土を使わず有機質肥料だけで 栽培できる新養液栽培 …研究背景...

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土を使わず有機質肥料だけで 栽培できる新養液栽培技術 独立行政法人 農業・食品産業技術総合研究機構 野菜茶業研究所 主任研究員 篠原

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土を使わず有機質肥料だけで栽培できる新養液栽培技術

独立行政法人

農業・食品産業技術総合研究機構

野菜茶業研究所

主任研究員 篠原 信

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研究背景

・有機物を肥料にできるのは「土」・「土」以外では有機物は腐敗する・腐敗した有機物では植物にダメージ・「土」を人工的に作る技術はない

↓↓・土を使わない栽培法(養液栽培、植物工場)は有機物を肥料として使えない・養液栽培や植物工場は化学肥料を使うしかない・化学肥料は地下資源(鉱物資源、化石エネルギー)が原料、枯渇が懸念されている

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有機物を肥料にできるのは「土」だけ

有機物(有機質肥料)

・作物の多くは硝酸を好む好硝酸性植物・土は有機物を硝酸までスムーズに分解

(有機質肥料)

アンモニア化成

アンモニア

硝酸

硝酸化成

吸収

微生物

硝化菌

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養液栽培では有機質肥料を使えない

有機物(有機質肥料)

・水中ではアンモニアまでしか分解しない・アンモニアだけでは根が傷み、作物が育たない・有機物を硝酸にする微生物の培養方法がない・養液栽培や植物工場では有機質肥料を使えない

生育しない(有機質肥料)

アンモニア化成アンモニア

根にダメージ

雑菌硝化菌が死滅する

生育しない

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新技術の基となる研究成果・技術水の中でも土と同じように硝酸まで分解する

微生物群の培養に成功(並行複式無機化法)

微生物接種:土壌を5 g/L程度添加する有機物添加:有機質肥料を1 g/L/dayで添加

曝気:エアーポンプなどで2週間

有機質肥料≦1 g/L/day

土壌(微生物接種源)5 g/L

エアーポンプ2週間曝気

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「水」を「土」化する!

有機物(有機質肥料)

・水中でも土の中と同じように微生物が活動・有機物が硝酸までスムーズに分解・養液栽培でも有機質肥料の利用が可能に!

(有機質肥料)

アンモニア化成

アンモニア

硝酸

硝酸化成

微生物

硝化菌

吸収

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コマツナ栽培

CSL(コーンスティープリカー) 化学肥料地上部(湿重) 39.9 g/plant 40.1 g/plant 根 部(乾重) 0.85 g/plant 0.41 g/plantビタミンC 244.2 mg/100g 230.8 mg/100g葉中硝酸イオン 987 mg/L 5108 mg/L

ブルーベビー症候群の原因

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トマトの栽培実験(鰹煮汁)

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果数(個)

良品果(個)

総収量(g)

良品果収量(g)

不良果収量(g)

良品果平均果重(g)

1株あたり良品果収量(g)

鰹煮汁区 68 68 12299 12299 0 181 513

CSL区 66 61 12441 11843 597 194 494

トマト栽培の実験結果(収量・品質)

化学肥料区 53 40 9210 7474 1735 187 311

Brix(平均)

ビタミンC(mg/100g)

グルタミン酸(mg/100g)

鰹煮汁区 5.4 22.8 103.3

CSL区 5.5 24.8 85.2

化学肥料区 5.8 26.2 126.9

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従来技術とその問題点

・化学肥料しか使えない従来の養液栽培は根部病害に弱い

・病害を恐れて密室化へ(→閉鎖系植物工場)

・人工光を利用しなければならない、空調を備・人工光を利用しなければならない、空調を備えなければならない(→高コスト化)

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NO3-

K+

PO43-

K+

従来の養液栽培:「無機的」で「無菌的」

病原菌の集積培養(enrichment culture)

PO43-

NO3-

非病原菌は根をかじれないので弱る

病原菌は根から栄養を奪い取れるのでどんどん増える

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吸収

有機質肥料活用型養液栽培の場合

病原菌はネットワークに参加できない

微生物生態系のネットワークが病原菌を排除

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病原菌(フザリウム)の接種実験

有機質肥料活用型養液栽培 従来型養液栽培(化学肥料)

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根毛とバイオフィルムの発達

有機質肥料活用型養液栽培 従来型養液栽培(化学肥料)根が倍程度に発達

枝分かれ少ない

根毛が発達

バイオフィルムが被覆

根毛が未発達、滑面

微生物がほとんどいない

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「屋外型植物工場」の可能性

病原菌だらけの圃場でも根部病害が発生しない※化学肥料の養液栽培は病気に弱く、屋内(閉鎖系)でしか栽培できない

地面の上にビニールシートを敷き、一筆書きの「回るプール」状に設置

・塩害・病害などで栽培できなくなった土地での栽培・温室などの設備費用の軽減・水不足の土地での栽培(地下に水が流れずに済むため)

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化学肥料無処理のロックウールに

有機質肥料「土」化ロックウールに

有機質肥料

土でない培地も「土」化する

ロックウール

「土」化ロックウール

化学肥料

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新技術の特徴・従来技術との比較

• 水や人工培地の「土」化に初めて成功

• 根部病害に強い

• 肥料コストが1/2~1/3程度に削減• 肥料コストが1/2~1/3程度に削減

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想定される用途

• 有機質肥料を利用する養液栽培や植物工場への応用

• 塩害等で栽培困難な場所での栽培• 塩害等で栽培困難な場所での栽培

• 根の病害で栽培が難しい場所での生産

• 有機質資源から無機肥料を製造する技術

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有機物を無機化する!

• 鉱物や樹脂に微生物を固定化し、「土」化した微生物担体を使用

• 微生物担体を触媒として、有機質肥料が無機肥料に変換される

• 保存の利かない有機物を無機肥料に

微生物が定着した

担体

有機物を添加

一晩静置

翌日、水でリンス

無機肥料の水溶液

有機物を添加 翌日、水で洗浄

微生物担体

一晩静置

無機肥料の水溶液

• 保存の利かない有機物を無機肥料に

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想定される業界

• 利用者・対象

植物工場

養液栽培の生産者

有機質資源の処理業者

海外(養液栽培が盛ん・環境意識が高い国等)海外(養液栽培が盛ん・環境意識が高い国等)

例:オランダ、スペイン、韓国、中国、イスラエル、タイ、シンガポール、オーストラリア

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実用化に向けた課題

• 栽培装置の最適化

• 栽培試験の積み重ねによる生産性のさらなる向上

• バイオミネラライザー(有機物から無機肥料を製造する装置)の実用化研究

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企業への期待

• 有機質肥料活用型養液栽培の植物工場への導入

• 海外への輸出産業として育成する協力者とし• 海外への輸出産業として育成する協力者として

• バイオミネラライザー(有機物から無機肥料を製造する技術)の実用化

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本技術に関する知的財産権• 発明の名称:並行複式無機化反応を行う微生物群が固定化された固体担体、触媒カラム、および、植物栽培用固形培地の製造方法

• 出願番号:特開2010-088358

• 出願人 :農研機構

• 発明者 :篠原信• 発明者 :篠原信

• 発明の名称:バイオミネラル含有物の製造方法および有機養液栽培法

• 出願番号:特開2007-119260

• 出願人 :農研機構

• 発明者 :篠原信・上原洋一・河野真人・岩切浩文

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研究調整役 白川 隆

TEL 050-3533-3802

お問い合わせ先

TEL 050-3533-3802

FAX 059-268-3213

E-mail: [email protected]