Primary hypothalamic-third ventricle malignant lymphomaの...

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Primary hypothalamic-third ventricle malign Primary hypothalamic-third ventricle malignant ly 石渡 雅男 1 、宮坂 佳男 1 、小泉 寛之 2 、宇津木 聡 2 、岡 秀宏 2 、藤井 清孝 2 1 1 大和市立病院 脳神経外科、 2 北里大学 医学部 脳神経外科 【目的】中枢神経系原発悪性リンパ腫は一般に脳室周囲の脳実質内に発生することが多く、第3 脳室内に占拠することはま れである。今回我々は、第 3 脳室内に占拠した malignant lymphoma の 1 例を経験したので、文献的考察を加えて報告する 。【症例】41 歳、男性。主訴は不眠、腹部膨満感。平成 16 年 10 月より不眠、腹部膨満感出現し、10/6 当院内科を受診。血 清 Na 値が 114mEq/dl と低値であったため同日消化器内科に入院。入院後より短期記憶障害が顕著であった。頭部CTにて 第 3 脳室内に腫瘍性病変あり、10/18 当科に転科となった。頭部MRIでは、第 3 脳室内に造影剤にて均一に造影される占 拠性病変を認めた。10/28 に手術を施行、tran slaminaterminalis approach にて腫瘍生検を行った。病理標本では malignant lymphoma、B cell type であった。術後補充療法としてMTX大量療法、放射線治療(全脳 30Gy 、局所 10Gy) を行い独歩退院となった。退院時には短期記憶障害は軽快した。【考察】第 3 脳室内に発生した malignant lymphoma は比較 的 稀 で あ り 、 幾 つ か の 症 例 報 告 が 散 見 さ れ る 。 Pascual らは自験例を含めた 9 例を検討しており、 deep periventricular lymphoma が subependymal spreading したものと考察している (Neurocirugia 2002)

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  • Primary hypothalamic-third ventricle malignant lymphoma の一例

    Primary hypothalamic-third ventricle malignant lymphoma

    石渡 雅男 1、宮坂 佳男 1、小泉 寛之 2、宇津木 聡 2、岡 秀宏 2、藤井 清孝 2 1

    1大和市立病院 脳神経外科、2北里大学 医学部 脳神経外科

    【目的】中枢神経系原発悪性リンパ腫は一般に脳室周囲の脳実質内に発生することが多く、第 3 脳室内に占拠することはま

    れである。今回我々は、第 3 脳室内に占拠した malignant lymphoma の 1 例を経験したので、文献的考察を加えて報告する

    。【症例】41 歳、男性。主訴は不眠、腹部膨満感。平成 16 年 10 月より不眠、腹部膨満感出現し、10/6 当院内科を受診。血

    清 Na 値が 114mEq/dl と低値であったため同日消化器内科に入院。入院後より短期記憶障害が顕著であった。頭部CTにて

    第 3 脳室内に腫瘍性病変あり、10/18 当科に転科となった。頭部MRIでは、第 3 脳室内に造影剤にて均一に造影される占

    拠性病変を認めた。10/28 に手術を施行、translaminaterminalis approach にて腫瘍生検を行った。病理標本では

    malignant lymphoma、B cell type であった。術後補充療法としてMTX大量療法、放射線治療(全脳 30Gy、局所 10Gy)

    を行い独歩退院となった。退院時には短期記憶障害は軽快した。【考察】第 3 脳室内に発生した malignant lymphoma は比較

    的 稀 で あ り 、幾 つ か の 症 例報 告 が 散 見 され る 。 Pascual ら は 自 験 例を 含 め た 9 例 を 検 討 し てお り 、

    deep periventricular lymphoma が subependymal spreading したものと考察している(Neurocirugia 2002)。

  • R-CHOP 療法が著効した硬膜病変を伴った頭皮下悪性リンパ腫の 1症例

    A case of subcutaneous lymphoma with dura mater infiltration successfully treated with R-CHOP

    小林 啓一 1、永根 基雄 1、甫守 正史 2、土屋 一洋 3、大西 晶子 4、藤岡 保範 5、塩川 芳昭 1

    1杏林大学 医学部 脳神経外科、2杏林大学医学部第 2内科、3杏林大学医学部放射線科、4国立がんセンター

    中央病院脳神経外科、5杏林大学医学部病理学

    【はじめに】頭皮下腫瘤の診断は容易でないことが多く, 組織や局在,深部への浸潤の有無などにより治療方針が異なる. 今

    回我々は, 稀な頭皮下原発悪性リンパ腫と診断され, 比較的非侵襲的に治療が可能であった一例を経験したので報告する.

    【症例】59 歳の男性. 4 年前に前額部無痛性腫瘤を自覚し近医にて部分切除施行し, 悪性リンパ腫が疑われた. 半年後より

    徐々に再増大傾向が認められ, 4 年後頭皮下腫瘤顕著となり当院紹介受診. 前額部を中心とした多発性の非可動性頭皮下弾

    性硬腫瘤病変を認め, CT, MRI, 3D-CT 画像上, 頭皮下に主座をもち, 一部は頭蓋内の硬膜および上矢状洞に進展する比較

    的不均一に造影増強される腫瘍性病変を認めた. 身体所見上, 体表リンパ節の腫脹はなく, 血液検査所見上, 可溶性 IL-2

    レセプターの上昇を認めた. 悪性リンパ腫の再燃が疑われ頭皮下腫瘤生検術を施行した. 腫瘍は帽状腱膜下に存在し白色非

    出血性で, 頭皮側では境界明瞭であったが, 骨膜への浸潤を認めた. 病理所見上, 頭皮への浸潤は認めず, 淡明な大型

    centroblast 様の atypical lymphoid cells の増生, 濾胞様結節形成を認め, Non-Hodgikin follicular type lymphoma と

    診断した. 免疫組織学的には CD20, CD79a 陽性, CD3, BCL-2 陰性を示した. Western blot 上、p16 の発現欠失が認められ

    た。R-CHOP(Rituximab, CPA, ADR, VCR, PSL)療法による全身化学療法を 6 コース施行し、画像上頭蓋内外病変ともに完

    全消失した. 【考察】頭蓋内外に拡がる頭皮下腫瘤病変には, 骨腫・骨肉腫・転移性骨腫瘍などの骨腫瘍や髄膜腫, 転移性

    脳腫瘍, 悪性リンパ腫などが鑑別診断としてあげられ, 生検による確定診断が治療方針決定に重要である. 本症例のように

    脳実質内浸潤を伴わない悪性リンパ腫には, R-CHOP 等の全身性リンパ腫に対する治療法が有効と考えられる. 【結語】頭

    皮下に主座をもち頭蓋内浸潤を伴った悪性リンパ腫の一例を報告した.

  • 腫瘍内出血を認めた高齢者前立腺癌小脳転移の一例

    Hemorrhagic metastatic cerebellar tumor from prostate in an elderly case

    長田 貴洋 1、篠田 正樹 1、茂木 秀明 1、高宮 幸人 1、松前 光紀 2

    1東海大学大磯病院 脳神経外科、2東海大学 医学部 外科学系 脳神経外科

    前立腺癌の頭蓋内転移はまれであるが、転移した場合、しばしば出血する例が報告されている。今回我々は小脳出血を呈し

    た前立腺癌転移例に対し、内視鏡下生検、Ommaya Reservoir 設置術を行い、ガンマナイフ施行により、加療しえた高齢者

    症例を経験したため報告する。【症例】91 才男性。主訴:嘔吐、歩行障害。既往歴:1996 年(83 才)前立腺癌にて外来治

    療、通院中に多発性肺転移を指摘されたが、積極的治療は選択しなかった。現病歴:2004 年 9 月より嘔吐、歩行障害出現

    。10 月当院消化器内科受診。10/18CT にて右小脳内腫瘍を認め、10/19 当科入院。入院時神経学的所見:意識清明。構語障

    害無し。失調性歩行を認めた。頭部 CT スキャン:嚢胞内に鏡面形成を伴う嚢胞、充実性成分混在性腫瘍を認めた。胸部レ

    ントゲン写真:多発性に腫瘍陰影を認めた 肺機能:FEV1.0 1.87L、TV0.37L、MEFR 4.76L/sec、VC2.3L(83.3%)。血液検

    査:PSA155.6 ng/ml 他の血液生化学検査異常なし。11/4 後頭下小開頭内視鏡下腫瘍性件術および Ommaya Reservoir 設置

    術施行。嚢胞内液は血腫で、細胞診は陰性。術後経過良好。病理結果は cribriform pattern を呈する PSA 染色陽性の前立

    腺癌。術後ホスフェストロール(ホンバン)による治療施行。11/24 他院にてガンマナイフ治療施行。(照射条件 14

    mm collimator、中心線量 32 Gy maximum、周辺線量 16 GY periphery)11/25 再入院後リハビリテーション施行後退院。現

    在、外来独歩通院中で Ommaya Resevoir より腫瘍内容液を除去しているが、軽度右小脳失調を認めるほか、再発傾向は認め

    ていない。

  • 頭蓋骨転移した肺腺癌による非外傷性急性硬膜外血腫の 1例

    Non-traumatic acute epidural hematoma due to skull metastasis of pulmonary adenocarcinoma; a case report

    重田 恵吾、富田 博樹、戸根 修、宍戸 恒郎、仲川 和彦、秋元 秀昭、横堀 將司、冨士井 睦

    武蔵野赤十字病院 脳神経外科

    今回我々は非外傷性急性硬膜外血腫を発症した肺腺癌の頭蓋骨転移例を経験したので報告する。症例は 83 歳男性、数日前

    からの頭痛と腰痛でペインクリニック受診し、局所麻酔後に意識障害・左麻痺を来たし発症約 4 時間 30 分後に当院へ搬送

    。初診時 GCS 10(E2V2M6)、左不全片麻痺、頭部単純 CT 上右頭頂部頭蓋冠から正中に及ぶ直径8cm の円形の高吸収域を認め

    、外傷が無かった為髄膜腫内出血か非外傷性急性硬膜外血腫を疑い発症約 6時間後に MRI を行った。病変は造影剤で増強さ

    れず急速に増大して対側に及び急性硬膜外血腫と診断した。GCS6(E1V1M4)と意識障害が増悪し、瞳孔不同が出現したため初

    療室で穿頭術を行なった後、手術室で開頭血腫除去術を行った。右頭頂骨に腐食・自壊があり硬膜表面に腫瘍性組織を認め

    た。後に病理で低分化腺癌の浸潤とわかった。術中動脈性の出血は無かったが、上矢状洞表面の腫瘍性病変から出血が持続

    した。術後意識の回復は得られず、全身検索で右肺上葉に腫瘍を同定した。発症 1 ヵ月後に死亡した。剖検で肺癌と判明、

    腰椎を含め他には転移を認めなかった。【結語】肺癌、乳癌、前立腺癌などは骨に転移しやすい腫瘍だが、頭蓋骨転移から

    の急性硬膜外血腫が初発症状となった報告は少ない。しかし今後高齢化に伴い、このような症例に遭遇する機会が増加する

    可能性がある。従って非外傷性硬膜外血腫の診断にはこの様な病態も念頭に置き、的確で素早い治療を行うことが重要と考

    えられる。

  • ステロイド投与のみで画像上縮小を認めた転移性脳腫瘍の 2例

    Steroid induced volume reduction in metastatic brain tumor.Repot of two cases.

    吉野 正紀 1、永田 和哉 1、赤羽 敦也 1、西原 哲浩 1、望月 由武人 1、泉 雅文 1、伊藤 明博 1、武田 純

    一 1、白水 一郎 2、落合 慈之 1

    1NTT東日本 関東病院 脳神経外科、2NTT 東日本 関東病院 放射線科

    [目的]今回我々は、ステロイド投与のみで画像上腫瘍が縮小し、病理診断で転移性脳腫瘍と判明した二例を経験したので報

    告する。[症例](1)60 歳、女性。めまい、頭重感を主訴とし、近医を受診。頭部 CT にて脳腫瘍を認め、当科を紹介受診。

    既往歴としては 58 歳時に乳癌で左乳房全摘術を施行され、その後も再発は指摘されなかった。頭部 MRI にて右側頭葉に広

    範な脳浮腫を伴いほぼ均一に造影される 33×28×40mm の造影領域が認められた。開頭腫瘍摘出術の方針としたが、発熱の

    ため手術は延期となり、その間、脳浮腫軽減を目的としてプレドニン 10mg/日を投与した。1週間後、造影領域は 29×24

    ×30mm と明らかに縮小したため、悪性リンパ腫の可能性を考えて生検を施行した。病理診断は乳癌の脳転移であり、残存

    腫瘍に対してガンマナイフを施行し、良好な腫瘍縮小が得られた。(2)77 歳、女性。一過性意識障害の原因検索を施行し、

    脳浮腫を伴った多発性の脳腫瘍を認め、当科を紹介受診した。来院時の神経学的所見、既往歴ともに特記すべき異常はなか

    った。前医より脳浮腫軽減を目的としてプレドニンを 30mg/日が投与されており、当院に入院時(投与開始 2週間後)に頭

    部 MRI を撮影したところ、いずれの造影領域も明らかに縮小していた。そのため、悪性リンパ腫をの疑いで生検を施行した

    ところ、病理診断は腺癌であり、その後の全身検索で原発性肺癌が発見された。転移性脳腫瘍との診断にて、残存腫瘍に対

    してガンマナイフを施行後、呼吸器科に転科し化学療法を施行した。[結論] 我々が渉猟し得た限り、ステロイド投与のみ

    で転移性脳腫瘍の造影領域が画像上縮小した例は、一例も報告されていない。ステロイド投与中に、画像上造影領域が縮小

    した場合には悪性リンパ腫を考慮するのが一般的ではあるが、本症例の様なケースもあるので、画像診断が飛躍的に進歩し

    た現代でも、生検という選択肢も考慮しつつ、日常診療に当たることが重要である。

  • PAV 療法が著効した第 1染色体長腕領域の DNA コピー増加を伴う悪性グリオーマの 1例

    Good response to chemotherapy regimen of PAV in a patient with malignant glioma

    demonstrating chromosome 1q gain

    高橋 里史、廣瀬 雄一、深谷 雷太、河瀬 斌

    慶應義塾大学 医学部 脳神経外科

    [背景]稀突起膠細胞腫において、第 1染色体短腕の欠失(-1p)は化学療法感受性、予後の予測因子として有用である。ま

    た、アストロサイト系グリオーマにおいても頻度は低いが同様の染色体欠失が報告されている。[はじめに]病理学的に膠芽

    腫と診断され、PAV 療法が著効した 1 例を経験した。本症例は第 1 染色体長腕領域の DNA コピー増加(+1q)により、第

    1染色体の長腕と短腕の間に DNA コピー数の不均衡を伴っていることが comparative genomic hybridization (CGH)で確認

    された。[症例]79 歳男性。2005 年 2 月より、軽い歩行障害と失語を認めた。2月 27 日突然右片麻痺と失語が悪化、近医へ

    搬送された。CT 上、左前頭葉に直径 3cm の腫瘍内出血を伴う脳腫瘍を認め、当科へ紹介された。初診時の意識レベル

    は GCS E4V3M6、右に上肢 MMT4/5、下肢 1/5 の不全麻痺を認めた。3 月 4 日、腫瘍摘出術及び血腫除去術を施行。病理学的

    に腫瘍は好酸性の細胞質と紡錘形の核を持つ異型細胞の密な増生、出血、壊死、血管増生を認め、G-FAP、S-100 陽性、MIB1

    は 10%を越える膠芽腫であった。術後 MRI 上、手術による腫瘍部分切除を確認したが、再検の MRI 上著明な再増大を認め

    た。CGH 法により、第 1染色体短腕と長腕の不均衡が認められ、PAV 療法に高感受性を示す-1p と同様の遺伝子異常形成機

    序が考えられたため、後療法として PAV(procarbazine, ACNU, vincristine)療法を開始した。腫瘍は PAV 療法1クール

    終了後の MRI で著明に縮小した。[結語]我々は当施設で治療したグリオーマ症例の遺伝学的解析を行っているが、同様の染

    色体異常を持つ予後良好な数例を経験している。悪性グリオーマの中で、+1q を伴うものには、PAV 療法が奏効する可能性

    を検証する。

  • 内視鏡的生検術後自然縮小した脳室内 pilocytic astrocytoma の1例

    Spontaneous regression of the intraventricular pilocytic astrocytoma: case report.

    井原 哲、師田 信人、杉山 一郎

    国立成育医療センター 脳神経外科

    Kenny-Caffey 症候群(骨皮質肥厚、副甲状腺機能低下症)の 29 歳男性。めまい精査の頭部 CT で左側脳室内腫瘍を指摘さ

    れた。6ヶ月の経過で画像上増大傾向を認めたため内視鏡的生検術をおこなった。病理診断は pilocytic astrocytoma であ

    り、KI-67 LI は 1%未満であった。その時点で無症状でもあり再び経過観察としたところ、術後 6 ヶ月時の頭部 CT では腫

    瘍は縮小していた。現在も引き続き経過観察中である。神経線維腫症 1 型(NF1)に合併した pilocytic astrocytoma では自

    然縮小の報告は多く見られるが、非 NF1 症例での報告は少ない。また約 1 年間の経過観察中に増大、縮小をきたした点でも

    稀である。文献的考察を加え報告する。

  • 皮質中心に多発する特異な画像を呈した高齢発症 astrocytoma grade 2 の 1 例

    Astrocytoma with multiple unique cortex lesion

    石川 玲利 1、橋本 瑞基 1、小島 昭雄 1、西村 敏 1、柳下 三郎 2

    1平塚共済病院 脳神経外科、2神奈川リハビリテーション病院

    症例は76歳、男性、04年 12月左半身の痙攣にて発症。頭部MRIにて右頭頂側頭葉、島、左後頭葉皮質を中心にT2WI及び FLAIR

    で高輝度病変が認められた。病変は DWI にて高輝度を呈さず造影効果も認められなかった。血液生化学的所見、髄液所見に

    異常みられず経過観察した。画像上改善みられず痙攣が再発したため 05 年 5 月左頭頂葉の病変に対して開頭生検術を施行

    した。大脳皮質は色調正常であったが腫脹していた。大脳皮質より生検したところ GFAP 陽性の multipolar な突起を有する

    細胞の増生がみられ diffuse astrocytoma grade 2 と診断した。高齢のため抗てんかん薬のみ投与し経過観察しているが、

    病変の増悪なく元気に通院中である。皮質中心に edema を呈する病変が多発する特異な画像を呈し、診断に苦慮した高齢発

    症 astrocytoma grade 2 の 1 例を経験したので若干の考察を加えて報告する。

  • 聴力障害を呈し、水頭症を伴った大脳深部神経膠腫の1例

    A case of deep seated glioma with hydrocephalus, presenting hearing disturbance

    野田 昌幸、新村 一樹、長島 梧郎、張 智為、藤本 司、鈴木 龍太、浅井 潤一郎、糸川 博、遠藤 秀

    、奥田 宗央

    昭和大学藤が丘病院 脳神経外科

    難聴を主訴とし、大脳深部を主座とする神経膠腫に合併した水頭症に対して、水頭症の治療を行うことで聴力の改善を認め

    た症例を経験したので報告する。症例)39 歳女性。平成 16 年夏頃より難聴が出現し、翌年 3 月末から失見当識、難聴、視

    力低下が進行した。近医総合病院を受診したところ頭部 MRI で両側の基底核から下丘レベルに浸潤性の腫瘍病変を認め、当

    科へ紹介入院となった。入院時は失見当識あり、軽度体幹失調と歩行障害あり。輻輳できず、眼振は下方視以外で出現。オ

    ージオグラムで両側に軽度の難聴を認めた。入院後、視力障害と難聴が急速に進行し、頭部 CT で水頭症が認められ、脳室

    穿刺髄液ドレナージ術、2日後に V-P shunt と腫瘍生検術を施行した。術後の聴力はオージオグラム上、右聴力のみが改

    善した。病理組織診断では Anaplastic astrocytoma であった。その後は化学療法(VCR, ACNU)、放射線療法(Total 60Gy)

    を行い、術後2ヶ月の聴力検査では左側の聴力も改善していた。考察)水頭症では高圧になった髄液圧が外リンパを伝導し

    てアブミ骨底の動きを制限することで伝音性難聴を呈することが報告されている。しかし大脳深部に局在する脳腫瘍で聴力

    障害を合併した場合、水頭症の解除で聴力障害が改善するという報告はあまりない。本症例では 1)聴覚路への腫瘍浸潤に

    よる感音性難聴、2)腫瘍浸潤部が水頭症により脳血流量低下を来たしたことで起こった感音性難聴、3)水頭症による伝音

    性難聴等の様々な原因が考えられ、聴力障害の発生機序について文献的考察を加えて報告する。

  • 視神経浸潤を認めた網膜芽細胞腫の一例

    Retinoblastoma with optic nerve infiltration

    谷岡 大輔、小林 信介、阿部 琢巳、泉山 仁、国井 紀彦、桑名 亮輔、今泉 陽一、和田 晃

    昭和大学

    (はじめに) 一般的に網膜芽細胞腫は稀な疾患で脳神経外科が扱う機会は非常に稀と思われる。今回我々は視神経浸潤を認

    めた進行性網膜芽細胞腫の症例に対して眼科形成外科と合同で手術を施行した症例を経験したので報告する。(症例) 18 か

    月女児。生後 6か月から右瞳の白色瞳孔に親が気づいていたが放置していた。眼球が腫脹しているように見えるため近医か

    ら当院眼科へ紹介受診となった。CT では骨破壊を伴わない眼球内石灰化を伴う腫留を認め、同部は MRI で右眼球から視神

    経にそって視神経管内まで及んでいた。網膜芽細胞腫を疑い、右眼球及び眼窩内容摘出および視神経摘出を考え手術を施行

    した。手術では可及的に腫瘍散布を防ぐために眼窩内容を 1塊にして摘出するために眼窩及び頭蓋両方の経由で右眼球及び

    眼窩内容摘出術を行った。術中病理診断は網膜芽細胞腫のため可及的全的を目指し視神経管外側口まで摘出したが断端にも

    腫瘍細胞を認めた。これ以上の視神経管内の腫瘍摘出は断念した。眼窩腔死腔の再建は側頭筋を用いた有茎皮弁で形成し手

    術終了した。術後は後療法目的で転院となった。現在の所は腫瘍の頭蓋内進展は無いと報告を受けている。(まとめ) 眼窩

    内容全摘術を行う際に、腫瘍により眼球容量が増大しているときは径眼窩アプローチに加えて、径頭蓋アプローチを併用す

    ることでより視神経管近傍での切除が可能であった。

  • 中頭蓋窩及び側頭下窩に進展した眼窩内 MALT type lymphoma の一例

    A case of MALT type lymphoma In orbita extending to middle cranial and subtemporal fossa

    竹内 信泰、長沼 博文、佐藤 英治、木内 博之

    山梨大学 医学部 脳神経外科

    今 回 、 我 々 は 眼 窩 内 の 良 性 リ ン パ 腫 で あ る marginal zone B- cell lymphoma

    of MALT(mucosa-associated lymphoid tissue) type を経験したので、その診断と治療について報告する。症例は49才、

    男性で6年前から左視力障害にて発症。次第に左眼球突出が進行し当科紹介入院となった。MRI にて境界明瞭で均一に造影

    される腫瘤を左眼窩内、側頭下窩、中頭蓋窩に認め、左前頭側頭開頭及び眼窩上外側の骨を開放し眼窩内腫瘍の摘出を行っ

    た。術中の迅速にてリンパ腫の疑いが強く、手術は生検にとどめた。術後、marginal zone B-cell lymphoma of MALT type の

    病理診断を得た為、局所に30Gyの放射線治療を行い、腫瘍の縮小を認め、眼球突出は急速に改善した。眼窩内腫瘍の鑑

    別診断としてリンパ腫は考慮されるべき腫瘍の1つで大部分は MALT リンパ腫であり、放射線治療により予後良好な腫瘍で

    ある。

  • 眼窩内から頭蓋底へ進展した脳腫瘤の一例

    Intracranial extension of immflamatory orbital pseudotumor

    室井 愛、松下 明、角田 孝、小林 栄喜

    筑波記念病院

    症例】73 歳女性、右視力低下、眼瞼下垂で発症し、他院を受診。右眼は光覚弁で眼瞼下垂と眼球運動障害がありほぼ固定

    している状態だった。MRI で右眼窩先端に腫瘤があり、眼窩先端症候群の診断で抗生剤とステロイドの投与が行われ、眼瞼

    下垂と眼球運動は若干改善したものの、視力の改善はなかった。7ヶ月後左眼の視力低下が出現しました。身体所見では右

    眼はかわらず光覚弁で眼球固定していたが、左眼でも 0.9 から 0.1 と視力が急激に低下しており左眼瞼周囲の浮腫も認めた

    。MRIで病変は著明に増大しており、中頭蓋窩、cavernous sinus に進展していた。開頭生検術を行い、病理組織は線維

    組織の増生とリンパ球や好中球などの浸潤があり、inflammatory orbital pseudotumor の頭蓋内進展と診断した。プレド

    ニゾロン 50mg/日の投与を開始し、内服治療より 1 ヶ月半で左眼視力は 0.1 から 0.9 と改善を認めた。【考察

    】Inflammatory orbital pseudotumor は特発性の眼窩内腫瘤で、全眼窩内腫瘍の 5-8%を占めるといわれている。治療はま

    ずステロイドの投与で効果が少ない場合、放射線治療や抗がん剤の投与などを考慮することがるが、頭蓋内進展はまれであ

    り、これまでに文献上は 20 例が報告されており、文献的考察を行う。

  • 眼窩内 solitary fibrous tumor の一例

    solitary fibrous tumor:a case report and review of the literature

    猪原 正史、宮嶋 雅一、尾原 裕康、野中 宣秀、長岡 英、菅野 秀宣、石井 尚登、中西 肇、新井 一

    順天堂大学 医学部 脳神経外科

    我々は、眼窩内 solitary fibrous tumor を経験したので、文献的考察を加えて報告する。症例は38歳、男性。主訴は眼

    球突出とそれに伴う複視。26歳時に主訴出現し、前医にて開頭摘出術を受け、fibrous histiocytoma と診断された。腫

    瘍は全摘され、一時症状は消失した。しかし10年後に再発し、再手術を受けたが腫瘍は眼窩内鼻側への進展を認め、部分

    摘出にとどまった。その後腫瘍の再増大を認め、17年3月に当院を紹介された。入院時、右眼球の突出、上方への眼球運

    動制限を認め、視野障害は認めなかった。視力は左 1.5、右(1.2)であった。MRIT1 強調画像で右眼球の上方にほぼ

    isointensity,T2 強調画像で軽度 high intensity, Gd 増強 T1 強調画像でほぼ均一に造影される境界明瞭の腫瘍を認めた

    。経頭蓋腫瘍摘出術を行った。眼窩上壁の骨を削除すると periorbita を穿破した腫瘍を認め、piecemeal に摘出した。腫

    瘍は比較的もろく、易出血性ではなかった。病理所見は短紡錘形の腫瘍細胞が密に増生しており、膠原線維を伴って錯綜し

    て配列していた。拡張した staghorn pattern を示す hemangiopericytic vessel も認めた。免疫組織染色では CD34 は部分

    的に陽性、bcl-2 で強陽性を示した事より solitary fibrous tumor と診断された。考察:眼窩内 solitary fibrous tumor

    は渉猟し得た限り現在まで52例の報告があり、比較的まれである。臨床経過と病理像は必ずしも相関せず、予後に最も関

    与する因子は摘出の程度である。再発すると悪性転化も多く、転移例も報告されているので、必ずしも奏効しないが放射線

    治療も考慮すべきである。本症例では視力は保たれているが、骨浸潤を認め、放射線治療を検討中である。

  • Solitary Fibrous Tumor の1例

    A case of solitary fibrous tumor

    平本 準 1、大塩 恒太郎 1、榊原 陽太郎 1、小野寺 英孝 1、阿部 光文 2、干川 芳弘 3、橋本 卓雄 3

    1町田市民病院 脳神経外科、2町田市民病院 病理検査室、3聖マリアンナ医科大学 脳神経外科

    はじめに Solitary Fibrous Tumor(以下 SFT)は、脳神経外科領域では髄膜に連続した腫瘍として報告されている。免疫組

    織化学的検査が診断に有用であった SFT を経験したので、考察を加えて報告する。症例57歳男性、2003年2月6日、

    頭痛および視野狭窄のため、当科を受診した。MRI では中頭蓋窩から小脳テントに連続する直径 5cmの均一な造影を示す

    腫瘤病変がみられた。血管撮影では外頚動脈からの豊富な血流を受けていることから髄膜腫の術前診断にて、塞栓術後、4

    月 10 日、開頭腫瘍摘出術を施行した。腫瘍は肉眼的全摘出し、硬膜付着部には凝固処理を行った。術中迅速病理では髄膜

    腫は否定的であり、永久病理標本において CD34 染色の強陽性から SFT と診断した。術後経過は良好で、視野障害の改善も

    みられた。その後、現在に至るまで再発はみられない。考察 SFT は1931年 Klemperer と Rabin によって初めて胸腺腫瘍

    として報告され、fibroblast あるいは myofibroblast 系の間葉系細胞が発生起源と考えられている。後に胸腺以外のあら

    ゆる臓器で発生することが知られようになった。間葉系細胞由来の腫瘍で特異性がある CD34 は SFT の診断にも有用である

    ことが知られている。免疫組織化学検査の発達によって、過去に fibrous meningioma として診断されていた様な症例が SFT

    と診断される機会が近年増加したと推測される。従って、臨床的には手術所見、画像所見で髄膜腫と考えられる腫瘍におい

    ても、SFT を念頭に入れることが必要であると考える。良性腫瘍であるが、稀に低悪性の経過をたどった症例の報告もあり

    、再発に注意して経過観察する必要性がある。結論中頭蓋窩に発生した SFT を経験した。CD34 を用いた免疫組織化学検査

    が診断に有用であった。

  • 小脳橋角部脂肪腫の一例

    Cerebellopontine angle lipoma: Case report

    末永 潤 1、佐藤 博信 1、関戸 謙一 1、田中 祐吉 2

    1神奈川県立 こども医療センター 脳神経外科、2神奈川県立 こども医療センター 病理科

    小脳橋角部に発生する腫瘍のうち、脂肪腫は極めて稀である。今回我々は聴力障害で発症した症例を経験したので文献的考

    察を加えて報告する。症例は 10 歳男児、主訴は右聴力低下。約 2 年の経過で高音域から聴力障害が進行し、入院時には気

    道全音域で 60~70dB、骨道で 45dB の一側性障害を認めた。また同側の耳鳴り、軽度のめまいも認めた。その他の脳神経障

    害は顔面神経麻痺を含めて認められなかった。CT 上右小脳橋角部に 2.5cm 大の low density の mass を認め、石灰化はなか

    った。MRI 上は脂肪の intensity で、脂肪抑制で低下し、増強効果は認めなかった。手術所見で、腫瘍は内耳動脈・上下前

    庭神経・聴神経を巻き込み、顔面神経も上極で巻き込んでいた。生検の迅速病理は脂肪腫であった。術後聴力障害の進行は

    なく、顔面神経も温存された。報告では小脳橋角部の脂肪腫は今までに約 100 件の報告がある。良性の発育の遅い腫瘍であ

    るが聴力障害は 60%に認め、無症状は 5%に過ぎない。周囲との癒着が強いため、過度の摘出は術後の神経障害を残すので手

    術適応・摘出範囲には慎重な考察が必要と思われた。

  • 腫瘍内出血にて発症した髄膜腫の一例

    Intracranial meningioma revealed by hemorrhage.Case report and literature review.

    鈴木 由布、渡辺 寛之、森嶋 啓之、吉田 泰之、田中 克之、古屋 優、池田 律子、伊藤 英道、和久

    井 大輔、橋本 卓雄

    聖マリアンナ医科大学 脳神経外科

    今回腫瘍内出血を伴った meningioma の一例を経験したので、若干の文献的考察を加え報告する。

    症例は 71 才の女性。既往に糖尿病(HbA1c11)がある。平成 15 年夏より歩行時のふらつきを認めていた。その頃より臥床

    する事が多くなってきていたが、年齢と糖尿病のためと放置していた。平成 17 年 4 月 1 日左半身の脱力が出現し、翌日当

    院受診。頭部 CT にて、右前頭部に最大径約 7cm の内部に出血を伴った meningioma を認めたため、緊急入院となった。腫瘍

    内出血と周囲広範囲の浮腫による脳内 mass effect 増大のための症状出現と判断し、グリセオール開始した。入院後、血糖

    コントロールと MRI および angiography 施行をした。Angiography 後意識レベルの低下出現したため緊急 CT を施行。腫瘍

    内再出血を認め、緊急開頭腫瘍/血腫摘出術施行した。摘出術は Simpson4 で終了したが、十分な減圧は行えた。術後経過

    は良好で、麻痺も完全に消失した。血糖は食事療法と経口血糖降下薬にて良好なコントロールが得られ、術後 30 日目に独

    歩退院となった。 脳内出血を合併する meningioma の頻度は 2%前後といわれている。自検例と渉猟しえた文献例をまとめ

    て報告する。

  • 開頭、摘出に工夫を要した頭蓋内外浸潤巨大髄膜腫の一例

    Surgical technic to the bone-invasive giant meningioma.

    藍原 正憲、鈴木 智成、嶋口 英俊、今井 英明、斉藤 延人

    群馬大学大学院医学系研究科脳脊髄病態外科学

    今回我々は頭蓋内外に伸展し、骨と強く癒着していることが予想された前頭部巨大髄膜腫を経験したので開頭、摘出時の

    工夫を含めて報告する。 症例は 62 歳、男性。進行する右下肢麻痺あり。他院頭部 MRI にて前頭部の腫瘤を認めた為、2

    月 16 日当科紹介入院となった。入院時意識はほぼ清明。性格変化と軽度の右半身麻痺を認めた。頭部単純 X-P では頭蓋内

    外に一部放射状石灰化を認めた。頭部 MRI では、両側前頭部に頭蓋内外にわたる巨大腫瘤を認めた。画像所見上腫瘤は両側

    前頭部にわたり骨浸潤が強く、開頭時骨と広範囲に癒着していることが考えられた。AG では両側 MMA と STA 及び左 ACA か

    ら腫瘍陰影を認めた。3 月 8 日 NBCA を用いた栄養血管(MMA)の塞栓術を施行し、3 月 10 日腫瘍摘出術を施行。皮膚切開

    時、拡張した STA は temporary clip にて処置し出血を control した。さらに骨窓作成に関しては骨と硬膜及び腫瘍との癒

    着が広範囲にわたる事が予想されたため burr hole を多数(計 23 個)置いて可能な限り剥離子で腫瘍硬膜と骨を剥離した

    。実際、骨と硬膜及び腫瘍は非常に強固に癒着していたが multiple burr hole を置くことで広範囲に及ぶ両側前頭開頭を

    短時間で行うことが出来た。さらに迅速に内減圧を施行する為にアンスロンケア(腫瘍蒸散装置)を用いて内減圧及び摘出

    術を施行した。腫瘍は後方で Central vein を巻き込むように存在していたため一部残存した。組織は atypical meningioma

    であった。術後神経症状は消失し、4 月 7 日頭蓋形成術を施行した。残存腫瘍に対して局所照射 60Gy 施行し6月14日退

    院となった。今回の症例の様に腫瘍が広範囲に頭蓋内外に浸潤し、骨と癒着が強固であることが疑われた場合、

    multiple burr hole を置いて開頭する事は非常に有用であると思われた。

  • 頭蓋内浸潤を伴った頭皮原発悪性末梢神経鞘腫の1例

    A case of scalp malignant peripheral nerve sheath tumor (MPNST) associated with NF-1.

    馬場 胤典 1、厚見 秀樹 1、継 淳 1、松前 光紀 1、宮坂 宗男 2

    1東海大学医学部脳神経外科、2東海大学医学部形成外科

    神経線維腫症 I型(neurofibromatosis 1, NF1)に合併する軟部腫瘍のほとんどが良性腫瘍であり、悪性変化を来す事は少

    ない。しかし、まれに悪性神経鞘腫瘍(malignant peripheral nerve sheath tumor, MPNST)に代表される悪性軟部腫瘍の

    合併が報告されている。今回我々は、NF-1 と診断されている 60 才の女性で、拡大切除後1年で再発、頭蓋内浸潤および肺

    転移を来した頭皮原発 MPNST の症例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 頭蓋内原発 malignant fibrous histiocytoma の 1 例

    Intracranial malignant fibrous histiocytomna -Case report-

    石川 達也 1、田中 雅彦 1、村垣 善浩 2、丸山 隆志 1、久保 長生 1、堀 智勝 1

    1東京女子医科大学 脳神経センター 脳神経外科、2東京女子医科大学 先端生命医科学研究所 先端工学外

    科分野

    【はじめに】malignant fibrous hisitiocytoma(以下 MFH)a は四肢などの軟部組織に好発する腫瘍で、頭蓋内原極めて稀

    である。硬膜由来の症例は時に報告されるが、硬膜との癒着がないものはさらに稀である。今回我々は、頭蓋内に発生し、

    硬膜との癒着を有しない MFH の症例を経験した。【症例および臨床経過】16 歳、女性。既往歴として日光過敏症を指摘され

    たことがある。その他は特記すべき事項はない。平成 16 年 5月に全身性痙攣にて発症、近医に救急搬送され、CT および MRI

    にて均一に造影される右頭頂葉腫瘤性病変を認めた。このため当科紹介となった。初発時の MRI で、周囲脳溝にも造影され

    る領域を認め、翻種を疑う所見もあった。その他全身検索では明らかな病変は認めなかった。神経学的異常所見も認めなか

    った。初回手術は、平成 16 年 6月 18 日に施行、右頭頂葉病変を全摘出した。術中所見では硬膜との接触を認めなかった。

    病理所見は、大型の多核巨細胞が主体でこの間に多数、リンパ球、好中球などの小型細胞が浸潤していた。免疫組織学的染

    色も行い、MFH と診断した。その後経過観察したが、平成 17 年 1 月 7 日に局所再発に対して全摘術を、また、右側頭葉に

    腫瘍認めたため、拡大局所照射(40Gy)を施行した。その後さらに右頭頂葉に腫瘍内出血を伴う局所再発を認め、平成 17 年

    6 月 10 日に 3 度目の摘出術を施行した。また、全身の FDG-PET 検査にて右肺尖部に 13mm の腫瘤を認め、肺転移を疑った。

    現在、ADM, CPM, BLM, CDDP, IFO, VP-16, THP-ADM, CBDCA を用いた多剤併用化学療法を施行している。全経過を通して明

    らかな神経学的異常所見は認めてない。【結論】MFH としては稀な頭蓋内原発の症例を経験した。現在も治療中であり、化

    学療法などの治療経過についてもあわせて報告したい。

  • 術前診断に難渋した後頭蓋窩脈絡叢乳頭腫の一例

    Choroid plexus papilloma of the posterior fossa: extraventricular location

    光山 哲滝 1、井出 光信 1、萩原 信司 1、田中 典子 1、河村 弘庸 1、相羽 元彦 2

    1東京女子医科大学附属第二病院 脳神経外科、2東京女子医科大学附属第二病院 病院病理科

    脈絡叢乳頭腫(CPP)は比較的まれな神経外胚葉性腫瘍であり、脳室内脈絡組織から発生する。全脳腫瘍の 0.4%を占め、成人

    では後頭蓋窩にみられ、第4脳室内に発生するものがほとんどである。まれに第4脳室外に大きく発育することがあり、こ

    の場合術前診断が困難である。術前診断に難渋した第 4 脳室外に発育した CPP の成人例を経験したので、文献的考察ととも

    に報告する。症例は徐々に進行する運動失調と構音障害で発症した 54 歳の男性。画像診断で右のルシュカ孔から頚静脈孔

    にかけて、cysts with nodule を示す径 4cm の腫瘍を認め、実質成分が不均一に造影された。斑上の石灰化と右後下小脳動

    脈から栄養される淡い腫瘍陰影を認めた。術前診断としては髄膜腫が第一に考えられ、鑑別診断として神経膠腫や神経節膠

    腫、上衣腫、CPP などが挙げられたが、いずれも決定的な所見に乏しかった。下位脳神経に癒着した頚静脈孔近傍の腫瘍を

    残した亜全摘出術実施し、病理診断から CPP と診断した。術後 6 ヶ月目には軽度の歩行失調を残すのみまで改善し、MRI で

    残存腫瘍の増大は認めなかった。 第 4 脳室脈絡叢のlateral segment の解剖や血流支配と腫瘍の発生部位や栄養血管、

    石灰化やのう胞形成、治療方針などについて文献的考察を加える。

  • 非典型的なMRI所見を呈した adult medulloblastoma の1例

    An adult case of medulloblastoma with no contrast enhancement in MRI

    宇佐美 憲一 1、森川 健太郎 1、伊地 俊介 1、溝上 泰一朗 1、森本 正 1、武村 民子 2、三島 一彦 3

    1日本赤十字社医療センター 脳神経外科、2日本赤十字社医療センター 病理部、3埼玉医科大学病院 脳神経外

    【症例】24 歳男性、2004 年 12 月頃より頭痛が出現、2005 年2月に近医にて水頭症を指摘され当科紹介となった。意識清

    明、神経学的に明らかな異常を認めなかった。頭部 MRI では、T1 低信号~等信号、T2 高信号、FLAIR 高信号で、境界は比

    較的明瞭、Gd で全く造影されない病変を認め、第 4 脳室内を占拠しており、水頭症を来たしていた。鑑別診断としては

    、subependymoma 等を考えた。4月 25 日後頭下開頭腫瘍摘出術を施行した。術中所見は、灰白色の柔らかい易出血性腫瘍で

    、正常脳幹及び小脳との境界は不明瞭であった。病理所見では、N/C 比の高い小型異型細胞が存在し一部 neurocyte への分

    化を示す所見を含んでいた。Ki-67(MIB-1)陽性率は約 20%であった。典型的なロゼット形成は認めなかったが、免疫染色

    にて悪性リンパ腫・神経膠腫などは否定的で、neuroendocrine marker が陽性であり、medulloblastoma と診断された。そ

    の後、残存腫瘍に対して、全脳・全脊髄照射と合わせて、carboplatin、etoposide による化学療法を行っている。

    medulloblastoma が 20 歳以上に発症する率は 7.5%と少なく、また、造影されないものだけでも 10%未満と少ないため、

    術前診断に苦慮した。

  • 第 IV 脳室に接しない rosette-forming glioneuronal tumor of the fourth ventricle

    A rosette-forming glioneuronal tumor of the fourth ventricle associating without the fourth ventricle

    宮内 浩 1、西川 亮 1、広瀬 隆則 2、松谷 雅生 1

    1埼玉医科大学 医学部 脳神経外科、2埼玉医科大学 医学部 病理学教室

    Rosette-forming glioneuronal tumor(RGNT) of the fourth ventricle は、後頭蓋下に発生する脳腫瘍として WHO 脳腫瘍

    分類で近年新たに確立しつつある。基本的な概念として、neurocytic component と astrocytic component を持ち、第 IV

    脳室に接して発生すると考えられている。これまでに 20 数例の報告があるが、その全例で第 IV 脳室に接して報告されてい

    る。病理所見として、異型性に乏しく、細胞分裂像も少なく、MIB-1 labeling index も低値である。neurocytic component

    では中心に繊細な突起を伸ばした小型の neural pseudorosette や血管周囲性の pseudorosette がしばしば見られる。

    astrocytic component では、pilocytic astrocytoma に類似した細胞が見られる。免疫染色では、前者では synaptophysin

    が陽性で、後者では GFAP がしばしば陽性で、 Rosenthal fiber が見られる。臨床症状としては、ほとんどが頭痛で発症し

    、小脳失調症状も半数以上に見られ、時に水頭症を合併する。画像上は時に多発性の嚢胞を認め、部分的に造影を受けるこ

    とが多い。充実性の部分を認めることもある。予後・治療方針はまだよくわかっていないところが多いが、手術、または放

    射線併用で比較的予後は良好な疾患と考えられている。今回、特徴的な病理所見、臨床症状を持ち、手術により良好な経過

    を得ており、RGNT として典型例と考えられるが、画像上、および手術所見から第 IV 脳室とは接しない RGNT 症例を経験し

    たため、ここに報告した。

  • 術後 17 年の時点で再発を認めた Central neurocytoma の 1 例

    A recurrent case of central neurocytoma, ocurring 17 years after initial surgery.

    冨田 丈博、秋元 治朗、斎田 晃彦、中島 伸幸、西 達郎、原岡 襄

    東京医科大学 医学部 脳神経外科

    【症例】39 歳男性。22 歳時に 4 ヶ月の経過にて性格変化と視力障害が進行した。頭部 CT、MRI で網状石灰化を伴い、両側

    脳室を占拠する heterogeneous enhanced tumor を認め、閉塞性水頭症を伴った。経脳梁 approach にて 50%の腫瘍を摘出し

    た。病理は halo を伴う小型円形細胞が honey-comb structure を呈し、繊細な血管や、broad rosette を認めた。電顕にて

    細胞突起内に microtubules と dence core vesicle を確認し、central neurocytoma(CN)と診断した。残存腫瘍に対して

    50Gy の focal irradiation と ACNU の動注を施行した。視力障害を後遺するも、定期的画像診断に来院していた。初回手術

    より 15年後から残存腫瘍の増大を認め、2年の経過観察の後、再手術目的に入院した。再発部は単純 CTにて HDAを呈し、T1WI

    で iso、T2WI で low intensity を呈し、不均一に造影された。CN の再発と考え初回出術と同様の方法で亜全摘を施行した

    。腫瘍は殆どが陳旧性血腫、壊死組織の混在を思わせた。左脳弓近傍に初回手術時の残存部を認め、同部も可及的に摘出し

    た。病理像はその殆どが多彩な stage の陳旧性血腫であり、その間隙に一部 fibrinoid 変性を伴った毛細血管の集族を認め

    た。血腫周囲の肉芽腫様組織の一部に astrocytoma 様組織の混在を認めている。石灰化が散在する部では、初回手術時と同

    様のneurocyteの散在を認めるが、同細胞には明らかな異型性やmitotic figureを認めなかった。【結果】極めて稀な再発CN

    例を経験した。再発腫瘍の病理像から放射線照射の影響による血管系の変化が、度重なる腫瘍内出血を惹起したものと考察

    した。再発腫瘍内に認められた astrocytoma 様組織が腫瘍性か否かが重要な問題と思われ、十分検索して発表にのぞみたい

  • 頭蓋咽頭腫に合併した下垂体膿瘍の1例

    Pituitary abscess in craniopharyngioma

    上田 高志、坂田 義則、印東 雅大、野原 秀功、石井 一彦、田中 美千裕、江口 恒良

    亀田総合病院 脳神経外科

    細菌性髄膜炎,下垂体機能不全,視覚異常にて発症,下垂体膿瘍を合併した頭蓋咽頭腫と診断された1例を報告する.下垂

    体膿瘍は主に当該部位の手術歴のある患者などに二次的に起こりうる稀な疾患であるが,当患者には明らかな危険因子は存

    在しなかった.診断に関しては細菌性髄膜炎を腰椎穿刺にて認めていたため下垂体膿瘍と診断され,先ず抗生剤治療が施行

    されたが症状は進行性であったため経蝶形骨洞的膿瘍摘出術が施行された.病理所見としては、感染所見としての好中球や

    菌体の集簇とともに,頭蓋咽頭腫と考えられる重層扁平上皮をともなう乳頭構造を認めたため,下垂体膿瘍を合併した頭蓋

    咽頭腫と最終診断された.術後経過は良好で感染所見の消失とともに,下垂体機能不全,視覚異常についても著明改善を認

    めた.しかし術後の画像評価にて、経蝶形骨洞的なアプローチでは到達不能であった視床下部下端に微小な残存腫瘍と思わ

    れる造影所見を認めたため,これについては術後ガンマナイフによる治療を行うこととなった.本報告では術前,術後の

    MRI を提示して考察を加える.文献上,頭蓋咽頭腫に下垂体膿瘍を合併した症例報告はわずか5例を渉猟しえるのみであり

    ,これまでの報告とも比較を行った.

  • 8年後に悪性転化した類上皮腫の一例

    Epidermoid carcinoma that occurred 8 years after removal of epidermoid tumor

    in the cerebellopontine angle: a case report

    田村 郁 1、青柳 傑 1、脇本 浩明 1、山本 昌昭 2、大野 喜久郎 1

    1東京医科歯科大学大学院 脳神経機能外科学、2勝田病院 水戸ガンマハウス 脳神経外科

    類上皮腫は頭蓋内腫瘍の約 1%をしめる良性腫瘍であるが、ごくまれに悪性転化し、悪性類上皮腫もしくは類上皮癌とよば

    れる。今回我々は、類上皮腫摘出 8 年後に再発し、摘出組織検索により類上皮癌と診断した症例を経験した。摘出術後 gamma

    knife radiosurgery (GK-SRS)を 2 回行い、摘出術後 17 ヶ月経過している。症例は 56 歳女性。左三叉神経痛で発症した。

    小脳橋角部の腫瘍に対して腫瘍摘出術を施行し、類上皮腫と診断した。術後、三叉神経痛は消失した。8 年後に左顔面の知

    覚低下、羞明感を自覚した。MRI で左小脳橋角部に周辺が造影される嚢胞性病変があり、内腔に出血を疑わせた。摘出術を

    行い、病理診断は類上皮癌であった。残存部分に GK-SRS を辺縁線量 15Gy, 中心線量 25Gy で施行した。2か月後、MRI 上造

    影病変は縮小したが、9ヶ月後、造影病変の再増大と近傍に新たな病変が出現したため、2回目の GK-SRS を施行した。以降

    4 ヶ月の経過では造影病変は変化していない。類上皮腫術後の経過観察中に MRI で造影所見が明らかになった場合は類上皮

    癌への悪性転化が疑われる。悪性転化までの期間は 6 ヶ月から 33 年と報告されており、長期の経過観察が必要である。類

    上皮癌の予後は不良であり、通常 12 ヶ月以内に死亡する。GK-SRS は腫瘍増大抑制に有効であるが、長期の有効性について

    は不明である。

  • 約 9 年の経過で悪性転化した類上皮腫の一例

    A case of epidermoid changed into the malignancy this time by the progress in about 9

    桑名 亮輔 1、内藤 博道 1、中村 精紀 1、山内 利宏 1、根本 文夫 1

    1船橋市立医療センター、2昭和大学 医学部 脳神経外科

    類上皮腫が悪性転化し、未分化型扁平上皮癌となることはまれである。今回我々は、左側脳室類上皮腫が約 9年の経過にて

    悪性転化し、未分化型扁平上皮癌となった症例を経験したので文献的考察を加え報告する。 症例 57 歳女性、既往歴 高

    血圧、現病歴 H7.9 顔面外傷にて来院、偶発的にCT上左側脳室に嚢胞をともなった腫瘍をみとめたため入院。 入院後

    経過 9.20 開頭腫瘍摘出術施行(total removal)。病理組織は epidermoid であった。H8.1 より嘔気を認め2月には歩

    行障害、頭痛を認めMRI上腫瘍の再発、水頭症を認めたため 2.14 開頭腫瘍摘出術(pertial removal)、V-Pシャン

    ト施行した。術後症状軽快し外来 follow となった。以後、CT、MRI上腫瘍の増大、水頭症を認めなかったが H17.1 C

    T上水頭症を認めシャント入れ替え術を施行。症状軽快し退院となった。3月に歩行障害出現しMRI上腫瘍の再増大を認

    めたため、H17.3.29 開頭腫瘍摘出術施行(partial removal)。病理組織は poorly differentiated squamous cell

    carcinoma であった。術後経過良好であったが 4 月中旬になり左麻痺が進行、意識障害出現した。MRIにて癌性髄膜炎の

    所見を呈していたため全脳照射 total 36Gy 施行。腫瘍は著明に減少し症状も改善したため退院し現在も外来 follow して

    いる。

  • てんかん発作にて発症した ependymal cyst の一例

    A case report of subependymal cyst with a first episode of convulsion.

    松尾 健、河野 道宏、廣畑 倫生、三輪 博志、佐藤 博明、真柳 佳昭

    東京警察病院 脳神経外科

    我々はてんかん発作にて発症し、2 度の手術により完治しえた巨大 ependymal cyst の 1 例を経験した。症例は 36 歳の男性

    。突然の意識消失を伴う全身けいれん、左半身の脱力にて発症。CT 上、右前頭~頭頂葉にかけて直径約 6cm の cystic lesion

    を認め、局所麻酔下にて内容液を穿刺吸引した。症状は速やかに消失したが細胞診は陰性で、確定診断には至らなかった。

    約 1 ヶ月半で cyst の再増大と左片麻痺の出現がみられたため全身麻酔下で cyst を大きく開放し、被膜成分を採取した。万

    が一の再貯留を考え ommaya bulb を留置した。病理診断は ependymal cyst であった。その後は半年以上経過するが再発は

    見られていない。Ependymal cyst の治療として、穿刺吸引だけでは再発の risk がある。開頭により cyst を大きく開放し

    た上で内部をよく観察し、被膜性分を採取することが治療と診断確定には重要であると考えた。

  • 橋~頚髄腹側に発生した epithelial cyst の 1 例

    Epithelial cyst in the ventral side of the pons to the cervical spinal cord. Case report

    松永 成生 1、竹本 安範 1、藤津 和彦 1、市川 輝夫 1、武田 行広 1、宮原 宏輔 1、柳下 三郎 2、新野 史

    3

    1独立行政法人 国立病院機構横浜医療センター 脳神経外科、2神奈川リハビリテーション病院 病理部、3独

    立行政法人 国立病院機構横浜医療センター 病理部

    29 歳女性。平成 16 年 10 月、頚部~後頭部痛出現。10 月 31 日近医受診し、無菌性髄膜炎の診断で入院。精査で施行した頭

    部 MRI にて、橋腹側から大孔を越えて C2 レベル腹側まで連続する、T1 強調画像で高信号域、T2 強調画像で低信号域、拡散

    強調画像で無信号、頭部 CT では高吸収域、造影効果のない腫瘤性病変を認めた。髄膜炎は点滴加療にて改善し、当院紹介

    受診。平成 17 年 1 月 24 日、加療目的で入院となった。入院時、神経学的には明らかな神経脱落症状認めず。1 月 31 日、

    右後頭下開頭にて摘出術を施行した。肉眼的に、連続する多発性嚢胞で、薄い被膜に覆われており、嚢胞内容は黄色の極め

    て軟らかいクリーム状の組織であった。病変は比較的容易に全摘出可能であった。術後新たな神経脱落症状の出現認めず。

    病理組織学的検査では、嚢胞組織は重層扁平上皮や線毛円柱上皮が覆い、線毛円柱上皮には一部で goblet cell が混在、嚢

    胞壁は菲薄な線維組織から成っており、epithelial cyst の診断であった。頭蓋内に epithelial cyst が発生することは稀

    であり、若干の文献的考察を加えて報告する。

  • 術中脳幹マッピング・モニタリングを用いた海綿状血管奇形の手術

    Intraoperative electrical stimulation for monitoring during surgical removal of cavernous malformation

    in brain stem region

    横瀬 憲明、永岡 右章、小林 一太、村田 佳宏、大島 秀規、森 達郎、深谷 親、川又 達朗、山本 隆

    充、片山 容一

    日本大学医学部脳神経外科

    【 はじめに 】 脳幹部の海綿状血管奇形は再出血率が高く、外科的治療が必要と考えられる例が多い。しかし、脳幹には

    狭い範囲に重要な機能が集結しているため、実質内への進入は新たな神経障害を引き起こす危険を伴う。私どもは脳幹の術

    中マッピング・モニタリングを行うことにより、安全・確実に脳幹部の海綿状血管奇形を摘出している。 【 症例 】 症例

    は脳幹出血を繰り返した 53 歳の男性で、術前に左上下肢の失調 と MLF 症候群を認めた。MRI上、橋上部背側から腹側

    に及ぶ約 3cm の海綿状血管奇形と考えられる病変を認めた。Midline suboccipital approach で手術を行い、第四脳室底に

    達した後、ニューロナビゲーションシステムにて病変の位置を同定した。さらに、電気刺激による脳幹マッピングを行い、

    外転神経核、顔面神経、舌咽・迷走神経運動枝、舌下神経の位置を確認し切開部位を決定した。その後、各神経機能のモニ

    タリングを行いながら摘出を行った。術後、新しい神経脱落症状を認めなかった。【 総括 】 脳幹の術中マッピング・モニ

    タリングを行うことにより脳幹部の病変を安全に摘出できると考えられた。

  • 有痛性痙攣性チック(painful tic convulsif)の1例

    Case of painful tic convulsif

    島 浩史 1、北村 佳久 1、野村 素弘 1、杉原 崇大 1、福井 一生 1、島 利夫 2

    1横浜栄共済病院 脳神経外科、2島脳神経外科整形外科医院

    【目的】有痛性痙攣性チック(painful tic convulsive, PTC)の1例を経験した. 顔面痙攣と三叉神経痛の合併した同病

    態は比較的稀であり, 文献的考察を加え報告する.【症例】71歳女性. 高血圧の既往あり. 7年前より左顔面痛, 5年

    前より左顔面痙攣を自覚. 近医にてカルバマゼピンを投与されるも症状の改善なく, 2005年4月21日手術加療目的

    に当科紹介受診. 術前 MRI・小脳橋角部 SPGR (spoiled gradient recalled acquisition)法では, 左三叉神経の神経根に

    接触する上小脳動脈および左顔面神経の神経根に接触する左後下小脳動脈を認め, また椎骨脳底動脈系の蛇行は強度であ

    った. . 手術では全身麻酔下に nap position にて神経減圧術を施行. 三叉神経, 顔面神経両方にアプローチすべく 2.5×

    3.5cm の比較的大き目に開頭した. 責任血管は三叉神経痛が左後下小脳動脈, 顔面痙攣が左上小脳動脈および架橋静脈で

    あり, 責任動脈はスポンジにて transposition を行い, 責任静脈は焼灼した. 術直後より三叉神経痛, 顔面痙攣はいずれ

    も改善した. 【考察】PTC において蛇行した椎骨脳底動脈が責任血管である場合, 不十分な治療効果や合併症を生じた報

    告が散見される. 今回の症例では責任血管は三叉神経痛が左後下小脳動脈, 顔面痙攣が左上小脳動脈および架橋静脈であ

    り, 術後の経過も良好であったが, 特に椎骨脳底動脈の蛇行が著しい場合, 責任血管の transposition が不十分となる場合

    があり, 術前に十分な検討を要するものと考えられた.

  • 画像上悪性神経膠腫に類似した脳嚢虫症の 1手術例

    Cysticercosis mimicking a malignant astrocytoma; a case report.

    神田 大 1、五味 玲 1、田中 裕一 1、渡辺 英寿 1、金井 信行 2、五味 晴美 3

    1自治医科大学 脳神経外科、2自治医科大学 病理学教室、3自治医科大学 感染制御部

    [症例]24 歳女性[主訴]てんかん[現病歴]5 月 16 日から計 3 回、痙攣発作をきたし近医に搬送された。脳腫瘍と告知され、

    当院に紹介入院。[入院時現症、血液学的検査]何ら異常所見を認めない。[神経放射線学的検査]頭部単純 CT では左前頭頭

    頂葉に異常低吸収域を認め、造影剤にて造影される腫瘤影を認めた。頭部 MRI では同病変部は T1 等、T2 高、一部内部が T1

    低、T2 高信号の、嚢胞状(直径 20mm)を呈し、周囲に著明な浮腫(直径 40mm)を認めた。ガドリニウムでリング状に

    増強効果を認めた。脳血管造影、タリウムシンチでは明らかな異常所見を認めない。[入院後経過]経過と画像所見から

    malignant astrocytoma を疑い、手術を施行した。腫瘤は境界明瞭で非常に硬く、一塊として摘出された。[病理所見]肉眼

    的には雪だるま状腫瘤で、その頚部で切開したところ、頭部側から寄生虫頭節とおもわれる組織が確認され、体部から嚢胞

    成分が確認され Cysticercosis cellulosae と診断した。改めて生活歴を聴取した。特にアジア、中南米への多数回の渡航

    を確認した。免疫血清学的検査、便中虫卵、全身の検索をしたが、異常無く、病変はこの 1箇所と判断した。経過は良好で

    、駆虫薬の投与はせず、経過観察とした。[考察]嚢虫症の感染時期、経路は同定に至らなかった。病理診断が唯一の手がか

    りであるが、虫の生存中には無症状に経過することが多く、死滅する際その代謝産物や、抗原が放出されて炎症を生じ、嚢

    胞を形成するということから、比較的新しいものと思われた。[結語]海外旅行が盛んになっている現在、留意すべき疾患と

    思われた。とくに、術前問診の重要性を痛感した一例であった。

  • 診断に苦慮した有鉤嚢虫症の一例

    A case of neurocysticercosis

    池谷 義守 1、下田 雅美 1、山崎 研一 1、白水 秀樹 1、鈴木 賀織 1、渋谷 誠 3、松前 光紀 2

    1東海大学付属八王子病院 脳神経外科、2東海大学医学部付属病院 脳神経外科、3東海大学付属八王子病院 病

    理診断部

    当院で経験した診断に苦慮した有鉤嚢虫症の一例を報告する。【症例】9 歳女児。既往歴に特記すべきことなし。家族歴も

    明らかなものはないが母親がフィリピン出身。海外渡航歴なし。【経過】初発の強直間代性痙攣にて当院に救急搬送となっ

    た。頭部 MRI にて左頭頂葉皮質に Gd で均一に造影され、周囲に浮腫を伴う 6mm大の結節状の腫瘤を認めた。同病変に対

    して、CT や血管造影など画像検査を施行したが、特徴的所見に乏しく、診断にはいたらなかった。画像検査と平行して行

    った採血検査で有鉤嚢虫に対する抗体反応が陽性となり、有鉤嚢虫症の診断にてブラジカンテル製剤投与を行ったが、治療

    後も画像上改善が認められなかった。単一病巣であり、そのほかの臓器に有鉤嚢虫症を示唆する所見を認めないことから、

    確定診断を目的に開頭摘出術を施行した。病理診断では血液免疫学的検査の結果通り、有鉤嚢虫の虫体を腫瘤結節内に認め

    た。【結語】 脳有鉤嚢虫症は、通常脳に多発性の結節を形成することが知られているが、今回の症例では単発の発生であり

    、診断に苦慮した。寄生虫などは非常にまれな疾患ではあるが、患者の家族歴や海外渡航歴を十分検討し、免疫学的検査を

    行うことが、診断に有用であると思われた。

  • 画像診断が困難であった劇症型脱随性疾患の1例

    One example of fulminant form One example of fulminant form Demyelinating disease that had difficulty with

    imaging

    中山 晴雄 1、青木 和哉 1、林 盛人 1、富山 新太 1、上田 守三 1、鮫島 寛次 1、三浦 浩子 3、高

    橋 啓 2、渋谷 誠 4

    1東邦大学 医療センター 大橋病院 第2脳神経外科、2東邦大学 医療センター 大橋病院 病院病理学、3

    東邦大学 医療センター 大橋病院 神経内科、4東海大学 八王子病院 病態診断科

    脱髄性疾患は時に非定型的な画像所見を呈し、診断に苦慮する症例があることが報告されている。今回我々は画像上での鑑

    別診断が困難で、生検により確定診断しえた症例を経験したので、その画像所見と共に臨床経過を、文献的考察を加えて報

    告する。 症例は 62 歳男性で、意欲低下とふらつき感を主訴に当院神経内科に入院した。MRI で右基底核を中心に淡い造

    影効果を示す病変が多発しており、腫瘍、脱髄性疾患、血管炎などを考え鑑別診断を行った。血液生化学的検査、脳血流 SPECT

    、タリウムシンチグラフィー、脳血管撮影など施行したが確定診断には至らなかった。 臨床症状、画像所見とも、2 週間

    の経過で急激に増悪したため、病変部の生検とともに内・外減圧を行った。術中迅速標本では確定診断困難であり永久標本

    で脱髄性疾患と診断された。直ちにステロイドパルス療法開始し、臨床症状・画像所見ともに一時的な改善を認めるが効果

    は持続せず、パルス療法を繰り返したが症状は悪化していった。免疫グロブリン療法、血漿交換など施行したがいずれも効

    果無く、発症から4ヶ月の経過で永眠した。病理組織だけでなく、術後の治療と画像所見の経過も合わせて報告する。

  • unilateral megalencephaly の 1 例

    A case of unilateral megalencephaly -case report-

    松田 真秀 1、高野 晋吾 1、阿武 泉 2、柴田 智行 3、松村 明 1

    1筑波大学 脳神経外科、2筑波大学 放射線科、3総合守谷第一病院 脳神経外科

    症例は 55 才の女性。平成 1 年にふらつきを主訴に他医で頭部 CT を撮影したところ、右大脳半球の低吸収域および脳腫脹を

    指摘されたが、それ以上の精査は行われていなかった。平成 17 年 3 月 頭位変換時の回転性めまいを主訴に近医を受診した

    。頭部 CT を撮影したところ、右大脳半球の低吸収域および脳腫脹が認められた。頭部 MRI で右大脳半球における脳回の腫

    脹がみられ、T2 強調画像で白質に高信号域が認められたため、精査目的で当院へ紹介となった。MR Spectroscopy・ECD-SPECT

    ・Tl-SPECT・EEG・Fiber tracking 所見より、unilateral megalencephaly の診断で経過観察としている。従来の報告と違

    い、本症例においては、神経脱落症状は認められず知的機能も正常であった。

  • 慢性硬膜下血腫の穿頭術に合併した原因不明のくも膜下出血の 1例

    A case of unknown origin subarachnoid hemorrhage after the burr hole surgery for chronic subdural hematoma

    星 晶子 1、干川 芳弘 1、橋本 卓雄 1、藤縄 宜也 2、森澤 健一郎 2、桝井 良裕 2、卯津羅 雅彦 2、箕輪

    良行 2

    1聖マリアンナ医科大学 脳神経外科、2聖マリアンナ医科大学 救急医学教室

    脳外科診療において慢性硬膜下血腫は頻度の高い疾患であり、その治療法としては穿頭術が一般的である。慢性硬膜下血腫

    に対する穿頭術の合併症としては急性硬膜下血腫や急性硬膜外血腫、気脳症などが報告されているが、くも膜下出血の合併

    は非常にまれである。今回我々は慢性硬膜下血腫の穿頭術後にくも膜下出血を合併した症例を経験したため文献的考察を加

    えて報告する。症例:88 歳女性。平成 17 年 4月中旬頃より歩行困難、痴呆症状の進行、傾眠傾向となり、呼吸不全加療の

    ため他院より当院救命センターに紹介受診となった。来院時意識レベル Glasgow Coma Scale(GCS) E4V2M4、四肢麻痺を

    認めた。頭部 CT 上両側慢性硬膜下血腫を認めたが、著明な脱水と腎機能障害があったため全身状態の改善を待って手術を

    施行することとした。第 4 病日、全身状態の改善を認めたため局麻下にて穿頭血腫除去術を施行した。右側の血腫を除去し

    たところ急速に脳表が隆起してきたため閉創し、処置を終了とした。術後の頭部 CT 上左シルビウス裂にくも膜下出血を認

    めたため、3D-CTA を施行したが動脈瘤等血管病変は認めなかった。術後の意識レベルは術前と変わらなかったが、左上下

    肢の自発的な動きが見られるようになり、くも膜下出血、対側の硬膜下血腫は徐々に吸収傾向を示した。慢性硬膜下血腫の

    穿頭術に合併したくも膜下出血例は我々が検索しえた限りでは 1 例のみである。その報告によると、くも膜下出血の合併す

    る機序として、抗凝固療法による影響に加えて、血腫の除去により圧迫が解除されて脳実質が移動し、また頭蓋内の血液還

    流量が増加したために脆弱な血管が破綻したと推察している。本症例では抗凝固療法は行なわれていなかったが、手術によ

    り血腫が除去され、長期の脳実質に対する圧迫が急速に解除されたために、対側の脆弱な血管が伸展され破綻し、くも膜下

    出血を呈したと考えられた。

  • ドレーン抜去後に急性硬膜下血腫を生じた 1例

    A case of acute subdural hematoma occurred right after removal of subdural drain

    森 良介、郭 樟吾、大橋 元一郎、中島 真人、坂井 春男

    東京慈恵会医科大学附属第三病院 脳神経外科

    <緒言> 慢性硬膜下血腫(CSDH)術後の急性硬膜下血腫(ASDH)合併率は一般的な認識以上に高い。我々は硬膜下ドレー

    ン抜去後に ASDH を認めた 1 例を経験したので、若干の文献的考察を加えて報告する。<症例> 84 歳、男性。四肢の筋力

    低下と dementia が出現し、CT 上両側 CSDH を認めたため平成 16 年 11 月 2 日に穿頭血腫洗浄術を施行した。術後、麻痺の

    改善を認め術翌日に CT を施行した後に硬膜下ドレーンを抜去した。その約 5 分後に突然左側瞳孔散大,昏睡状態となった

    ため直ちに気管内挿管し、bed side で緊急に左側術創を開放して若干の血腫除去を行なった。さらに CT を施行したところ

    左側 ASDH を認めたため手術室にて小開頭による血腫除去術を施行した。現在は意思疎通可能だが、長期臥床による四肢筋

    力低下のため車椅子生活を余儀なくされている。<考察> 我々が渉猟しえた限りでは過去の文献によると、CSDH 術後

    の ASDH は 2.6%と決して低くない。原因として(1)cortical artery 損傷による出血,(2)dura からの出血,(3)ドレーン挿

    入部の皮下からの出血などが挙げられる。本症例に関しては一連の経過を考慮すると(3)が原因と考えられた。穿頭血腫洗

    浄術に限らず、脳神経外科領域における術後のドレーン抜去後の後出血を予防する対策について検討した。

  • 慢性硬膜下血腫内膿瘍の一例

    Infected subdural hematoma

    大塚 俊宏、村上 成之、沼本 ロバート知彦、沢内 聡、田中 俊英、梶原 一輝、加藤 直樹

    東京慈恵会医科大学付属柏病院 脳神経外科

    硬膜下膿瘍は中枢神経系感染性疾患の中で比較的稀なものであるが,慢性硬膜下血腫に感染が波及した慢性硬膜下血腫内

    膿瘍は更に稀な疾患で過去の報告例も非常に少ない.今回我々は原発巣不明の頚部腫瘍患者に合併した慢性硬膜下血腫内膿

    瘍の症例を経験した. 症例は 85 歳男性で他院にて頚部腫瘍精査中に全身性痙攣発作を生じ,頭部 CT を施行した

    ところ右慢性硬膜下血腫を疑われ当院に紹介となった.当院転院時に発熱および採血にて炎症所見を認めていなかった.穿

    頭術を施行したところ膿瘍を伴った慢性血腫を吸引できた.硬膜,慢性硬膜下血腫被膜および膿瘍被膜をもった三層構造を

    認めたことより慢性硬膜下血腫内膿瘍と診断した.慢性硬膜下血腫内膿瘍の報告は少ない.その発生機序は高齢者および免

    疫能の低下した易感染性患者に多く発生することから慢性硬膜下血腫被膜に血行性に細菌が感染することによるとする報

    告が多いが,硬膜下膿瘍に出血を伴ったとする報告もあり一定していない.本症例は高齢の担癌患者であることから前者の

    機序が考えられた.過去の報告をもとに本症例を報告する.

  • びまん性軸索損傷に低髄圧症候群を併発した一例

    a case report of spontaneous intracranial hypotension with diffuse axonal injury

    白水 牧子、小林 綾、孫 宰賢、石井 映幸、望月 俊宏、上野 俊昭、古屋 一英、藤巻 高光、中込 忠

    帝京大学 医学部 脳神経外科

    (目的)我々は交通外傷によりびまん性軸索損傷(DAI)を認め、その後頭重感等が残存していた症例に対し、低髄圧症候群

    の診断のもと、加療を行い症状の改善を認めた例を経験したので若干の考察を加えて報告する。 (症例)32 歳女性。1998

    年交通外傷にて当院救命センターに搬入。DAI の診断のもと 3週間の入院ののち、左片麻痺、言語障害、視力障害、複視、

    記憶障害が残存する状態で退院した。2004 年 7 月、頭痛、頭重感、全身倦怠感が続くため、当科外来受診。低髄圧症候群

    の可能性を考え、RI cisternography を施行したところ、2 時間後の早期膀胱貯留および 4 時間後の腰椎レベルで

    の CSF leak を認めた。硬膜外自己血注入療法(EBP)を施行。その後、頭重感は改善、本人の活動性も増し、性格が明るくな

    ったとのことであった。(考察)低髄圧症候群は起立性頭痛が典型的症状であるが、その他に抑うつ、倦怠感などの不定愁

    訴を訴えることが多い。本症例では DAI による後遺症として経過観察を行っていたが、低髄圧症候群を併発し、それを治療

    することで症状の改善を見ることができた。低髄圧症候群の原因として外傷が多いことから、外傷後の頭痛、倦怠感、抑う

    つ等の不定愁訴を訴える症例に対しては、低髄圧症候群の併発の可能性を検討していく必要があると考えられた。(結論)

    過去、DAI と診断され頭重感、倦怠感等の症状が続く症例に対し EBP を施行したところ、症状改善が認められた。外傷後の

    諸症状を認める場合、低髄圧症候群の可能性を検討すべきであると考えられた。

  • 胸椎砂時計型神経鞘腫の一手術例

    A case of dumbbell-shaped thoracic neurinoma

    東田 哲博、川崎 隆、田邊 豊、坂田 勝巳、菅野 洋、山本 勇夫

    横浜市立大学 医学部 脳神経外科

    胸椎レベルに生じる砂時計型神経鞘腫は比較的まれな疾患で、かつ腫瘍がある程度増大するまで自覚症状に乏しく、またこ

    の部の解剖学的特殊性のため手術アプローチの選択に苦慮することも少なくない。われわれは今回、第 5 胸椎レベルの砂時

    計型神経鞘腫を経験したので報告する。症例は 29 歳、男性。検診の胸部単純写真にて右中肺野の異常陰影を指摘され、そ

    の後右背部の圧痛を自覚した。精査の結果第 5胸椎レベルに脊柱管内側から椎間孔を経て右背部へ砂時計状に発育する 6×

    3cm 程度の腫瘤を認めたため、当科紹介受診し入院となった。入院時、右背部肩甲骨下端周辺に圧痛と軽度の知覚低下を認

    める以外には神経学的異常所見は見られなかった。手術は第 5 胸椎右半側椎弓切除に右第 5肋骨の部分切除と開胸を加え腫

    瘍を全摘出した。病理組織学的に神経鞘腫と診断された。術後は順調に経過し特に神経学的異常を認めない状態で退院した

    。胸椎砂時計型神経鞘腫の手術法は椎弓切除や椎間関節切除が一般的だが、腫瘍の後側方伸展が著明な場合には、肋骨横突

    起切除法などの腫瘍の伸展に応じたアプローチの選択が必要となる。これらアプローチの適応について文献的考察を加えて

    言及する。

  • 術前診断が困難であった頸髄神経鞘腫の一例

    cervical schwannoma seemed intramedullary : a case report

    布施 仁智、草鹿 元、鈴木 尚、松本 英司、大森 義男、篠田 宗次

    自治医科大学 付属大宮医療センター 脳神経外科

    術前診断が困難であった第7頸髄の神経鞘腫を経験したので報告する。61歳女性。10ヶ月前より歩行障害が出現しその

    後徐々に増悪し、5ヶ月前より下肢により強い四肢麻痺が出現し、その後膀胱直腸障害も出現したため当科紹介された。初

    診時の神経学的所見として、MMTで両上肢4/5、右下肢2/5、左下肢3/5の麻痺を認め、感覚鈍麻を腹部でTh1

    以下、背部でTh4以下に認めた。また、神経線維腫症の徴候はなかった。MRI上T1でやや高信号、T2で高信号、G

    dエンハンスで淡く造影される腫瘤がC6,7、Th1に渡って存在し、腫瘤上縁からC2に至るまで空洞症も認めた。術

    前診断では髄内腫瘍を考え手術となった。C5からTh2までの椎弓切除を行った。硬膜、くも膜を切開すると腫瘍は脊髄

    の右側に位置し、C5からTh1のレベルで脊髄を圧排していた。腫瘍と脊髄の境界は明瞭であり、肉眼的に全摘出した。

    腫瘍はC7前根より発生しているのが確認された。腫瘍内部は白色で軟らかく、血管に乏しかった。組織診断は神経鞘腫で

    あった。術後、脊髄空洞症は消失した。四肢麻痺は改善し軽介助で歩行ができるまでになり膀胱直腸障害も消失した。脊髄

    レベルに発生する神経鞘腫は球型、紡錘型、鉄亜鈴型を呈するものが多いが、本症例はいずれにも当てはまらず、術前診断

    に苦慮したため報告した。

  • 脊髄腫瘍摘出術における術中蛍光診断の有用性について

    Photodynamic diagnosis of spinal tumor using 5-aminolevulinic acid

    荒井 隆雄、谷 諭、磯島 晃、長島 弘泰、常喜 達裕、阿部 俊昭

    東京慈恵会医科大学 脳神経外科学講座

    【目的】近年、悪性脳腫瘍の手術において、5-aminolevulinic acid(5-ALA)を用いた術中蛍光診断(photodynamic

    diagnosis;PDD)の有用性が多数報告されている。5-ALA の使用目的は、肉眼的に判別困難な腫瘍組織を術中に可視化するこ

    とで、安全に腫瘍を摘出し、かつ残存腫瘍を最小限とどめることである。このたび我々は、5-ALA を用いた PDD が、脊髄腫

    瘍に対しても有用であるかを検討したので報告する。【方法】症例は 2005 年に当院で行なった脊髄腫瘍 4 例(上衣腫 3例、

    神経鞘腫 1 例)。入室 1 時間前に 5-ALA(20mg/kg)を 5%Glucose 50ml に溶解し経口内服させる。術中に励起光装置(エムア

    ンドエム社製 蛍光診断研究用 紫色半導体レーザー装置/波長 405nm)及び sharp cut filter(カットオフ波長 420nm)を用

    いて、残存腫瘍の蛍光発光を確認しながら腫瘍を摘出し、病理組織学的検索を行なった。なお、当院における 5-ALA を用い

    た PDD は、本学倫理委員会の承認のもとに行なっている。【結果】上衣腫では全例で腫瘍の蛍光発光を認めた。肉眼的に腫

    瘍摘出を行なった後に、蛍光発光を確認しながら追加切除した。病理検索では、追加切除標本に腫瘍組織を認めた。神経鞘

    腫では蛍光発光を認めなかった。【総括】脊髄上衣腫の手術は、その治療予後を考慮すると、悪性脳腫瘍以上に根治的手術

    が望まれる。この点で 5-ALA を用いた PDD は、非常に有用な手術支援装置となり得る。ただし脳腫瘍手術と同様、機能温存

    が重要となる脊髄手術において、蛍光部位をどこまで摘出するかの判断は、術前の画像診断と術中の解剖学的オリエンテー

    ションが重要であることは言うまでもない。今後、さらなる症例の蓄積と検討を行い、より安全で適確な脊髄腫瘍手術を模

    索する必要がある。

  • 脊椎、脊髄病変に対する定位放射線治療

    Stereotactic irradiation for spinal columm and cord lesions

    佐藤 健吾

    横浜サイバーナイフセンター

    【目的】定位放射線治療は、現在その適応は体幹に拡大されている。今回、CyberKnife を用いて、本邦、韓国で経験した

    脊椎、脊髄病変に対する定位放射線治療につき検討した。【対象、方法】岡山旭東病院、Korea Cancer Center Hospital , 横

    浜サイバーナイフセンターで経験した 10 例の脊椎、脊髄腫瘍を検討の対象とした。年齢は 27 歳から 70 歳(median 55 歳

    )男性 5例、女性 5 例。部位は頚部病変 4例、胸部病変 4例、腰仙部病変 2例。疾患は転移性脊椎腫瘍 8例、硬膜内髄外腫

    瘍 1 例、髄内腫瘍 1 例であった。病変追尾方法は、頚部病変では、Target Locating System (TLS) 、胸腰仙病変で

    は Fiducial tracking system(FTS)を用いた。【結果】転移性脊椎腫瘍は 2例が原疾患で死亡していた。1 例で脊椎固定術

    を要した。生存例では新たな神経脱落症状は出現していない。硬膜内髄外腫瘍は神経芽腫の drop metastasis の症例であ

    るが、原疾患で死亡した。髄内腫瘍は頚髄血管芽腫であるが、新たな神経症状なく、経過観察中である。【考察】転移性脊

    椎腫瘍 8 例中 7 例に以前に、放射線治療がなされていた。CyberKnife 治療は除痛目的の姑息的治療も十分役目は果たせて

    いた。根治を目指した 1 例は治療後 3 年を経過し、局所再発なく推移している。硬膜内病変に対しても TLS、FTS ともに正

    確に治療を実施でき、新たな症状の出現は認めていない。今後、CyberKnife の体幹治療承認と定位放射線治療の脊椎病変

    への適応を強く希望する。

  • 進行性の頚髄圧迫症状を来たした、環軸椎部の嚢胞性病変の一例

    atlantaxial articular cyst, showing progressive high cervical myelopathy

    越智 崇、福原 紀章、甲賀 智之、大山 健一、山田 正三、臼井 雅昭

    国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 脳神経外科

    われわれは、進行性の頚髄圧迫症状を来たした環椎軸椎部分の硬膜外嚢胞を経験したのでこれを報告する。患者は既往に特

    記すべきことのない 87 歳女性、約 3 ヶ月の経過で、両下肢の脱力、感覚以上が出現、悪化し歩行困難となった。MRI 上、C1/2

    後面、硬膜外に位置する mass lesion が頚髄を著明に圧迫していた。当院にて手術行ったところ、mass lesion の本体はム

    チン様の内容液に満たされた嚢胞であった。内容物の吸引と内部のキュレッティング行ったところ、病理所見は、編成した

    軟骨組織が中心であり、炎症、腫瘍などは否定的であった。上記所見より pseudotumor との診断。術後患者は、一過性の神

    経症状の悪化を示したが、2 ヶ月間のリハビリにて、杖歩行可能となり退院となった。高位頚部の嚢胞病変は非常にまれで

    はあるが、鑑別のひとつとして重要である。われわれはこの症例の経験を元に、その特徴、鑑別などを文献的考察を加えた

    上で報告する。

  • Spinal exdtradural meningeal cyst の手術:くも膜下腔交通部の術中同定法

    Spinal extradural meningeal cyst: An intraoperative diagnostic procedure

    大供 孝 1、三科 秀人 1、園川 忠雄 1、伊藤 昌徳 1、野中 康臣 2、尾原 裕康 2、長谷川 博雅 3

    1東部地域病院 脳神経外科、2順天堂大学 脳神経外科、3松本歯科大学 臨床病理

    【目的】Spinal extradural meningeal cyst(全脊髄腫瘍の 1~ 3%)は希な疾患である。臨床症状では、間歇的緩解が 30

    %でみられ、数ヶ月で増悪をみるのが特徴とされる。治療は腫壁背側部切