
国の
最高水
準の
文
化
地
帯で
あ
る
東方
詔
属州
を
接収した
ム
ス
リ
ム
た
ちに
は、
さ
い
しょ
か
ら
閉さ
れ
て
い
た
可
能性で
あっ
た
とい
わ
なけ
れ
ば
な
ら
ない
。
大
雑把に
い
っ
て、
ゲル
マ
ン
民
族の
中
世
初期の
歴史の
中
心
部が
森林地
帯で
展開し
た
と
する
な
ら、
同
時代の
ア
ラ
ブ
民
族の
歴
史は
砂漠に
お
い
て
進行し
た。
そ
の
砂
漠は
旧
大
陸
を、
大
西
洋岸サ
ハ
ラ
か
ら
中国北
部の
ゴ
ビ
に
い
たる
そ
の
東
西の
全
外
延に
お
い
て
よ
ぎ
りつ
つ、
途切れ
な
く
続い
て
い
る
が、
イ
ラ
ン
高原を
分
岐点
と
して
二
分
さ
れ、
そ
こ
か
ら
西方
に
拡が
る
の
が
い
わ
ゆる
暑い
砂漠
、
北
方お
よ
び
東方に
伸び
る
の
が
い
わ
ゆ
る
寒い
砂漠
、
で
あ
る。
東方
か
らの
二
コ
ブ・
ラ
ク
ダ
の
キ
ャ
ラバ
ン
は、
ア
ナ
ト
リ
ア
と
イ
ラ
ン
で、
西
方の
一
コ
ブ・
ラ
ク
ダ
の
キ
ャ
ラバ
ン
と
落合
う。
本題で
問題とな
る
の
は
い
うまで
も
な
く
野方
の
暑い
砂
漠で
あ
る
が、
「
そ
れ
は、
テユ
ニ
ジ
ア
の
南か
らシ
リ
ア
の
南に
か
けて
は、
モ
ロ
に
地
中
海に
向っ
て
ひ
ら
け
て
い
る。
砂漠は
地
中
海に
とっ
て、
た
ん
な
る
隣
人
以上
に
賓客
、
しか
もし
ば
し
ば
厄介な
賓客で
あ
り、
つ
ね
に
要求の
多い
賓客
だ。
砂漠は
こ
の
よ
うに
地
中
胡-
へじ
海の
相
貌の
一
つ
で
あ
る。
+
こ
うブ
ロ
ー
デル
は
書い
て
い
る
(
8)
が、
地
中
海と
砂
漠(
こ
とに
サ
ハ
ラ
砂
漠)
との
こ
の
接触交
差関係を
一
目
瞭然た
らし
める
の
が、
地
球儀の
ア
フ
リ
カ
大
陸
とユ
ー
ラ
シ
ア
大
陸
西
端部とを
、
地
中
海を
中
心に
し、
し
か
も、
地
球儀の
南北
を
倒置して
提示し
た
同
じブ
ロ
ー
デル
(
9)
の
考案に
なる
一
葉の
地
図で
あ
る。
そ
こ
で
は、
サハ
ラ
砂
漠
は、
地
中海を
押し
潰さ
ん
ばか
りに
、
の
し
か
か
っ
て
い
る。
こ
の
地
理
的関
係こ
そ、
ム
ス
リ
ム
大
征
服の
展開を
理
解する
重
要な
鍵を
秘めて
い
る
よ
うに
思わ
れ
る。
+
ハ
世
紀を
通じ
て、
何
度か
の
休戦を
は
さ
み
つ
つ
次
第に
戦
闘に
激しさ
を
加え
、
つ
い
に
七
世紀は
じ
め
の
雌雄
を
決する
大
激突に
突入
し
た
当
時の
オ.
リエ
ン
ト
地
方の
二
大
強国
、
ビ
ザ
ン
ツ
帝
国
とペ
ル
シ
ア
帝
国
は
と
もに
、
自分た
ちの
問に
横
た
わ
る
ア
ラ
ビ
ア
半島の
ア
ラ
ブ
詔
部族を
自らの
勢力
圏に
収
め
よ
うと
努力
し
た。
ア
ラ
ビ
ア
半島を
め
ぐ
る
こ
の
国際政
治
情勢を
背
景とし
て
浮び
上っ
て
き
た
の
が、
地
中
海とイ
ン
ド
洋をつ
な
ぐ
紅
海の
、
国
際
交易
路
と
して
の
重
要性の
増大で
あっ
た。
そ
こ
か
らの
影響で
、
メ
ッ
カ
をは
じ
め
と
する
こ
の
紅
海ル
ー
ト
近
傍の
諸
地
点
で
は、
ア
ラ
ブ
民
族旧
来の
生活
秩
( 1 7 ) 「 中 世初期+ 地 中海世界 の 社会経済的 発展 の 綜合的 理 解 の た め に
序が
急
速に
崩れ
去り
つ
つ
あっ
た
と
思
われ
る。
や
が
て
ア
ラ
ブ
民
族の
一
部が
イ
ス
ラム
の
旗の
も
とに
団
結し
て
北
上し
た
とき
、
か
れ
らは
、
砂
漠と
地
中
海が
接触交差し
て
独
特の
地
理
的景観を
呈
示し
て
い
る
上
述の
地
帯の
なか
に
み
ちび
き
入
れ
られ
た
の
で
あ
る。
そ
こ
ほ
ま
た
歴史的に
も、
古代オ
リ
エ
ン
ト
文明の
発祥地
として
、
古来か
ら
都市が
栄え
、
そ
の
あ
る
もの
は
なお
現
存し
、
貨幣経
済が
広範に
普及し
た
地
帯で
あっ
た。
ア
ラ
ブ
民
族は
砂
漠の
導くが
まま
に、
オ
リ
エ
ン
ト
の
三
日
月
形の
地
帯を
席捲して
コ
ラ
サ
ン
に
むか
う一
方、
ア
フ
リ
カ
北
岸を
西に
む
かっ
て
進
撃し
た。
こ
うし
て
か
れ
ら
は、
中世
初期の
地
中海世
界に
自ら
を
完全に
イ
ン
テ
グ
レ
イ
ト
さ
せ
た
の
で
あ
る。
政
治
的
首
都、
ない
し、
軍
隊駐屯
地
とし
て
の
都市の
建設
者と
し
て、
ある
い
は、
放
牧を
行う
遊牧民
と
し
て、
あ
る
い
ほ、
キ
ャ
ラバ
ン
を
組織する
国
際
貿易商人
と
し
て、
等々
。
森の
住民と
し
て
の
ゲル
マ
ン
民
族
と対
比
し
て、
ア
ラ
ブ
民
族の
生
活
様式の
原
型が
、
砂漠の
遊牧民
、
な
か
で
もベ
ド
ウ
ィン
の
そ
れ
に
あっ
た
と
考え
て、
お
そ
ら
く間
違い
で
なか
ろ
ぅ。
寡聞に
して
タ
キ
ト
ク
ス
に
相当
し
たア
ラ
ブ
民
族に
つ
い
て
の
エ
ト
ノ
ダ
ラ
ー
フ
を
識らない
私は
、
民
族学の
成
果に
耳
(
∽)
を
傾け
な
けれ
ば
な
らな
い。
そ
れ
に
よ
れ
ば、
ア
ラ
ビ
ア
半島の
セ
ム
系遊
牧民の
なか
で
の
ベ
ド
ウ
ィ
ン
とい
う
武装
戦闘集団の
形
成は
、
一
コ
ブ・
ラ
ク
ダの
軍
事利
用を
契機とし
て
い
た
とい
う。
す
な
わ
ち、
一
コ
ブ
エフ
ク
ダ
を
飼うア
ラ
ブ
遊牧民
そ
の
もの
ほ、
お
そ
く
と
も
紀元
前一
千
年紀の
前半に
出現
し
た
が、
そ
の
う
ち
北
部に
属する
グ
ル
ー
プ
が
近隣の
高度文
化
地
帯
か
らさ
ま
ざま
な
軍
事
技術
と
な
らん
で、
一
コ
ブ・
ラ
ク
ダ
の
軍
事利用
方
法
を
学
ん
だ。
そ
れ
は、
馬の
腰
部に
戦士が
搭乗
する
戦闘
形
態を
一
コ
ブ・
ラ
ク
ダ
に
転用し
た
もの
で、
戦士
が
そ
の
腰部に
搭乗
して
矢で
追
跡
者を
射る
一
方、
コ
ブ
に
乗っ
た
い
ま一
人
の
者
が
駁者の
役割を
演
ずる
とい
う
方
法
で
あっ
た。
尤も
、
馬の
導入
に
よ
っ
て、
ラ
ク
ダ
の
腰部搭乗者の
役割
も
変り
、
か
れ
は
ラ
ク
ダ
を、
戦場に
ま
で
お
も
む
くた
めの
輸
送
用
家
畜とし
て
利用
する
だ
け
と
な
り、
一
た
ん
戦場に
到着する
と、
馬に
乗りか
え
て
戦闘に
加
わっ
た。
し
か
しな
が
ら
決定
的な
こ
と
は、
一
コ
ブ
・
ラ
ク
ダ
を
飼うア
ラ
ブ
遊牧民グ
ル
ー
プ
が、
こ
とに
イ
ラ
ン
(
パ
ル
ティ
ア)
か
らの
影
響の
も
と
に、
武装
戦
闘集団
、
つ
ま
り
完全
なべ
ド
ゥ
イン
に
転
化し
た
こ
とで
あっ
9
た。
か
れ
ら
は、
自分た
ちの
高貴な
出自と
、
自分た
ちの
す
朗
一
橋論叢 第 七 十 六 巻 第六 号 ( 1 8 )
ぐれ
て
戦士
的な
生
活
様式に
対
する
誇りの
観念や
、
そ
れ
に
基づ
い
た
特別の
団体
意識(
ア
サ
ピ
ー
ヤ)
を
発達さ
せ、
そ
の
優越者感情は
、
イ
ス
ラ
ム
も
そ
の
除
去に
手
を
焼く
始末で
あっ
た。
か
れ
らの
経済は
、
一
コ
ブ・
ラ
ク
ダ、
羊、
山
羊の
飼育か
ら
成
り、
ラ
ク
ダ
の
生
乳、
発酵乳
、
羊
と
山
羊との
乳製品が
っ
く
られ
た
ほ
か、
皮
革の
なめ
し
と
加エ
、
男毛
と
紡織な
ど
が
行わ
れ
た。
こ
れ
らの
製造
品は
さ
し
あ
た
り
自
家
消
費に
充
当さ
れ
た
が、
キ
ビ、
大麦お
よ
び
小
麦、
米、
乾燥魚
、
コ
ー
ヒ
・-
、
茶、
砂糖
、
ナ
ツ
メ
椰子
な
ど、
自らが
生
産し
ない
も
の
に
つ
い
て
は、
定
住農民
との
交換が
欠
き
え
ず、
そ
の
代償
とし
て
か
れ
らは
羊と
山羊
、
ま
た
そ
の
乳製品を
提供し
た。
こ
の
よ
うな
交換の
最大の
機会
は、
イ
ス
ラ
ム
の
祝祭日
に
都市で
開か
れ
る
市
場が
提供し
た。
都市住民は
そ
の
さ
い
商
人
層か
らダ
ラ
ー
ル
とい
う
自分た
ちの
代表
を
き
め、
遊牧民
側も
市
場ご
とに
一
人
ない
し
数人の
商人
を
ダ
ラ
ー
ル
に
指定
し、
こ
の
制
度を
通じ
て
相
互
に
物々
交
換を
行っ
た。
ダ
ラ
ー
ル
が
商人の
た
め
に
隊
商奉
仕の
斡旋の
衝に
も
当た
っ
たこ
と
は、
記
憶さ
るべ
き
で
あ
ろ
う。
ア
ラ
ブ
民
族
学は
以上の
よ
う
なこ
とを
教え
て
くれ
る。
ア
ラ
ブ
民
族の
こ
の
砂漠遊牧民
として
の
諸
特
質は
、
地
中
甜-
ヘリ
海周
辺
で
の
大
征
服の
過
樫で
全面
開花す
る
で
あ
ろ
う。
武装
戦
闘集団ベ
ド
ウ
ィ
ン
が
そ
の
有力
な
担い
手で
あっ
た
こ
との
ほ
か
に、
豊
沃な三
日
月
地
帯へ
の
ア
ラ
ブ
遊牧民の
進出は
、
当
時の
技術水
準で
は
農
業開
発に
なお
不
向き
な
土
地
に、
古
代で
ほ
未だ
フ
ル
に
活
用
さ
れ
て
い
なか
っ
た
牧畜に
よ
る
利用
の
道を
最大
限
に
ま
で
高める
一
方、
遊牧民
と定
住農民
との
問に
、
肥
料とし
て
の
家
畜の
糞ま
で
含め
た
清
澄な
物々
交換
(
1 1)
の
機
会を
与
えた
。
そ
し
て、
古
来か
ら
東方に
対
する
国
際貿
易の
主
要基地
が
い
くつ
も
所
在する
地
中
海東
部に
ま
で
ア
ラ
ブ
民
族が
進出し
、
し
か
もい
ま
ま
で
こ
の
地
方
を
政
治
的に
分l
剖して
い
たビ
ザ
ン
ツ・
ベ
ル
シ
ア
国
境線に
代っ
て、
統一
ア
ラ
ブ
支配が
出現し
た
現
在、
ア
ラ
ブ
遊牧民に
そ
なわ
っ
て
い
た
隊商貿易の
契機も
ま
た
余す
とこ
ろ
な
くひ
き
出さ
れ、
実
現を
み
る
こ
と
に
なっ
たの
で
あ
る。
以
上、
「
中世
初期+
地
中
海の
社
会経
済発
展を
綜
合
的に
理
解する
こ
と
は、
い
か
に
し
て
可
能とな
る
か
に
つ
い
て、
若
干の
考察を
重ね
て
き
た。
サ
サ
ン
朝ベ
ル
シ
ア
帝
国を
一
応
度
外
視すれ
ば、
後期ロ
ー
マ
帝
国の
遺
産ない
し
未
解決の
問題
1
か
ら
出発し
た
地
中
海とそ
の
周
辺
領域ほ
、
つ
づ
い
て
出現
す
( 1 9 ) 「 中世 初期+ 地 中海世 界 の 社 会経済的 発展の 結 合的理 解 の た め に
る
新た
な
情況の
下
で、
そ
れ
を
ど
の
よ
うに
展開ない
し
解決
し
て
い
っ
たか
、
あ
る
い
は
ま
た、
そ
れ
に
か
か
わっ
て
どの
よ
うな
新しい
課題を
背負い
こ
むこ
とに
なっ
たか
。
そ
の
結果
、
全体
とし
て
さ
まざ
まな
平
行
現
象、
合流現
象を
く
りひ
ろ
げ
る
こ
とに
なっ
た
か。
中世
初
期の
地
中海世
界の
社
会経
済
的
発展を
描き
出すた
め
に
は、
以
上の
予
備
操
作を
介し
て、
土
れ
か
ら
自らが
とるぺ
き
立
場を
明
らか
に
する
こ
とが
、
欠き
得なか
っ
た
の
で
あ
る。
(
一
九七
六・
八・
七)
(
1)
句・
田r
p亡
d2-
.
ト白
きq
記軋
訂
言白
畠計
監
訂
き
君達札恥
5
賢無訂
下
…逮
計蕃
恥
~、
母丘慧
計
勺巴訂
竹L
甘
ヽ
卜
勺ar
昇
勺1
e
邑町e
血
d.
-
や
怠.
S
雪U
O
n
仁e
瓜
d.
-
岨
示小.
-
小.
(
2)
A・
勺F
E勺
勺
冒ロ
.
b已
ぎ句白
恵託讃
訂
旨Q
知乳
旨
已叫
駕Q
内
岩・
竹
芝篭訂
内諾鼓軋遼記
念甲
Lei
de
ロ.
-
巴P
N-
N
JN-
干
(
3)
た
と
え
ば、
増田
四
郎
『
ヨ
ー
ロ
ッ
パ
と
ほ
何か』
(
岩
波
新
香)
-
宗㍗
第三
章「
地
理
的に
み
たヨ
一
口
ァ
バ
の
構造+
の
ご
と
き○
(
4)
G・
U已U
¥
れ
慧ヾ
ま等h
監
≠
卓h
串
莞.
ヨ「
七
-kヽ一缶
h
ト
訂訂.
勺言
邑電
設旨1
札Q
叫
式
岩達Q
邑Q
墨書k
芯
箋莞
.
《
出
萱Ot
g哩ロ
O
nb∽
H訂t
Oi
岩豊
勺
賀i
ア
ー
ミ山
.
(
5)
タ
キ
ト
ク
ス
『
ゲ
ル
マ
ー
ニ
ア』
田
中
秀
央・
泉井久
之
助
訳
(
岩波
文
庫)
山
N)
a-
∞
P
私
が
こ
こ
で、
タ
キ
ト
ク
ス
の
記
事の
ぅち
、
民
族
学
的に
興
味
あ
る
部
分
(
そ
も
そ
も
タ
キ
ト
ゥ
ス
の
こ
の
作
品
自体
、
地
中
海の
「
文
明
世
界+
の、
エ
ト
ノ
ス
(
異
民
族)
に
対
する
関
心
で
書か
れた
もの
)
を
ぬ
き
出し
たの
は、
ア
ラ
ブ
民
族の
い
わ
ゆ
るベ
ド
ウ
ィ
ン
的生
活
様
式
(
後述)
と
対
比
す
る
ネ
ラ
イ
か
らで
ある
。
(
6)
デュ
ビ
イ、
前掲
書、
N
N.
(
7)
ユ
ー
ラ
シ
ア
大
陸の
東
経に
沿っ
て
南北
に
弧状
を
描
く
日
本
列
島の
歴史
が、
近
代ヨ
ー
ロ
ッ
パ
文
明と
出会
う前の
長い
時期
に、
大
陸の
諸
古
代
文
明か
ら
影
響を
蒙っ
た
そ
の
蒙り
方
ほ、
あ
る
い
み
で、
申
せ
酉ヨ
一
口
γ
パ
の
歴
史と
類似現
象を
示
す
とい
え
よ
う
か。
ただ
し
こ
こ
で
も、
類似現
象は
そ
れ
まで
で
ある
。
い
わ
ゆ
る
「
周
辺
革命+
の
理
論の
ご
と
き、
別に
魔属し
く
持ち
出す
まで
も
ない
。
(
8)
ブ
ロ
ー
デル
、
前掲
書N
-.
c
汁
-
設.
(
9)
ブロ
ー
デ
ル、
前
掲書
-
笠.
(
1 0)
以
下の
叙述ほ
主
と
して
、
W・
UOS
t
巴.
宅Q
S聖叫
芸-
《
L?
已打On
de→
邑p
mi
∽
C
F
中ロ
W巴t
》
St
已t
g
Pl
ナU①
昌m・
只望ヲ
冒巴ロN
-
宅ヰ)
に
よ
る。
(
1 1)
C-
・
CpFe
ロ、
卜、
きQ~
邑叫
Q
さ
昌已已屯
礼
駕
SQ
達礼恥
§ま
旨叫
き
§
甘ぶま
、
白
ま
内ヽ~也
已㌢訂
し
訂Q恥
恥
邑訂
丸ま
SO止
邑屯
ら
ぎ丸
託
芸.
《
n
監許諾
蟄
C山
烹~
計
邑Q
漬
菜恥
札丸
ぎ已豊Ⅰ
(-
諾∞
)
盆N
切
中
(
一
橋大
学教
授)
*
本
稿は
昭
和五
十一
年度科
学
研
究
費
補
助
金(
総合
研
究(
A)
課題番
号
二二
九〇
一
〇)
に
よ
る
研
究
成
果の
一
部
で
あ
る。
∂5 J