Title 比較的大きな両側精液瘤の1例 泌尿器科紀要...

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Title 比較的大きな両側精液瘤の1例 Author(s) 水尾, 敏之; 谷沢, 晶子; 安藤, 正夫 Citation 泌尿器科紀要 (1988), 34(7): 1253-1255 Issue Date 1988-07 URL http://hdl.handle.net/2433/119630 Right Type Departmental Bulletin Paper Textversion publisher Kyoto University

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Title 比較的大きな両側精液瘤の1例

Author(s) 水尾, 敏之; 谷沢, 晶子; 安藤, 正夫

Citation 泌尿器科紀要 (1988), 34(7): 1253-1255

Issue Date 1988-07

URL http://hdl.handle.net/2433/119630

Right

Type Departmental Bulletin Paper

Textversion publisher

Kyoto University

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泌尿紀要34:1253-1255,1988 1253

比較的大きな両側精液瘤の1例

東京労災病院泌尿器科(部長=武田裕寿)

水尾敏之,谷沢晶子,安藤正夫*

A CASE OF BILATERAL SPERMATOCELE

Toshiyuki Mizuo, Akiko TANizAwA and Masao ANDo

From疏θエ)ePar〃η6漉{ゾUrology,7「0砂。 R・sai Hospital

(Chief: Dr. H. Talceda)

A case of bilateral spermatocele is reported. A 46-year-old man was admitted to our hospital

complaining of bilateral scrotal swelling. We obtained a co}orless, opalescent fluid which con-

tained numerous spermatozoa. The fluid volume, pH and gravity obtained from right spermatoce}e

were 85 ml, 6.8 and 1.005, respectively, and those obtained from left side were 40 ml, 6.8 and 1.006,

respectively. Spermatecelectomy was done under lumbal anesthesia. Both spematocele were found

near the body o’f the epididymis. The wall of spermatocele had on epithelial lining of cuboidal

cells.

Twenty two cases of spermatocele reported in Japan since 1951 are reviewed.

(Acta Urol. Jpn. 34: 1253-1255, 1988)

Key words: Spermatocele, Bilateral

緒 言

精液瘤は陰嚢内容の腫大を示す疾患のうち幻較的多

い疾患であるが,精液瘤の多くは片側例であり両側例

は極めて稀である.著者は最近比較的大きな両側精液

瘤を経験したので報告する.

症 例

患者=46歳,独身男子,会社員

主訴1両側陰嚢腫大

家族歴:特記事項なし

既往歴:特記事項なし

現病歴:4~5ヵ月前から両側陰嚢の腫大に気付い

ていたが自覚症がないため放置していた.ところが1

ヵ月前から急速に大きくなったため心配になり,1986

年7月31日当科を受診した.外来にて透光性を有する

腫瘤の内容液を吸引顕鏡したところ,両側とも精子を

認めた.3週間後にふたたび両側とも腫大し,軽度の

牽引痛をも自覚するようになったため根治手術を目的

として同年9月18日入院した。

入院時現症:体格栄養中等度.貧血,黄疽なし.胸

腹部に理学的に異常所見なし.陰嚢は右は超鶏卵大,

*現:東京医科歯科大学泌尿器科学教室

左はうずら卵大に腫大していた(Fig.1).前立腺は正

常大で弾性硬.

入院時検査成績:血液一般,血液生化学に異常な

し尿検査:蛋白(一),糖(一),潜血(+),沈渣:

RBc lo~15/hpf, wBc 4~5/hpf,尿細菌培養陰性,

尿細胞診class 1.

X線検査所見:IVPで小結石を伴う左尿管瘤と軽

度の左水腎症を認めた(Fig.2).

手術所見:聖壇下に両側精液瘤を切除した両側とも

腫瘤は副睾丸体部にあり単房性であった(Fig.3).

病理組織学的所見:嚢腫は右85ml、左40 mlで表

面は一層の薄い皮膜に覆われており,内容液は白濁

し,pHは両側とも6.8,比重は右1.005,左1.006で

あった.嚢腫は一層の立方上皮からなり筋層は認めな

かった(Fig.4).

考 察

精液瘤は一般的に発育が遅く,.自覚症を欠くため,

偶然に発見される事が多い.そのため真の頻度は不明

であるが,欧米では男子の0.2~1%に認められてい

る1・2).本邦では大野3)が第1例を報告して以来,板

倉4)の総説,竹内5)の20例の報告(1942年),花井6)の

東大での20年で100例の報告(1950年)など散見され

ている.1951年以降では著者の集計した限りでは22例

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125蛋 泌尿紀要 34巻 7号 1988年

Fi g. . 1. Macroscopic appearance of bilateral

spermatocele.

Fig. 2. Excretory urography (15 min)shows mild hydroureter and ureterocele of

left ureter・

spermatocele・

Fig. 4. Histological finding (H.E. stain ×200)

Spermatocele wall showing collagen- ized laminar wall immediately below

the cuboidal epithelial lining.

のみであり,近年ではその報告は少なく自験例が23層

目にあたる(Table t).

精液瘤の発生年齢は思春期以前はきわめて稀といわ

れており,著者の集計においても1例のみであった.

花井は20~30歳に好発すると報告しているが,その後

の報告ではいずれの年齢層にも認められるといえる.

患側についてCampbeli’)は右12例,左13例,両側

3例と,板倉4)は右14例,左16例,両側3例と報告し

ており,左右別頻度には有意差はなく,また両側例は

稀といえる.Table lに示した報告例では右14例,左

5例,不明3例と右側に多く,両側例は著者の症例の

みであった.

精液瘤の大きさは一一般的に直径旦cm以下が大部分

であり自覚症を欠くのが普通であり,臨床上放置され

ることが多い,しかしながら石部7)は患者の40%はそ

の存在に気付いていると報告している.欧米では2,490

mlの巨大な例も報告されている8).著者の集計では

4mlから380 mlまでその大きさはさまざまであり,

自験例も右83ml,左40 mlと比較的大きな精液瘤で

あった.

精液瘤の治療は姑息的には腫瘤の穿刺を行うが,違

和感,牽引痛,疹痛などの症状を呈する場合や,他の

陰嚢内容の腫大を示す疾患(副睾:丸や精索の腫瘍)と

の鑑別が困難な場合は手術をすべきと思われる.著者

の集計23例では精液瘤摘出術11例,副睾:丸摘出術li

例,不明1例であった.いずれにしても若年者では不

妊の問題をも考慮して,でき得る限り精液瘤のみの摘

出を行うべきであろう.

精液瘤は睾丸網または副睾丸頭部の異常精細管から

発生した停滞嚢胞という見解が一般に支持されてい

る9・10).その発生原因については,長期の禁欲,炎症,

外傷および胎生起源などの諸説があり,ほとんどが副

睾:丸頭部に好発すると報告されている7・9・10).ところ

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水尾,ほか:精液瘤・両側 1255

Table 1. Cases of spermatocele reported in Japan since 1951

症例 報告者 年齢 左右 発生部位 大きさ 手術 組織 文献

1

2

3

4

5

6

7

8

9

10

11

12

13

14

15

16

17

18

19

20

21

22

23

高安

藤田

石部

石部

小川

斉藤

大田

小林

小林

小川

柳原

市川

市川

山本

山本

矢沢

佐々木

佐々木

町田

町田

小松

工藤

自験例

51

69

23

57

65

13

62

54

64

56

69

59

50

33

22

20

45

38

64

50

76

56

46

頭部 40me

上部 3x2.5cm

頭部 SOme

頭部 40me

170me

頭部

頭部

頭部

頭部

頭部

頭部

頭部

頭部、体部

頭部

頭部

頭部

409

380 g

240 g

gome

120rne

2sme

4me

小指頭大

小鶏卵大

150m£

201認

loome

30me

母指頭大

睾丸下極6.7×5.5㎝

体部 右85mE

左40”ie

陰嚢内容摘出

陰嚢内容摘出

副睾丸摘出

精液瘤摘出

副睾丸摘出

嚢腫切除

精液瘤摘出

副睾丸摘出

精液瘤摘出

精液瘤摘出

精液瘤摘出

副睾丸摘出

副睾丸摘出

副睾丸摘出

精液瘤摘出

副睾丸摘出

副睾丸摘出

精液瘤摘出

精液瘤摘出

副睾丸摘出

精液瘤摘出

精液瘤摘出

精液瘤摘出

円柱上皮

単房性

精子侵襲像

多房性、扁平上皮

単房性、扁平土皮

単房性、絨毛上皮

単房性

多房性

コレステリン結晶、線毛

多房性、立方絨毛上皮

単房性、立方上皮

単房性、立方上皮

日孚必尿会誌42,324,51

48,230,57

泌尿紀要5,1161,59

同 上

日泌尿会誌52,961,61

同53,492,62

同53,561,62

同54,105,63

同 上

同55,937,64

同56,778,65

同58,755,67

同 上

同59,640,68

同 上

同59,1058,68

同64,84,73

同 上

同74,1476,83

同 上

同75,1510,84

同77,1904,86

が,外傷による場合のみ副睾丸体部に認められること

があるといわれている.しかしながら著者の症例では

両側とも副睾:丸体部に認められたにも関わらず外傷の

既往は不明であり,また炎症所見も認められず、その

発生因子は不明であった.

精液瘤の内容液は一般に乳白色,水様混濁してお

り,精子,リンパ球,脂肪球,表皮ときにコレステリ

ン結晶を認める.著者の症例は精液を含み,比重は

1.005および1. 006,pHは両側とも6. 8であった.こ

の点は陰嚢水腫において比重は1.020以上,pHは強

アルカリ性といわれているのと大きな違いであり,精

液瘤の比重がLOO2~LOO9, pHが中性から弱アルカ

リ性といわれているのと近似していた.組織所見につ

いては嚢胞は薄い単層の結合織でかこまれ,内壁は著

者の症例のように立方上皮あるいは扁平上皮により覆

われる症例が多いと言われている.絨毛上皮も認めら

れるが,その場合Campbelll)によると嚢胞が新しい

場合とされている.

結 語

比較的大きな副睾丸体部より発生した両側性精液瘤

の1例を報告し,若干の文献的考察を行った.

文 献

1)campbell MF:spermatoccle. J urol 20: 484-495 1928 り2)Rolnick:Zb王. Hautkrkh,29:138,1929(石

部より引用)

3)大野武司:精液嚢腫:=一就テ.皮尿誌22:915, 1922

4)板倉 清:精液腫二就テ.日泌尿会誌25=297-

314, 1936

5)竹内大二:精液嚢腫に就テ.日泌尿会誌33=225, 1942

6)花井国夫:精液瘤の統計的観察,日泌尿会誌37:

31,19467)石部知行・金原文夫:精液瘤について。泌尿紀要

5:ll61-ll65, 1959

8)Clarke BG, Bamford SB and Gherardi. GJ:

Spermatocele: Pathology and Anatomy. Arch Surg 86:21-25,1963

9)楢原憲章=精液瘤(精液嚢腫)spermat・cele.現

代外科学体系.木本誠二監修,42B男性性器H,

性病,7.9~83,中山書店,東京,1969

10)原三信:精液瘤.泌尿紀科診療Question& Answers 1223/2,六法出版社,東京,1985

(1987年6月工日受付)