「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会 …47 (第二講演)...

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47 (第二講演) 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会社の今後の展開」 北道ワイン株式会社 代表取締役副社長 嶌村 公宏 氏 講演要旨 ・主に北道内で生産された葡萄で造る純国産ワインのみを生産販売、道内に農場を持ち土作りから始まるワイ ン造りを実践。 ・国内だけでなく外への販路も開拓しており極東、東南アジアに販売実績をもつ。 ・ブランド力を強める為に瓶ラベルを現地の要望に合わせてデザインしている。道の「きらりっぷ」の録も検 討したが、商品イメージに合わないデザインラベルであり録を見送った。 ・農商工連携を用し、澱と葡萄残(廃棄物)を有効用するため、堆肥だけの利用だけでなく新製品の開 も進めている。道内で製品化しようとすれば、道内に瓶詰めする事業所がないということが課題。 ・ワインツーリズムを用し、国産ワインの購買層を広げ、リピーターの獲得を進めた。ワインを核とした色々 な地域興しが可能ではないか。 1.北道のワイン産業の現状 北道のワイン産業の現状ですが、第一に日本の現状から説明します。日本のワインの中には「国産ワイン」 と「日本ワイン」があります。同じではないかと思われる方も多いと思うのですが、輸入原料を使用したもので も日本国内で酵や製造行為が行なわれると「国産ワイン」になります。「日本ワイン」は何かというと、国産原 100%、葡萄からできた純国産ワイン 100%のものだけを「日本ワイン」と認めようという風潮がここ数年で 始まっております。なぜこのようになっているのかは、旧大蔵省国税庁の管轄で酒税を取るのが目であり、原 材料は問わず国内生産でアルコールが1%になった段階で酒となり出荷時に課税するためです。日本に入ってき ている輸入ワインと、オール国産ワイン(輸入原料を使った国産ワインと日本ワイン合わせたすべてのワイン) との比率は、現状3分の2と3分の1で、輸入ワインの方が多い。ですから、今現在の日本で売られているワイ ンの純国産ワイン、日本ワインは国産ワイン3分の1から更に少なくなる為、ワイン全体の7%から8%しかな いのが現状です。 ※(1)~(14 )のワインメーカーが「道産ワイン懇談会」の会員です。

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(第二講演)

「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会社の今後の展開」

北海道ワイン株式会社 代表取締役副社長 嶌村 公宏 氏

講演要旨

・主に北海道内で生産された葡萄で造る純国産ワインのみを生産販売、道内に農場を持ち土作りから始まるワイ

ン造りを実践。 ・国内だけでなく海外への販路も開拓しており極東、東南アジアに販売実績をもつ。 ・ブランド力を強める為に瓶ラベルを現地の要望に合わせてデザインしている。道の「きらりっぷ」の登録も検

討したが、商品イメージに合わないデザインラベルであり登録を見送った。 ・農商工連携を活用し、澱と葡萄残渣(廃棄物)を有効活用するため、堆肥だけの利用だけでなく新製品の開発

も進めている。道内で製品化しようとすれば、道内に瓶詰めする事業所がないということが課題。 ・ワインツーリズムを活用し、国産ワインの購買層を広げ、リピーターの獲得を進めた。ワインを核とした色々

な地域興しが可能ではないか。

1.北海道のワイン産業の現状 北海道のワイン産業の現状ですが、第一に日本の現状から説明します。日本のワインの中には「国産ワイン」

と「日本ワイン」があります。同じではないかと思われる方も多いと思うのですが、輸入原料を使用したもので

も日本国内で発酵や製造行為が行なわれると「国産ワイン」になります。「日本ワイン」は何かというと、国産原

料 100%、葡萄からできた純国産ワイン 100%のものだけを「日本ワイン」と認めようという風潮がここ数年で

始まっております。なぜこのようになっているのかは、旧大蔵省国税庁の管轄で酒税を取るのが目的であり、原

材料は問わず国内生産でアルコールが1%になった段階で酒となり出荷時に課税するためです。日本に入ってき

ている輸入ワインと、オール国産ワイン(輸入原料を使った国産ワインと日本ワイン合わせたすべてのワイン)

との比率は、現状3分の2と3分の1で、輸入ワインの方が多い。ですから、今現在の日本で売られているワイ

ンの純国産ワイン、日本ワインは国産ワイン3分の1から更に少なくなる為、ワイン全体の7%から8%しかな

いのが現状です。

※(1)~(14)のワインメーカーが「道産ワイン懇談会」の会員です。

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北海道内には 19 社ワイン製造の免許を持っている会社があります。最近では八剣山ワインさんが札幌にでき

た一番新しいワインメーカーです。平成5年には8社しかなかったのです。なぜこれだけ増えたかというと、北

海道の葡萄がワイン造りには適していることが、道外のワインメーカーの方に知れ渡ったことがあります。本州

のワインメーカーで働いていた方々が、北海道の葡萄を使うとやはり他県のワイン用葡萄より優れているという

ことで、会社を辞めて北海道に入植しています。ワインは葡萄作りが必要なのですが、ヨーロッパ系のワイン専

用品種の葡萄産地では、山梨ではなくて北海道が日本一の産地です。山梨の葡萄が多いのではないかと皆様は思

うのですが、実は山梨も微妙な立場にあります。山梨の甲州という品種は昨年、OIVという葡萄・・・・ワイン国際機

構で「甲州」という品種をヨーロッパEUに輸出するワインのラベルに品種名を書いて良いと許可を取りました。

ただし注釈があり、ヴィティス・ヴィニフェラというワイン用葡萄と認めたわけではないという段階です。山梨

県では甲州種がまだ食べる葡萄、生食用として半分は用いられているために、農水省のデータにも甲州種がワイ

ン専用品種に入っていません。ですから山梨県はワイン用葡萄の生産が少ないことになっております。

2.道内ワインメーカー出荷量、結果樹面積 道内ワインメーカーの出荷量ですが、他社のことなのでA社、B社としておきます。平成 10 年はワインブー

ムの時です。A社、B社は北海道の道央圏にではなく、道東と道南の会社です。平成 10 年はこのA社、B社の

出荷量が弊社より多くて私どもは第三番目でしたが、平成 22 年度になりますと私どもが 50.4%と過半数以上の

出荷量を占めております。理由は上位二社等が大幅に出荷量を減らしたために北海道全体の出荷量が減少してい

るからです。私どもは現状維持をしているだけで半数以上のシェアになってしまいました。A社、B社に関しま

しては先程お話しました輸入原料を使って国産ワインを造っていたのです。しかし、狂牛病の国内発生時期から

ですが、原材料がどこかというのが問われるようになり、それが理由で日本ワイン以外が売上を下げてきたので

す。私どもは 100%純国産の葡萄からだけ造っているので、それほど数量を減らしていません。多少は葡萄の収

量が減ったりすると生産も減るのですが、他の会社と比べると減り方が少ないので、必然的に50%超になってし

まったというのが実情です。 原料葡萄の現状は北海道では昭和50年から平成21年までの葡萄栽培はほとんど変わっておりません。これが

増えると我々も原料が増えてワインをたくさん造れるのですが、増えもせず減りもしていません。栽培面積とい

うのは栽培している面積で、結果樹面積というのは果実が収穫できる樹が植えられている面積です。私どもは、

北海道全体で採れる葡萄の約 30%を利用してワインを造っています。これは食べる葡萄も、ワイン用の葡萄も、

すべて含めた全生産量の30%前後を、私ども1社で使っているということです。なぜ葡萄生産が減らないかとい

うと、りんごなどの果物は若い方など食べる習慣が減り生産も減少している中、私どもは農家から持ち込まれた

葡萄に関しては、全量買取りの契約をしているからです。ですから、安心して農家が葡萄を作っていただけると

いうのが大きな原因だと思います。それに反して、りんごは引き受ける加工業が少ないので、一般の方が食べな

くなった段階で栽培面積、収穫量等を落としているのです。加工業の重要さが農業にも影響していると思ってお

ります。 3.北海道で栽培される主要ブドウ品種、栽培方法 北海道で栽培されている主要な加工用葡萄品種は何かというと、ヨーロッパ系品種です。その中でもヨーロッ

パの北の産地の葡萄です。温度や積算温度の関係等があるのでドイツ系、オーストリア系、フランスでいうとブ

ルゴーニュとかアルザス、シャンパーニュ地方の葡萄が多くなります。白ですとミュラートゥルガウ、ケルナー、

リースリン、ゲヴュルツトラミーナ、シャルドネ、バッカス、赤だとツヴァゲルトレーベ、レンベルガー、メル

ロ、トロリンガー、ピノノワール、ドルンフェルダーです。アメリカ系品種といわれるのが、食べる葡萄で果物

屋さんに売られている葡萄です。これは名前にアメリカ北米大陸の地域の名前が付いている葡萄が多く、ナイヤ

ガラ、ポートランド、キャンベルアーリ、デラウェア等の葡萄です。その他に、フランス人のセイベルという方

が作ったフレンチハイブリッドといわれている品種があり、アメリカ系の品種とヨーロッパ系の品種を交配して

作ったといわれています。セイベル13053、セイベル9110、この他にも10076、5279というそれぞれの番号で

赤ワイン用、白ワイン用に分かれています。十勝ワインさんが造っている「清見」というワインはこのセイベル

13053というハイブリッドのものです。この良い苗を選抜していき、それを「清見」と名付けて品種登録してい

ます。その他に山葡萄系品種MHアムレンシスもありますが、これはマスカットハンブルグという葡萄とアムレ

ンシスの掛け合わせです。また朝鮮山葡萄という品種もあります。ヨーロッパ系品種は皮が薄くて搾りやすく、

食用のナイヤガラという食べる葡萄は皮がしっかりして皮の裏に果肉が付いているタイプの葡萄です。

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このケルナーというのは葡萄の垣根栽培です。余市などでは生食用の葡萄は棚栽培です。この垣根栽培の良い

所は、機械化が可能だということです。この垣根の高さは約2m、なぜ2mかというと、その高さまでの葉で葡

萄が十分熟し、栄養分が取れるからで、ドイツから学んだ技術です。これ以上高くなると、葡萄の方に養分が行

かないで枝が伸びるので、2mの所でカットして枝の成長を抑えます。本州では湿気の関係で、このように地面

に近いところだとカビ等の影響があるため、未だにワイン専用種でも棚栽培をやっているところが多々あります。

これはワイン用葡萄のピノノワールですが、同じピノノワールでもクローンにより種類の違うタイプがありま

す。小ぶりな身が締まっているタイプは、ブリュゴーニュタイプです。スイスクローンといわれていて少しバラ

房の葡萄が、北海道では栽培に適しているといわれています。いくら北海道は乾燥しているとはいえ、ヨーロッ

パと違い雨の影響で葡萄の粒にカビが生えることがあり、そこから腐ることがあります。しかし、バラ房だと風

通しが良くてカビが生えにくく北海道での栽培に適しているといわれております。北海道のワインメーカーが多

くなっていると話しましたが、ヴィンヤードだけの方も増えています。例えば、蘭越にある松原農園や栗沢にあ

る中澤ヴィンヤードはこういう新しい品種、松原さんについてはミュラートゥルガウが主ですが、新しい取組を

行なっている方が多くなっております。

ピノノワールピノノワールピノノワールピノノワール

ケルナーケルナーケルナーケルナー

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4.北海道ワイン株式会社の概要 ここから当社のことを中心に話して行きたいと思います。私どもの概要は創業が 1974 年ですが、この前に葡

萄畑は作り始めています。私どもの特徴は輸入原料を使用しない純国産ワインで、火入れをしない生ワインを生

産し、生産量は全国で6番目です。上位5社は大企業で、5番と6番の間が1桁違うほど離れています。会社を

挙げますと、メルシャンさん、サントリーさん、マンズさん、サッポロさん、アサヒさんの順で、大企業の下に

私どもは位置しております。年間で大体250万本ほど生産しておりますが、葡萄の収穫量が減ると生産量も減り

ます。道内32市町村にある300軒ほどの農家と契約栽培をし全道の約30%の葡萄を私どもがワインにしており

ます。製品のブランドとしては「おたる」「北海道」「鶴沼」「初しぼり」があります。 純国産の日本ワインでは、生産量は日本で1番です。2004 年に「料理王国」という雑誌の「日本ワイン列島」

という別冊に国産比率が書かれておりましたが、国産品 100%の会社は少数です。ある程度の規模があるのは私

どもと神戸ワインさん、長野の井筒さん等です。メルシャンさんが 100%と書いているのはメルシャンさんの勝

沼ワイナリーだけの数字で、他に神奈川県にワインの輸入原料を使った大きな瓶詰め工場があるので、それを含

めると全体の10%以下です。大手の国産比率はだいたいそのような状況です。

国内ワインメーカーの年間生産量、国産比率国内ワインメーカーの年間生産量、国産比率国内ワインメーカーの年間生産量、国産比率国内ワインメーカーの年間生産量、国産比率

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5.日本一の葡萄畑鶴沼自社農園

私どもの国産比率 100%の根本がこの鶴沼ワイナリー、現状は鶴沼ヴィンヤードというべきなのですが、将来

的にここで醸造も行ないたいという思いも込めて、ヴィンヤードではなく鶴沼ワイナリーという名前にしており

ます。ここの敷地面積が470ha、植裁面積が約120ha、先ほどお話しました長野県のワイン専用種の植栽面積が

107haなので、長野県のワイン専用種の植栽面積より、この鶴沼の畑1カ所の方が広いという規模です。 葡萄はただ植えればいいというものではなく、土地を選びます。北海道のこの場所の土地は粘土質が多く水は

けが良くないので、葡萄を植える前に堆肥をいろいろ入れます。私どもは年間6,000tの堆肥を作っており、葡萄

の絞り粕を主に使用しています。その他に、近所の農家の方が野菜のくずを持ってきてくれたり、ラーメン屋さ

んが豚骨の骨を持ってきてくれたりします。 後は、水はけのために葡萄を植える前に暗渠を入れます。水がたまると葡萄の根が地中深く伸びません。伸び

ないと地中のいろいろなミネラル分を葡萄が得られないので、コルゲート管やもみ殻を入れて、水が抜けやすい

葡萄農園の設計をしなければいけません。 植えてからですが、ウサギが多く葡萄の新芽を春先に食べてしまうため、その対策の為に葡萄を植えてからネ

ットを掛けています。特に、470haの敷地があると人が張り付いている訳にはいきません。動物との戦いは数年

前から始まっています。雪解けから夏にかけてネズミ、ウサギ、鹿が出てきます。動物に新芽や新梢を食べられ

てしまうとそこから伸びなくなります。秋になると狸が葡萄の実を食べに来ます。以前アライグマは居なかった

のですが、石狩川を渡り浦臼町まで来てしまい葡萄の実を食べ始めています。彼らも甘くないのは食べません。

本当に収穫直前の良いといころを食べます。鳥害についてもムクドリ等が来ますが、彼らも本当に熟したものし

か食べません。今年余市や他の産地で多かったのが蜂の害でしたが、蜂が多く食べるわけではありません。葡萄

の粒を突付くとそこから腐り始め、葡萄全体にひろがります。ただ現在一番大きい害は、鹿です。鹿の害をなん

とか考えていただきたいと思います。

6.収穫作業 葡萄の収穫ですが、雪の中での収穫することもあります。熟度を増す為に遅摘みをしていくと雪に降られるこ

とがあり、このような時は社員が雪の中でバケツを持って収穫します。浦臼町という若年者が少ない場所で、ど

のように社員を集めたかというと、即応予備自衛官制度を利用しています。1年に1カ月だけ自衛隊に訓練出動

してもらう制度です。畑では冬は主に機械整備だけなので冬に訓練出動してもらい、その他の間は畑で作業して

もらいます。退職した若い自衛官が多く、ほとんどが大型の免許を持っており、トラクターや自動収穫機の運転

は無難にこなします。今まで、即応予備自衛官に召集がかかったことは無かったのですが、今年3月 11 日に大

震災が起き初めて召集がかかり、2週間から3週間、11名が岩手県の方に災害派遣で行きました。 手作業だと 120ha の植栽面積の葡萄は管理できないので、ハーベスターという自動収穫機を導入しています。

フランスのブラウド社製で約3,000万円の機械です。これだけ広い畑は私どもしか持ってないので、未だに日本

では1台しかない機械です。この機械はハサミで房ごと採るのではなく、丸い葡萄の粒だけを落とす機械で、人

手なら一人1日500kgしか採れないものを1日30t収穫できます。この機械の良い所は、熟してない粒は落ちな

いところです。120ha の葡萄の熟期は、9 月下旬から 10 月の同じくらいの時期に熟すので、人手だけで収穫す

るとまだ葡萄が青い段階から採り始めないと全部良い状態で採れず、最後の方は熟しぎみになってしまいます。

この機械で収穫しますとテーブルワイン用であれば最適期に雨を避けて一気に収穫でき、夜中でも作業できます。

現在、テーブルワインはこの機械で管理をして、高級ワインに関しては人の手でもっと手を掛けて行なう方法に

なっています。私どもしかこの機械が無かったので、この機械の弱点も使用して初めて分かってきました。機械

が重すぎて、畑の地面を固めすぎて根に悪い影響を与えることです。ですから、自動収穫期を使った後は土起こ

しを必ずやるという経験則が出来てきました。

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7.北海道ワイン株式会社の評価 私どものワインは、金賞などいろいろな賞を、国産ワインコンクール等で現在まで126頂いております。また

ワイン業界初、食品産業技術功労賞を受賞、全国農林水産祭で内閣総理大臣賞、これは畑部門が頂いたものです。

他に海外のコンクールでは、香港で行なわれたワインコンベンションでナイヤガラが銅賞を頂いたことがありま

す。またケルナー種のワインは北海道・洞爺湖サミットで各国首脳に振る舞われました。 8.海外における販路拡大 私どもが他のワインメーカーと違うところは、海外に積極的に出ていることではないかと思います。ここ数年、

雨等の影響で葡萄の収穫が少なく国内需要だけで十分な状態ですが、今のうちに将来のことを考えルートだけも

作ろうと海外展開を図っております。当社は当初輸出の考えは一切無かったのですが、日本に滞在していたアジ

ア系の方にナイヤガラが良く飲

まれており、また他のワイン産

地では食べる葡萄からワインを

造らないこともあって、当社の

ナイヤガラというフルーティな

ワインが自分の国に帰国した方

に求められました。何処にも売

ってないので少し送って欲しい

ということから始まったのが実

際のところです。本格的に輸出

が始まったのは2002年12月で

すが、この時は韓国に1万本輸

出しました。2回目は時間をお

いて2年後に同じく1万本輸出

しました。その他の国では台湾

が続きました。当初は香港が1

番最初と考え、道庁の商談会に

参加したのですが、当時はまだ

酒税が高くて香港に輸出できま

せんでした。2008年香港がワイ

ンの酒税と関税を撤廃したおか

げで、香港市場にも入り始めま

した。その他ではマレーシアは

イスラム教が多いからワイン飲

まないのではないかと思われた

のですが、中国系の方は飲んで

いました。ですが私も現地に行

き、アルコールは少しまずいと

思いワインアイスを提案したと

ころ、アイスクリームを毎月注

文いただくようになりました。

当初はワインアイスだったので

すが、いつの間にかメロンアイ

ス等になりワインの輸出よりも

アイスクリームの輸出業務の方

がおおくなってきています。

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9.ターゲット やはりGDP の高いアジアの国です。なぜなら関税や酒税がかかると日本で 1,000 円のワインが、関税ゼロの

香港以外ではだいたい 3,000 円程度になってしまいます。例として申し上げますと、韓国の場合は関税が 15%、

酒税が 30%、教育税が 10%、プラス日本でいう消費税の付加価値税が 10%になると 1,000 円のワインが税金だ

けで1,808円になってしまいます。これには輸送コストや現地の流通マージン等が全然入っていないので、その

辺を含めると1,000円のワインがどうしても3,000円で売らざるを得ないということになります。どうしてもお

金の使える国民のところ以外は輸出してもなかなか売れないということで、シンガポール、香港、韓国、台湾、

マレーシアを考えています。中国は今、放射能の影響で日本からの加工品が全部輸入ストップしているので、今

年は輸出していません。タイも話がありましたが、洪水に見舞われてしまい12月の訪問予定が無くなりました。

今現在、シンガポールの量販店のチェーンと商談が進んでおり、来年シンガポールにもアイスクリームではなく

ワインが輸出できそうな段階にきています。香港ではそごう、サークルK等で販売しております。そごうさんに

関しては現地の輸入商社を通して

販売でしたが、サークルKさんは

直接香港のサークルKさんとの取

引で、商社は一切入らずに当社か

ら直接輸出し、大体日本と同じ価

格で販売することができました。

山梨県はどちらかというとEU圏

で甲州が品種登録されたというこ

とで、英国を主としたヨーロッパ

に輸出を目指している会社が多い

のですが、私どもはどちらかとい

うとアジアにナイヤガラだけを持

っていこうと考えています。なぜ

ナイヤガラかというと、競争が無

いのでそれに特化して輸出してい

ます。 10.北海道ブランドの海外展開 私どもの海外展開ですが、「おたる」というワインのラベルが、先方から「読めない」といわれております。せ

っかく北海道という名が良いブランドイメージを持たれているので、北海道に変えて欲しいということで、今経

済産業局関係の色々な施策を使い、ラベルを東京のデザイナーの方に作ってもらっているところです。私どもも

いろいろ補助金を利用させてもらいまして、このラベルに関しては北海道中小企業ファンド助成金助成事業市場

対応型製品開発支援事業に採択され、海外向けのラベルを今作ろうとしているところです。私どものお願いとし

ましては、北海道のブランドを道庁さんで大事にして頂きたいと思っております。海外に限らず、道外メーカー

でも安易に北海道というブランドを使っているところが多いのです。一度ブランドイメージを壊してしまうと、

回復するのは大変なので、ブランドイメージを良く考えて使っていただきたいと思います。また、「きらりっぷ」

も良いのですが、デザイン的に合わなかったりするので、その辺も考えていただきたいと思います。 11.知的財産戦略 海外に行くとなると、知財の関係をしっかりしておかなければなりません。私どもは、まず日本国内で特許、

実用新案を取得しています。例えば、発泡酒の特許なのですが、簡単に言うとワインとビールと白麹を同時発酵

させるという特許です。大手ビールメーカーが私どもの特許を利用しまして発売をしました。彼らも技術力があ

るので、私どもの特許を使って特許料を払いたくはないが、考え方を真似したのでロイヤリティという形で払っ

てくれました。私どもと開発した企業は紳士的でしたが、残念ながら製品はなかなか売れずに1年で終わりまし

た。海外での発泡酒の特許ですが、韓国、中国、アメリカで特許取得しております。ただどこも真似しようと思

っていない様子です。白麹を使えるところが少ないので、防衛のための特許申請です。商標と意匠に関しては国

内では商標権 170 件、意匠権7件、国外では香港と中国で取得しております。「鶴沼」「おたる」、あとは「北海

道」も商品ラベルがあるので申請したのですが、「北海道」は地名なのでどこが使っても良く、(商標権は)誰に

も取ることは出来ません。その代わり私どもも使って良いということです。「おたる」ですが「おたる」は地名と

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してではなく「おたる」ワインのラベルの形で商標(意匠権)を取りました。香港と中国で商標は既に頂いてお

ります。 12.農商工連携 私ども先ほど説明した通り葡萄を日本で1番多く使っております。ということはその葡萄残渣、搾った後の残

渣も日本で1番多く持っているということです。年間で葡萄の使用量が 2,000t から 2,500t だとすると、大体絞

り粕で400tから500t出てきます。これを今までは発酵させ堆肥として畑に撒いていただけなのですが、これで

何か作れないだろうかということで研究していたものです。例としてナイヤガラを使ったワインの製造方法です

が、まず葡萄を受け入れると除梗破砕をしてプレス機にかけして果汁とします。ここで第一段階の残渣として、

絞り粕、皮と種が出てきます。アルコール発酵した後、発酵を経て澱引きという作業をすると、発酵タンクの下

の方にワインの酵母とかの残渣が沈殿します。その両方を使って製品化してこうという研究をしております。葡

萄全体の重量の約2割が残渣として今までは畑に戻していたもので新規機能性食品を作ろうと考えています。残

渣に残された有効成分というのは何かというと、ワイン中に存在するポリフェノールが体に良いというのは大変

有名な話かと思いますが、実はこれがワイン製造残渣中にも多く存在します。プレス残渣というのは皮、種の方

で、こちらの方は葡萄の果皮や種子がほとんどですが、葡萄のポリフェノールはほとんどがこの皮と種に存在し

ています。ですからワインにした後でも、まだ抽出しきれていないポリフェノールはたくさん存在しています。

葡萄ポリフェノールの多くは数多く種類が存在しますが、代表的なものではリスベラトロール等があり、ほとん

どが抗酸化効能を有します。ポリフェノールの代表的な効果といたしましては、動脈硬化防止や脳梗塞防止作用

等の効果が期待できます。次にワインを澱引きした後のワインの澱です。ワイン澱と呼ばれる部分には、大量の

ワイン酵母が存在しております。ワイン澱の中には、そのワイン酵母由来のたんぱく質や植物繊維が大量に存在

しています。たんぱく質が多いということは、その構成成分であるアミノ酸も豊富であります。その効果は、基

礎代謝向上による疲労回復や植物繊維による整腸作用など、多くの効果が期待できるということです。

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13.製品化

私どもがどのような補助事業で事業を行なったかというと、最初に平成19年から20年にかけては、経産局さ

んの地域資源活用型研究開発事業を活用しました。ノーステック財団さんが管理法人となり、オンコレックス、

食加研と共同研究という形です。途中でオンコレックスさんが撤退したので、産総研さんに後で入っていただい

た事業です。平成 21 年には研究が終わった段階で、試作品開発等支援事業に採択され試作品まで作りました。

それがビネガードリンクです。平成 22 年度からは農商工連携事業に採択されて、発売する動きになっておりま

す。試作品として製造した機能性食品、顆粒タブレットは、絞り粕とワインの澱と両方から作っています。ワイ

ンビネガーを使った酢酸飲料に関しましては、ワイン酵母が入っているワイン澱から造ります。乳酸発酵飲料は

皮・種の絞り粕から作ります。ただこれだけでは弱いので、付加価値を付ける為にPPAR-γ活性化作用を測定

しました。このPPAR-γ活性化作用とはあまり聞き慣れない言葉ですが、簡単に言いますと皆さんの体の中に

あるPPAR-γと呼ばれる鍵穴にアゴニストと呼ばれる鍵が結合することで遺伝子に働きかけを行い、脂質代謝

や糖代謝を活性化させ、この作用によってメタボリックシンドロームの改善効果が期待できるのではないかとい

う作用です。PPAR-γが活性化することで抗糖尿病作用や抗動脈硬化作用、また抗腫瘍作用を得られるという

報告が多くなされています。今回私どもが行なったPPAR-γ活性測定についてですが、試作品自体にPPAR-

γ活性上昇作用があるかを測定したものです。試作品に活性があった場合でも、それを摂取することで直接体内

のPPAR-γが活性されるかどうかまでは測定が行なわれていません。摂取することで直接効果があるかはまだ

不明です。ただ実際に委託分析によって行なった結果では、ワインビネガー以外では活性が認められました。ワ

インビネガーについては、測定時のワインビネガーの濃度が1%を超えてしまうと試験に必要な細胞が死滅して

しまうため活性試験がうまく行きませんでした。しかし、ワインビネガーを飲みやすいように活用したワインビ

ネガードリンクでは活性が認められた為、私どもとしてはワインビネガー自体にも活性化能力があるのではない

かと推測しております。いろいろな市場調査もした段階で、ワインビネガードリンクが一番評価が高かったので

製品化しようという段階です。私ども活性化については、まだ摂取後の体内の反応を調べていないので、実際に

商品化する場合はこのPPAR-γ活性がありますと表記しないつもりです。ただ、このワインビネガーとワイン

ビネガードリンクなのですが、仮にPPAR-γ活性が無くても特徴がたくさんあります。通常のワインビネガー

は、白ワインビネガーや赤ワインビネガーぐらいしか分かれていないのですが、私どものワインビネガーに関し

ては品種、産地、生産者まで追うことができます。それは他には無いトレサビリティで、生の葡萄果汁を用いる

ことで今までの酢酸飲料には無い葡萄由来の新鮮な香りをワインビネガーで味わうことができると思っておりま

す。今後の計画としまして、ワインビネガー自体は自社で瓶詰めをして、ワインビネガードリンクについては委

託生産を行なっていくつもりです。道内で全部解決しょうと思ったのですが、委託瓶詰め先というのが道内に無

いのが問題となっています。今回は道内で瓶詰めを行なったのですが、実は1本あたり200円瓶詰め委託費がか

かりまして、市場調査で参考価格を聞くと皆さん200円から300円という回答なので、道内で委託すると製品化

できません。道外で、東海地区にたくさんこのような委託先があり、当社も東海地区の会社に委託しました。1

本あたり50円以内で瓶詰め製品化、ラベルまで貼ってもらえるので、そちらに委託することになると思います。

道内で私ども中小企業が委託生産できる先を作っていただけると、試験研究ばかりしているところは製品化にか

かる時間が短縮できると思います。是非その辺も宜しくお願いします。

14.ワインツーリズム ワインツーリズム自体は私どもの会社が行なっているのではなくて、ワインツーリズム推進協議会というとこ

ろで、作家の千石涼太郎さんが会長として活動しております。元々この組織自体は、開発局の方が声を掛けて組

織化したもので、他をすべてボランティアの民間が行なっているので、私どもの係わりは私どもの社員でありま

すシニアソムリエを事務局長として派遣しているだけです。他のワインメーカーだと人的にそれほど人は出せな

いので、当社がボランティアで事務局長を出している状態です。この組織の問題は、運営主体がはっきりしない

ということです。開発局さんも官から民へ委託するというのです。しかも、予算の出所が無いのが一番困ります。

ここの良いところはオブザーバー参加で入っていただいた自治体で積極的に利用しようとするところが出てき

たことです。札幌市もとりあえず入っていただきました。平成21年度は少なかったオブザーバーも、22年度に

は数多くの自治体、団体に参加して頂いており、ツーリズムに参加したお客様は大変喜んでいる様子です。バス

で色々な所を回ると、車で行くと飲めない全部のワインを試飲できて、ワインの違いが判るし、畑まで足を入れ

ることになっているのでワイン用葡萄作りに詳しくなっていただける。私どもにとっても、訪問した畑のワイン

に関しては愛着を持っていただき、今後も買って頂けるのではないかと思っております。参加している市町村で

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一番活動しているのは滝川市と上砂川町で、積極的に動いていただいています。他のところは一応名前だけ入っ

ていただいているという感じです。滝川市の特徴は、市が音頭を取って食事をするレストランを公募してくれて

マップ化し参加者が市内のレストランを選択し、そこで地域の食材とワインを出してくれるということを始めた

ことです。上砂川は、炭鉱の町でしかなかったところに椎茸栽培がかなり良くなってきた。しかし、キノコとい

うと愛別が有名なので、上砂川を有名にするにはどうしたら良いかということで、ワインツーリズムの方に相談

があり、滝川のレストランでワインに合う椎茸料理を作ってもらうことにしました。椎茸をワインツーリズムに

参加した方にアピールしたいということで行なったのが、今年の3月5日滝川の petit Lapin というレストラン

で椎茸料理と道産ワインのマリアージュを楽しむイベントを開催したことです。私どものワインに合わせた椎茸

料理を食べて頂いて、上砂川が椎茸の産地であるというのを、ブロガーも多いワインツーリズムの参加者に知っ

ていただいています。一般論としてワインツーリズムでワインとのマリアージュというとチ-ズが合うのではな

いかと思う方が多いのですが、チーズ以外にもこういう色々な食材と合わせて、プロが料理をすると違ったもの

も主役になれるのではないか、ワインを核として色々な地域興しが可能ではないかと思っております。

15.意見交換 (質問)

ワインの海外輸出の関係なのですが、東南アジア、アジアの方で受けている理由は、やはりナイヤガラという

珍しいヨーロッパとは違うというところが特に受けているのでしょうか、そこに北海道ブランドというのが受け

ているという要素はあるのでしょうか。 (嶌村代表取締役)

ナイヤガラが受けているのだと思います。他のワインも持って行くのですが、他はあまり興味を示さないです。

日本がワイン産地というイメージを彼らは持ってないので、わざわざ関税の高い日本から買う必要が無いと思っ

ているのです。ナイヤガラだけは他に無いからということみたいです。それを売るために北海道というブランド

をもっと付けてくれというのが先方の意向です。

(質問)

今年特になのかもしれないのですけども、葡萄の量がそれほど十分ではなくて輸出はまだこれからということ

もあるということですが、今後拡大して行こうとした時に、葡萄の量というのをどのように確保していくお考え

ですか。

(嶌村代表取締役) 北海道の葡萄に限らず葡萄は植えてすぐ収穫できるものではないのです。植えてから約3年後に収穫なのです。

最初の1、2年は根の方を育てないとなかなか良い葡萄が育たないので、実が成っても落としていかなければな

らない。その代わり、1回植えると20年ぐらいは収穫できます。フランスだと50年とか、そういう樹もあるの

ですが、北海道の場合どうしても積雪の関係で樹が傷んでくるので、20年から30年サイクルで植え替えをした

方が安定した収量が採れます。改植については計画的にやるしかないのですが、今年なぜ少なかったたかといい

ますと、春先の葡萄の開花時に雨が多く、開花時に雨が降るとなかなか実が付かないということがあります。秋

の収穫時にも、9月雨が多かったのは皆さんもお分かりだと思うのですが、その影響があり水脹れしたりするの

で、それを落としたりすると収穫量が落ちてくるのです。ですから品種によっては多い品種もありますし、開花

時、雨に当たった品種に関してはとても少ない。ナイヤガラについては影響は少なかったのですが、ワイン専用

種が今年影響を受けたという感じです。現在は食用葡萄品種に関しては農協さんが集めて私どもに持って来てい

るのですが、そうなると市場の値段と見比べて持って来ない場合もあります。そこで当社ワイン用の葡萄出荷組

合みたいのを作っていかなければならない、そこに関しては農協さんより高く買うとか色々な対策を施し、さら

に新規就農も促していきたいと思っております。

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第6回有識者ヒアリング 平成23年12月13日(火)

(第一講演)「農業とものづくり」

株式会社エフ・イー 代表取締役社長 佐々木 通彦氏

(第二講演)「若年産業人材育成と就業支援の現状と課題」

キャリアバンク株式会社 取締役 人材開発事業部長 益山 健一 氏

(第一講演)

「農業とものづくり」

株式会社エフ・イー 代表取締役社長 佐々木 通彦氏

講演要旨

・1年を通じて国内のどこかで生産されているダイコンに着目。ダイコン洗浄機で全国区を目指し、会社自体の

全国区も目指した。

・会社が成長することで社員の意識が高まる。これにより会社がさらに成長するという相乗効果を感じる。

・ダイコン洗浄機によりダイコンに付加価値がつき、地域が生食用ダイコンの一大ブランド産地へ変わった。

・ダイコン洗浄機の技術を応用し、ニーズに合った機械を製作。海外市場へも販路を拡大。

・北海道へ食品加工会社等の企業を積極的に呼び込み、その企業とかかわる地元の企業に経験をさせてほしい。

北海道においては農業が産業の中心、食品加工という分野は北海道の農業においても機械産業においても絶対

外せないもの。

1.会社の概要

株式会社エフ・イーは、旭川市にあり農業機械の製造にかかわっています。資本金 1,500 万円で、昭和 34 年

に父が設立しておりまして、平成3年8月に社名及び組織変更しています。ちょうど今から 20 年前です。友人

の会社、甲斐鉄工と佐々木鉄工を統合しました。二つの会社を一つにしたことによって、1+1は2ではなくて、

3にでも4にでもなる可能性があるということも感じ取っています。社名のエフ・イーは元素記号の鉄(Fe)で

す。お客さんはこの名前を一度理解すると、株式会社鉄だとか、エフ・イーだとかといって、覚えていただける

社名です。原点から、鉄工所という、ものを作っていこうという考え方で元素記号を社名にしました。

営業品目は次の通りです。農業関連として、各種根菜類洗浄選別梱包施設、予冷設備(予冷庫)、カーダンパー

を手掛けています。環境関連として、有機性廃棄物処理装置(アースパワー)、脱臭装置、集塵装置、車載型ろ材

洗浄選別装置を手掛けています。製缶関連として、圧力容器、各種製缶加工を手掛けています。

2.洗浄選別機の開発

北海道というのは農業の土地です。旭川は米どころと言われますが、周辺のまちを見ると、ダイコンがある、

イモがある、カボチャがある、こういった地域に位置しています。私自身、サラリーマン時代に農業機械に携わ

りましたので、これを稼業にしていこうと思いました。まず初めは、旭川の隣まちの東川町、富良野、上川とい

ったようなところの農家の方の仕事をしていました。ただ、そういった北海道を中心とした展開では、夏場は忙

しいが、冬場は仕事がありません。結局、夏、一生懸命働いて蓄えたものを、冬に全部吐き出してしまいます。

それで、どうしたら全国区になれるのだろう、どうしたら1年を通じて仕事ができるのだろうと考えました。

私が経験している中で、1年中、国内のどこかで生産している農産物は何なのか、これを調査しました。結局、

それはダイコンでした。北海道で生活していると、この時期は雪になります。ダイコンはもう畑にはなっていま

せん。なっていても雪の下なのです。

北海道で1月、2月のダイコンというのは、どこ産のダイコンを食べているか知っていますか。スーパーへ行

って見てみると、千葉産とか、関東なのです。関東は、実は冬の農産物の産地です。ダイコンに限らず、ニンジ

ンもあります。大阪までいくと、大阪の人間はどこのダイコンを食べているのか。長崎、鹿児島など、九州です。

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ダイコンの産地は全国にあります。また、ダイコンは、重たくて腐りやすく、輸入のメリットがない農産物で

す。私たちは、地域に育てられたダイコン洗浄機を持っていました。このダイコン洗浄機を全国区にすることで、

会社も全国区になると考えました。

次に、他と差別化するためにどうしたらいいかを考えました。その際、私たちはダイコンの葉に目をつけまし

た。北海道生まれの私たちはダイコンの葉を食べたことがあると思いますが、都会の人はダイコンの葉は食べら

れるのと聞きます。スーパーに行ったら、ダイコンの葉は5センチぐらいしかついておらず、あとは捨てていま

す。あれは、洗浄機屋の都合です。結局、大量に洗浄するときに、葉っぱをつけていたら邪魔なのです。

ダイコンをブラシで洗うというのは、皆さん見たことあると思います。常識ですが、ブラシがあたるとブラシ

傷がつきます。ダイコンは腐りやすい農産物です。ブラシ傷がついたダイコンは、スーパーの店頭に並んでいる

間に黄色く変色してしまいます。従って、肌に傷をつけないことが必要になります。

そして、葉をつけたまま洗える機械を作ったら、エフ・イーは全国区になれる、そう考えました。機械はうま

くできました。私どもの機械はダイコンにブラシがあたらない、「水の膜」で洗う構造になっています。そして、

葉っぱを傷つけず、折らないで洗える機械を作りました。完成した機械は、非常にシンプルな、誰でも真似でき

る、そんなような機械です。ただ、この機械は、2種類のパテントを持っています。

このダイコン洗浄機は、2011年7月10日の「夢の扉+」で全国放送されました。放送後には多くの反響をい

ただきました。干しブドウを洗いたい、キノコを洗いたい、タケノコを洗いたいなど。韓国や中国からも連絡を

受けました。

3.ダイコン洗浄機の販売

このように、ダイコン洗浄機の開発に成功したわけですが、従業員25名の会社です。当時はまだ18名の会社

でした。どうやって営業しようかと思ったのですが、すごいものです。実は、この機械を作って、道内、それか

ら青森県に、数カ所入れました。そうすると、まず青森の農家さんが東京の市場に出荷していました。東京の市

場で、青森からすごくきれいなダイコンが入ったとうわさになりました。それが市場から北海道の生産者に連絡

が行ったのです。すると、北海道の生産者は、青森に負けてたまるかということで、東京の市場までそのダイコ

ンを見に行きました。ダイコンには、箱には出荷者名が書いてあり、だれが出したダイコンかわかります。です

から、帰りに青森に寄って、その農家に行ってきた。機械を見たら、エフ・イーじゃないか。帰ってきてすぐ、

「おたくの洗浄機を見た」、うちにも入れたほしい。そのような経緯で、北海道でも、十勝、上川、いろいろな産

地の、ダイコン生産者グループがこの洗浄機を買ってくれました。

また、このような話もあります。山口県や福岡県の農家から連絡が入るのです。「おたくの洗浄機、種屋の先生

から、いい洗浄機があるということで聞いたんだけれど、カタログを送ってくれないか」。種屋の先生とのつき合

いはありませんでした。種屋さんの先生というのは、実は種屋さんの営業部長だったのですが、その産地に行っ

て、土を見て、「この畑はこの品種のダイコンがいいですよ」とか、「肥料はこういうのがいいですよ」という指

導をして歩いているのです。早い話が、農家の方から見れば神様です。その神様が、「いいダイコン洗浄機がある」

と言ってくれていたのです。その神様は、北海道でエフ・イーの機械を見ていたのですね。

このダイコン洗浄機の販売を始めてから1年半後ぐらいに、その種屋さんの営業部長さんと会いました。「理想

的な洗浄機だ」と言ってくれました。他社の洗浄機は、洗浄する前に1度、水で潤かしてから機械に入れていま

した。そうした方が土がやわらかくなって落としやすいからなのです。エフ・イーの機械は、「ダイコンに泥がつ

いたものを直接機械に入れてください、構いません」という機械です。

このような経緯で、ちっぽけな旭川の鉄工所が作ったダイコン洗浄機が、どんどんどんどん全国に売れていき

ました。この売れたことによって、グァバの葉を枝からとりたいだとか、干しブドウを洗いたいとか、キノコを

洗いたい、タケノコの皮をむきたい、アロエの葉を洗いたい、リンゴの腐敗部分だけをとりたい、タケノコを洗

いたい、サツマイモの皮をとりたいという声が寄せられ、何でもできる会社だと思われてしまいました。

若いときは、「ちょっとやってみますか」と言ったのですが、今は、例えば干しブドウを洗いたいって、どのぐ

らい開発に投資して、マーケティングし、ニーズがあるかを考えてから行動しています。

平成元年頃からの機械の納入先ですが、初めは大体北海道で、青森が若干ある程度でした。平成 11 年に鹿児

島が出てきました。平成 16 年頃になると、岩手、千葉など、北海道内と道外とが半々ぐらいになりました。平

成18年になると、北海道内より道外への納入が多くなりました。おかげさまで今では全国、そして韓国、中国、

台湾といった海外を市場として動いています。

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4.メーカーとしての取組

全国区になって1年を通じた受注が可能になりました。全国区になったことによって、洗浄機、この分野では

結構メジャーな会社になりました。どんなに小さな鉄工所でも、メーカーとして全国に販売したら、取扱説明書

をきちっと整備しなければなりません。今は、コンプライアンスの問題もあります。使い方が悪いから壊れると

いうこともありますから、取扱説明書を作らなければなりません。ただ、技術屋は国語を勉強していません。で

すから、社員への国語などの意識付けをすることに苦労しました。今は、新しく開発した機械に取扱説明書を付

けることも容易にできるようになりましたが、取扱説明書の整備ということが大変でした。

全国区になり、社長がテレビに出て好きなことを言うと、周囲から「この間、テレビ見たよ」「社長が出ていた

ね、すごいね」、と言われます。このことは社員の意識を高めます。意識が高まってくると、勉強します。そうい

った相乗効果が表れてくるという感じがします。

私は、きのう、鹿児島から戻ってきました。先週の水曜日に九州の熊本に入って、宮崎、鹿児島を回って戻っ

てきたのですが、どこに行っていたかというと販売代理店です。今、全国に販売代理店があります。従業員 25

名の会社が全国で商売をするためには、代理店さんの力を借りる、メンテナンスを代理店さんにお願いするとい

うことが必要です。そこで、まず全国に代理店を作ったわけです。

エフ・イーは 25 名の会社です。その仕事には、旭川の機械金属業界、鉄工所、仲間たちがエフ・イーの機械

作りに協力してくれています。ですから、エフ・イーの機械は、エフ・イーの機械というよりも、メイドイン旭

川の機械だというほうが間違いないと思います。

当社のカタログ表紙には、Simple is Bestと書いています。機械は、難しくすればするほど高価なものになり

ます。また、難しくすればするほど壊れたら直しにくいものです。私みたいなちっぽけな会社が全国で商売する

ときに、何が必要かというと、Simple is Bestなのです。お客さんが満足するということが第一です。万が一壊

機械が壊れても、お客さんが直せるものを作ります。農家さんが直せるような機械に仕上げること、それが当社

の実践しているものづくりです。例えば、ダイコン洗浄機も、ブラシ交換をしないで済むようにしました。毎日

20 トン、30 トンのダイコンを洗っていると、他社のダイコン洗浄機は1年に1回のブラシ交換が必要になって

きます。当社の洗浄機は10年間、ブラシを交換しないで使われています。

5.産地創り

「夢の扉+」の中で、産地までつくってしまったという話がありましたが、その話をしましょう。ある地域で

ダイコンを作っていた方がいましたが、生産したダイコンは全部セブンイレブンのおでんになっていました。つ

まりダイコンを作って、土がついたままセブンイレブンの工場に入れていたのです。そうすると、ダイコン1本

20 円で買ってくれます。しかしその方には強い思いがありました。それは、「鹿児島(大隅半島)を生食用のダ

イコンの産地にしたい」というものでした。そこで、エフ・イーのダイコン洗浄機を入れたのですが、市場にダ

イコンを出すことによって、1本20円のダイコンが80円で売れるようになりました。次第に周囲の農家も機械

を導入し、今では、冬場のダイコンの一大ブランド産地になっています。

それまで、ダイコンを作る技術は持っていましたが、外に向けて発信することを知らなかったのです。ある若

者が洗浄機を使ってきれいに洗い、市場に出したら評価されました。それがきっかけで地域が変わったのです。

機械が産地をつくったといえるでしょう。

6.技術の応用

今、鹿児島県は芋焼酎が有名です。コガネセンガンの洗浄機、つまり焼酎用のサツマイモの洗浄機も作ってい

ます。北海道にいて経験できる農産物ではありませんが、全国区になったことによって、北海道にいながらそう

いった洗浄機も手掛けています。

また、最近多いのが、漬け物の洗浄機です。例えば「たくあん」は、ダイコンを土がついたまま塩漬けして、

それを引き上げて、塩分を抜いて「たくあん」として販売しています。宮崎県、鹿児島県へ行くと漬け物屋さん

がたくさんあります。私から見れば、こんな原始的な機械で今まで洗っていたのかと思いました。そこで、「こう

して洗ったほうがいいですよ」と提案し、塩漬けダイコンの洗浄機、干しダイコンの洗浄機なども販売していま

す。

「洗浄」したら、次に必ず必要なのは「選別」です。ダイコンの選別機、ニンジン、イモ、カボチャといった

野菜の選別機の分野も手掛けています。また面白いことに、イモとミカンは大体大きさが同じです。これらの選

別は、画像処理で大きさを分けて行いますが、イモの技術がそのままミカンに、逆にミカンの技術がそのままイ

モに活きるということで、静岡の会社と果実、カキ、ミカンの選別機をOEMで作っています。

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「選別」の次は「加工」機械かなと思っています。例えば、去年、今年はイモが非常に不作ですが、Sサイズ、

ピンポン玉かそれより少し大きいイモは規格外になります。このイモは、仮に生食で売られてもむきづらいです。

そのようなイモの皮をむいてあげることによって付加価値が付くのではないかということで、イモの皮むきなど

の食品加工機械等にも分野を伸ばしています。

また、ナガイモ洗浄機も作っています。これもダイコン洗浄機と理屈は同じですが、大きな違いが一つありま

す。ナガイモには、縮れたひげ根が付いています。縮れたひげ根がブラシの間に挟まると、ブラシ自体の弾力性

がなくなり、ナガイモの肌を傷つけます。そこで、ナガイモ洗浄機には、ブラシクリーナーを付けました。ナガ

イモに傷をつけないで、きれいに洗っていく、ここにも、ダイコン洗浄機と同じパテントが活きています。

その他には、ニンジン洗浄機、選別機もあります。

「夢の扉+」を見たミニキャロットの種屋さんから、「ミニキャロットの洗浄機はないか」と相談されました。

当社の「薄むき名人」できれいに仕上げることができました。これをきっかけに、その種屋さんは、種を売りな

がら当社の洗浄機を営業しています。その他、ショウガやゴボウの洗浄機も作っています。

また、収穫の際などに使うミニコンテナは、きれいに洗浄しなければ、ここに病原菌が付着します。このよう

なミニコンテナの洗浄機なども作っています。

7.海外販路

ドイツのハノーバで行われましたAGRITECHNICAにもジャガイモの皮むき機を出展しましたが。会場では、

東洋農機さんなど我々の仲間の会社や世界各地から出展されていました。海外メーカーの機械はスケールが全く

違いました。当社の皮むき機を見て、「こんな発想で皮をむく機械は初めて見た。しかし、こんなものでは話にな

らん。これの10倍ぐらいの機械を持ってこい」という話をされました。東洋農機さんにしてもどこにしても、「こ

んな小さな機械では」と同じ話をされます。AGRITECHNICA で感じたのは、海外の機械は確かに大きな機械

でスケールが大きい、しかし、日本のものと比べたら大雑把だということです。日本では、イモを収穫する際、

なるべく打撲を減らし傷つけずに収穫することを考えますが、海外では「根こそぎ持ってきてしまえ」というよ

うな機械が使われます。

その他、北海道農業機械工業会の一員として台湾や韓国での国際農業展にも出展しています。台湾はショウガ

の産地です。現在、ショウガの洗浄機について台湾からの引き合いも結構来ています。上海でも展示会で紹介し

ました。中国では、こちらからものを売るより、中国からものを買えという話のほうが実は多いです。

韓国の江原道、京畿道、済州、安東からは、ダイコン洗浄機、ナガイモ洗浄機などの引き合いが来ています。

8.産学連携

旭川の東海大学とプロジェクトを立ち上げて、例えばチェーンケースなどのデザインという視点で、例えば作

業する方の目が疲れない色彩の研究を取り入れたもの作りをしています。

また、生ごみ処理について、北海道大学やホクレンさんと取り組んでいます。10年前の話ですが、300トンの

生ごみを半年間入れ続けて、生ごみを微生物で分解して、95.5%まで生ごみはなくすことができました。ただし、

現在、この生ごみを肥料として使う場合、何を入れたかということをきちっと明確にして、分析までしなければ

ならないという飼料法制定もあり、この点が問題となっています。農業機械に関わる会社として中途半端なもの

を肥料とはいえませんので肥料化のこの取組は行っていません。しかし、例えば小型機で生ごみを分解し、出来

上がった肥料をその施設の花壇にまくといった使われ方であれば活かされるものです。

ジャガイモの空洞検査において内部品質の検査が出来ないかということで、旭川高専と近赤外線を使った研究

を進めています。

9.北海道野菜生産者懇話会

年に1回、2月に、旭川で当社が主催した北海道野菜生産者懇談会を開いています。100 軒ぐらいの農家の方

が来てくれます。このようなネットワークを作り、農業者がこれからの自立を図っていく上での、いろいろな情

報交換の場を提供しています。懇話会には中央農試の先生、上川農試の先生、また、種屋さんの先生などに来て

いただきます。

10.コロッケ屋の取組

薄く皮を残したイモを使ったコロッケ屋を作ってみたりもしています。儲かってはいませんが、非常に喜ばれ

ています。何とか旭川のまちおこしにならないかと思い、このような取組も行っています。

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11.意見交換

(質問者)

特許などをとられていて、すばらしい発明を相当されていると思いますが、発明はグループで発想されるのか、

社長御自身で発想されるのか、発明に至った経過を教えて頂きたいと思います。

(佐々木代表取締役)

洗浄機の話をしますと、洗浄機というのは経験値に基づいています。ブラシの先に水の玉をためる、これは、

下に水槽を作って、その水槽にブラシを半分つけて回転させることでできます。以前このような洗浄機を作って

いましたが、実際に泥がついたダイコンを走らせると、水槽に泥が落ち、ブラシが泥水をかき揚げてしまうため、

ダイコンは泥水で傷ついてしまいます。ブラシに保水させるためにはどうしたらいいか、私が経験してきたブラ

シの性質やブラシの応用の仕方がここにいかされてきたということになります。私は、経験値を未知な部分とし

てとらえて、日々開発しています。

お客様が商売のヒントをくれます。お客様と話し合う中で、こういったところが困っているとか、こうした方

が良いのではないかという話をいただけます。私は、社長でありながら一営業マンのつもりで、月のうち 20 日

くらい、全国を飛んで歩いています。コミュニケーションが大切だと思います。今までの技術屋は、技術がよけ

れば仕事が入ってきました。いい腕を持っていれば仕事は入ってきました。今は、いい技術を如何に発信してい

くか、いい技術を如何に時代に合った形にしていくか、このようなことが必要だと思います。

(質問者)

海外展開、例えばドイツの展示会への出展は、ブランド化事業の経済産業局関係の補助金だったと思いますが、

北海道の農業機械を海外展開していくにあたって、ブランド化というものをどのようにして進めたらよいか、お

考えをお教えいただければと思います。

(佐々木代表取締役)

日本の機械はすごく繊細だと思います。選別機でいえばその精度、皮むき機でいえば繊細さというものが日本

の売りと思います。ただし、これは日本が厳しい基準の中で商売しているからだと思います。ヨーロッパやアメ

リカは、結局のところ大雑把です。大雑把なだけに、大量処理という発想が見られます。

TPPの問題が聞かれます。確かに農業者としては厳しい話を強いられていますが、今度は海外に向けて仕掛け

を作っていくという中で、海外基準を視野に入れて機械の開発をしていかなければならないのだろうと考えてい

ます。今までの日本基準のように非常に繊細な基準にこだわっていたら、恐らく海外市場には対抗できないでし

ょう。コストばかり高くなってしまい、あまりにもこだわり過ぎてしまっているのかなと感じます。

私の仕事がなぜ発生するのか。30年前から洗浄という仕事をさせてもらっていますが、結局のところ産地の土

を消費地に持ち込むなということです。北海道の土を大消費地である東京に持ち込んだら、東京の環境負荷がど

うなるのか。今、韓国ではソウル、台湾では台北が10年前、20年前の日本の流通を追いかけています。私の仕

事は、今、アジアで通用するということです。ただし、日本の基準や規格をただ単に韓国や台湾にぶつけても通

用しません。例えば、彼らは土を持ち込まなければ、単に洗われていればいいということなのです。我々は、そ

ういったことを情報としてとらえる必要があります。道や経済産業省から「今、海外はこうだよ」といった情報

もほしいところです。如何に情報を先取りした中で、それに見合った開発をしていくかということが重要だと思

っています。

(質問者)

道としてはこれから、食品関連機械を何とかしていきたいと方向ですが、社長としては食品関連機械のどのよ

うなところに期待値を置かれているのか、あるいは、北海道全体の機械産業で見た場合にどういうような期待が

できるのか、お話をいただければありがたいと思います。

(佐々木代表取締役)

私のやっている仕事は、原材料、土のついた野菜を洗って選別するという、正直に申し上げれば良いものと悪

いものとを差別している仕事です。結局、今の仕事の中心は、規格外というものを作ってしまう仕事です。規格

外になったものに付加価値を求めていかなければならないだろうと考えています。そうしますと、結局、食品加

工機械につながっていくと思うのです。例えば、イモの皮むき機は、農家の人が、「社長、この小さなイモが金に

なったら、我々もうかるんだ」と言うわけです。どうすればいいのかと話をしてみると「皮をむいてくれればい

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い」と話をされる。そこで作ったのがイモの皮むき機でした。

来年、旭川にヤマザキという食品加工会社が進出してきます。セブンイレブンのポテトサラダやゴボウサラダ

などパッケージングされた惣菜を作っている会社です。我々はその工場の機械の 24 時間メンテナンスを担当す

る予定です。これはチャンスだと思っています。食品加工分野に入り込んでいく中で、HACCPの問題やいろい

ろ法的な問題もありますが、まず最低限、食品加工会社のルールや機械の仕組みを学ぶことが出来ます。我々が

今まで経験したものでもできる部分はたくさんあるのです。チャンスを活かして我々ができる部分に取り組んで

いきます。

また、経験はないが、何とかなるだろうと思って飛び込んでいくという部分もあると思います。旭川市が一生

懸命努力して食品加工会社の誘致に成功し、地元企業がそこにかかわるチャンスをいただけました。道としても

積極的に企業を呼び込んで、そこにかかわっていく企業にいろいろと情報を発信していかなければならないでし

ょう。まずは呼び込んでいただきたい、そして我々に経験させてほしいというのが私の願いです。北海道におい

て農業が産業の中心となっていく意味では、加工という分野は絶対外せないと思います。

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(第二講演)

「若年産業人材育成と就業支援の現状と課題」

キャリアバンク株式会社 取締役 人材開発事業部長 益山 健一 氏

講演要旨

・人材育成と企業のコンサルティングによるマッチングを展開。スキルチェンジをはかり、雇用吸収力のある産

業へ人材を送り込む。

・就労支援機関としてスタッフが真のプロフェッショナルになる。ハローワークとの違いをどのように打ち出す

かは、ジョブカフェに課せられた大きな課題。

・就労支援機関として目に見えないサービス系のノウハウを、北海道のため、水平展開していく必要がある。

・オーダーメイド、一人一人の求職者に対応した就業支援体制を作っていかなければならない。

・消極的な地元志向、札幌集中、大企業、公務員志向が強い。中堅、中小の力のある企業にはなかなか就職しな

い。従って、ミスマッチが多いという状況にある。企業環境、求職者並びに学校環境を踏まえ、最適な就労支

援環境、人材育成環境を整備する必要がある。

1.はじめに

私は、ジョブカフェ北海道並びにジョブサロン北海道に常駐し、人材育成を行っています。きょうは特に北海

道における若年産業人材の育成の現状、就業支援の現状、課題について、説明させていただきます。

2011年は、私どもにとって恐らく一生忘れられない1年になると思っています。東北地方を中心に襲った大震

災により多くの方の命が失われました。また、震災によって失業される方が出る、学校に通えない方が出るとい

う環境から、人材育成、就業支援は、ちょうど見直されている最中にあります。

2.ジョブカフェの概要

ジョブカフェは、ハローワークに類似した、セミナーやカウンセリングを通じての就職のサポートをするとい

うような施設ですが、打ち出しや雰囲気を非常にやわらかくしているのが特徴です。ジョブカフェの施設は、札

幌を始めとして5拠点あり、12名のカウンセラーや企業の求人開拓、企業向けコンサルティング、学校向けのサ

ポート要員など、約40名で運営しています。

労働力人口の減少や高齢社会の到来、これによって会社がどういう年齢構成になるかというある意味での市場

予測は、非常に明確でわかりやすいものです。しかし、求職者がどのような人や企業と相性が合うか、企業はど

んな人がほしいかなどのことは非常に曖昧模糊としており、労働市場ではミスマッチが頻発しています。私ども

は、このミスマッチを解消するために日常的に業務を行っています。いろいろな方がいらっしゃいますので、就

職をサポートする人間なども苦労しているという実態があります。私どもは、曖昧模糊とした労働市場をシンプ

ルにわかりやすく切り分けて考えています。

ジョブカフェでは、当然ながら最先端の理論ですとか実践をしていくという情報を収集するのはもちろん、サ

ービスをしている機関なのだということを職員に分かってもらおうと考えています。職員がこれをはき違えてし

まうと、社会的弱者である、就労支援を受けなければいけない求職者に対して、非常に上から目線のもの言いを

したり、乱暴な就職のマッチングなどをしたりしてしまい、就労の改善になりません。

求職者の自立がキーワードになっています。ある程度の距離を置きながら、成長を見定めた上で就職のサポー

トをしていくことにサービスの特徴を置いています。

3.ジョブカフェの特徴

ジョブカフェの特徴の一つ目は、お客様に対するメッセージの発信を、「ワカル仕事」、「カワル自分」というこ

とで訴えています。ジョブカフェに来所する方の傾向として、仕事の内容をそもそも分かっていない方が約6割、

「就職活動を開始するときに、先生に言われたからこの企業に入った」とか、「一たん入ったのだけれども、自分

に合った仕事がわからなくなってしまった」ということで、ジョブカフェに来られる方が全体の4割になってい

ます。加えて、20歳から24歳までという高校や大学、場合によっては中学校等を卒業されて、3年以内に離職

をする方の割合は七五三現象と言われ、70%、50%、30%となっていますが、そのような方が全体の4割を占め

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ています。環境で打ち砕かれたがもう1回頑張りたいという方へのケアもしなければならないと考えているとこ

ろです。

サービスの実施例を幾つか説明しますが、これらのサービスにほとんどお金をかけていません。まず、一昨年

から女性専用シートを設けています。これによって、女性の利用者も増えています。

独自で求人情報を持っています。「ジョブカフェは39歳までの方で利用の制限をしていますよ」と打ち出して

いますので、独自で求人を出してもいいという方、企業様の情報も扱っています。ただし、職業紹介は行ってい

ませんので、この辺りは私どもにとってジレンマでもあります。

サービスのメニューは温かいおもてなしの気持ちを出すため、レストランを見習って全て手書きにして表示し

ています。看板も随時、旬によって変えています。

就職が決まった方には、ジョブカフェの OB、OG が同じ会社で働いているということがよくありますので、

メッセージを残してもらい、利用者のモチベーションを高めてもらう取り組みもしています。

情報が氾濫しています。そのため、情報に対して誤解釈がある方々が見受けられます。利用者の約75%は、先

に辞めてしまってからジョブカフェを訪れます。転職先が決まってから辞めるのではなく、先に辞めて就職活動

をしています。長期の就職活動になり、大変厳しい状況になっています。

大学4年生などでは、1年間毎日一生懸命スーツを着て就職活動している方もいます。そういった方々に対す

るメンタル面のケアも必要になっているという環境下にあります。残念なことに、我々が見ても、基礎学力が欠

如している方も相当数いらっしゃいます。特に、手書きの文字が小学生と同じぐらい汚い、履歴書を手書きで書

いたら受からないぞという方もいらっしゃいます。このような方には、ボールペン字セミナーなどもさせていた

だきながら、本来であれば違ったところで行うセミナーも行っているという環境にあります。

4.サポート役としての課題

私どもは、サポート役ですが、どのような課題があるか、3点挙げてみたいと思います。

第一に、変化に対する無反応という問題があります。私どもは常に施設を開けていますので、そこに来られる

方を一生懸命ケアしていく、それだけに追われてしまいます。そうすると、労働環境がどのように変わっている

か全くわからず、雇用吸収力のある産業を見落としてしまっていたり、利用者の意向をそのまま受けた上で受か

りもしないような業界、企業に対して応募を繰り返させたりします。感度不足の職員、スタッフがいますので、

職員、スタッフに対する教育が必要になります。

第二に、カウンセラー職については、労働者に対するサポートをするという立ち位置で、もともと資格の取得

がなされていますが、企業の情報を全くとらないというような職員もいます。意欲があって、企業にも出向き、

自分で教育を受けてカウンセラーの資格を取るような、バランス感覚のある方がカウンセラーの仕事に最も向い

ています。曖昧模糊とした就労環境をいち早く理解し、バランス感覚にたけていることが業務をする上で一番重

要となります。

第三に、最も頭を悩めているのが、期間雇用者の増加です。就労環境は大変厳しいので、2年、3年の期間雇

用で就労支援に携わる職員がいますが、サービスクオリティが著しく悪く、クレームを受け続けなければならな

いという環境にあるます。札幌以外の地域ではなお一層のことで、教育機関からのクレームも十分考慮しながら、

プロフェッショナルな職員が就労支援を行う環境作りをしなければいけないと思っています。

5.人材育成と企業のコンサルティングによるマッチング

明確な打ち手を持って求職者に対するサービスを行わなければなりません。そこで、重要なデータを幾つかお

示しいたします。

まず、日本経済研究センターによれば、2011年から2015年は日本全国で0.4%、2016年から2020年までは

0.6%と、非常に厳しい経済成長率が予測されています。

完全失業率は、リクルートワークスによれば、2020年に6.6%に増加するだろうという見通しになっています。

北海道は全国平均よりも高い失業率にありますので、この環境はもっと厳しくなると予測して、手を打たなけれ

ばいけない状況です。加えて、男女別の失業率は男性が非常に厳しく、また、バブル世代と言われる現在の 40

代から 30 代後半の方たちが大量に失業するだろうと予測されています。これは、地位の上昇に給与が耐えられ

ず、リストラされるためです。また、年代のポートフォリオは崩れるので、若い人を入れなければいけないとい

う予測になっています。バブル世代の人は、気持ちを引き締めて仕事をしなければいけないという環境になると

思います。

このような中で、人材をどのように育成するかですが、若手に対する能力開発ニーズはコミュニケーション力

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だと言われています。

中堅では、リーダーシップが必要だと言われており、課長クラスになると部下育成力が必要だと言われていま

す。企業がなかなか人材の能力育成にかける手間、お金がないという環境で、このような面まで行き届かない状

況です。

このような中で、私どもがまず一義的にやらなければならないことは、ミスマッチの解消だと考えています。

ミスマッチ解消のための取組事例を紹介いたします。

まず1番目に、カウンセリングのスタンスを変える取り組みをしています。カウンセラーは労働者寄りの環境

で物事を見ます。常に傾聴が大切です。しかし、聞いているだけでは何も変わりませんので、現状の環境を変え

るために、例えば、スキルチェンジ考えています。つまり、雇用吸収力のある産業に人を送り込んでいこうとい

うことです。そのためにはカウンセリングスタンスも変えていかなければいけませんので、三つのスタンスから

求職者をサポートすることを徹底しています。これを徹底することで、現在、ジョブカフェでは年間約6,000人

の方々が就職する環境になっています。正職員60%以上の就職環境をキープしており、厚生労働省の統計データ

では、平成19年度からは4年連続で日本一という実績が出ています。

平成 22 年度からは、ジョブカフェの全事業を統一でキャリアバンクの職員が運営させていただくことになり

ました。企業のサービスと一体的に運営することで、組織内のコミュニケーションが円滑にでき、そのことが就

職活動環境を大きく促進する要因になっています。ここがもともと分離していると、企業のサービス担当とカウ

ンセラーの考え方に若干のずれが出ますので、なかなか情報や意思疎通ができなくなります。また、管理職が如

何に中立的な目で企業と求職者の間に立てるかということも重要な能力と理解しています。私自身も毎日自己研

鑽を重ねていかなければならない環境です。

企業のコンサルティング事業を行っています。現在までに 105 社の企業が受け、非常に好評を受けています。

企業が新しい新規の事業をとることによって、例えば 10 人単位で雇用が生まれたといううれしい声も聞かれて

おり、企業の業績の向上に伴って雇用を生み出すということを目指しています。産業政策との一体化も、雇用の

面から見なければいけないと思っています。

11月にジョブカフェスタ・プレミアムという合同企業説明会を行いました。「企業は本音」「私は本気」という

コンセプトを設定し、1日限りのお見合いイベントではなく、事前事後のしっかりとしたフォローを通じて就職

環境の改善につなげようという事業を行いました。求職者への事前セミナーでは、グループディスカッション、

プレゼンテーションでコミュニケーション力を高め、当日に備えるということを約2週間にわたって行いました。

一方で企業には、人を集めるブースの作り方や安くてもできるフェイスブックやツイッター機能の使い方につ

いて事前セミナーを行いました。

この合同企業説明会には 34 社の企業に出展していただき、約 700 人の方に来場いただきました。既に4月1

日採用の内定も出ています。

一方で来場者アンケートから、6カ月から1年就職活動をし続けている方が44.4%、または既卒者で1年から

2年という方が2割弱、2年から3年就職活動している方が 3.5%と非常に厳しい状況があります。加えて、今

までの応募した数が2桁台の応募状況の方が半分以上と、頑張っても決まらないという状況があります。何とか

うまくコーディネートして就職につなげていこうというのが、まさに私どものミッションです。

6.就労支援機関としての必要なこと

私ども就労支援機関として必要なことを三つ挙げさせていただいています。1番目は、明確な業務領域、それ

から専門性を身につけるということです。2番目は、私どもの目に見えないサービス系のノウハウを自前で抱え

ることなく、北海道のため、ひいては求職者と企業のために水平展開していく必要があると思います。3点目は、

この厳しい就労支援環境ですので、長期間の支援体制の構築が必要だと考えています。今までであれば委託事業

は最長1年とでしたが、やはり2年とか3年というスパンでの支援もときには必要になると考えています。

打開策として、まず1番目に、サポートするスタッフが真のプロフェッショナルになるということが挙げられ

ます。特に、ハローワークとの違いをどのように打ち出すかは、ジョブカフェに課せられた大きな課題だと認識

しています。ハローワークとの連携、差別化の要因を見つけていかなければならないと考えています。例えば、

私どもは就職までの道のりを、例えば2カ月、3カ月、1年で区切って全利用者にランクをつけています。約30

万人の利用者がいますがデータベースを持っており、各利用者にどのようなサービスをしなければならないかを、

シンプルイズベストでマニュアル化しています。これを所内の定量的な目標にしています。例えば、Bランクの

利用者が、6カ月就職していない場合、やり方がおかしいのではないか、違うカウンセラーで適切なサポートを

しようなどと時間軸を切って個別のサポートをしています。

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2番目に、期間限定職員を減らしていただきたいと考えています。質が低い、クオリティの低いサービスをす

る人は、求職者のサポートに当たる資格はありません。厳しい言い方ですが、専門機関にしっかりサービスして

もらう環境が必要だろうと考えています。

3番目に、オーダーメイド、つまり一人一人の求職者に対応した就業支援体制を作っていかなければならない

と考えています。北海道は広いので、札幌だけでなく、函館は函館の就労環境の構築、旭川は旭川の就労環境の

構築と、地域にスタッフがおりていって、密着型で就業支援をしていく必要があるのではないかと思っています。

マクロ観だけで北海道を打ち出すのではなく、地域の産業特性、家族構成、どのような教育機関があるかなども

踏まえて就労支援環境を整える必要があるだろうと考えています。

また、企業のアンケートからコミュニケーション力の重要性が指摘されています。学校側、就労支援側は、良

好な人間関係を構築するサポートをしなければいけないと思っています。シンプルに働く大人の格好よさ、汗を

かいて働く大人の尊さをわかってもらう必要があります。そのためにはインターンシップなどを有効活用するこ

とも必要と思っています。インターンシップは、あえて希望先以外で実施をしてみてほしいと思います。私ども

がマッチングするとしたら、希望先以外でマッチングさせますと言っています。なぜかというと、私どもはどん

な仕事にでも必ずやりがいがあると信じて疑わないからです。やりがいを通じて仕事の価値観が変わるかもしれ

ませんし、そのことによって就職活動の本質が変わってくるかもしれません。

産業政策と就労支援が別々であるとか、大学生、高校生の職業観、就業観の育成が別々であるとか、労働政策

は労働政策で考える、教育は教育の問題で考えるというように分離して考えられがちです。しかし、人生はそん

なにきれいに切り分けできません。だからこそ、低年齢のときからしっかりと就業観を育成していかなければな

らないと思います。高校3年生になったら進路指導の先生に、大学ではキャリアセンターに、失業したらジョブ

カフェにという形は、私どもとしては非常に乱暴に世の中が働いているように見えます。こういった環境を変え

ていく必要があると思います。

7.人材育成事業について

就職活動をして、社会、または企業に入った方のトレーニング方法としては、職場内の OJT:On the Job

Trainingと、職場外のOFFJT:Off the Job Trainingという2つのトレーニングがあります。もともと能力とし

て開発ができる領域が決まっており、今特に注目されているのはメタスキルと言われる分野です。スキルだけで

なく、自分自身を客観的に見て、自分がどんな人とどういうふうにお付き合いをしていきたいのか、自分自身の

性格や傾向を理解するというものです。

若年の就労支援で特に重要なコミュニケーションも、教育の中ではできるだけわかりやすく定義づけています。

書類選考に関する能力、面接に関する能力、就職活動、採用活動で求められる能力を関係者に理解させて、納得

してもらいながら就職活動をサポートし、また、就職後の能力開発に役立てています。当然、入社したばかりの

ときには、能力が欠けていたり、足りなかったりするわけですが、そういったものを企業の人材育成担当者、社

長さんとしっかり認識を共にして人材教育をしていく必要があると捉えています。

8.注目する産業

私どもが人材を送っていきたい産業は、この札幌という環境等々踏まえると、観光業だと考えています。サー

ビス業というのはコミュニケーションが必要になる最たる業界です。専門性を蓄えていない、パソコンのスキル

がない、CAD の訓練ができないといった環境にあっても、観光業にはきっと人を送り込めるだろうと考えてい

ます。

北の観光リーダー養成セミナーと言うものを研究期間も含め約5年、道庁さんの事業でさせてもらっています。

これは、コミュニケーション力を重視したスタンスでセミナーを行っています。

民間企業、行政機関の関与による観光資源の開発プロセスを経て、今は着地型の観光、交流人口を増やそうと

いう考え方のもと地域住民を巻き込むようになっています。そうなると地域の中からリーダーが必要となります。

セミナーでコミュニケーション力を身に着けたリーダーが、お客様、観光客に対して価値を高めていき、地域資

源の付加価値を最大にして提供することによって地域を活性化させようと言うものです。この方たちが頑張って

くれれば、きっと雇用もたくさん生まれるだろうと考えています。私も講師の1人として人材育成をしています。

その際の教育のポイントですが、ケースメソッドという教育をしています。これはハーバード・ビジネススク

ールで導入された育成方法ですが、これを北海道版にカスタマイズして取り入れています。

人材育成のポイントは、いろいろなケースから心を学ぶということです。講義が終了した後にフィードバック

してあげることによって、どんな環境でも活躍ができるような状況を整えようとしています。

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9.就職対象学生の意識

最後に、道内の就職対象学生約13万人の意識についてです。

どのような環境にあるのかというと、消極的な地元志向、札幌集中、大企業、公務員志向が強いといえます。

中堅、中小のすごく力のある企業にはなかなか就職をしていきません。従って、すごくミスマッチが多いという

状況になっています。

私は全道でセミナーをします。これには仕事はないのだろうなと思うようなところに話をしても、先生方は、

「そうはいっても、あなた、重要な働き手である高校生とか大学生を札幌や東京にとられたら、自分たちのまち

は過疎で死んでしまうではないか」とおっしゃいます。しかし、それは求職者の人生を考えたときに正しいこと

でしょうか。戻ってきてもらえるような環境を整備することに何か皆さんが力をかしてくれないのかと、そのよ

うなことも思います。

厳選採用が進んでおり、労働市場に出る、就労環境に出る前にかなりの教育が必要だと痛感しています。例え

ば、高校から大学に行くときに道外に優秀な人材を送り出し、就職時に本州大手企業に優秀な人材を送り出して

います。道内企業は残った方を受け入れているのですから、企業も当然ながら教育してほしいと思うところです。

うまく企業の環境、求職者並びに学校の環境を踏まえて、最適な就労支援環境、人材育成環境を整備する必要

があると思っています。

最後に、非常に厳しい環境にあるということをご理解いただいた上で、これからも時と場合によって皆様のお

力をかりながら事業を進めてまいりたいと思います。

10.意見交換

(質問者)

4点お聞きします。

1点目に、総じて言えば、採用する側、される側、ともに高望みをしているのではないかという印象を受けま

したが、これについてどうお思いですか。

2点目に、一定のレベルに達していないと、採用そのものを手控える企業が多いというところで、採用しない

と必要な人材が埋まらないわけですが、そのことによるデメリットについて企業というのはどのように考えてい

るでしょうか。

3点目に、もし高望みをしているということが一因であり、その要因がこの国の解雇規制が厳しいからという

のであれば、もし労働市場がもっと流動化すれば、このミスマッチというのはかなり緩和されるのではないかと

思いました。その点についてどうお思いなのか。

4点目に、中小企業においても人が来ないという話をよく聞きますが、現場としてはその点についてはどのよ

うにお感じになっていますか。

(回答)

まず1番目と2番目のご質問は回答が同じになると思います。高望み並びに厳選化ということに対しては、ま

さにそのとおりです。企業は当然ながら今、非常に厳しい経済環境といいますか、大激戦に巻き込まれています。

人材を即戦力でほしい、つまり育成している時間がないので、できるだけ外部、また教育機関、大学等で磨いて

から出してきてほしいというような要望、要請を強く受けます。

私どもが非常に困っているのは、形上、雇用情勢は有効求人倍率がだいぶ改善になったとか、大学生に対する

就職の門戸が広がったというふうに言われていることです。実感値は全く違い、今の企業は、求人は出せども、

いい人材がいないと絶対にとりません。この辺りの実感をどうとらえていいのかは全く見えないというのが正直

なところです。ただ、企業側の理由、実情も十分わかるところです。公的機関の方々や教育機関の方々と連携し

ながら策を打ち出さなければいけないと思います。

3点目の解雇規制ということに関しては、人材が成長するまでの時間軸は人によってまちまちだと思っていま

す。例えば、3年で芽を出す人間もいれば、配置換えなどによって5年、10年で芽を出す人間もいます。一時点、

一時点で環境によって判断されてしまうというのは実は不幸です。その不幸で世の中に出された人が、また同じ

仕事を一からやらなければならないとなると、恐らくそのやめた方が一生において働ける額というのは小さくな

ると思っています。いろいろな環境をもって長い目で見てあげるということも一方では必要な要素と思っており

ますが、一義的に解雇規制を強化するという考え方は、私は持ち合わせてはおりません。

4点目の中小企業の実態につきましては、まさにご指摘のとおりで、意外に自社の強みをご存じのない企業様

が多いように思います。非常にいい技術、人材、魅力ある社長さんがいらっしゃるのに、なかなかそれが求職者

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や学生に伝わりません。これは私どものジレンマでもありますが、求職者や学生と企業との対話の場を通じて解

消していこうと、各種イベントなどを実施しています。

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第7回有識者ヒアリング 平成23年12月19日(月)

(第一講演)「北海道の経済政策と港湾-世界の港湾動向の視点から-」

国際港湾協会 事務総長 成瀬 進 氏

(第二講演)「国際的な経済連携をめぐる最近の法的論点」

小樽商科大学 准教授 小林 友彦 氏

(第一講演)

「北海道の経済政策と港湾-世界の港湾動向の視点から-」

国際港湾協会 事務総長 成瀬 進 氏

講演要旨

・ヨーロッパ、アメリカの貿易量は、大幅に増えるような傾向にはないが、アジアの域内貿易は大幅に増えてい

く傾向があるので、今後はアジアの域内貿易を目標とする方がよい。

・今後は、ロジスティックス全体を考え臨海部を活用し、その中で付加価値を入れることが有効ではないか。

・北海道の観光資源と臨海部の機能の連携を模索する必要がある。

・災害に強い臨海部は、今後ますます、産業立地への一つの大きなアピールになる。この機会に災害に強い、災

害を受けても立ち直りが早いという計画を立ててアピールすべきではないか。

・グリーン化や IT 化の推進が物流における課題である。これらを先取りし、北海道の産業、特に農業、農産品

などとの連結を考える必要がる。有望な話に考えをめぐらせ、ビジネスチャンスをつかんでいただきたい。

1.はじめに

私は、10年ほど前に2年間、苫小牧港の管理組合の副管理者をしていました。国土交通省北海道局にもいまし

た。港の物流全体の中に占める役割というのは極めて大きいと思っています。

直前に産業振興ビジョンでは、いろいろな北海道の産業のいいところを伸ばして海外と結ぼうという話があり

ました。それはもちろん結構なことですが、最後に物が流れるのは港を通してしかないので、もう少し港のこと

に関心を持たれて、港だけではなく、物流全体のチェーンに関心を持っていただければいいなと思っています。

私の話を聞いて、すぐに何か役に立つという感じではなく、情報として頭の片隅に留めていただければと思い

ます。

アメリカも景気がよくありません。また失業率も10%ぐらいになっています。オバマ大統領は輸出をもっと増

やすと言っていますが、アメリカの港は、大型船が入港できる港がそんなに多くありません。輸出を増やそうに

も、輸出の出口である港が困っているという話もあります。港は経済活動全体と相当関連が深いと思います。

2.世界の港の動向

インターナショナルトレードは、ボリュームベースで9割ぐらいを海運で行われています。金額ベースでは、

コンテナというのが9割ぐらいの割合を占めています。コンテナに入っているもの以外でも石油や石炭など重要

なものがありますが、金額ベースで見ると、9割近くがコンテナの箱に入っているということです。

世界の港ではコンテナが2010年に5億3,000万個ほど扱われています。コンテナの輸送は1950年代に始まり

ましたが、世界的な総量はずっと増えていましたが、2009年に初めて減りました。リーマンショックなどの影響

で減ったということで、経済と荷動きが極めて連動しているということです。現在、東アジアが世界のコンテナ

荷動きの約40%を占め、圧倒的なシェアを有しています。もちろん、日本から中国、中国から日本という域内流

動を含んでいますので、貿易もアジアを中心に考えていくとそれほど間違いないものと思います。

トン数ベースでの比較は統計上困難な面もありますが、コンテナは個数で比較することが出来ます。世界一の

コンテナ港は、シンガポールでしたが、2009年は上海が1位になりました。中国の港は、香港を入れると10位

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までに六つあり、アジアが極めて多いことがわかります。北海道で一番コンテナが多い苫小牧港は、194位です。

相当小さいといえます。日本の港では、東京港が多いのですが、それでも25位というところです。

北アメリカや西ヨーロッパは、2009年に随分減り、2010 年もそれほど戻っていません。一方で、例えばアフ

リカは、経済危機でもあまり減らず、回復も早いことがわかります。

コンテナはどんどん増えていますが、それに対する世界の港の動向を見てみます。日本の港のコンテナ総取扱

量は2,000万TEU弱で、ここ10数年大きくは増えていません。しかし、世界ではアメリカやヨーロッパでも相

当量は増えています。随分大きな開発を行っているところが多い状況です。

韓国では、今ある釜山港から20キロぐらい西に新釜山港を作っていて、コンテナの岸壁を30ぐらい作る予定

で、現在はそのうちの18ぐらいできています。

ヨーロッパ一の規模の港であるオランダのロッテルダム港では、大きく海に張り出す新たな岸壁の工事を行っ

ています。あと2年ぐらいでできると思います。

また、シンガポールでは、物理的にインフラを増やすだけではなくてパシルパンジャンターミナル(ガントリ

ークレーン以外は無人)のような無人化ターミナルを建設し効率向上が図られています。アムステルダムにある

コンテナターミナルでは、普通の港が片方からガントリークレーンを伸ばして積み下ろししますが、両方ガント

リーを伸ばし積み下ろしすることで、なるべく能率を上げて全体的に能力を増やそうとしています。

また、ロジスティックスハブとして港湾を使おうという試みも見られます。物が陸から海、あるいは海から陸、

その結節点が港湾であることは間違いありませんが、単に通過するだけでなく、そこに付加価値を付けようとい

うことです。例えば、フランスのルアーブル港では500ヘクタールぐらいの相当大きな用地を流通加工団地と整

備し、相互の連携を IT通信網が支えています。

日本、北海道には関連しないかもしれませんが、港と背後へのアクセスが大事であると言えます。ロサンゼル

ス港では、貨物専用鉄道を港から 20 キロぐらい敷いています。ロサンゼルス港のすぐ横ロングビーチ港が隣接

していて、二つで 1,500 万TEU ぐらい扱っています。この間をトラックで輸送すると、ロサンゼルスの市街地

へ入るため大変です。そこで、貨物専用鉄道を作り、背後との輸送網を整備しています。

3.国際港湾協会の取組

国際港湾協会は、1955年にできた協会で60 年近い歴史があります。現在、約90ヵ国の200港ぐらいの港が

会員です。残念ながら大きな港でも抜けているところが若干ありますが、ロッテルダムやロサンゼルスなど、主

要な港はほとんど入っています。会員の港を合わせると、コンテナの約8割を扱っています。

また、IMO(国際海事機関)という国連の海事機関から諮問機関の認定を受けています。機関紙を2カ月に1

回発行したり、いろいろな技術委員会を組織しており個別課題について検討しレポートを出したりしています。

国際港湾協会全体では、環境問題、港と経済の関係、再開発、港湾と都市の関係、など世界の港の方々の関心

を採り上げて勉強しています。

4.地球温暖化によるビジネスチャンスの拡大

現在は、極東から北ヨーロッパへはマラッカ、シンガポール海峡、スエズ運河が航路です。このまま地球温暖

化が続き北極海の氷が解け続ければ、北極海航路の活用が可能になります。航路は約2,500マイル(1シーマイ

ル=1.8Km)短縮されます。温暖化がうれしいわけではありませんが、このような効果、チャンスもあるかもし

れません。2050年ごろでも夏の間しか通れないとか、エスコート船が要るとか、ロシアが料金をとるのではない

かとか言われていますが、現在、協会では委員会で勉強を続けています。

また、ヨーロッパには、ウィンドファームが数多くあります。特にオフショアウィンドファーム(offshore wind

farms)です。多くはイギリス、デンマーク、ドイツなどに位置していて、合計容量は2,396MWにのぼります。

オフショアウィンドファームの建設にあたっては、港湾が機械や機材の積み出し基地として利用さます。建設後

もメンテナンス・サービス基地として港湾や港湾周辺地が活用される可能性があります。ヨーロッパは、公社み

たいな形で港を運営しているところが多く、ビジネスチャンスととらえた敏感な反応が多いと思います。

5.北海道の経済政策と港湾

港湾は、経済活動の核として、単に物の流れの通過点ではなく、もう少し港で付加価値を増やす必要がありま

す。それはロジスティックス全般に対して効果を与えるのではないかと思います。港だけには限りませんが、北

海道が新しい技術を先取りするようなことやってみてはどうでしょうか。そのためにも、新しいビジネスチャン

スにもっと敏感である必要があると思います。

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北海道では港全体の機能から見ると、外貿コンテナ機能がたくさん入る苫小牧や食料品などの国内供給基地で

ある釧路について、流通拠点機能、クロスドック機能、流通加工、税関、部品のストックセンター、いろいろな

商品に関するサービス機能、人材提供、国際展示、商談などを臨海部に持っていって、そこで集中的に取り組む

というのは如何かなと思います。

もちろん、これらは港のいわゆる公共事業でできるものではありません。公共側のインセンティブ、計画の枠

組み作りが必要ですし、民間の方が機能を立地させるためのインセンティブを付けなければなりません。リース

価格、地方税の減免であれば、道庁が主体となってできるのではないかと思います。

また、港の機能だけではなく、複合的なロジスティック機能を運営していくとなると、今の港湾管理者の機能

だけではなかなか管理、マネジメントしきれないと思います。機能の強化や別組織の創設を行わなければならな

いと思います。

アメリカは、物流機能が地域経済に与える経済効果の算定をよくやっています。ロサンゼルスの例では、ロサ

ンゼルス港の効果が直接雇用、港で働く人が5万人弱と、その人たちの消費活動で6万人、間接雇用が2万人、

カリフォルニア州全体では約 100 万人が港湾活動で雇用の恩恵を受けています。また、454 億ドルの個人所得、

経済活動全体では 1,500 億ドル、地方税が 51 億ドルと多くの波及効果が上がっています。もちろん、ロサンゼ

ルスと苫小牧では違いますが、全体の物流の中で港をどう活かすか、考えていただきたいと思います。

観光振興についてですが、横浜とか神戸などでは、少なくとも人を集めるという点ではうまくいっているもの

と思います。ただし、埋立会計はあまりうまくいっていいません。港湾局としてはあまり採算がとれているわけ

ではないらしいのですが、集客はかなりあります。

また、観光産業の振興のための港湾、港の観光産業、クルーズ船の誘致、もちろん再開発で商業施設を入れる

という使い方もあります。サンフランシスコやマルセーユは随分うまくいっています。サンフランシスコは、昔

はコンテナも扱っていましたが、現在では貨物は扱わず、最近ではフィッシャーマンズワーフで有名になってい

ます。アメリカ人はクルーズが好きなので、フロリダはクルーズが一大産業になっています。クルーズ前後に宿

泊するなど、地元にお金が落ちます。ホームポート──ホームポートというのはベースになる港ということです

が、それと、単に訪れるだけの港では違いもあります。一番の問題は、背後にどれくらい観光資源があるかとい

うことです。例えば、アメリカのクルーズ産業の経済効果算定の一般的な事例では、66億ドルぐらいの消費を他

の産業に誘発し、それに基づいて数万人の雇用を産んでいると報告されています。

地域防災の核として、港、臨海部をどのように防御し、防災拠点として使うかについて随分脚光を浴びていま

す。北海道も津波の可能性がないわけではありません。津波対策、高潮対策もありますが、現在進められている

東北の大震災の分析からの知見も活かしながら、対応策を港や沿岸部も考えていかなければなりません。特に、

コンテナなどの流出物、漂流物への方策も臨海部でよく考えなければなりません。また、仙台港では耐震バース

についてはそれほど壊れず、復旧が早かったと聞いています。苫小牧港など作っているところもありますが、ど

れほど作り、どの位置がいいかを検討しながら整備を進める必要があります。

港湾版のBCP(Business Continuity Plan)を整備しておかなければなりません。背後への物資のサプライを

滞らすことがないよう計画しておく必要があります。地域が災害に強いことは、今後ますます、産業立地への一

つの大きなアピールになります。この機会に臨海部も災害に強い、災害を受けても立ち直りが早いという計画を

立ててアピールすべきではないかと思います。

北ヨーロッパ、北アメリカではOPS(Onshore Power Supply、陸上電力供給システム)の導入が進められて

います。船は入港した時に、主エンジンを止めますが、いくつかの補助エンジンは動かしています。船の中に人

がいますから、船員の生活や役務で必要な電力を作っているわけです。OPSは、船が入港したらエンジンを全て

止め、港側(Onshore)からパワー(Power)を供給(Supply)するという概念です。例えば、カリフォルニア

では、2014年から、入港した船は原則としてエンジンを全部止めることが法律で決められました。北海道の農産

品は、東京や関西で人気があります。農産品が良質なだけでなく、輸送工程を含めたサプライチェーン全体でCO2

をできるだけ削減してグリーン化し、それを売りにできないかと思います。

また、税関や入関での輸出入の手続きを紙媒体ではなく電子媒体でできるシステムを作っています。日本でも

作っていますが、幾つかの手続きはまだ紙媒体ですので、それを100%IT化することも推進する必要があります。

最後に、北極海航路が実現すれば、北海道の港が日本で一番先にその航路にアクセスできる港になります。従

って、日本の窓口になることもできる。地理的には中国と韓国への窓口になる可能性もあります。

ウィンドファームはやるのかどうかわかりませんが、こういうものに代表されるようないろいろなニーズに対

して、アンテナを高く、いろいろ見聞きをして、それを何とか北海道で根づかせる、あるいは何かビジネスチャ

ンスにできるように考えていくべきではないかというふうに思います。

Page 26: 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会 …47 (第二講演) 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会社の今後の展開」

72

6.まとめ

ヨーロッパ、アメリカの貿易量は、大幅に増えるような傾向にはないが、アジアの域内貿易は大幅に増えてい

く傾向があるので、今後はアジアの域内貿易を目標する方がよいと思います。

今後は、ロジスティックス全体を考え臨海部を活用し、その中で付加価値を入れることが有効ではないかと思

います。また、北海道の観光資源と臨海部の機能の連携を模索する必要があります。

今のところ、グリーン化や IT 化の推進が物流における課題になるので、これらを先取りし、北海道の産業、

特に農業、農産品などとの連結を考える必要があります。有望な話に考えをめぐらせていただき、ビジネスチャ

ンスをつかんでいただければと思います。

7.意見交換

(質問者)

苫小牧港の取扱貨物量は、世界的に見れば多くないということですが、苫小牧港のような地方都市の港湾が、

岸壁の水深を深くするといった公共投資に期待できない中にあります。そのような中で生き残っていく、戦って

いくために、どういった観点で取り組んでいったらいいのか、苫小牧港に関してご提言いただければと思います。

(成瀬事務総長)

苫小牧港のコンテナ順番は世界で200番ぐらいですが、苫小牧は原油などいろいろなものを取り扱っています

ので、全部の貨物で見るとそんなに低くはないと思います。そんなに小さな港ではないと思いますが、世界的に

見て、そんなに大きな港でもありません。その中で、より注目を受けるためには、日本の制度では難しいので、

少し特色を出していく必要があります。グリーン化や IT化の先取りし、「施策はいろいろやっているよ」とアピ

ールすることが良いと思います。何か具体的なものがあれば、将来、お話させていただければと思います。

Page 27: 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会 …47 (第二講演) 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会社の今後の展開」

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(第二講演)

「国際的な経済連携をめぐる最近の法的論点」

小樽商科大学 准教授 小林 友彦 氏

講演要旨

・国際貿易法は自由化の原則と無差別原則の二つの基本原則からなる。国際貿易法は、非常に幅広いカバレッジ

を持つWTO協定を基盤として、一部の国の間でWTOが求めるよりも高度な自由化を進めるための地域貿易

協定(FTA等)が入れ子構造として存在する。

・関税率が低減し外国から安価なものが入り易くなり競争が激化することには注意すべきだが、北海道の農産品

は非常に高い付加価値と高いブランド力を持っているので、むしろ外国の関税を撤廃させ、外国が設けている

輸入制限措置を撤廃してもらうことで、より質の高い北海道産の農産品が輸出しやすくなるかもしれない。日

本だけが損をするということはあり得ない。バランスをどうとるかが問題になる。

・国内産業の振興、雇用の拡大、所得の向上のための方法は多様である。また、短期的な影響と長期的な影響の

両方を考える必要がある。

・幅広いルールなので、幅広い論点に目配りが必要である。TPPで関税を下げるか否かだけが問題ではなく、そ

の基盤となるWTO上のルールでどういった対抗措置がとれるかということと、バランスよく考える必要があ

る。

1.はじめに

国際的な経済連携をめぐる法的な論点についてご説明いたします。報告の手順は以下のようなものです。

まずは経済連携に関わる国際ルールについて概観して、それが北海道の経済、社会にどのような影響を与える

のかを、幾つか抽出した上で、法的な観点から論点を整理するという内容になります。

TPP や日豪EPA など、国際経済法について急激に関心が高まっていますが、それほど研究者が多くはありま

せん。WTO とTPP と日豪EPA はどのように関係しているのか、疑問を持たれることも多いのではないかと思

います。いろいろな方がいろいろな立場から発言していますが、必ずしもかみ合っていないと思われることもあ

るかもしれません。私は、グローバルな経済連携と地域的な経済連携の関係について、ここ数年勉強してきまし

たので、それを踏まえてご説明したいと思っています。まず初めに、まとめの部分を明らかにしたいと思います。

国際的な経済連携について語るというのは非常に難しく、正解のない難しい問題です。例えば国を開くことが

大事なのか、それとも農業をはじめとする国内の人々の雇用を守るのが大事なのか、どちらが大事かと聞かれれ

ば、簡単に答えることは困難です。長期的、総合的に、どういった価値をどのようなスパンで実現していくのか

政策的な判断やプランを定めることが必要です。そのことは前提だと言えるでしょう。しかし、政策的な判断や

プランを定めることとは別に、もう少し技術的な専門的な問題もあります。ここでは、そちらに注目していこう

と思います。

具体的に TPP や WTO ドーハラウンド交渉がどうなるかは、交渉による正解や、必ずこうなるといった結論

が決まっているわけではありません。交渉にどのように参加し、進めていくかというプロセスが重要であると言

えます。この点で、交渉参加者が何を求めていて、何を実現しようとしているか決めないままで交渉に参加する

というのは、確かにリスクがあることは確かです。これはいわゆる TPP 反対の立場からいろいろ発表されてい

る方のおっしゃるとおりだと思います。他方で、経済連携は何もないところから全く新しいものを作り出すわけ

ではありません。既存のグローバルな制度、とりわけWTO協定が基盤になっているということには変わりがな

いわけです。

今、日豪EPA を作ることや、TPP 交渉に参加するかを話し合っていますが、仮に何かの枠組みを作るとして

も、WTO から全く離れた、齟齬するようなルールは作れないという点で、一定の歯止め、制度的な縛り、基盤

が既にあることも同時に言えるわけです。それゆえ、交渉へ簡単に参加することは危ないですが、参加したらど

こに連れていかれるかわからない、と言うものでもありません。とすると、交渉に参加するか否か、出来上がっ

たものを受け入れるか否かといった政策決定をどうするかとは別の話として、法的な問題として、関連する国際

ルールがどうなっているか、バランスよく把握することが大事であると思います。例えば、WTOとTPP、日豪

Page 28: 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会 …47 (第二講演) 「北海道のワイン産業の現状と北海道ワイン株式会社の今後の展開」

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EPA、FTAAP、日本が既に締結しているメキシコ、シンガポール等との間の EPA、これらが相互にどう関係し

ているのかを知るのは大事なことだと思います。

もう一つ、先ほど TPP について交渉に参加するか否かもこれから検討することになるわけですが、交渉に参

加したらすべて一本道でどこかに行ってしまうというものではないと申し上げたように、様々な意思決定の機会

を多段階的に確保することが重要だと思います。この点についても、法的にどうなっているか確認しておくのが

有益でしょう。

2.経済連携に関わる国際ルールの構造

まず一つ目の経済連携に関わる国際ルールを概観していこうと思います。初めに、基礎的なところからご紹介

しようと思います。

国際貿易法、つまり経済連携に関わる国際ルールは複層的な構造をなしています。国際経済法、貿易に関する

国際ルールを理解する際の難しさは、普通の国際法と違って、実際に貿易を行う人が私人だということです。国

際ルール自体は国と国との間の条約として存在していますが、実際に貿易を行うのは、大多数は私人、企業や個

人、商社です。一部、国家貿易もありますが、量にしても額にしても微々たるものです。つまり、ルールの保護

対象である貿易行為、実際の貿易は私人が行うわけです。

貿易に対して、伝統的には国家がさまざまな形で介入を加えてきました。例えば、典型的なものは関税を課す

という規制です。このような介入は、それ自体悪いわけではありませんが、あまりに各国の介入がまちまちにな

ったり過剰になったりすると、世界の貿易を損なうことになります。また、歪んだ形で進むと、1930年代に起こ

ったようなブロック経済化が起きて、仲のよい国からの品物は輸入させるけれども、仲の悪い国の品物は輸入さ

せないなどの歪みが生じることがあります。このような歪みはよくないということで、1947年に関税及び貿易に

関する一般協定(GATT)によって、国際的なグローバルな国際ルールができ上がりました。

国際ルールは、国家間の条約ですから国家間の約束ですが、その目的は、私人が行う貿易行為に対して国家が

不必要な制約を加えないようにしようと国家間で取り決めたものです。その方が各国家の利益になるということ

で作られたのが貿易に関する国際ルール、国際貿易法と言えるでしょう。ただし、一つのルールがあるわけでは

ありません。最も基本的でグローバルなルールは WTO です。1947 年の GATT を引き継いだ形で 1995 年から

発効したルールで、現在、153の加盟国があります。このたびロシアも加盟しましたので、世界貿易の98%をカ

バーするグローバルなルールであるわけです。それに加えて、TPPや日豪EPAを含むFTAなどの地域的なルー

ルが補完的に存在しています。このような形で、重層的な形でルールが存在しています。

3.国際貿易の範囲

経済連携を語るとき、主としてイメージされるのは、関税をどうするかだと思います。

しかし、今日の世界において、物の貿易で関税をどうするのかは、さまざまな問題のうちの一部分にすぎませ

ん。普通、貿易をするというと、物がコンテナに積まれて、船でどこかの国に運ばれていくというようなことを

イメージされると思います。これが物の貿易です。1947 年のGATT というのは、この物の貿易のみを対象とし

ていました。

しかしながら、1970 年代以降、例えばサービス貿易のような、別の問題も生じています。先進国においては、

GDP の半分以上がサービスによって構成されています。形のある物が国境を超えて、それの対価としてお金が

支払われるという物の貿易と同様に、サービスが国境を超えて提供されて、対価としてお金が支払われるという

こともまれではなくなっています。WTO では、サービスを行う私人に対して、国家があまりに不必要な制約を

課してはいけないというルールが出来ています。

その他、貿易とはちょっと違う活動として、投資活動があります。貿易が何かをあげて、その対価としてお金

をもらう双方向的な行為であれば、投資は一方的な行為です。投資は、お金を持っている人が、何かのリターン

を期待してお金を投じますが、その結果何が得られるかはまだわからない。すごくいい果実が得られるかもしれ

ないが、失敗したら何もなくなってしまうかもしれない、それが投資です。この意味で、投資と貿易は違います

ので、GATT では投資活動は国際ルールの枠外にありました。WTO では、投資活動についてもグローバルなル

ールの保護対象になっています。

その他、知的財産権の保護についてもグローバルなルールが存在します。どういうことかというと、いくらい

いものをつくって外国に輸出して売っていこうと思っても、簡単に模造品とか海賊版とかをつくられてしまって

はうまくいきません。特に日本企業は 80 年代以降、アニメ、漫画、デザインにおいて、東南アジアや中国で放

映されると、次の日にはその内容がDVDになって10円ぐらいで売られていました。正規品を外国でもきちんと

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売れるようにするし知的財産権を保護することは、貿易を円滑化するためにも重要なことです。WTO協定では、

知的財産権を保護することも 153 の加盟国に対して義務づけています。このように、WTOは非常に幅広いカバ

レッジを持った国際ルールと言えます。

以上、国際貿易法がどういう構造を持っていて、どういうカバレッジを持っているのかを説明しましたが、

WTOは何を求めているのか確認すると、二つの基本原則があります。

一つは自由化の原則です。WTO 協定では関税率については合意で決めるのが原則です。下げたいと思ってい

る国があれば、国同士で交渉して合意する範囲のものにしてくださいということです。ただし、一たん約束した

ら、約束した水準を超えて関税をかけることはできませんと定めているわけです。

ロシアが今回WTOに入るということが認められて、来年夏ぐらいまでには実際にWTO協定が適用されるこ

とになります。最も大きなメリットは、勝手に関税率を上げ下げすることができなくなるということです。これ

が自由化の原則の一つです。

もう一つの知られていない基本原則が、無差別原則です。同じものであれば、どこの国から来たのであっても

同じように扱わなければいけないという原則です。WTO は 153 の加盟国に対して、基本的に最恵国待遇を与え

ることにしています。

4.WTOとTPP、FTA等との関係

WTOと今流行りの地域貿易協定であるTPPを含むFTAがどのような関係にあるのかを説明します。

地域貿易協定(RTA)というのがテクニカルタームで、FTAといってもEPAといっても、中身はほとんど同

じなわけです。基本的にはWTOという一般法に対する特別法として位置付けられます。グローバルなルールが

適用される国々の一部の国の間で、グローバルなルールと異なるルールを適用することを約束したものと言えま

す。

WTO加盟国の一部の国が締結したものですから、WTO上の義務が全く及ばないわけではありません。WTO

上の義務が及びますが、一部の国の間でWTOが求めるよりも高度な自由化を進めます。その一方で、貿易自由

化を進めるのは締約国の間だけであって、他の国に対してはそのような便益は及ぼさないというものです。この

長所として、WTO よりも高度の自由化を達成するという特徴があります。他方で、非締約国に対してはその便

益を及ぼさないということは、国ごとの差別化も生じます。差別化が生じることはWTOの原則に照らすとどう

なのでしょうか。

自由化と無差別というWTOの原則に照らすと、FTAは、自由化の点ではWTOが求めるものをどんどん促進

して、結構なことだと言えます。他方で、どこの国から来たのかによって関税率を変えます。ある一部の国から

来たものは入りやすくするけれどそれ以外の国から来たものについてはそうしないというのは差別でもあります。

無差別の観点からするとあまりよろしくないということになります。

そこでWTO では、1947 年のGATT の時代から、TPP を含むFTA 等の「地域貿易協定」を条件つきでのみ

認めることにしています。なぜ容認するかというと、WTO は今日、153 の国が入っている大きな条約であり、

1国1票制で物事を決めることにしていますので、意思決定の小回りがききません。一つの国でも反対したら何

も決まらないということになります。WTO 全体として一丸となってその目的を達成するというのは、すぐには

難しい状況です。従って、一部の国であっても、貿易の促進や自由化を先行して達成できるのであれば、その範

囲で認めてもよいことにしています。

つまりWTOは、最初から、一定の例外を認めているわけです。これが、入れ子構造として重層的に今日の国

際貿易ルールが存在している理由だと言えます。WTO は全世界を包摂するようなグローバルなルールですが、

その下にいろいろなものがあります。例えばEUというのも一つのRTA、地域貿易協定です。また、たとえば日

本とシンガポールのEPAもそうです。このような、異なった広さの枠組みが並存しています。

地域貿易協定は、既にでき上がったものだけではなく、構想されているものもさらにたくさんあります。

NAFTAや、AFTAはできていますが、その他にASEANと日本など6カ国が入るCEPEA、TPP、APEC21ヵ

国のFTAも存在しています。

日本は、いわゆるEPAを締結した相手国との貿易額が総貿易額の17%くらいですからEPAやFTAが少なく、

もっと締結したほうがいいのではないのかという人も出てきています。たくさん締結するのがいいかどうかは政

策的な判断の問題ですから、どちらがいいかは法的には言えませんが、地域的な貿易協定は、一部の国の間では

差別的に自由化してもよいというインセンティブを与える制度であるため、一定の競争原理は働きます。むろん、

一たん作ってしまえば安心かというと、そうではありません。WTO ではさらなる広範囲の自由化を行うことが

予定されているからです。

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いずれにせよ、地域貿易協定が完全に WTO と同じサイズになるまでは、WTO と地域貿易協定は並存するこ

とになります。並存時に、どちらを適用するかというと、WTO 協定上の義務を守った上で、その例外条件に当

てはまる限りで地域貿易協定が適用されることになります。結局、新しい EPA や FTA を締結した後も、WTO

協定の原則は守ることが必要になるわけです。

5.国際的な経済連携と北海道の問題

国際的な経済連携を進めると北海道にどういう影響があるのかということは、さまざまな議論が既に提起され

ています。

ここでは、北海道に関連の強そうな分野を取り上げてみます。

農業については、まずはどういった攻めと守り、弱いところと強いところがあるのかをまとめてみます。まず、

関税率が低減することによって外国から安いものが入ってきやすくなることで、競争が激化することには注意す

べきです。他方で、特に北海道の農産品は非常に高い付加価値と高いブランド力を持っていますので、外国の関

税を撤廃させる、外国が今設けている輸入制限措置を撤廃してもらうことで、より質の高い北海道産の農産品が

輸出しやすくなるかもしれません。現代の地域貿易協定は、昔の不平等条約のように一方的に、日本だけが市場

を開放して損をするということはあり得ません。日本が譲るかわりに、相手にも譲ってもらうという形で、バラ

ンスをどうとっていくのかが問題になるでしょう。

観光についても、外国人、外国企業が観光業界に参入してきたら困るという点はあるでしょうが、逆に日本の

観光関連サービス産業が外国に進出するのもしやすくなります。もちろん、外国人観光客が増加することによっ

て日本の国内の企業が得をするということも考えられます。地域貿易協定では物品の貿易自由化のみならず、サ

ービス産業の自由化や、投資の保護についてもルールが設けられるので、モノを売り買いするだけではなくて、

サービスの分野で自分の方で開放するのか、相手の国に開放してもらうのか、そういったことも交渉の対象にな

っています。

また、国内産業を振興したい、日本に暮らしている人が雇用を拡大して所得を向上するための方法も多様です。

貿易障壁を設けて輸入をあまりしないようにすることも一つの方法ですし、逆に輸出をどんどんしていくことに

よって、規模の経済を利用して新たなマーケットを見つけていくというのも、国内の雇用を拡大するために役に

立つことでしょう。また、生じうる影響に対応するための時間幅についても、短期的な影響(価格下落、競争激

化等)と長期的な影響(雇用増進、効率性向上等)の両方を考える必要があるでしょう。

6.実体的な論点

最後に、国際経済法のルールを知っているとどういうことに気が付くかを見ていきたいと思います。

まず、実体的な論点と手続的な論点に大きく分かれます。

実体的な論点としては、物品貿易、サービス貿易、投資と言った幅広い分野の規律を最大限生かしていくこと

が重要になるという点です。貿易というと、普通は物の貿易をイメージされますが、貿易と投資と知的財産権の

保護というのは非常に密接に結びついています。WTO では、物の貿易とサービスの貿易と、物の投資について

相当なルールができています。サービスの投資や知的財産権のルールはWTO協定でもまだまだ発展途上ですが、

GATTのころと比べればかなり多様で詳細なルールが設けられています。

とりわけ重要なのはサービス貿易でしょう。国境を越えて物を輸出して対価としてお金をもらうのと同じよう

に、サービスを国境を越えて提供してその対価としてお金をもらうのがサービス貿易ですが、モノが国境を越え

て運ばれ、その逆向きに対価が支払われるという物品貿易と異なり、サービス貿易には多様な形態があります。

貿易活動であるサービス貿易の自由化についても、WTO でルールが決めてあります。TPP や日豪 EPA でも当

然ルールができますから、そこでどう有利なルール形成ができるかということがカギになるでしょう。

サービス貿易の4つのモード

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また、投資についても同様です。工場、会社を買収するなどの活動は、道内の大企業だけでなく、中小企業の

方々にとっても珍しいことではなくなっています。貿易が双方向的(物またはサービス⇔対価)であるのに対し

て、投資は資本を一方的に投下すること自体を指し、その収益が上がるかは不確定という点が少し違いますが、

このような投資活動についても国際ルール形成の範囲内に入っていますので、どのように我が国に有利なルール

を作っていけるか考えていく必要があります。

7.手続的な論点

手続的な論点については省きますが、こちらもルールの射程は広いですので、幅広い目配りが必要だというこ

とが言えます。北海道に関連の強い分野について見れば、例えば農業では、関税を下げるかどうかということが

問題になっていますが、TPP関税を下げたからといって、直ちに危険な汚染米までどんどん入ってくるのかとい

うと、そうではありません。WTO 協定に基づいて、衛生基準や食品衛生安全基準を維持することができるわけ

です。また、不当に安い価格でものを売ってきた場合には、アンチダンピング措置(―ダンピングに対する対抗

措置)はとれますし、外国政府が補助金を与えて、やはり不当に安い価格で輸出してきたような場合には、それ

に対抗する措置(補助金相殺関税措置)をとることも可能です。このことは TPP についても、関税を下げるか

どうかということだけが問題ではなく、その基盤となるWTO上のルールを用いてどういった対抗措置がとれる

のかということまで含めてバランスよく考える必要があるということを示しています。

現在議論が提起されているその他の点についても、地域貿易協定とWTOとをあわせて、総合的に攻めと守り

を検討していくことが必要だということは言えるのではないかと思います。

本日のご説明のまとめは一番最初にお示ししました。要点は、国際ルール、特にWTOがFTAやTPPとどの

ように関連しているかをバランスよく勘案し、何が得で、何がそうではないかを検討する必要があるということ

です。

8.意見交換

(質問者)

とかく TPP というと、経済的な影響ということばかりが前面に出てくるので、きょうの法的な話はすごく関

心を持って聞かせていただきました。2点ほど質問します。

仮に、TPPの協定の内容と、国内法の内容に齟齬が生じてきたときに、危険なものは輸入されるものはないと

いうようなお話でしたが、例えばそういう生命、身体以外の、知的財産権のようなものになるとグレーなところ

があって、こういうところで齟齬が生じた場合の調整はどのように行われるのかという点と、補助金の規制があ

りますが、例えば TTP に仮に参加した時に、道庁が農業者に対して過度に支援が禁じられてしまうものなのか

どうなのかという点について、お聞きしたいと思います。

(小林准教授)

1点目は、TPP の条約と国内法の適用関係ということだと思いますが、原則からしますと、憲法 98 条2項に

条約は誠実にこれを遵守するという規定があるので、一般的、教科書的には条約のほうが優位です。国際法と国

内法が齟齬したら、国際法が勝つことになろうかと思います。関税の世界でも、関税法3条で条約に別段の定め

がある場合にはそちらによりますということが書いてあるので、一般論としては条約のほうが勝つということに

なります。日本の場合は、普通は入るかどうか決める前に条約の内容を精査し、国内法と照らし合わせ、齟齬が

ないように国内法を改正しておくとか、齟齬がありそうに見えるときは、なるべく齟齬しないように運用するな

どの形で手当することが通例です。しかし、仮に抵触する場合には、国際法が優先するということになっていま

す。

2点目の補助金ですが、確かにそれはTPPに入る前の今の段階でも、WTO協定上、貿易を阻害するような補

助金はすべきでなく、それによって他国に損害を与えれば対抗措置をとられることが定められていますので、過

度なものはできません。

もちろん、補助金の効果が国内だけにとどまるものは、基本的にはいいわけです。例えば直接支払いであると

か、国内における所得補償であるとか、それ自体は大丈夫です。しかし、輸出を促進するために、たくさん輸出

したらその分だけ補助金を与えるとか、税金を免除するとかといったものは危ないところがあります。例えば、

某フード総合特区で、国や自治体から補助金を受けて輸出を促進するというのは、多分いろいろな調整が必要に

なるのだろうと思っています。

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(質問者)

TPPで話題になっていることの一つに、投資家が相手国の政府や自治体を訴えて損害賠償を求めたり、法律の改

正を求めたり、条例の改正を求めたりできるという条項が入っているのではないかと言われていて、韓国とアメ

リカのFTAでも大問題になっていると思います。

前にニュージーランドの先生の講演会に行きましたが、国際紛争処理センターとかというところで、原告側と

被告側と第三国と3人だけで決め、不服申し立てを許さないということで、議会よりもそちらが重視されるとい

うのは民主主義に反するのではないかと言われています。どのような運用になりそうなのかお聞きしたいと思い

ます。

(小林准教授)

ご指摘の点は、いわゆる ISD条項、ISDS条項、Ⅰ(インベスター)とS(ステイト)の間のD(紛争)を仲

裁で解決する規定のことと思われます。この具体的な内容は、TPPの場合は交渉中の情報を公開しないことにな

っていますので、定かなことは言えませんが、未確定情報としての報道によれば、NAFTA、北米自由貿易協定

と似たようなルールを作る可能性があるように見ています。

例えば外国企業が日本に工場を作った後で、そこの自治体が「環境基準を変えたいから、その環境基準を守っ

てくれ」と言ったら、外国人投資家が「投資するときには聞いていない。追加的なコストがかかるから、損害賠

償しろ」と訴えてくるということがイメージされています。

これについては、幾つかの地域貿易協定において ISD条項を設けている例があります。有名な例がNAFTA(北

米自由貿易協定)で、アメリカ、カナダ、メキシコの3カ国の間で、そのいずれかの国の投資家が残り2つの国

に投資した場合に、外国政府による収用等によって何か損害を被ったような場合には、国家ではなく私人である

投資家が直接外国国家を訴えることができることが認められています。評価はさまざまで、NAFTA が最初にで

きたころには、当然、アメリカ国内でも主権の侵害だとか司法権の侵害だということが議論になったのは確かで

す。

その意味で、あまり簡単に仲裁を許す制度になったとしたら、確かに政府としては望ましくなく、特に地方自

治体に請求されたときに対応できるか、損害賠償を払えるか等、非常にリスクのある問題だと思います。ただし、

多くの場合は、自治体が外資系企業を放逐するために悪意でやったという場合でないのに、理不尽な賠償を請求

されたという例はあまり見られないというのが実態です。本当に外資系企業に差別的な扱いをした場合の高額賠

償の例はありますが、ISD条項があること自体で大きな問題が生じているわけではないと思います。

まとめますと ISD条項というのは、たしかに投資を受け入れる国家にとってリスクはあります。簡単に訴えら

れるような制度を作ってしまうと危ないとは思いますが、多くの制度では、そのような無理な訴えが許されるわ

けではありません。また、日本の場合は、外国に出ていって投資を行う方が恐らく多いでしょうから、日本人の

投資家を保護するためのツールという機能もあると言えます。

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第8回有識者ヒアリング 平成23年12月22日(木)

(第一講演)「地域資源を活かしたオール富良野のまちづくり」

ふらのまちづくり株式会社 代表取締役 西本 伸顕 氏

(第二講演)「地域課題を事業化することの可能性と課題」

NPO法人地域生活支援ネットワークサロン 理事・事務局顧問 日置 真世 氏

(第一講演)

「地域資源を活かしたオール富良野のまちづくり」

ふらのまちづくり株式会社 代表取締役 西本 伸顕 氏

講演要旨

・まちなかの一等地が空き地に。やるべきは、この空き地に大勢の人が訪れて、ものが売れ、まち全体に経済波

及効果が生まれる仕掛けを作ること。その仕掛けこそ「フラノ・マルシェ」。

・富良野の野菜は、全国一のブランドイメージがある。富良野は高いポテンシャルを有している。これをしっか

り表現できる施設を作れば、人は必ずやってくると確信。「食」をマルシェのキーワードに。

・マルシェの機能=「食」を使った新しい魅力の創出、イベント広場を使った「にぎわい」づくり、インフォメ

ーション機能の充実による「まちなかへの回遊」づくり。

・「人が人を呼ぶ」、人が集まる空間をつくれば、近隣に人の流れが生まれる。人を魅了する人の力が重要である。

・地域に根ざした、その土地ならではの個性的な商品や店づくりをすること。地元の資源をもう1度見直し、そ

れらを束ねて売り込むことが必要である。

1.はじめに

フラノ・マルシェがある富良野は、年間200万人ぐらいの観光客が毎年訪れますが、観光客が足を運ぶのは郊

外の観光地だけであり、まちなかには観光客が寄らない現状がありました。駅前に「北の国から資料館」という

観光客向けの施設が一つありますが、これも「北の国から」のブームが去っていく中で、訪れるのは年間約8万

人で、年々減少しています。観光で潤ってはいますが、まちなかを見ると、最近のどこのまちでも見るような、

高齢化が進み、後継者難、売り上げ減少から閉店、廃業と疲弊した状態にあります。まちなかは空き地、未利用

地がどんどん増えていくといった状態でした。

これは車社会に移行したことに原因があり、特に郊外に大型店ができ、新興住宅地もまちなかではなくて郊外

にあるため、車を使っての買い物になります。平日は地元の大型スーパーで買い物をし、週末は都会に出て買い

物するということになると、まちなかの商店街はお客さんがいなくなって売り上げが減少します。これは全国的

にあることで、富良野もその例に漏れないということです。富良野は幸いなことに観光客が飲食のほうにも来て

いただけるので、飲食店は残っていますが、物販その他はどんどんなくなっていっている状態です。

「このままいくと、中心市街地が崩壊してしまう」、「中心市街地はまちの顔であり、そこがだめになってしま

うとまちそのものがだめになってしまうのではないか」いつもまちづくりの談議をしている仲間の中で、このま

まの中心市街地ではだめだという話を日常的にしていました。

そこで、まちに元気を取り戻そうではないかといろいろ考えていたところ、きっかけが起こりました。一つは、

市街地の一等地にあった協会病院が高度医療のために駅裏に移転するということでした。国道 38 号線が通って

いて、クロスする駅につながる5条通、一番にぎわいのある、店並みもきれいな通りのちょうど角地に2,000坪

の土地が空いてしまうということでした。

せっかくの一等地です。「ここを何とか我々が開発をして、人が集まるように、今まで 200 万人来ている観光

客がまちの中に入ってきてくれなかったけれども、そういう施設をつくるので、預けてほしい」と市長へ直談判

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しました。そのときは何をやったらいいかよくわかりませんでしたが、このままではだめだという危機感の中で、

そういうかけに打って出たというわけです。

やるべきは、観光客を含めて、まちなかに大勢の人が訪れて、ものが売れて、まち全体に経済波及効果が生ま

れる、そういう仕掛けをするということです。そうなれば、商店街の人の暗いムードを、少し勢いづけることが

できるのではないかと考えました。

2.富良野らしい滞留空間―フラノ・マルシェ

そこで思いついたのがこのフラノ・マルシェという計画で

す。これは新まちづくり三法の改正に伴って、新たに法定協

議会を立ち上げて、新たな中心市街地活性化基本計画を作っ

た中で出てきた一番最初のテーマです。

施設の中身は、中心市街地を活性化させるためのにぎわい

の拠点として、おいしいものを通して富良野の新しい魅力を

発信し、まちなかに観光客の皆さんに入っていただけるよう

な流れを作っていこうというものでした。

施設の中身としては、農産物の直売所、スーベニアショッ

プ、スイーツのカフェ、テイクアウトショップ、インフォメ

ーションセンター、そして施設の真ん中に100坪ほどのイベ

ント広場を設けました。まちの一等地にしては大変ぜいたく

な公園のようなつくりで、補助金をいただいた経産省さんとかなり議論になった部分ですが、あえてそういうゆ

るい空間をつくりました。我々がつくりたいのは、ゆったりと時間を過ごして、そこで富良野の情報をしっかり

と入手していただき、そこからまちなか観光につなげていく、そのための情報発信拠点でした。そのため、人々

がゆっくりとそこで過ごせる一見無駄なような空間、イベント広場が必要だったのです。

交通の便のいいところですから、ともすれば道の駅をつくってしまいますが、道の駅は通過型の施設、交通の

便宜を図るための施設です。道の駅は、まちの活性化に直結する施設ではありませんので、いろいろな制約があ

ります。

この空間は非常に機能し、トップシーズン、昨年の5月3日には、1日で8,000名来ました。本当に人であふ

れていました。観光というのは不思議なもので、人を見に来るというのも一つの観光なのですね。人が集まって

いると、何があるのだろうと思って集まりたくなる。そういう仕掛けをこのマルシェでつくりました。単なる商

業施設でものが売れればいいということではなく、富良野らしい滞留空間というイメージでつくったのがこのフ

ラノ・マルシェです。

3.地域資源にこだわった新しい魅力づくり

新しい基本計画を立てるに当たって、データを調べておりました。地域ブランド総合研究所が毎年発表してい

る地域ブランドイメージ調査では、富良野は幸いなことに毎年ベスト 10 に顔を連ねています。北海道は全国的

に人気があり、いつも1位、2位は札幌、函館が争っています。また、小樽、富良野の名前が必ず入ってきます。

今年は小樽を抜いて富良野が6位、小樽が8位でした。いずれにしても2万5,000人のまちにしては大健闘です。

細目を調べましたら、野菜の購買意欲が全国第1位でした。第2位が京都でした。我々から考えると、京都の

ほうが圧倒的だと思ったのですが、全国から見ると京野菜に匹敵する、あるいはそれを凌駕するだけのブランド

イメージを富良野の野菜に持っていただいていることがわかりました。また、食品の購入意欲度が全国で第7位

です。

これだけのポテンシャルがあるのに、それをちゃんと表現する施設がなかったということです。きちんとこの

期待にこたえるような施設をつくれば、必ず人は来るという確信がありました。

そこで、富良野の食をすべてそこで表現しよう。そして、観光で来たついでに必ず立ち寄ってもらえる施設を

つくろうということで考えが至ったのがこのフラノ・マルシェでした。

マルシェというネーミングは、最近随分あちこちで使われるようになりました。昔はバザールや何とか市と言

っていたのが、最近はマルシェ。ちょっと音の響きもおしゃれなので、どんどん普及しているようですが、この

計画をつくった5年前、内閣府の認定を受けた4年前、この世の中にマルシェという言葉はほとんど発信されて

いませんでした。これが内閣府の認定を受けた後に、農水省でマルシェプロジェクトという、全国にマルシェを

つくろうといった事業ができました。これは完全にパクられたなと思いましたが、何と民主党さんに政権が変わ

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られて、事業仕分けで仕分けられ、それ以降マルシェの全国展開というのは進んでいないようです。これはちょ

っと自負しているのですが、恐らくマルシェをこの世に広めたのは富良野であり、お台場にめざマルシェという

のがありますが、計画は我々のほうが先だったということで、「元祖マルシェ」と勝手に言っています。

よく調べると、本当に富良野は食材の宝庫です。ワイン、牛乳、チーズ、ソーセージ、大変有名です。また、

スイーツではハーフボトルの牛乳瓶に入った牛乳プリンは、恐らくフラノデリスさんのオリジナルです。それか

ら、雪どけチーズケーキは、今や、高速道路の販売所でも売っていて、クオリティも非常に高い商品です。

富良野はテレビ取材も多いのですが、くまげら、唯我独尊、支那虎、とみ川といった全国的な知名度を誇るラ

ーメン屋さんもあります。また、JA ふらのやデイジー食品の加工食品もあります。とにかく地元の地域資源に

こだわり、活かし、新しい魅力がある施設を目指しました。

4.新しい名物づくり

日商の補助事業で100%補助という、使い勝手のいい補助があり、毎年およそ1000万円、3年間で都合3,000

万円を使わせていただきました。補助金を有効に使って開発したスイーツ、お総菜やそのパッケージデザインは、

今、マルシェに並んでいます。

観光では、作っているところを見ていただくという、ある種、お祭り気分の演出も有効です。テイクアウトの

店では、全てその場で作ってお持ち帰りいただくという形にしています。「めんこいベア」という人形焼きや、ぶ

たまん、カレーまん、「なまら棒」という33センチの巨大な揚げ餃子があります。

売り場ができ地元の食材を使って何かをやろうという機運が生まれ、新しい商品も幾つか誕生しました。人が

来てにぎわいがでると、何か頑張ろうという気分がまち全体に起きた、そのような心理的効果が非常に大きいと

に思っています。

5.まちなかへの波及

観光客が来られる施設ですので、インフォメーション機能の充実を図り、タウン情報センターを作りました。

センターにはお店のパンフレットをおき、ガイドの人をおいて、まちの中の観光を案内しています。

マルシェにはレストランや食堂を作りませんでした。作ってしまうと、そこで完結してしまい、まちの中へ入

っていく理由がなくなってしまうためです。マルシェに関わる人だけがもうかるのではなくて、まち全体に経済

波及効果をもたらしたいということで、あえて最終食は避けて、いろいろなお店を紹介することで、まち全体が

潤う仕掛けにしました。また、イベント広場で四季折々のイベントを行ったり、商店街と連携してグリーンフラ

ッグ運動、ハローウイン、クリスマス、お正月のイベントを行っています。おかげで、マルシェの周辺200メー

トル以内のお店は売り上げが倍増したところも少なくなく、2割、3割の売り上げ増は当たり前という状態にな

りました。残念ながら、物販は観光客用の商品を置いておりませんので、今のところはつながっていません。将

来的には観光客をターゲットに商品づくりをしていこうという流れもありますが、今のところは食品に限定され

ているというのが実態です。

6.来場者数等

現況ですけれども、22年度(4月22日のオープンから3月31日まで)に、55万5,000人の来場がありまし

た。23 年度は、今のところ12 月 20 日現在で 59 万人、恐らく年間 65 万人ぐらいで、昨年の 1.2 倍ぐらいの来

客数になるものと思っています。来場者数でいうと、トップシーズンである5月~9月の平日で 1,500 人から

2,500人、土日になると3,000人から8,000人です。オフシーズンも最低500人は来場する施設になっています。

地元と観光客の割合は、トップシーズンは1対9、オフシーズンは1対4で圧倒的に観光客の方が多い状況です。

売り上げは22年度が5億円で、23年度は5億5,000万円の1割増を見込んでいます。震災以降、少し消費マ

インドが下がっています。

来場者約300人を対象にアンケートをとりました。97%が「来てよかった」95%が「また来たい」と回答して

くださいました。非常にリピーターが多いというのが特徴で、非常に満足していただいていることがデータから

も読み取れます。

7.お土産品の特徴

5億円の売り上げのうち半分がスーベニアですが、ここの商品の8割が地元商品です。2,000 アイテムありま

す。2 万 5,000 人のまちで、富良野ブランドの商品が 2,000 アイテムというのは、普通、あり得ません。何でそ

んなことになっているかというと、「北の国から」が始まったときにさかのぼります。先輩たちが、どこかのお土

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産のラベルを貼り換えて売ることはやめて自分たちで商品を作ろうと、実に 30 年間いろいろやってきたもので

す。それが売り場を得て、今、花開いていますが、その数が2,000アイテムで、富良野に行かなければ買えない

という商品が圧倒的に多いのが特徴です。ですから、「今度来たら、次のお土産はこれにしよう」といった楽しみ

があるので、その辺もリピーターにつながっているのではないかと分析しています。

8.マスコミによる好意的な取材

まちづくりの文脈の中ででき上がった商業施設として、マスメディアの皆さんが非常に好意的に取り上げてく

れました。また、オール富良野という、まち挙げての取り組みを非常に高く評価をしていただき、2度、3度、

と放映していただきました。

宣伝広告費に予算がなかったもので、じゃらんとるるぶに1回ずつと、地元の新聞チラシに広告を出した以外

は、広告費は使っていません。ほとんどメディアの好意的な、ニュースという一番効果の上がるPR をやってい

ただいたことは、非常に大きかったと思っています。

9.人が人を呼ぶ

あくまでも人間が中心で、まちの中でゆったりとくつろいでいただくことをテーマにしたところが評価いただ

いていると思います。ですから非常に子連れが多いのです。小さいお子さんが来て、何もないそのイベント広場

を子供たちが走り回っているだけです。ですが、その様子はとてもいい風景で、お母さん方がいすに座ってアイ

スクリームをなめながら、子供たちが楽しそうにはしゃいでいる姿を見ている、あるいはおじいちゃん、おばあ

ちゃんがお孫さんを連れてきて、そういう風景を楽しそうに見ている、これは非常にいい風景です。ヨーロッパ

などに行くと、必ず広場があって、商業施設があって、そこにおじいさんが1日中人の行き交う姿を見て、何と

なく満足しているような絵面がありますが、まさにそういう風景が富良野のマルシェの中で展開されているとい

うことです。駐車場は別に区切って、入場したら全く自動車のない世界ですから、子供たちが安心して遊べると

いうことです。

人が人を呼びます。ゆっくり買い物して、どこかで休むという空間が、日本の商店街には意外とありません。

フラノ・マルシェはベンチやイスをやたら置いています。皆さん腰かけてアイスクリームをなめています。それ

がさくらになって人を呼びます。今後、北側の再開発をやる第2弾では、人がゆったりと休める空間をどんどん

作っていこうと思っています。

10.これからの取り組み

人が集まる空間をつくれば、近隣のところに人が流れていくということは、飲食の場合は可能です。ただし、

物販では観光客の琴線に触れるような商品、あるいは店づくりをしないことには観光客は来てくれません。観光

客をターゲットに商品をつくり変えるしか生き残る方法はないと思います。地域に根ざし、その土地ならではの

個性的な商品や店づくりをしていく必要があります。

まちづくり会社が補助事業の中で、一店逸品運動を始めています。先進事例としては、静岡が発祥で、その他

青森、鹿児島、全道でも今取り組んでいるようですが、我々も遅まきながらやっていこうとしています。一店逸

品は「逸品」と書きます。自分のお店をもう1回見直し、商品、店づくりから、みんなで考えながら個性的なも

のを作っていこうというものです。それは1人でやっても発信力を持ちませんから、通りとしてPR していきま

す。そのお手伝いをまちづくり会社がしようと、今年から一緒にその取り組みを始めています。

今年度は先進地の視察、来年度から実際に活動に入っていく予定です。マルシェに来た50万人、60万人の人

たちが、そのまま帰るのではなくて、まちの中を回遊してもらうために、それにふさわしい店づくり、商品づく

りをしていこうと考えているわけです。

また、店作りには人を魅了する人の力が重要です。くまげら、とみ川、唯我独尊などは、マスターの人柄に人

が引きつけられてきます。お話も非常に上手で、マスターとお話したというのが旅の土産話になります。ユニー

クな人たちをどんどん表に出していって、人を売り込むということがこれからの商店街で大事なことではないか

と思っています。

まちには必ず売りの商品なり、空間なりがあるはずです。それを見つけて名所づくりをすることです。名所は、

これが名所だと言ってもだめで、人が集まることによって名所ができます。地元の資源をもう1度見直し、それ

らを束ねて売り込むことです。

我々がずっとこだわっているのは、最終的にはホスピタリティだと言っています。マルシェでも、来たお客さ

んにもう1度来てもらうため、商品のクオリティは当然ですが、やっぱり人です。「あなたの笑顔がファンをつく

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るのだから」とさんざん言っています。売り子にはとびきりの笑顔でやってもらいます。ホスピタリティはマル

シェが一番だと言われるように、このようなマインドを持った人たちを採用の段階から選びました。たまたま店

でケーキを売っているところに立ち会ったところ、かなり年配のおばあちゃんが来て、「あなたたちの笑顔を見て

いるとつい買っちゃうのよね」という言葉を口にされました。これは本当に商売の原点だなと思ったし、うれし

いなと思いました。そういうホスピタリティは非常に大事だろうと思います。

最後に、名所にはおいしいものが必要だということです。これからのキーは「食」です。まず食で引きつける

というのが商店街再生の一番のテーマになっていくと思います。

11.意見交換

(質問者)

フラノ・マルシェのホームページやお話を聞きますと、コンセプトがしっかり考えられていて、デザインやス

トーリーが明確に感じられました。だからこそメディアに取り上げられているのかなと感じました。コンセプト

づくりに参加されたのは、ふらのまちづくりに出資している地元の方が中心なのでしょうか。市外の方など外部

の方は参加されていたのでしょうか。

(西本代表取締役)

コンセプトワークは、常時会議をするコアメンバー5人で行いました。基本的なところは、協議会の運営委員

長をやっていた私から委員長素案として出しました。その後はコアメンバー5人でブラッシュアップしました。

コンサルとかはそこには入っていません。もちろん、具体的な事業にはコンサルが入っていますが、肝心コンセ

プトワークは、よそから知恵を借りより、どのように地元の情熱を注ぐかを考えました。ただし、それより前に

既に協会病院がなくなるということで、5条商店街がかなり危機感を持っていました。それをテーマに、商店街、

あるいはまちづくり関連の人たちが集まって、どういうものをそこに持ってくるか議論されていました。もとも

との議論があり、私はそれを具体的な形としてコンセプト素案にまとめたということです。全市的な議論の中で

積み上がって出て来た答えといえます。

(質問者)

隣にラルズのスーパーがあったかと思いますが、スーパーとの差別化をどのように考えられたのでしょうか。

(西本代表取締役)

富良野の野菜に対する購買意欲第1位です。ところが、ラルズさん、生協さんで実際に売られている野菜は、

富良野産ではありません。1度、ホクレンさんが中央に吸い上げて、そこから荷さばきしますので、必ずしも富

良野の人間が富良野の野菜を食べているわけではありません。富良野の野菜をどこで買えばよいのかわからない

状態でした。富良野の人が富良野の野菜を食べられる売り場を作る、野菜売り場をまず核にしようというのが私

の考え方です。

それから、スーベニアについても地元商品が8割です。テイクアウトについても、地元で調達できるものは地

元で調達します。観光客を意識していますので、自ずとラルズさんの日常で買い物する商品とのすみ分けができ

ていると思います。

(質問者)

まちづくりとか事業を展開されるにあたり、コーディネーター役はいらっしゃったのでしょうか。

(西本代表取締役)

大事なコンセプトの部分についてはメンバーで行いました。ただし、外部の知恵も借りないと、我々も専門外

のことがたくさんありますので、まちづくり関連のコーディネーターにお手伝いいただきました。権威はなくて

もいいから、フットワークがよくてネットワークが広い人という基準で選んだコーディネーターにお手伝いいた

だきました。

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(第二講演)

「地域課題を事業化することの可能性と課題」

NPO法人地域生活支援ネットワークサロン 理事・事務局顧問 日置 真世 氏

講演要旨

・地域生活支援ネットワークサロンは、課題に直面した人たちがその解決を図っていく過程で誕生したNPO 法

人である。リアルなニーズに応えた事業を展開している。

・事業のポイントは三つある。リアルな顔の見える1人のニーズから出発すること、ニーズを共有化するプロセ

スを「たまり場」を通じて形作ること、ニーズに応じた柔軟な事業展開ができる柔軟な組織であることである。

・「たまり場」の要素は四つある。多様な人が集まること、みんなが賛同する分かり易い目標があること、対等

な対話と協働が保障されていること、新しい文化、発想、価値観などを創造することである。

・課題の放置は、課題を棚上げすることに留まらず、活躍できる人や成長のチャンスをつぶし、社会資源を埋も

れさせる。社会全体に循環が起こる仕組み、仕掛けが必要である。

・社会全体に循環が起こる仕組み、仕掛けを作るため三つのことを提案する。実験ができる環境を整備すること、

異分野が出会う仕掛けを作ること、担い手になる人材を養成、教育するシステムを作ることである。

1.はじめに

今日は NPO のお話をしますが、私はもともと夢や野望があって NPO を起業したのではありません。もとも

とは自分の子どもに障がいがあり、障がい児がいる暮らしに直面したときに、困難が降りかかってきました。そ

の困難を放っておくと大変です。どうしたら楽になるかを仲間と一緒に考えていたら、それが仕事になってしま

ったという話です。今からお話しする釧路や北海道には、地域課題が山積しています。その中でも「いろいろな

ことが出来るのではないか」というお話をします。

釧路は全国の地域課題の先進地です。生活保護の受給率が高いことは有名です。今は5%を超えて、18人に1

人が生活保護を受ける状況で、大阪と一、二位を争っています。10数年前に日本最後の太平洋炭鉱が閉山し、仕

事がどんどんなくなってしまったということがありますが、いろいろな意味で厳しいまちです。

私は、地域課題だけが先進地ではなくて、それに対する取り組みも先進地だと言っています。最近では、釧路

市役所が取り組んでいる自立支援プログラムという生活保護世帯への応援のプログラムが全国的に有名になって

います。

私は、これから日本全国が釧路化していくと思っています。地方都市は同じような状況を抱えていますが、釧

路の人たちの取り組みが参考になるのではないかと思っています。

2.NPOの立ち上げ

NPO を立ち上げることになった最初のきっかけを簡単に紹介します。前身は、93 年にできた「マザーグース

の会」という障がい児を持つ母親の小さなおしゃべり会でした。私は 94 年にこの会に出会いました。そこでい

ろいろなお母さんとの出会いがあり、おしゃべりを通して、困っていることを出し合うという経験をしました。

転機は 98 年で、助成金を使って「みんなのゴキゲン子育て」という情報冊子を作ったことでした。自分たち

の目線で必要な情報を集めた150ページぐらいの本でしたが、意外なことに必要な側の目線で作ったということ

が功を奏し、5,000 冊ぐらい売れました。それまで、自分たちは障がい児を育てている親として、だれかに助け

てもらう立場でした。しかし、自分たちの視点・発想が、実は人の役に立つものなのだと気づいた瞬間でした。

また、助成金をいただいて何かをやることの可能性、事業をするということの可能性に気づきました。

そのようなことがあり、翌年の99年にも補助金を利用して、療育サロン=障がい児のお母さんたちを中心に、

いろいろな人たちが集まれる場所を、空いた幼稚園の建物をお借りして作りました。

そうすると、いろいろな人たちがそこで出会い、いろいろな課題が持ち込まれて、いろいろなつながりができ

ます。2000年に、マザーグースの会でやっていた活動を、「地域生活支援ネットワークサロン」という組織を立

ち上げ、事業体として自立させました。

たまり場づくりや情報発信が目的で作った団体でしたが、2000 年12月にNPO法人になりました。翌年に本

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格的な事業を始めました。この年初めて職員が3名登場します。養護学校の卒業生の行き場がないというリアル

なニーズに応える事業を始めましたが、あれも足りない、これも困っているというニーズがあり、事業はどんど

ん増えていきました。

現在は、福祉分野を中心に、釧路市内と近郊の釧路町含めて、20 以上の拠点があり、職員が 160 人を超える

大きなNPOになり、年間の予算規模も今年は5億円を超える状況になりました。

地域課題を解決する活動を行ってきましたが、その中で人が働く場や活躍する場を増やしていくことの重要性

に気づくようになりました。これからどんどん地域課題が増えていくので、興味深い分野ではないかと思ってい

ます。

3.NPOの事業構造

よく「財源はどうしているのですか」と聞かれます。福祉事業所の指定を受けて、障がい福祉のサービス提供

をしています。必要なサービスを作れば、利用してもらうことによって事業収入を得ることができます。補助金

に依存しているわけではありません。最初のうちは大変でしたが、民間や行政からの事業委託、補助事業を使っ

た事業も行っています。

主な事業は、子育ての支援、介護の必要な人たちの一時的なケアの肩がわり、相談の事業、障がいのある方や

お子さんが通ってくる場所、就労支援、支援の必要な人が共同で暮らす場、ひとり暮らしの応援、ヘルパーのよ

うに1対1で付き添いをするサービス等、いろいろな人たちの生活を支える事業が挙げられます。

地域モデル事業=地域課題を補助や委託をうまく使いながら、新しいシステムや、地域の事業モデルを作るこ

とにも取り組んでいます。

釧路の一番の地域課題、生活課題は「雇用がないこと」であり、仕事をつくることに随分と力を入れています。

また、なかなか仕事につけない人たちが新しい活躍の場を得るために、働き方のスタイルを新しく作っていくモ

デル事業、地域のセーフティーネットづくり事業をここ数年随分大きく取り組んでいるところです。

その中で、例えば生活保護世帯の子どもたちの勉強会をやったり、生活保護を受けている方たちと農園を一緒

にやったり、それを売るということで仕事づくりにつなげたり、いろいろな細かいモデル事業が組み合わされ、

メニューも広がっているところです。

4.事業成功の三つのポイント

釧路の事業のポイントを、私が今年の春まで3年間、北大で研究して気づいたポイントについて三つほど紹介

したいと思います。

まず一つ目は、生活をベースに地域をつくるときにとにかく必要なことはニーズが大事だということです。こ

れは多分、普通の商売でも同じなのだと思いますが、何が必要とされているのか、必要なことをすごく大事にし

ようということです。福祉の業界の失敗例でよくあるのが、自分たちのやりたいことや理想を追い求めるという

ことです。私は生みの親発サービスづくりと名づけていますが、サロンが手掛ける数々の事業は、全て1人のニ

ーズから出発しています。アバウトなニーズでは物事は起りません。リアルな顔の見える1人のニーズから、追

い求めてきました。

二つ目は、ニーズは1人から出発しますが、ただ1人のニーズで事業化するわけではありません。大事なのは、

口コミや人のつながりの中で、ニーズをどうやって見えるようにするか、共有化するか、そのプロセスが大事だ

と思っています。私はそういう仕掛けのことをたまり場と呼んでいます。また、たまり場を恒常化したものが実

験事業です。

三つ目は、ニーズに応じた柔軟な事業展開をするために、新しい組織、柔軟に動ける組織が必要です。どうし

たらいいかを常に考え、動き続ける組織でなければなりません。必要に応じた柔軟なマネジメントをできる組織

というものがすごく重要であると思っています。

5.「生みの親」と「たまり場」

私たちが一貫して大事にしてやってきたのは、たまり場という仕掛けを地域につくることでした。たまり場が

あると、人々の悩み、もやもやしたもの、つぶやき、知恵、希望、ひらめき、そういうものが集まってくるわけ

です。ある時、具体的に困っているという人があらわれて、「私はこんなことで困っています」と言ってくれる人

が登場します。その瞬間に、地域にはこういうものが必要だということがわかるわけです。そうすると、○○さ

んが困っているならどうしようかということで、具体的な事業が実現します。私はこの○○さんのことを生みの

親と呼んでいます。

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具体的に事業化するときは、お試しみたいなことから始めることが多いです。もともとやっていることに少し

工夫をしてということもあると思います。そうやってちょっと工夫をしてやってみると、実はそれを必要として

いる人が他にもたくさん出てきます。うまく制度を活用することができたり、いろいろな人との連携ができたり

しながら、事業がどんどん見えるようになっていきます。私は、この生みの親がどれだけ活躍できるかがすごく

重要だと思っています。

私は、今までの活動の流れから、地域のいろいろな課題を解決する上で「たまり場」が重要だと思います。た

まり場とは、人が集まる場所ではなく、機会とか仕掛けです。みんなが集まって勉強会をすることもたまり場と

して位置づけることもできます。

6.たまり場の重要な四つの要素

ただし、たまり場には重要な段階的な四つの要素があります。

一つ目は、多様な人たちが集まるということです。福祉の分野、福祉だけではなく、行政機関もそうだと思い

ますが、社会の高度化、分業化が進み縦割りになっていますので、人が集まるときに、同質集団になってしまう

ことが多いと思います。ニーズ、知恵、方法論も偏ってしまいがちです。まずは、多様な人たちが出会うという

のがたまり場にとっては必要だと思います。

二つ目は、多様な人たちが集まり、そこに同じ目標、共有するテーマがあるということです。多様な人たちが

集まると、いろいろな方向を向いていたり、いろいろな視点、発想があったりしますが、それを一つの方向性に

集約することが必要です。基本的なことで構わないので、みんなが賛同する目標をわかりやすく作っておくこと

です。

三つ目は、対等な対話と協働が保障されていることがとても重要です。実は一つ目、二つ目の機会は、世の中

にたくさんあります。最近は、協働を行政が主導していることもあります。協議会、委員会、会議など、多様な

人たちが集まって、同じ目標や共有するテーマはありますが、残念ながら一方通行の話だけで終わりということ

もあります。

四つ目は、新しい文化、発想、価値観などを創造するということです。多様な人たちが集まって、共有するテ

ーマがあり、肩書きや立場を超えるやりとり、対話、一緒にやる機会を保障することで、新しい文化や発想、価

値観が創造されると思います。

地域課題を解決すること、まちづくりに取り組む人は誰かというと、最後にやっている人だけが担い手になっ

ているような気がします。しかし、私は、悩みを打ち明けてくれる人、困っていることを発信する人が、その役

割を果たしてくれてこそ、実行性があり、必要な事業への取り組みが成り立つと考えています。ただやってもら

う人をつくらないことが重要です。

7.コミュニティハウス冬月荘

たまり場の事業で最近注目されているものに「コミュニティハウス冬月荘」があります。このプロジェクトは、

2007年に私が参加した道庁の道州制の会議をきっかけに作りました。いろいろな地域課題がある中で、福祉の関

係者がそれぞれの福祉分野で取り組んでいたものを、福祉の枠を越えた地域拠点としてどのような施設があれば

釧路を元気にできるか、プロジェクトを組み、みんなで考え、結果として誕生した実験事業です。施設は、使わ

れなくなっていた北電の社員寮をリサイクルしました。

私は、地域の中で困っていることを知っている人を「ニーズマスター」と呼んでいます。困っている人は「当

事者」です。コミュニティハウスは、場所があり、職員がいて、地域のニーズマスターや当事者とコラボした取

り組みを進めていく拠点と位置づけられます。

コニュニティハウスの看板事業の一つに、2008年1月に釧路市役所の委託事業としてスタートした「みんなで

高校へ行こう会」という生活保護世帯等の中学3年生の勉強会があります。これは中学生ほか参画者を巻き込ん

だ「Zっと!scrum」という取り組みへ発展して、今年度で5期目に入ります。

これがスタートしたきっかけは、市役所職員のニーズマスターでした。釧路市は実態調査を行い、生活保護を

受けている世帯の子どもは塾や習い事に行く比率が非常に低く、逆にいじめや不登校を経験する率が高いこと、

経済事情から参考書を買うことができないことを明らかにしました。勉強も確かに大事ですが、社会から孤立し

ている実態を見ていましたので、社会とのつながりについて話し合いました。その結果、登場したのがこの勉強

会です。この勉強会は、ニーズから送迎や給食を付け、子どもたちがいろいろな経験ができるようにしました。

生活保護を受けている子どもたちが中心ですが、だれを連れてきてもいいので、いろいろな子どもたちがかか

わってくれています。5期目に入り、それまでの教えられる側から高校生になって教える側になり、つながりを

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通じた様々な活動に関わり、自信をつけてくれています。色々な事情で高校を辞めてしまったとしても、就職に

向けての活動もあるので、そちらに参加したり、いろいろな意味で活躍しています。

「冬月荘」自体は、課題が持ち込まれてから取り組みが始まります。何をするかはその都度変わりますが、定

着している勉強会があったり、最近定着している事業としては親子ランチがあります。

「冬月荘」には 20 畳の和室があり、広い厨房もあります。許可をとって、ランチを営業し始めましたが、口

コミで広がって、お母さんたちが子どもたちを遊ばせながら安心してランチを食べる取り組みが広がりつつあり

ます。これは、二つのニーズから生まれました。お母さんたちの子育て支援という意味合いのニーズと、仕事に

就くことが難しい若者たちの就労の練習場所がほしいというニーズです。

いろいろな取り組みがされているので、きょうはほんの一部なのですけれども、そういういろいろな人たちが

ここで自分らしい活躍ができたり、何か社会との接点ができたり、つながっていったりというような場所がコミ

ュニティハウス、それがたまり場的な実験事業の一つです。

8.地域起業総合センターまじくる

大人も元気をなくし、居場所がないということに気づいたので、昨年の5月に作った拠点が「地域起業総合セ

ンターまじくる」です。これは、釧路の失業者が多いということに尽きますが、多くの人がハローワークと家を

往復して、どんどん元気をなくしてしまっています。年齢がある程度高い方や若者で経験が少ない方、学歴が低

い方などは、なかなか就職がありません。しかし、何もできない人たちかというとそうではなくて、多様な職歴、

技能、経験、よさがあるわけです。それを放っておくことは地域にとって損失だと感じています。人が出会って、

社会とつながり、何かしら生み出していけるような場所をつくろうとして形になったのが「まじくる」です。

私たちの活動は全部、困っている人を中心に、つながり、困っていることを囲んで、何かを考えていこうとい

うスタイルです。求職中の人たちがお互いに学び合い、気付き合い、社会資源とつながって、地域の中に「働く

場」を創りだしていく地域拠点です。もちろん、インターンシップで職場体験にも行きますが、営業スタッフを

置いていて、釧路近郊の200から300ぐらいの企業を回り、活動を伝え、協力してもらえる企業とつながりを持

ち実習させてもらったり、実習を通してマッチングし採用してもらったり、コラボしたり、新しい取り組みにつ

ながったりすりことも起こっています。

実際に、最初、釧路の現状や、課題を抱えた人たちが多いなかで、直接数字に結びつくことは期待していませ

んでした。しかし、みんなで考え、それぞれのニーズに応じた取り組みを模索した結果、約4割の人たちは何ら

かの仕事につながっている状況です。

9.システムとして機能

今、釧路での地域事業は、「まじくる」や「冬月荘」などで出てきた様々なニーズを組み合わせて、一つのシス

テム、仕組みとして展開されています。いろいろな課題を抱えている人たちが、困っていることを相談でき、居

場所があり、何かしら地域に活躍するような出口につながるシステムがここ数年でできるようになりました。い

ろいろな国の事業や道の事業を活用しながら、このシステムをモデル的に動かして、うまくつなげているところ

です。

最近一番力を入れているのは、特に若者たちを支える重層的な就労支援です。若者たちの就職問題が深刻です

が、実は若者たちに何か原因があるのではなくて、若者たちを生かせない社会に問題があると考えています。そ

の中で、法人としては、生活の場も保障して、就労につなげていくというプロジェクトに一番力を入れています。

10.提案

まずは、課題を放置しないことです。課題の放置は、課題を棚上げすることに留まらず、活躍できる人や成長

のチャンスをつぶし、社会資源を埋もれさせてしまいます。逆に、チャンスを失った人たちが税金で養われる存

在に陥ってしまっています。若者たちがニートになる、職を失い生活保護を受ける、障がいのある方が保護の名

のもとに活躍させてもらえない、母子世帯のお母さんが子育てが大変で仕事になかなかつけないなど、本当はい

ろいろな人たちがいろいろな力を持っているにもかかわらず、チャンスがない状況です。これはやはり、反省し

なければならないし、社会全体で対応することが必要だと思います。

少子高齢化が進むと、稼働年齢はどんどん少なくなってしまいます。だれもが活躍できるような仕掛けに組み

かえていかなければなりません。今までの福祉の発想は、強い経済力から足りない分を恵んでもらって成り立っ

ていたわけです。経済力がうんとあるときには有効で、困ることもありませんでした。今のように社会全体の経

済力が低下していると、それがなかなかうまくいきません。

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また、高いところから低いところに注ぎ込む形では、結構なロスがあったと思います。しかし、高いところ、

低いところはもともと離れて存在するわけではなく、つながっているものです。もともと持っているものを伸ば

す取り組みをしながら、今まで保護されていたような人たちが社会の担い手として活躍できる仕掛けをつくって

いく必要があります。社会全体に循環が起こるような仕組み、仕掛けがこれから必要なのだろうと思っています。

そのための三つの提案をします。

一つ目は、実験ができるように環境整備が必要だと思います。例えば、「ゆるく満額ではない金銭の援助システ

ム」が考えられます。福祉は何か 100%お金を与えるというイメージがありますが、一部でいいので、もっとゆ

るやかなもので、プロセスに対して援助することが必要だと思います。

私たちは、実験をするため、いろいろな事業に申請を出します。その際、例えば「何をするのか」と言われ、

「何をするかを考えることをするのです」と言ってまるで理解してもらえません。しかし、やりながら考えるこ

とも有意義だと思います。満額ではなくとも、期限つきでも、段階的に減らしていく方法でもいいので、いろい

ろな意味で援助する仕組みが必要だと思っています。

二つ目は、実践している人が分野で縦割りになっていますので、異分野が出会うような仕掛けが必要だという

ことです。取り組みをバックアップしてくれるような研究者など、いろいろな応援団の体制も必要ではないかと

思います。また、マネジメントのノウハウがもう少し確立されなければならないということです。最近、コミュ

ニティビジネスがはやっていますが、それを推進するようなものを見ると、今までのビジネスノウハウを応用し

たものばかりが目立ちます。私はそれではだめだと思っています。地域によって事情も、資源も違いますので、

そういった地域の実践に応じたマネジメントの確立が必要だと思っています。

三つ目には、担い手になるような人材を養成する、教育するシステムが重要だと思っています。それはリーダ

ーシップタイプではなく、触媒タイプの人です。いろいろな人たちが集まったときに、やりたい人がやりたいこ

とをできる、そのような環境をつくる触媒タイプの人材が育っていくことが必要だと思います。触媒タイプの人

は実は結構いろいろなところにいて埋もれています。事業をやりながらも、隠れていた触媒タイプの人たちが次々

と発掘されて活躍をしています。媒体タイプの人たちが活躍できる仕組みが今後重要になってくるものと思いま

す。

11.意見交換

(質問者)

国の補助金や制度をうまく活用して取り組まれていると感じています。その中で今年度や来年度で期限が切れ

る補助金もあると思います。切れた後のことで何か考えていらっしゃるでしょうか。

(日置理事)

今日紹介したシステムは、ほとんど今年で切れるものばかりのメニューです。来年度、どう組みかえるかにつ

いては話し合われていて、大体めどは立っています。例えば、パーソナルサポートセンターのモデル事業は内閣

府の事業ですが、継続が決り少しバージョンアップするものもあります。一部には、国のモデルで行っていたも

のを市の事業として一緒にやっていくスタイルもあります。また、仮にお金がなくても、法人のほかの部分で一

生懸命稼いだところが投資することで、必要な事業はやっていくというのが法人の方針です。

(質問者)

「まじくる」の就職率が4割ぐらいと言われましたが、ハローワークと比べても高いです。地域で企業からお

金をとったりすることで、ビジネスとして成立する余地はあるのですか。

(日置理事)

今のところそのようなイメージはありません。お金という形ではなく、持っている資源で協力をしてもらい、

金銭的な部分は、公的なものをうまく使うほうが、釧路で行われている事業はうまくいくと思います。

(質問者)

公的な援助では、一番使い勝手のいいものが皆さんいいとは思いますが、実際に行政の側で仕組みをつくると

きに、何でもありという制度は作れません。先ほどのお話では、今までのビジネスノウハウがあまり役に立たな

いとのことでしたが、特に道庁みたいなところに、こんなのがあったらいいなという制度があれば教えて下さい。

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(日置理事)

今一番力を入れている若者支援の関係では、道庁の雇用創出事業を使わせてもらっています。これは失業して

いる方を雇うという仕組みで、失業している方を一定以上の割合で雇うということ以外はあまりうるさくありま

せん。そういう形でも使いやすいと思います。

プロセスにお金をつけてもらうというところでいうと、例えば、実験事業で仮説がしっかりしているものに関

しては、そこを認めてお金をつけてくれるという枠組みがほしいと思います。なぜこれが必要なのかという仮説

と、実験者がしっかりしていれば、中身は実験しながら考えるというものでも認めてほしいと思います。その場

合、記録をしっかりとることが重要になると思います。やった結果がどうだったかを残していくと、ノウハウの

蓄積にもつながります。記録をしっかりとっていくことを義務、責任にしてもらって、中身はあまり問わないそ

のような援助の枠組みができないかと思います。

(質問者)

若者の就職のことで、若者に問題があるのではなくて、若者を生かせない社会の仕組みというか、そういった

ところに問題があるというようなお話をされていたかと思います。具体的な話、どういうところに問題があって、

それに対してどういう取り組みをされているのか教えていただけたらと思います。

(日置理事)

私は、札幌市でスクールソーシャルワーカーをやっています。いろいろな家庭に困難を抱えた子どもたちに出

会うことがすごく多いのですが、そういった若者は、本人に何か問題があるのではなく、家庭にいろいろな恵ま

れない要素があって、例えば、家が経済的にすごく困難を抱えていて、なかなか進学すらできなかったり、満足

に衣食住を提供してもらえない過酷な状況で育っている子どもたちがいます。ほとんどの場合は、学校でちょっ

と大変だなと気づくのですが、なかなかそれをサポートするようなシステムがないので、結局は、大変なまま放

置されてしまい、中学生ぐらいになると、元気な子は非行に走り、元気のない子は引きこもりで表現してしまい

ます。

結局、環境や経験が保障されないまま年齢だけが上がっていき、結局は就職ができないとか、反社会的行動に

陥ってしまいます。早いうちからその子どもたちが当たり前に人とつながり、自分の役割を得たりするチャンス

をもらわないと、将来、地域を担っていくような人材にはならいと、私はすごく危機感を持っています。

そういう若者が実際に釧路に来て、整備された生活寮に住み、食べ物があり、経験を積むことによってめきめ

きと力をつけていって、活躍できるようになっています。今、私は、札幌の若者を釧路にどんどん連れていって

います。釧路で可能性のある若者を育てて、担ってもらおうと思っています。北海道として全国から呼ぶという

のもいいのではないかと思っていますが、そのようなサポートが、人を育て、若者を活躍させる可能性があると

思います。

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