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「WORKSHOP ON VOLCANIC ROCKS & SOILS」に参加して 冨澤 幸一 1.はじめに 平成27年9月24日から26日までイタリア共和国イス キア島において「WORKSHOP ON VOLCANIC ROCKS & SOILS(火山岩と火山灰に関する国際ワー クショップ)」が開催され、寒地地盤チームから冨澤 が参加する機会を得ました。このワークショップにお いて、研究成果の発表を行うことができましたので、 会議の概要などを報告します。 2.ワークショップ概要と口頭発表 本ワークショップは、イタリア地盤工学会(AGI)が 主 催 し 国 際 地 盤 工 学 会(ISSMGE)と 国 際 岩 盤 学 会 (ISRM)が共催する国際会議で、2002年 Medeira ポル トガル、2007年 Azores ポルトガル、2010年 Tenerif スペインに続き、第4回目となります。国際ワークシ ョップは、ナポリから約30km 北西部に位置するイス キア島の中心部(ホテルレジーナ・イザベラ)に火山地 盤工学などの研究者が会し開催されました(写真-1)。 ワークショップは9月24日、25日がキーノートレク チァー5件およびディスカションセッション(口頭発表 35件)、26日にテクニカルビジットという構成で行われ ました。本ワークショップには世界から100名程度の研 究者が参集し、日本からは約10名の参加がありました 写真-2)。ディスカションセッションのテーマは、 以下の5つです。 1.火山物質の構造的特徴 2.火山岩の物理的性質 3.火山灰土の力学挙動 4.自然災害の火山斜面 5.火山灰地盤の構造物諸問題 冨澤は火山灰地盤の構造物諸問題のセッションで、 本ワークショップの組織委員の一人である北海道大学 三浦清一名誉教授との共同執筆で「火山灰地盤におけ る杭基礎の鉛直支持機構 Vertical bearing mechanism of pile foundation in volcanic ash soil」で口頭発表し ました(写真-3)。発表内容は、火山灰土の火砕流堆 写真-1 オープニングセレモニー 写真-2 日本からの主な参加者 (左から、東北大学風間基樹教授・筆者・室蘭工業 大学川村志麻准教授・北海道大学横浜勝司助教) 積物で鋼管杭、場所打ち杭の摩擦抵抗が低下傾向にあ ることを多数の現場鉛直載荷試験から検証した成果で す。この内容の一部は、公益社団法人地盤工学会北海 道支部「実務家のための火山灰質土」~特徴と設計・ 施工、被災事例(平成24年度地盤工学会事業企画賞受 賞)および北海道開発局道路設計要領に掲載されてい ます。 ワークショップは一般の研究発表会と違いディスカ 報 告 42 寒地土木研究所月報 №752 2016年1月

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Page 1: 「WORKSHOP ON VOLCANIC ROCKS & SOILS」に参加して - … · 2018. 11. 29. · 「workshop on volcanic rocks & soils」に参加して. 冨澤 幸一 * 1.はじめに 平成27年9月24日から26日までイタリア共和国イス.

「WORKSHOP ON VOLCANIC ROCKS & SOILS」に参加して

冨澤 幸一*

1.はじめに

 平成27年9月24日から26日までイタリア共和国イスキア島において「WORKSHOP ON VOLCANIC ROCKS & SOILS(火山岩と火山灰に関する国際ワークショップ)」が開催され、寒地地盤チームから冨澤が参加する機会を得ました。このワークショップにおいて、研究成果の発表を行うことができましたので、会議の概要などを報告します。

2.ワークショップ概要と口頭発表

 本ワークショップは、イタリア地盤工学会(AGI)が主催し国際地盤工学会(ISSMGE)と国際岩盤学会

(ISRM)が共催する国際会議で、2002年 Medeira ポルトガル、2007年 Azores ポルトガル、2010年 Tenerifスペインに続き、第4回目となります。国際ワークショップは、ナポリから約30km 北西部に位置するイスキア島の中心部(ホテルレジーナ・イザベラ)に火山地盤工学などの研究者が会し開催されました(写真-1)。 ワークショップは9月24日、25日がキーノートレクチァー5件およびディスカションセッション(口頭発表35件)、26日にテクニカルビジットという構成で行われました。本ワークショップには世界から100名程度の研究者が参集し、日本からは約10名の参加がありました

(写真-2)。ディスカションセッションのテーマは、以下の5つです。    1.火山物質の構造的特徴    2.火山岩の物理的性質    3.火山灰土の力学挙動    4.自然災害の火山斜面    5.火山灰地盤の構造物諸問題 冨澤は火山灰地盤の構造物諸問題のセッションで、本ワークショップの組織委員の一人である北海道大学三浦清一名誉教授との共同執筆で「火山灰地盤における杭基礎の鉛直支持機構 Vertical bearing mechanism of pile foundation in volcanic ash soil」で口頭発表しました(写真-3)。発表内容は、火山灰土の火砕流堆

写真-1 オープニングセレモニー

写真-2 日本からの主な参加者

(左から、東北大学風間基樹教授・筆者・室蘭工業

大学川村志麻准教授・北海道大学横浜勝司助教)

積物で鋼管杭、場所打ち杭の摩擦抵抗が低下傾向にあることを多数の現場鉛直載荷試験から検証した成果です。この内容の一部は、公益社団法人地盤工学会北海道支部「実務家のための火山灰質土」~特徴と設計・施工、被災事例(平成24年度地盤工学会事業企画賞受賞)および北海道開発局道路設計要領に掲載されています。 ワークショップは一般の研究発表会と違いディスカ

報 告

42 寒地土木研究所月報 №752 2016年1月

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ションを重視するのが特徴です。本ワークショップでも、各セッションの座長は時間に捉われることなく会議を進行させ、会場からは多くの建設的な意見交換があり、大変勉強になりました。冨澤の発表にも、火山灰中の杭摩擦抵抗が低下する理由についての質疑があり、杭施工時の火山灰土の破砕性が要因となっているなどの回答に一定の理解を示して頂きました。 余談ですが、2日目の午前のセッションではディスカションが非常に長引き、セッションの途中でランチタイムという場面もありました。

3.テクニカルビジット

 本ワークショップがイスキア島(面積約46.5km2)で開催されたのは、高さ787mのエポメーオ火山が島の中心に象徴としてあるのが理由の一つです。火山周辺には火山岩・凝灰岩や地滑り地帯が随所に露呈しており、テクニカルビジットでは、ほぼ1日かけてイスキア島を一周しそれらの10現場を見学しました。 特に1883年には大規模地震でカザミッチョラ地帯の火砕流堆積物の断層崖が大きく崩壊したそうです(写真

-4)。島には台風の影響などもあって、溶岩流や軽石流堆積物の地滑り箇所が現在100程度あります。 イスキア島は美しいビーチの多いリゾート地ではありますが、改めて火山噴火や自然災害の猛威を強く感じました。

4.おわりに

 日本にも火山は多くあり、特に北海道は表層の約40%が火山灰土に覆われています。火山灰土はローカル

ソイルという意味の特殊土ではなく、もはや日本の代表的な地盤構成土の一つと言えます。寒地地盤チームでは本発表成果に続く研究として、火山灰中の杭動的挙動や土木研究所つくば中央研究所との分担研究で火山灰土の液状化高精度判定に関する研究を現在行っています。今後は、火山灰土の設計施工管理のみでなく、防災に対する意識も重要と考えています。 本ワークショップの参加により、国際的な火山地盤工学の研究動向を知ることができました。今後も、社会貢献に繋がる研究成果を広く発信していきたいと考えています。

写真-3 冨澤の口頭発表 写真-4 テクニカルビジットの様子

冨澤 幸一*

TOMISAWA Kouichi

寒地土木研究所寒地基礎技術研究グループ寒地地盤チーム主任研究員博士(工学)技術士(建設・総合)

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