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専攻分野 工学 専攻区分 電気電子工学 テーマ:小型環境モニタリング装置 キーワード科目:電気・電子計測 氏名:菅埜 諒介

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専攻分野 工学

専攻区分 電気電子工学

テーマ:小型環境モニタリング装置

キーワード科目:電気・電子計測

氏名:菅埜 諒介

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目 次

1 はじめに 1

1.1 現状のモニタリングシステムの課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 3

2 モニタリングシステム 4

2.1 モニタリングシステムの概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 4

2.2 モニタリング装置 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 5

2.3 モニタリングサーバ . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 7

2.4 モニタリングシステムの比較と課題 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 9

2.5 モニタリングシステムの今後 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 11

3 おわりに 12

参考文献 13

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1 はじめに

環境モニタリングとは,本来は環境アセスメントに関わるものである.ある地域の環境調

査に基づき,環境の人への影響を評価するものだ.

現在に至るまで,発電所やごみ処理施設周辺の大気を調査し近隣の環境への調査などに利

用されてきた.

近年では風力発電所周辺の騒音や発電機自体の軸受の異常をモニタリングしている.これ

は洋上風車などでは簡単に保守点検が困難なために,遠隔地から状態を把握するために多く

のメリットがあるためだ.

東日本大震災以降の放射線量のモニタリングは記憶に新しい.各自治体の職員が手動で測

定したものを公開している例もあったが,その方法では測定条件にばらつきがあり,使用す

る機器が異なれば定量的な測定とはいえないなど多くの問題があった.

気象庁が提供しているアメダス(AMeDAS)の気象データは精度の高いが,観測点の間

隔が,21[km]間隔であるので微視的な地域のデータとしては取り扱うとこが出来ない. 以上

のようなことから,環境をモニタリングの需要は多岐にわたるが,共通している特徴を以下

に列挙する.

• 遠隔地からリアルタイムなデータ取得が可能であること

• 長期的なモニタリングが必要不可欠であること

• 測定条件を統一することで精度の高いデータが得られること

• 局地的なきめ細かいデータが求められること

上記のことから,環境モニタリングを行うシステム(以下,モニタリングシステム)には以

下のものが必要である

• 共通の筺体,センサを備えており,データを送信できるネットワークに接続されている

こと

• データを保存,管理するサーバ

• 局地的な測定が行える場所に複数台を設置すること

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以上のことをモニタリングシステムの例としてFig.1に示す. モニタリングシステムとは温

度,湿度などの種々のセンサーを搭載した機器を設置し,ネットワークを通じてセンサデー

タを送信し,データベースなどに蓄積・管理を行い遠隔地から閲覧できるシステムである.

センシングを行い,データの送受信を行う機器(以下,モニタリング装置)は多く市販され

ているが,屋外の環境に耐えられないものや,システムの安定性が確保できないもの,正確な

計測ができないものなど課題は多い.

 本稿では,モニタリング装置,またモニタリングシステムを実際に設置し課題の検証を行っ

た結果を報告する.

Fig. 1: モニタリングシステムの例

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1.1 現状のモニタリングシステムの課題

 本研究では実際にアグリサーバと呼ばれる環境モニタリング装置を設置し,環境モニタ

リングを行った.しかし,設置や運用を通して,いくつかの課題を見つけた.

 一つは装置が大型であることだ.モニタリング装置とハイブリッド発電システムいずれも

分解し運搬した後現地で組み立てを行うため設置が容易ではない.よって小型であることが

望ましい.

 また消費電力の大きさも問題となった.モニタリング装置の消費電力は 20[W]である.消

費電力が大きいほど大容量の発電システムと蓄電が必要であり,大型になる.

 コストの高いことも課題だ.モニタリングシステムを構築する上で複数のモニタリング装

置を用いることになり,一台あたりのコストは増えればシステム全体のコストが増加するの

は避けられない. この課題は上記の二つの課題と深く関わっている.装置が大型になればコ

ストは増加し,消費電力が大きくなるにつれ大型のバッテリーが必要になるのでコストは増

加する.

 多くの画像データやセンサデータを送受信するためサーバにかかる負荷が大きいことも

判明した.  以上のことから課題に対する改善策を以下に列挙する

• 容易に設置・持ち運べる小型の装置を開発すること

• 低消費電力にし小規模な発電システムで運用できること

• 小型化・省電力化の改良を行いコストを下げること

• サーバの負荷を軽減すること

 以上のような改良を加えた,小型モニタリング装置を用いた改良型モニタリングシステム

の開発を行った.

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2 モニタリングシステム

2.1 モニタリングシステムの概要

 前述の課題を受け改良を行った,小型モニタリング装置を用いた改良型モニタリングシ

ステムの概略図を Fig.2に示す.

 小型モニタリング装置は電源を内蔵しており単体での動作が可能となった.通信方式は無

線 LANからXBee(Digi International製)という無線通信モジュールに変更した. 小型モ

ニタリング装置で測定されたセンサデータはXBeeのネットワークを通じて親機に送信さ

れる小型モニタリング装置には親機が存在するが,親機にはセンサなどを搭載しておらず

小型モニタリング装置から受け取ったセンサデータをサーバに送信することを担っている.

用いたサーバはOSに Fedora13を用いて構成されたものを使用した. センサデータは研究

室内のサーバに送信される.送られたセンサデータは,サーバ内のデータ書き込みPHPスク

リプトによってテキストデータに書き込まれる. このスクリプトはCRONというサービス

で 15分おきに自動的に実行されるので手動で実行する必要がない.

 Webブラウザを用いて表示 PHPスクリプトにアクセスすることでセンサデータの閲覧

が行える.また,Googleのサービスを用いることでテキストデータとしてだけでなくグラフ

データとして表示することが可能となった.

Fig. 2: モニタリングシステム

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2.2 モニタリング装置

 モニタリング装置の外観を Fig.3に示す.高さ 1500[mm],幅 400[mm]となっており,従

来型と比較し小型化に成功した.コンクリートブロックに固定したステンレス製のポールに

防滴仕様のケースに回路やセンサが収められている. 搭載しているセンサは図中に示す通

りであり,最低限の機能を有することを目的としたためカメラは搭載していない.大きな特

徴として,発電システムを内蔵することにより小型かつ軽量であることだ. モニタリング装

置と親機の内部構成を Fig.4に示す. 太陽光パネルを搭載し,発電された電力は充電コント

ローラを介して鉛蓄電池に充電され,DC-DCコンバータを介してシステムに電源を供給す

る.よってモニタリング装置単体での動作を可能とした. マイコンボードにはArduinoを使

用した.これはオープンソースのハードウェアとソフトウェアによる組み込みシステムであ

る.Arduinoの特徴を以下に列挙する.

• 安価で入手性がよいこと

• シールドと呼ばれる規格化された基板でハードウェアの拡張が容易にできること

• 無料の開発環境で開発でき,多くのライブラリが公開されていること

 上記のことから試作や開発に適した組み込みシステムであることから使用した.

 従来型において無線通信には無線LANを用いていたが,小型モニタリング装置ではXBee

(Digi International製)という無線モジュールを用いた.XBeeの特徴を以下に列挙する.

• 安価・小型・低消費電力であること

• 使用するにあたり免許が不要であること

• 複雑なネットワークトポロジの構成が可能であること

 上記のことから,今回の改良に非常に適していると判断されたために使用した.公開され

ているArduinoのライブラリにXbeeを使用するライブラリがあり,また,ArduinoにXBee

を接続するシールドも市販されているため開発が行い易い.

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Fig. 3: モニタリング装置外観

Fig. 4: モニタリング装置と親機の内部構成

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2.3 モニタリングサーバ

 Webサーバ機能を利用し,Webブラウザを用いてアクセスすることでFig.5のような結

果が得られる. データを閲覧したい日付を入力することで,データの閲覧が行える.Google

のサービスを用いることでテキストデータだけでなくグラフデータの表示も可能となった.

 過去 3ヶ月のデータを Fig.6に示す.

 モニタリングサーバは Fedoracore13によって構築したサーバであり,PHP はApacheの

環境を用いた.データ書き込み PHP スクリプトは親機 からGET 送信されたセンサの値

を受け取り,テキストデータに書き込む.

 日時の取得にはPHPの関数である,date関数を用いた.date 関数とは,実行したときの時

刻を取得する関数である.今回は実行して取得した日時データを温度データと共に書き込む

ことで,日時の判別を行う仕様とした. しかし,date 関数から取得した時間とモニタリング

装置がセンサデータを測定した時間が異なるという問題点があるので,現在はNTP サーバ

から取得する方法を検討している. GPSモジュールよりハードウェア的に取得することも

可能ではあるが,ハードウェアはリソースが制限され,コストがかかる上に保守性も悪いの

で今回は行わない.

 このプログラムを cron によって自動実行を行った.cron とは,決まった時間や一定の時

間ごとに処理を行うサービスである. 今回は一定の時間ごとにPHPスクリプトを実行する

という目的で利用した.実行間隔は 15[分]である.よって,実際にセンサデータが測定された

時間と,書き込みスクリプトが実行され日時を取得した時間の誤差は最大でも 15[分]という

ことになる. 測定対象は気象のため急激な変化はないものとし,この時間のずれに関しては

問題としないこととした.

 PHPスクリプトはwhile によってループすることで常に実行することが可能である.し

かし.その方法は推奨されない.なぜならサーバへの負荷が大きいためである.常に実行す

る必要がないものは,決まった時間に実行することでサーバへの負荷を軽減することにつな

がる. PHP のデフォルトの設定で 30 秒以上経過するとタイムアウトエラーになるのも負

荷軽減のためである.

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Fig. 5: モニタリングサーバ

Fig. 6: 過去三ヶ月の気象データ

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2.4 モニタリングシステムの比較と課題

 従来型モニタリングシステムと改良型の比較結果をTable.1に示す.当初の仮定であっ

た,消費電力の低減と小型化を図ることでコストも抑えることができる,ということが非常

に顕著に現れた結果となった.

 しかしながら,最低限の機能を実装していることから従来型と比較し,センサの種類や精

度で劣る部分が多々ある. センサはアナログ出力のものを用いており,精度は Arduino の

A/D コンバータとリファレンス電圧に依存するため精度が落ちる. 今後は I2Cバスや SPI

バスを用いた高精度のデジタル計測の検討している.また,測定条件も不十分であり,正確

な気温や湿度を測定するためにも外気を取り込むファンを取り付けるなど工夫が必要であ

る.

 無線通信に用いたXBee は小型,安価,低消費電力であるが,通信距離や,安定性という

点においては検証が必要である.今後は小型通信端末を使用することが望ましい.

 太陽電池モジュールの出力電力やバッテリ容量と,機器の大きさやコストがトレードオフ

になってしまう.省電力なハードウェアを実装したが,電源の問題は依然として残る. 安定

した動作をするためにも発電電力やバッテリ容量に余裕があることが望ましい.

 またカメラを搭載していないので,今後はコストや機能,容積を見極めながら機能を実装

していく必要がある.

また,システムの安定性に関して,今現在は実験の段階である.さらに長期的なモニタリング

を行い,安定的にデータが取得できるかについて検証していく予定である.

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Table. 1: 従来型モニタリング装置と改良型の比較

比較項目 従来型 改良型

価格 10[万円]以上 3[万円]

容積 3[m3] 0.4[m3]

消費電力 20[W] 1[W]以下

センサ数 12 5

カメラ画素数 250万画素 なし

センサ精度 デジタル計測 アナログ計測

通信距離 数 [km] 30[m]~1[km]

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2.5 モニタリングシステムの今後

 前述の比較と課題を受けて,以下の点の改良を行う予定である.

• センサの種類の増加と精度の向上

• カメラの搭載

• 通信距離の改善

 センサの種類を増やすことを検討している.具体的には土壌センサとして土壌水分計など

を考えている.また,放射能モニタリングの需要が高まっているので,ガイガーカウンタを搭

載することも視野に入れている.

 センサ精度の向上のためにはセンサ自体の変更とそれに伴ったマイコンボードの変更も

必要である.センサの変更は I2Cバス,SPIバスを用いたデジタルセンサにすることで,A/D

コンバータを用いたアナログ計測よりも精度を高めることができる. また,I2Cバス,SPIバ

スに対応したマイコンボードに変更する必要がある.

 カメラの搭載に関して,従来通りのネットワークカメラを用いることも可能だが,消費電

力やコストの観点から,シリアル接続可能な JPEGカメラモジュールの搭載が理想的であ

る.最近は安価に入手できるものが多いことから入手性もよい.

 通信距離については電波法により送信電力が制限されるので難しいものの,外部にアンテ

ナを搭載するなど,受信環境の改善は可能だ. 現在は親機とモニタリング装置はピアツーピ

ア通信(一対一通信)を行なっているが,XBeeはメッシュトポロジやスタートポロジなど,

複数対複数や一対複数などの通信にも対応している. この機能を利用し,複数のモニタリン

グ装置を経由して,遠隔までデータ送信することを検討している.またこの機能を利用する

ことで,ネットワークに障害が発生したときは別のルートを利用したデータ通信を行うこと

ができるようになる.

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3 おわりに

ネットワークが発達している現在,モニタリングシステムは多くのことに利用されてお

り,今後も多くの分野に応用されていくと考えられる. しかし,研究をすすめる上で多くの

課題を抱えていることがわかった

 この研究を通して多くのことを学ぶことができた.強電,弱電の知識はもちろん,計測,ネッ

トワーク,サーバの構築など多くの分野の知識が必要であった. 改良型のモニタリングシス

テムは従来型と比較し,価格,容積,消費電力の観点から大きく改善が見られた.現在は最低

限の機能にとどまっているが,今後はさらに機能面を拡張していく必要がある. また,長期

的なモニタリングを行い,安定性の検証を行う予定である.

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参考文献

[1] 参考文献

[2] 参考文献

[3] 参考文献

[4] 参考文献

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