Platform & Solution case study - 日立製作所 はいたっく2012-4 はいたっく2012-4 6...

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5 はいたっく2012- 4 6 はいたっく2012- 4 Platform & Solution case study 国立大学法人 東京大学情報基盤センター http://www.itc.u-tokyo.ac.jp/ プラットフォーム & ソリューション・ケーススタディ 東京大学情報基盤センターが気候分野などの 研究推進に向け「SR16000 モデルM1」を導入 大規模計算を必要とする幅広い分野の研究者に最先端のコンピュータリソースを提供している 国立大学法人 東京大学情報基盤センター(以下、情報基盤センター)は、 2011年10月、新たなスーパーコンピュータシステムとして 日立のスーパーテクニカルサーバ「SR16000 モデルM1」(以下、SR16000)を導入。 従来環境との高い互換性を維持しつつ、省電力性能を大幅に向上させ、 1ノードあたりの理論演算性能も約6倍にアップすることで、より高速・高性能な科学技術計算処理を行える環境を実現しました。 今後、気候分野における地球温暖化メカニズム解明など、さまざまな研究をさらに加速します。 情報基盤センターは情報メディア教育、学術情報、ネットワー ク、スーパーコンピューティングの4部門を中心として構成されて います。2つのスーパーコンピュータシステムの運用・利用・研究 支援を担うスーパーコンピューティング部門は1965年に発足した 東京大学の大型計算機センターを母体としており、2010年から は全国8大学の情報基盤センターで構成される「学際大規模情 報基盤共同利用・共同研究拠点」の中核拠点としても活動を開 始。学内外の幅広い利用者に向け、常に最先端の大規模計算 サービスを提供しています。 情報基盤センターは2005年に導入した日立のスーパーコン ピュータである「SR11000 モデルJ2」の後継機に「SR16000 モ デルM1」を選定し、大規模SMP ※1 並列スーパーコンピュータとし て2011年10月より本格稼働を開始しました。 「今回のスーパーコンピュータ導入の検討にあたり、SR11000 のような大容量メ モリー空間を必要 とする環境で長年 研究を続けてきた ユーザーからは、 既存プログラムの 継続性と、さらに 高い実行性能を 実現できる環境が 強く求められてい ました。そこで今回は、SR11000上で開発されてきたプログラム をリコンパイルするだけで移行でき、処理性能も大幅にアップし たスーパーコンピュータとして、総合評価方式の入札によって採 用されたのがSR16000です」と情報基盤センター スーパーコン ピューティング研究部門 教授の中島 研吾氏はその経緯を説 明します。 また選定にあたっては、環境性能や省スペース性も重要な要 件になったと語るのは、情報基盤センター 主査(スーパーコン ピューティング担当)の平野 光敏氏です。 「本校では温室効果ガス排出の少ないキャンパスを実現する ため、省エネ性能に優れた機器への更新を支援する東大サス テイナブルキャンパスプロジェクト(Todai Sustainable Campus Project:TSCP)を実践しています。SR16000は従来機に比べ て1ノード ※2 あたり理論演算性能 ※3 が約6倍に向上する一方、消 費電力は約1/5に低減した点を高く評価しました。また、プロセッ サーの発熱を冷却水によって効率的に冷却する技術により空調 機の使用量を抑制することが可能になった点にも満足していま す。さらに、設置面積についても従来は20ラック以上必要だった ものが、わずか2ラックに収まるほど小型化されたため、スペース 利用効率が大幅に高まった点も助かります」と平野氏は語ります。 今回導入されたSR16000は、1ノードあたり4個のPOWER7 ® プロセッサー(合計32コア)と主記憶200GBで構成され、これらの ノードを56台搭載することでシステム全体では54.906TFLOPS ※4 の演算性能を確保。既存プログラムとの高い互換性に加え、日立 から最適化FORTRAN90などのコンパイラや数値計算ライブラ リーを提供することで、数多くのユーザーに、より高速・高性能な 科学技術計算処理を行う環境が提供されることになりました。 情報基盤センターが所有するスーパーコンピュータシステム は長年にわたり、日本の科学技術の発展に大きな役割を果た してきました。なかでも地球温暖化などの大規模変動における 海洋の役割を明らかにすることを目的とした気候分野の研究 を推進しています。大量の大気循環、海洋循環シミュレーショ ンの計算結果と実観測データの対比・検証を繰り返し行う必 要がある地球規模の気候モデル開発において顕著な成果を あげています。その研究の第一人者である大気海洋研究所 准教授の羽角 博康氏は、「われわれの研究活動には高速か つ大規模な数値シミュレーションが欠かせません。私自身も大 学院生時代から20年以上にわたって日立のコンピュータを使 い続けてきましたが、ハードウェア的な性能はもちろん、優秀な 自動並列化コンパイラなどにより、常に安定的に高い性能が引 き出せる環境に非常に満足しています。今回もSR16000の導 入でプログラムを変えることなく研究が継続できるのはうれしい 限りです」と語ります。また現在、SR16000を使った研究モデル の開発にあたっている大気海洋研究所 特任研究員の川崎 高雄氏も、「まだ移行してそれほど時間がたっていないため、 チューニングは発展途上の段階ですが、すでに従来の4倍以 上の性能向上が確認できました。これならば、より精度の高いシ ミュレーションのステージへと問題なくステップアップできるでしょ う」と笑顔を見せます。 情報基盤センターは「学際大規模情報基盤共同利用・共同 研究拠点」でもあるため、近年は学外の研究者からもスーパー コンピュータへの利用申請が急速に増えてきました。中島氏は 「日立のSRシリーズのハードウェアは計算性能だけでなくメモ リー性能も非常に優れているため、有限要素法や差分法を 使ったシミュレーション用途でも幅広いニーズがあります。そうし た広範囲な研究活動を一段と加速させるため、今後も日立との 連携をさらに密にしながら、演算性能の継続的な向上に取り組 んでいきます」と語ります。 平野氏も「SR16000は導入後、まだ一度もノード故障が発生し ていません。ユーザーにとっても私たち運用管理者にとっても、 ハードウェアトラブルなどでジョブが流れなくなることが最も避けた い事象です。日立にはこれからも、信頼性が高く止まらないコン ピュータシステムを作り続け、われわれの研究の縁の下の力持ち として協力いただきたいですね」と期待を寄せます。 今後も日立は、情報基盤センターの強い期待と信頼に応える ため、長年にわたって培ってきたスーパーコンピューティング技術 を結集した、より高性能・省電力・高可用性なシステム提供を通 じて、科学技術の発展に寄与していきます。 お問い合わせ先 情報提供サイト http://www.hitachi.co.jp/hpc/SR_series/sr16000/ 国立大学法人 東京大学 情報基盤センター 主査(スーパーコンピューティング担当) 平野 光敏 国立大学法人 東京大学 大気海洋研究所 特任研究員 川崎 高雄 学内外に最先端の大規模計算サービスを提供 大規模な気候モデル開発で大きな成果 故障のない研究開発環境を継続的に提供 (株)日立製作所 公共システム営業統括本部 カスタマ・リレーションズセンタ E-mail:[email protected] Platform & Solution case study 所在地 職員数 東京都文京区弥生2-11-16 109名(2011年3月31日現在) 国立大学法人 東京大学情報基盤センター USER PROFILE 国立大学法人 東京大学 大気海洋研究所 准教授 羽角 博康 国立大学法人 東京大学 情報基盤センター スーパーコンピューティング研究部門 教授 中島 研吾 ※1 Symmetric Multi Processor:複数のCPUで並行に処理を行い、あたかも1つの高性能なCPUのように動作させる 技術 ※2 スーパーコンピュータシステムを構成する独立した演算処理単位でのサーバを意味する ※3 実際にプログラムを実行したときの性能ではなく、同時に動作可能なすべての演算器が動作したときの性能 ※4 浮動小数点演算を1秒間に1兆回実行する能力 情報基盤センターを支えるSR16000 図2 ラブラドル海の海面付近の流速と塩分分布のシミュレーション解析の結果 カナダとグリーンランドの間に位置するラブラドル海では、海面冷却 によって高密度化した海水が深層へ沈む現象が発生する。この沈み 込みは全海洋の循環の起点の1つとなっており、世界的な気候に大 きな影響を及ぼす。また、小規模な渦が塩分をどのように運ぶかがこ の現象をコントロールしている。東京大学大気海洋研究所は、日立の スーパーコンピュータを利用し、この海面付近の流速と塩分分布をシ ミュレーション解析することで、気候変動のメカニズムを解明した。 図1 東京大学情報基盤センターに導入されたシステムの概要 インターネット 東京大学情報基盤センター 「大規模SMP並列スーパーコンピュータシステム」 ストレージ Hitachi AdaptableModular Storage 2500 総物理容量:556.9 TByte 8Gbpsファイバチャネル ×64 スーパーコンピュータ SR16000 モデルM1(2ラック) 総理論演算性能:54.906 TFLOPS 搭載物理メモリ総量:11,200 GByte 研究者 システム制御装置 EP8000/750 2台 運用管理サーバ群 HA8000/RS220

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5 はいたっく2012-4 6はいたっく2012-4

Platform & Solution case study

国立大学法人 東京大学情報基盤センター ▶ http://www.itc.u-tokyo.ac.jp/

プラットフォーム & ソリューション・ケーススタディ

東京大学情報基盤センターが気候分野などの研究推進に向け「SR16000 モデルM1」を導入

大規模計算を必要とする幅広い分野の研究者に最先端のコンピュータリソースを提供している国立大学法人 東京大学情報基盤センター(以下、情報基盤センター)は、2011年10月、新たなスーパーコンピュータシステムとして日立のスーパーテクニカルサーバ「SR16000 モデルM1」(以下、SR16000)を導入。従来環境との高い互換性を維持しつつ、省電力性能を大幅に向上させ、1ノードあたりの理論演算性能も約6倍にアップすることで、より高速・高性能な科学技術計算処理を行える環境を実現しました。今後、気候分野における地球温暖化メカニズム解明など、さまざまな研究をさらに加速します。

 情報基盤センターは情報メディア教育、学術情報、ネットワーク、スーパーコンピューティングの4部門を中心として構成されています。2つのスーパーコンピュータシステムの運用・利用・研究支援を担うスーパーコンピューティング部門は1965年に発足した東京大学の大型計算機センターを母体としており、2010年からは全国8大学の情報基盤センターで構成される「学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点」の中核拠点としても活動を開始。学内外の幅広い利用者に向け、常に最先端の大規模計算サービスを提供しています。 情報基盤センターは2005年に導入した日立のスーパーコンピュータである「SR11000 モデルJ2」の後継機に「SR16000 モデルM1」を選定し、大規模SMP※1並列スーパーコンピュータとして2011年10月より本格稼働を開始しました。 「今回のスーパーコンピュータ導入の検討にあたり、SR11000

のような大容量メモリー空間を必要とする環境で長年研究を続けてきたユーザーからは、既存プログラムの継続性と、さらに高い実行性能を実現できる環境が強く求められてい

ました。そこで今回は、SR11000上で開発されてきたプログラムをリコンパイルするだけで移行でき、処理性能も大幅にアップしたスーパーコンピュータとして、総合評価方式の入札によって採用されたのがSR16000です」と情報基盤センター スーパーコンピューティング研究部門 教授の中島 研吾氏はその経緯を説明します。 また選定にあたっては、環境性能や省スペース性も重要な要件になったと語るのは、情報基盤センター 主査(スーパーコンピューティング担当)の平野 光敏氏です。 「本校では温室効果ガス排出の少ないキャンパスを実現するため、省エネ性能に優れた機器への更新を支援する東大サステイナブルキャンパスプロジェクト(Todai Sustainable Campus Project:TSCP)を実践しています。SR16000は従来機に比べて1ノード※2あたり理論演算性能※3が約6倍に向上する一方、消費電力は約1/5に低減した点を高く評価しました。また、プロセッサーの発熱を冷却水によって効率的に冷却する技術により空調機の使用量を抑制することが可能になった点にも満足しています。さらに、設置面積についても従来は20ラック以上必要だったものが、わずか2ラックに収まるほど小型化されたため、スペース利用効率が大幅に高まった点も助かります」と平野氏は語ります。 今回導入されたSR16000は、1ノードあたり4個のPOWER7®

プロセッサー(合計32コア)と主記憶200GBで構成され、これらのノードを56台搭載することでシステム全体では54.906TFLOPS※4

の演算性能を確保。既存プログラムとの高い互換性に加え、日立から最適化FORTRAN90などのコンパイラや数値計算ライブラ

リーを提供することで、数多くのユーザーに、より高速・高性能な科学技術計算処理を行う環境が提供されることになりました。

 情報基盤センターが所有するスーパーコンピュータシステムは長年にわたり、日本の科学技術の発展に大きな役割を果たしてきました。なかでも地球温暖化などの大規模変動における海洋の役割を明らかにすることを目的とした気候分野の研究を推進しています。大量の大気循環、海洋循環シミュレーションの計算結果と実観測データの対比・検証を繰り返し行う必要がある地球規模の気候モデル開発において顕著な成果をあげています。その研究の第一人者である大気海洋研究所 准教授の羽角 博康氏は、「われわれの研究活動には高速かつ大規模な数値シミュレーションが欠かせません。私自身も大学院生時代から20年以上にわたって日立のコンピュータを使い続けてきましたが、ハードウェア的な性能はもちろん、優秀な自動並列化コンパイラなどにより、常に安定的に高い性能が引き出せる環境に非常に満足しています。今回もSR16000の導入でプログラムを変えることなく研究が継続できるのはうれしい限りです」と語ります。また現在、SR16000を使った研究モデルの開発にあたっている大気海洋研究所 特任研究員の川崎 高雄氏も、「まだ移行してそれほど時間がたっていないため、

チューニングは発展途上の段階ですが、すでに従来の4倍以上の性能向上が確認できました。これならば、より精度の高いシミュレーションのステージへと問題なくステップアップできるでしょう」と笑顔を見せます。

 情報基盤センターは「学際大規模情報基盤共同利用・共同研究拠点」でもあるため、近年は学外の研究者からもスーパーコンピュータへの利用申請が急速に増えてきました。中島氏は「日立のSRシリーズのハードウェアは計算性能だけでなくメモリー性能も非常に優れているため、有限要素法や差分法を使ったシミュレーション用途でも幅広いニーズがあります。そうした広範囲な研究活動を一段と加速させるため、今後も日立との連携をさらに密にしながら、演算性能の継続的な向上に取り組んでいきます」と語ります。 平野氏も「SR16000は導入後、まだ一度もノード故障が発生していません。ユーザーにとっても私たち運用管理者にとっても、ハードウェアトラブルなどでジョブが流れなくなることが最も避けたい事象です。日立にはこれからも、信頼性が高く止まらないコンピュータシステムを作り続け、われわれの研究の縁の下の力持ちとして協力いただきたいですね」と期待を寄せます。 今後も日立は、情報基盤センターの強い期待と信頼に応えるため、長年にわたって培ってきたスーパーコンピューティング技術を結集した、より高性能・省電力・高可用性なシステム提供を通じて、科学技術の発展に寄与していきます。

お問い合わせ先

■ 情報提供サイト http://www.hitachi.co.jp/hpc/SR_series/sr16000/

国立大学法人 東京大学情報基盤センター主査(スーパーコンピューティング担当)平野 光敏 氏

国立大学法人 東京大学大気海洋研究所特任研究員川崎 高雄 氏

学内外に最先端の大規模計算サービスを提供

大規模な気候モデル開発で大きな成果故障のない研究開発環境を継続的に提供

(株)日立製作所 公共システム営業統括本部 カスタマ・リレーションズセンタ  E-mail:[email protected]

Platform & Solutioncase study

所 在 地職 員 数

東京都文京区弥生2-11-16109名(2011年3月31日現在)

国立大学法人 東京大学情報基盤センターUSER PROFILE

国立大学法人 東京大学大気海洋研究所准教授羽角 博康 氏

国立大学法人 東京大学情報基盤センタースーパーコンピューティング研究部門 教授中島 研吾 氏

※1 Symmetric Multi Processor:複数のCPUで並行に処理を行い、あたかも1つの高性能なCPUのように動作させる技術

※2 スーパーコンピュータシステムを構成する独立した演算処理単位でのサーバを意味する※3 実際にプログラムを実行したときの性能ではなく、同時に動作可能なすべての演算器が動作したときの性能※4 浮動小数点演算を1秒間に1兆回実行する能力

情報基盤センターを支えるSR16000

図2 ラブラドル海の海面付近の流速と塩分分布のシミュレーション解析の結果

カナダとグリーンランドの間に位置するラブラドル海では、海面冷却によって高密度化した海水が深層へ沈む現象が発生する。この沈み込みは全海洋の循環の起点の1つとなっており、世界的な気候に大きな影響を及ぼす。また、小規模な渦が塩分をどのように運ぶかがこの現象をコントロールしている。東京大学大気海洋研究所は、日立のスーパーコンピュータを利用し、この海面付近の流速と塩分分布をシミュレーション解析することで、気候変動のメカニズムを解明した。

図1 東京大学情報基盤センターに導入されたシステムの概要

インターネット

東京大学情報基盤センター「大規模SMP並列スーパーコンピュータシステム」

ストレージHitachi Adaptable Modular Storage 2500総物理容量 : 556.9 TByte

8Gbpsファイバチャネル×64

スーパーコンピュータSR16000 モデルM1(2ラック)総理論演算性能 : 54.906 TFLOPS搭載物理メモリ総量 : 11,200 GByte 研究者

システム制御装置EP8000/750 2台

運用管理サーバ群HA8000/RS220