Oncocytomaの2症 例 - J-STAGE Home

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耳鼻臨床 69: 7: 919~926, 1976 919 Oncocytomaの2症 よ し い せい いちろ う み よし やす ろう さか くら やす お い つち 由 井 誠 一 郎*・ 三 吉 康 郎*・ 坂 倉 康 夫*・ 井 土 ふ さ* じま ゆういち や まぎわ みきかず なか とうす け 間 島 雄 一*・ 山 際 幹 和*・ 中 野 東 右** Oncocytoma (膨大 腫)は, 主 して耳 に発 る稀 な良 る. 1963年, 三吉 等1)は軟 口蓋 に発 生 した 本 腫 瘍 をoxyphilic acinic cell adenomaとし て し た が, そ の後 当教 は耳 と喉 し たoncocytomaの2症例 を経 たの で, い ささかの考察を 加 え報 告 す る. 1 患 者: 28才, 男 子. 初診: 昭 和45年10月15日. 主訴: 左耳前部 の無痛性腫瘤. 家族歴お よび既応歴: 特記 すべ きこ とは な い、 現 病 歴: 約1年 前 よ り左 耳 前 部 の無 痛 性 腫 瘤 に気付 い た が, 特 に自覚症状および腫瘤の増木 きた さない ため放置 して い た. と こ ろが1ケ 月前より腫瘤が徐々に増大したため当科を受診 した。 現 症: i)全 身所見 二体格 中等 度, 栄 養 良, 胸腹部 には異常を認 めず, 赤 血 球 数493×104, ヘ マ トク リッ ト値44. 5%,ヘ モ グ ロビ ン15. 39 /d1白血 球 数6,800, 血 液 像 に異 常 な く, 出血 時 間3分, 検 尿お よび 肝, 腎 機能 にて異常所見 は み られ な か った. 梅 毒 血 清 反応 陰性. ii)局 々見; 左 耳前部 に栂 指 頭 大, 弾性 硬, 表面平 滑, 境 界 明瞭な腫瘤 を触 し,皮 膚, 底 部とは可動性である.頸部 リンパ節腫大は触知 せ ず, そ の他, 耳 鼻 咽喉には著変を認めない. 手 術所 見: 昭和45年10月27日 全麻下に腫瘤摘 出術 を施 行 した. 手 術 は左 耳 前 部 の皮 膚 に約4 cmの縦切開を加 えた.腫瘤は浅在性 で耳下腺 の 上 方 に位 置 し,腫 瘤 の下 縁 の一 部 が耳 下 腺 組 織 と癒着 していた以外に周囲組織との癒着はなく 容易に摘 出 され た. 摘 出腫瘤 は波 動 を触 れ, 大 きさは掴指頭大で表面平滑で黄褐色を呈 し,割 面 は 嚢腫 形 成 が 認 め られ, 一 部壁 が 肥厚 し, 内 容 物 は漿 液性 で あ った. 病 理 組 織 学 的所 見: 弱 拡 大像(図1)で は, 好酸性の大型細胞が索状ない しは管状 に配 列 し, と こ ろ によ っては腺腔様 構造 が認 められ る.又,小 出血 巣 が認 られ るが, リンパ 球浸 潤, 游 胞形 成等 の像 は認め られ な い. 強 拡 大像 (図2)で は, 細 胞質 は好酸性微細顯粒状で, は円形 ない しは楕 円形 で, 中等 量 のchrom- atinを 有 して い る. 間質 は乏 し く 細 胞 境 界 は 明瞭であ り悪性 化 の像 はみられない. 以上の所 Two Cases of Oncocytoma. Seiichiro Yoshii, Yasuro Miyoshi, Yasuo Sakakura, Fusa Izuchi, Yuichi Majima, Mikikazu Yamagiwa and Tosuke Nakano. *三重大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主任:三吉康郎教授) **松 阪 市民病 院耳鼻 咽喉科

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耳 鼻 臨 床 69: 7: 919~926, 1976 919

Oncocytomaの2症 例

よし い せいいちろう み よし やすろう さかくら やす お い つち

由井誠 一郎*・ 三吉 康 郎*・ 坂倉 康 夫*・ 井土 ふ さ*

ま じま ゆういち やまぎわ みきかず なか の とうすけ

間島 雄一*・ 山際 幹和*・ 中野 東右**

Oncocytoma (膨 大 細 胞 腫)は, 主 と して耳 下 腺 に発 生 す る稀 な良 性 腫 瘍 で あ る. 1963年, 三 吉

等1)は 軟 口蓋 に発 生 した 本 腫 瘍 をoxyphilic acinic cell adenomaと して 報 告 したが, そ の後 当教

室 で は耳 下 腺 と喉 頭 に そ れ ぞ れ 発 生 したoncocytomaの2症 例 を経 験 し たの で, い さ さか の考 察 を

加 え報 告 す る.

症 例 1

患者: 28才, 男子.

初診: 昭和45年10月15日.

主訴: 左耳前部の無痛性腫瘤.

家族歴および既応歴: 特記 すべ きこ とは な

い、

現病歴: 約1年 前より左耳前部の無痛性腫瘤

に気付いたが, 特に自覚症状および腫瘤の増木

をきたさないため放置 していた. ところが1ケ

月前より腫瘤が徐々に増大したため当科を受診

した。

現症: i)全 身所見 二体格中等度, 栄養良,

胸腹部には異常を認めず, 赤血球数493×104,

ヘマトクリット値44. 5%, ヘモグロビン15. 39

/d1白 血球数6, 800, 血液像に異常な く, 出血

時間3分, 検尿および肝, 腎機能 にて異常所見

はみられなかった. 梅毒血清反応陰性.

ii)局 所々見; 左耳前部に栂指頭大, 弾性硬,

表面平滑, 境界明瞭な腫瘤を触知し, 皮膚, 底

部とは可動性である. 頸部 リンパ節腫大は触知

せず, その他, 耳鼻咽喉には著変を認めない.

手術所見: 昭和45年10月27日 全麻下に腫瘤摘

出術を施行 した. 手術は左耳前部の皮膚に約4

cmの縦切開を加えた. 腫瘤は浅在性で耳下腺の

上方に位置し, 腫瘤の下縁の一部が耳下腺組織

と癒着 していた以外に周囲組織との癒着はなく

容易に摘出された. 摘出腫瘤は波動を触れ, 大

きさは掴指頭大で表面平滑で黄褐色を呈 し, 割

面は嚢腫形成が認められ, 一部壁が肥厚 し, 内

容物は漿液性であった.

病理組織学的所見: 弱拡大像(図1)で は,

好酸性の大型細胞が索状ない しは管状 に配 列

し, ところによっては腺腔様 構造 が認 められ

る. 又, 小 出血巣が認められるが, リンパ球浸

潤, 游胞形成等の像は認められない. 強拡大像

(図2)で は, 細胞質は好酸性微細顯粒状で,

核は円形ないしは楕円形で, 中等量のchrom-

atinを 有している. 間質は乏しく細胞 境界 は

明瞭であり悪性化の像はみられない. 以上の所

Two Cases of Oncocytoma. Seiichiro Yoshii, Yasuro Miyoshi, Yasuo Sakakura, Fusa Izuchi, Yuichi Majima, Mikikazu Yamagiwa and Tosuke Nakano. *三重大学医学部耳鼻咽喉科学教室(主 任: 三吉康郎教授)

**松阪市民病院耳鼻咽喉科

920 由 井 誠 一 郎 ・他6名 耳 鼻臨 床 69: 7

見 か らoncocytomaと 診 断 した. 術後 経 過41f であるが再発の徴はない.

症 例 II

患者; 81才, 女子.

初診: 昭和48年7月5日

主訴: 榎声.

家族歴および既応歴: 特記 すべ きこ とは な

い.

現病歴: 約2年 前より嗅声 に気 付い てい た

が, 終痛, 呼吸困難その他自覚症状もないので

放置していた. 1ケ 月前より時 々疾がからむと

呼吸困難をきたす様になったため来院した.

現症および検査成績: 体格中等度, 栄養良,

胸腹部には異常を認めない. 出血時間, 3分.

局所々見: 右仮声帯に一見, 有茎性を思わし

める表面事滑なうずら豆大の腫瘤を1認めた. 声

帯には著変なく, 又, 運動障害も認めない(図

3).

手術所見: 昭和48年7月9日. 間接喉頭鏡 ド

に腫瘤摘出術を施行した. 腫瘤は, 右仮声帯よ

り発生しており, 喉頭鉗子にて容易に取 り除 く

ことができた.

病理組織学的所見1弱 拡大(図4)で は, 一

見肝細胞に似た細胞が管状, 索状に1妃列し, 間

質には結合織はほとんどみられない. 細胞質は

微細頼粒状で好酸性に染り, 核は円形ないしは

楕円形でやや小 さく, 核分裂像は 認め られ な

い. 又, 悪性像 も認められなかった. 術後2年

であるが, 経過は良好で再発の徴はない.

図1 症例I 病 理組織 所見(原 拡大 ×100) 図2 症例I 病理細織所見 ビ原拡 大 ×400)

図3 症例II 初診時間接喉頭鏡所見 図4 症例I 病理組織所見(原 拡大 ×100)

耳 鼻 臨 床 69: 7 Oncocytomaの2症 例 921

考 按

1)名 称 にっ い て1膨 大 細 胞腫 (oncocyto-

rna)は 唾液 腺 こと に耳 下 腺 に好発 す る稀 な良 性

腫 瘍 で あ る. 本 腫 瘍 を 構 成 す るoncocyteは,

そ れ が 認 め られ る部 位 に よ り さま ざ ま な名 称 が

記 載 され て お り, 副 甲状 腺 で はoxyphil cell,

唾 液 腺 で はoncocyte, 甲状 腺 に おい て は,

こ の様 な細 胞 か ら成 る腫 瘍 の細 胞 はHurthle

cell, 一 方Hashimoto's thyroiditis(struma

lymphomatosa)に み られ るeosinophilc epi-

thelial cellはAskanazy cellと 呼 ば れ て い る.

Roth等2)は, これ らの 細 胞 は, 基 本 的 には 同

一 の 構造 を示 す ことか ら, これ らの名 称 を統 一

す べ き で あ る と して い る. 本 腫 瘍 の 構成 細 胞 の

名 命 の 混 乱 か ら, 本 腫 瘍 はHurthle cell tumor,

pyknocytoma, oxyphilic adenoma等 の名 称

が 用 い られ て い る. しか し最 近 で は, Hurthle

cell tumorを 除 い て, 1932年Jaff63)に よ り

最 初 に命 名 され, 又, 本 腫瘍 を 詳 細 に 報 告 し

たHamper14)に よ り提 唱 され たoncocytoma

が一 般 に用 い られ て い る. 教 室 の前 回 の報 告 で

は1)oxyphilic acinic cell adenoma or aden-

ocarcinoma(10w grade malignancy)な る名

命 を 提 唱 し たが, 今 回 は 一 般 的 はoncocytoma

を と った.

2)oncocyteの 細 胞 学 的性 状: oncocytoma

は 光 学 顕 微 鏡 で は, 肝 細 胞 や副 腎皮 質 細 胞 に類

似 した 大 型 細 胞 す な わ ち, oncocyteよ り構 成

され て お り, 細 胞 質 はacidophiliaを 呈 し, 好

酸 性 顯 粒 で 充 た され て い る. 核 は濃 染 し, 細 胞

質 に比 して 小 さ く, 円 形 で, 通 常 中央 部 に存 し

核 小 体 は1っ あ るい は, そ れ 以上 み られ る こ と

も あ る. 間質 は極 め て 乏 し く, 時 に腺 様 構 造 を

形 成 す る. 電 子 顕 微 鏡 で は, BaloghとRoth5),

Tandler6), Black7), 洪8), Tandler等9), Askew

等10), 神 田等11), な どの 報 告 か ら, 細 胞 質 に

は穎 粒 の 存 在 は な く, mitochondriaに よ っ

て 充 た さ れ て い る こ とが 判 明 して お り, 又,

Golgi野 は小 さ く, 粗 面 小 胞 体, リボ ゾ ー ム は

乏 しい と され, か っmitochondriaは 大 き く,

正 常 の2~3倍 に な る と報 告 さ れ てい る. Ta-

ndle等9)は 電 顕 的 にoncocyte, 特 にmitochon-

driaを 詳細 に検 討 し, そ の観 察 か らoncocyte

の定 義 を 試 み て い る. 一 方Johns等12)は, 光

顕, 電 顕, 組 織化 学 的 な検 索 か ら表1に 示 す如

く, 唾 液 腺oncocyteの 細 胞 学 的性 状 を 定 義 し

て お り, 現 在 で は, oncocytomaの 病理 学 診

断 にっ い て は, 光 顕 に と どま らず, 電 顕, 組 糸哉

化 学 に まで, そ の検 索 範 囲 を広 げ るべ きで, 少

な くと も, 組 織化 学 的 検討 を行 ってい な い もの

は "oncocytoid" とす べ きで あ ると述 べ て い

る.

3)oncocyteの 組織 発 生: 唾液 腺領 域 で 本

腫瘍 を 始 め て記 載 した の はMc-Farland13)で あ

り, そ の後Hamper14), Gruenfele等14), Ha-

rris15), Godwin等16), Meza-Chavez17), Bauer

とBauer18)に よ り記載 され てい る. 本 腫 瘍 を

構成 す るoncocyteの 発 生 起 源 な らび に腫 瘍 形

成 に関 して は諸 説 が あ り, ま だ確 定 的 で は な

い. Hamper14)はoncocyteが 高 令者 に多 く出

現 す る こ とか ら, 腺 細 胞 の老 化 現 象 に よ る変 性

あ るい は 退化 現 象 の 一 っ とみ な し, 腺 上皮 細 胞

の 直 接 的 なmetaplasiaに よ る と み な して い

る. Meza-Chavez17)は 正 常人51人 の うち8人

か らは両 側 耳 下 腺 に, 1人 か ら は片 側 にonco-

cyteを 観察 し, 腺 房, 導 管 両 方 に, この種 の

細 胞 が 存 在 す る こ とを認 め た. BauerとBau-

er18)は61才 ~92才 の57例 中8例 にoncocyteを

認 め, 腺 房, 腺管 にoncocyteを 確 認 し, か っ

oncocyteと 腺管 と の 移 行像 を も認 めて い る.

一 方, 三 吉 等1)はoncocyteと 腺房 細 胞 との 間

に, 明 らか な 移行 像 を 認 め た ことか ら, onco-

cytomaは 腺房 上 皮か ら発 生 した と考 え られ る

と報 告 し, 渡 辺19)はoncocyteの 起 源 を 腺 房 あ

る い は末 梢 導 管 の退 行 細 胞 の 過 剰 発育 に よ る と

報 告 してい る. 神 田等11)は 正 常 唾液 腺 のoncO

cyteを 電 顕 で 観 察 し, 介 在 部, 線 条 部 に於 て,

922 由 井 誠 一 郎 ・他6名 耳鼻臨床 6917

正常の導管細胞中に混在 したoncocyteが 線管

を形成する所見を得たことから, 腺細胞, 腺管

細胞のtransformationに よる と推 定 してい

る. 一方, 秋吉等20)は142例 の剖検例より軟口

蓋の粘液腺, 混合腺を観察し, 導管部, 腺房部

に発生するoncocyteは, 上皮の再生をもっ直

接化生が重視 されると推測 している. 上記の如

く, 腺房上皮由来, 導管上皮由来, 又は両者と

するものと, それぞれ確定的なものはなく, 現

在では, 腺房上皮, 導管上皮両者より, しかも

多中心性に発生すると云 う説が多い様であり,

myoepithelial oncocyteの 報告 もある10)12).

4)oncocyteの 機能: oncocyteの 機能にっ

いては, いまだ明らかではないが, 電顕による

観察から, 穎粒形成機能を有する粗面小胞体,

Golgi装 置の欠如などか ら, 正常な腺細胞機能

を 有 して い な い こ と は明 らか にな った5)7)8)9)10)

11). 又, 組織 化 学 的 な 研 究 で は, Baloghと

Roth5)は 高 度 のmitochondria enzymeを 認

め た と報 告 し, Johns等12)は 表1の 如 く, 6項

目 の反 応 を 示 す こ とを報 告 して い る. 又, これ

らmitochondriaの 増 加 にっ い て も諸 説 が あ

り, Tandler等9)はmitochondriaの 分 裂 に よ

る と して い るが, 神 田等11)は 著 明 な分 裂 を示 す

所 見 を 認 め な か っ た と述 べ, Johns等12)はmi-

tochondriaの 過 形 成, 肥 大 はmitochondria

enzymeの 量 的 変 化 に よ る と述 べ て い る.

5)統 計 的 検討: 耳 下 腺 腫 瘍 中 に於 け る本腫

瘍 の発 生 頻 度 は, Johns等12)(表2)に よ る

と, す べ て1%以 下 と低 く, 他 に は, Bauerと

Bauer18)は143例 中4例, 北 村21)は120例 中1例

の報 告 が あ るが, 以上 の如 く, 本 腫 瘍 は発 生 率

第1表 Cellular Characteristcs of the Salivary Gland Oncocyte.

Johns, M. E., 12)引 用

耳 鼻 臨 床 69: 7 Oncocytomaの2症 例 923

の きわ め て低 い腫 瘍 で あ る. 発 生 部 位 は 耳下 腺

が 多 く, 我 々が 調 べ 得 た 範 囲 で の 本邦22)23)24)25)

26)27)29)29)30)およ び外 国症 例31)32)33)34)35)36)の発 生

部 位 を示 した もの が 表3で あ る. 外 国 症 例 で

は, 耳下 腺61例, 喉 頭23例, 顎 下 腺3例, 鼻 腔

4例, 硬 口蓋1例 の 報 告 が あ る. 本 邦 に於 い て

は, 耳 下 腺9例, 喉 頭2例, 顎 下 腺1例, 硬 口

蓋2例, 他 に は舌 下 腺, 軟 口蓋, 顎 中 心 性 各1

例 で あ り, や は り本 腫 瘍 の特 徴 で あ る耳 下 腺発

生 が 両 者 共 に多 い が, 外 国 症 例 で は, よ りそ の

傾 向 が 強 い 様 で あ る. 年 令, 性 別 にっ い て は,

外 国 症 例 は ほ とん ど60才 以 上 の高 令 者 が 多 く認

め られ るが4)12)23)本 邦 に於 て は表4の 如 く9才

か ら81才 に お よ び, 高 令 者 に多 い と云 う傾 向 嬬

認 め られ な い. 又, 男女 の 性 差 は ほ とん どみ ら

れ な い23).

6)Oncocytomaの 悪性化: 一般的には本腫

瘍は良性腫瘍とされているが, Hamper14)に よ

れば, Buxton等37)に より9例 のmalignant

oncocytomaが 報告されていると述べ, 又, 我

々が知り得た範囲でのmalignant oncocytoma

は表5に 示す如 く, 外国症例12例4)12)18)36)本邦

2例21)30)である. その中で耳 下腺 発生 例は9

例, 鼻腔4例, 喉頭1例 であり, やはり耳下腺

発生が多い様である. 年令別 で は, 40才代1

例, 50才代3例, 60才代5例, 70才 以上2例 で

あり, 高令者に多い傾向を認める. 性別では男

子9人, 女子2人 と男子に多い傾向が認められ

る。転位部位としては, 頸部 リンパ節を主 とし

他 には脳, 肺, 腹部他の遠隔転移も認められる

が, 死亡例は2例 と少なく, 予後は比較的良好

である. oncocytomaは 稀な良性腫瘍 とされて

いるが, 今回我 々が調べ得た範囲では悪性腫瘍

として報告されたものも20例ほど認められ, 全

症例のうち約16%を 占めるのではないかと推測

され, 今後, 治療及び診断に関して, 十分注意

をはらう必要があろうとおもわれる.

7)治 療法: 治療法は良性 のも のに対し て

は, 完全摘出によって良好な結果を得る事がで

きる. 問題となるのは悪性のものに対 してであ

り, Johns等12)は 頸部転移を思わしめる症例す

べてに根本手術, 及び頸部廓清術を併用 してい

る. Fayemi&Toker36)は 術後放射腺治療を行

ったが, 2年 後, 頸部 リンパ節に転移をきたし,

頸部廓清術を施行 した症例を報告しているが,

第2表: Incidence of Oncocytomas ln Parotid Gland.

Johns, M, E., 12)引 用

第3表: 本邦, 外国に於け るoncocytoma

発生部位別頻度

924 由 井 誠 一 郎 ・他6名 耳鼻臨床6917

第4表: 本邦報告例

第5表: malignant oncocytoma報 告 例

耳 鼻 臨 床 6917 Oncocytomaの2症 例 925

現在のところ, 放射線治療例はほとんど報告さ

れておらず, 本腫瘍の放射線感受性については

不明である.

7)我 々の症例について: 2症 例とも病歴,

触診, 視診上悪性腫瘍を思わせる所見はなく,

頸部 リンパ節腫大も認めなかったので, 腫瘤の

み摘出して良好な結果を得た. 摘出標本につい

て光顕的に典型的なoncocytomaの 像を示した

とは云え, 組織化学的, 電顕的検討を加え得な

かった点は, 最近の本腫瘍に対する解析の進歩

よりみて, はなはだ残念であったと反省 してい

る.

結 語

28才 男 子 で左 耳 下 腺 に発 生 したoncocytomaと81才 女 子 で 喉 頭 右 反声 帯 に発 生 した oncocyto-

maの2症 例 にっ い て報 告 し, oncocyteの 性 状 を 中心 と し て文 献 的 考擦 を 加 え る と共 に, 本 腫瘍 の

統 計 的観 察 を行 った.

本論文の要旨は第36回 耳鼻 咽喉科臨床会総会および 日耳鼻東海地方会第238回 例会において発表 した。

参 考 文 献

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原稿到着: 昭和51年3月26日

別刷請求先: 1由井誠一郎

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