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Richard Sennett, Flesh and Stone その8: Moving Bodies ウィリアム・ハーヴェイの革命 2008年度大学院講義 後期 鈴木繁夫

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Richard Sennett, Flesh and Stone

その8:Moving Bodies

ウィリアム・ハーヴェイの革命

2008年度大学院講義後期

鈴木繁夫

循環と呼吸

• ウィリアム・ハーヴェイ『心臓の動きについて』1628年

– 体の構造

– 健康状態

– 体と魂との関係

• 近代資本主義の勃興と個人主義の誕生– 労働と品物が回る生きた「自由市場」

(アダム・スミス『国富論』 1776 年)

→血液が循環する生きた「体」

– ○交換 退蔵

– ○代価 過去への忠誠

近代人と近代都市

• 動くこと= 体を非感覚化させる

– 交通手段は迅速がよい

– 都市の場所は、循環が効くことが最大の価値

– 感覚の基本的な排除

• 健康= 自由な循環と呼吸

• 家庭/都市の役割

安息欠如の孤独な肉体に、感覚を満たす場の提供

同じく追放された他者

場所からいつもすでに疎外されている

自由に動く 感情をあまりもってはいけない

血液は循環する(ハーヴェイvsガレノス)

血液は肝臓で作られる

– 閉鎖系 vs開放系

H:心臓が動脈を通じて血液を送り、 静脈を通じて血液を吸いこむ

G: 血液は体熱の力で体の中を流れ、 体の各部分で消化される。

動脈=栄養補給、静脈=生気補給

– 機械 vs器官H: 心臓=ポンプ

G:心臓= 感覚器官

動脈は、他の諸器官と同じく、自律的に拡張・収縮を繰り返す

– 迅速vs鈍行

H: 急速に流れる

G:ゆっくりと消化される

病気:器官における鬱血あるいは貧血

ハーヴェイの推理

• 心臓の容積と心拍数– 容積2オンス(58ml) ×毎分心拍数72=4.176㍑– 1時間では? 250.56㍑ 体重の3倍!

• 動脈を切ると– 失血して死ぬ。∵血液が静脈に届かない。

• 動脈=精気を体内に行きわたらせる• 静脈=栄養を体内に行きわたらせる

「生物体内では、血液はある種の環を作って循環しているものであり、かつそれは無限につづく運動である。そしてこれこそは心臓がその拍動によってもたらす活動ないしは機能である、さらに一般に心臓の運動および鼓動こそ、唯一無二の血液循環の原因である。」チャールズ・シンガー『解剖・生理学小史』(西村顕治,川名悦郎訳,白揚社,1983年)

ハーヴェイを取りまく環境

• ルネッサンス的発見に前向き→古典知識の改良

(1)ヴァザリウス実施解剖がガレノスを修正する

(2)コロンボとセルウェトゥス「肺通過小循環」

(3)ガリレオ宇宙は数学できている

(4)レオナルドウィトルウイウス人体図

参考:藤田尚男『人体解剖のルネサンス』(平凡社, 1989年)

• De humani corporisfabrica libri septem (On the fabric of the human body in seven books) is a textbook of human anatomy written by Andreas Vesalius (1514-1564) in 1543.

• Fascicolo di medicinaAuthor: Johannes de KethamPublisher: Johannes and Gregoriusde Gregoriis, Venice, February 5, 1493Printed book with woodcut illustrations, one of which, The Dissection, has been colored (either with stencils or by hand-pressed color blocks) in four colors (recently rebound)16 1/2 x 11 3/4 in. (41.9 x 29.8 cm)Harris Brisbane Dick Fund, 1938 (38.52)

http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec03/ch020/ch020b.html

ガレン

身体観の転換

• 魂が器官を動かしているのではない

–各部分ごとに生命が宿っている。

–血液の循環が

–神経を通じて流れるエネルギーが

個々の部分の発達を促す

独立した個別性

呼吸する都市

• プラートナー[Ernst Platner 1744-1818]

–都市の空気☞体の血液

☞皮膚は空気の吸入排出

☞皮膚の敵はホコリ

→不純=汚い皮膚 魂の汚れ

従来は

皮膚に残ったままの屎尿は

栄養になると考えられていた

田舎

○都会の衣服○入浴の慣習○香水とトニック

都市の浄化(1750年)

• 通り

–石畳(四角形の石)、排水溝、漆喰壁

–スムーズに歩き・動くためのもの

• 多極吸収、多目的型– 一中心(目的物)型 (ヴァティカン)

• Pierre Charles L'Enfant (1754 –1825)

– 肺が必要→庭園→アプローチには商業建物禁止

– 市民によるアクセスが自由

• L'Enfant's plan for Washington, D.C., as revised by Andrew Ellicott. 1792.

Turgot (1727 –1781)発案のパリ地図

動く個人

• ポラニー「大転換」

–市場社会: 計算と搾取

• 「あんたを傷めるときに、俺は利益を出せる」

• 「互酬→分配」が成り立たない世界

カール・ポラニー『大転換―市場社会の形成と崩壊』(吉沢英成訳, 東洋経済新報社, 1975年)

• アダム・スミス流の自由主義経済

–資本と労働が、血液と同様に還流する

→社会体が滋養を得て健康になる。

スミスの分業と勤労

• 分業の誕生

–市場が大きく、余剰を捌ける

→労働して余剰を生む

還流が大、分業の緻密化

→人間は個人行為者

• 勤労の誕生

–ピン作り→勤労 ←本来は動物・奴隷の仕事

労働の成果を自由に交換できる主体は偉い

スミスの技能評価

• 技能と市場–技能は労働に尊厳をもたらす

–自由市場は技能の発達を促す

消費する主人よりも技能を持つ職人の方が偉い

• 都市と田園–旧: 田園の生産物を都市が収奪する

–スミス: 都市の発展が田園の経済を潤す

→ ×自己満足のなんでも栽培農家

○商品作物に特化した篤農家

スミスの社会人

• 他者に依拠する個人

–個人は他者なしには還流の輪に入れない。

• スミス:個人は他者のために労働する

–個人は独立しつつ依存している。

–世俗労働を威厳化する力が市場。

• 都市は個人が還流する場

ゲーテ『イタリア紀行』

• 周囲の事物に敏感になる

• 群衆の中の孤独→私が「固くなる」(solid werden)

– 「かくも無数の、おやみなく動いている群衆の間を抜けて行くのは、珍しくもあり、からだのためにもいい。人波に入り乱れて流れるが、各人それぞれ道と目的とを見出すのだ。こんなに大きな人の集まりと動きの中にあって初めて私はほんとに静かな孤独な気分を感ずる。往来が騒々しければ騒々しいほど、私はますます平静になる」 (「イタリア紀行」ナポリ、一七八七年三月一七日 高橋健二訳)

動く群衆の中で、動く私は強く意識され、周囲の物事・出来事が個別化してくる。

群衆に対する無関心

• 都会に群れる貧者たち

–暴力(flesh)によって既存の秩序を壊す

• 群集の欲望

–政府介入の規制市場 自由市場

–都会内の自由な動き→痛みの顕在化

パリの動く群衆

• 絶対多数の貧民– 上・中産階級5万、下層階級60万

• 奢侈消費の場= 物と労働が自由に還流– 石造りの家→職人、召使い、店員

– 物価上昇、賃金下降

• 貧民の不満= 不平等– マンションとアパートの雑居

– 富者と貧者が同じ公共場にいられた

• 都市内の還流は官僚依存

• Les galeries du Palais-Royal

群衆放棄の起源:パン

• パンの値段 8スー(4斤1800㌘ )– 日当30スー →物価を下げる要求

– 物価は市場が決定 国家による統制価格「富裕と貧困は平等の体制からは焼却すべきものであるがゆえに、金持ちは極上小麦の白パンを食べ、貧乏人はふすまパンを食べるということがあってはならない。」 (1789年11月15日国民公会法令第8条)

• ハーヴェイ→スミス→群衆個々の器官は相互依存・平等

分業による個別化

群衆は個のアイデンティをもたず、集合的「動き」(movement)