SNS やtwitter による個人情報の流出と監視社会の危 … SNS やtwitter...

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29 SNS twitter による個人情報の流出と監視社会の危険性について 鬼柳祐介 1. はじめに 近年、mixi facebook といったいわゆる SNS(Social Networking Service) や、twitter といったインターネット上のサービスの利用者 が増加している。既存のアンケート調査による と、SNS twitter といったサービスを 1 つも 利用していない学生は、17.24%であった。 1) SNS とは、「人と人とのつながりを促進・サ ポートする、コミュニティ型の Web サイト」 2) をいう。それらを通じ、インターネット上にプ ロフィール・動画・静止画・日記をはじめとし た様々な情報を公開することにより、人と人と のつながりやコミュニケーションがそこで多く 行われている。 しかし、閲覧することができるのは特定の人 に限られるわけではない。一部ではアクセスに 制限をかけることのできる機能もあるが、全く 制限をかけずにすることもできる。これによる 危険性については社会問題にもなっている。 たとえば、自宅近辺の写真や、今どこで何を しているのかといったことを事細かに書き込ん でいると、それらがパズルのピースのようにつ なぎ合わされて個人が特定されるといったこと は十分にあり得る。また、複数のユーザーの書 き込みにより、書き込んだユーザー以外の個人 が特定される可能性も十分にある。友人の不用 意な書き込みによって人間関係が崩れたり、秘 密にしておきたいことを公開されたりすること が起こっている。 この行為は、他人の個人の情報を不特定多数 の受信者に向けて公開することを意味している。 また、それらの多くは、いつどこにいるのかと いった時刻や位置に関する情報が含まれている。 しかも、こういった個人の情報の提供といった ことは至る所で行われている。さらに、本人の 意図とは無関係に、周囲の人がその人の情報を 発信することも可能となっている。 つまり、インターネットに接続できる環境さ え整っていれば、誰かの行動を監視し続けるこ とが可能な社会になっている。このことにより、 先のような問題が起こっている。つまり、周囲 の人がその人の情報を発信していれば、ここで いう監視は十分に可能である。SNS twitter といったインターネット上のサービスによって、 一般人の一般人による監視が可能となり、それ が広く浸透した社会、すなわちこれまで盛んに 議論されてきた国家による監視社会ではなく、 SNS 等を用いた一般人による監視社会が形成 されると考える。またその社会は、監視によっ て、個人の行動が制限され自由が奪われる危険 性を有する。しかし、利用者はそのような危険 性を認識せずに、サービスを利用している人も いると思われる。 誰かに情報を発信されていることは、すなわ ち誰かに見られていることに他ならない。だと すれば、それが個人の自由を制約するという直 感は、多くの人に共有されるものとなるだろう。 喩えるなら、オーウェル的監視は ”Big Brother is watching you.” 3) であるが、ここでの 監視は”Someone may be watching you.”また ”Everybody can watch you.”である。 本研究は、 SNS 等のサービスの利便性と危険 性の認知について、利用者の意識構造を分析す ることを目的とする。その結果をもとにして、 社会に警鐘を鳴らすものである。 また、この研究において監視とは、インター ネット利用者が、プロバイダを通じ、ある個人 の情報を収集し続けることにより、その個人の 過去と現在の行動を一方的に見張ることをいう。 本研究をすすめるにあたって、 SNS 等の利用 に関する意識調査のアンケートを実施し、その 結果を用いて、共分散構造分析法で分析をした。 2. 発信者・受信者・プロバイダについて 情報を用いた監視社会を形成する 3 者の関わ りについて述べる。発信者・受信者とは、それ

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SNSや twitterによる個人情報の流出と監視社会の危険性について

鬼柳祐介

1. はじめに

近年、mixi や facebook といったいわゆる

SNS(Social Networking Service)や、twitter

といったインターネット上のサービスの利用者

が増加している。既存のアンケート調査による

と、SNS や twitter といったサービスを 1 つも

利用していない学生は、17.24%であった。1)

SNS とは、「人と人とのつながりを促進・サ

ポートする、コミュニティ型の Web サイト」2)

をいう。それらを通じ、インターネット上にプ

ロフィール・動画・静止画・日記をはじめとし

た様々な情報を公開することにより、人と人と

のつながりやコミュニケーションがそこで多く

行われている。

しかし、閲覧することができるのは特定の人

に限られるわけではない。一部ではアクセスに

制限をかけることのできる機能もあるが、全く

制限をかけずにすることもできる。これによる

危険性については社会問題にもなっている。

たとえば、自宅近辺の写真や、今どこで何を

しているのかといったことを事細かに書き込ん

でいると、それらがパズルのピースのようにつ

なぎ合わされて個人が特定されるといったこと

は十分にあり得る。また、複数のユーザーの書

き込みにより、書き込んだユーザー以外の個人

が特定される可能性も十分にある。友人の不用

意な書き込みによって人間関係が崩れたり、秘

密にしておきたいことを公開されたりすること

が起こっている。

この行為は、他人の個人の情報を不特定多数

の受信者に向けて公開することを意味している。

また、それらの多くは、いつどこにいるのかと

いった時刻や位置に関する情報が含まれている。

しかも、こういった個人の情報の提供といった

ことは至る所で行われている。さらに、本人の

意図とは無関係に、周囲の人がその人の情報を

発信することも可能となっている。

つまり、インターネットに接続できる環境さ

え整っていれば、誰かの行動を監視し続けるこ

とが可能な社会になっている。このことにより、

先のような問題が起こっている。つまり、周囲

の人がその人の情報を発信していれば、ここで

いう監視は十分に可能である。SNS や twitter

といったインターネット上のサービスによって、

一般人の一般人による監視が可能となり、それ

が広く浸透した社会、すなわちこれまで盛んに

議論されてきた国家による監視社会ではなく、

SNS 等を用いた一般人による監視社会が形成

されると考える。またその社会は、監視によっ

て、個人の行動が制限され自由が奪われる危険

性を有する。しかし、利用者はそのような危険

性を認識せずに、サービスを利用している人も

いると思われる。

誰かに情報を発信されていることは、すなわ

ち誰かに見られていることに他ならない。だと

すれば、それが個人の自由を制約するという直

感は、多くの人に共有されるものとなるだろう。

喩えるなら、オーウェル的監視は ”Big

Brother is watching you.”3)であるが、ここでの

監視は”Someone may be watching you.”また

は”Everybody can watch you.”である。

本研究は、SNS 等のサービスの利便性と危険

性の認知について、利用者の意識構造を分析す

ることを目的とする。その結果をもとにして、

社会に警鐘を鳴らすものである。

また、この研究において監視とは、インター

ネット利用者が、プロバイダを通じ、ある個人

の情報を収集し続けることにより、その個人の

過去と現在の行動を一方的に見張ることをいう。

本研究をすすめるにあたって、SNS 等の利用

に関する意識調査のアンケートを実施し、その

結果を用いて、共分散構造分析法で分析をした。

2. 発信者・受信者・プロバイダについて

情報を用いた監視社会を形成する 3 者の関わ

りについて述べる。発信者・受信者とは、それ

30

ぞれ情報を発信する者・情報を受信する者をい

う。プロバイダとは、発信者が提供した情報を

媒介し、受信者へとその情報を提供する者をい

う。また、その 3 者は以下の図 1 のような関係

になる。

図 1 発信者・受信者・プロバイダの関係

3. 問題意識

SNS や twitter では、コミュニケーションを

とったり、人とのつながりを促進したりするこ

とが目的とされている。コミュニケーションを

とるためには、個人の情報の発信は必要である。

ゆえに、SNS や twitter においても、その利用

のために個人の情報を発信しなければならない。

もし、個人の情報の発信や流出を防ぐことが

できれば、監視をすることができなくなる。こ

こで問題となるのは、誰が個人の情報を発信す

るのか、ということである。

これは、次の 2 つに場合分けできる。

(1)発信者と発信される情報内の個人が一致す

る場合

(2)発信者と発信される情報内の個人が一致し

ない場合

(1)では、例えば、A が飲み会に参加し、A 自

らが飲み会に参加したという情報を SNS 等に

発信する場合である。これによって仮に何か問

題が生じたとしても、その発信については A の

自己責任とみなせる。

しかし、(2)の場合はどうか。例えば直前の例

えにおいて、A が飲み会に参加したという情報

を A ではなく友人 B が発信する場合である。こ

れによって仮に何か問題が生じたとき、発信し

ないように言わなかった A の責任か、或いは発

信してしまった B の責任か、決まるだろうか。

それに、B がした A の情報を発信するという行

為が、B 自身のよい(わるくない)という認識の

基になされたのであれば、A の B に対する指摘

は、かえって新たな問題を招きかねない。加え

て、B が先輩だったり教授だったりした場合、

そもそも情報を発信しないでほしい旨を、伝え

ることができただろうか。

さらに、これと同様の情報を B だけでなく、

C、D、E、……、と発信者が複数の場合はどう

か。このような場合には、すべての発信者の責

任ではなく、そもそも飲み会に参加してしまっ

た A の責任だとされるかもしれない。

ちなみに、mixi や twitter などのプロバイダ

は、利用規約にて、責任を負わないとしている。

※参考:「ユーザーは、ユーザー自身の自己責任

において本サービスを利用するものとし、本サ

ービスを利用してなされた一切の行為及びその

結果について一切の責任を負います。」(mixi

利用規約第 13 条 ユーザーの責任 1)4)

4. 監視社会の形成のための仮説と学生を対象

とした意識調査の実施

本研究で想定した監視社会が形成されるため

には、発信者の意識に関する次の要件が必要で

あると仮説を立てる。

仮説(1)発信者が、自分の情報や他人の情報をプ

ロバイダに発信し、その情報を特定或いは不特

定の受信者に受信されることをよい、と認識し

ていること

仮説(2)(1)について、情報を提供するという行為

は、発信者が、自発的に、能動的になしている

のではなく(または、なしていると思い込んで

いるが)、強制的に、受動的になされている、と

いうこと

プロバイダが SNS 等のサービスを提供し続

け、利用者はそれを受け入れ、またその利用を”

よい”と思い込んで利用していれば、その後は自

動的に個人情報の発信が行われるだろう。

そこで、これらの仮説を検証するために表 1

に示すとおり、意識調査を実施した。

アンケートは、SNS 等の利用実態なる質問を

作成し、意識に関して 50 問から、5 段階で回答

する形式とした。また、アンケートの対象は、

SNS 等の利用率が高いと思われる大学生に対

し行った。

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表 1 調査概要

調査日時

平成 24 年 1 月 23 日

(月)

4 限,14:45~16:15

平成 24 年 1 月 26 日(木)

4 限,14:45~16:15

調査対象 北大法学部 3~4 年

「法社会学」履修者

北大工学部土木系 3 年

「パブリックデザイン演習」

履修者

有効回答数 74 47

5. 共分散構造分析(SEM)による SNS等の利用

実態と意識構造分析

(1)共分散構造分析の概要

共分散構造分析法(Structural Equation

Modeling, SEM)とは、観測データの背後にあ

る、さまざまな要因の関係を分析する手法であ

る。要因には、「味の好み」や「ブランド価値」

などの、数値としては直接観測できないものが

含まれ、これらを潜在変数と呼んでいる。一方、

調査などの観測によって得られるデータを観測

変数と呼ぶ。

共分散構造分析は、「確証的因子分析

(Confirmatory Factor Analysis, CFA)」が発

展したものであり、回帰分析と因子分析が組み

合わさったような分析手法である。観測変数か

ら潜在変数を導き、変数間の因果関係を明らか

にしていく統計的アプローチの一種である。図

2 は、SEM の代表的なモデルである。

図 2 SEMの代表的なモデル

SEM で使用した質問一覧を示す。表 2 は外

的要因、表 3 はインターネットに対する認識、

表 4 はインターネット利用目的に関する質問で

ある。

表 2 SEMで使用した質問一覧(外的要因)

表 3 SEMで使用した質問一覧

(インターネットに対する認識)

表 4 SEMで使用した質問一覧

(インターネット利用目的)

(2)SEMによる分析結果

図 3 は、北大法学部生のアンケートの回答を

基に分析した結果で、図 4 は、北大工学部生の

アンケートの回答を基に分析した結果である。

図 3 SEMによる分析結果(法学部生)

y₃

y₂

y₁

η₂

ζ₇

e₆

e₄x₁

x₂

x₃

ξ₁

e₁

e₂

e₃

λ₁₁

λ₁₂

λ₁₃

κ₂₁

κ₂₂

κ₂₃

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図 4 SEMによる分析結果(工学部生)

SEM のパス図や分析が有効であるかは、適

合度指標である GFI、AGFI、CFI が 0.9 以上、

RMSEA が 0.05 未満であることが一応の目安

とされている(それらの数値が適合条件を満た

していないからと言って、パス図や分析が即棄

却されるわけではない)。5)

この結果より、インターネットを利用する目

的は、「コミュニケーションをとりたいから(問

23)」が強く、それ自体は自発的で内的な要因だ

とみなすことができる。ただし、「周りからの期

待に応えるため(問 40)」に向けられた数値も大

きいため、内的な要因だけでないことわかる。

また、外的要因からインターネット認識へ、

インターネット認識からインターネット利用へ、

という流れが有効であり数値も大きいことから、

利用の背後には、外的な要因が強く影響してい

ることがわかる。

つまり、発信者は情報の発信を自発的にして

いるとみなしているが、そうではなく、組織や

社会といった外的な要因によって、いわば強制

的に発信させられている、と解することもでき

る(問 21、問 44、問 45)。これより、仮説(2)が

実証される。

また、問 17 及び問 48 により、仮説(1)も実証

される。

(3)SNS等の利用とリスク認識の関係について

SEM によって、「インターネット利用に関す

るリスクについて認識はしているものの、それ

が行動に表れていない」ということがわかった。

アンケートの結果として、個人情報の流出は

怖い(問 50)との質問に対し、97.3%の人が「5

強くそう思う」または「4 そう思う」とした。

また、問 1 では 77.0%、問 8 では 79.3%の人が

「5 強くそう思う」または「4 そう思う」とし

た。にもかかわらず、パス図内の潜在変数「イ

ンターネットに対する認識」から、リスク認識

である観測変数「問 1」「問 8」に向かう数値が

低く、それよりも利便性への観測変数「問 35」

に向かう数値が高い。これは、利用者が、リス

クの認識をしているがそれよりも利便性を優先

する傾向がある、ということを示している。

6. 本研究の成果と今後の課題

SEM の結果から、監視社会への要件として

の仮説が実証された。加えて、インターネット

利用に関しては、リスク認識より利便性を優先

する傾向があることもわかった。

よって、このままプロバイダが SNS を提供

し続け、かつ誰かが誰かを監視しようと思えば、

それが可能となる社会が到来するかもしれない。

しかし、ここでの実証とは、北海道大学の法

学部生と工学部生の一部によってもたらされた

ものである。属性の偏りから、結果が限定され

た領域しか反映されない可能性は十分にある。

今後の課題としては、まずこの属性の偏りを

なくしていくこと、また利用者の意識構造の分

析から、監視社会へとのつながりを明らかにし

ていくことが挙げられる。

参考文献

1)SNS や twitter 等のインターネット上のサー

ビスの利用状況に関する調査

2)IT 用語辞典:http://e-words.jp/

3)ジョージ・オーウェル、新庄哲夫訳:「1984

年」、ハヤカワ文庫、1972

4)mixi 利用規約: http://mixi.jp/rules.pl

5)豊田秀樹編著:共分散構造分析[AMOS 編]構

造方程式モデリング