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京都大学 宇宙物理学教室 佐々木貴教 系外惑星最前線 ~宇宙観・生命観の大変革~

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京都大学 宇宙物理学教室 佐々木貴教

系外惑星最前線 ~宇宙観・生命観の大変革~

自己紹介❖ 佐々木 貴教(ささき たかのり)

❖ 京都大学 大学院理学研究科 物理学・宇宙物理学専攻宇宙物理学教室 助教

❖ 2008年3月に東京大学で学位を取得

❖ 専門は “惑星の形成と進化” の理論研究 惑星系はどのようにして作られるのか 惑星系はどのように進化していくのか  我々は何処から来て何処へ行くのか? 生命を宿す “第二の地球” は存在するか?

今日お話しすること

❖ 太陽系外惑星の発見 科学における「新発見」はいかにして起こるのか?

❖ 太陽系外惑星の観測手法 他の星の周りを回る惑星の見つけ方・調べ方

❖ 天の川に浮かぶ地球たち 驚愕の観測事実;宇宙は地球であふれてる!?

❖ 「第二の地球」の発見へ向けて 20xx年に人類の宇宙観・生命観の大変革が起きる!

太陽系外惑星の発見

太陽系外惑星太陽系:太陽を中心とする我々の住む惑星系     (水・金・地・火・木・土・天・海)

太陽系外惑星:太陽以外の恒星の周りを回る惑星系

1940~60年代:  白鳥座61番星のまわりに惑星発見?  バーナード星のまわりに2つの惑星発見?

1995年2月:論文「太陽系は特殊で奇跡的な惑星系である」

1993年:  ニュージーランドの観測チーム「惑星は検出できなかった」

1995年8月:論文「太陽系以外に惑星は存在せず」

→ 間違い    → 間違い

太陽系外惑星が見つからない

1989年:  アメリカの観測チーム「惑星は検出できなかった」

Mayor & Queloz (スイスの観測チーム) ペガサス座51番星の周りに “Hot Jupiter” が存在!

1995年10月

人類初の太陽系外惑星検出

太陽系外惑星が続々と見つかる

発見年

発見数

太陽系外惑星の観測手法

暗すぎる惑星、明るすぎる中心星

←惑星中心星→

暗すぎる惑星、明るすぎる中心星

←惑星中心星→

恒星が観測者に近づいたり 遠ざかったりする  → “ドップラー効果”により星の色が周期的に変化 ドップラー効果の大きさから惑星の重さが求まる

間接法1:視線速度法恒星は惑星の重力によって ほんの少しだけ “揺らされる”

46

1995���

この後最も多くの系外惑星が 本手法で発見されている

51 Pegasi b

1995年 初めての系外惑星発見

惑星が恒星の前を通過する際に明るさが変化する  → 周期的な明るさの変化を観測

惑星のサイズが求まる → 惑星の密度が求まる 分光観測から惑星の大気成分や温度分布も求まる

間接法2:トランジット法

HD 209458b初めてトランジットが観測 された系外惑星 初めて大気成分が観測された  下層部:ナトリウム  上層部:水素・炭素・酸素 表面温度も観測:約1200℃ さらにその後の観測で  水・メタン・二酸化炭素の  存在も確認された

惑星と恒星の光を分離し、惑星の姿を直接見る

コロナグラフ:明るい恒星の部分だけを隠す

総研大ジャーナル  号   

 2006年8月の「冥王星が惑星の仲間から外れる」というニュースは、予想を越える大きな社会的反響を引き起こした。惑星はそれほどに一般の人々にも馴染み深い天体であるからだろう。その数は太陽系の中でこそ8個しかないが、すでに200個を超える数の惑星が太陽系の外で見つかっていることをご存知だろうか。これらは「太陽系外惑星」あるいは「系外惑星」と呼ばれ、主に、惑星の存在が及ぼすさまざまな影響を間接的にとらえること(間接的系外惑星検出)によって、過去10年間に続々と発見されてきた。 惑星は生命をはぐくむための液体の水と酸素が存在しうる場であるため、系外惑星、とくに地球に似た惑星を探す試みは、地球外生命を求めるステップとして、一種の極限宇宙の探索に挑む研究テーマなのである。

系外惑星発見前夜 系外惑星を探す試みは決して新しくない。20世紀初めから中葉にかけてアメリカのバンデカンプらが精力的な観測を行い、太陽に2番目に近いバーナード星に木星クラスの惑星が2個存在すると発表した。ところが、数十年にも及ぶこの観測結果は、別のグループによる観測で否定されてしまった。 1980年代に入って、惑星検出のための観測技術は著しく向上した。しかし、カナダのグループが、最新の手法と口径4mの望遠鏡を12年間用いた観測によっても系外惑星は見つからず、その検出には否定的な雰囲気が漂っていた。 その風向きを一挙に変えたのが、1995

年のスイスのメイヤーとケロッズの発見だった。それは木星質量の半分の惑星が、ペガスス座51番星の周りをわずか4日の周期で公転しているという驚くべきものだった。木星は太陽の周りを12年かけて公転するので、そのあまりの差異に、当時は惑星と違うのではという意見もあった。しかし、他グループによる追観測でもすぐさま確認され、恒星を周回する系外惑星の最初の発見となった。

惑星探査の方法 現在の惑星検出は間接法が主流である。ここでは主要な2つを紹介する(図 )。 惑星の公転運動によって、わずかながら恒星自体がふらつく。この速度変動を、恒星からの光のドップラー効果を利用して測定するのが「ドップラー法」である。メイヤーらが用いたのもこの手法であ

る。太陽系の木星および地球の公転による太陽の速度変動はそれぞれ毎秒13mおよび0.1mで、巨大惑星の検出でさえも数m/秒の精度が必要である。最近では、1m/秒を超える精度(人の歩く速さ!)により地球質量の10倍程度しかない惑星も5例発見されており、系外惑星の9割以上がこの方法で発見されている。 もう1つの検出法は、惑星が恒星の前面を通り過ぎること(トランジット)による明るさの微小変化を検出する「トランジット法」である。木星および地球のトランジットによる太陽の光度変化は、それぞれ約1%および0.01%しかない。これまでに14例が確認されている。観測者から見て惑星の軌道面が視線と一致する偶然が必要なため、一度に多数の星を観測する必要がある。 CCDを備えた口径1m以下の小型望遠

る。系外惑星は、軌道が0.02~6天文単位*、公転周期にして約1日から15年の範囲に分布している(周期の長いほうは観測継続期間によって制限されている)。 0.1天文単位以内の巨大惑星は「ホット・ジュピター」と呼ばれ、周期3日前後のものが多い。主星に近いため、その表面温度は1000°Cを超える。また、太陽系の惑星はほぼ円軌道で太陽を公転するが、系外惑星の軌道の離心率は著しく多様で、0から0.9程度までの広い範囲に分布している。このように、系外惑星は太陽系とは大きく異なる性質をもっており、その原因はまだよく理解されていない。

直接観測に向けて 間接法は惑星からの光を直接検出するわけではないため、どうしても不定性が残る。系外惑星探査の次の重要なステップは直接観測である。 直接撮像観測のためには、①暗い惑星を検出するための高感度、②主星と惑星を見分けるための高解像度、③惑星の近くにある恒星からの明るい光の影響を抑えるための高コントラスト、の3つを同時に実現しなければならない。なかでも最大の問題はコントラストである。惑星からの光は可視光および近赤外波長では恒星からの光の反射が主で、明るさの比

は約100億倍にも達する。中間赤外より長波長では惑星自体の熱放射のため両者の明るさの比は多少緩和されるが、それでも約1000万倍となる。 地上観測の最大の障壁は地球大気の揺らぎが起こすかげろうである。現在、すばる望遠鏡などの口径8~10m級の地上大望遠鏡では、大気揺らぎを時々刻々と補正する補償光学や、明るい恒星を隠すコロナグラフなどを用いて、年齢の若い巨大惑星の検出などが試みられている(図 )。 太陽系の木星のような年齢46億年という成熟した巨大惑星や、現在は間接法でさえも検出ができていない地球型惑星は、次世代の超大型地上望遠鏡でも観測が難しい。そこで、コントラストの向上に焦点を当てた新しいスペースミッション( や / / )が計画されていて2020年ごろの打ち上げを目指している。太陽近傍の恒星を探査し、第2の地球を発見し、生命の指標となりうる地球に似た大気の存在をスペクトルで確認するのがその使命である。 21世紀の最も重要かつ夢のある科学テーマとして、ぜひ多くの若い学生の皆さんがこの問題にチャレンジされることを期待している。

鏡によっても惑星検出が可能なため、トランジット法は教育機関やアマチュアがトライするには最適の方法である。ただし、地上からは地球の大気揺らぎのため、木星型巨大惑星の検出が限界である。 一方、大気揺らぎのない宇宙空間では、トランジット法によって木星型だけでなく地球型の小さい惑星の光度変化をとらえることもできる。2009年打ち上げ予定のケプラー衛星(米国)では数百個の地球型惑星を検出できるかもしれない。

系外惑星の性質 数千個の恒星の探査の結果、太陽に似た恒星の周りで惑星が見つかる頻度は10%程度であることがわかった。今後の観測精度向上により、まだ発見されていない恒星の周りにも惑星が検出される可能性があるので、これは下限値である。そのことを考えれば、恒星に惑星が存在することは、それほど珍しい現象ではないと言ってよいだろう。 惑星の重さとしては、最初は木星質量程度のものが数多く発見されたが、最近では最小で地球質量の6倍程度のものまで見つかっている。しかし、地球型と呼べるほど軽い天体は未発見である。 系外惑星は主星を公転しているが、その軌道は太陽系の惑星とは大きく異な

「認識の宇宙」の拡大

田村元秀総合研究大学院大学助教授天文科学専攻/自然科学研究機構国立天文台助教授

太陽系の外で惑星の発見が続いている。その数は 年余で 個以上に上り、恒星に惑星が存在するのは珍しくないことが明らかにされた。次のステップは従来の間接観測に代わる直接観測で、さらには地球型惑星の発見も期待される。

田村元秀(たむら・もとひで)専門は赤外線天文学、系外惑星探査、宇宙磁場などの偏光観測。すばる望遠鏡用コロナグラフの開発のほか、南アフリカにある

望遠鏡の赤外線 色カメラの開発や各種偏光器の開発にも携わりながら、多数の望遠鏡を用いて観測的研究を進めてきた。現在は、すばる望遠鏡用次期コロナグラフの開発、地球型系外惑星ミッションなどを推進している。

図 補償光学とコロナグラフによる高コントラスト観測の原理

恒星青方偏移した恒星からの光

赤方偏移した恒星からの光

惑星 惑星の軌道(トランジットあり)

明るさ

恒星

惑星

惑星の軌道(トランジットなし)

時間

速さ(毎秒 )

回転の周期

ガイド星

天体

ナトリウム層高度

大気揺らぎ風

望遠鏡

歪んだ波面 補正された波面

可視光 像面マスク瞳面ストップ 検出器

コロナグラフなし コロナグラフあり

制御系

波面センサー

レーザー

可変形鏡

図 系外惑星の間接的検出法ドップラー法(左)とトランジット法(右)。

* 天文単位天文単位は地球~太陽間の平均距離。

直接撮像

恒星が明るすぎて、そばにいる惑星が見えない (例:太陽は木星の20億倍も明るい)

HR 8799

直接撮像成功!

GJ 758

天の川に浮かぶ地球たち

ケプラー宇宙望遠鏡2009年3月に打ち上げ トランジット観測により主に系外地球型惑星を探索

宇宙は地球であふれてる!

地球サイズ

スーパーアースサイズ

海王星サイズ

木星サイズ

それ以上

(c) NASA/Kepler

宇宙は地球であふれてる!

「第二の地球」の発見へ向けて

水が液体で 存在できる領域

太陽系外惑星に生命は存在するか?

ハビタブル・プラネット

ハビタブル・ゾーン

そしてついに Earth 2.0 が発見される

(c) NASA

[2014年4月17日]

さらに地球の「従兄弟」が発見される

(c) NASA

[2015年7月23日]

バイオマーカー(生物存在の証拠)生物活動によって作られたと考えられる物質

(酸素、オゾン、植物の葉緑体、核爆発、、、)�;3��#BW��.,�S

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大気にオゾンの吸収線を検出       ↓ 下層大気に大量の酸素が存在       ↓ 光合成を行う生命が存在!?

系外地球型惑星の超精密測光 超精密分光観測が必要

「第二の地球」の発見へ向けて・1995年 巨大ガス惑星の発見 ・2002年 惑星大気の観測 ・2005年 惑星赤外線輻射(惑星の温度)の検出 ・2007年 Super-Earth系の発見 ・2008年 惑星(巨大ガス惑星)の直接撮像 ・2010年 地球型惑星の発見 ・2014年 Earth 2.0 の発見 ・20xx年 地球型惑星の直接検出 ・20xx年 地球型惑星の大気・バイオマーカー同定 ・20xx年 地球外生命の発見!

フェルミのパラドックス

エンリコ・フェルミ (1901-1954)

Where are they?地球に似た惑星は恒星系の中で 典型的に形成されうる = 地球外文明はたくさんある?

これまで地球外文明との接触の 証拠は皆無である = 地球外文明は存在しない?

天文学・生物学・数学・宇宙生物学等を巻き込む議論

われわれはどこから来たのかわれわれは何者かわれわれはどこへ行くのか

-Paul Gauguin