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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団 2016 年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書 「包括的認知症予防プログラムの開発検討と 介護予防から展開する認知症ケアパスの構築」 者:篠原 裕子 関:足立区地域包括支援センター千寿の郷 提 出 年 月 日:2017 8 30 共同研究者:浦島 亮 、 矢野 知恵

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公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団

2016 年度(前期)一般公募「在宅医療研究への助成」完了報告書

「包括的認知症予防プログラムの開発検討と

介護予防から展開する認知症ケアパスの構築」

申 請 者:篠原 裕子

所 属 機 関:足立区地域包括支援センター千寿の郷

提出年月日:2017 年 8 月 30 日

共同研究者:浦島 亮 、 矢野 知恵

1

諸言

1、社会的背景

内閣府の平成 28 年版高齢社会白書によると、65 歳以上の高齢者の認知症患者数と有病

率は、2012(平成 24)年では認知症患者数 462 万人と、65 歳上の高齢者の 7 人に 1 人(有

病率 15.0%)であり、将来推計では 2025 (H37)年には、約 700 万人(有病率 20.6%)、5

人に 1 人になると見込まれている。また、認知症の年間の発症率は 65~69 歳では 0.3%、

75~79 歳では 1.8%、85~89 歳では 5.3%、95 歳以上では 8.7%と加齢にともない上昇す

る(鈴木、2015)。高齢者の増加にともなう認知症高齢者の増加への対策は喫緊の課題に

なっている。

認知症予防の観点からすると、正常加齢と認知症の限界領域である軽度認知障害(mild

cognitive impairment : MCI)への対策が注目されてきている。MCI 高齢者の約半数は 5

年以内にアルツハイマー病に移行することが明らかにされており、正常高齢者とは明らか

に異なる高い発症率を示している(児玉ら、2011;佐々木ら、2006)。一方で MCI 高齢者

のなかには、正常認知機能に自然に回復する者も含まれる(鈴木、2015)。このことは認

知症への根本治療法がない現状において、MCI への早期介入が認知症発症遅延には有用と

考えられている所以であり、介入報告がされている(池田ら、2016;鈴木、2015)。しか

し、認知症のスクリーニングツールは必ずしも軽度の判別を目的として作成されていない

ため、軽度認知症を判別する十分な sensitivity と specificity が得られていない場合があり

(本間、2010;鈴木、2015)、介入対象をスクリーニングすることの難しさがある。プラ

イマリケアの現場や地域保健領域において短時間で簡便に施行できる MCI 高齢者へのス

クリーニング検査が希求されており、軽度認知障害や軽度認知症の検出を目的にスクリー

ニングツールの開発、その有用性の検証の報告がされてきている(酒井、2010;鈴木ら、

2010・2011;矢富、2010;杉山ら、2015;長船ら、2014)。

2、研究の動機と背景

研究者の所属機関における活動拠点は、東京都の北東部に位置し地区特性の異なる 5 つ

の地区を担当地域としている。地域特性は大きく 2 つにわけられる。A 地域は、下町風情

の残る木造戸建て密集地帯であり、古くからの住民が多く近隣との交流が続いている。一

方 B 地域は、新旧住宅マンション、新旧戸建てが混在しており、近年高層マンション化が

進むなか高齢者のみ世帯、認認世帯、単身高齢者世帯、呼び寄せ介護の親子世帯等の世帯

構造の増加により近隣との交流が希薄化しているといった特徴をもっている地域である。

2015(平成 27)年 3 月 1 日現在、担当地域の人口は 15,131 人、前期高齢者人口 1,891 人、

後期高齢者人口 1,568 人、高齢化率 22.86%(福祉部高齢サービス課資料)と、年々高齢

化が進んでいる。管轄区全体では、65 歳以上高齢者人口 163,410 人、そのうち認知症高齢

者数は約 22,600 人、MCI 有病者数は約 21,300 人、合わせて約 44,000 人である。担当地

域においては、推計で認知症高齢者数 477 人、MCI 450 人になる。進行する高齢化により

2

認知症対策は、区市町村共通の課題である。このような現状において管轄区では、2015(平

成 27)年、新たな認知症対策として認知症訪問支援を事業化し、65 歳以上介護保険未認

定者を対象に介護予防チェックリスト(55 項目)での悉皆調査を実施した。その結果が

MCI 以上のリスク者および未回答者に対して、担当地域職員が全戸訪問を実施している。

しかし、把握できたリスク者に対する生活支援の受け皿および、担当地域の予防体制が

不十分であることが地域課題になっている。また、支援者側の課題として、医療・介護の

連携の未充足、ボランティアの不足がある。そこで独自の事業として、この訪問によりス

クリーニングした MCI および軽度認知症高齢者に着目し介護予防事業を展開することと

した。さらに介護予防事業を通して、専門職との連携強化、地域ボランティアの養成にも

着手することとした。

認知症を予防するためには、その前段階とされる MCI レベルで認知機能低下を抑制す

る方法が最も効果的であることが報告されている。しかし運動療法や様々な集団療法等、

単一的なプログラムの評価報告が多く、地域特性や生活機能全般に応じて実践応用できる

包括的プログラムは見当たらなかった(池田ら、2016)。よって本研究では、画一的なプ

ログラムではなく参加対象特性に適応した包括的アプローチを特徴とするプログラムの立

案を試みることとした。さらに予防のみにとどまらず認知症対策は包括的ケアが重点課題

であるため、認知症ケアパスを視野に入れた事業展開を形成していくことを目的とした(図

1、図 2)。

本研究の認知症ケアパス連携機関は、東都保健医療福祉協議会における病院、訪問看護

ステーション(看護小規模多機能施設)、老人保健施設、小規模多機能施設、居宅介護支援

事業所である。協力者は、保健師、看護師、認知症認定看護師、認知症専門員、理学療法

士、作業療法士、管理栄養士、ケアマネジャー、社会福祉士、介護福祉士、事務職員、地

域ボランティアである。

研究目的

研究Ⅰ

担当地域在住の MCI および軽度認知症高齢者を対象に参加対象特性に適した現場で

実践可能な包括的認知症予防プログラムの開発に向け、プログラムの立案と検討をする。

研究Ⅱ

短期集中型認知症予防プログラム(以下、プログラム)の終了後、介護予防段階から

展開するフォローアップ教室、認知症予防カフェ、自助グループやボランティアの養成

を組み込んだ包括的支援(認知症ケアパス)を形成する。

3

短期集中型

認知症予防教室

対象:MCI および

軽度認知症

フォーローアップ教室

対象:短期集中教室修了者

介護予防

チェックリストでの

悉皆調査

認知症訪問支援事業

認知症ハイリスク者

および未回答者への

全戸訪問

二次予防事業

(介護予防教室)

対象:①二次予防該当者

②非該当になった修了者

地域ボランティア・認知症サポーター等の養成

対象;予防教室受講により身体・認知機能評価に

おいて改善がみられた希望者

自助グループの育成

認知症

カフェ

図 1 各介護予防事業の関係図

図 2 認知症ケアパスの構成図

医療

生活支援

認知症発症予防 MCI 初期 急性憎悪期 中期 後期 人生の最終段階

早期発見 早期診断・治療 BPSD 憎悪、身体合併症、急性症状への対応 看取り

早期介入・対応 BPSD、身体合併症等への対応 身体合併症等への対応

介護予防チェックリスト結果による

訪問、介護予防・認知症予防

教室、カフェ、サロン、ボラ

ンティア養成、自助グループ育成等

ケアプラン、介護サービス等の提供

家族介護者の支援(家族介護者教室、家族カフェ)等

図 1

4

研究方法

研究Ⅰ 包括的認知症予防プログラムの立案と検討

プログラムは、精神認知機能と運動機能の組み合わせから構成され、蓄積された多数の

プログラムの中から参加対象と集団特性に適するプログラムが選択できることが特徴であ

る。さらに生活機能も含めた個人指導と集団療法を併用した包括的なアプローチである。

よって開催教室ごとにプログラムの追加修正を行い、プログラムのバリエーションの蓄積

をはかっていく。

はじめに、予備的調査として 2016(H28)年 5 月~7 月、10 月~12 月の 2 クールを実

施した後、対象者の選定条件やプログラムの一部修正を行い、2017(H29)年 1 月~3 月、

5 月~7 月の 2 クールを実施する。合計 4 クール実施する。

1、予備的調査

1)対象の選定と調査方法

2015(H27)年度 管轄区で実施した悉皆調査の結果、担当地域における MCI 以上のリ

スク者と回答の未返信者142名に対して訪問および面接にて対象者をスクリーニングする。

参加対象の選定条件を ①65 歳以上の介護保険未認定者 ②質問紙 DASC-21 が 24~33

点 ③HDS-R が 20 点以上 として、認知症予防教室参加の案内を通知した。本プログラ

ムへの参加の意思表示をした者を対象とした。

2)介入プログラムの構成

1 クール週 2 回を 3 ヶ月間実施する。1 回 90 分間。最初の 40 分間は、血圧測定、体調

等の問診を行った後、作業療法士による認知症予防体操を実施する。残りの 50 分間は、

保健師、作業療法士による集団療法とメモリーノートを用いた個人指導を実施する。集団

療法では精神認知機能へのねらい(表 1)を定めた対話形式とし、集団のファシリテータ

ーは作業療法士が行い、全体の参与観察を保健師が実施する。個人指導に対してはモチベ

ーションの向上を目標にした介入を行い、精神認知機能から働きかけ、記憶の強化を図る。

また、生活支援も含めた介入を行う。運動プログラムは、低負荷・高頻度の有酸素運動と

デュアルタスク(二重課題)から構成された幾つかのバリエーションの中から実施し、週

ごとに基礎的運動から個別に運動負荷を上げながら多様な運動課題へと進めていく(表2、

表3)。自主トレーニングなども提示し生活に組み込めるような指導にあたる。最後に作業

療法士 2 名、保健師 2 名のスタッフ間でのミーティングを実施し個別と全体の振り返りを

して評価する。

また、認知症講座を各月で行い、各講座 30 分間とする。認知症予防プログラムの導入

として、はじめに MCI からの認知症予防について生活習慣と関連づけた講座を実施する。

担当は作業療法士、保健師である。以降は①認知症予防と有酸素運動の効果等。講師は理

学療法士。②認知症予防と口腔機能。講師は歯科衛生士。③認知症予防と栄養。講師は管

5

読解力 文章理解力 課題理解力

自己紹介 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

認知症予防と題した検索課題と発表 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

流行語の検索と発表 小グループ・全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

回想(出来事、趣味、職業、生活、生育歴、思い出等) 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

各講座(認知症、運動、栄養、口腔と生活習慣) 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○

発表のためのワークシート記入 個人・全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

趣味のシート記入 個人 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

気づきのシート記入 個人 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

メモリーノート/自主トレーニングの共有発表 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

メモリーノート記入 個人・全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

トレーニング用具作成 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○

デュアルタスク課題 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

地図散策(道順)課題、地図読解力課題 小グループ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

地図散策の写真振り返り 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

千草園散策課題 小グループ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

千草園散策の写真振り返り 全体 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

食事バランス図との照合による献立作成 小グループ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

文章読解課題 小グループ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○ ○

内容 人数構成

機能

言語能力/input記憶力 見当識 実行機能 意欲 注意力 視空間認知 書字能力

自己表現力

/output他者理解力 社会的交流 役割遂行

理栄養士。各講座の前後の回では予習または復習を行う。各認知症講座では家族の同伴を

勧奨することとした。

このプログラムへのスタッフの支援としては、①前日の電話勧奨、②メモリーノートの

確認、③個別面接による指導、④スタッフのアドバイスをメモリーノートに記入、⑤個人

課題に対する経時的な記録、⑥スタッフ間カンファレンスによる支援の検討、⑦ボランテ

ィアとのミーティング、学習会 がある。

使用するメモリーノートは、一週間ごとのスタッフとの交換日記であり、3 ヶ月間の個

人の目標と日々の出来事や行動、感想を記載できる書式を作成した。利用のねらいは、外

部記憶補助の一つであることの他に、自己認知、他者理解、生活実態の把握、時間的変化

の評価、コミュニケーションの活性化、多方面への気づきを促すことである。

表1 各種集団療法プログラムのねらい

6

表2 運動療法プログラム

日程 内容 回数 目標

初回 ①認知症予防についての講座(30 分)

②メモリーノートについての説明(15 分)

③測定(約 20 分):握力、5m 歩行、開眼片足立ち、

FRT、CS-30Test、TUG、DASC-21、MoCA-J、HDS-R、

AP スコア

④運動(20 分):

・座位立位ストレッチ/筋肉トレーニング

1 回

●認知症予防についての知識

を得る

●自身の身体機能を認知する

●自身の認知機能を認知する

1 ヵ月目

上旬

下旬

①運動(約 40 分):

・座位立位ストレッチ/筋肉トレーニング

・自主トレーニングの提示

自身で行えるストレッチ・筋力トレーニングと道

具を使用した棒体操を提示。

ステップ台運動(連続 5~10 分間)

音に合わせて連続的に昇降運動を行う。対象者に

合わせて支持物等も設置。

②グループ交流(25.40 分程度)

③個別的支援(20 分程度)

4 回

●基礎体力が向上する

●自主トレーニングの実践と

継続をはかる

●受講者同士の交流により目

標を共有する

●教室参加継続に対する自身

のモチベーションを保持する

1 ヵ月目

下旬

2 ヵ月目

中旬

①運動(約 40 分):

・座位でのストレッチ/筋肉トレーニング

・立位でのストレッチ/筋肉トレーニング

・自主トレーニングの見直し

・ステップ台運動(連続 5~10 分間)

・スクエアステップ(スタンダード)

スクエアステップマットを用いてステップ反応促

しながらバランス能力向上と体幹・下肢筋力強化を

行う。

・ウォーキング(7分間歩行)×2 セット

場所:千草園(1 周:300m程度)

②グループ交流(25.40 分程度)

③個別的支援(20 分程度)

④運動講座(1 ヵ月目の第 4 月曜):30 分間

8 回

●歩行持久力が向上する

●上下肢筋力が向上し、応用動

作を獲得する

●自主トレーニングの継続を

はかる

●交流(話す・聞く・読む)に

より認知機能を高める

●運動機能の知識を得る

●認知症予防と運動との関連

性を学ぶ

応用編

7

2 ヵ月目

下旬

3 ヵ月目

中旬

①運動(約 40 分):

・ストレッチ 立位バランス訓練

・スクエアステップとデュアルタスク(4 色色輪ステ

ップ)

・自主トレーニングの立案

・ノルディックウォーキング(10 分間)

場所:千草園(一周:300m程度)

有酸素運動にレクリエーション機能を追加するこ

とで運動意欲を上げていく。

②グループ交流(25.40 分程度)

③個別的支援(20 分程度)

④口腔講座(2 ヵ月目の第 4 月曜):30 分間

6 回

●有酸素運動が自主化する

●立位バランスが向上する

●自主トレーニングを立案で

きる

●交流(今後の目標や対策等に

ついての対話)により認知機能

を高めていく

●脳機能・血流量を高める

●口腔機能の知識を得る

●認知症予防と口腔機能の

関連性を学ぶ

3 ヵ月目

下旬

①運動(約 40 分):

・ストレッチ ・立位バランス訓練

・スクエアステップとデュアルタスク(4 色色輪ステ

ップ)

②グループ交流(25.40 分程度)

③個別的支援(20 分程度)

④栄養講座(3 ヵ月目の第 4 月曜):30 分間

4 回

●認知症予防の目標設定がで

きる

●脳機能・血流量を高める

●交流を通して計画立案がで

き遂行機能が高まる

●必要不可欠な栄養の知識を

得る

●認知症予防と栄養の関連性

を学ぶ

最終日 ①運動(20 分):

・ストレッチ ・立位バランス訓練

・デュアルタスク

②測定(約 30 分):握力、5m 歩行、開眼片足立ち、

FRT、CS-30Test、TUG、DASC-21、MoCA-J、HDS-R、

AP スコア

③卒業式(20 分):卒業証書授与

④修了生教室案内(10 分)

1 回

●認知症予防に対する生活の

工夫(対策)を立案し、実践で

きる

内容 期間 目標

フォローアップ

教室

(修了生)

①有酸素運動および集団と個人へのア

プローチの継続

②ステップアップ講座(年 2 回)

短期集中型教室の卒

業後の一年間

(継続更新可)

●自己対処能力を高め、生

活の工夫(対策)を立案し、

実践の継続ができる

応用編

8

プログラム 認知機能向上者 認知機能低下者

ストレッチStep1.訓練時の本人の位置として模倣しやすい、指示が入りやすい位置とするStep2.模倣困難時は個別の動作指導を行う

筋力トレーニングStep1.訓練時の本人の位置として模倣しやすい、指示が入りやすい位置とするStep2.模倣困難時は個別の動作指導を行う

棒体操Step1.訓練時の本人の位置として模倣しやすい、指示が入りやすい位置とするStep2.模倣困難時は個別の動作指導を行う

脳トレーニング体操(二重課題)

Step1.速度を落とす、補助的指示を出すStep2.難易度を下げる

ステップ台昇降・ステップ台昇降時に二重課題を取り入れるex:昇った際に手拍子⇒3の倍数時に手拍子など

Step1.指導者の模倣をしてもらうStep2.二重課題を行わず、昇降のみにする

屋外7分間歩行・歩行時に二重課題を取り入れるex:計算⇒しりとり⇒単語想起など

Step1.二重課題を行わず、7分間歩行のみにする

4色色輪ステップ・4色色輪ステップ時に二重課題を取り入れる・二重課題の難易度を上げていくex:2色⇒4色⇒踏む色以外⇒しりとりなど

Step1.二重課題の難易度を下げる

ノルディックウォーキングStep1.指導者の模倣をしてもらうStep2.両手ではなく片手でのポール操作にする

屋外歩行(散策) ・散策時の課題を増やしていくStep1.課題に対する補助的指示を出す

表3 各種運動療法プログラムにおける機能別介入方法

・散策範囲を縮める

・実施回数/距離を減らす・座位での足踏みをする・他参加者がステップしているのに合わせて色を言う

・屋外実践時間・距離を短縮する

身体機能低下

疼痛有り

身体機能低下

・自身のペースで7分間連続歩行を目的とする

・速度を落とす、時間を短縮する

・回数を減らす・立位バランス不安定な場合は座位でステップ台昇降を行う

・座位でステップ台昇降を行う

身体機能低下

身体機能低下

疼痛有り

・回数を減らす

・疼痛を出さず、同様の効果が得られる運動を提示する。

・回数を減らす

・疼痛を出さず、同様の効果が得られる運動を提示する。

身体機能低下

疼痛有り

身体機能低下者

身体機能低下

疼痛有り

・疼痛を出さないための柔軟体操

・疼痛を出さず、同様の効果が得られる運動を提示する。

プログラム 身体機能向上者

ストレッチ

筋力トレーニング

ステップ台昇降

棒体操

・関節可動域拡大するよう最大可動域でのストレッチ

・回数を増やす・重錘を付ける

・関節可動域拡大するよう最大可動域でのストレッチ・回数を増やす・棒に重錘を付ける

・立位での段差昇降を行う・片足昇降から両足昇降にする・回数/速度を増やす・ステップ台の高さを上げる

屋外7分間歩行

4色色輪ステップ

屋外歩行(散策)

ノルディックウォーキング

疼痛有り

疼痛有り

身体機能低下

疼痛有り

身体機能低下

・散策範囲を広げる

・目標歩数を増加する。

・実施回数/距離を増やす

・屋外実践時間・距離を延伸する

疼痛有り

9

悪 良

7-20 21-35

0-25 26-30

16-42 0-15

評価基準

身体機能6種目7項目

認知機能MoCA-J

意欲APスコア

3)データ収集期間

1 クール目が 2016(H28)年 5 月~7 月、2 クール目が 10 月~12 月。

4)介入評価方法

プログラム介入の評価として、参加初回と最終回に身体機能、精神認知機能を測定した。

身体機能では、① Functional Reach Test(FRT)、② 30 秒椅子立ち上がりテスト(CS-30

Test)、③ Time Up & Go Test(TUG)、④握力(左右平均値)、⑤ 5m 歩行、⑥(左右)

開眼片脚立ちを実施した。それぞれを 1~5 点の5段階評価とし総合点を算出した。精神

認知機能では、評価スケールの有用性が検証されている① DASC-21(粟田ら、2015)、

② MoCA-J(鈴木ら、2010・2011;追分ら、2014・2015)、③ HDS-R、④ apathy score(AP)

スコア を測定した。また、参加者個人の機能の傾向を捉えるために、身体機能、認知機能、

意欲の得点について、標準値を基準とした高低値で区分し 8 類型に分類した(図3)。行

動変容については、個人指導時の面談での会話記録、スタッフミーティング時の内容を個

別ファイルに記録した。また集団療法での参与観察をフィールドノートに記載し、個別フ

ァイルにも転記した。

(点数)

図3 総合類型

10

5)分析方法

プログラム介入前後の比較として、身体機能評価 6 種7項目の合計得点、MoCA-J、AP

スコアにて対応のあるt検定を行った。有意水準は 5%未満とした。また、行動変容につ

いては、面接時(半構成的面接も含む)の会話記録および参与観察時のフィールドノート

を個別ファイルにして記録したものを用いて質的帰納的に分析した。分析手順は、個別フ

ァイルの記載内容から 1)各人の身体、精神認知、社会的課題のリストを作成する。2)リ

ストの課題ごとに①スタッフのアプローチ、それに対する②参加者の言動・反応を抜粋し、

その時のスタッフ側の A)アプローチの有効性、B)アプローチの課題、C)観察の視点につい

て検討した。3)意味内容の類似した文をまとめ小項目とした。さらに類似したものをま

とめ抽象度を上げていき中項目、大項目としてカテゴリ名を生成した。4)カテゴリ間の

関係を検討し、集団療法により生活行動が変化するプロセスを捉えた関係図を作成した。

これらの質的帰納的分析の過程は、すべて研究者 3 名で検討した。

6)倫理的配慮

所属機関の倫理委員会の承認を得て実施した。対象者に研究の目的と方法、匿名性の保

護、研究協力の自由、協力撤回の保障、不利益の回避、データの取り扱い、プライバシー

の保護、研究成果の公表等について、文章と口頭で説明し署名同意を得た。

7)結果

(1)対象者の属性

1 クールは 3 名、男性 1 名、女性 2 名、平均年齢 78.7±1.7 歳、平均教育年数 12.5±0.7

年であった。プログラム開催回数 24 回、参加率 97%であった。2 クールは 4 名、すべて

女性、平均年齢 84.3±4.4 歳、平均教育年数 10.3±2.3 年であった。プログラム開催回数

23 回、参加率 97%であった。介入前の身体機能、認知機能、意欲からなる総合類型では、

B が 2 名、E が 2 名、F が 3 名であった。

(2)スタッフの支援

参加者一人につき、①電話勧奨が1クールでは 24 回、2 クールでは 23 回、②メモリー

ノートの確認が1クールでは 24 回、2 クールでは 23 回、③個別面接による指導が1クー

ルでは 10 回、2 クールでは 7 回、④スタッフのアドバイスをメモリーノートに記入が1・

2 クールともに 12 回、⑤個人課題に対する経時的な記録が1クールでは 24 回、2 クール

では 23 回、⑥スタッフ間カンファレンスによる支援の検討が1クールでは 10 回、2 クー

ルでは 8 回、⑦ボランティアとのミーティング、学習会が1クールでは 4 回、2 クールで

は 1 回であった。

11

(3)介入前後の比較

身体機能では、介入前の平均得点 21.4±4.2、介入後 22.9±4.3(t=-2.19、p=0.07)

であり、有意な差はみられなかった。精神認知機能では、MoCA-J は介入前の平均得点 20.7

±2.1、介入後 24.0±2.9(t=-5.42、p=0.002)であり、有意な差が認められた(p< .01)。

AP スコアは介入前の平均得点 13.4±3.5、介入後 14.0±4.1(t=-0.29、p=0.78)で

あり、有意な差はみられなかった。さらに身体機能 7 項目および MoCA-J の項目ごとの比

較を行ったがすべて、有意な差はみられなかった。

(4)プログラム介入による生活行動(言動)の変化

対象者 7 名を質的帰納的に分析した結果、22 のカテゴリが生成された。小項目を【 】、

中項目を《 》、大項目を『 』で示して、カテゴリの関係を述べる。大項目は『メモリー

ノートの実用性』『教室参加意欲の維持要素の発見』『集団活動の機能的循環』『教室修了後

のパス形成』の4つが生成された。『メモリーノートの実用性』には【メモリーノートの意

味づけ】【記載内容の発想の転換】【目標という概念は生活に馴染みにくい】【外部記憶補助

として日常生活に取り込む】の4つの小項目が含まれる。『教室参加意欲の維持要素の発見』

には【役割を受ける】【役割理解から遂行への段階づけ】の 2 つが含まれる。『集団活動の

機能的循環』には、小項目に【予防の知識・行動の植え付け】【予防行動の継続に繋ぐ】【会

話の成立・促進となる個人特性の探索】【新たな視点の転換】【集団に参加できる教室の場

づくり】【負の感情を植え付けない集団の場】の 6 つが含まれ、中項目《予防行動が定着

する》を生成した。また【発語量増加から集団参加への加速】【正の感情、自己肯定感に結

び付く】の 2 つから《予防行動が習慣化する》を生成した。『教室修了後のパス形成』に

は【修了後の継続支援の意義】【修了後の補助的な外部支援】の 2 つが含まれる。このた

び作成したメモリーノートの活用により参加者が『教室参加意欲の維持要素の発見』をし

たり、【会話成立・促進となる個人特性の探索】が容易になり【負の感情を植え付けない集

団の場】【集団に参加できる教室の場づくり】といった基盤整備により自分自身の【新たな

視点の転換】がはかれる。それによって【発語量増加から集団参加への加速】が生じ【正

の感情、自己肯定感に結び付く】ことで『集団活動の機能的循環』が促進されるといった

構造が明らかになった(図4)。この構造は、予防行動習慣化への行動変容のモデル図と考

えられるため、本研究の介入プログラムの枠組みとして用いることとした。

12

図4 予防行動習慣化への行動変容のモデル図

13

2、本調査

予備的調査よりプログラムの微修正、および対象者の選定条件を一部変更した。また、

介入プログラム実施においては「予防行動習慣化への行動変容のモデル図」(図 4)を用い

て行った。

1)対象と方法

3 ヶ月間の教室参加の継続可能性を加味し、年齢のみ 65 歳以上 80 歳未満、の条件を追

加した。2015(H27)年度 管轄区で実施した悉皆調査の結果、担当地域における MCI 以

上のリスク者と回答の未返信者 182名に対して訪問および面接にて対象者をスクリーニン

グする。教室参加対象の選定条件を ①65 歳以上 80 歳未満の介護保険未認定者 ②質問

紙 DASC-21 が 24~33 点 ③HDS-R が 20 点以上 として、教室参加案内を通知した。

本プログラムへの参加の意思表示をした者を対象とした。

データ収集期間は、3 クール目が 2017(H29)年 1 月~3 月、4 クール目が 5 月~7 月

である。

介入評価および分析方法は、予備的調査と同様の方法で行った。

2)結果

(1)対象者の属性

3 クールは4名、すべて女性、平均年齢 75.8±5.5 歳、平均教育年数 11.0±2.1 年であっ

た。プログラム開催回数 23 回、参加率 98%であった。4 クールは 4 名、男性 2 名、女性

2 名、平均年齢 73.5±2.7 歳、平均教育年数 12.3±2.5 年であった。プログラム開催回数

22 回、参加率 94%であった。介入前の身体機能、認知機能、意欲からなる総合類型では、

A が 1 名、F が 6 名、H が 1 名であった。

(2)スタッフの支援

参加者一人につき、①電話勧奨は 3・4 クールともに欠席時は事前に連絡がきていたた

め 0 回、②メモリーノートの確認が 3 クールでは 23 回、4 クールでは 22 回、③個別面接

による指導が 3 クールでは 8 回、4 クールでは 10 回、④スタッフのアドバイスをメモリ

ーノートに記入が 3 クールでは 12 回、4 クールでは 11 回、⑤個人課題に対する経時的な

記録が 3 クールでは 23 回、2 クールでは 22 回、⑥スタッフ間カンファレンスによる支援

の検討が1クールでは 8 回、2 クールでは 7 回、⑦ボランティアとのミーティング、学習

会が 3・4 クールともに 1 回であった。

(3)介入前後の比較

身体機能は、介入前の平均得点 24.6±3.4、介入後 27.4±2.9(t=-4.44、p=0.003)

であり、有意な差が認められた(p< .01)。精神認知機能では、MoCA-J は介入前の平均

得点 23.1±2.7、介入後 25.0±2.8(t=-3.23、p=0.014)であり、有意な差が認めら

14

れた(p< .01)。AP スコアは介入前の平均得点 10.3±4.6、介入後 7.8±5.0(t=1.23、

p=0.26)であり、有意な差はみられなかった。さらに身体機能、MoCA-J の各項目にお

いては、身体機能 7 項目のうちの TUG のみ有意な差が認められた(p< .01)。

(4)プログラム介入による生活行動(言動)の変化

予備的調査から得られた構造図について、予防行動習慣化への行動変容のモデル図を用

いた。さらに本調査での 8 名を追加して分析を行った結果、28 のカテゴリに再構成された

(表 4)。構造図を一部変更したものが図 5 である。小項目を【 】、中項目を《 》、大項

目を『 』で示して、カテゴリの関係を述べる。追加修正されたカテゴリは斜体字で示す。

本プログラムで利用するメモリーノートは、外部記憶補助の一つであるといった【メモ

リーノートの意味づけ】ができると、【外部記憶補助として日常に取り込む】ことができた。

また、多方面に興味・関心を持ちはじまると、【記載内容の発想の転換】ができる。しかし

一方で、【目標という概念は生活に馴染みにくい】ことから、行動を起こすことが難しく、

メモリーノートの意味を理解し、『メモリーノートの実用性』に至ること自体が目標でもあ

った。継続してプログラムに参加するためにはスタッフとの【参加動機にそう共同作業の

道程】があった(図中の教室中のスタッフの心得、およびスタッフの支援)。時には、スタ

ッフから作業工程に必要な【役割を受ける】ことで徐々にその【役割理解から遂行への段

階づけ】ができ『教室参加意欲の維持要素の発見』がされていった。さらに、プログラム

の目的である【MCI と生活習慣の注意意義の反復学習】により【予防の知識・行動の(が)

植え付け】られ、【予防行動の継続に繋ぐ】ことができると、一旦《予防行動が定着する(し

た)》ことになる。本プログラムへの参加意欲や予防行動の定着には、参加したいと思う【集

団に参加できる教室の場づくり】や【負の感情を植え付けない集団の場】が必要であり、

そのためには【会話の成立・促進となる個人特性の探索】だったり【新たな視点の転換】

ができることも必要であった。自分の居場所があると、自然と対人交流ができ、さらに【発

語量増加から集団参加への加速】が生まれていった。それは、自分自身の【変化プロセス

の気づき】であり【新たな自己発見の喜び】であり《正の感情、自己肯定感に結び付く》

ことであった。また、学習意欲を強化していたのは、【家族の支持】や【家族との共同作

業】であり、生活の場でも《予防行動が習慣化する》ことに影響していた。つまり、これ

らの『集団活動の機能的循環』が促進されることが、予防行動習慣化への行動変容であっ

た。さらに、プログラム修了後も継続的な社会参加の場がある(『教室修了後のパス形成』)

ことで、本プログラムに対する効果の自覚から【修了後の継続支援の意義】を見出すこと

ができ、場の参加への意向につながっていった。ここでも交流の場に参加できるためには、

家族や友人、ボランティア、スタッフ等の支持、後押しとなる【修了後の補助的な外部支

援】が必要であった。以上、行動変容に至るプロセスの構造が明らかになった。

15

表 4 予防行動習慣化への行動変容のカテゴリ表

大項目 中項目 小項目

『メモリーノートの実用性』 【メモリーノートの意味づけ】

【記載内容の発想の転換】

【目標という概念は生活に馴染みにくい】

【外部記憶補助として日常に取り込む】

『教室参加意欲の維持要素

の発見』

【役割を受ける】

【役割理解から遂行への段階づけ】

【参加動機にそう共同作業の道程】

『集団活動の機能的循環』 《予防行動が定着する》 【MCI と生活習慣の注意意義の反復学習】

【予防の知識・行動の植え付け】

【予防行動の継続に繋ぐ】

【会話の成立・促進となる個人特性の探索】

【新たな視点の転換】

【集団に参加できる教室の場づくり】

【負の感情を植え付けない集団の場】

【発語量増加から集団参加への加速】

《予防行動が習慣化する》 【家族の支持】

【家族との共同作業】

《正の感情、自己肯定感に結び付く》 【新たな自己発見の喜び】

【変化プロセスの気づき】

『教室修了後のパス形成』 【修了後の継続支援の意義】

【修了後の補助的な外部支援】

脚注;斜体字は最終結果で追加修正されたカテゴリとして表示している。

16

図5 予防行動習慣化への行動変容のモデル図(修正図)

17

3)考察

包括的認知症予防介入プログラムは、運動機能と精神認知機能の併用、個人指導と集団

活動から構成されるため、介入できる対象は少人数と限界があった。各クールの対象者人

数が 3~4 人に対して、専門職4人、ボランティア 6 人の体制で実施された。ゆえに各人

の能力や生活に対する介入の質量が高かったことが身体機能、認知機能得点の向上に繋が

ったものと考えられる。身体機能においては、運動プログラムの特徴が基礎運動から応用

へとステップアップ型の構成であったため、ステップ台昇降やスクエアステップ、ノルデ

ィックウォーキング等、メニューは多く飽きを感じさせない構成であり、参加率の高さと

して評価できたと考えられる。一方で、それぞれが 2~4回程度の実施であったため、神

藤ら(2014)や千石ら(2012)の報告にみられる身体機能の効果には至らなかった。ただ

し、各人での測定値をみると、介入前後では悪化はなく向上もしくは変化なしの値であり、

継続した参加が成果として評価できる。参加者の中には全く運動経験がなかった者が 4 名

であり、プログラムに継続参加できたことと、その後のフォローアップ教室への継続につ

ながったこと、自主トレーニングの継続があることは、本プログラムの目的である運動の

習慣化が達成されたものと考えられる。また、3、4 クールでは、TUG のみが有意に向上

していた。これは、スクエアステップによって向上が認められていた神藤ら(2014)の報

告とは質が異なり、本プログラムでは 4 回の実施であり効果とは言い難い。むしろ、TUG

は他の種目よりも指示理解を要するため、参加者個人の記憶力、理解力、遂行能力が多分

に影響されたものと考えられる。これは、介入後の認知機能評価 MoCA-J の向上からも推

察できる。

認知機能評価については、スクリーニングツールとして、MoCA-J の視空間/実行系、命

名、注意、言語、抽象概念、遅延再生、見当識の機能別には差が認められなかったが、全

員が注意、言語、遅延再生において点数が向上していた。遅延再生については、追分ら(2014)

の報告と同じ結果であり、5 単語再生では正答数が増加した。これは MCI の特徴と思われ

る(追分ら、2014・2015)ことから、軽度認知症との判別の検討材料になると考えられた。

また、注意、言語の正答数の向上は、本研究の結果として明らかになった行動変容のモデ

ル図のように、ねらいとしていた本プログラムの成果といえる。一方、記憶力の向上がみ

られなかったのは、高齢になるにつれて増加する主要な認知症鑑別症状の一つの機能低下

でもあり、先行研究報告(小野寺ら、2001;伍賀ら、2005)と同様の結果であった。

AP スコアの改善がなかったのは、個人指導や集団活動の場で自身の機能低下を自己認

知せざるを得なかったことが影響したと推察できた。

現在、短期集中型認知症予防プログラム修了生を対象にしたフォローアップ教室が開催

されている。今後の継続的な支援も含めた体制づくりに取り組み始めているため、より一

層の実践可能性が示唆されたといえる。運動プログラムと集団療法プログラムをさらに充

実させ、対象特性に適したプログラムが施行できるよう、実践の積み重ねが課題である。

18

研究Ⅱ 介護予防から展開する認知症ケアパスの構築

1、目的

短期集中型認知症予防プログラムの終了後の継続支援として、フォローアップ型教室、

認知症予防カフェ、自助グループやボランティアの養成を考慮しながら各事業につなげ、

連動した包括的支援体制(認知症ケアパス)を整えていく(図 2)。

2、継続支援体制および活動報告

現時点において、短期集中型認知症予防プログラム教室の修了生は、全員下記1)~3)

にて継続支援が行われている。

1)フォローアップ型(短期集中型認知症予防プログラム修了生)教室

(1)内容の構成

毎週月曜日、1回 60 分間で実施している。最初の 40 分間は、保健師、作業療法士が血

圧測定、体調等の問診を行った後、作業療法士による認知症予防体操を実施する。その後

の 20 分間では、作業療法士と保健師による集団での対話を図る。集団療法の内容は短期

集中型認知症予防プログラムで立案したものである。参加者の身体機能・認知機能・意欲

の特性に応じたバリエーションの中から選択し実施する。また、ステップアップ認知症講

座を年 2 回開催する。期間は 1 年間で修了とするが、修了後は他の介護予防事業へのパス

を勧奨する。参加希望がない場合は、地域担当職員による実態把握(訪問等)を行う。

(2)修了生の参加状況

修了生の参加人数は、1 クール修了生が 3 名、2 クール修了生は 4 名、3 クール修了生

は 3 名、4 クール修了生は 3 名、合計 13 名の参加がある。ほぼ毎回参加されている。欠

席時は電話連絡や訪問等にて状況把握を行っている。

2)介護予防教室

(1)内容の構成

月 1 回月曜日、保健師等が血圧測定、体調等の問診を行った後、介護予防運動指導員に

よる 90 分の運動を実施する。年 3 回は、運動機能講座、栄養機能講座、口腔機能講座を

短期集中型認知症予防プログラム教室と合同で開催している。開催会場収容人数に制限が

あるため前述のフォローアップ型(短期集中型認知症予防プログラム修了生)教室の参加

者以外としている。

(2)修了生の参加状況

修了生の参加人数は、4 名である。ほぼ毎回参加されている。欠席時は電話連絡や訪問

等にて状況把握を行っている。

19

3)認知症予防カフェ

(1)内容の構成

月 1 回土曜日、14 時から 16 時 30 分まで自由な時間で利用が可能になっている。共同

運営機関は、東都保健医療福祉協議会における病院、訪問看護ステーション(看護小規模

多機能施設)、老人保健施設、小規模多機能施設、居宅介護支援事業所である。協力者は、

保健師、看護師、認知症認定看護師、認知症専門員、理学療法士、作業療法士、ケアマネ

ジャー、社会福祉士、介護福祉士、事務職員、地域ボランティアである。カフェに従事し

ている専門職が各種相談に対応できるような体制を敷いている。

また、1~2 か月に 1 回はカフェ運営委員会議を開催している。会議で事業方針を検討し

ケアパスの連携が図れるように試行錯誤しながら行っており、開催場所や人員体制等の課

題はあるが徐々に体制が整備されつつある。

(2)修了生の参加状況

修了生の参加者は 11 名、および修了生の家族が 2 名参加している。介護予防教室参加

時の状況等、関係者で情報共有しながら交友が広がってきている。また、地域ボランティ

アが各事業で重複活動しているため、ボランティア同士およびボランティアと参加者の交

流がはかられ、誘い合って参加する場面も見られてきている。

4)ボランティアの養成講座

(1)内容

ボランティアの募集は広報等で随時行っている。ボランティアの希望申し込み後、認知

症サポーター養成講座を実施している。受講後には各事業に参加し実体験することで、自

身の活動の振り返りからの学習を通してスキルアップができる体制づくりを行っている。

本研究で活動している登録人数は 15 名である。

(2)実施状況

登録者 15 名に対して、2016(H28)年 8 月~2017(H29)年 8 月までに 7 回開催して

おり、各回 7~15 名の参加がある。ボランティアの各々のコミュニケーションスキルが向

上してきており、参加者からの声として、「ボランティアの皆さんの優しさに励まされて参

加しています」「できない自分にも優しく諦めずに教えてくださいました」「声をかけてい

ただきお話し友だちになりました」「食事やお茶をご一緒してくださいました」等々の評価

が寄せられている。これらの反響はボランティアの自信となっており、ボランティアが担

当している事業への活動参加率 8~9 割と高く覇気ある活動として反映されている。

3、考察

研究Ⅰでは、3 ヶ月間週 2 回のプログラムへの参加により、個人差はあるものの身体・

認知機能への何らかの効果が期待できたといえる。しかし、予防行動の継続ができなけれ

ば機能は衰えていくことは明らかであり、いかにして予防行動を持続していくかが鍵とな

20

る。矢内ら(2012)は、社会とのかかわりが認知症発症と関連していたことを報告してお

り、社会的交流の場に出向いて活動することの意義が明らかになっている。また、活動拠

点の場所の課題もある。相馬ら(2015)は、地域における介護予防事業の取り組みを広げ

るには、既存施設等を利用し、自宅までの距離が 500m より遠いと認知率が下がるといっ

た報告をしている。自宅からの距離の問題は本研究でも同様にあり、通いの困難さ、認知

度の低さがあったといえる。社会交流に乏しい者に対する情報伝達方法の工夫も課題の一

つである。

研究Ⅰの参加者は少なかったものの、この事業をかかわりのスタート地点として認知症

予防のケアパスができる場がつくられ、連動した活動に発展していくことが当面の目標で

ある。予防行動の定着した者たちからの波及効果をねらったアプローチを思案している。

それは、ボランティア活動にも通じる。ボランティア活動が認知症予防行動につながる報

告もされており(中道、2011)、本研究でも同様の兆しをみせている。ボランティアが対

象者の成長を目の当たりにして体験することで自身のかかわりの有用性や活動の楽しさ、

達成感をともに体感する。そのことは自らの成長や生きがいにもつながっている。両者の

参加時の立場、役割は違えども目指すところは予防行動であり、今後も事業の強化と連動

をはかっていきたいと考えている。

今後の展望

研究Ⅰ 包括的認知症予防プログラムの立案について

今後も年 3 回の事業として継続開催の予定である。次期は、9 月~12 月、1 月~3 月で

ある。クール修了のたびにプログラムの追加修正を実施している。プログラムの開発を目

的としたアクションリサーチの途上であり、さらなるデータ数の蓄積と解析を要している。

研究Ⅱ 認知症ケアパスの構築について

包括的認知症予防プログラム受講者の継続支援体制として、①フォローアップ型(修了

者)教室、②認知症予防カフェ、サロン、③介護予防教室への移行を勧奨し、運動習慣の

獲得や社会的交流の機会を確保している。相談できる関係者(相談窓口)にアクセスしや

すい環境を整えているところである。さらにこれからの課題としては自助グループの育成

であるが、自発性は困難な状況にあるため現介護予防事業の一つであるウォーキングの会

等に繋げ自主化に向けて起動している。

なお、本研究は公益財団法人 在宅医療助成 勇美記念財団の助成により行った。

21

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