Technical Note テクニカルノート ACL-08/1 note CL-08.pdf初期OIT値は約113.5 、...

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株式会社パルメトリクス 小型反応熱量計とAKTSソフトウエアのコンサルタント Website http://www.palmetrics.co.jp e-mail: [email protected] Technical Note Technical Note テクニカルノート テクニカルノート Title: 寿命推定評価をする場合の昇温速度とは 昇温速度によって活性化エネルギーが変化する現象はテク ニカル・ノートCL-06の例と似ています。遅い昇温速度は低 温領域で加速試験・すなわり劣化させながらのCL信号を検 出することになるからです。 ACL-08/1 12-07-21 350-1328 埼玉県狭山市広瀬台 2-16-15 さやま IC21 電話 04-2941-3090 FAX 04-2941-3095 ポリマーの劣化・寿命評価でオーブンにより加速試験をする場合、測定サン プルはFig-01のようにさまざまな実験評価のためある程度まとまった量とし 雰 囲 気 は 空 気(撹 拌・乱 流), 温度範囲は 100℃から 150℃となります。 一方、CL測定では測定量は数mgから数10mgの薄片で測定します。 寿命推定するには通常の 使用温度環境より高温度 で加速試験を行います。 しかし実際に使用される 温度条件とあまりにかけ 離れた加速試験で評価で きるものでしょうか? ポリマーなど酸化によ る劣化・寿命推定のため に活性化エネルギーを求 めます。この場合数点の 異なる昇温速度によるCL 測定を行います。 DSC 測定では昇温速度を 0.5K/min 10K/min で測定 をするのが普通です。 CL測定データでもDSC同様の昇温速度で良いで しょうか? 酸化防止剤を含まない ポリイソプレンについて 0.5K/min から10K/min で測 定し、OIT 温度(初期OIT 値、あるいは外挿OIT値) を求めました。OIT 値は 130℃から220℃でした。 横軸にK/s単位の昇温速度 (例:10K/min 0.166K/sとし、縦軸はOIT温度を対 数でプロットします。 各プロットを結ぶ曲線の 傾きが活性化エネルギー です。 昇温速度を小さくすると この曲線の傾きが大きく なってきます。つまり活 性化エネルギーは大きく なっています。 寿命推定は長期安定性の 評価であり、低温度領域 で遅い昇温速度の測定条 件が必要になります。 CLシステムによる昇温測定あるいは等温測定も一種の加速試験です。 等温条件よりも短時間で評価が可能な昇温測定条件は効率的な手法です。 この場合、昇温速度はDSC と同じような測定条件でOKなのでしょうか? CL測定はDSCよりも検出感度が高く、DSCでは測定できないような低温度 で起きる酸化現象を検出するため、DSCよりも遅い昇温速度が必要です。 Fig-01 Fig-02

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Page 1: Technical Note テクニカルノート ACL-08/1 note CL-08.pdf初期OIT値は約113.5 、 外挿OIT値は115.5 となります。 一方、Irganox565(酸化防 止剤)を含むポリイソプ

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Title: 寿命推定評価をする場合の昇温速度とは

昇温速度によって活性化エネルギーが変化する現象はテク

ニカル・ノートCL-06の例と似ています。遅い昇温速度は低

温領域で加速試験・すなわり劣化させながらのCL信号を検

出することになるからです。

ACL-08/1 ‘12-07-21

〒350-1328 埼玉県狭山市広瀬台2-16-15 さやま IC21 電話 04-2941-3090 FAX 04-2941-3095

ポリマーの劣化・寿命評価でオーブンにより加速試験をする場合、測定サン

プルはFig-01のようにさまざまな実験評価のためある程度まとまった量とし

雰囲気は空気(撹拌・乱流),温度範囲は100℃から150℃となります。

一方、CL測定では測定量は数mgから数10mgの薄片で測定します。

寿命推定するには通常の

使用温度環境より高温度

で加速試験を行います。

しかし実際に使用される

温度条件とあまりにかけ

離れた加速試験で評価で

きるものでしょうか?

ポリマーなど酸化によ

る劣化・寿命推定のため

に活性化エネルギーを求

めます。この場合数点の

異なる昇温速度によるCL測定を行います。

DSC測定では昇温速度を

0.5K/min~10K/minで測定

をするのが普通です。

CL測定データでもDSCと

同様の昇温速度で良いで

しょうか?

酸化防止剤を含まない

ポリイソプレンについて

0.5K/minから10K/minで測

定し、OIT温度(初期OIT値、あるいは外挿OIT値)

を求めました。OIT値は

130℃から220℃でした。

横軸にK/s単位の昇温速度

(例:10K/minは0.166K/s)とし、縦軸はOIT温度を対

数でプロットします。

各プロットを結ぶ曲線の

傾きが活性化エネルギー

です。

昇温速度を小さくすると

この曲線の傾きが大きく

なってきます。つまり活

性化エネルギーは大きく

なっています。

寿命推定は長期安定性の

評価であり、低温度領域

で遅い昇温速度の測定条

件が必要になります。

CLシステムによる昇温測定あるいは等温測定も一種の加速試験です。

等温条件よりも短時間で評価が可能な昇温測定条件は効率的な手法です。

この場合、昇温速度はDSCと同じような測定条件でOKなのでしょうか?

CL測定はDSCよりも検出感度が高く、DSCでは測定できないような低温度

で起きる酸化現象を検出するため、DSCよりも遅い昇温速度が必要です。

Fig-01

Fig-02

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Title: 寿命推定評価をする場合の昇温速度とは

等温・昇温測定のいずれの場合もCL測定データ

を得るには1測定に数日の測定時間を必要にな

ります。

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Fig-03の青色曲線はポリ

イソプレン(酸化防止剤

ナシ)について

雰囲気:酸素雰囲気中

温度範囲:25~120℃

昇温速度:0.013K/min て測定したものです。

初期OIT値は約113.5℃、

外挿OIT値は115.5℃

となります。

一方、Irganox565(酸化防

止剤)を含むポリイソプ

レンはこの温度範囲では

OITが検出されません。

一般にある活性化エネルギーを有する限り、昇温速度を小さいとOIT値および反応ピーク温度が低くな

ります。OIT値やピーク温度が昇温速度依存性から活性化エネルギーを求めることができます。それで

は数年におよび長期間の寿命推定を行うには、昇温速度はどれぐらに設定すべきなのでしょうか?

CL測定データ(昇温モード)による寿命予測の文献として、ACLとAKTSが共

同発表した文献があります。 Journal of Thermal Analysis and Calorimetry, Vol. 93 (2008) 1, 231–237 PREDICTION OF THE AGEING OF RUBBER USING THE CHEMILUMINESCENCE AP-PROACH AND ISOCONVERSIONAL KINETICS  

Fig-03

Fig-04

測定サンプル:

ポリマー3620 温度範囲:40℃~140℃昇温速度:0.023K/min、雰囲気:酸素および窒素

測定時間は72時間丸3日間です。

窒素雰囲気では140℃で

CL信号強度が120counts/sサンプル量約19.9mg程度

です。

励起状態の二酸化窒素が

基底状態に戻るときに化

学発光が生じます。

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Title: 寿命推定評価をする場合の昇温速度とは

CL測定データから寿命推定する場合、実際に近い環境条

件で加速試験をすることが必要です。このための昇温速度

はこのテクニカル・ノートが示すような昇温速度0.01K/minレべルが必要になります。

ACL-07/2 ‘12-07-21

〒350-1328 埼玉県狭山市広瀬台2-16-15 さやま IC21 電話 04-2941-3090 FAX 04-2941-3095

Fig-04は

測定サンプル:β-カロチン

温度範囲:50℃~100℃昇温速度:0.014K/min、雰囲気:酸素

測定時間:60時間

初期OITは60℃

外挿OITは75℃

酸素雰囲気により酸化反

応を加速させ、測定時間

を短縮させています。

劣化は雰囲気に大きく影

響されます。

測定サンプルによっては

湿潤雰囲気(オプション

可)条件では劣化しやすい

ものがあります。

Fig-05

Fig-05は

測定サンプル: 粉末アーモンド

温度範囲:25℃~200℃昇温速度:0.06K/min、

雰囲気:酸素・緑色曲線

合成空気・青色曲線

ガス流量:30mL/min

Fig-06

熱分析手法では測定データは通常、単位重量あたりの信号強度で示します。金属片の酸化反応を評価す

る場合、重量に代えて測定サンプルの表面積当たりで評価することがあります。 場合によっては測定

部位によりCL強度が異なる場合もあるので、ピークプロファイルの再現性確認が必要です。

Fig-01からFig-06のCL昇温測定データは0.01K/minから0.06K/minの範囲で、

測定時間は2~3日間を要します。DSC測定に比較して1桁以上違います。

これはDSCでは検出できない1~2桁小さな反応を測定しているためです。