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73 (平成 26 年度募集)第 27 回助成研究 中間報告書(7 件) [ 一般発展型 ] (1)環境関連分野 研究内容説明 研究代表者はβ-ガラクトシダーゼ活性の蛍光化剤であるベンゾチアゾリルフェノール誘導体 (BTP3)-ガラクトース(Bioorg. Med. Chem. Lett. 23, 2245-2249, 2013)開発者の広島国際大 学薬学部 池田 潔教授と共同で、BTP3 にシアル酸(Neu5Ac)を付加することで、インフルエン ザウイルスやパラインフルエンザウイルスのシアル酸切断酵素「シアリダーゼ」を局所的に蛍光 イメージングする新規プローブ「BTP3-Neu5Ac」を開発した。 BTP3-Neu5Ac による蛍光イメージングは、蛍光化後の時間とともに BTP3 の拡散がわずかに見ら れるため、その蛍光像はやや不鮮明となる。感染細胞内のウイルスのシアリダーゼ活性を蛍光ラ イブイメージングするためには、BTP3-Neu5Ac の局所イメージング性能の高精度化、生細胞内移 行性の向上が必要である。BTP3 構造の疎水性を増加させることでプローブの局所イメージング性 能を向上させることができた。 BTP3-Neu5Ac がインフルエンザウイルス以外のヒト病原ウイルスやその感染細胞の蛍光イメー ジングに応用できるか検討した。BTP3-Neu5Ac は、おたふく風邪ウイルス及び小児呼吸器ウイル スのヒトパラインフルエンザウイルスやその感染細胞の蛍光イメージングにも成功した。また、 感染細胞集団を蛍光化することで、ウイルス株の単離を容易にした。 BTP3-Neu5Ac の応用法として、抗インフルエンザ薬(シアリダーゼ阻害剤)に耐性化したイン フルエンザウイルスやその感染細胞に選択的な蛍光イメージング法を確立した。この方法により、 抗インフルエンザ薬のオセルタミビル耐性ウイルス及び感受性ウイルスの混合感染細胞から、オ セルタミビル耐性ウイルスの感染細胞を選択的に蛍光イメージングし、薬剤耐性ウイルス株を高 効率に単離することに成功した。 研究テーマ 「高精度化・高感度化をめざしたウイルス酵素イメージング剤の開発と 応用法の確立」 研究責任者 所属機関名 静岡県立大学 大学院薬学研究院 官職又は役職 准教授 高橋 忠伸 メールアドレス [email protected] 共同研究者 所属機関名 広島国際大学薬学部 官職又は役職 教授 池田 潔 共同研究者 所属機関名 静岡市環境保健研究所 官職又は役職 統括副主幹 和田 裕久

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(平成 26年度募集)第 27回助成研究 ◆中間報告書(7件)

[ 一般発展型 ]

(1)環境関連分野

研究内容説明

研究代表者はβ-ガラクトシダーゼ活性の蛍光化剤であるベンゾチアゾリルフェノール誘導体

(BTP3)-ガラクトース(Bioorg. Med. Chem. Lett. 23, 2245-2249, 2013)開発者の広島国際大

学薬学部 池田 潔教授と共同で、BTP3にシアル酸(Neu5Ac)を付加することで、インフルエン

ザウイルスやパラインフルエンザウイルスのシアル酸切断酵素「シアリダーゼ」を局所的に蛍光

イメージングする新規プローブ「BTP3-Neu5Ac」を開発した。

BTP3-Neu5Acによる蛍光イメージングは、蛍光化後の時間とともに BTP3の拡散がわずかに見ら

れるため、その蛍光像はやや不鮮明となる。感染細胞内のウイルスのシアリダーゼ活性を蛍光ラ

イブイメージングするためには、BTP3-Neu5Acの局所イメージング性能の高精度化、生細胞内移

行性の向上が必要である。BTP3構造の疎水性を増加させることでプローブの局所イメージング性

能を向上させることができた。

BTP3-Neu5Acがインフルエンザウイルス以外のヒト病原ウイルスやその感染細胞の蛍光イメー

ジングに応用できるか検討した。BTP3-Neu5Acは、おたふく風邪ウイルス及び小児呼吸器ウイル

スのヒトパラインフルエンザウイルスやその感染細胞の蛍光イメージングにも成功した。また、

感染細胞集団を蛍光化することで、ウイルス株の単離を容易にした。

BTP3-Neu5Acの応用法として、抗インフルエンザ薬(シアリダーゼ阻害剤)に耐性化したイン

フルエンザウイルスやその感染細胞に選択的な蛍光イメージング法を確立した。この方法により、

抗インフルエンザ薬のオセルタミビル耐性ウイルス及び感受性ウイルスの混合感染細胞から、オ

セルタミビル耐性ウイルスの感染細胞を選択的に蛍光イメージングし、薬剤耐性ウイルス株を高

効率に単離することに成功した。

研究テーマ 「高精度化・高感度化をめざしたウイルス酵素イメージング剤の開発と

応用法の確立」

研究責任者 所属機関名 静岡県立大学 大学院薬学研究院

官職又は役職 准教授

氏 名 高橋 忠伸 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 広島国際大学薬学部

官職又は役職 教授

氏 名 池田 潔

共同研究者 所属機関名 静岡市環境保健研究所

官職又は役職 統括副主幹

氏 名 和田 裕久

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(2)医療福祉技術関連分野

研究内容説明

日本国内において約 7 万人が眼病により視覚障害を負っており、失明につながる眼病ほど、自

覚症状に乏しいとも言われ、他覚的検査による早期発見・失明予防が重要である。本研究では、

眼病早期発見のため検査精度の向上、患者負担の軽減、検査の簡便化・促進を目的として、網膜

走査/投影ディスプレイ(以下、レチナディスプレイ)を用いたマックスウェル視光学型網膜視

機能検査システムの実用化に向けたシステムを確立することを目標とした。

本年度はレチナディスプレイに採用されているヘッドマウント型ディスプレイを購入し、網膜

視機能検査に必要な性能を満たすか基本的特性を確認した。A社の片眼型ヘッドマウントディス

プレイ(以下、HMD)は眼帯をメガネに取り付けるようなタイプであり、本体は約 35gの超軽量で

ある。一方、B社の両眼型 HMDはアイマスクのように両眼を覆う形状をしており、本体は約 320g

であった。装着感は、A社 HMDはメガネに若干の重さを感じる程度であったが、B社 HMDはかなり

重く感じた。網膜視機能検査には 4-5分程度の時間を要し、安定した光照射を行うためには端座

位(腰掛け座位)では難しく、半座位(リクライニングの姿勢)あるいは仰向けになる必要があ

ることを確認した。また、外光の影響を考えると暗室下での実験が望ましく、安全性を考えると

網膜電位図の計測には皮膚電極を用いることが望ましいことを確認した。現在、動画応答性に優

れた B社 HMDを用いて網膜電位図の計測試験を実施している。今後は計測条件を最適化して HMD

システムの課題を整理し、開発中の走査型/投影型マックスウェル視光学系検査システムに反映

させ、近視/遠視/乱視/老眼など水晶体屈折・調節異常に依存しない高精度かつ簡便な視機能検査

システムの確立を目指す。

研究テーマ「網膜走査/投影ディスプレイを用いた

マックスウェル視光学型網膜視機能検査技術の確立」

研究責任者 所属機関名 豊橋技術科学大学 エレクトロニクス先端融合研究所

官職又は役職 特任助教

氏 名 針本 哲宏 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 豊橋技術科学大学 エレクトロニクス先端融合研究所

官職又は役職 特任教授

氏 名 臼井 支朗

所属機関名 有限会社メイヨー

官職又は役職 技術本部長

氏 名 長坂 英一郎

所属機関名 有限会社メイヨー

官職又は役職 研究員

氏 名 工藤 英貴

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研究内容説明

水に対して不溶性の薬剤に対して、フェムト秒レーザーアブレーションのよる微細化処理を行

い水に対しての溶解度を向上させることで、体内への吸収を促進させることを目的に研究を行っ

た。初年度である平成27年度は、薬効が期待されるものの水への不溶性から十分にその能力が

検討されてこなかった有機化合物に対して、アブレーションによる微細化と水への可溶化を行っ

た。また一部の化合物に関しては、更に吸収性、および水溶液中での安定性を高めるため、包接

化合物共存下での微細化処理を行った。

薬効が期待される水に不溶の有機化合物として、クルクミン、ビタミンE、ビタミンK、ルチ

ンなどの化合物に対してレーザーアブレーションによる微細化を行った。加圧により各有機化合

物を錠剤化したものを水中に静置し、水溶液を攪拌しつつレーザー照射を行った。得られた各有

機化合物の分散液は、動的散乱法によりその粒子サイズ、紫外・可視吸収スペクトルによりその

濃度を見積もった。その結果、クルクミンが非常によく微細化し、かつ高濃度で水溶液中に存在

することが判明した。

更に水溶液への溶解性を向上させるため、包接化合物であるシクロデキストリンを水溶液中に

共存させ、前述の方法と同様の方法でレーザーアブレーションによる可溶化を行った。その結果、

シクロデキストリン共存下では水に対するクルクミンの溶解性が更に向上した。これはレーザー

アブレーションにより分子レベルにまで微細化・可溶化されたクルクミン分子がシクロデキスト

リン分子に包接され、溶解度が向上したものと考えられる。

またレーザー装置に関しては、レーザー出力などの各パラメータが化合物の微細化に対して及

ぼす影響について検討した。その結果、有機化合物に対しては、無機化合物の場合ほど、レーザ

ー側の諸条件が及ぼす影響は小さいことが判明した。

今後、シクロデキストリンにより包接されたクルクミン分子を含む水溶液を利用した抗炎症効

果、および抗腫瘍効果に関して、共同研究を行っている外部機関へ評価を依頼する予定である。

研究テーマ 「レーザー処理によるナノ化を利用した不溶性有用薬剤の可溶化と体内吸収

効率の向上」

研究責任者 所属機関名 名古屋工業大学

官職又は役職 准教授

氏 名 猪股 智彦 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 名古屋工業大学

官職又は役職 プロジェクト教授

氏 名 増田 秀樹

共同研究者 所属機関名 アイシン精機株式会社

官職又は役職 イノベーションセンター 統括グループ

氏 名 中田 明子

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(3)材料関連分野

研究内容説明

重粒子(炭素イオン)線がん治療法は,治療実績において日本が先進的な立場を有する最先端

がん治療法の一つである。しかし,治療に必要な加速炭素イオンを得るには,シンクロトロン加

速器と呼ばれる巨大施設が必要となり,サイズ・コストの観点から導入可能な治療施設は限られ

てしまい,同治療法の普及を妨げている。これに代わる新たなイオン加速法として期待されてい

るのが,レーザ駆動イオン加速法である。レーザ駆動加速イオン法では,自立薄膜ターゲットに

対して,高強度超短パルスレーザを照射することで加速イオンを得る。本研究では,報告者がこ

れまでに研究開発してきた高純度・高密度炭素(DLC: Diamond-Like Carbon)薄膜の自立膜化を

試み,がん治療用重粒子線源薄膜ターゲットとしての自立 DLC薄膜実現を目指している。本報告

では,これまでの研究で得られた,DLC薄膜の自立化に関する成果を報告する。

DLC膜は固体基板上に形成された薄膜であり,薄膜ターゲットとして用いるには,基板から単

離し,自立膜化する必要がある。Siや金属基板を用いた場合,強酸系溶液による溶解が必要とな

り,プロセス安全上問題になる。我々は,研究完了後の応用展開まで見据え,自立化のための DLC

下地層(基板)として,種々の水溶性材料を実験的検証も含め検討した。下地層の検討では,DLC

より成膜の容易な Auを自立目的膜とし,実験を行った。その結果,シルクフィブロインを下地層

とすることで,最も平坦な自立 Au膜を得た。これを踏まえ,シルクフィブロイン膜上への DLC薄

膜形成を試みた。シルクフィブロインの変形および DLC膜の特性変化の影響を調べ,形成時のサ

ンプルステージ温度を 100℃以下にすることで,熱的影響を抑えた DLC成膜条件を見出し,シル

クフィブロイン上への DLC 膜形成に至った。さらに,シルクフィブロインを水で溶解し,DLC薄

膜の単離・自立化を試みた。DLC膜は,厚膜時には膜の持つ高い内部応力により,自立化プロセ

ス中の外部ストレスに耐えきれず壊れた。薄膜化(膜厚 15nm以下)により,高純度・高密度 DLC

膜の自立化を実現した。今後は,作製した自立 DLC膜に対してレーザ照射試験を実施し,薄膜タ

ーゲットとしての特性評価を行う予定である。

研究テーマ 「 がん治療重粒子線発生源薄膜ターゲットの開発 」

研究責任者 所属機関名 国立大学法人豊橋技術科学大学

官職又は役職 教授

氏 名 滝川 浩史 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名

官職又は役職

氏 名

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(4)電子・情報関連分野

研究内容説明

本研究では,マイクロホンアレーで観測された音に対するマルチチャネル非負値行列因子分解

(Nonnegative Matrix Factorization: NMF)とスピーカアレーを用いた波面合成(Wave Field

Synthesis: WFS)とを統合することにより、複数の音源が同時に存在する音空間の中から任意の

音源が生成する音空間を分離抽出し、それを別の空間で仮想的に再現する基盤技術の確立を目指

す.本期間内においては、特定の音源が生成する音空間のみを高精度に分離するマルチチャネル

NMF アルゴリズムの開発を行うとともに、再生デバイスであるスピーカアレーの最適化に関する

検討を行う。システム構成としては、マイクロホン 8素子程度で音場分離することを目標とする。

平成 27年度では、音場分離アルゴリズムの構築と最適化に取り組んだ。まず、マイクロホンア

レーによって複数音源が形成する音場を観測し、これまでに開発したアレー信号処理手法によっ

て NMF における初期値を決定した。次に、任意の 1 チャネルに対して通常の NMF を行い、これに

よって得られた基底を用いて、他のチャネルでは基底共有型 NMF を実行した。最後に、基底共有

型 NMF によって得られた基底行列とアクティベーション行列の反復学習による打ち切り誤差をで

きるだけ低減させるため、補正フィルタによって分離精度の向上を図った。数値計算の結果、提

案法では従来の分離アルゴリズムに比べて約 25%の演算時間削減を実現しつつ、基底削減による

分離精度の劣化は約 3dB程度に抑えることができた。

次いで、少数個のマイクロホン素子数で観測された音場を安定的に再現するため、収音におけ

るチャネル数に対して、再生信号のチャネル数を増大させるアップチャネル化を試みた。ここで

は、マイク(観測点)間の仮想観測信号を、仮想点の両側の信号からスプライン補間や線形二点

補間などの補間法によって推定した、原音場と再生音場の音圧分布による評価を行ったところ、

アップチャネル化による再生音場はそれを適用していない再生音場に比べ、再現精度が約 10%向

上した。

研究テーマ 「多チャネル非負値行列因子分解に基づく音空間の分離抽出」

研究責任者 所属機関名 静岡大学

官職又は役職 准教授

氏 名 立蔵 洋介 [email protected]

共同研究者 所属機関名 ヤマハ発動機株式会社

官職又は役職 主査

氏 名 木村 哲也

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(5)生産技術関連分野

研究内容説明

高硬度炭素繊維と樹脂の複合材である「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」は、その優れた

機械的特性により様々な用途に用いられていた。最近は省エネルギーの観点から炭素繊維強化プ

ラスチック(CFRP)を航空機の主翼や自動車のボディーに適用する動きが活発となっている。し

かし、そのような成形した CFRP製の部品への組立用穴あけ、2次加工などを行うときなど工具に

大きな問題がある。通常の金属部品は超硬合金製のエンドミルやドリルにより加工されるが、被

削材である CFRPの加工においては工具摩耗が極めて大きく、加工能率や加工コストに大きな問題

が生じている。また近年、ダイヤモンド膜をコーティングする技術が確立したが、PVD ダイヤモ

ンドコーティング超硬工具でも、CFRPに対しては極めて摩耗が大きく、工具寿命が極めて短いの

が実情である。そこで本研究提案では、焼結多結晶ダイヤモンド(PCD)ウエハに放電加工を施し、

マイクロフライス工具を試作し、CFRPの高精度・高能率加工の検

討を行った。

はじめに、焼結多結晶ダイヤモンド(PCD)ウエハに放電加工

を施し、マイクロフライス工具を試作した.焼結多結晶ダイヤモ

ンド(PCD)はダイヤモンド砥粒を金属により焼結したもので、

放電加工(EDM)により微細加工することができる。本試作実験

では、PCD の放電加工条件を検討し、最適な加工条件を求め、ワ

イヤ EDMにより PCDウエハを円盤状に切出し、超硬合金製のシャ

ンクにろう付けし、EDM により図1に示すように多数の微細な切れ刃を創成できることを確認し

た。

次年度以降は、様々な条件(切込み,回転数,送り速度)で CFRPを切削し、切削現象を観察し、

工具形状の最適化を行い、本提案の工具で加工した工具の摩耗特性や被削材である CFRPの形状精

度や表面粗さを評価を行う予定である。

研究テーマ 「放電加工により創成された多結晶ダイヤモンド製フライス工具による炭素

繊維強化プラスチックの高精度・高能率切削」

研究責任者 所属機関名 中部大学 工学部 機械工学科

官職又は役職 教授

氏 名 鈴木 浩文

メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 ㈱北岡鉄工所

官職又は役職 会長

氏 名 北岡正二

10mm

図1 多結晶ダイヤモ

ンド(PCD)製フライス

工具

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(6)バイオテクノロジー関連分野

研究内容説明

鳥類は、多精受精を行う動物であり、多精受精をインビトロで再現することが困難であること

から、これまで顕微受精(ICSI)法によるヒナの孵化には誰も成功しなかった。本研究実施者は、

最近、ウズラを用いて、世界で初めて ICSI 法による個体の作出に成功した(Mizushima et al.,

Development, 141 (19), 3799-3806, 2014)。本研究は、パイロット動物であるウズラを用いて、

ICSI法を用いたトランスジェニック (TG) およびクローンウズラの作出を行い、研究分担者と協

力しながら、その成果をニワトリにも応用しようとするものである。

まず、ICSI法による外来遺伝子(GFP遺伝子)の導入方法について検討した。TritonX-100、DMSO

およびリゾレシチン処理を施した精子の顕微注入では、卵子の活性化が誘起されなかったが、凍

結融解処理精子を顕微注入した場合、それが誘起された。また凍結融解処理群の発生率は 85%で

あり、そのうち 52.9%の胚が卵割ステージ Vを超え、最も発生が進行した胚ではステージ 27まで

進行した。また GFP シグナルが検出された胚の割合は 82.3%であった。またサザンブロット解析

から、27%の割合で胚ゲノムへの GFP遺伝子の挿入が確認された。以上の結果、精子凍結融解処理

は、TX-100 等の他の処理と比較して、卵への悪影響が少なく、GFP 発現ウズラ胚の発生能を大幅

に改善することが分かった。

ニワトリへの ICSI法の応用を目指した研究として、ニワトリの卵子活性化因子のクローニング

を行った。ニワトリ精巣を材料として RT-PCRにより遺伝子を増幅し、ホスホリパーゼ Cζ、クエ

ン酸合成酵素およびアコニット酸ヒドラターゼ遺伝子のクローニングに成功した。また、ウズラ

用の ICSI システムおよび培養容器をニワトリ用に改良し、ICSI を実施したところ、受精率は低

いもののニワトリでも ICSI が実施可能であることが確認された。

以上のように、本研究は概ね順調に進行しているものと考えている。

研究テーマ 「顕微授精法を用いた有用家禽の作出に関する研究」

研究責任者 所属機関名 静岡大学学術院農学領域

官職又は役職 准教授

氏 名 笹浪知宏 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 静岡県畜産技術研究所中小家畜研究センター

官職又は役職 主任研究員

氏 名 中川佳美

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(平成 26年度募集)第 27回助成研究 ◆完了報告書(12件)

[ 研究育成型 ]

(1)グリーンイノベーション関連分野

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

シンビジウムの花飛びは、25℃以上の高温に遭遇すると花芽の生育停止(花飛び)を引き起こ

す現象であり、営利栽培において重大な問題である。このような高温障害は、農作物全体でも問

題になっており、高温障害が引き起こされる要因の解明と回避する方法の開発が不可欠である。

本研究では、シンビジウム高温耐性変異体を用いて、高温耐性機構を明らかにすることを目的に

研究を行った。シンビジウムの花飛び現象には、植物ホルモンであるエチレンの関与が推定され

ている。そこで、エチレン受容体およびエチレンシグナル伝達関連遺伝子をシンビジウムから単

離し、その発現様式を野生型と変異体の間で比較解析した。2つのエチレン受容体遺伝子、3つ

のエチレンシグナル関連遺伝子を新たに単離した。特に EIN2 や EIN4、CTR1 遺伝子はラン科植物

で初めて単離することに成功した。野生型は、高温(30/25℃)で 1週間生育させるとエチレン生

合成酵素遺伝子(ACS1、ACO1)、細胞死関連遺伝子(NAC1)が低温(20/15℃)で生育させた個体

と比較すると有意に上昇することが明らかになった。また、エチレン受容体遺伝子(ERS1、EIN4)、

シグナル伝達遺伝子(EIN2、CTR1、EIN3)の発現も上昇した。一方、高温耐性変異体では、低温

時に野生型の高温遭遇時レベルにエチレン受容体遺伝子やエチレンシグナル伝達遺伝子の発現が

上昇していたが、エチレン生合成や細胞死関連遺伝子の上昇は見られなかった。また、変異体が

高温遭遇した場合は、野生型の低温遭遇時レベルに発現が抑制されるなど、全く逆の遺伝子発現

様式を示した。ERS1、EIN4、EIN2、CTR1、EIN3、ACO1の発現パターンが類似しており、これらの

連携した発現変動が高温耐性に関与していると考えられた。

本研究で、高温における花芽成長停止はエチレン受容およびシグナル伝達の発現変化が耐性に

関与していることが示唆された。これらの結果からエチレンシグナル伝達に関する阻害剤や促進

剤を施用することで、高温耐性を付与できる可能性があることが予測される。今後の実験で、薬

剤処理を行うことで、高温耐性が付与できるかを確認していく。また、本研究では、シンビジウ

ムの高温耐性機構の分子機構を解明する基盤を確立することできた。今後、野生型と高温耐性変

異体間でエチレン受容体およびシグナル伝達遺伝子の塩基変異を調査することで、変異原因遺伝

子の同定と高温耐性機構を明らかにできると考える。本研究の成果は、園芸作物の夏季の高温に

耐えうる園芸植物を作出するための重要な知見になると考える。

研究テーマ 「 園芸作物の夏季高温に対する適応機構の研究 」

研究責任者 所属機関名 静岡大学学術院農学領域

官職又は役職 助教

氏 名 中塚 貴司 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名

官職又は役職

氏 名

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2.実施内容および成果の説明

1)背景と研究目的

東海地域は温暖な気候のため、野菜や花き、果樹などの園芸

品目の一大産地である。しかし、近年の地球規模の温暖化は東

海地域の農業にも大きな影響を及ぼし、高温により減収や生産

適地の移動が懸念されている。気温上昇により現在栽培してい

る作物にとって不良栽培環境になることは、これまで積み上げ

てきた産地や農村の崩壊を引き起こすことになる。対策の一つ

の時流は、植物工場に代表される人工的な環境制御であるが、

環境制御に投入するエネルギーコストから適応可能な作物は

限られる。一方で、不良栽培環境においても生育可能である新

たな品種を作出することも一つの解決策である。しかし、高温

耐性を示す育種素材は自然界では容易に出現しないため、園芸

作物の高温耐性メカニズムの解明が不可欠である。

園芸作物においては、特に花芽形成時期に高温に曝されることにより、正常な花芽形成が起こ

らず、奇形や発達停止が起こることが問題である(図1)。我々は、シンビジウムの夏の高温に

よる花芽が枯死する「花とび現象」について研究を行っている(Ohno et al. 1990)。冬に開花

するシンビジウムは、花芽を初夏から連続的に形成しているが、初秋までに形成した花芽は発達

することなく花芽のまま枯死する。高温遭遇による花や果実が形成しない現象は、イネやトマト、

メロンなどでも報告されている。我々のこれまでの研究で、植物ホルモンの一つであるエチレン

が、花飛びの誘導に重要であることが明らかになっている。そこで、本研究では、シンビジウム

からエチレン受容体およびシグナル伝達に関連する遺伝子を単離し、野生型および高温耐性変異

体において遺伝子発現の違いを評価し、高温耐性機構の解明を目指した。

図 1 シンビジウムの花飛び現象

正常花序(左)、花飛び花序(右)

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2)シンビジウムの花飛びに関与する遺伝子の単離

シンビジウム ゴールデンスター ルビ

ーアイズからエチレン生合成およびシグ

ナル伝達関連遺伝子の単離を試みた(図 2)。

シンビジウム花冠から RNA を抽出し、

SureSelect Strand Specific RNA ライブ

ラリー調整キット(アジレント)を用いて

作成した cDNA ライブラリーを MiSeq(イ

ルミナ)で次世代シークエンス解析を行っ

た。得られたデータは、Trinity プログラ

ムを用いてコンティグを再構築した。アラ

ビドプシスで既知とされているエチレン

受容体(ETHYLENE RESPONSE 1 [ETR1],

ETHYLENE RESPONSE SENSOR 1, 2

[ERS1, ERS2], ETHYLENE INSENSITIVE 4

[EIN4] ) 、 エ チ レ ン シ グ ナ ル 伝 達

(CONSTITUTIVE TRIPLE RESPONSE 1 [CTR1]、ETHYLENE INSENSITIVE 2,3 [EIN2, EIN3])

をクエリーとして用いて、シンビジウム相同遺伝子の探索を行った。その後、SMARTer RACE 5'/3'

Kit(タカラバイオ)を用いて完全長 cDNAを決定した。

シンビジウムからエチレン受容体として、CyERS1と CyEIN4 の 2遺伝子を単離した。CyERS1は、

630 残基のタンパク質をコードしており、オンシジウムとコチョウラン ERS1 とそれぞれ 93.8%と

91.3%の相同性を示した。シンビジウム CyERS1 は、N 末端に 3 回の膜貫通ドメインを有している

が C 末端のレシーバー様ドメインは存在しなかった(図 3)。一方、CyEIN4はアブラヤシ EIN4-like

と 72.8%の相同性を示し、ラン科植物では初めて単離された。多くの植物で報告のあるエチレン

受容体遺伝子 ETR1の相同遺伝子は、シンビジウムには存在しなかった。

エチレンシグナル伝達遺伝子として、シンビジウムから CTR1、EIN2、EIN3の相同遺伝子をそれ

ぞれ 1 個ずつ単離した(図4)。CTR1 はエチレン受容体と結合して機能すると考えられており、

一方 EIN2 は明確な遺伝子機能はモデル植物においても明らかにされていない。また、EIN3 はエ

チレン応答の転写調節因子であることが知られている。CyCTR1 は 829 残基のアミノ酸をコード

しており、アブラヤシ CTR1-like と 64.9%の相同性を示し、これもラン科植物では初めて単離さ

れた。CyEIN3 は、589 残基のアミノ酸をコードしており、オンシジウム EIN3-like と 86.3%

の相同性を示した。CyEIN2 は完全長 cDNA の決定には至らなかったが、が、コーティング

領域は決定することができた。

図2 エチレン受容とシグナル伝達の模式図

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本研究において、シンビジウムから単離された CyEIN4 と CyCTR1、CyEIN2 は、ラン科植

物では初めての報告であり、花飛びに関するエチレンシグナルを理解するための重要な発見

であると考えられる。

2)シンビジウムの高温時のエチレンシグナル伝達遺伝子の変動

本実験で単離したエチレン受容体およびエチレンシグナル伝達関連遺伝子の発現解析を野生型

および変異体を用いて行った。当研究室で見いだされた高温耐性変異体は、ゴールデンスター ル

ビーアイズ枝変わり個体であり、形態的違いは全くないが、夏期の高温遭遇においても花芽の枯

死(花飛び)を引き起こすことがない。

3.5~4.0cm 長の花序を持つ株を 20/15℃(通常栽培)または 30/25℃(高温処理)のインキュ

ベーターを移動し、7 日間温度処理した。野生型は、20/15℃では正常に生長したが、30/25℃で

は黄化し生育を停止した(図1)。一方、高温耐性変異体では、20/15℃または 30/25℃のどちら

においても生育し、有意な差が見られなかった。

図3 エチレンシグナル伝達関連遺伝子の推定アミノ酸配列に基づく分子系統樹

A) CTR1、B) EIN2、C) EIN3

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Mita et al. (2006)は、花

飛び特異的にエチレン生合成

酵素遺伝子(CyACS1と CyACO1)

と細胞死関連遺伝子 CyNAC1の

発現が上昇することを報告し

た。そこで、今回の温度処理

における CyNAC1遺伝子の発現

を調査したところ、野生型は高

温処理で CyNAC1 遺伝子の発

現が著しく上昇したが、変異

体では上昇は検出されなかっ

た(図5)。同様にエチレン

生合成酵素遺伝子の一つであ

る ACC合成酵素遺伝子(ACS1)

も野生型の高温処理で上昇し

た。一方、ACC酸化酵素(ACO1)

遺伝子は、野生型では高温処

理で上昇したが、変異体では

通常栽培で強く発現しており、

高温処理で発現量は減少した。

この変異体での ACO1 遺伝子

の発現様式は予想外であり、

このことが高温耐性と関連が

あるかもしれないと予想され

た。

次に、エチレン受容体およびシグナル伝達遺伝子の発現を野生型および変異体で比較した。野

生型では、高温処理で低温処理より ESR1、EIN4、EIN2、CTR1、EIN3の調査したすべての遺伝子の

発現が有意に増加した(図6)。一方、高温耐性変異体ではこれらの遺伝子が低温処理で強い発

現をしており、一方高温処理では逆に減少していることが明らかになった。特に、ERS1 と CTR1

遺伝子は高温耐性変異体の低温栽培が最も発現量が高かった。ERS1と EIN4のエチレン受容体は、

エチレンと結合することでフィードバック制御が行われることが知られている(Hua and

Meyerowitz, 1998)。また、CTR1はエチレン受容体と結合し、エチレンシグナルにとって負のシ

グナルであることが知られている。高温耐性変異体の低温栽培で、エチレンが存在しない状態で

CTR1が強く発現していることは、エチレンシグナルを抑制していることになる。また、転写調節

因子である EIN3は、遺伝子発現レベルではなくタンパク質のリン酸化で活性を制御していること

が知られている(Guo and Ecker, 2003)。そのため、高温耐性変異体で EIN3 発現レベルが高い

が、タンパク質リン酸化が起こっていないためエチレン応答遺伝子(NAC1や ACS1)の転写が低レ

ベルのまま維持していると推定された。

図4 細胞死関連(A)およびエチレン生合成連遺伝子(B)の発現様式

図5エチレン受容体(A)およびシグナル伝達遺伝子(B)の発現様式

85

これらの結果より、高温耐性変異体では、花飛びの誘導因子であるエチレン生合成酵素遺伝子

である ACS遺伝子の発現が高温で誘導されず、また細胞死関連遺伝子である NAC1遺伝子が発現し

ないため花飛びが起こらないと考えられた。しかし、今回の解析結果からは、これらの2つの遺

伝子が変異原因であるとは考えられない。エチレン受容体とシグナル関連遺伝子の発現挙動が、

野生型と比べて高温耐性変異体では全く異なる応答をしていることが今回の実験で初めて明らか

になった。今後は、各遺伝子のゲノム配列の解析や、エチレンやエチレン阻害剤を処理した個体

での発現解析を行うことで、原因遺伝子の同定が可能であると考えられる。

3)引用文献

Guo H and Ecker JR (2003) Plant responses to ethylene gas are mediated by SCF

(EBF1/EBF2)-dependent proteolysis of EIN3 transcription factor. Cell 115(6): 667-677.

Hua J, Meyerowitz EM. (1998) Ethylene responses are negatively regulated by a receptor gene family

in Arabidopsis thaliana. Cell. 94(2):261-271.

Mita S, Henmi R and Ohno H (2006) Enhanced expression of genes for ACC synthase, ACC oxidase,

and NAC protein during high-temperature-induced necrosis of young inflorescences of Cymbidium.

Physiologia Plantarum 128 (3): 476-486.

Ohno H (1991a) Microsporogenesis and flower bud blasting as affected by high temperature and

gibberellic acid in Cymbidium (Orchidaceae). Journal of Japanese Society for Horticulture Science

60 (1): 149–157.

Ohno H (1991b) Participation of ethylene in flower bud blasting induced by high temperature in

Cymbidium (Orchidaceae). Journal of Japanese Society for Horticulture Science 60 (2): 415–420.

86

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

本研究では、輸送青果物の物理的負荷および周囲環境情報の取得のため、マルチセンサユニッ

トを搭載した青果物サンプルの開発を目指し、センサの選定および作成したプロトタイプの性能

試験を実施した。加えて、輸送振動を適切に把握できるか確認するための振動試験を実施した。

作成したプロトタイプは、メインボードに AVRマイコンを配置し、物理的負荷測定には 3軸加速

度・ジャイロセンサ、周囲環境測定には温湿度センサと酸素センサ、データ収録には microSDを

用いて構成した。各種センサの計測精度は輸送負荷測定に対して十分な性能があることが確認で

きた。また、模擬輸送振動試験を実施し、これまで実施されてきた輸送振動試験と青果物が個別

に暴露される振動の差異が確認でき、かつ既存の梱包材の有用性も確認された。本青果物サンプ

ルは未だ製作途中にあり、即現場で使用できるレベルではない。今後、省電力化のためのデータ

収録アルゴリズムの検討とサンプル表面の摩擦特性や重量・慣性モーメントの調整を行い、実際

の青果物に近づける必要がある。最終的には、完成した青果物サンプルを用い、実輸送時の青果

物振動と鮮度・品質の関係を調査し、輸送、梱包方法の検討や、インフラが整っていない地域の

ハザードマップ作成などに役立てていきたい。

2.実施内容および成果の説明

I はじめに

今後 2020年までに、中国・インドを含むアジア圏の食市場は 82兆円から 229 兆円になること

が見込まれ、約 3倍になると予想されている(「輸出戦略」,農林水産省).近年、日本の農林水産

物・食品輸出額は、5千億円付近を推移してきたが、平成 27年度では遂に輸出額が 7千億円を突

破した(「平成 27年農林水産物・食品の輸出実績」,農林水産省)。日本の動きとしては、食文化・

食産業のグローバル化へ向けて市場の拡大、JAPANNブランドの推進、輸出環境の推進等が行われ

ている。しかし、輸出入農産物の品質・鮮度を維持する輸送技術についての研究は遅れている現

状にある。それには、輸送農産物自身がどの程度の機械的負荷に曝露されているか正確に把握で

きていない問題がある。一方、食品の安全性や商品の選択への関心の高まりを受け、生産、加工、

流通の各段階での食品の移動を把握するためトレーサビリティーが多くの食品に関して導入され

ている。この中では、食品の流通経路とロット管理により、いつ、どこで、だれが、どれだけと

研究テーマ 「青果物の長距離輸送評価のためのマルチセンサユニット内蔵サンプルの開発」

研究責任者 所属機関名 三重大学 大学院生物資源学研究科

官職又は役職 准教授

氏 名 福 島 崇 志 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名

官職又は役職

氏 名

87

いった情報を把握できる。しかし、事前に安全性を担保するためには、事後に確認できる管理情

報ではなく、安全性を損ないうる診断をリアルタイムで実施する必要がある。輸送段階での環境

情報の取得では、トラック、コンテナ内のセンシングは既に行われているが、果物や野菜などの

青果物では、呼吸熱やそれに伴う変質に加え、輸送振動などの物理的負荷を梱包資材全体で捉え

るのではなく,青果物自体の負荷を取得する必要がある。それらの情報を逐一センシングし、品

質・鮮度劣化の予測や警告を発するためのデバイス開発により、高度なトレーサビリティシステ

ムの構築が実現でき、また、輸送方法や品質保持技術開発に寄与する負荷特性や環境情報を局所

的に捉えることができる。

これらの背景から、本研究では、青果物の直近で環境条件を変えず環境情報を取得し、かつ青

果物自身が受ける物理的負荷を一括して把握するためマルチセンサユニットを搭載した青果物サ

ンプルの作製を目指す。サンプルには、青果物輸出額の 60%を占めるりんごを用いる。本研究で

はまず、センサユニットに搭載するセンサの選定および精度確認を実施した。その後、青果物サ

ンプル形状を 3Dプリンタで作製し、センサユニットを内部に固定したものを用いて、加振装置に

より計測確認実験を実施した。以上について、報告する。

II 青果物サンプル

2.1 センサユニットの構成

本研究では、今後のデータ取得方法やセンサ感度の調整などを、対象となる青果物や梱包方法

で設定できるように、マイコンボードによるデータ取得のユニットを構築した。メインのマイコ

ンボードには,Arduino Pro Mini(システム電圧 3.3V,内部クロック 8MHz)を用いた。本ボード

には、ATmega328P(Atmel Corporation)マイコンが搭載されている。本ボードをメインとして以

下の 2つのプロトタイプを作製した。

2.1.1 プロトタイプ 1(PT1)

Arduino Pro Miniをメインに、3軸加速度センサ ADXL345(AnalogDevice, Inc.)、3軸ジャイ

ロ ITG3200(InvenSense, Inc.)、サーミスタ 102AT-2(SEMITECH(株))、酸素センサ SK-25((株)

GS ユアサ)を搭載した。各センサから得られるデータは、microSD に保存できるようにモジュー

ルを接続した。加速度・ジャイロに関しては、I2C 通信によりデジタルデータを取得し、サーミ

スタおよび酸素センサはアナログ値を取得する。また microSD モジュールとは SPI 通信によりデ

ータ保存を行う。輸送青果物の環境情報としては、ガス濃度が重要であるが、今回は酸素センサ

のみ搭載した。二酸化炭素センサの検討も行ったが、消費電力が大きい点とセンサモジュールが

比較的大きいなどの欠点により断念した。また、本研究で用いる酸素センサはガルバニ電池式で、

給電の必要がなく、省電力化に有効である。一般的にガルバニ電池式のセンサは、周囲の二酸化

炭素の影響を受けるが、本センサは特殊フィルムにより、二酸化炭素の影響を受けない仕様とな

っている。

2.1.2 プロトタイプ 2(PT2)

PT1 同様にメインボードとして Arduino Pro Mini を用い、3 軸加速度・ジャイロ、酸素センサ

88

および microSDモジュールを搭載した。加えて、PT2では、温湿度センサ AM2321(Aosong Guangzhou

Electronics Co., Ltd.)も搭載した。AM2321は I2C通信によりデータを取得する。

なお、PT1,2ともにリチウムポリマー電池(3.7V,400mAh~650mAh)を使用し給電する

88

図 1 プロトタイプ 1(左)と 2(右)

2.2 青果物サンプル外観(図 2)

サンプルは、CADソフト SOLIDWORKS(Dassault Systèmes S.A.)を用いて形状を作り、熱溶解

式 3Dプリンタ UP Plus2(TierTime Technology)により作成した。赤道部分の直径はりんご(品

種:ふじ)の平均径である 8.5 cm 程度とした。ただし、初期の実験においては、プリンタの不

調もあり、市販の食品サンプルを購入し代用した。また、3Dプリンタで造形したものに関しては、

表面を滑らかにするため、グラインダおよび紙やすりにより凹凸を取り除き、さらにアセトンに

よる表面処理を施した。今回は青果物表面の摩擦特性等は考慮していないが、今後の検討課題と

したい。

図 2 食品サンプル(左)と 3D プリンタによる青果物サンプル(右)

III 実験

本研究では、各種センサの精度確認実験及び振動試験機による模擬輸送振動試験を実施した。

各実験方法について以下に述べる。

3.1 実験 1:酸素センサの検証

センサユニットはサンプル内部に搭載されるため、サンプル内外で計測精度に差がないか、ま

たサンプル内に外気を取り入れる通気口場所の違いによるセンサ精度に差異がないか検証した。

サンプル上部もしくは側面に通気口(φ10mm)を設けた食品サンプル内部に酸素センサを設置し

た場合とセンサを外部に露出した場合で計測した。ガス環境は、密閉したデシケータを用い、初

期濃度 16%から約 24%までの間で、5 分おきにガス封入口より、手動で酸素を導入し調節した。

比較対象として、酸素モニタ OXY-M((株)ジコー)をデシケータ内部に静置し、同時計測した。

3.2 実験 2:温度センサの検証

酸素センサと同様にサンプル内部におけるデータ取得がサンプル外気とどのような関係にある

かを調査した。サーミスタは事前にキャリブレーションを行い、サンプル外環境においては精度

よく計測できるように調節した。実験は、インキュベータ内にサンプルおよび温度計測機(おん

89

どとり、T&D)を設置し、20℃~40℃の範囲内で変化を与えた時の温度を計測した。

3.3 実験 3:データ記録時間

海外輸出の場合、航空機輸送で 2,3 日,船舶輸送では最大で 2 週間の時間を要する。本研究で

は、PT1 および PT2 それぞれについて、LiPo バッテリ 800mAh および 650mAh の容量を用いた場

合のデータ記録時間を計測した。条件として、SD へ直接記録する場合(記録 1)と,1 秒間の最

大値を記録する場合(記録 2)の 2 通りの実験を実施した。

3.4 3 軸加振装置による振動試験

青果物輸送時の振動条件を再現可能な食品流通振動試験機(FVV-3337,鷺宮製作所)を利用し、

模擬輸送時振動試験を実施した。実輸送試験ではなく、試験機による振動試験は、同じ振動条件

下でデータ取得方法や梱包方法などを複数試行できる利点がある。データ取得の方法としては、

実験 3 の結果を受け、1 秒間における最大の加速度値を記録する方法を採用した。また、試験機

への入力は、実輸送時のトラック振動データを用いた。本データに関しては、保持している先か

ら非公開の依頼があるためここでは割愛する。本試験機を利用し、以下 3 つの実験を実施した。

3.4.1 実験 4:既存の衝撃センサとの比較

プロトタイプの計測精度を検証した。振動試験台に PT1,2 および衝撃センサ G-men DR20(SRIC

Corporation)を両面テープおよびロープで固定し、振動試験を実施した。

3.4.2 実験 5:模擬輸送試験 1

プロトタイプを用いて、実際の輸送状態を再現した振動試験を実施した。図 3 のように 2 個入

り箱に実際のリンゴおよびプロトタイプを入れ、箱を閉じ振動試験台に特に固定はせず静置した。

なお、それぞれはフルーツキャップを取り付けてある。また、DR20 は箱外の振動台に固定し、同

時計測した。

図 3 箱内に設置された青果物サンプル

3.4.3 実験 6:模擬輸送試験 2

フルーツキャップを取り除いた条件で振動試験を実施した。フルーツキャップ以外の条件は、

前項実験 5 と同条件とした。

IV 結果および考察

4.1 実験 1

サンプル上面と側面に通気口を設けた場合で、計測精度に差は見られなかった。図 4 にセンサ

を上部に通気口があるサンプル内部に設置した場合の酸素濃度計測結果を示す。少々外れ値が確

90

認されたが、精度としては十分である。サンプル内部に設置した場合は、値が安定するまでに時

間遅れがあったが、90 秒以内の遅れはセンサ仕様を満たしたものであった。

4.2 実験 2

温度センサをサンプル内部に設置した場合は外気温に比べ、温度が上がりにくく下がりにくい

という特徴が確認された。また、最大・最小温度のピークの位置にずれがあることから時間遅れ

が確認された。実際の青果物の鮮度や品質に関しては、これまで周囲温度が指標として用いられ

た。しかしながら青果物自体の伝熱特性やサイズも影響するものと考える。本計測のように得ら

れる温度データを今後どのように活用するかは検討する必要がある。

4.3 実験 3

表 1 に結果をまとめる。記録 1 では SD への記録終了後すぐ次のデータを取得・記録するよう

にしたものである。記録 2 はマイコン内で 1 秒間データを取得し続け、その中で最大値を 1 秒ご

とに SD に記録する。記録 1 では計測開始時が最もサンプリング周波数が高く、時間経過ととも

にサンプリング周波数が減少した。最終的には 2Hz まで低下した。バッテリ電圧値に依存するよ

うに考えられた。本プロトタイプでは、電力消費の多くが SD への書き込みである。そのため、

書き込み回数を減らすことでデータ記録の継続時間が延びる。現状のデータ記録方式では、国内

輸送に関しては問題ないが、海外輸出では記録時間が不足する。船輸送では海上航行中の振動は

ほぼないに等しい。そのため、振動値によるスリープモードなどを導入し、振動発生時には集中

的にデータを収録するなどのシステムへの改善が望まれる。

表 1 データ記録時間

記録

方式

サンプリン

グ周波数,

Hz

データ

数,line

記録時

間,

Day:hr:mi

n

PT

1 1

最大約 41 1,483,90

2 1:4:28

2 約 368 193,955 2:6:4

PT

2 1

最大約 36 1,195,83

5 1:4:00

2 約 370 192,453 2:7:35

15

16

17

18

19

20

21

22

23

24

25

0 300 600 900 1200 1500 1800 2100 2400

Co

nce

ntr

atio

n o

f O

2(%

)

Time(s)

sensor(IN)

OXY-M

図 4 酸素濃度計測結果

(サンプル内部にセンサ設置)

91

4.4 実験 4

鉛直方向の振動データの取り扱いが、プロトタイプと DR20 では、異なるため今回は比較的振

動の大きな水平方向の振動データを比較する。図 5 は輸送振動 1 サイクル分を抜粋した結果であ

る。市販の振動センサ同様にプロトタイプでも振動計測が可能であることが家訓された。

0

0.2

0.4

0.6

0.8

1

1.2

0 5 10 15 20 25 30 35

Acc

ele

rati

on

, G(

m/s

2)

time, s

PT1 PT2 DR20

図 5 プロトタイプと DR20 の比較

4.5 実験 5

図 6 にプロトタイプ(箱内,フルーツキャップ有)の振動と DR20(箱外、振動台に固定)の振

動の比較を示す。箱外に設置される DR20 の計測結果は、箱内にあるプロトタイプの振動より大

きな値を示した。プロトタイプはフルーツキャップにより、振動が低減されているものと考えら

れる。既往の研究で、実施されてきた振動計測では、青果物自身に作用する振動を再現できない

ことが見て取れる。

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

0.6

0.7

0.8

0.9

0 5 10 15 20 25 30 35

Acc

ele

rati

on

, G(

m/s

2)

time, s

PT1 PT2 DR20

図 6 箱内外の振動比較

4.6 実験 6

最後に、図 7 にフルーツキャップなしで箱詰めした場合の振動計測結果を示す。通常はフルー

ツキャップなしでの梱包の場合は、果物用のモウルドパックなどを使用し梱包される。今回は、

フルーツキャップなしでの輸送リスクを確認するためにもあえて実験を行った。結果、振動台の

振動に比べ、箱内にあるプロトタイプの振動が激しいことが分かる。フルーツキャップがないた

めに、箱内で側面との接触や隣接する青果物との接触のために大きな加速度値を示しているもの

と考えられる。本結果より、フルーツキャップの有効性が確認された。

92

0

0.5

1

1.5

2

2.5

0 5 10 15 20 25 30 35

Acc

ele

rati

on

, G(

m/s

2)

time, s

PT1 PT2 DR20

図 7 フルーツキャップなしでの青果物の振動

V まとめ

本研究では、輸送青果物の物理的負荷および周囲環境情報の取得のため、マルチセンサユニッ

トを搭載した青果物サンプルの開発を目指し、センサの選定および作成したプロトタイプの性能

試験を実施した。加えて、輸送振動を適切に把握できるか確認するための振動試験を実施した。

なお、今回報告書では述べていないが、ジャイロ,温湿度センサにおいても精度確認を実施した。

加速度・ジャイロセンサに関しては、市販の振動センサと遜色なく計測が可能であった。環境情

報を取得するための酸素センサ、温湿度センサに関しても適切に値を取得できることを確認した。

実輸送試験においては、振動台(想定としてはトラック庫内床面)と箱内にある青果物のそれぞ

れの振動の差異が確認され、且つフルーツキャップの有用性も確認された。今後は、実際の輸送

試験を見据え、データ取得のアルゴリズムの検討を重ね、必要なデータを長時間計測できるよう

に改善を重ねる。今回データ収録に microSD を使用したが、振動に暴露される状況では、ソケッ

トにおいて接触不良を引き起こすことが懸念された。実際に計測が途中で終了した事例も発生し

た。データ収録にはマイコンに外付けできる RAM メモリに変更するや、一時メモリを利用し定

期的に無線通信によるデータ転送など、別のデータ収録方法を検討する。最終的には、実輸送時

の青果物振動と鮮度・品質の関係を調査し,輸送,梱包方法の検討や,インフラが整っていない

地域のハザードマップ作成などに役立てていきたい。

本研究に関する実績

· Fukushima, T, Y. Tsuge, N. Nakamura and K. Sato. Development of device for monitoring environmental

and load information in fruit and vegetables transport. Proc. ISMAB 2016. Nigata, JPN. 23-25 May 2016.

発表予定

· 告勇人,福島崇志,中村宣貴,佐藤邦夫.青果物を対象とした環境情報モニタリングデバイスの

試作.農業情報学会.鹿児島市.2015.12.10.

· 告勇人,福島崇志,中村宣貴,佐藤邦夫.マルチセンサユニットを搭載した青果物サンプル作製

のための各種センサの検討.農業環境工学関連 5 学会合同大会.盛岡.2015.9.14-18.

93

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

機械構造物の振動や騒音の抑制は、快適空間創成のために重要である。そのため、自動車など

の輸送機器では制振材が多く用いられている。従来、制振材は石油由来の合成ゴムを用いた製品

が多い。昨今では,地球温暖化問題を背景として、機械構造物の易リサイクル化が進められてお

り、制振材についてもバイオマス材料の利用が注目されている。しかしながら、バイオマス材料

は減衰特性が小さいという短所を有する。そこで本研究では、バイオマス材料である天然ゴムに

微粒子を複合化し、減衰特性の大きいバイオコンポジットゴム材料の開発およびその評価を行っ

た。母材として天然ゴム、微粒子としてバイオマス材料であるセルロース微粒子を用い、バイオ

マス比率の非常に高いバイオコンポジットゴムを製作した。粘弾性体に微粒子を複合化すること

で減衰特性が大きくなることは一般的に知られているが、そのメカニズムは明らかにされていな

い。そこで、微粒子の形状、配合量、配向、微粒子/ゴムの接着強度によって減衰特性がどう変

化するのかを調査した。減衰特性の評価は、製作した制振材を用いて制振鋼板を作り、制振鋼板

を打撃試験することで行った。減衰特性としては減衰比で評価し、モード形状(またはモード次

数)毎に評価を行った。

その結果,以下の知見を得た。

・ 微粒子形状のアスペクト比によって、配向の影響が現れる。アスペクト比が大きい場合、曲

げ変形が起こる長手方向に対して、0°配向すると,減衰特性が大きく現れる。

・ 微粒子の配合量が増加すると減衰特性は単調増加し、モード次数が増加するにつれて減衰比

は単調減少する傾向を示す。

・ 微粒子とゴムの親和性を高める配合剤を添加することで微粒子/ゴムの接着強度が異なる制

振材を製作し減衰特性を評価した結果、減衰比としてはその影響が現れなかった。これは、

振動という微小変位領域では、微粒子/ゴムの固着域から滑り域に遷移することがなかった

ためであると考えられる。

以上のように、微粒子の複合化に伴うゴム制振材の減衰特性変化について調査を行い、幾つかの

知見を得ることができた。この結果を基に今後も調査を進め、微粒子の配合よって、制振材の減衰特

性を任意にコントロールする材料設計の指針の確立を目指す。それにより、制振材自体の使用量削

減、軽量化、バイオマス制振材の普及が促進され、循環型社会の実現に向け貢献することができ

研究テーマ 「セルロース微粒子を用いた新しいバイオコンポジットゴム制振材の減衰特性評

価」

研究責任者 所属機関名 豊橋技術科学大学 機械工学系

官職又は役職 助教

氏 名 松原 真己 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 兵庫県立工業技術センター

官職又は役職 上級研究員

氏 名 長谷 朝博

94

る。

2.実施内容および成果の説明

(1)試験材料

木材パルプを微粒子化した板状セルロース微粒子、繊維状セルロース微粒子をフィラーとし、

NRを母材としたバイオマス比率の高いゴム材料を製作した。使用したセルロース微粒子を図 1に

示す。

NRはリブドスモークドシート(RSS)1号を使用し、ゴム用配合剤としてはステアリン酸、酸化

亜鉛、硫黄、加硫促進剤(スルフェンアミド系促進剤 BBS)を用いた。なお、配合比率について

は JIS K 6352に記載の標準配合(純ゴム配合 2)に準じ、セルロースの配合比率を変化させ配合

した。また、微粒子とゴムの親和性を改善する添加剤の有無により、接着強度に強弱を与えた制

振材も作成した。制振鋼板の基材の材質は SUS403、寸法は 200×20×0.4t とした。ゴムと基材の

接着は、ゴム/金属用加硫接着材剤(メタロック G-25,メタロック PA,東洋化学研究所製)を用

いた。

セルロースと NRの複合化は、密閉式混練機(ラボプラストミル 10C100型,東洋精機製作所製)

を用い、得られた複合ゴムをオープンロールによりシート出しを行った。このシートを接着剤が

塗布された基材に挟み込み、圧縮成形機にて 150 ℃で所定時間加硫し、拘束型制振鋼板を製作し

た。制振鋼板の寸法を図 2に示す。

(a) 板状 (b) 繊維状

図 1 セルロース微粒子の SEM画像 図 2 制振鋼板の寸法

(2)減衰特性の評価方法

2.1 試験概略

制振鋼板に打撃試験を行い、周波数応答関数

(FRF)から減衰特性を同定する。試験概略図を図

3に示す。境界条件は両端自由支持とし、糸を吊

るす位置は 1次モードの節の位置とした。入力は

インパクトハンマによるインパルス加振とし、応

答は加速度ピックアップにより計測した加速度と

する。周波数分析装置より FRFを求める。

図 3 試験概略図

95

室温(25℃)、周波数分解能 0.125 Hz、周波数帯域は 400Hzまでとした。対象は曲げモード、平

均回数を 5回とし、共振点付近のコヒーレンスは 0.97以上を確保するように試験を実施した。

2.2 試験概略

本試験において、FRF としてアクセレランス(加速度/力)を得ることができる。この FRFか

ら減衰比を同定する手法として、河村らの方法を用いる 1)。

質量 m,ばね剛性 kからなる 1自由度系のアクセレランス について考える。なお、gは構造減衰

係数を表し、jは純虚数、fは周波数を表す。アクセレランス の実部を R,虚部を Iとし、分

けて記述すると次式のようになる。

エラー! 編集中のフィールド コードからは、オブジェクトを作成できません。

(1)

エラー! 編集中のフィールド コードからは、オブジェクトを作成できません。

(2)

式(1)、(2)より、kを消去し、固有振動数 fp、構造減衰係数 gで整理すると次式の方程式が成立

する。

エラー! 編集中のフィールド コードからは、オブジェクトを作成できません。

(3)

式(3)は傾き 1/fp2、切片-g の 1次関数と見なすことができ、最小二乗法より、固有振動数 fp,

構造減衰係数 gを同定することができる。1自由度系を想定しているため、同定においては各次

ピーク近傍の実験データを使用する。なお、構造減衰係数は損失係数と同値であり、減衰比の 2

倍の値である。本研究では減衰比を用いて減衰特性の評価を行う。

NRのみを用いた制振鋼板における FRFを図 4に示す。図 4より、400Hz以下ではピークが 3つ

存在することがわかる。ピーク周波数を中心点とし、実験データを 101点用いて式(3)を図示した

もの図 5に示す。シンボルはそれぞれ使用した 1次、2次、3次のピーク付近のデータ群を表して

いる。これらは線形性を有していることがわかる。この集合それぞれについて近似式を式(3)とし

て見立て最小二乗法を適用からパラメータである固有振動数と減衰比を同定する。

図 4 打撃試験概略図 図 5 打撃試験概略図

f

f

R

I

f

ff

R

I

2

96

(3)各配合条件による減衰特性への影響

3.1 配合量

板状セルロースの配合量 0、20、50 phrにおける FRFを図 6に示す。図 6より配合量によって、

固有振動数が増加していることがわかる。これは拘束型制振鋼板において中間材料であるゴム材

料の剛性が大きく影響しているためである。一般的に微粒子の配合により複合ゴムの剛性は大き

くなるので、その影響が表れている。また、図 6より、FRFのピークの大きさが配合量によって、

低下していることがわかる。これは減衰比が大きくなっていることを示している。3章の式(5)及

び FRFの実験データより、減衰比を同定した。1~3次の減衰比を図 7に示す。1~3次の減衰比を

比較すると、配合量が大きくなると、減衰比の変化率が大きくなることがわかる。また以上のよ

うに、減衰比を効率よく変化させるためには微粒子の配合量を多くする必要がある。

図 6 打撃試験概略図 図 7 打撃試験概略図

3.2 界面接着性の強弱

図 8に界面処理剤を配合した場合の結果について併記する。界面処理剤は FSCP配合量、0,、20、

50 phrの条件について配合した。プロットシンボル は界面処理剤有を表している。FSCP配合量

の増加によって減衰比が増加するというメカニズムが FSCPと NRの界面によるエネルギー損失と

するならば、FSCP配合量 0 phrにおいて減衰比は変化せず、20、 50 phrにおいて減衰比が変化

することが予想される。FSCP配合量 0、 20、 50 phr について、界面処理剤の有無による減衰比

を比較すると、ほぼ一致するような結果となっている。これは界面処理剤の配合によって減衰比

に影響が表れなかったことを示している。すなわち、本試験においては、微粒子の配合に伴う減

衰特性変化は界面の影響ではないと考えられる。しかしながら、引張試験を行った先行研究を確

認すると、ヒステリシス特性は変化しているという報告がなされており、微小振幅領域であれば、

粒子/ゴム間で剥離が起きず、接着強度の強弱の影響が現れなかったものと考えられる。

97

(a) First mode (b) Second mode

図 8 減衰比の比較

3.3 粒子形状および粒子配向

板状、繊維状セルロース微粒子を 50phr配合

した場合の減衰比の比較を図 9に示す。アスペ

クト比はそれぞれ約 1と約 5である.粒子配向

についてはローラーの回転方向に微粒子の繊

維方向がそろうことは先行研究から示されて

いることを利用して、はりに対して繊維方向

0°、90°における制振鋼板を作成した。図 9

に示すように、50phrにおいて、繊維状の影響

がでていることがわかる。一方、アスペクト比

が約 1である板状は繊維状と比較して特性変

化が表れない。繊維状においては 0°と 90°で

ピーク周波数が変化しており、0°の方が 90°

に対して曲げ剛性に影響を与えることがわかる。さらに 0°が 90°に比較して減衰比が大きいと

いうことがわかる。以上のことからアスペクト比が 1であれば配向を考慮せず、配合量で減衰特

性をコントロールできる。一方、アスペクト比が大きい場合には配向を考慮してコントロールを

する必要がある。

(4)まとめ

セルロース微粒子をフィラー、天然ゴムを母材としたバイオマス比率の高い複合ゴムを用いて、

制振鋼板を製作し、その減衰特性を評価した.得られた知見は以下の通りである。

・ 微粒子形状のアスペクト比によって、配向の影響が現れる。アスペクト比が大きい場合、曲

げ変形が起こる長手方向に対して、0°配向すると,減衰特性が大きく現れる。

・ 微粒子の配合量が増加すると減衰特性は単調増加、モード次数が増加するにつれて減衰比は

単調減少する傾向を示すことを確認した。

・ 微粒子とゴムの親和性を高める配合剤を添加することで微粒子/ゴムの接着強度が異なる制

振材を製作し減衰特性を評価した結果、減衰比としてはその影響が現れなかった。これは、

振動という微小変位領域では、微粒子/ゴムの固着域から滑り域に遷移することがなかった

図 9 打撃試験概略図

98

ためであると考えられる。

減衰特性はエネルギーの消散により決まるが、その消散メカニズムは未解明である。今後も調

査を続け、微粒子の配合よって、制振材の減衰特性を任意にコントロールする材料設計の指針の

確立を目指す所存です。

参考文献

1) 河村庄造,加藤佑一,原田政広,感本広文,低減衰特性を有する部材の振動特性評価に関する

研究,Dynamics & Design Conference 2013,Papar-No.322 (2013).

本研究課題に関係する成果発表(下線部は研究責任者および共同研究者を示す)

1. Masami Matsubara, Shozo Kawamura, Asahiro Nagatani, Nobutaka Tsujiuchi, Akihito Ito,

Evaluation of damping properties of damping beam with natural rubber/cellulose

composites, Proceeding of 16th Asia Pacific Vibration Conference, pp.54-58 (2015).

2. 松原真己,長谷朝博,辻内伸好,伊藤彰人,伊勢智彦,河村庄造,微粒子充てん複合ゴムの

減衰特性に対する繊維配向の影響,第 7回自動車用途コンポジットシンポジウム,p.59 (2015).

99

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

雨天時にも対応した電気自動車への高効率ワイヤレス電力伝送回路を実現するためには、大電

力下における淡水・海水の高周波電気特性の測定データが必要となる。そこで、本研究では淡水・

海水の大電力高周波電気特性を測定する方法の確立を行った。

提案法は線路間に液槽を配置した結合線路の複素端子電圧を測定して複素誘電率を算出する方

法である。提案法は結合線路と高周波電源を整合する。そのため、入力電力は電源側へ反射され

ず、結合線路を介して整合終端で消費される。測定対象の複素誘電率は結合線路の各複素端子電

圧から算出される。以上より大電力入力時でも測定機器を破壊することなく、複素誘電率を導出

できる。実際に液槽を有した結合線路を設計し、提案する測定系を構築して淡水の大電力測定を

行った。結果、測定系への入力電力が 1,000 Wでも測定可能であることが実証された。

続いて、提案法と従来法の精度比較を行った。従来法は平板コンデンサ法を用いた。比較方法

は次の通りである。まず、従来法で測定した複素誘電率を提案法の電磁界解析モデルに材料パラ

メータとして反映し、透過反射特性を計算する。計算結果から結合線路の各複素端子電圧を算出

し、実際に提案法で測定した複素端子電圧と比較する。結果、その差は 6%未満となった。この差

には製作誤差、測定誤差、解析誤差が含まれていることを考慮すると高い精度で複素誘電率の算

出が可能であるといえる。

最後に 1~1,000 Wまでの入力電力に対する複素誘電率の算出を行った。結合線路自体は線形シ

ステムなので入力電力に対し複素電圧比は一定となるが、測定結果から得られた端子間の複素電

圧比は入力電力の増加に対し減少した。これは液体の複素誘電率が非線形性を有することを示唆

している。複素誘電率においては、正確な値を算出できず、算出式の条件を再検討する必要があ

ることが分かった。

以上の成果より、大電力下における淡水・海水の高周波電気特性の測定系は構築され、その測

定精度も明らかとなった。一方で、複素誘電率の正確な導出には至らなかった。今後は複素誘電

率を算出する理論式を確立し、液体の複素誘電率が非線形性を示すことを実証する。この成果は、

電気自動車の開発速度加速だけでなく、様々な材料の大電力特性の解明や無人自律型無人探査機

などへの水中無線給電の開発にも大きく貢献することが期待される。

2.実施内容および成果の説明

1.はじめに

現在、電気自動車へのワイヤレス電力伝送方式について様々な方法が研究されている。これら

の方式は自由空間を想定して検討を進めているが、実際の使用時に想定される雨や雪、潮風(海

水)といった淡水・海水の影響を考慮した検討はまだ行われていない。その理由は、淡水・海水

の高周波電気特性がデバイの分散式により線形特性を示す誘電体とみせることが知られているた

めである。一方、実際の給電は kWオーダーの大電力を使用するため、淡水・海水は次式で表現さ

研究テーマ 「 液体の大電力高周波電気特性測定システムの構築 」

研究責任者 所属機関名 国立大学法人 豊橋技術科学大学

官職又は役職 准教授

氏 名 田村 昌也 メールアドレス [email protected]

100

れる電界ベクトル E と双極子モーメント P の関係式から非線形分極を生じ、給電周波数において

非線形性を持つことが予想される。

エラー! 編集中のフィールド コードからは、オブジェクトを作成できません。

( 0:真空の誘電率, (1):1次非線形分極率, (2):2次非線形分極率)

この場合、デバイの分散式で淡水・海水の高周波非線形電気特性を表現することは難しい。その

ため、大電力下における淡水・海水の高周波電気特性の測定データが必要となる。しかしながら、

従来の測定法では反射法や透過法を用いるため、大電力を入力すると測定機器が破壊されてしま

う恐れがある。したがって、kWオーダーを超える大電力を使用した場合の淡水・海水の高周波電

気特性を測定する方法を新しく確立する必要がある。そこで、本研究では淡水・海水の大電力高

周波電気特性を測定する方法の確立を行った。

2.測定系の提案と構築

図 1 に提案する測定系を示す[1]-[4].この測定系は,線路間に液槽を装荷したブロードサイ

ドカップリングの結合線路と高周波電源,ダミーロードとオシロスコープからなる。結合線路と

高周波電源は可変整合器によって整合されるため、入力電力はすべて結合線路を通過し、整合終

端で消費される。このような構成により、測定系に投入される電力は測定機器および高周波電源

の反射電力耐性に制約を受けない。測定対象となる液体の複素誘電率は、結合線路の各端子にお

ける複素電圧をもとに算出される。結合線路は外部からの影響を防ぐため接地導体で囲われたス

トリップライン構造を選択した。液槽は結合線路間とその両外側に配置してあるため、結合線路

を一様な媒質内に配置した状態を再現でき、複素誘電率の導出式を簡略化できる。また、液体は

液槽により伝送線路と絶縁されるため、電解質溶液である海水などの測定も可能となる。

図 1 提案する測定系の概要

101

-0.4

-0.3

-0.2

-0.1

0

0.1

0.2

0.3

0.4

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100

Ch1@16W

Ch2@16W

Ch3@16W

Ch4@16W

時間 (nsec.)

電圧

振幅

(V)

- 2 . 5

-2

- 1 . 5

-1

- 0 . 5

0

0 . 5

1

1 . 5

2

2 . 5

0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 1 0 0

C h 1 @ 1 k W

C h 2 @ 1 k W

C h 3 @ 1 k W

C h 4 @ 1 k W

時 間 (n s e c.)

電圧

振幅

(V)

図 4 結合線路の各端子電圧波形(淡水)@ 14 MHz

(左:16 W投入時,右:1,000 W投入時)

まず、提案法の効果を実証するため結合線路を設計し、測定系の構築を行った。線路の結合度

は液槽を配置した状態で-16 dB@14 MHzとした。電磁界解析には AET社製 CST STUDIO SUITE(CST)

を用いた。結合線路を覆う筐体はアルミニウム、伝送線路は銅、液槽はアクリルとした。結合線

路構造を図 2に、測定結果を図 3に示す。

本結合線路における結合度は# 1 - # 3 間の透過量を指し、シミュレーション結果-16.4 dBに

対して測定結果は-19.1 dB となった。試作制度より-2.7 dB の差が生じたが、シミュレーション

と測定結果でほぼ一致する結果が得られた。したがって、本試作機を用いて大電力特性の原理検

結合線路

Am

plit

ud

e (

dB

)

S11 (Sim.)

S12 (Sim.)

S13 (Sim.)

S14 (Sim.)

S11 (Exp.)

S12 (Exp.)

S13 (Exp.)

S14 (Exp.)

図 3 試作した結合線路(左:測定系、右:測定結果)

図 2 試作した結合線路(左:概略図、右:試作品)

Port 1

Port3

Port 2 Port 4

102

証は実施できる。

次に本結合線を用いて測定系を構成し、淡水の大電力測定を実施した[1]-[3].反射電力は SWR

メータで測定し、反射電力が 0 となるように可変整合器の調整を行った。誘電損失による液体の

加熱を防止するため連続電力投入時間を 10 秒以下とした。そのため、測定開始と終了で水温は

16℃と一定を保った.16 Wと 1,000 Wの電力をそれぞれ投入したときの各端子電圧を図 4に示す。

アベレージングはかけていないためノイズが見られるが、16 Wと 1,000 Wで電圧波形を測定で

きていることが確認された。波形の形状に顕著な差は確認されなかった。以上より、測定系への

入力電力が 1,000 Wでも測定可能であることが実証され、提案する測定系の効果は実証された。

3.従来法との確度比較

複素電圧の確度検証は、以下の手順で行った[5]。ま

ず従来法である平板コンデンサ法によって、淡水、塩

化ナトリウム溶液(5‰,10‰:人工海水用塩(GEX 社

製 シーウォータードライタイプ)を用いて作製)の

複素誘電率を導出する。導出した値は提案法の電磁界

解析モデルに材料パラメータとしてそれぞれ反映し、

透過反射特性を計算する。得られた結果から結合線路

の各複素端子電圧を算出し、実際に提案法で測定した

複素端子電圧と比較する。平板コンデンサは図 5 に示すようにアクリル板と銅箔を用いて作製し

た[4]。複素端子電圧の最大振幅(電圧と表記)と位相(timeと表記)の比較結果を表 1~3に示

す。V1~V4は図 2の Port 1~Port 4の複素端子電圧に対応している。

結果より、位相(time)の差は最大で 1.54%であるのに対し、最大振幅(電圧)の差は 5.97%

と大きいことが確認できる。これは複素誘電率の実部に対し、虚部の方が測定精度が低いことを

示している。

表 1 純水の比較結果

表 2 塩化ナトリウム溶液 5‰の比較結果

表 3 塩化ナトリウム溶液 10‰の比較結果

図 5 試作した平板コンデンサ

103

つまり、複素端子電圧から算出される複素誘電率は 6 %の不確かさを持つと考えられる。この差

には製作誤差、測定誤差、解析誤差が含まれていることを考慮すると高い精度で複素誘電率の算

出が可能であるといえる。ただし、今回の結果は 1 回の測定によるものであるため、今後は測定

回数を増やして誤差の統計処理を行う必要がある。

4.淡水・海水の大電力特性の解明

液槽を配置した結合線路は、一様な媒質で満たされた空間における結合線路と考えることがで

きる.。この場合、参考文献[3]より複素端子電圧から算出される

奇モード特性インピーダンス Z0O を用いて次式に示す奇モードの

複素誘電率 roが得られる。

エラー! 編集中のフィールド コードからは、オブジェクトを作成

できません。 (1)

ここで、w,b,s,Cfo, はそれぞれ図 6に対応する。算出さ

れた奇モードの複素誘電率 ro は、結合線路間に電気壁を配置したときの合成複素誘電率を表す

ことから液体の複素誘電率 rliqは次式より算出される。

エラー! 編集中のフィールド コードからは、オブジェクトを作成できません。

(2)

大電力下における複素誘電率の測定結果は報告されていないため、VNAによる小電力下(1 mW)

での測定結果を用いて各複素端子電圧を計算して複素誘電率を算出し、理論値やコンデンサ法に

よる測定値、文献値と比較することで導出式の

妥当性を検証した。結果を表 4に示す。

結果より空気のみ充填(Case A)は,理論値

(空気の複素誘電率)と比較すると実部で約

4.2 %,虚部で 0.36%の差異となった。結合線路

の製作精度を考慮すると妥当なばらつき範囲と

考えられる。一方、何も充填していない水槽の

みの場合(Case B)と水槽に淡水を充填した場

合(Case C)は正しく複素誘電率を算出できな

かった.式(1)の導出条件に課題があると考えら

れ、再構築する必要がある。

一方、複素電圧から非線形性を予測することは可能である。結合線路自体は線形システムなの

で入力電力に対し線形出力が得られる。すなわち、Port 1(入力端子)と Port 2(出力端子)の

複素電圧比は一定となるはずである。これを確かめるべく、淡水(水道水)、および人工海水用

塩を用いて作製した 3.4 %および 4.0 %の人工海水の大電力入力に対する複素電圧比を算出した

[1],[2].測定条件および方法は2章に示したとおりである。複素電圧比は測定周波数 14 MHz に

おいて得られた波形データから信号処理ソフト(Scilab)を用いて算出した。複素電圧比 V2/V1

の電力特性を図 7 に示す。結果より、淡水,3.4 %人工海水,4.0 %人工海水において、いずれも

電圧比は入力電力に対して減少する傾向が得られた。入力電力 1 Wと 1,000 Wで比較すると約 9.5 %

減少している。液槽を構成するアクリルもしくは液相、あるいはその両方が非線形性を有すると

考えられる。

表 4 導出された複素誘電率

'0f

C

'0f

C0 r

b s

w

図 6 結合線路の断面図

104

0.66

0.67

0.68

0.69

0.7

0.71

0.72

0.73

0.74

0.75

0.76

0 200 400 600 800 1000

入力電力 (W)

淡水3.4 % 人工海水4.0 % 人工海水

電圧

53

54

55

56

57

58

59

0 200 400 600 800 1000

入力電力 (W)

淡水3.4 % 人工海水4.0 % 人工海水

位相

図 7 複素電圧比 V2/V1の電力特性 @ 14 MHz

(上:電圧比,下:位相角)

5.まとめ

本研究では、結合線路の複素端子電圧を用いた液体の大電力高周波電気特性測定システムの提

案と構築を行った。まずは提案法を実証するべく、電磁界解析を用いて結合線路を設計し、試作・

評価を行った。結果、少なくとも 1,000 W 入力まで測定できることが実証された。続いて、提案

法と従来法の確度比較を行った結果、その差は 6%未満となった。製作誤差、測定誤差、解析誤差

を考慮すると高い精度で実現できていることが確認された。最後に構築した測定系を用いて 1~

1,000 W までの入力電力に対する端子複素電圧比を測定した。得られた結果は入力電力の増加に

対して複素電圧比が減少する傾向を示した。これより、液体、あるいはアクリル水槽の複素誘電

率が電力に対して非線形性を有すると考えられる。一方で、複素端子電圧から複素誘電率を算出

する理論式の構築を進めたが、完全な導出には至らなかった。今後は複素誘電率を算出する理論

式を確立し、液体の複素誘電率が非線形性を示すことを実証する。この成果は。電気自動車の開

発速度加速だけでなく、様々な材料の大電力特性の解明や無人自律型無人探査機などへの水中無

線給電の開発[6]にも大きく貢献することが期待される。

参考文献

[1] 田村昌也,神山祐輔,坂井尚貴,大平 孝,“液相の大電力高周波電気特性に関する評価方法の

検討,”信学技報 WPT2015-19,vol.115,no.3,pp.97-102,Apr. 2015.

105

[2] 田村昌也,“液相の大電力誘電率測定,”第3回 WiPoT シンポジウム,愛知県,豊橋技術科学大学,

2015年 10月.

[3] Kyohei Yamamoto, Yasumasa Naka, and Masaya Tamura,“Extraction of Complex Permittivity for

Liquid Phase under RF High Power,”Asian Wireless Power Transfer Workshop 2015, New Taipei,

Dec. 2015.

[4] 田村昌也,山本恭平,仲泰正,“大電力下における液相の複素誘電率算出方法の検討,”信学技

報 WPT2015-65,vol.115,no.428,pp.11-14,Jan. 2016.

[5] 仲泰正,山本恭平,田村昌也,“複素電圧を用いた誘電率測定系の確度検証,”2016 信学総大,

no.B-21-11,p.623,March 2016.

[6] 山本恭平,仲泰正,荒井和輝,田村昌也,“海中無線電力伝送による AUV 充電システムの試作モ

デル,”2016信学総大,no.BS-8-1,p.S-31,March 2016.

106

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

流動中にある種の界面活性剤を微量添加すると、流動抵抗を大幅に低減できる。このような界

面活性剤水溶液は、粘性に加えて弾性の性質を併せ持っており粘弾性流体と呼ばれる。粘弾性流

体の抵抗低減効果は、実用上、省エネルギー技術として幅広い応用の可能性を秘めているが、こ

の抵抗低減流れでは伝熱が著しく低下するという欠点も存在する。本研究では、粘弾性流体の抵

抗低減流れにおける伝熱低下に対し、ナノ粒子添加による伝熱の改善もしくは促進を期待して、

粘弾性を持たせたナノ流体の基本特性を調べることを目的とした。基礎特性として、流体の熱物

性、流動下の抵抗低減効果と伝熱特性の関係について調べた。

試験流体として、①水・②界面活性剤水溶液(粘弾性流体)・③水ベース Al2O3ナノ粒子分散ナ

ノ流体・④ナノ流体に界面活性剤を添加した流体(以下,粘弾性ナノ流体と記す)を用いた。ナ

ノ粒子の体積分率はナノ流体を純水で希釈することで調製した。結果の概要を以下に記す。

熱伝導率については、界面活性剤水溶液では純水よりわずかに熱伝導率の低下が見られ、一方、

ナノ流体では純水より熱伝導率は向上し、ナノ粒子の体積分散率が大きいほど、熱伝導率も大き

くなった。粘弾性ナノ流体については、ナノ流体自体の熱伝導率と比較して、界面活性剤を添加

することでわずかに低下が見られたものの、純水と比較すると大きな値であった。

抵抗低減効果と強制対流熱伝達の関係については、代表的な結果を示すと、250 ppm 界面活性

剤水溶液に Al2O3 を 3 vol%添加した粘弾性ナノ流体では水と比較して約 20 %伝熱の向上が確認さ

れたものの、粘弾性流体で見られた抵抗低減効果は確認されなかった。一方,Al2O3 0.25 vol%添

加した流体では、水と比較して 50 %程度の抵抗低減効果が確認されたものの、伝熱向上はほとん

ど見られなかった。このように、ナノ粒子の体積分率を大きくすると伝熱促進への寄与は大きく

なるものの、流れの抵抗低減を発現する要因とされている界面活性剤のミセル構造の形成は阻害

される。一方で、ナノ粒子の体積分率が小さいと流れの抵抗低減は発現したものの、ナノ粒子添

加による伝熱改善への効果が非常に小さくなることが分かった。

以上から、ナノ粒子の体積分率は粘弾性流体中でミセル構造を形成するために非常に重要なフ

ァクターであり、これらの成果をもとに、今後、界面活性剤の濃度と併せてより最適なナノ粒子

の体積分率を模索すると共に、ミセル構造の形成が流体中のナノ粒子に阻害されない方法を検討

する必要がある.加えて、ナノ流体や抵抗低減を発現する粘弾性流体の種類も多岐にわたるため。

組み合わせを変えた検討も必要である。このような抵抗低減流れにおける伝熱改善技術が確立さ

れれば、熱交換機や液体循環型空調システムなど応用は多岐にわたり、大きな省エネルギー効果

研究テーマ 「粘弾性を持たせたナノ流体の基本特性に関する研究」

研究責任者 所属機関名 静岡大学

官職又は役職 助教

氏 名 本澤 政明 メールアドレス [email protected]

107

が期待できる。

2.実施内容および成果の説明

(1)はじめに

管内を流れる流体は壁面の摩擦抵抗により圧力損失が生じる。流体中にある種の界面活性剤を

微量添加すると、この摩擦抵抗を大幅に低減できる事が知られており、流体輸送におけるポンプ

動力の削減が期待できる [1]。このような界面活性剤水溶液は、粘性に加えて弾性の性質を併せ

持っており粘弾性流体と呼ばれている。一方、流体中にナノメートルオーダーの粒子を分散させ

た流体はナノ流体と呼ばれ、ベース流体と比較して大きな熱伝導率を有する [2]。ナノ流体につ

いては、乱流拡散による伝熱が期待できないような微小流路における伝熱促進が検討され、次世

代 CPU冷却等への応用が提案されている。

粘弾性流体の流れにおいては、先に記した流動抵抗の低減効果が期待できるものの、乱流拡散

の抑制により伝熱が著しく低下するという欠点も存在する。一方で、ナノ流体のナノ粒子添加に

よる伝熱促進は熱伝導率増加の寄与が大きく、乱流拡散の存在しない層流下の伝熱促進が期待さ

れている。従って、粘弾性流体の抵抗低減流れにおける伝熱低下に対して、ナノ粒子添加によっ

て、伝熱の改善もしくは促進が期待できる。このような流体については、中国でわずかに研究が

なされている[3]ものの、より大きな効果を求めるためには、粘弾性流体内のナノ粒子の影響など

未だ知見が不十分である。そこで、本研究ではナノ流体に粘弾性を持たせた流体(以下,粘弾性

ナノ流体と記す。)における基礎特性を把握することを目的とする。基礎特性として、流体の熱

物性、抵抗低減効果、強制対流熱伝達の伝熱特性について調べた。

(2)実験

① 試験流体の熱伝導率測定

試験流体の熱伝導率は Decagon Device 社製の KD2 Pro を用いて測定した。KD2Pro は読み取り部

とニードルセンサで構成されており、センサを流体中に差し込むことで熱線法に基づき熱伝導率

を測定する装置である。試験流体の温度は、測定セルの周りに恒温水を循環することで一定に保

ち、本研究では 25℃で一定となるように調整した。

Fig.1 Experimental apparatus.

108

② 流動抵抗と強制対流熱伝達測定

試験流体の管摩擦抵抗及び強制対流熱伝達の伝熱特性を計測するため、図 1 に示す実験装置を

作成した。実験装置はタンク・ポンプ・円管試験流路で構成されている。タンクにはヒータおよ

び冷却水循環用流路が備えられていて、試験流体の温度を一定に保つことが出来る。試験流路は

内径が 11.1 mm の銅円管を用いている。試験区間の外壁面にリボンヒータを巻きつけ、管内の試

験流体の流れに加熱し、外側に断熱材を巻きつけることで熱損失を最小限に抑えた。試験区間の

出入り口と試験区間の銅管外壁面 4 ケ所に熱電対を取り付け、流体に移動する熱量と熱伝達率を

求めた。一方、管壁 2ケ所に 900 mmの間隔をあけて差圧測定孔を設け、マノメータを用いて管摩

擦抵抗の測定を行った。

③ 試験流体

本研究では、試験流体として、水・界面活性剤水溶液・ナノ流体・粘弾性ナノ流体を用いた。

下記に詳細を記す。

界面活性剤水溶液 界面活性剤として塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)を使用し、

ミセル構造の形成を促すために加える対イオンとしてサリチル酸ナトリウム(NaSal)を等モル比

で水に混合させることで粘弾性流体を調製した。

ナノ流体 ナノ流体は、Nyacol 社製水ベースの Al2O3ナノ流体(AL20)を用いた。内部粒子の公

称粒子径は 50 nmである。このナノ流体を純水で希釈してナノ粒子の体積分率を調製した。

Fig. 2 Thermal conductivity ratio of test fluids.

粘弾性ナノ流体 粘弾性ナノ流体の調製は、ナノ粒子の体積分率を調製したナノ流体に、界面活

性剤水溶液の調製と同様の方法で界面活性剤と対イオンを添加することで行った。

(3)結果

① 熱伝導率

図 2 に各試験流体の熱伝導率とナノ粒子の体積分率の関係を示す。図中の縦軸は各試験流体の

熱伝導率の水との比を示したものである。従って、ナノ粒子体積分率 0 vol%,界面活性剤 0 ppm

109

(0 ppm CTAC と記す)の示すプロットは水の熱伝導率で 1 となっている。また、図中の実線は、

ナノ流体の熱伝導率を見積もる式として提案されている Hamilton - Crosser の式(H-C式と記す)

により見積もったナノ流体の熱伝導率である。

図に示されるように、ナノ流体の熱伝導率は、ナノ粒子の体積分率が大きいほど熱伝導率が増

加することが確認でき、この傾向は H-C 式とおおよそ一致した傾向を示した。本研究では、ナノ

粒子の体積分率 3 vol%の Al2O3ナノ流体は、水と比べて熱伝導率が 12 %上昇していることが確認

できた。ここに界面活性剤を添加すると、全般的には熱伝導率はわずかに減少する傾向が得られ

ているものの界面活性剤濃度に従い減少しているわけではなく、その相関性は確認できなかった。

これは、界面活性剤のミセル構造が流体中に不均一に存在していたためであると考えられる。し

かしながら、界面活性剤を添加したいずれのナノ流体においても水より高い熱伝導率を有するこ

とが確認された。

② 管摩擦抵抗と抵抗低減率

図 3 に各試験流体の管摩擦係数とレイノルズ数(Re)の関係を示す。試験流体のうち、粘弾性

流体では界面活性剤の濃度を 250 ppm,ナノ流体ではナノ粒子の体積分率が 0.25 vol%,3 vol%

Fig. 3 Friction coefficient of test fluids.

の流体を調製した。粘弾性ナノ流体もこれらの濃度の組み合わせで流体を調製した。図中の実線

は、滑らかな管における Reと管摩擦係数の関係として一般的に広く知られているブラジウスの式

を示している。図に示されるように水の流れではほぼブラジウスの式と一致しており、本実験装

置で管摩擦係数が比較的精度よく測定できていることが確認できる。図中でブラジウスの式より

も下にあるプロットは流れの抵抗が水流より小さく、抵抗低減が起こっていることを示している。

図 3 をみると、界面活性剤水溶液 250 ppm CTAC(○)と粘弾性ナノ流体 250 ppm CTAC-0.25 vol%

Al2O3(◇)において抵抗低減が確認できる。この粘弾性ナノ流体の抵抗低減率は水と比較して最

大 56 %であった。一方で,ナノ粒子の体積分率が大きい 250 ppm CTAC-3 vol% Al2O3の粘弾性ナ

ノ流体(□)については抵抗低減が得られなかった。これは、流体中のナノ粒子に界面活性剤が

110

付着することで、粘弾性流体における抵抗低減の要因と考えられているミセル構造の形成が阻害

され,抵抗低減が発生しなかったものと考えられる。

③ 伝熱特性

各試験流体の水に対する熱伝達率の向上率(Heat Transfer Enhancement:HTE)とレイノルズ

数の関係を図 4に示す。図 4に示されるように、図 3において流動抵抗低減効果が確認された界

面活性剤水溶液 250 ppm CTAC(○)と粘弾性ナノ流体 250 ppm CTAC-0.25 vol% Al2O3(◇)では、

抵抗低減が発現した同じ Re範囲で熱伝達率が水と比較して減少している。界面活性剤水溶液の抵

抗低減流れにおける伝熱低下は乱流拡散の抑制によるもので、このため、図 3に示した抵抗低減

が生じた Re範囲でほぼ同じ傾向を持って伝熱の抑制が見られた。さらに、0.25 vol% Al2O3のナ

ノ流体で水と比べて熱伝達の向上は確認できなかったことからみても、250 ppm CTAC-0.25 vol%

Al2O3の粘弾性ナノ流体においては、抵抗低減流れにおいて、ナノ粒子が伝熱を改善する効果はほ

とんど無かったものと考えられる。一方、3vol% Al2O3のナノ流体の熱伝達率は水と比べ大きく

-100

-80

-60

-40

-20

0

20

40

0 4000 8000 12000 16000

HT

E [

%]

Re [-]

Fig. 4 Heat transfer enhancement ratio of test fluids.

上昇し、約 20%の向上が見られている。ここに界面活性剤を加えた 250 ppm CTAC-3 vol% Al2O3

の粘弾性ナノ流体(□)ではナノ流体同等の伝熱促進が見られているが、図 3に示したとおり、

このナノ粒子の体積分率では抵抗低減は発現しなかった。

(4)まとめ

本研究では Al2O3ナノ流体に界面活性剤を添加することで、粘弾性ナノ流体を作成し、その基本

特性として、熱伝導率、流動下における抵抗低減効果と強制対流熱伝達の伝熱特性について調べ

た。熱伝導率については、ナノ粒子の添加により、水と比較して大きな熱伝導率が得られ、界面

活性剤を添加した粘弾性ナノ流体ではわずかに熱伝導率の低下が見られたが、水の熱伝導率より

は大きいものであった。流動下における抵抗低減効果・伝熱特性の関係については、ナノ粒子の

体積分率を大きくするとナノ粒子の伝熱向上への寄与は大きくなるものの、界面活性剤のミセル

111

構造形成を阻害することで流動抵抗低減効果が失われてしまう。一方で、ナノ粒子の体積分率が

小さいと界面活性剤のミセル構造形成への阻害は小さく、大きな抵抗低減が得られるものの、ナ

ノ粒子添加による伝熱向上への効果がほとんど失われてしまうというトレードオフの関係があっ

た。今後、より最適なナノ粒子の体積分率と界面活性剤濃度の粘弾性ナノ流体を模索すると共に、

ミセル構造の形成が流体中のナノ粒子に阻害されない方法を検討する必要がある。加えて、ナノ

流体や抵抗低減を発現する粘弾性流体の種類も多岐にわたるため、この組み合わせを変えてより

効果の高い流体の検討を行う予定である。

(参考文献)

[1] F.-C. Li et al., Turbulent drag reduction by surfactant additives, John Wiley & Sons Singapore

Pte. Ltd., (2012), Chap. 1 and 2.

[2] S. K. Das et al., Nanofluids, John Wiley & Sons, Inc., New Jersey, (2008), Chap. 3.

[3] J.-C. Yang et al., Int. J. Heat and Mass Transfer, 62(2013), pp. 303-313.

112

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

極超音速で伝播するデトネーション波を利用したデトネーションエンジンは高い熱効率、自己

圧縮燃焼による圧縮機構単純化、極超音速燃焼による燃焼器ダウンサイジングが実現可能だと考

えられている。既存内燃機関を革新するエンジンとして、近年では Aerojet-Rocketdyne(米国)、

Air Fore Research Laboratory(米国)、MBDA(フランス)に代表される企業・研究機関を中心

に精力的に研究が進められており、デトネーションエンジン研究は激しい競争下にある。パルス

デトネーションエンジン(PDE)の自立作動は実用化へのブレイクスルーであり、その基盤技術と

してパルスデトネーション燃焼器(PDC)の繰り返し周波数を気体力学的上限値まで増加させるデ

トネーション制御技術の確立が必須である。従来の PDC では、筒状燃焼器内で、(1)燃料・酸

化剤の供給、(2)点火・デトネーション波伝播、(3)高圧既燃ガスの排出、(4)パージガ

スによる残留既燃ガスの掃気を繰り返す。(2)および(3)は気体力学的特性で決定する。そ

のため、繰り返し周波数は過程(1)および(4)を短縮することで増加する。先行研究として、

残留既燃ガス中に水液滴を噴霧し、蒸発時の潜熱および体積膨張を利用した「液滴パージ法」を

提案・実証した。本研究では、液滴パージ法を液体燃料に拡張した燃料液滴パージ法により、パ

ージ物質を用いない洗練化された PDC 作動を実証した。新たに開発した「準バルブレス PDC」で

は、酸化剤は電磁バルブや回転バルブなどの機械的なバルブ機構を必要としないバルブレス方式

で燃焼器に供給される。バルブレス方式では、デトネーション波によって生成した既燃ガスの圧

力が一時的に酸化剤供給圧力よりも高くなることでガス供給を停止する。一方、液体燃料は燃焼

器側面からインジェクタで適切なタイミングで噴霧され、酸化剤と混合することで爆発性混合気

を生成する。ガス酸素-液体エチレンを用いた実証実験を実施し、これまでに 800Hz の高周波数

作動を達成し、従来の作動周波数を1オーダー向上させることに成功した。同時に、燃焼器軸方

向に配置した多数のイオンプローブによりバルブレス PDC における既燃ガス逆流過程の時間スケ

ールを明らかにした。今後は、燃焼器内部流動を実験・数値解析の両面からモデル化し、更なる高

周波数作動を行う。加えて、本 PDC を用いたタービンエンジンやロケットエンジンシステムを構築し、

既存内燃機関以上の性能(比推力、推力重量比、熱効率)を示していく。

2.実施内容および成果

2-1 序論

デトネーション波とは燃料・酸化剤の混合気中を極超音速で伝播する燃焼波である。デトネー

ション燃焼サイクルの理論熱効率は既存定積・定圧燃焼サイクルよりも高い。加えて、初期混合

研究テーマ 「デトネーションエンジン実用化に向けた燃料液滴パージ法の確立」

研究責任者 所属機関名 名古屋大学

官職又は役職 助教

氏 名 松岡 健 メールアドレス [email protected]

113

気圧力の約 5~10倍程度の高圧既燃ガスを生成することが可能である(圧力ゲイン燃焼)。故に、

デトネーション波を用いると、燃焼器のダウンサイジング、コンプレッサー等の圧縮機構の簡略

化および高熱効率を同時に実現可能な内燃機関になり得る。現在、米国空軍研究所、

Aerojet-Rocketdynやフランスの MBDAを中心に精力的に研究が行われている。

パルスデトネーション燃焼器(PDC)はデトネーション波を繰り返し発生させる燃焼器である。

多くの場合、一方が閉じ、一方が開いた断面積一定の筒状燃焼器、燃料・酸化剤およびパージガ

ス供給ラインおよび点火プラグから構成される。間欠的なデトネーションを利用した内燃機関

(ICE)は、パルスデトネーションエンジン(PDE)と呼ばれる。PDC では燃焼器内で下記の一連

のサイクルを繰り返す:(1)混合気の充填、(2)着火およびデフラグレーションからデトネー

ションへの遷移(DDT)、(3)デトネーション波の伝播、(4)高圧既燃ガスの排出、(5)残留

既燃ガスのパージ。PDC において圧力ゲイン燃焼(酸化剤供給圧力<燃焼器内圧力)を実現する

ためには、デトネーション波で発生する高圧既燃ガス圧力 ppに対して低い供給全圧 pt,o(低い圧

力損失)での酸化剤供給および高い繰り返し周波数(作動周波数)を同時に実現する必要がある。

PDC サイクルにおける過程(3)および(4)は、燃焼器長さと混合気組成のみで気体力学的に決

定するため、過程(1)(2)(5)の短縮によって高周波数作動が達成される。過程(2)の短縮

に関しては多くの研究結果が報告されており、高周波数作動を達成するためには、過程(1)およ

び(5)の短縮が重要である。過程(1)を短縮する PDサイクル手法の一つとしてバルブレス供給

方式が提案されている。バルブレス供給方式では、燃焼器内圧力変動と供給圧力によってガスを

間欠的に燃焼器内に供給する。機械的なバルブを用いないため、高周波数・長時間作動に適して

いる。過程(5)の短縮に対して、従来の PD サイクルでは、次サイクルの混合気充填のため、高

圧既燃ガスの排気後に燃焼器内に残留する既燃ガスを空気、不活性ガスおよび水液滴でパージす

る手法が提案されている。しかしながら、実用的な圧力ゲイン燃焼器を実証するためには、燃料・

酸化剤のみを用いた更なる高周波数での PD作動が必須である。

新たに提案する PD 作動方式(燃焼器形状および PD サイクル)を用いた圧力ゲイン燃焼の実現

性に関して報告する。実証実験では、液体エチレン-ガス酸素混合気を用いて 800 Hzの作動周波

数を確認した。また、燃焼器内平均圧力が酸素供給圧力の+0.5%となり、圧力ゲイン燃焼を実証し

た。

2-2 高周波数パルスデトネーション作動

図 1 に提案する PD サイクルを模式的に示す。右図に示されているように、本 PDC は同内径の

酸化剤供給配管と燃焼器、配管軸に直角に配置された燃料インジェクタおよび着火用スパークプ

ラグで構成されている。気体酸化剤は左端から供給全圧 pt,oで供給され、右単は開放されている。

添え字 tおよび sはそれぞれ totalおよび staticを意味している。液体燃料は噴霧圧力 pinjで燃

焼器内へ供給される。本稿では、スパークプラグ下流を燃焼器、スパークプラグ上流を酸化剤供

給配管と呼ぶ。左図は、スパークプラグ位置での理想的な圧力履歴 psp(上)および圧力履歴に対

応した燃料、酸化剤の流量履歴(下)である。図中の pt,oは、ガス酸化剤の供給全力である。

t = t1では、燃焼器内圧力 pspよりも酸化剤供給圧力 pt,oが高いため、酸化剤が燃焼器内へ供給

114

されている(psp < pt,o)。同時に、燃料インジェクタによって燃料が供給され、混合気が生成さ

れる。t = t2 では、燃料インジェクションが停止しているため、酸化剤だけが燃焼器閉管端付近

に充填される(psp < pt,o)。t = t3では、デトネーション波によって高圧(プラトー圧力 pp)の

既燃ガスが生成される。酸化剤の供給が一時的に停止し、既燃ガスの一部は、酸化剤供給配管内

へ逆流する(psp > pt,o)。その後、開管端からの排気希薄波によって既燃ガスが排気され、燃焼

器内圧力が減衰する。t = t4 では、閉管端圧力が酸化剤供給圧力以下になるため、酸化剤が燃焼

器内へ再充填される(psp < pt,o)。

提案する PDC では、燃焼器と酸化剤供給配管の内径が等しいため、全圧損失を最小化、質量流

量を最大化することが可能である。高圧気体や超臨界状態の燃料を使用した場合、噴霧時の不

可逆等エンタルピー変化(ジュール・トムソン効果)によって低温の気体燃料となり、酸化剤

と混合することで低温の混合気が生成される。液体燃料を用いた場合、蒸発時の潜熱によって

低温の混合気が生成される。この低温混合気で残留既燃ガスがパージできれば、PDサイクルに

おけるパージ過程を混合気充填過程に置換できるため、大幅な作動周波数向上が期待できる。

2-3 実験概要

図 2に実証実験に使用した PDCを示す。スパークプラグ位置を原点とする燃焼器中心軸を x軸

と定義した。燃焼器(0 mm ≤ x ≤ 120 mm)の全長、内径、内容積はそれぞれ Lc = 120 mm, idc =

10 mm, Vc = 9.4 mL であった。x = -30 mmには、燃料インジェクタ(INJ)が設置された。燃焼

器および酸化剤供給配管内には 12個のイオンプローブ(IP)が設置され、燃焼波伝播速度および

逆流既燃ガスの挙動を確認した。スパークプラグ(SP)と同じ位置に圧力トランスデューサー(PT)

を設置した。また、酸化剤供給配管入口(x ≈ -170 mm)における酸化剤全圧 pt,oを測定するため、

x = -200 mmに圧力センサを設置した。加えて、x = -160 mmに静圧 ps,oおよび静温 Ts,oを測定す

るため、圧力センサおよび熱電対を設置した。図 3に燃焼実験の作動シーケンスとして、点火信

号、インジェクション制御信号(実線)、実際の噴霧(破線)、図 2の PT(x = 0 mm)の圧力履

歴とそれに対応したガス流量を模式的に示している。点火 ON信号時刻を t = 0と定義した。事前

t = t1 (psp < po ) t = t2 (psp < po)

t = t3 (psp > po)

t

pt,o

pp

psp

Q

0

t2 t4t3oxidizer

(valveless)

fuel

(injector)

t1

fuel injector

fuel

t = t4 (psp < po )

t

spark plug oxidizer

oxidizerbackflow of burned gas

pt,o

pinj

oxidizer

pt,o

pt,o pt,o

oxidizer

sparkfeed line combustor

detonablemixture

detonablemixture

high-pressure burned gas

low-pressure burned gas

Lo

LBG

図 1 パルスデトネーションサイクル

115

に実施した大気圧中へのエチレン噴霧可視化実験から、インジェクタの応答時間は、ON信号に対

して約Δtstart = 200 μs、OFF信号に対して約Δtstop = 400 μsであった。

室温および大気圧力は Ta = 289 K および pa = 0.1020 MPa であった。酸化剤供給配管上流に設

置した圧力レギュレータで設定した酸素供給全圧およびエチレンインジェクション圧力はそれぞ

れ、pt,ini = 0.30 ± 0.01 MPa および pinj = 5.74 ± 0.2 MPa で一定とした。エチレン初期温度

を Tf = 202 ± 4 K として、液体状態で燃焼器内に噴霧した。酸素のコールドガス試験によって、

酸素質量流量は ṁo = 34.7 g/s であり、x = -200 mm における酸化剤全圧は pt,o = 0.205 MPa で

あった。

作動周波数は 500 Hzから 800 Hzまで 100 Hz毎に刻んだ。図 3における噴霧時間および噴霧停

止時刻は 500 Hzから 700 HzまではΔtinj = 400 μs および tstop = -400 μsとした。つまり、実

際の燃料噴霧停止時刻は点火時刻と一致する。800 Hz作動では、上記噴霧条件では PD作動が確

認されなかったため、実験的に決定された(Δtinj

= 400 μsおよび tstop = -200 μs)。各実験条件で 50サイクル試験を 3回行った

2-4 実験結果と考察

液体エチレンが燃焼器内へ噴霧されると、瞬時に蒸発を完了し、酸化剤と混合することで爆発

性混合気が形成される。コールドガス試験における静圧および全温度(ps,o = 0.157 MPa、Tt,o = 289

K、cp,o = 0.92 kJ kg-1 K-1)の酸素におけるエチレン蒸発およびその後の混合を考え、爆発性混合

気の温度および当量比を見積もった。エチレンの蒸発潜熱Δh = 398 kJ/kg とし、全て酸素の冷

却に用いられたと仮定した。また蒸発後のエチレン(Tf = 169 K, cp,f = 1.29 kJ kg-1 K-1)と潜

熱によって冷却された酸素が内部エネルギーおよび物質量一定で混合されたと仮定した。図 4に

水上置換法で測定されたエチレン質量流量 ṁfおよび見積もられた混合気温度 Tdおよび当量比 ER

を示す。図 5に測定された燃焼波伝播速度 Vflameを示す。図中の DCJは図 4において見積もられた

平均当量比 ER、平均混合気温度 Tdおよび酸素静圧 ps,oにおける Chapman–Jouguet デトネーション

速度であり、udは見積もられた混合気充填速度である。500 Hzから 700 Hz条件では、x = 60 – 80

mmで測定された平均燃焼波伝播速度であり、この領域では既に DDT後の定常伝播デトネーション

波が伝播していると考えられる。一方、800 Hzでは、x = 20 – 40 mmでの燃焼波伝播速度である。

この領域では DCJの 98 ± 31%であり、多くの PDサイクルでこの領域で DDTが起こったと示唆さ

PT: pressure transducer, IP: ion probe,

INJ: fuel injector, SP: spark plug

x

downstream

(open end)

SP

PT

INJ

x = 0

IP1

IP2

IP3

IP4

IP5

IP6

IP7

IP8

IP9

IP10

IP11

IP12

290

20 20 20 20 20 20 20 20 20 20 2020 2030

30

170(feed line)

120(combustor)

idc

= 1

0

upstream

図 2 使用したパルスデトネーション燃焼器

tstop

Δtinj

spark

signal

on

off

on

off

fuel

injector

t0 (spark time)

pressure

at x = 0

(PT)

flow rate

of oxygen

100%

0%

tstart

Δtstart

Δtstop

Δtfill

図 3 作動シーケンス

116

れる。

図 6 に x = 0 mmに設置された圧力トランスデューサーで計測された圧力履歴を示す。燃焼に

よる熱の影響で大気圧が下降しているものの、高いピーク圧力が確認された。各 PDCサイクルに

おける急激な圧力上昇直前の圧力を 1サイクル目の初期圧力と仮定し、最後の 10サイクルの時間

平均圧力 pPT,aveを算出した。図 7に各作動周波数における pPT,aveを示し、酸化剤供給全圧 pt,o = 0.205

MPa で無次元化されている。燃焼器内時間平均圧力は作動周波数にほぼ比例し増加した。800 Hz

条件では pPT,ave = 0.206 ± 0.01 MPa であり、酸素全圧の+0.5%を達成し、圧力ゲイン燃焼を実験

的に確認した。

2-5 結論

新しいパルスデトネーション燃焼器(PDC)の運転手法を提案した。燃焼器と酸化剤供給配管

の内径が等しいため、酸化剤全圧損失を最小化、質量流量を最大化することが可能である。酸

化剤(酸素)は、燃焼器にバルブレスモードで供給される。一方、燃料(液体エチレン)は燃

料インジェクタを用いて燃焼器中心軸に対して直角に噴霧された。噴霧された液体燃料液滴の

蒸発時の潜熱によって低温の混合気が生成される。この低温混合気で残留既燃ガスをパージす

ることで、PD サイクルにおけるパージ過程を混合気充填過程に置換できるため、大幅な作動周

波数向上が期待できる。実証実験では 500

Hz -800 Hzの高周波数作動実験を実施し、すべての条件で PD作動を確認した。800 Hz条件では、

燃焼器内時間平均圧力はコールドガス試験での酸化供給配管の入口全圧の+0.5%となり、圧力ゲイ

ン燃焼を実証した。

図 5 燃焼波伝播速度

図 4 燃料質量流量および見積もられた当量比およ

び爆爆発性混合気温度

117

2-6 業績(本助成によるもの)

査読付き原著論文

1. K., Matsuoka, K., Muto, J., Kasahara, H., Watanabe, A., Matsuo, T., Endo, “Investigation of Fluid Motion

in Valveless Pulse Detonation Combustor with High-Frequency Operation,” Proceedings of the

Combustion Institute (accepted on March 29th, 2016).

2. K., Matsuoka, K., Muto, J., Kasahara, H., Watanabe, A., Matsuo, and T., Endo “Development of

High-Frequency Pulse Detonation Combustor without Purging Material,” Journal of Propulsion and Power,

(Accept for publication, February 26, 2016)

国際学会

1. K., Muto, K., Matsuoka, J., Kasahara, H., Watanabe, A., Matsuo and T., Endo, “Development of

High-Frequency Pulse Detonation Combustor without Purging Material,” AIAA SciTech 2016, Paper No.

AIAA 2016-0123, Jan. 4-8, 2016, San Diego, USA.

2. S., Takagi, K., Hosono, K., Matsuoka, J., Kasahara, A., Matsuo and I., Funaki, “Experimental

Performance Evaluation of 3N-Class Pulse Detonation Thruster using Liquid Purge Method,” AIAA

SciTech 2016, Paper No. AIAA 2016-0122, Jan. 4-8, 2016, San Diego, USA.

3. K., Matsuoka, K., Muto, J., Kasahara, H., Watanabe, A., Matsuo and T., Endo, “Development of a

Liquid-Purge Method for Valveless Pulse Detonation Combustor using Liquid Fuel and Oxidizer,” 25th

International Colloquium on the Dynamics of Explosions and Reactive Systems, Paper No. 81, Aug. 2-7,

2015, Leeds, UK.

国内学会

図 6 x = 0 mm における圧力履歴および

1 サイクル拡大図

図 7 燃焼器内時間平均圧力と

作動周波数との関係

118

1. 松岡 健, 武藤 浩平, 笠原 次郎, 渡部 広吾輝, 松尾 亜紀子, 遠藤 琢磨, “パルスデトネ

ーション燃焼器の高周波数運転手法,” 平成 27年度衝撃波シンポジウム, 1B4-1, 3月 7-9

日, 2016, 熊本市.(Best Presentation Award)

2. 松岡 健, 笠原 次郎, 松尾 亜紀子, 船木 一幸, 遠藤 琢磨 “パルスデトネーション燃焼器

に関する実験的研究,” 平成 27年度航空宇宙空力シンポジウム, 2L12, 1月 22-23日, 2016,

指宿.

3. 松岡 健, 高木 駿介, 細野 恵介, 笠原 次郎, 松尾 亜紀子, 船木 一幸, “宇宙機の姿勢制

御用 3N級パルスデトネーションスラスターの動作特性に関する研究,” 第 53回燃焼シンポ

ジウム, 11月 16-18 日, 2015, つくば市.

4. 松岡 健, 武藤 浩平, 笠原 次郎, 渡部 広吾輝, 松尾 亜紀子, 遠藤 琢磨, “燃料液滴パー

ジ法によるパルスデトネーション燃焼器の高周波数作動,” 第 47回流体力学講演会, 7月

2-3日, 2015, 東京都.

特許・受賞等

1. 2016年 3月 平成 27 年度衝撃波シンポジウム Best Presentation Award

2. パルスデトネーション燃焼装置及びその燃焼方法(特願 2015-251952)

119

1. 実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

本研究では,高分子ナノ複合材料作製において、高分子中におけるナノカーボンの分散性の

問題を解決し、ナノカーボンの優れた物性を十分に引き出すことを目的とした。高分子各種合

成法のうち水分散系での無乳化剤乳化重合を選択し、親水性ナノカーボンとの複合化手法を検

討した。親水性ナノカーボンとして、ナノダイヤモンド(ND)を用い、ポリメタクリル酸メチ

ル(PMMA)との複合化を行った。複合化手法として、ND存在下で高分子を合成する in-situ重

合による複合化、および高分子合成後 NDと混合する複合化について検討を行った。

in-situ 重合では、水中でナノカーボンがナノ分散した状態を保ったまま重合を行うため、

ワンポットプロセスで高分子中におけるナノカーボンのナノ分散を達成できると考えられた。

しかしながら、ND存在下において PMMAが合成されるためには重合開始剤が通常量と比較して、

非常に多く必要であることが明らかとなった。重合開始剤を多く用いることにより PMMAの重合

度は低くなり、ひいては物性の低下につながる。したがって、ナノ複合材料の複合化手法とし

て、PMMAのエマルションを作製した後、NDとの複合化を行う手法を選択した。

作製した PMMA/NDナノ複合材料中における NDの分散は良好であった。PMMAと比較して NDを

充てんすることにより、力学物性や熱物性が大きく増加することが明らかになった。完成した

ナノ複合材料は、軽量性および力学物性等に優れた構造材料に限らず、これまで高分子複合材

料の応用が限られていた電子デバイスへの応用展開も可能であることから、高分子材料分野の

発展に貢献すると期待できる。

2.実施内容および成果の説明

2-1.研究背景

カーボンナノチューブやフラーレンに代表されるナノカーボンは、力学物性や電気特性など

他の材料と比較して突出した物性を有するため、高分子複合材料の充てん材として注目を集め

ている。しかしながら、ナノカーボン同士のファンデルワールス力が強く、高分子中でナノカ

ーボンは凝集する傾向にある。ナノカーボンの凝集は、クラックの起点となりやすく、また、

熱伝導や導電の阻害のとなりやすいため、期待される理論上の効果を十分に得られていないの

が現状である。

本研究では親水性ナノカーボンであるナノダイヤモンド(ND)に着目した。NDはコアにダイ

ヤモンド一次粒子を有することから、ダイヤモンド由来の優れた力学特性、熱伝導性、耐薬品

研究テーマ 「低環境負荷型高分子/ナノカーボン複合材料の構造制御および高機能化」

研究責任者 所属機関名 中部大学 工学部 応用化学科

官職又は役職 助教

氏 名 守谷(森棟)せいら

メールアドレス [email protected]

120

性、絶縁性、硬度等を示す。また、ND は表面には含酸素官能基を有するため、親水性を示し、

水中にてナノ次元で分散することが可能である。したがって、高分子との複合化の際に水を分

散媒体として用いることにより、高分子中で ND をナノ次元で分散させ,ND の優れた物性を十

分に引き出した高分子ナノ複合材料が作製できると考えられる。水分散系における高分子合成

法としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)の無乳化剤乳化重合を選択し、PMMA と ND との複合

化について検討を行った。

2-2. PMMA/NDナノ複合材料の作製方法

PMMAと NDとの複合化を行う手法として、以下2通りの方法を検討した。(図1)

図1 PMMAと ND との複合化方法

・作製方法1:ND 存在下で PMMA を合成する in-situ 重合を行い、PMMA/ND 水分散液を作製

する。

・作製方法2:PMMA を合成し、PMMAのエマルションを作製する。次いで ND水分散液と混合

し、PMMA/ND 水分散液を作製する。

作製方法1では,従来量の約10倍もの開始剤が必要であった。NDが存在することで、PMMA

の重合が阻害されたためであると考えられる。合成した PMMAの重合度は非常に低く、従来の

PMMA の物性が達成できないため、 本研究では作製方法2において PMMA/ND 水分散液を作製

することとした。作製した水分散液を乾燥させ、熱圧縮成形を施すことにより PMMA/ND ナノ

複合材料を作製した。

2-3. PMMA/NDナノ複合材料の構造と物性

作製した PMMA/ND ナノ複合

材料は高透明性を有していた

(図2)。

PMMA はガラスの代替材料

として期待される高透明性

図2 PMMA および PMMA/ND ナノ複合材料(ND 充てん率

0.1 wt%)の外観。

121

を特徴とする材料であるため、その透明性を十分に保持できた。これは、ND が PMMA 中にて

ナノ次元で分散したためであると考えられた。

PMMA/ND ナノ複合材料の力学物性を評価

するため,引張り試験を行った。図3には、

PMMA および PMMA/ND ナノ複合材料の応力―

ひずみ曲線を示した。ND 充てん率がわずか

0.1 wt%で、弾性率および強度が増加した。

一般に、ナノカーボンを充てんした高分子ナ

ノ複合材料では、剛体であるナノカーボンの

存在により,材料が脆くなる傾向にある。す

なわち、破断ひずみが大きく低下することが

問題となっている。しかしながら、NDを 0.1

wt%充てんした PMMA/ND ナノ複合材料の破断

ひずみは PMMA と同等の値を示した。その結

果、PMMA/NDナノ複合材料は高い強靭性を示

すことが明らかとなった。さらに、動的粘弾

性測定では、室温に限らす幅広い温度領域に

おいて、PMMA/NDナノ複合材料は高い貯蔵弾

性率を有していた。ND 由来の高い力学物性

が十分に引き出されたといえる。

図4には、熱重量測定より得られた PMMA

および PMMA/ND ナノ複合材料の熱重量曲線

を示した。5%の重量減少点を熱分解温度とし

た。ND をわずか 0.1 wt%充てんすることによ

り、熱分解温度が上昇することが明らかとな

った。すなわち、熱物性においても NDを充て

んすることによる効果が得られることが示された。

2-4. まとめと今後の展望

水分散系を利用した複合化により、PMMA 中にて ND はナノ次元で分散することを明らかに

した。その結果、PMMA/NDナノ複合材料は PMMA 由来の高い透明性を保持していることを確認

した。ごく少量の NDを充てんすることにより、力学物性や熱物性が向上することを見出した。

今後は、重合条件による高分子微粒子サイズの調整およびナノカーボン充てん率の調整に

より、複合材料の構造を制御することを検討する。配向等の制御により、理論値に相当する

力学物性や熱物性、さらに、熱伝導性や導電性の向上も可能であると考えられる。本材料は、

軽量性と高機能・高性能を併せ持つことから、省資源・省エネルギー・環境負荷低減の立場

図3 PMMA および PMMA/ND ナノ複合材料

(ND 充てん率 0.1wt%)の応力―ひずみ曲線。

図4 PMMA および PMMA/ND ナノ複合材料

(ND 充てん率 0.1wt%)の熱重量曲線。

122

での環境調和型材料開発においても有用であり、従来の構造材料の代替として今後の社会に

大きく貢献すると考えられる。また高熱伝導性や高電気伝導性を利用することにより電子デ

バイスへの展開も可能であることから、ナノカーボンの利用に限界が生じていた高分子材料

の可能性を大幅に拡張し、高分子材料の発展に貢献すると考えられる。

123

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

これまでの研究開発において、軽量な不織布と薄い金属層から成る電磁波シールド不織布を開

発した。電磁波シールド不織布は電界に対し優れた電磁波シールド特性を有するが、磁界に対す

る効果が低いことが課題である。また、実部品形状への適用(金属筐体等の電磁波対策部品との

置換え)を考慮すると、樹脂等との一体成形が必要と考えられるが、成形(延伸や熱)により電

磁波シールド特性の低下が引き起こされ、所望の特性が得られていない。

本研究において、現在採用している金属付与工法における磁界シールド特性に関する可能性検

討と、フレキシブル性の高い不織布(構造的に伸びやすいため、繊維の延伸を抑制できる)を用

いた一体成形を行い、成形による電磁波シールド特性の低下を抑制できる軽量な電磁波シールド

不織布及びその成形品の実現を目指すことを目的とした。

磁界シールド特性に関する可能性検討に関して、現在採用している金属付与工法において量産

時を想定した最大の膜厚で磁性材層を不織布に付与した結果、高周波数側(100MHz~1GHz)では

磁界シールド特性を示すものの、低周波数側(100kHz~100MHz)では効果が得られなかった。こ

の要因として、低周波数側の磁界シールド特性を付与するためには、磁性材層をさらに厚くする

必要があると推察している。その方法として、めっき等が考えられる。

新規のフレキシブル不織布に関して、従来通りの金属層を付与し電磁波シールド特性を評価し

た結果、従来基材を用いたときと比較して、電磁波シールド特性が低くなる結果が得られた。し

かしながら、従来基材の電磁波シールド不織布は、成形後に電磁波シールド特性が大きく低下す

ることに対し、フレキシブル不織布を用いた場合は成形後の電磁波シールド特性が著しく向上し

た。要因として、フレキシブル不織布は特殊な繊維形態により金属の接触が少なく表面抵抗が高

くなったため、成形前の電磁波シールド特性が低くなったと予測され、成形(圧力)によって繊

維(金属)間の接触が増大することにより表面抵抗が低くなり、成形後に高い電磁波シールド特

性を示したと推察される。

本研究の結果から、軽量且つ成形による電磁波シールド特性の低下を抑制可能な電磁波シール

ド不織布及びその成形品を実現でき、実部品への適用に関して目処付けを行うことができた。

従来の電磁波対策方法では成し得なかった金属筐体との置換えに対し、部品化できることで実

現可能となる。さらには一体成形できる利点として、絶縁性の付与や高剛性化などの新たな付加

価値を加えた電磁波シールド成形品を提供できるため、自動車分野以外にも、住宅・家電・通信

分野等、様々な分野において販路開拓が期待できる。

研究テーマ 「 電磁波シールド不織布一体成形品の開発 」

研究責任者 所属機関名 株式会社槌屋 技術開発本部新製品開発センター

官職又は役職 副主任

氏名 林 秀共 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 同上

官職又は役職 副主任

氏名 山口雷太、辻幸太郎

124

2.実施内容および成果の説明

1. はじめに

世界各国において、自動車分野ではガソリン車からハイブリッド車、さらにはガソリンをまっ

たく使用しない電気自動車への大きな流れが起きている。電気自動車の更なる普及には、モータ

やバッテリー等、大電流の電気システム化や軽量化、それらに伴う電気自動車の燃費(電費)向

上が求められている。一方、この大電流の電気システム化により、電気駆動系システム等で発生

する電磁波に対する対策が必要となり、金属筐体や金属パネルが ECU ケースやモーターカバー等

で用いられているが、軽量化に対して課題がある。近年では、電気自動車の軽量化策として金属

材料から樹脂への置換えが検討され始め、さらには自動車ボディの樹脂化検討も進められている。

このような状況において、今後ますます軽量な電磁波シールド対策の必要性が増加し、重要な課

題となると考えられる。本研究では、金属材料と比較して十分に軽量であること、高い電磁波シ

ールド特性を有することを両立させ、さらには金属筐体との置換えが可能な電磁波シールド成形

品の開発を行うことを目的とする。

これまでの研究開発において、非常に軽量な不織布

と薄い金属層から成る電磁波シールド不織布を開発

した(図 1)。電磁波シールド不織布は、電界に対し

優れた電磁波シールド特性を有するが、磁界に対する

効果が低いことが課題である。このため、現在採用し

ている金属付与の加工方法で磁界シールド特性を付

与できるかどうかの見極めを行った。また、実部品へ

の適用を考慮すると、樹脂等との一体成形が必要と考

えられるが、成形時にかかる熱や延伸により電磁波シ

ールド特性の低下が引き起こされ、所望の特性が得ら

れていない。この課題に対し、課題解決の可能性検討

を行った。

2. 電磁波シールド特性

これまでに開発した電磁波シールド材は、基材として軽量化を図るために不織布を採用した。

用いた不織布は目付け 30g/m2のポリエステルスパンボンドで、ステンレスメッシュに対し大幅な

重量減(約 1/20~1/5)を図ることができる。この不織布へ薄い金属層を付与し、電磁波シール

ド不織布を作製した。電磁波シールド特性の評価結果(KEC 法)を図 2 に示す。評価結果から、

電界に対し高い電磁波シールド特性(-50dB 以上@1MHz、-70dB 以上@10MHz)を有することがわか

った。しかしながら、磁界に対するシールド効果は得られなかった。一般的に、磁界シールド材

には磁性材が広く用いられているが、開発した電磁波シールド不織布の金属層には磁性材成分を

多く含んでいないため、磁界シールド特性が低くなったと推測される。このため、現在の金属層

付与工法において、従来の金属種から磁性材へ変更した場合に高い磁界シールド特性が得られる

かに関して可能性検討を実施した。

金属層は、高透磁率を重視した材料(磁性材)を選定した。また、量産性を想定し、磁性材の

狙い膜厚は上限 500nm とした。作製した試作品について表面抵抗を評価した結果、電磁波シール

ド不織布(0.57Ω/□@MD方向、0.77Ω/□@TD方向)に対し、磁性材 300nm品(5.3Ω/□@MD方向、

5.6Ω/□@TD方向)、磁性材 500nm品(2.4Ω/□@MD 方向、2.6Ω/□

図 1 電磁波シールド不織布

125

@TD 方向)及び磁性材 500nm+防錆金属材 200nm 品

(0.8Ω/□@MD 方向、0.9Ω/□@TD 方向)であった。

図 3 に磁界シールド特性の評価結果をまとめた。評価

結果から、低周波数帯では磁性材を付与したことによ

る効果が見られなかった。磁界シールド特性を付与す

るためには、めっき処理のようなμmオーダー以上の

磁性材膜厚が必要になると予測される。また、高周波

数における磁界シールド特性は、表面抵抗の低い順に

高い効果が得られることがわかった。

3. 一体成形

電磁波シールド不織布において、実部品への適用を考慮すると、樹脂等との一体成形が必要と

考えられる。これまでに、電磁波シールド不織布をフィルムや高目付不織布と貼り合わせた状態

で、図 4 で示す箱形状の一体成形(熱プレス成形)を行ってきた。しかしながら、図 5 に示すよ

うに成形後の電磁波シールド特性が著しく低下することがわかっている。要因として、成形によ

って金属層にワレやクラックが生じ(図 6 上図参照)、表面抵抗が上昇したためと推測される。

このため、成形による金属層の劣化を抑制するために、ポリエステルスパンボンド(従来基材)

から、新規のフレキシブル不織布に変更した。フレキシブル不織布は、従来基材と比較して構造

的に伸縮することができる。このため、成形時にかかる繊維自体の延伸を抑制できると想定した。

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0.1 1 10 100 1000

周波数 / MHz

電磁

波シ

ール

ド特

性 /

dB

測定限界値

電磁波シールド不織布

電界

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周波数 / MHz

電磁

波シ

ール

ド特

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dB

測定限界値

電磁波シールド不織布

磁界

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周波数 / MHz

電磁

波シ

ール

ド特

性 /

dB

測定限界値電磁波シールド不織布(成形前)

一体成形品

電界

図 2 電磁波シールド不織布の電磁波シールド特性

図 3 磁性材を付与した試作品の

磁界シールド特性

図 4 箱形状の一体成形品 図 5 成形前後の電磁波シールド特性

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周波数 / MHz

電磁

波シ

ール

ド特

性 /

dB

測定限界値

電磁波シールド不織布

磁性材 300nm

磁性材 500nm

磁性材 500nm + 防錆金属材 200nm

磁界

126

フレキシブル不織布に関して、これまでの工法で金属層を付与し、新規の電磁波シールド不織

布(フレキシブル電磁波シールド不織布と表記)を作製した。作製したフレキシブル電磁波シー

ルド不織布の表面抵抗は、4.7Ω/□@MD方向、6.1Ω/□@TD方向であった。図 8に電磁波シールド

特性の評価結果を示す。評価結果から、従来基材の電磁波シールド特性と比べ、特性の低下が確

認された。しかしながら、図 7に示すように金属層を付与したフレキシブル不織布を 20%延伸し

た状態の電磁波シールド特性は、延伸前の状態よりも高い電磁波シールド特性が得られ、表面抵

抗も低下した。これらの理由として、延伸前のフレキシブル不織布は、金属層の接触が少ないた

め電磁波シールド特性が低いものの、延伸(構造的に伸びる)によって金属層の接触が増加し、

高い電磁波シールド特性を示したと推測される。

作製した金属層を付与したフレキシブル不織布に関して、箱形状での成形検討(貼り合わせ材

として PET フィルムを使用)を実施した。作製した成形品の外観写真を図 8 に示す。不織布表面

状態の観察結果(図 6 下図参照)から、従来基材と比べ金属層のヒビやクラックが抑制されてい

ることが確認された。また、図 8 で示す箇所(底面及び側面)における電磁波シールド特性評価

を行った結果(図 9参照)、成形前よりも成形後の方が高い電磁波シールド特性を示した。

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周波数 / MHz

電磁

波シ

ール

ド特

性 /

dB

測定限界値

フレキシブル不織布(初期)

MD方向20%延伸状態TD方向20%延伸状態

電界

10μ m

成形前 成形後

10μ m

成形後

10μ m

底面

側面

従来基材

図 6 成形後における繊維の表面状態

図 7 延伸時における電磁波シールド特性 図 8 箱形状の一体成形品

(フレキシブル不織布)

フレキシブル不織布

127

また、作製したフレキシブル電磁波シールド不織布成形品の表面抵抗を評価した結果、最も成

形圧力のかかる箇所において、最も低い表面抵抗を示すことがわかった。この箇所における不織

布の表面状態の観察結果から、成形圧力によって繊維間の空間(隙間)がなくなっていることが

確認された。このため、繊維(金属)間の接触が増大し、表面抵抗が低くなったと予測される。

このことから、成形品全体にわたって繊維を押しつぶすことが出来れば、より高い電磁波シール

ド特性が得られることが見込まれる。より広範囲にわたって繊維を押しつぶすことが出来るよう

に成形条件(金型設計、成形温度や成形圧力)の最適化が今後の検討課題である。

4. まとめ

現在検討している不織布への金属層付与工法に関して、磁界シールド特性が得られるか検証し

た結果、付与した磁性材の膜厚が小さいことから低周波数の磁界シールドの効果は得られず、μm

オーダー以上の磁性材膜厚が必要になると予測される。また、高周波数における磁界シールド特

性は、表面抵抗の低い順に高い効果が得られることがわかった。

一体成形に関して、フレキシブル不織布のような構造的に伸びやすい不織布を用いることで、

成形時にかかる繊維への延伸を抑制できることがわかった。さらに、成形による圧力によって金

属層を付与した不織布を押しつぶしながら成形することで、成形前よりも表面抵抗が減少し、高

い電磁波シールド特性が得られることがわかった。

これらのことから、軽量且つ成形による電磁波シールド特性の低下を抑制可能な電磁波シール

ド不織布及びその成形品を実現でき、実部品への適用に関して目処付けを行うことができた。

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周波数 / MHz

電磁

波シ

ール

ド特

性 /

dB

測定限界値

フレキシブル不織布(初期)

一体成形品(底面)一体成形品(側面)

電界

図 9 成形前後の電磁波シールド特性(フレキシブル不織布)

128

(2)ライフイノベーション関連分野

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

固体状態で蛍光を示す有機蛍光色素は有機 EL、色素レーザー、波長変換材料などをはじめと

する様々な分野への応用が期待されている機能材料である。しかしながら有機色素は一般に濃

度消光を起こす。すなわち,希薄な溶液中で強い蛍光を示す色素であっても高濃度の状態にお

いては蛍光強度が著しく低下してしまう。特に固体状態ではその影響が顕著であり、固体状態

で蛍光を示す有機色素は非常に珍しいのが現状である。また、溶液中においてすら、近赤外領

域に蛍光を示す色素の数は限られている。更に吸収および蛍光波長の長波長化には 共役系の

拡張が必要となってくるが、 共役系の拡張は分子間相互作用を更に促進するため、濃度消光

の影響が大きくなってしまう。このような理由から,近赤外領域に固体状態で強い蛍光を示す

有機色素は未だ開発されていない。本研究では、近赤外領域に固体蛍光を示す有機色素の開発

に取り組んだ。

ピラジンおよびピリミジン環を母体とした色素を合成した。その結果、ピラジン環を母体と

した色素の方がピリミジン環を母体とした色素よりも長波長領域に吸収および蛍光を示すこと

がわかった。このピラジン環を母体とした色素は溶液中で 540 nm 付近に吸収を示した。また、

溶液中で 600~620 nm付近に最大蛍光波長を示し、その蛍光量子収率は 0.2~0.3程度であった。

更にこの色素は固体状態でも蛍光を示し、700~750 nm という近赤外領域に蛍光を示すことを見

出した。ただしその蛍光量子収率は 0.05程度であり,溶液中に比べて低い値,すなわち濃度消

光を示した.近赤外領域に固体蛍光を示す有機色素の開発という目標は達成できたが、強い蛍

光を示す色素の開発には至らなかった。

近赤外領域に強い固体蛍光を示す色素は未だ開発できていない。しかしながら、このような

色素が開発出来れば、近赤外有機 EL、色素増感太陽電池用近赤外増感剤、分子イメージング、

近赤外色素レーザーなど様々な分野への応用が期待できる。今後は蛍光量子収率の向上のため、

濃度消光を抑制する必要があると思われる。このための指針として、嵩高い置換基の導入を計

画している。また。更なる長波長領域での固体蛍光を目指し、 -共役系の伸張や強い電子供

与基と電子求引基の導入による Push-Pull効果の増強についても取り組んでいく予定である。

研究テーマ 「 近赤外領域に蛍光を示す有機色素の開発 」

研究責任者 所属機関名 岐阜大学

官職又は役職 助教

氏 名 窪田 裕大 メールアドレス [email protected]

129

2.実施内容および成果の説明

我々は以前の研究で -iminoenolate配位子を有する単核ホウ素錯体が蛍光を示すことを報告

している。しかしながら、その最大吸収波長( max)はジクロロメタン溶液中で 402 – 474 nm,

最大蛍光波長(Fmax)はジクロロメタン溶液中で 480 – 604 nm,固体状態で 526 – 624 nmであっ

た。本研究では、 -iminoenolate配位子を有するホウ素錯体の最大吸収波長および蛍光波長の

長波長化を行い、近赤外領域に蛍光を示す有機色素の開発を目指す。

分子軌道計算を用いて、分子構造のスクリーニングを行った結果、二核ホウ素錯体化により –

共役系を伸張させたピラジン二核ホウ素錯体 2 が以前に報告したピリジン単核錯体 Aよりも長波

長領域に吸収を示すことが示唆された。すなわち、ピラジン二核ホウ素錯体 2 の HOMO–LUMOエネ

ルギー差(2.71 eV)がピリジン単核錯体 A(3.47 eV)よりも小さくなるという計算結果を得た

(図 1)。

HOMO

HOMO-1

LUMO+1

LUMO

3.47 eV 2.71 eV

図1. 計算による単核ホウ素錯体と二核ホウ素錯体の比較

130

更にピラジン二核ホウ素錯体 3 – 6 についても DFT計算を行った結果、トリフルオロメチル基

やシアノ基などを有する 5(2.65 eV)や 6(2.59 eV)は 2(2.71 eV)に比べて,HOMO–LUMOエネ

ルギー差が小さくなる。すなわち長波長化することが示唆された(図 2)。分子軌道の形から、

これは 5 や 6が Push–Pull 構造を有するために、HOMO–LUMO遷移が ICT遷移となるためと考えら

れる。本研究では、近赤外領域に蛍光を示す有機色素として、ピラジン二核ホウ素錯体 2 – 6 の

開発を行った。

-5.27 -5.18 -5.02

-5.39 -5.45

-2.56 -2.45 -2.31

-2.74 -2.86

-5.83 -5.72-5.45

-5.97 -6.03

-1.88 -1.77 -1.62

-2.10 -2.24

-7.0

-6.0

-5.0

-4.0

-3.0

-2.0

-1.0

0.0

E/e

V

HOMO

HOMO-1

LUMO+1

LUMO

2.71 eV2.73 eV 2.71 eV

2.65 eV 2.59 eV

図2. 計算による二核ホウ素錯体の置換基効果の比較

131

ピラジン二核ホウ素錯体 2 – 6 の合成を式 1に示した。単核ホウ素錯体 1 と対応するアセトフ

ェノン誘導体とを THF溶液中、水素化ナトリウム存在下で還流することで、二座配位子を得た。

この配位子は溶液中でイミノケトンおよびイミノエノールの互変異性として存在することが NMR

から明らかになった。この互変異性をジクロロメタンに溶かして、トリフェニルボランを加え室

温で反応させることで、目的とするピラジン二核ホウ素錯体 2 – 6を得た。

ヘキサン溶液中での二核ホウ素錯体 2–6 の吸収スペクトルを図 1に示した。計算による予想ど

おり、二核ホウ素錯体 2–6 の最大吸収波長は 526 – 576 nm と単核錯体 1の最大吸収波長(446 nm)

と比べると長波長化した(図 3 (a))。また最大蛍光波長についても、二核ホウ素錯体 2–6(595 –

619 nm)は単核錯体 1(529 nm)に比べて長波長化した(図 3 (b))。

吸収および蛍光特性の結果を表 1 にまとめた。ヘキサン溶液中での二核ホウ素錯体 2–6の蛍光

量子収率( f)は 0.16 – 0.31であり,単核錯体の蛍光量子収率(0.71)に比べて低下した。蛍

光寿命測定から、放射速度定数(kf)および無輻射速度定数(knr)を求めた。その結果、蛍光量

子収率の低下は、放射過程の失活および無輻射過程の促進であることが示唆された。

300 400 500 600 7000

0.1

0.2

0.3

0.4

0.5

Wavelength / nm

Absorb

ance

2

13

4

5

6

500 600 700 800 9000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

No

rma

lize

d f

luo

resce

nce

in

ten

sity

Wavelength / nm

2

4

1

6

5

3

(a) (b)

図3.ヘキサン溶液中でのホウ素錯体1–6の(a)吸収および(b)蛍光スペクトル.

132

二核ホウ素錯体 2–6 は固体状態において蛍光を示した。そのスペクトルを図 4に示した。最大

蛍光波長(Fmax)は,単核ホウ素錯体 1(628 nm)に比べ、二核ホウ素錯体(696 – 748 nm)は長

波長化した。特にトリフルオロメチル基およびシアノ基を有する 5(Fmax = 718 nm)および 6(Fmax

= 748 nm)は近赤外領域に固体蛍光を示

した。すなわち、本研究の目的である近

赤外領域に蛍光を示す有機色素の開発に

成功した。蛍光量子収率( f)について

は、再測定の必要があるが、0.01~0.05

であった。

500 600 700 800 900 10000

0.2

0.4

0.6

0.8

1

Wavelength / nm

Norm

aliz

ed flu

ore

scence inte

nsity

1 2

4

53 6

図4.固体状態でのホウ素錯体1–6の蛍光スペクトル

133

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

超高齢社会を迎えた日本では寝たきり者が年々増加しており、彼らの健康維持・増進が喫緊の

課題となっている。この課題を解決するため、寝たまま(仰臥位)でも運動できる装置を開発し、

その運動効果を検証することを本研究の目的とした。運動方法として、外力によって脚を歩かせ

る方法 (他動歩行) を採用した。他動歩行は、歩行困難者の歩行再建や健康増進を目的とした運

動であり、リハビリテーションの領域で用いられている。本研究は、主に 2 つのパートで構成さ

れている。1 つ目のパートは、仰臥位でも他動歩行を実施できる運動器具の開発である。歩行再

建に必要とされる刺激として、①足裏への荷重、②左右の脚が交互に前後するような股関節の屈

曲・伸展、の 2 点が重要であるとされている。そこで、この 2 つの刺激を加えられる器具を開発

した。さらに、仰臥位姿勢では常に天井を見ているだけであり単調・退屈である。歩行再建には、

正常な歩行をイメージすることが重要であるとされていることから、実際に歩いているような感

覚を得られるようにするために、HMD (Head Mounted Display) を使用し、運動器具の脚の動きに

合わせて仮想空間内のキャラクタの動きを同期させて、歩行の視覚情報を提示するシステムを開

発した。2 つ目のパートは、仰臥位他動歩行中の呼吸循環反応の特徴を明らかにすることである。

本研究では、HMD を使用しない状態で、仰臥位他動歩行による呼吸循環反応の際を検討した。被

験者(n=10) は、3 分間の仰臥位安静、5 分間の他動歩行、その後の 5 分間の回復期で構成される

13 分間の試技を 2 回行った。1 回は足裏の荷重がある場合、もう 1 回は足裏の荷重がない場合で

ある。13 分間の試技中の換気量、血圧、心拍数を測定した。実験の結果、2 つの試技の呼吸循環

応答に特に差は認められなかった。両試技ともに運動開始初期において、一過性に換気量が約

1.6ℓ/分、心拍数が約 3 拍/分、上昇した。一方、平均血圧は運動後半にかけて上昇し、運動開始

前と比較して運動 5分目には約 4.6㎜ Hg高くなった。今回は、HMDを使用した他動歩行中の呼吸

循環反応を測定できなかったが、HMD 使用により「歩いているようだ」という感想が得られてい

ることから、生理的にも何らかの影響がある可能性があり、今後の検討課題となる。また、現在

は実用化や特許出願までには至らないが、仰臥位他動歩行による生理的効果の解明、ならびに仰

臥位他動歩行器具使用の簡便化を図ることにより、実用化が期待される。

研究テーマ 「仰臥位他動歩行器具の開発と運動効果の検証」

研究責任者 所属機関名 中部大学生命健康科学部スポーツ保健医療学科

官職又は役職 准教授

氏 名 尾方 寿好 メールアドレス [email protected]

134

HMD を接続

する PC

ベッド型の

他動歩行器具

下肢リハビリ

装置

HMD

HMD の位置推

定カメラ

2.実施内容および成果の説明

本研究は主に 2 つのパートで構成されている。1 つ目のパートは、仰臥位でも他動歩行を実施で

きる運動器具の開発である。2 つ目のパートは、仰臥位他動歩行時の呼吸循環応答の検討である。

(1)仰臥位他動歩行器具の開発

図 1 仰臥位他動歩行器具

仰臥位他動歩行器具の概要を図 1 に示した。この器具の特徴は、股関節の屈曲伸展が行えるこ

と、ならびに足裏からの圧力が加えられることの 2 点である。モーター制御で脚動作が課される

ため、一定の動作が可能である。屈曲方向の回転角度は 20°、伸展方向の回転角度は 10°とした。

また、動作スピードは、片方の足が上下して再び元の位置に戻ってくるまでを 1 周期として、最

大で 1分間に 30周期まで上げることができる。さらに本研究では、HMD (Head Mounted Display)

を使用し、ベッド型他動歩行器具の脚の動きに合わせて仮想空間内のキャラクタの動きを同期さ

せて、歩行の視覚情報を提示するシステムを

構築した (図 2 参照)。被験者はベッド型他

動歩行器具に仰向けの体勢をとり、 HMD

(OculusRiftDK2) を装着する。仮想空間内に

おいて CG キャラクタが歩行を行い、CG キャ

ラクタの一人称視点の映像を被験者に提示

する (図 3 参照)。HMD には、センサが内蔵

されており、頭部の動きに応じて映像がリア

ルタイムに追従するので、仮想空間に没入で

きる利点がある。

図 2 歩行視覚情報提示システム

135

仮想空間として、開発環境である Unity で提供され

ている 3D 都市モデル空間アセットを使用した。こ

の視覚情報システムについて、10 代から 20 代の男

性 24 名を被験者として、印象評価を行った。24 名

を 6 名ずつの 4 つのグループに分け、以下 4 種類の

実験の 1 つに参加させた。一つ目は、提案システム

を使用した実験 (実験 1)、二つ目は、ベッド型他動

歩行器具のみを使用した実験 (実験 2)、三つ目は、

提案システムにおいて仮想空間内の風景を変化させない実験 (実験 3)、四つ目はベッド型他動歩

行器具を動作させず、仮想空間内の風景のみが変化する実験 (実験 4) である。他動歩行器具の

動作周波数は、片足が上下して再び元の位置に戻ってくるまでを 1 周期として、0.3Hz の動作周

波数で行った。つまり 1 周波は 3.3 秒とする。これは、仮想空間内のキャラクタの 1 歩あたりの

時間が約 1.65秒間であることを意味する。印象評価方法として定義法を用いた。これは、特定の

フォーマットに形容詞を記述させて印象を評価する方法である。その結果、定義法による印象評

価については、実験 1 では「楽しい」「面白い」「歩いているようだ」といった肯定的な意見が被

験者の 8割以上で得られた。これに対し、実験 2と 3では「歩いている感じ」「歩いているような」

という意見は、被験者の半数以下であった。また、実験 3と 4でも「楽しかった」「面白い」とい

う意見は、被験者の半数であった。このように実験 1はより肯定的にとらえられていた。

(2) 仰臥位他動歩行中の呼吸循環応答

HMD を使用しない状態で、仰臥位他動歩行による呼吸循環反応の際を検討した。被験者は 10名で

あり、年齢、身長、体重の平均値はそれぞれ、21 ± 1 歳、170 ± 4 ㎝、66 ± 11kg であった。

各被験者は、3 分間の仰臥位安静、5 分間の他動歩行、その後の 5 分間の回復期で構成される 13

分間の試技を 2 回行った。1 回は足裏の荷重がある場合、もう 1 回は足裏の荷重がない場合であ

る。2 つの試技は順不同に実施した。また、動作スピードは 14.6 周期/分であった。13 分間の試

技中の毎分換気量 (VE)、平均血圧 (MAP)、心拍数 (HR) の継時的変化を検討した。この 3種類の

パラメーターを検討した理由は、他動運動中の VE、MAP、HR の増加は、四肢の動作に伴い生ずる

感覚刺激の影響を受けて増大することから、足圧の有無による感覚刺激の違いに鋭敏に反応する

と考えられたためである。本研究では、動作開始前 3 分間における 1~2 分目の 1 分間の平均値、

他動歩行開始 1 分間の平均値、他動歩行最後 1 分間の平均値、他動歩行終了後安静期の最初の 1

分間の平均値、および他動歩行終了後安静期における最後 1 分間の平均値を算出して統計解析を

行った。

図 3 仮想空間の映像の一部

136

図 1 他動歩行中および他動歩行終了後の毎分換気量の変化

図 1 は、他動歩行中および他動歩行終了後における VEの変化である。他動歩行開始直後に一過性

に換気量が増大した。足圧有りの場合には、7.6 ± 0.9 l・min-1から、9.2 ± 1.1 l・min-1まで

上昇し (P<0.05)、足圧無しの場合には、7.9 ± 1.5 l・min-1 から、9.4±1.0 l・min-1 まで上昇

した (P<0.05)。しかしながら、VEの変化について交互作用は認められなかった。

図 2 他動歩行中および他動歩行終了後の心拍数の変化

図 2 は、他動歩行中および他動歩行終了後における HR の変化である。HR についても、他動歩行

開始直後に一過性に増大した。足圧有りの場合には、59 ± 10 拍/分から 62 ± 9 拍/分まで上昇

し (P<0.01)、足圧無しの場合には、58 ± 8 拍/分から 62 ± 10 拍/分まで上昇した (P<0.01)。

しかしながら、HRの変化について交互作用は認められなかった。

*

*

*

137

図 3 は、他動歩行中および他動歩行終了後における平均血圧の変化である。VE および HR の変化

と異なり、他動歩行 5 分目に有意な上昇が認められた。足圧有りの場合には、86 ± 13 mmHg か

ら、91 ± 13 mmHg まで上昇し (P<0.01)、足圧無しの場合には、89 ± 19 mmHg から、93 ± 17 mmHg

まで上昇した (P<0.01)。しかしながら、平均血圧の変化について交互作用は認められなかった。

図 3 他動歩行中および他動歩行終了後の平均血圧の変化

まとめ

本研究では、足圧有りの場合も無しの場合も、脚の動作によって呼吸循環反応が生じた。しかし、

実際の歩行時のような大きな反応ではなかった。また、足圧の有無による呼吸循環反応の差異は

生じなかった。この理由の 1 つは、足圧のかけ方に問題があることが考えられた。すなわち、本

器具では脚が下降するとフットプレートから足裏が離れる傾向にあったため、十分に足裏に圧力

を加えられなかったことが考えられる。もし十分な圧力が加わると、大きな呼吸循環反応が生じ、

寝た状態でも呼吸循環系を大きく活性化するような効果を得られるかもしれない。また、HMD を

装着して歩行をイメージすることにより、より大きな反応を得られる可能性があるが、今回は検

討できなかった。今後、歩行困難者や寝たきり者の健康維持・増進を可能にする器具として実用

化するうえでは、より一層の器具の改良と、生理学的効果の解明が必要である。

*

138

1. 実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

高度情報化社会において平等で公平な情報アクセスを保障する観点から、音声だけでなく視覚

言語である手話による NUI(Natural User Interface)技術が強く望まれている。本研究では、

聴覚障害者への情報保障技術を実現するための取組みとして、手話の自動認識技術の開発に取り

組んだ。近年の高度化が著しい深度センサを活用することで、環境変化に頑健でかつリアルタイ

ム処理が期待される。本研究の取組みでは、手話認識を実現する上で問題となる複雑な手形状を

認識するための新たな手法を開発した。さらに日本手話の辞書データを元に、これまでに提案し

てきた語彙の拡張に柔軟に対応できるよう手話の音韻特性を考慮した認識手法に基づいて、300

語彙程度を対象とした手指動作動作によるリアルタイム手話認識システムを開発し、複数の手話

通訳士による評価実験により性能評価を行った。一方、手話認識で重要となる顔表情を認識する

ための取組みとして、基本的な文法機能を担う数パターンの頭部動作を隠れマルコフモデルによ

って認識する手法を開発した。非手指動作についても同様に手話通訳士による評価実験を実施し

た。本研究では、これまでに共同で進めてきたコンピュータビジョンおよび人物動作認識の専門

である Bogdan Kwolek准教授(ポーランド・AGH科学技術大学)と共に進め、これらの成果は国

際会議、国内研究会および学会等で成果発表を行った。

手話の音韻要素を分解し、手話の辞書の表記に基づいて認識を行う手法は、語彙の拡張が柔軟

に行えるほか、外国語の手話などにも容易に対応が可能である。一方で、手話における手の形状

変化は複雑で大語彙に対応するにはより多様な手形状を認識する必要があり、現時点の深度セン

サでは空間的・時間的解像度が不足しまだ難しいことが分かっており、今後も手形状の認識技術

の高度化を進める必要がある。

本研究の成果をもとにした実用化の取組みとして、公共施設の窓口で運用することを想定した

手話やジェスチャーを認識し音声情報に翻訳するシステムの開発に向けて、県内のソフトウエア

会社と共同研究に着手しており、聴覚障害者や難聴者など音声による対話が難しい方に対して、

公共施設や様々な出先で気軽に活用でき、平等な情報アクセスを実現する端末装置およびサービ

ス用プラットホームの開発に向けて研究開発を行っている。

研究テーマ 「手指・非手指動作を統合した手話翻訳のための深度センサによる頭部動作・表

情認識の研究」

研究責任者 所属機関名 名古屋工業大学

官職又は役職 助教

氏 名 酒向 慎司 メールアドレス [email protected]

共同研究者 所属機関名 AGH科学技術大学

官職又は役職 准教授

氏 名 Bogdan Kwolek

139

2.実施内容および成果の説明

1. 手話単語のモデル化と認識

日本手話には数千以上の語彙が存在する

ため、単語単位で認識モデルを構成する方法

は非効率である。そのため、音声言語におけ

る音素のような単位で分解し、再構築するこ

とによって手話単語を表現することが望ま

しい。本研究では、木村氏らが考案した日本

手話・日本語辞書システム[2]の表記法に基づ

き、手話単語を手形状、手の位置,動きの 3 要素の組み合わせによって定義した(図 1)。

本研究では、図 2のような構成で、3要素の認識結果から総合的に判断することで該当する手

話単語を出力する認識システムを構成した。なお、特徴抽出には、奥行き情報を含む 3次元特徴

量の抽出が容易に行えるという理由から Kinect v2 を用いる。

1.1 動きの認識手法

隠れマルコフモデル(HMM)を用いて手の動きの学習と認識を行う。手の座標系列から算出される

3 次元の方向ベクトルと速さを特徴量として用いる。また、手の動きの認識結果を示すスコアと

して、Viterbiアルゴリズムによって算出される最適経路の尤度を用いる。

1.2 位置の認識手法

一般的に、手話における動作位置の定義は曖昧であり、また部位によって領域の大きさが異な

るため、これらの特性を考慮した認識方法が必

要となる。そこで、本研究では混合正規分布を

用いる手法を採用した。事前に、該当する動作

位置に手を運んだ際に得られる手座標系列か

ら混合正規分布を学習し、

手話動作中の手座標に対する尤度を位置の

認識におけるスコアとする。

1.3 手形状の認識手法

手座標の周辺のみを切り取った深度画像を用いて、手形状の認識を行う。実時間性を考慮し、

Keoghらによって提案された輪郭線による認識手法[3]を取り入れる。この手法では、輪郭線に囲ま

れた領域の中心点から、輪郭線を構成する各画素までの直線距離を計算し、それらの距離の系列

を特徴量とする。領域の中心点は距離変換を用いて決定する。

複数の輪郭特徴をもとに、ベルトとよばれる汎用的な参照パターンを作成する。ベルトは各点

において最大値と最小値を持つ可変の幅を持った系列で、認識対象の輪郭特徴がベルトの内部に

含まれていれば、距離は 0となる。ベルトと認識対象である輪郭特徴の距離から類似度を算出す

図 1. 辞書データに基づいた手話単語の定義

図 1. 手話認識システムの構成

140

る。さらに手形状の回転を考慮するために、距離計算を行う 2つの系列のうち、一方をずらしな

がら繰り返し計算を行う。ベルトと認識対象の輪郭特徴との最小距離を、手形状の認識における

スコアとする。ベルトは、複数の輪郭特徴を距離の近い順に統合することで作成する。また、輪

郭線の多様性を考慮し複数のベルトを用意し、認識を行う。

2. HMMを用いた手話の非手指信号の認識

手話は手や指の動きにより単語の意味を表す手指信号(Manual Signals)と、頭部動作や表情な

どによって文法や副詞を表す非手指信号(Non Manual Signals、以下 NMS)から構成される。手指

信号と比較し NMSの体系化は難しく、NMSの認識に関する研究は少ない。しかし、手話文全体を

理解するためには、手指信号だけでなく NMSの認識も重要である。

先行研究[4]では手話文中に出現する頭部動

作 4 種類(頷き、顎上げ、顎下げ、首振り)の認

識実験を行ったが、話者の手話経験がなかった

ことから、現実的な評価データとは異なってい

た可能性が考えられる。本研究では手話通訳士

を対象とした HMMを用いた NMSの認識を試みる。

NMS の体系化は難しいが、木村らの研究[5]に

よると NMSには「表情」や「頭部動作」などが

あり、各文法機能と対応付けることができる。

本研究では、文末に出現することが多い頭部動作 3種類(頷き、顎下げ、顎上げ)の認識を試みる。

頭部動作が 1度出現する手話文を認識対象として想定し、HMMによってモデル化し、特徴量に頭

の傾きを用いる。

2.1 頭の傾きの抽出

顔の各部位の 3次元座標を取得できる Kinectv2を用いて得られた額の座標(y1,z1)と頬の座標

(y2,z2)から傾き を算出し、時間方向に平滑化したものを用いる。

2.2 HMMの構成

モデルには複数の状態をもつ Left-to-Right型 HMMを用いる。図 3のように各状態に対応する

区間を切り出し、切り出された各区間に含まれる特徴パターンの平均と分散をパラメータとして

設定した。本手法では、頭部動作が発生する際には頭の傾きが大きくなると仮定し、頭が傾いて

いない区間(静止)と頭が大きく傾いた区間(頷き、顎下げ、顎上げの生じる区間)の 4種類を状態

として定義する。区間の切り出しは目視によって行われた。状態数は、各頭部動作の時間的長さ

が異なるため、頭部動作ごとに経験的に設定した。括弧内の数字は状態数を表す。なお、確率密

度関数には 1次元単一正規分布を用いた。

図 3. 非手指動作認識 HMMの概要

141

3. 実験

3.1 手話単語認識実験

手話通訳士を起用し、全国手話検定 5 級の出題単語を対象とした孤立手話単語の認識実験を試

みる。先行研究[1]では単語データから各要素を学習しているが、手話データベースの確保が困難

であるという背景を踏まえ、本研究では手話の各要素に対応した疑似的なデータを学習データと

し、孤立手話単語の認識実験を行った。

3 要素の認識をそれぞれ行った後、3つのスコア

を重み付けし足し合わせることで手話単語ごとの

スコアを算出した。

3 要素それぞれの認識率と、手話単語の最高認識

率、その際の重みを表 2に示す。話者依存の条件で

223単語の未知語に対する認識率は 33.8%となった。

誤認識の主要な原因として、単視点カメラ画像を用

いた手話動作中の手形状の認識が難しいことが挙げられる。動作に伴い手の角度が大きく変わり、

手話動作中の手画像から学習データと同じような輪郭線が得られないことが多かった。そのため、

手話動作中の手の動きを再現しながら学習データを収集することで、認識精度の向上が期待でき

る。実験条件は異なるが、本実験では単語データから学習を行った先行研究[1]と同等、またはそ

れ以上の精度が得られており、疑似的なデータから手話の学習を行うという本提案手法の有効性

が確認できたといえる。

3.2 非手指動作関する実験結果

実験用データは、頭部動作が文末に 1回生起する、平叙文、肯否疑問文、命令文を各々72文ず

つ用意し、手話文の収録は手話通訳士 1名を対象に行った。NMSが目視で確認できないデータを

除いて、学習に 66個、認識に 125個のデータを使用した。作成した HMMをもとに、頭部動作 3種

類の認識を行う。実験結果は表 1のようになり、3種類の頭部動作全体の正解率は 79%であった。

誤認識の原因として、動作の類似した頷きと顎下げのモデルの作り分けが十分でなかったことや、

手話に伴い NMSに由来しない頭の動きが生じたことが挙げられる。

4 まとめ

本研究では、手話の言語学的知見に基づき、手話の 3要素である手形状、手の位置、動きの組み

合わせによって手話単語を定義し、認識を行う手法と HMMを用いた NMSの認識手法を提案した。

手話通訳士を対象とした評価実験を行った。実験規模は異なるものの、事前の学習データを必要

としない手法によって従来研究を上回る認識性能が得られた。非手指動作の認識実験においては、

頭部動作 3種類を 79%の正解率で認識することができた。今後の課題として、話者非依存の認識、

大語彙認識、連続手話文の認識などへの発展などが挙げられ、双方の手法を組み合わせることで

複数の NMSが出現する手話文への対応などが挙げられる。

表 1. 非手指信号の認識率

文の種類 頭部動作 正解率 (%)

平常文 頷き 61.1

否定疑問文 顎下げ 95.6

命令文 顎上げ 77.3

142

参考文献

[1] 佐藤新, 篠田浩一, 手話素単位を用いた大語彙手話認識, 電子情報通信学会技術研

究報告 PRMU, パターン認識・メディア理解、vol.111、no.430、pp.155-160、2012。

[2] 木村勉, 原大介, 神田和幸, 森本一成, 日本手話・日本語辞書システムの開発と評

価, 手話学研究, vol.17, pp.11-27, 2008.

[3] E. Keogh, L. Wei, X. Xi, S.-H. Lee, and M. Vlachos, LB Keogh supports exact

indexing of shapes under rotation invariance with arbitrary representations

and distance measures, Proc. of VLDB, pp.882-893, 2006.

[4] 不破大樹ら, Kinect を用いた手話の非手指信号の認識,電子情報通信学会,

ISS-SP-163,2015

市田泰弘,木村晴美, 初めての手話,日本文芸社,1995.

143

1.実施内容および成果ならびに今後予想される効果の概要

本研究では、チャネル病治療薬の創薬支援のため、高感度、高効率、簡便なイオンチャネル活

性(電流)測定法を開発した。従来法では、チャネルを含む人工細胞膜の作製効率の低さと膜の

脆弱性の問題により、チャネル電流の測定効率が異常に低いのが大きな問題であった。本研究で

は、以前我々が開発した方法を発展させ、物質 X 上の微小領域に安定した人工細胞膜を能動的に

形成する簡便な方法を確立し、測定効率を向上させた。具体的には、物質 X にイオンチャネルを

結合させ、それを脂質層に押し付けることでチャネルを含む人工膜を能動的に形成させた(特許

出願(特願 2015-154014))。この方法により、カリウムチャネルの一種である KcsAチャネルで

は、物質 X を脂質層に押し込んで数秒以内にチャネル電流を捉えることができ、従来法の 100 倍

以上の効率での測定が可能になった。このように、高い測定効率とシンプルな測定系という特徴

を持つチャネル活性測定法を作製することができた。現在、この系のマルチチャンネル化に取り

組んでいる。

さらに、物質 X を用いたチャネル活性測定法を用いて、ヒトの神経障害性疼痛に関与している

P2X4 チャネルの活性を測定することに成功した。P2X4 チャネルを昆虫細胞の発現系を用いて単

離・精製し、上記の KcsA チャネルと同様の手順で P2X4チャネルに特徴的なチャネル電流を捉え

ることができた。これにより、開発した方法を新たな疼痛薬の探索法として展開できる可能性が

示唆された。

以上のように、今回開発したチャネル電流測定系は、イオンチャネルを固定した物質 X を脂質

層に押し込むという簡便な操作で活性測定が可能な方法であり、自動化装置の作製も容易にでき

るであろう。この方法を発展させ、同時に多数の疾患に関わるイオンチャネルの活性を自動で測

定することで、薬剤の効果を効率よく迅速に調べることが可能になることが期待される。

研究テーマ 「イオンチャネル創薬支援に向けた新規チャネル活性測定法の開発」

研究責任者 所属機関名 光産業創成大学院大学

官職又は役職 講師

氏 名 平野 美奈子 メールアドレス [email protected]

144

2.実施内容および成果の説明

[物質 Xを担体として用いたチャネル電流測定法の確立 ]

以前我々が開発した人工細胞膜を能動的に形成する方法は、ガラス探針やアガロースゲルビー

ズ等をチャネルの固定の担体として用い、チャネルを固定した担体を脂質溶液層に押し込むこと

によりチャネルを含む人工膜を迅速に形成するという方法であったが、扱いにくさや装置の煩雑

さが問題であった。本研究では、チャネル固定の担体に物質 Xを使用し、

装置を簡略化・簡素化することを目標とした。

■ 方法

方法の概要

物質 Xを化学修飾し、表面に水溶液を保持する状態にするとともに、

イオンチャネルが持つヒスチジンタグに結合できる状態にした。その

後、物質 X にイオンチャネル(KcsA チャネル)を固定し、物質 X と

水溶液で脂質溶液を挟み込むことにより KcsA チャネルを含む人工膜

を能動的に形成し、チャネル電流を計測した(右図)。

2. 物質 Xの表面修飾とイオンチャネルの固定

以下の手順で物質 Xの先端を化学修飾し、最終的にイオンチャネルを結合させた。

① 2 mM PEG/EtOH溶液で処理(室温、2時間)

② 0.2 M EDC、0.05 M sulfo-NHS、20 mM NaPi、150 mM NaCl(pH7.0)で処理(室温、1時間)

③ 50 mM AB-NTA、20 mM NaPi、150 mM NaCl(pH7.0)で処理(室温、1時間)

④ 10 mM NiCl2で処理(室温、30分)

⑤ ヒスチジンタグを持つ KcsAチャネルを含む溶液に浸した(室温、15分)

3. KcsAチャネルの電流測定

① 0.6 mlのポリエチレンチューブに 250 μlの記録溶液(200 mM KCl, 10 mM MES (pH4))を

加え、その上に 60 μlの 20 mg/ml 脂質溶液(POPE : POPG = 3:1)を重層した。

② KcsA チャネルを結合させた物質 X を①のチューブ中に垂直方向におろし、チャネル電流が

生じた時点で物質 Xの降下を止めた。

③ 様々な電位でのチャネル電流を微小電流増幅装置(CEZ2400, NIHON KOHDEN)を用いて測定し

た。

■ 結果

上記の方法で KcsAチャネルの電流計測を行い、物質 Xを脂質層に押し付けて数秒以内にチャネ

ル電流を捉えることができた。これは、以前我々が開発した方法と同等の高い測定効率であった。

さらに、物質 X を用いることで、電流測定に必要な操作の一部を補うことができ、より簡素化さ

れ、作業工程が少ない測定系になった。これらにより、高い測定効率を持つ上、シンプルで使い

やすい測定系を確立することができた。以下にチャネル電流測定の詳細を示す。

図 人工細胞膜の作製方法

145

上記の方法で KcsAチャネルの活性を測定したところ、物質 Xを脂質層に押し込んで数秒以内にチ

ャネル電流を観察することができた(下図)。測定された電流値から求めたコンダクタンスは、

従来法による測定値と同等の 56 pSであり、KcsAチャネル由来の電流を測定していることが確か

められた。また、物質 X の上げ下げの操作により、繰り返して何度もチャネル電流を測定するこ

とが可能であった。

[ 測定装置の多チャンネル化 ]

上記の物質 X を担体として使用する測定系を多チャンネル化し、複数のチャネル電流を同時に

測定可能な系を作製することを目標とした。

■ 方法

① 塩ビのコンテナ(H=1.5cm、W=2cm、D=0.5cm)に、250 μlの記録溶液(200 mM KCl,

10 mM MES (pH4))を加え、その上に 30 μlの 20 mg/ml 脂質溶液(POPE : POPG = 3:1)

を重層した。

② KcsAチャネルを固定した 2つの物質 X を 1つのホルダーに固定し、目視で同じ高さに合

わせた。

③ ②の 1 つの物質 X からの電流をモニターしながら 2 つの物質 X を同時に①のコンテナ中

に垂直方向におろし、チャネル電流が生じた時点で降下を止めた。

③ スイッチを切り替え、もう一方の物質 Xからの電流を確認した。

④ それぞれのチャネル電流を電位を変えて測定した。

■ 結果

2 つの物質 Xを用いたチャネル電流同時計測系を構築した。2つの物質 Xからのチャネル電流を

同時測定した結果、一方からのチャネル電流は捉えることができたが、もう一方からは明確なチ

ャネル電流を捉えることができなかった。これは、物質 X の高さが目視では正確に同じ高さに合

っていないことが考えられ、チャネルを含む人工膜の形成には正確な物質 X の制御が必要である

ことが示唆された。

図 KcsA チャネルの電流トレース

測定条件 : + 50 mV, 100 mM KCl, 10 mM MES (pH4), 20 mg/ml

POPE:POPG=1:3

146

図 精製した P2X4 チャネルの

ウエスタンブロッティング像

[ ヒトの生理機能に重要なイオンチャネルの活性測定 ]

本研究でのチャネル電流測定法を創薬スクリーニング装置に拡張させるため、ヒトの生理機能

に重要なイオンチャネルである P2X4チャネルの活性を測定することを目標とした。P2X4チャネル

は、細胞外の ATP で活性化される陽イオンチャネルであり、神経障害性疼痛に関与している。そ

のため、疼痛薬のターゲットとして有望視されている蛋白質である。

■ 方法

1. P2X4チャネルの調製

ヒスチジンタグが付いた P2X4チャネルを昆虫細胞に発現させ、ヒスチジンタグにアフィニティ

を持つ Co2+カラムを用いて P2X4チャネルを単離・精製した。

2. P2X4チャネルの電流測定

上記の方法で、物質 X に P2X4チャネルを固定し、チャネルを人工膜に組み込んだ。チャネル電

流測定に用いた記録溶液は、記録溶液(100 mM KCl, 10 mM Tris-Hepes (pH7))であった。また、

測定溶液に ATPを添加するためのチューブを取り付けた。

■ 結果

ヒトの P2X4チャネルを昆虫細胞で発現・精製し、報告されている P2X4チャネルの分子量と同等

の約 50-60 kDaの精製産物を得た(下左図)。精製した P2X4チャネルの活性を本研究で開発した

チャネル活性測定法で測定したところ、コンダクタンスが約 31 pS であるチャネル電流が計測さ

れた(下右図)。さらに、ATPの添加によりチャネル電流の開確率の上昇が観察され、ATPによっ

て活性化される P2X4チャネルの特徴を捉えることができた。これらのことにより、本研究で開発

したチャネル活性測定法を用いて、ヒトの疾患に関わる P2X4チャネルの活性を効率よく簡便に測

定できることが示された。

図 P2X4チャネルの電流測定

測定条件: + 100 mV, 100 mM KCl, 10 mM

Tris-Hepes (pH7), 20 mg/ml DOPC