学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング...

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平成28年度(2016年度) 学ぶ力向上プロジェクト研究 学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業づくり 内容の要約 キーワード 学ぶ力の向上 「アクティブ・ラーニング」の視点 「主体的・対話的で深い学び」 課題発見・解決のプロセス 研修と実践の往還 Ⅰ 研究の目標 Ⅱ 研究の仮説 Ⅲ 研究の進め方 1 研究の方法 2 研究の経過 Ⅳ 研究の内容とその成果 1 「アクティブ・ラーニング」のと らえ 2 研究協議会での研修 3 実践校での授業づくりに向けての 取組 (1) (1) (1) (1) (1) (1) (1) (2) (2) (1) 研修と実践の往還① (事例1 中学校第3学年 英語科) (2) 研修と実践の往還② (事例2 小学校第6学年 理科) (3) 研修と実践の往還③ (事例3 小学校第6学年 算数科) 4 実践事例集の内容 Ⅴ 研究のまとめと今後の課題 1 研究のまとめ 2 今後の課題 文 献 (3) (6) (8) (9) (10) (10) (10) 滋賀県総合教育センター 綾 木 尚 子 石 田 多可子 「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」(中央教育審議会、 平成28年)には、「子供たちの学びの質を高めていくことが重要になる」と記さ れ、その中でも「主体的・対話的で深い学び」を実現するために示されている のが「アクティブ・ラーニング」の視点である。本研究では、その視点から、 授業の改善についての検討を行い、課題発見・解決のプロセスを基に授業づく りを行った。また、指導者が先進的・先導的な事例を学び、授業実践の交流・ 協議に取り組む研修と各校での実践の往還を進めた。そのことにより、指導者 の授業力が高まり、児童生徒の学ぶ力の向上につながった。

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平成28年度(2016年度) 学ぶ力向上プロジェクト研究

学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業づくり

内容の要約

キーワード

学ぶ力の向上 「アクティブ・ラーニング」の視点

「主体的・対話的で深い学び」 課題発見・解決のプロセス 研修と実践の往還

目 次

Ⅰ 研究の目標

Ⅱ 研究の仮説

Ⅲ 研究の進め方

1 研究の方法

2 研究の経過

Ⅳ 研究の内容とその成果

1 「アクティブ・ラーニング」のと

らえ

2 研究協議会での研修

3 実践校での授業づくりに向けての

取組

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(1)

(2)

(2)

(1) 研修と実践の往還① (事例1

中学校第3学年 英語科)

(2) 研修と実践の往還② (事例2

小学校第6学年 理科)

(3) 研修と実践の往還③ (事例3

小学校第6学年 算数科)

4 実践事例集の内容

Ⅴ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

2 今後の課題

文 献

(3)

(6)

(8)

(9)

(10)

(10)

(10)

滋賀県総合教育センター

綾 木 尚 子

石 田 多可子

「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」(中央教育審議会、

平成28年)には、「子供たちの学びの質を高めていくことが重要になる」と記さ

れ、その中でも「主体的・対話的で深い学び」を実現するために示されている

のが「アクティブ・ラーニング」の視点である。本研究では、その視点から、

授業の改善についての検討を行い、課題発見・解決のプロセスを基に授業づく

りを行った。また、指導者が先進的・先導的な事例を学び、授業実践の交流・

協議に取り組む研修と各校での実践の往還を進めた。そのことにより、指導者

の授業力が高まり、児童生徒の学ぶ力の向上につながった。

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「三つの視点」とは…

授業実践

研究協議

児 童 生 徒 の 学 ぶ 力 の 向 上

学習指導案に必要な

内容は何だろう

自校の実践に生かせそう

他校の実践から学ぶ

今後の実践につなげる

有効な手立てが見えた

平成28年度(2016年度) 学ぶ力向上プロジェクト研究

主体的・対話的で深い学び

学びの姿の交流

指導者の手立ての検証

背 景 新しい時代に求められる資質・能力の育成 (平成28年中央教育審議会)

実践報告

講義・演習

公開授業後 の研究協議

授業力の

高まり

目指す学びの姿は

表れているかな

目指す学びの姿が

表れているかな

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(1)

学ぶ力向上プロジェクト研究

学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業づくり

Ⅰ 研 究 の 目 標

「アクティブ・ラーニング」の視点に立った先進的・先導的な研究や実践事例から、具体的な授業づ

くりの方策を学んだり、各校で実践したことを協議したりするための研修を行う。また、研修での学び

を生かした実践を各校で積み重ねる。その研修と実践の往還により、各教科の特性をふまえた授業づく

りを進める中で、指導者の授業力を高め、児童生徒の学ぶ力の向上を目指す。

Ⅱ 研 究 の 仮 説

指導者が、先進的・先導的な研究や実践事例を学び、「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授

業づくりを行うことによって、質の高い学びの過程の中で、「主体的・対話的で深い学び」が実現し、

児童生徒の学ぶ力が向上するだろう。

Ⅲ 研 究 の 進 め 方

1 研究の方法

(1) 「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業づくりについてのイメージや疑問を研究委員間

で交流し、本研究の目標を共有する。

(2) 研修として、研究協議会を6回行う。講師を招聘し、先進的・先導的な研究や実践事例を学び、

児童生徒の学ぶ力の向上に向けて、講師と共に授業実践の見直しや今後の授業づくりの検討を行う。

(3) 研究協議会での学びと各校における実践の往還により、授業づくりを進める。

(4) 実践を交流し、成果と課題をまとめる。また、研修と実践の往還により授業づくりを進めた様子

を、事例集としてまとめる。

2 研究の経過

4月

4月

4月~7月

6月

6月

8月

8月

9月~11月

研究構想、研究推進計画の立案

第1回研究協議会

実践校での授業実践

第1回児童生徒質問紙調査・指導者質問紙調査の

実施と分析

第2回研究協議会

第3回研究協議会

第4回研究協議会

実践校での授業実践

10月

11月

11月

11月~12月

1月

2月

3月

第5回研究協議会

第2回児童生徒質問紙調査・指導者質問紙調査の

実施と分析

第6回研究協議会

研究報告書原稿執筆、実践事例集の原稿作成

研究発表大会準備

研究発表大会

研究のまとめ

Ⅳ 研 究 の 内 容 と そ の 成 果

1 「アクティブ・ラーニング」のとらえ

平成28年8月に中央教育審議会から出された「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまと

め」には、学習指導要領等の改善の方向性の一つとして、「主体的・対話的で深い学び」の実現(「ア

クティブ・ラーニング」の視点)について述べられている(p.2の図1)。

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(2)

(平成28年度滋賀県教育委員会「学校教育の指針」より) 図2 課題発見・解決のプロセス

本研究でも、「主体的・対話的で深い学び」の実現を目

指すために、「アクティブ・ラーニング」の三つの視点(以

下「三つの視点」という。)(表1)に立ち、これらの視点

について相互の関連を図った授業づくりを行い、実践する

ことで、児童生徒の学ぶ力の向上につなげたいと考える。

また、本研究における学ぶ力とは、「児童生徒が新たな

課題を見つけ、主体的・対話的に深く学び続ける力」とし、

滋賀県教育委員会から出された「平成28年度学校教育の指

針」の「1確かな学力を育む (2)課題の発見・解決に向

けた主体的・協働的な学びの推進」の中で示されている、

やる気を育て、自ら学ぶ力の向上を図るための課題発見・

解決のプロセス(図2)を基に、「三つの視点」から授業づ

くりを行っていった。

授業づくりにおいては、指導者が「児童生徒が単元で付

けたい力」を明確にもち、児童生徒の実態に合わせた学習

・指導方法を選択した。その際には、「学習を見通し振り

返る場面をどこに設定するか」「共に学び合い、対話する

場面をどこに設定するか」「学びの深まりをつくり出すた

めに、児童生徒が考える場面と指導者が教授する場面をど

のように組み立てるか」等を、単元や題材のまとまりの中

で検討していった。このような従来の授業づくりの過程を大事にしながら、「主体的・対話的で深い

学び」の実現につなげたいと考える。なお、本報告書では、後述の「3 実践校での授業づくりに向

けての取組」の中で、小学校2校、中学校1校の具体的な授業実践の内容を記載している。

2 研究協議会での研修

研修として全6回の研究協議会を行った。研究協議会では、講師から児童生徒の学ぶ力の向上につ

ながる先進的・先導的な事例を聴くことで、学びを深めたり、その学びから各校で授業実践したこと

を交流・協議したりした。また、次世代型教育推進センター研修協力員の平中理恵氏から、「アクテ

ィブ・ラーニング」の視点に立った授業づくりについて、最新の情報提供と助言をいただいた。

全6回の研究協議会の主な内容を3ページの表2に示す。

3 実践校での授業づくりに向けての取組

本研究では、授業づくりのための支援として、教材研究や複数指導(TT)等に、研究委員と共に取り

組んだ。授業実践の様子を記録し、それを実践校の研究会および当センターでの研究協議会で活用し、

〇 第三は、「主体的・対話的で深い学び」、すなわち「アクティブ・ラーニング」の視点からの学びをいかに実現するかで

ある。子供たちが、学習内容を人生や社会の在り方と結びつけて深く理解し、これからの時代に求められる資質・能力を身

に付け、生涯にわたって能動的に学び続けたりすることができるようにするためには、子供たちが「どのように学ぶか」と

いう学びの質が重要になる。

〇 学びの質は、7.に述べるように、子供たちが、主体的に学ぶことの意味と自分の人生や社会の在り方を結びつけたり、

多様な人との対話で考えを広げたり、各教科等で身に付けた資質・能力を様々な課題の解決に生かすよう学びを深めたりす

ることによって高まると考えられる。こうした「主体的・対話的で深い学び」が実現するように、日々の授業を改善してい

くための視点を共有し、授業改善に向けた取組を活性化しようとするのが、「アクティブ・ラーニング」の視点である。

(平成28年8月中央教育審議会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」より)

図1 「主体的・対話的で深い学び」の実現(「アクティブ・ラーニング」の視点)

やる気を育て、自ら学ぶ力の向上を図る

課題発見・解決のプロセス

課題を見つける

見通しをもつ

自分で考える

共に学び合う

学習をまとめる

学習を振り返る

これまでの知識や技能をもとに自力での解決に取り組ませる必要となる知識や技能を身に付けさせ課題解決へと導く

課題の解決に向けた方向性や見通しをもたせる

自己の変容や友達の考えのよさに気付かせる満足感をもたせ、次の学びへとつなげる

課題に対して、わかったことや、できたことをまとめ、実感させる

ペアやグループ、学級等での意見交流により、子どもの考えを広げたり深めたりする

新たな課題を見つける

自分の得た知識をもとに新たな課題をもたせる

学習の動機付けをする課題意識をもたせ、関心や意欲を高める

表1 アクティブ・ラーニングの三つの視点

(平成28年8月中央教育審議会

「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ」より)

主体的な

学び

学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる学び。

対話的な

学び

子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める学び。

深い学

各教科等で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かう学び。

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(3)

〇学習指導要領改訂の方向性と授業改善の「三つの視点」について学んだ。

〇持ち寄った学習指導案を見直し、「三つの視点」からの改善策を探った。

〇イエナプラン教育の取組から、対話的な学びにつながる

サークル対話や学びのスケジュールづくり等、教育活動

全般に活用できる具体的事例を学んだ。

〇授業実践報告を行い、「三つの視点」を通して児童生徒

の学びの姿や指導者の手立てについて協議した。

〇「教育コーチングをベースにしたAL実践講座」を受講

し、児童生徒の意欲と能力を引き出す技術を学んだ。

〇2回目の授業実践報告を行い、「三つの視点」を通して

児童生徒の学びの姿や指導者の手立て

について協議した。また、2学期の授

業づくりに向けて、学習指導案の項目

検討を行った。

〇県外の先進的な事例や取組を聴き、児童生徒の学ぶ力の

向上につなげる指導者の手立てを学んだ。

〇「三つの視点」に立った授業改

善による先導的な実践の発表を

聴き、児童生徒の学びの姿や指

導者の手立てについて、具体策

を協議した。

〇2学期に行った実践授業(6校)の報告を行い、児童生徒

の学びの姿と指導者の手立てについて協議した。

〇「主体的・対話的で深い学び」の実現を目指した「三つ

の視点」からの授業

改善についての講義

を聴き、更に理解を

深めた。

〇2学期に行った実践授業(4校)の報告を行い、児童生徒

の学びの姿と指導者の手立てに

ついて協議した。

〇「三つの視点」からの授業改善

の取組を校内で広めるための研

修会のもち方について学んだ。

その後の授業づくりにつなげた。特に、2学期の実践授業は、研究委員が互いに参観し合い、事後研

究会で児童生徒の学びの姿を交流し、指導者の手立てについて検討を行った。

研究委員が研修と実践の往還により授業づくりを進めた様子を、研究成果物「滋賀県版『アクティ

ブ・ラーニング』の視点に立った授業実践事例集」に掲載した。本報告書では、3校の取組を以下に

示す。

(1) 研修と実践の往還① (事例1 中学校第3学年 英語科)

ア 「学習した表現を使い、ペアで伝えることを考え、英語で話してみよう」の活動を位置付けた

単元計画

単元の各セクションを3時間で計画し(図3)、第2時に「ペ

アで伝えることを考えて話す」の活動を位置付けた(表3)。

当初、指導者には、「学習した表現を使って伝えたいことを

自ら考えて話すという活動に対して、生徒は戸惑うかもしれ

ない」という不安があった。しかし、ペアで考えながら、英

語で話す活動を繰り返すうちに、設定された場面に応じて相

手に伝わるように話そうとする生徒の姿が見られるようにな

った。そこで指導者は、対話的な学びと主体的な学びの実現を目指し、この学習を更に価値のあ

るものとするための方策を考えていった。

生徒の学習活動 指導者の支援(ティームティーチング)

〇振り返りシートで本時の自己目標を確認する

〇指導者同士(二人)が話した英語を基に、学習した表現

を使ったやりとりを聴いて理解する

〇学習した表現を使って、ペアで伝え方を考える

・会話表現シート(気持ちを伝える表現やつなぎ言葉

の例文集)や辞書を使う

〇ペアでやりとりする

・抑揚やアイコンタクトを生かす

〇指導者の前でペアで話す

〇ペア同士で互いのやりとりを聴き合う

・振り返りシートにコメントを書き合う

・振り返りシートを配付する

・学習した表現を使って指導者(二人)が英語で話す

・学習した表現を使い、設定された場面に応じて伝え方

を考えるよう机間指導を行い、声かけをする

・相手に伝えるために、コミュニケーションをするうえ

で大切なポイントを確認する

・生徒の話す英語のやりとりを聴いて、工夫できている

ところを伝える

表3 授業の流れ(学習した表現を使い、ペアで伝えることを考え、英語で話してみよう)

(詳しくは、研究成果物「滋賀県版『アクティブ・ラーニング』の視点に立った授業実践事例集」に掲載しています)

図3 「ペアで考え話す」活動を位置付けた

単元計画

第1時 第2時 第3時

セクション1新しい表現を学ぼう

ペアで話してみよう

本文を理解しよう

セクション2

セクション3

単元「PROGRAM5」(全9時間)

表2 全6回研究協議会の主な研修内容

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(4)

図5 聴き合う場を設

定した学習形態

イ 対話を考え、話す活動を活性化する振り返りシート

生徒は、授業の終末に図4に示すような振り返りシートを書いて、次時の自己目標を設定して

いる。これは、この授業を縦断的につなげ、生徒の活動を活性化させることをねらいとしている。

このシートに、①聴き手からのコメント欄を設けているが、②評価のポイントを示すことで、発

表者も聴き手も学習の目標をもつことができる。さらに、発表者は聴き手のコメントと評価のポ

イントとを③④自己評価に生かし、⑤次時の目標設定につなげていくことができる。

このシートを使って活動を繰り返すことで、つなぎ言葉や相づち等が数多く見られるようにな

り、英語によるやりとりの文の数が増えていった。また、発表するときの表情が豊かになったり、

ジェスチャーが大きくなったりする生徒の学びの姿が見られた。このように、発表者と聴き手の

両者が相手意識をもったやりとりをすることで、主体的・対話的な学びを深めることができた。

ウ 聴き合う場を設定し、学ぶ意欲の向上につなげる学習形態

1学期は、指導者が意図的に指名したペアにより、全体の前でやりとりの

発表をしていた。しかし2学期は、全員が発表し聴き合える機会を確保する

ために、4人の机を合わせ二つのペアが向き合って座るようにし、ペア同士

が発表して聴き合う場を設定した(図5)。4人のうち一方のペアが移動する

と、次のペア同士で発表を聴き合うことができ、全員が複数回発表を聴き合

う機会をもつことができた。英語を聴き合う機会が増えたことと、さらに、

ペア同士で相手の反応を得ながら対話できたことで、生徒はより一層自分の

思いが伝わるように工夫するようになり、学ぶ意欲の向上につながった。

エ 往還による研究委員の学びと変容

5ページの図6に、本事例における研修と実践の往還により授業づくりが進んでいった様子を

示している。往還する中で、研究委員は、対話することで生徒の学びが深まっていくことを再確

認し、そのためのよりよい学習方法を探っていった。そして、生徒の実態に合わせて、絶えずよ

り豊かなコミュニケーションが図れる活動を設定した。2学期末には、今までの成果をALT(外国

語指導助手)の前で発表する機会があり、生徒は、場面に応じて相手の反応を見ながらペアで伝

え合う等、コミュニケーションを楽しむことができた。

移動

移動 移動

ペア

ペア

ペア

ペア

移動

ペア

ペア

ペア

ペア

図4 学習意欲を次時へつなげる振り返りシート

【設定のねらい】

授業のゴールイメージをもって活動する

自己評価や次時の目標設定につなげる

【設定のねらい】

発表者:自らの伝え方と、相手への伝わり方を振り返り、

自己評価と次時への意欲につなげる

聴き手:英語のやりとりを基に、伝え方について考える

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(5)

17

18

55

35

26

34

2

13

11月

6月

当てはまる

どちらかといえば、当てはまる

どちかといえば、当てはまらない

当てはまらない

英語の授業で、英語を使って自分の考えを相手に伝えようとしたり、相手の考えを理解しようとしたりしている

(数字は% 回答総数88)

図7 生徒質問紙調査の結果(中学校第3学年)

図7に示す生徒質問紙調査の結果では、11月

は6月より肯定的な回答の割合が増えている。

これは、振り返りシートを活用し、ペアによる

英語でやりとりをする活動の積み重ねによって、

どう学ぶと英語で伝えたり理解したりすること

ができるのかという「学び方」を学習した結果

だと考える。特に、「当てはまらない」と回答

した生徒の割合が13%から2%に減少したこと

は、この活動の有効性を示している。

図6 研修と実践の往還による研究委員の学びと意識の変容

ペアで考える ペアで練習する

会話シートや辞書を使いながら 英語でのやりとりを考える

<研修と実践の往還による研究委員の学びと意識の変容>

「三つの視点」についての理解を深めたことと研究委員同士の

授業の交流から、「話す」活動の活性化を目指し、ペアでの学び

合い学習に照準を定めようと考えた。

ペアになって英語でやりとりすることが対話的な学びに、また、

振り返りを行うことが主体的な学びにつながると考え実践していった。

授業実践報告を行った。その後の協議の中で、全員が聴き合う場を

設定する等の授業改善の方向が見えてきた。

自己目標を適切に決めることができるように、振り返りシートに

評価のポイントを載せることにした。

「教育コーチングをベースにしたAL実践講座」から、人と話すことが学びにつながると感じ、

対話の大切さを再確認した。生徒同士でも互いのやりとりを聴き合うことで学びにつながると考

え、聴き合う場を設定し、振り返りシートに聴き手からのコメント欄を設けることにした。

他のペアの 前で話す

Look at the paper!

「もっと~したい」「次は~やってみよう」とか、

自分でステップアップす

るための目標を見つける生徒が多くなってきた

「アクティブ・ラー

ニング」という言葉

は知っているけれど、英語の授業でど

う活用するのかな

【学習した表現を使い、ペアで伝えることを考え、英語で話してみよう】 (中学校第3学年 英語科)

授業実践 難しいかもしれないと思った活動だったけれど、

生徒は場面設定に応じた

やりとりをペアで考えているな

第1回

第2回

伝え方を考えながら 話す練習をする

【第2回研究協議会】

【学習した表現を使い、ペアで伝えることを考え、英語で話してみよう】

【第1回研究協議会】

授業実践

映像を見ながら実践報告を行う

ジェスチャーをしながら

英語で話す

Wow, amazing!

第3・4回 2学期 授業実践

【第3・4回研究協議会】

【学習した表現を使い、ペアで伝えることを考え、英語で話してみよう】

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(6)

図8 単元の学習内容をまとめた掲示物

(2) 研修と実践の往還② (事例2 小学校第6学年 理科)

ア 実践授業までの経緯

本事例の研究委員は、昨年度、長期研修派遣員として他県で先進的な取組を学んだ。それは、

児童から生まれる疑問を解決する学習を大切にすること、板書やICT等を活用し、全ての児童が

学習内容を共有しやすくすることであった。

そのうえで、今年度の第1回研究協議会で、児童生徒にとって新しい時代に必要な資質や能力

を理解し、「三つの視点」から授業改善を行うことの必要性と、授業の型にとらわれることの危

険性を学んだ。その学びを生かしながらも、授業づくりを行ううえで迷ったところでは、研究員

とアイデアを出し合い、協働で取り組んだ。主体的な学び・対話的な学びにつながったと考えら

れる具体的なポイントを二つ挙げ、研究協議会と授業実践で、取り組んできた研究委員の変容を

表4に示す。

イ 実践授業

(ア) 単元全体を通して

本単元の目標は、「いろいろな水溶液を使い、その性質や金属を変化させる様子を計画的に

推論しながら追究する活動を通して、水溶液の性質や働きについての見方や考え方をもつこと

ができる」である。本単元では、研修での学びを生かし、問題解決学習を大切にして、習得し

た知識を使って解決できたという思いを児童にもたせたいと考えた。そこで、児童が一貫した

目的と習得した知識・技能を使う必然性をもって解決していけるよう、「5種類の水溶液を特

定できるようになる」という単元のゴールを設定した。さらに、図表による考えの可視化を取

り入れ、児童が自分の考えを表現することに自信をもち、

自分の考えを整理して相手に伝えることが容易になる

ようにした。

第1時では、水溶液を見分ける方法と手順を児童自身

が考える中で、実験で確かめたいことや疑問が出てきた。

それらを次時以降に明らかにするという目的のために、

児童自身が必要な実験を考え、指導者と共に計画を立て、

単元のゴールに向かって学習を進めていった(図8)。

ポイント1 問題解決型の学習について ポイント2 話し合う活動について

他県の取

組からの

学び

○活用力と自分で表現する力を大切にする(それぞ

れ、深い学び、主体的な学びと関連していると考

えた)

○何のために話し合うのかと、考えを共有することを

大切にして、指導者は活動を焦点化する(これは、対

話的な学びと関連していると考えた)

第1・2回

研究協議会

○学びに向かう意欲を高め、友達との相互作用を通じて自分の考えを確かなものにし、さらに広げ深める経験

を積ませるためには、問題解決型の流れや言語活動の充実が不可欠

1学期の

授業実践

○問題を解決するために実験・観察方法を考える時

間、実験結果を考察する時間を設定した

○授業の流れをパターン化し、言語活動の時間を設定

した

第3・4回

研究協議会

○他校の国語科の授業から、学習したいことを目指

して、児童自身が学習計画を決める取組を学んだ

○秋田県の児童生徒の主体的で対話的な学びの姿を

知り、問題解決型の学習が効果的だと再確認した

○ジグソー法やLITE(学んだことを表現する活動)の演

習を通して、自分の学びを確かなものにし、考えが

深まる体験をした

2学期の

授業実践

見通しをもった問題解決への取組、図表による考えの可視化、対話する活動の工夫 (詳細は、以下の「イ 実践授業」に記載)

参観者か

らの感想

表4 研修と実践の往還による研究委員の学びと意識の変容

児童質問紙調査の結果から…

「理科は課題に対する予測や推測をすること

が楽しい」という思いをもってほしい

児童質問紙調査の結果から…

「表現に対する自信がないから、表現力や 考えを比較検討する力を伸ばしたいな」

・児童が学習方法を選択する場面が随所にあった

・課題が明確でシンプルだったことがよかった

・グループ交流は、話合いの必要性がある取組だった

・各児童に役割があったことがよかった

・各児童に役割があったことがよかった

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学ぶ力向上プロジェクト研究

(7)

(イ) 第10時の学習展開

児童が計画したとおり、第10時では単元のゴールとなる学習を行うことができた(図9)。

共に学び合う場では、話し合う必要性のある活動を設定

し、児童が学んだことを表現する機会をつくった。研修で

学んだジグソー法を含め、複数の協議の仕方からヒントを

得て、第10時では、目標を達成するための交流ができるこ

とと、児童にとって目的がわかりやすい活動になることを

ねらい、話合いの場を設定した。まず、児童は解決の方向

をとらえやすくするために、グループごとにフローチャー

トを用いて水溶液を特定するための実験方法と手順を考え

た(図10)。次の学習活動3では、全ての児童が役割を担い、

自分のグループで考えた方法と手順を他のグループの児童

に説明するか、他のグループから聞いた考えを自分のグル

ープに伝えるかのどちらかに取り組めるようにした(図11)。

ウ 実践授業を終えて

単元末には、導入時と比べて自分ができるようになったこと

を自覚し、自分の生活の中に問いを見いだす児童の主体的な学

びの姿がうかがえた(図12)。交流の場では、自分の考えを口頭

で説明するだけでなく、図表による可視化を行った。そのこと

で、児童同士の考えが互いに理解しやすくなっただけでなく、

自分やグループの考え方を改善することに有効に働いた。

研究委員は、必要な資質・能力を育てることが求められてい

る背景を知ったうえで授業を行う大切さ、型だけをまねること

の危うさを改めて認識していた。さらに、自校および他校の実

践を通じて、児童が「学び方」を学習することが大事だと感じ

たと言っている。そして、今回は理科での実践を行ったが、今

後、他教科にも生かせる汎用的な能力を育てていくことが必要だという思いを聞いた。

本時の目標 気体の性質の既習事項を活用して、5種類の水溶液を少ない手順で安全に見分ける方法を考えることが

できる。【思考】 ※5種類の水溶液…塩酸・水酸化ナトリウム水溶液・炭酸水・石灰水・食塩水

主 な 学 習 活 動 「アクティブ・ラーニング」の視点からの支援

1.本時の問題を確認する。

●前時までに学習した水溶液の性質を整理する。

●三つの条件(安全・少ない手順・短時間[1時間])のもと、話し合う。

◇実施済みの実験結果をマトリックス表に整理する場を

設定する。

◇単元を通したゴールを確認する。

2.グループ毎に実験方法と手順を考える。 ●実験方法をグループで確認しながら、フローチャートに

まとめる(図10)。

◇筋道立てて推論し、考えやすくするために、話型を提示する。

3.グループ交流を行う。

●一人を残して他の班に一人ずつ移動する。そこで水溶液を特定する方法と手順についての説明を聞いて話し合い、

自分の班に戻って伝える(図11)。

◇友達からの質問や意見を参考に、実験方法の曖昧さを

なくし、三つの条件に合うように改善するよう促す。

4.全体交流を行う。 ●安全第一、リトマス紙のよさ(指示薬の手軽さ・便利さ)、

三つの実験を行うこと(手順の少なさ)に気付く。

◇前もって児童の考えを予想しておく。そして、比較することで条件に合っていることに着目できそうなフロ

ーチャートを二つ取り上げる。

(評価)無色透明な水溶液が何であるかを特定する実験方法 を考え、表現することができる。【思考・表現】

(評価方法)ノート・グループトーク・発表 5.本時の学習について振り返る。(個人のノートに記述) ・学んだこと ・友達の考えでなるほどと思ったこと

◇既習内容を生かしてよりよい実験方法を考えられたこと、友達と話し合ったよさについて取り上げる。

図9 第10時の学習の流れ

図10 グループで作成したフローチャート

○ はじめに水溶液の名前を聞いたとき

は、全く知らない物ばかりだったけれど、全部見分けられるようになったの

でよかったです。おふろの洗剤とか石

けんとかは何性か等を、またみてみたいです。

図12 単元末での児童の振り返りの記述

図11 学習活動2・3(図9)での交流の仕方

学習活動2 自分のグループで実験方法と手順を考えるその後、①~⑥の児童は学習活動3を行う席へ移動する

~ の児童は自席で、自分のグループの考えを説明する

②1班

⑥⑤

2班

③ ④

⑤ ⑥

3班

① ②

⑤ ⑥

4班

① ②

⑤ ⑥

5班

① ②

③ ④

6班

① ②

③ ④

学習活動3 グループ交流を行う

1班

① ①

① ①

2班

② ②

② ②

3班

③ ③

③ ③

4班

④ ④

④ ④

5班

⑤ ⑤

⑤ ⑤

6班

⑥ ⑥

⑥ ⑥

Page 10: 学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング …...学ぶ力向上プロジェクト研究 (2) (平成28年度滋賀県教育委員会 「学校教育の指針」より)

学ぶ力向上プロジェクト研究

(8)

第6学年 算数科

単元「およその面積や体積を求めよう」

第6学年 算数科 単元「速さ」

(3) 研修と実践の往還③ (事例3 小学校第6学年 算数科)

ア 校内研究主任として校内へ広げる取組

本事例の研究委員は、研修と実践の往還により「三つの視点」に立った授業づくりを校内へ広

げていった。その中で、若手教員が本研究での授業実践を担うことになった。校内への広がりの

様子を表5に示し、若手教員が行った実践授業については、「イ 若手教員とともに行った授業

づくり」にまとめた。

第1回研究協議会より(4/26)

「アクティブ・ラーニング」の授業とい

う型はなく、学びを自分自身でつくって

いくものだと感じた。新しいものへの挑

戦もあるけれど、今まで大切にしてきた

視点でもあるので、自身の実践を振り返

り、確かめることからスタートしたい。

実践授業の参観(5/11)

(同地域の小・中学校の研究委員同士の交流)

A同地域の中学校の実践授業を参観

第2回研究協議会より(6/10)

授業実践の映像を通して児童の学びを見

取ることができた。この見取りから「深

い学びとは…」というものを具体的に説

明することで、「三つの視点」を取り入

れた授業の理解も深まると感じた。

第3回研究協議会より(8/1)

「アクティブ・ラーニング」について学

ぶには、「授業」を通して学ぶことが必

要だと思う。映像を通じて実践を見るこ

と、またそこで感じたことについて話し

合うことで、「アクティブ・ラーニング」

とは、という本質に迫れると思う。

第4回研究協議会より(8/9)

演習を通して、「まとめと学習課題」「机

間指導中のメモ」そして「ゆさぶり発問」

を意識した。校内へ広め実践し

ていこう。

第5・6回研究協議会より(10/25・11/15)

実践報告から、「教材研究」「児童が主

役の場面設定」「児童観察」といった授

業づくりの力点を学んだ。

校内授業研究会(6/16)

「アクティブ・ラーニング」についての

最新情報や、助言をいただいている次世

代型教育推進センターの研修協力員に参

加していただいた。

校内授業研究会(7/25)

ワークシート(授業実践報告書)を活用し、

児童の学びの姿から指導者の振り返りの

交流を行った。その後、各学年で「2学

期の授業で大事にすること」を話し合っ

た。第3回研究協議会で実践報告を行う。

校内授業研究会(8/25)

第3回研究協議会の「教育コーチングを

ベースにしたアクティブ・ラーニング実

践講座」を校長先生が受講され、全教員

に校長通信で発信された。また、第4回

研究協議会での県外の先進的な取組につ

いて、研究委員が全教員に伝達し、後半

の学年ごとの授業づくりで算数プランシ

ートを活用した。

まなび部会 上半期の振り返り

第4回研究協議会で演習した実行策検討

シートを活用し、「学ぶ力を高めるため

に何を重点化するか」を協議していった。

研究委員による授業実践(5/20)

(第6学年 家庭科)

「いためてつくろう 朝食のおかず」

ワークシート(授業実践報告書)を使って

児童の学びを見取り、指導者の手立てを

振り返る。第2回研究協議会で実践交流

を行う。

指導案検討 (6/21)

実践授業(7/13)

事後研究会(7/28)

授業の映像を見て、児童の学びの見取り

から指導者の手立ての改善点を探った。

第3回研究協議会で実践報告を行う。

指導案検討会(9/29)

指導案検討会(10/6)

実践授業、事後研究会(10/13)

KJ法を使い、各グループで成果と課題

の交流、そして改善策を検討し、全体で

の交流を行った。第5回の研究協議会で

実践報告を行う。

秋田県での先進的な取組を、夏休み

の校内研究会でみんなに伝えよう

実行策検討シートを活用して、上半期

の振り返りを行ったときの白板

「校内研究だより」(5/24) の主な内容 キーワード:同じ方向を向いて ・中学校でも「三つの視点」に立った授業改善の取組がスタートしている

・小学校での学び方が中学校での学習につながっている

研究授業の事後研究会も、映像を

見ながら協議していこうかな

グループ討議の内容を全体で交流し

た後のまとめの様子

少しでも多くの先生方とともに

「アクティブ・ラーニング」について学んでいく学校の研究環

境づくりに努めたいな

表5 研修と実践の往還による研究委員の学びと校内への広がり

研修での学び (研究協議会) 校内への広がり (校内授業研究会) 授業実践

実行策検討シート

効果性

着手容易性

高低

全体交流の様子

Page 11: 学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング …...学ぶ力向上プロジェクト研究 (2) (平成28年度滋賀県教育委員会 「学校教育の指針」より)

学ぶ力向上プロジェクト研究

(9)

図13 単元末のゴール問題の掲示物

図14 既習事項とつなげる掲示物

イ 若手教員と共に行った授業づくり(第6学年 算数科)

(ア) 児童が指導者と共に単元のゴールイメージをもつ課題設定

指導者は、指導案検討会(兼学年部授業研究会)で、単元「速さ」

での付けたい力を確認し、児童の興味を引く題材を使った単元末の

ゴール問題を設定した(図13)。指導者は、単元の導入時に、そのゴ

ール問題を提示し、児童が単元のゴールイメージをもてるようにし

た。児童は興味をもってどちらが速いのか考えていたが、距離と時

間の両方の数や単位が異なるため、うまく比べることができなかっ

た。しかし、このような導入が、速さの求め方を理解できるように

なりたいという学習意欲を引き出し、授業後の児童の振り返りには、

「早く速さを求められるようになりたい」という記述が多く見られた。

単元末の授業では、この単元で習った学びを生かしてゴール問題を解決し、「分かった」

「できた」という喜びを感じていた。

(イ) レディネステストの結果から見えてきたつまずきへの支援

第2時(「課題発見・解決のプロセス」を基に組み立てた

授業)は、単元末のゴール問題の解決につながる「速さ」の

基礎的な学習課題を学ぶ時間とした。単元前に行ったレディ

ネステストから、この時間の学びに必要な「単位量当たり」

の考え方を苦手とする児童の割合が高いことが分かったので、

指導者は単位量当たりの考え方の掲示物(図14)を作って、児

童が既習事項を想起できるようにした。自分で考える時間や共に学び合う時間には、振り返

って掲示物を見ている児童の姿が多く見られた。また、自分で考える時間を十分に確保する

ことで、「1分当たり」や「1m当たり」という単位量当たりの考えだけでなく、公倍数を

使った考え方、比を使った考え方を児童から引き出すことができた。共に学び合う時間には、

それらの考えを交流することで、自分の考えを広げ深めることができた。

ウ 指導者の手応え

イのような取組により、指導者からは、以前より児童が落ち着いて学習活動に向かえるように

なったという学びの姿の変容を聞くことができた。また、指導者も、単元末の付けたい力から各

時間のねらいを設定することで、一貫した指導ができ、授業づくりの手応えを感じていた。

4 実践事例集の内容

本研究で行った研修と実践の詳細を、「滋賀県版『アクティブ・ラーニング』の視点に立った授業

実践事例集」にまとめ、当センターのホームページに掲載した。そこでは、本報告書の「Ⅳ 研究の

内容とその成果」の「2 研究協議会での研修」を「第1章 研修編」として、また、「3 実践校

での授業づくりに向けての取組」を「第2章 実践編」として、写真や映像を交えて紹介している。

なお、ホームページ上の本報告書にはリンクを張り、すぐに閲覧できるようにしている(p.10の図15)。

第1章の研修編では、第1回から第6回までの研究協議会の順を追って、講義・演習・協議の主な

内容を示し、研究委員の学びの様子が分かるようにまとめた。第2章の実践編では、各研究委員の授

業づくりの経緯が分かるように記載し、児童生徒と指導者の学びの変容をまとめた。

この「滋賀県版『アクティブ・ラーニング』の視点に立った授業実践事例集」は、各学校の校内研

究や授業づくりに役立てていただきたいと考えて作成しており、多くの教育関係者の方に閲覧し活用

していただけることを願っている。

Page 12: 学ぶ力の向上につながる「アクティブ・ラーニング …...学ぶ力向上プロジェクト研究 (2) (平成28年度滋賀県教育委員会 「学校教育の指針」より)

学ぶ力向上プロジェクト研究

(10)

Ⅴ 研究のまとめと今後の課題

1 研究のまとめ

(1) 児童生徒と指導者が、単元と毎時間の授業のゴールイメージを共有し、見通しをもって学習を進

めることで、児童生徒の学習意欲を喚起し、目的意識を高める主体的な学びの姿につながった。ま

た、対話的な学びとして、自力解決の時間に自分の考えをもつための学習方法を取り入れたり、互

いの考えに触れる場面設定の工夫をしたりすることで、児童生徒の考えを広げ深めることができた。

課題発見・解決のプロセスのもと、主体的な学び・対話的な学びの実現に向けて授業づくりを行

ったことにより、児童生徒の深い学びの姿につながったと考えられる。

(2) 研修と実践の往還による「アクティブ・ラーニング」の視点に立った授業づくりを進めることで、

研究委員が、研修で学んだことをすぐに授業構想と実践に生かすことができ、それが指導者の授業

力の高まりと児童生徒の学ぶ力の向上につながった。

2 今後の課題

(1) 共に学び合う場が形骸化することなく、児童生徒が更に学びを深めることができるように指導者

のファシリテーション能力を高めるためには、授業中の児童生徒の学びを見取る力、全体交流で取

り上げる学びを選択する力、児童生徒の学びをつなげる言葉がけについて、研修を深める必要があ

る。

(2) 児童生徒の学びの過程を質的に高めていくために、授業づくりの中で、教科に特化した「見方・

考え方」を軸としながら、学習方法の改善や工夫を行う必要がある。

文 献

滋賀県教育委員会「平成28年度学校教育の指針」、平成28年度(2016年)

文部科学省中央教育審議会「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめについて(報告)」、平成28年(2016年)

研 究 委 員

鷲見 清 長浜市立長浜小学校教諭 吉田 典子

東 孝治 中西 宏美

湖南市立水戸小学校教諭 林 淳子 福田 淳史

日野町立日野小学校教諭 林 耕平 川端 哲巳

関 智仁 日野町立日野中学校教諭 北村 千保

図15 研究成果物の閲覧方法(画面は作成中のものにつき、実際の仕様とは異なる場合があります)

【研究成果物】

実践編では、写真をクリック

すると、取組の動画が再生

されます (限定公開ページの閲覧が許可されている方は視聴可能です)

PDF版で閲覧中の方は、以下の各「研究協議会」・「授業実践」をクリックすると、詳細ページに移動します