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20181日本の企業保険市場 01 エグゼクティブサマリー 02 はじめに 04 市場の概況 06 市場のパフォーマンス 16 成長の牽引役 20 革新的な保険ソリューシ ョン 23 市場の見通し 24 総括

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2018年1月日本の企業保険市場

01 エグゼクティブサマリー02 はじめに04 市場の概況06 市場のパフォーマンス16 成長の牽引役20 革新的な保険ソリューシ

ョン23 市場の見通し24 総括

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 1

エグゼクティブサマリー

日本の企業保険市場は世界第4位の規模を持っており、2016年の総元受保険料は380億米ドルであった。保険普及率(国民総生産GDPに占める保険料の割合)は近年上昇傾向にあるものの、他の先進市場と比べるとまだ低いのが現状である。2016年の日本の保険普及率はGDPの0.8%で、これは米国の1.6%、英国の2.4%とは対照的だった。種目別では、自動車保険1が2016年の企業保険の元受保険料の42%近くを占めた。次に大きかった種目は財物保険(元受保険料の17.5%)および賠償責任保険(17.2%)であった。2

2017年の元受保険料の伸びは2.7%と推定されており、これは2016年と比べるとわずか0.5%の伸びとなる。2017年の伸びは、財産保険の回復と景気の持ち直しによる補強が背景にあった。この前向きなモメンタムは2018年に入っても継続する見通しで、総じて企業保険の保険料は4.7%増加することが予想されている。

自然災害リスクは日本における企業の最も大きな懸念であることが世界経済フォーラムの最近の調査で分かっている3。この国は地震、台風、暴風、洪水など、幅広い自然の危険に晒されている。資産に対する大きな損害や生産の中断は企業の信用に傷をつけ、場合によっては倒産に追い込まれる可能性もある。事業用物件の所有者や企業の中には、地震保険や事業中断保険(BI保険)を自社のリスク管理戦略の中核部分に据えるところも増えてきており、特に2011年の地震と津波、ならびに同年のタイ洪水の後はその傾向が強まっている。しかし、物損リスクは引き続き大幅な過少保険の状態にある。さらに、グローバル化によって大部分の多国籍企業や中小企業までが世界規模のサプライチェーンに接続されるようになってきている。その結果、サプライチェーンはさらに複雑になり、事業中断や関連するリスク管理の問題に力を入れる企業がますます増えている。

革新的な保険ソリューションはリスク移転の効率アップ、収益およびキャッシュフローの変動の低減、保険引受能力の拡張に役立つ可能性がある。時間の経過に伴い、引受可能な事業用財物リスクは、従来の物的損害(建物や機械など)から、事業中断(BI)や偶発的な事業中断(CBI)へと広がってきている。物的損害を伴わない事業中断(NDBI)リスクに対する保険は、今のところ付保が困難なエクスポージャーに対するソリューションの提供の進化における次のステップとなる。

イノベーションはリスクの新たな軽減方法を提供している。しかし、デジタル技術はまたビジネスにとっての新たなリスクを生んでいる。データ使用の増加、センサー技術の普及、工場や建物、機械、その他ものの相互接続性の発達は、潜在的なサイバー脅威に対するエクスポージャーの拡大を意味する。世界全体として、サイバー保険からの保険料収入はエクスポージャー全体との比較ではまだ少ない。サイバーリスクを対象とする補償ソリューションの発展における主な課題は、損失の頻度や重度についての不確実性と、リスクの潜在的な相関性である。サイバー事故に関するデータが豊富になれば、これに特化した市場のさらなる発展が後押しされるものと思われる。

¹ 任意自動車保険と強制第三者賠償責任保険(CTP)の両方を含む。² 労働者災害補償保険も含まれる。³ Global Risks of Highest Concern for Doing Business, 世界経済フォーラム、2017年, http://reports.

weforum.org/global-risks-2017/global-risks-of-highest-concern-for-doing-business-2017/#country/JPN

日本の企業保険市場は世界第4位であるものの、普及率は他の先進諸国と比べると低い

直近の見通しは引き続き良好で、企業保険の保険料は2018年に4.7%伸びる予想

企業は事業中断についての懸念をますます募らせている

革新的な保険ソリューションはリスク移転の効率化を促進し、収益やキャッシュフローの変動を低減することが可能

サイバー保険の保険料収入は全体的なエクスポージャーと比較してまだ少ない

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2 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

はじめに

企業のリスク管理とは損失に対する組織のエクスポージャーの管理および軽減であり、企業の経済活動の中に本来組み込まれている部分です。リスク構造は、経済や法的環境が変化したり、新技術やグローバル化、地政学的出来事などの結果として新たなリスクが登場すると変化するものです。企業のこれらのリスクへの対処方法は、企業としての市場価値や財務力、資金調達コストに多大な影響を与えます。

エクスポージャーの多様性や変化し続ける性質を考えると、企業は保険をかけるべきか、それとも自社のリスクを保有するべきかを常に再評価していかなければなりません。リスクの中には企業のコア事業の一部となっていて、賢く保有することのできるものもあります。一方で、保険マーケットへ移転する方がより適当なものもあります。保険の購入は、ますます企業リスク管理戦略の一部になってきており、購入の判断は全体的なリスク管理の枠組みの中で下されるようになってきています。

本レポートでは、日本における企業のリスク構造を形成する主なトレンドについて評価します。そして、企業が直面している主なリスクを取り上げ、企業がより複雑化するリスク構造に対応する上で、進化を続ける保険ソリューションをいかに役立てることがで1きるかについて検討します。 

リスク管理は企業の損失へのエクスポージャーのコントロールと軽減を行う機能的なプロセスである

日本企業は保険を掛けるか、リスクを保有するかについての一貫した再評価を行う必要がある

本レポートでは日本で企業保険に影響を及ぼす主な傾向について振り返る

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 3

日本企業の保険手配は英米の企業と比較して充分とはいえない

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4 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

市場の概況

世界第4位の規模を有する企業保険市場2016年の日本の企業保険の元受保険料は、380億米ドルであった。これは日本の損害保険市場全体の保険料の46%に相当する。4 保険料収入の規模で見た場合、日本は米国、英国、中国に次いで世界第4位の規模である。

順位 国名企業保険の元受保険料

(10億米ドル)損害保険市場に占める

企業保険の比率企業保険の保険料

GDPに占める割合(%)1 米国 301 50% 1.6%

2 英国 64 68% 2.4%

3 中国 59 43% 0.5%

4 日本 38 46% 0.8%

5 ドイツ 27 34% 0.8%

6 フランス 22 34% 0.9%

7 イタリア 14 41% 0.7%

8 カナダ 13 30% 0.9%

9 オーストラリア 12 44% 0.9%

10 韓国 10 15% 0.7%

世界市場合計 720 45% 1.0%

注:2016年の損害保険の元受保険料(医療保険を除く)の推定値。日本および韓国の損害保険市場の数値には貯蓄型商品は含まれない。英国の数値には、ロンドンマーケットの保険料およそ330億が含まれる。出典:スイス・リー・インスティテュート

日本の企業保険の普及率は、近年、着実に上昇しているが、、その他の多くの先進国市場の企業と比べると、保険に対する支出(GDPに占める割合)は充分とはいえない。2016年の普及率は米国がGDPの1.6%、英国が2.4%であったのに対し、日本は0.8%であった。同年の日本の企業保険の元受保険料の内訳を見ると、自動車保険(自賠責保険を含む)が41.9%を占め、次いで企業財物保険(17.5%)、賠償責任保険(17.2%)、海上保険(4.7%)と続いた。

46% 54%

35.3%6.6%4.7%

18.7%17.2%17.5%

出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

⁴ 日本のデータはすべて会計年度を基準とする。例えば、2017年は会計年度の2017/18年(2018年3月までの1年間)を表す。

表1企業保険の世界10大市場2016年の保険市場

日本企業は他の先進国企業と比較して保険手配が充分とはいえない

図1日本の企業保険市場の内訳(2016年)

日本における企業保険の保険料は2016年に380億米ドルにのぼった

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 5

自然災害と火災が日本の事業中断リスクの中心

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6 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

市場のパフォーマンス

日本における企業保険日本の企業保険の保険料は2016年に0.5%減少した後、2017年に2.7%増加し、4兆2,970億円(390億米ドル)に達したと推定されている(図2参照)。この増収は、景気回復に伴うものであった。企業保険に対する需要は、特にスペシャルティーに関しては景気循環に敏感である。GDPの伸びは2016年の1.0%から2017年には推定1.5%まで回復し、堅調な輸出と政府の金融財政刺激策がその後押しとなった。全体の押し上げに貢献したもうひとつの主な要因は、長期火災保険の短縮化のマイナスの影響がなくなったことから、企業財物保険の元受保険料が2017年に成長に転じたことである。海上保険の保険料も、世界貿易の段階的な改善に伴い再び伸びに転じた。しかし、最大のセグメントである自動車保険は、保険料率の引き下げと企業向け自動車保険の売上減少の打撃を受けた。

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2017E

LHS RHS

注:LHS = 左目盛、RHS = 右目盛、E = 推定出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

一方で、企業保険の普及率は全体的に過去2年間で安定化している。2011年から2015年にかけては強い増加を見せた(図3参照)。

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2017E

2016201520142013201220112010200920082007

出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

企業保 険の元受 保 険料は 2017年に2.7%増加したと推定される

図2企業保険の元受保険料(10億円)とその成長率(前年比%)

普及率は過去2年間で安定化

図3企業保険の普及率(GDPに対する保険料の割合)

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 7

企業向け自動車保険2016年、日本の企業保険に占める自動車保険の比率は41.9%で、主力事業となっている。自動車保険は、企業が保有する自動車の使用に伴う賠償責任および車両損害を担保する。日本では、すべての登録自動車に賠償責任保険(自賠責保険)への加入が義務付けられている。自動車賠償責任請求は、高頻度で低額のものが大勢を占めている。多くの先進国市場において大企業は一般的に車両保険に加入しないが、日本企業の多くは依然として保有車両に車両保険を手配している。

2017年、自動車保険は保険料率のカットと、事業用車両の売り上げ不振の影響を受けた(図6参照)。5自動車保険の元受保険料は昨年、全体的に0.7%減少したと推定されている。自賠責保険の保険料率は、2017年4月に平均で6~7%カットされた。6企業向け自動車保険の元受保険料は1兆7,400億円で安定しており(図4参照)、2017年の普及率はGDPの0.32%となっている(図5参照)。

近い将来も、自動車保険事業は低価格のボリューム勝負の状態が続くと思われる。主要な損害保険会社は、2018年1月より任意自動車保険の保険料率を平均で2~3%引き下げるとコメントしている。これは、自動ブレーキなどの先進安全技術の採用が広まったことによる保険金請求の減少を反映するために、損害保険料率算出機構(GIROJ)が任意自動車保険の参考料率の引き下げを発表したことを受けたものだった。

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

⁵ 損害保険料率算出機構(GIROJ)は2種類の保険料率を算出:(1) 任意保険の参考純率と、(2) 自賠責保険の基準料率。任意保険の場合、保険会社はGIROJの参考純率を採用し、これに経費を加算して保険料率を決定するか、独自の料率を算出する。保険会社は自社の保険料率を金融庁へ提出して認可を受ける必要がある。GIROJの料率を使う場合、金融庁の審査は必要ない。独自の料率を使う場合、金融庁が差額について審査を行う。自賠責保険の基準料率は、損害保険料率算出機構が「ノーロス・ノープロフィットの原則」に基づいて算出している。すべての損害保険会社が基準料率に従うことを義務付けられている。

⁶ Announcement on revision of standard full rates for compulsory automobile liability insurance,損害保険料率算出機構(GIROJ)、2017年2月3日、http://www.giroj.or.jp/english/ press_2017/20170203.pdf

自動車保険は日本における主力商品である

料率引き下げが2017年の企業向け自動車保険元受保険料の伸びに打撃となった

自動車保険事業は2018年も引き続き、低価格のボリューム勝負となる

図4企業向け自動車保険の元受保険料(10億円)

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8 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

市場のパフォーマンス

0.24%

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2017E

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

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2.8%

3.2%

LHS RHS

出典:CEIC、損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

図5企業向け自動車保険の普及率(GDPに対する保険料の割合)

図6企業向け自動車保険の元受保険料と事業用自動車の伸び(前年比%)

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 9

企業財物保険企業財物保険の元受保険料は、2017年に2%増加して7,470億円になったと推定されている。その前の2016年には急減したが(図7参照)、これは長期火災保険の契約が最長36年から10年に短縮されたことが原因で起こった。一方、2017年の財物保険の普及率はGDPの約0.14%(図8参照)と推定されている。

日本では、企業地震保険と利益(事業中断)保険の大半が火災保険の特約として手配されている。大企業の多くは先ず財物を支払限度額ベースで保険手配し、利益(事業中断)保険や地震保険は付保しない傾向がある。一方、中小企業の多くはほぼ無保険状態である。2011年の東日本大震災によって合計2,100億米ドルを超える経済損失が生じたが、保険(日本政府の地震再保険スキームを含む)で支払われた損害額が17%に過ぎなかったのはその証左である。同年にタイで発生した洪水も鑑み、2011年以降、事業用資産の所有者や企業の間では、徐々に地震保険と利益(事業中断)保険をリスクマネジメント戦略の中核として捉える動きが出てきた。

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

企業財物保険の元受保険料は、長期火災保険の短縮化の影響が消えたのに伴い、2017年に再び伸びに転じた

地震と事業の中断は企業リスク管理の中核としてますます注目されているが、企業財物保険の普及率はいまだに低い

図7企業財物保険の元受保険料元受保険料(10億円)

図8企業財物保険の普及率(GDPに対する保険料の割合)

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10 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

市場のパフォーマンス

賠償責任保険賠償責任保険の元受保険料は2017年に1.5%増加し、7,310億円となった(図9参照)。他の先進国市場と比べると日本企業は賠償責任保険に対する支出は少なく、これは国内に訴訟文化がそれほど根づいていないことを反映している。日本では、企業間の紛争解決は裁判外の手続きが好まれる傾向がある。そのうえ、日本の損害賠償責任保険市場は極端に集中しており、グローバルな補償を手配するのは一握りの大企業に限られる。2017年の賠償責任保険の普及率は、GDPの0.13%と安定している(図10参照)。

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

0.07%

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2017E

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

日本企業は他の先進国企業に比べ賠償責任保険への支出が少ない

図9賠償責任保険の元受保険料(10億円)

図10賠償責任保険の普及率(GDPに対する保険料の割合)

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 11

海上保険 2017年、日本の海上保険料は3.3%増の2,030億円と推定されており、その背景には世界貿易と船舶輸送の段階的な回復があった(図11参照)。過去数年間にわたり、船主は過剰な運搬能力から、新規造船の注文を増やすことを控えてきた。海上貨物の取扱量の減少によりコンテナ部門の料金が下がり、結果的に日本国内外において造船所および海上輸送業者の統合が進んだ。2017年、新規造船市場は回復の兆しを暫定的ながら見せており、海上貨物取扱高も増加した(図13および図14参照)。2017年上半期、日本の大手海運会社は軒並み増益を発表した。前向きな勢いは、2018年にかけても継続することが見込まれている。一方で、2017年の海上保険の普及率は0.037%と推定されている。

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2017E

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

0.034%

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2017E

2016201520142013201220112010200920082007

出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

海上保険料は2017年に回復

図11海上保険の元受保険料(10億円)

図12海上保険の普及率(GDPに対する保険料の割合)

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12 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

市場のパフォーマンス

–40%

–30%

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TEU

注:4QMA = 4四半期移動平均、TEU = 20フィード・コンテナ換算 *2017年6月現在のデータ出典:CEIC、スイス・リー・インスティテュート

–20%

–15%

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2017E*

2016201520142013201220112010200920082007

LHS GT RHS CGT RHS

–240%

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–120%

–60%

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注:*2017年4月~10月のデータ、GT = 総トン数、CGT = 標準貨物船換算トン数出典:一般社団法人 日本造船工業会、日本船舶輸出組合、スイス・リー・インスティテュート

図13日本の貨物保険の元受保険料と日本の主要港における港湾コンテナ取扱高(4QMA, 前年比%)

図14船舶保険の元受保険料、新規造船受注、造船所の新規輸出注文の伸び(前年比%)

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 13

信用・保証保険2017年の日本の信用・保証保険の元受保険料は2.0%増の推定およそ440億円だった(図15参照)。信用・保証保険の保険料の推移パターンは、企業の倒産の傾向を概ね映し出している(図17参照)。2008年と2009年には日本においておよそ15,000件の倒産があったが、その数字は2016年にはおよそ8400件に減少した。2017年の信用・保証保険の日本における普及率は、GDPのおよそ0.01%に留まると推定されている(図16参照)。

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出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

0.000%

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0.004%

0.006%

0.008%

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0.012%

2017E

2016201520142013201220112010200920082007

出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

信用・保証保険の保険料は2017年は緩やかに増加

図15信用・保証保険 の元受保険料(10億円)

図16信用・保証保険 の普及率(GDPに対する保険料の割合)

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14 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

市場のパフォーマンス

–30%

–20%

–10%

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02

20

01

注:*2017年6月現在のデータ出典:CEIC、スイス・リー・インスティテュート

図17信用・保証保険の元受保険料の伸びと企業の倒産(4QMA、前年比%)

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 15

技術、グローバル化、社会の変化に伴い、事業中断のリスクが高まる

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16 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

成長の牽引役

日本で懸念される主な企業リスク世界経済フォーラムの調査によると、保険付保可能なリスクの中でも自然災害とサイバー攻撃は日本企業によって取り上げられるリスクの上位に入っている。7この調査は、財政危機やデフレ、エネルギー価格ショックなど、様々な懸念を含む経済的リスクを順位付けしているが、その多くが保険付保不可能なリスクである。

財物および事業中断のリスクの補償は不充分のまま自然災害リスクは、日本における企業の懸念の上位に入っている。この国は、地震、台風、暴風、洪水を含め、幅広い自然の危険に晒されている。資産に対する大きな損害や生産の中断は企業の信用に傷をつけ、場合によっては倒産に追い込まれる可能性もある。日本における企業財物保険の元受保険料は、2011年の地震・津波の大災害と同年のタイ洪水の発生後、強い伸びを回復した。

事業用不動産の所有者や企業は、地震保険と利益(事業中断)保険をリスクマネジメント戦略の中核部分として見る傾向をますます強めている。それでも不動産は(事業用と住宅用のいずれも)、災害などのリスクに対する手配が充分ではないのが現状だ。当社のシグマ調査によると、日本の財物補償ギャップは世界最大である。2016年の無保険損害総額は推定410億米ドルで、これは国内損保各社の財物保険の保険料の310%に相当する(図19および表2参照)。8

⁷ 世界経済フォーラム, op.cit.⁸ シグマ5/2015『財物リスクにおける過少保険:ギャップ縮小策の検討』(スイス・リー、2015年9月)を

参照。

自然災害とサイバー攻撃が日本企業が懸念する2大リスク

図182017年日本企業が懸念するリスク

0% 10% 20% 30% 40% 50% 60% 70% 80%

出典:世界経済フォーラム

地震保険や利益(事業中断)保険をリスクマネジメントの中核部分として見る企業が増えてきている

それでも、日本の財物リスクに対する補償は充分とは言えない

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 17

自然災害による物損の年間予想額

注:スイス・リーの自然災害リスクモデルMultiSNAPにより算出された予想損失額。出典:スイス・リー・インスティテュート、損害保険リスクトランスフォーメーション9

順位 国一般財物リスクの

過少保険額自然災害リスクの

補償ギャップ財物リスクの

補償ギャップ合計1 日本 13.1 27.9 41.0

2 中国 13.6 22.7 36.3

3 米国 -- 30.9 30.9

4 ドイツ 7.8 2.1 9.9

5 メキシコ 2.2 5.2 7.4

世界の合計 68 153 221

注:スイス・リーの自然災害リスクモデルMultiSNAPにより算出された予想損失額。自然災害リスクの補償ギャップは自然災害における無保険損害額の見込みから推定した。一般財物リスクにおける補償ギャップは、加入することで想定される経済的利益額に対して、実際に加入されている財物保険の金額との差から推定した。出典:スイス・リー・インスティテュート、損害保険リスクトランスフォーメーション10

⁹ 同上。¹⁰ 同上。

図19 補償の有無による自然災害からの年間物損額予想(10億米ドル)

–30 –25 –20 –15 –10 –5 0 5 10 15 20 25 30 35

-30 -25 -20 -15 -10 -5 0 5 10 15 20 25 30 35

Uninsured wind

Uninsured flood

Uninsured EQ

Insured wind

Insured flood

Insured EQ

AustraliaFrance

United KingdomBrazil

NetherlandsChileIndia

CanadaGermany

IndonesiaPhilippines

TurkeyTaiwan

ItalyMexico

ChinaJapan

USA表2財物補償ギャップ(企業向けおよび住宅向け)(10億米ドル)

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18 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

成長の牽引役

事業中断リスクは、サイバーリスクとのつながりをますます強めている。個人データや機密データを保有する事業者にとって、サイバーセキュリティーの侵害リスクは増大している。例えば、ホンダでは2017年6月、コンピュータネットワークがランサムウェア「WannaCry」に感染したことが発覚し、狭山工場の生産を停止した。11 2016年には、日本において468件のサイバーインシデントが報告された。これらのインシデントには1,500万件以上の個人情報データの盗難が関与しており、推定損失額は2,994億円にのぼることが日本ネットワークセキュリティ協会(JNSA)の調査で明らかになっている。12

現時点では、エクスポージャー全体と比較するとサイバー保険の元受保険料は世界的に見ても相対的に少ない。サイバーリスクを対象とする補償ソリューションの発展における主な課題は、損失の頻度や重度についての不確実性と、リスクの潜在的な相関性である。サイバーインシデントについてのデータが充実すれば、このリスクに特化した市場のさらなる発達が促進されるものと思われる。13

グローバル化は、現代の企業にとってのもうひとつの潜在的リスク領域である。多くの企業は、多国籍企業も中小企業も同様に、広範かつ複雑な国際サプライチェーンを発展させてきた。これには事業中断や製品リコールなどの費用のかかるシナリオの発生が想定されるが、保険による補償がその軽減に役立つ可能性がある。日本企業は、欧州や米国、アジア諸国(中国、タイ、フィリピン、インドネシア、ベトナム)に製造施設を持つなど、世界各地に幅広く利害関係を持っている。2016年末の日本の対外直接投資は総額1兆3,590億米ドルにのぼり、1998年の2,710億米ドルから大きく伸びている(図20参照)。

具体的な例として、日本の自動車・自動車関連産業は真に国際的な広がりを見せている。このセクターでは、サプライチェーンの拡張および複雑化、製品安全基準および規制の厳格化の結果、リコールの発生頻度が上がり、費用がますますかさむようになってきている(「増加傾向にある自動車産業のリコール」参照)。2016年、日本の自動車部品メーカー、タカタは欠陥エアバッグを原因として、10億米ドルにのぼる罰金および賠償金を科せられた。この欠陥エアバッグのために、世界各地で車両の大規模なリコールが発生した。

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出典:日本貿易振興機構、スイス・リー・インスティテュート

¹¹ 『Honda plant hit by WannaCry ransomware attack』フィナンシャル・タイムズ、2017年6月21日 https://www.ft.com/content/a0f5d047-2e20-3db9-b258-565d3be17bba

¹² 『2016年情報セキュリティインシデントに関する調査報告書』NPO日本ネットワークセキュリティ協会、2017年6月20日

¹³ サイバーリスクについて詳しくは『sigma 1/2017 サイバー空間:複雑なリスクに取り組む』(スイス・リー・インスティテュート)を参照。

事業中断はサイバーリスクとのつながりが強まっている

サイバーリスクに対するエクスポージャーは大きいものの、保険市場はまだ小さい

グローバル化によってサプライチェーンは複雑化し、日本企業も事業中断リスクにますます注目している …

… さらに、商品リコールリスクにも注目が集まる

図20日本の対外直接投資(10億米ドル)と年次推移(%)

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 19

増加傾向にある自動車産業のリコール米国自動車産業のリコール件数は3年連続で過去最高となり、2016年には約5,320万台がその対象となった(図21参照)。14日本の自動車部品メーカー、タカタが製造したエアバッグの潜在的な欠陥を原因とした大量のリコールは、2016年の高水準のリコールの大きな要因となった。国家道路交通安全局(NHTSA)によると、このリコールだけでも影響を受けた車両は最終的におよそ4,200万台にのぼり、現時点で19社の自動車メーカーがその打撃を受けている。15エアバッグインフレーターの破裂についての米国司法省による調査の結果を受けて、タカタは2,500万米ドルの罰金を支払い、将来的な事故も想定した1億2,500万米ドルの賠償金ファンドを設立。さらに、自動車メーカーに生じた大規模リコール費用を賠償する目的で8億5,000万米ドルの基金も別途設立した。162017年6月、タカタは日本および米国において民事再生手続きの申請を行った。

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vehicles, millions [left]recalls [right]

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出典:国家道路交通安全局

このリコールの増加は、欧州全域でも見られる。2017年第1四半期のリコール・通知インデックスを見ると自動車のリコール件数は同四半期に再び増加しており、その主な要因は欠陥エアバッグだった。特に、欧州における乗用車のリコール件数が同四半期に122件へと増加している。これはインデックスの歴史上で最も高い水準であり、インシデント全体の40%以上をエアバッグが占めている。ステアリングとエミッション関連の問題もこの数字に加担してる。リコールの発生国別では、ドイツが最上位で40件。これに次いでフランスが29件、英国が14件となっている。17

¹⁴ 『US auto recalls hit record high 53.2 million in 2016』(米自動車リコール台数が2016年に過去最高の5.320万台に達する)ロイター、2017年3月10日 http://ca.reuters.com/article/businessNews/idCAKBN16H27A-OCABS.

¹⁵ 『U.S. DOT accelerates replacements of Takata air bag inflators』(タカタのエアバックインフレーターの交換を加速するよう米運輸省が指示)NHTSA,2016年12月9日 https://www.nhtsa.gov/press-releases/us-dot-accelerates-replacements-takata-air-bag-inflators.

¹⁶ 『Takata to plead guilty, pay $1 billion U.S. penalty over air bag defect』(タカタ有罪、欠陥エアバッグで10億米ドルの罰金支払い) ロイター、2017年1月14日

¹⁷ 『Airbags Cause Automotive Recalls to Inflate to Highest Level in RAPEX History』(エアバッグが原因で自動車リコール台数がRAPEX史上最高水準に)ExpertSolutions,2017年5月11日 http://www.stericycleexpertsolutions.co.uk /airbags-cause-automotive-recalls-inflate- highest-level-rapex-history/

米国自動車産業のリコール件数が過去数年間にわたり過去最高を記録

図21リコールされた車両の台数および米国におけるリコール件数

この増加は欧州全域で見られる

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20 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

革新的な保険ソリューション

革新的な保険ソリューション18

急速な技術の進歩、特にデジタルトランスフォーメーションが、ビジネスの性質を変えている。このところ、シェアリングエコノミーなどの領域において、新しいタイプの会社やビジネスモデルが台頭してきている。ウーバーなどの新しい運輸業者は自動車を一切保有せず、Airbnbは賃貸物件を所有していないが、それぞれの業界における従来の事業者を、成長や時価総額の観点から追い抜いている。ウーバーもAirbnbも日本では事業展開していないが、2017年6月に政府は民泊に関する新しい法律を可決し、ハウスシェアリングのようなサービスに対して法的枠組みを与えている。19日本の規制では、ライドシェアリングはまだ禁止されている。企業部門も、実物資産を豊富に持つ形態から、無形資産やサービスからより大きな価値を引き出す形態へと変化してきている。このような変化に伴い新しい革新的な保険ソリューションが登場しており、資産やバランスシートの補償から、収益やキャッシュフローのリスクに対する保護へと移行してきている(図22参照)。

出典:スイス・リー・インスティテュート

時代の変化とともに、保険付保可能な財物リスクの性質も、建物や機械の破損などの従来の物損から、事業中断(BI)や偶発的な事業中断(CBI)へと広がってきている。財物損害を伴わない事業中断(NDBI)は、この変化における次のステージとなる。NDBIは、保険リスクが従来の資産に関連する物損リスクから切り離されており、保険付保されている自社または第三者の財物に物理的な破損がない場合でも、収益が補償される。潜在的なNDBI事象の具体例として、停電、ストライキや組織的な封鎖、政府行為などの政治的出来事、規制当局の認可や商品ライセンスの取り下げ(品質の問題や安全上の理由から)、主要取引先の倒産などが挙げられる。デジタル化もNDBI損失の原因となるもうひとつの要素である。データはますます重要な資産となり、企業はデータ使用の妨害やサイバー攻撃、ソフトウェアのエラー、インターネットアクセスの切断といった出来事に対して脆弱になりつつある。

¹⁸ 企業保険の商品の展開および革新について詳しくは、『sigma5/2017: 企業保険:イノベーションによる保険引受可能性の範囲拡大』(スイス・リー・インスティテュート)参照。

¹⁹ 『Japan Prime Minster and His Cabinet』(日本の総理大臣と内閣)、Policy News、2017年12月15日 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/miraitoshikaigi/4th_sangyokakumei_dai3/sankou7.pdf

新しいタイプのビジネスモデルのニーズに応えるために革新的なリスクソリューションが開発されている

図22被保険者のリスク範囲の広がり

財物損害を伴わない事業中断は利益(事業中断)保険の補償内容の変化における次のステップ

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 21

NDBIの原因となる出来事は、従来は保険付保やヘッジが困難だった著しい経済的損失を生じる可能性がある。エクスポージャーはケースバイケースで異なるため、標準的なNDBIソリューションの設定はない。さらに、NDBIリスクを従来の物損リスク要因から切り離した場合、情報の非対称性やデータ可用性の問題が生じ、従来の補償範囲は不適切となる。一方、パラメトリック型の商品を使用することで保険付保の可能範囲が拡大し、NDBIを補償しやすくなる。ただし、ソリューションを提供する事業者がトリガーして使用するインデックスや、エクスポージャーとトリガーイベントによって生じる損失との間の相関性をモデル化する能力を持っていること、インデックスと被保険者の損失シナリオとの間に十分高い相関性があることが条件となる。以下は、トリガーベースの企業保険を導入した革新的なソリューションの日本における事例の一部で、NDBIリスクへの対処、ひいてはこれまで保険付保が困難だった資産の保護や収益変動の軽減に役立てられている。

銀行向けの住宅ローン関連保険

背景:日本における住宅ローン事業は非常に競争が激しい。大きなモーゲージポートフォリオを抱えるある大手銀行は、住宅ローンのオプションとして災害救済補償を提供することで自行商品の差別化と顧客ロイヤルティの獲得を図りたいと考えていた。

保険ソリューション:ある保険会社が銀行向けに災害救済補償を付けた独自の商品を設計。これによって、住宅ローンを抱える顧客は自身の不動産が自然災害の被害にあった場合に、ローン返済の救済を受けることができる。被害の程度に応じて、ローン返済の救済(元本と利息)を最長24ヶ月まで延長が可能。銀行が住宅ローンに対して若干高い金利を設定すれば、この補償を受けることができる。

利点:この商品は、銀行と住宅ローンの借り手の両方に災害救済を提供できる。民間の住宅保険の大部分は補償しておらず、政府による保険制度でも満額が補償されない地震リスクも補償範囲となる。借り手は災害が発生した際に救済を受けることができるので経済的耐性が高まり、また借り手が不動産を手元に置いたまま損失を取り戻す手助けができる。一方、銀行はより魅力の高い住宅ローン商品を提供し、市場における自行の差別化を図り、追加リスクを負うことなく借り手との既存の関係を強化することができる。

小売店向けの物損以外に起因する事業中断を対象とするパラメトリック型の補償

背景:東京に本社を有する高級品の販売会社は、大規模な地震が生じた場合の、販売への影響および売上減少について懸念を示している。この会社が付帯している従来型の地震補償では、地震による操業中断は補償となっているが、物理的損害を直接の原因としない費用支出は、補償の対象となっていなかった。

保険ソリューション:震度に関するインデックスに基づき、事前に合意した金額を支払う長期保険契約。

利点:このインデックスベースのソリューションはシンプルで、保険金の処理手続きのスピードアップを図ることが可能。NDBIの補償を含め、店舗の収益変動に対する補償も提供。

NDBIソリューションがリスク移転の効率改善、保険付保可能性の範囲拡張の可能性を秘める

住宅ローン事業を持つ銀行は災害補償の特約を付けることで商品の差別化が可能

インデックス連動型ソリューションで、大地震の発生後の店舗事業の大幅な落ち込みに備える

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22 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

革新的な保険ソリューションはリスク移転の効率改善、収益の変動低減、保険付保可能範囲の拡張につながる

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スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場 23

市場の見通し

保険料収入の見通しはさらに明るい保険料収入の見通しは、経済成長の安定化の期待と保険料率環境の改善を背景に明るくなっている。2017年の日本経済は、外需の回復や財政刺激の後押しを受けて予想を上回る成長を遂げた。2018年も経済は安定的に拡大する見込みであるものの、ペースは若干落ち、実質GDP成長率は1%程度と予想されている。兆候としては、世界経済の持ち直しが2018年にかけても続く公算が大きい。例えば、先行指数である先進国製造業PMIは、持続的な拡大を示している。このため、世界貿易の見通しは引き続き明るく、日本の輸出業者にとっては好材料となる。政策面では、日本の金融緩和政策と財政刺激策は継続の見通しである。2017年10月の衆議院総選挙で与党が勝利を収めて明確な過半数を獲得し、同11月には安倍晋三氏が総理大臣を続投することとなった。

総じて、企業保険料収入は2018年に4.7%伸びる予想となっている。ただし、自動車保険の元受保険料は引き続き、保険料率低下の影響で頭打ちとなる見通しである。日本の大手損害保険各社は、任意自動車保険の保険料を2018年1月より平均で2~3%程度引き下げる計画を発表している。

元受保険料* 2014年 2015年 2016年 2016年推定

2017年予測

企業保険(10億円) 3 963 4 202 4 182 4 297 4 498

賠償責任 657 684 721 731 749

財物 751 822 732 747 776

自動車 1 622 1 719 1 753 1 740 1 747

海上保険 230 225 197 203 216

その他 703 752 780 845 973

信用・保証保険 45 42 43 44 45

企業保険(前年比%) 4.8% 6.0% –0.5% 2.7% 4.7%

賠償責任 1.0% 4.1% 5.4% 1.5% 2.3%

財物 5.5% 9.4% –11.0% 2.0% 4.0%

自動車 4.7% 6.0% 2.0% –0.7% 0.4%

海上保険 3.0% –2.0% –12.6% 3.3% 6.0%

その他 8.4% 7.0% 3.7% 8.3% 15.2%

信用・保証保険 –2.4% –6.3% 2.1% 2.0% 2.0%

注:*保険データはすべて会計年度を基準にしています。例えば、2017年は2017/2018会計年度 (2018年3月に終了する1年間)を意味する。

出典:損害保険統計号(株式会社保険研究所)、一般社団法人 日本損害保険協会、スイス・リー・インスティテュート

企業保険の見通しは明るい

企業保険料収入は2018年に4.7%伸びる予想

表3日本の企業保険の予想

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24 スイス・リー・インスティテュート 日本の企業保険市場

総括

近年、日本の企業保険普及率は着実に上昇している。しかし、日本企業は他の先進市場の企業と比べて、一般的に保険手配が充分ではない。企業保険に対する需要は、景気循環と敏感に連動している。2017年の企業保険の元受保険料は、2016年の不振から回復して、推定で2.7%増加している。2017年の回復の背景には、景気の改善と財物保険の回復があった。このプラスの勢いは2018年に入っても続く見通しだ。元受保険料は、安定的な経済情勢と保険料率環境の改善を背景に4.7%の増加予想となっている。

日本では、事業中断リスクについての懸念が企業の間で高まっている。これはサイバーリスクとの繋がりが強まっている。グローバル化はサプライチェーンの複雑化という結果をもたらし、企業が事業中断や関連リスクの管理プロセスをますます重視する要因となっている。

急速な技術の進歩、特にデジタルトランスフォーメーションが、ビジネスの性質を変えている。付保可能な企業リスクの性質は、従来の財物損害(建物や機械)からBIやCBIへと、時代と共に広がってきている。財物損害を伴わない事業中断(NDBI)は、これまで保険付保が困難であったエクスポージャーを対象とするソリューション提供の展開において、次のステップとなる。リスク評価の改善は、データ分析が牽引している。これが、つまり商品設計におけるイノベーションこそが、事業者の直面するより広い範囲の脅威と危険に合わせて新しいリスクの補償範囲を拡張していく後押しとなる。

日本の企業保険の普及率は近年伸びているものの、他の先進諸国市場の水準をまだ下回っている

企業のリスク管理担当者は徐々に事業中断リスクに注目している...

...データ分析とイノベーションは新しいリスクの補償の発展を後押ししている

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