慈恵医大ICU勉強会2017.01.24 レジデント2年武藤昌幸慈恵医大ICU勉強会2017.01.24...
Transcript of 慈恵医大ICU勉強会2017.01.24 レジデント2年武藤昌幸慈恵医大ICU勉強会2017.01.24...
慈恵医大ICU勉強会 2017.01.24
レジデント2年 武藤 昌幸
NEngl JMed2017;376:136-148
Background
大量出血及び輸血は心臓手術を受ける患者にとっては一般的であり、出血により生命が脅かされ、再手術が必要となる場合もある。
抗線維素溶解療法は、心臓手術を受けている患者の間で失血や輸血のリスクを低減させるが、そのような治療が再手術のリスクを低減するかどうかは不明である。
Transfusion2015;55:805-14.
CochraneDatabaseSyst Rev2011;3:CD001886.
心臓手術で使用される抗線維素溶解剤には、アプロチニンおよびリジン類似体であるトラネキサム酸およびεアミノカプロン酸が含まれるが、これらはプロトロンビン効果を有しており、心筋梗塞、脳卒中、および心臓手術後の他の血栓性合併症のリスクを潜在的に増加させる可能性がある。
Background
NEngl JMed2006;354:353-65.
Tranexamic Acid(TXA)
一般名:トラネキサム酸(TranexamicAcid)化学名:trans-4(-Aminomethyl)cyclohexanecarboxylic acid分子式:C8H15NO2分子量:157.21構造式:
トランサミン添付文書より
TXAの作用
1.抗プラスミン作用
2.止血作用
3.抗アレルギー・抗炎症作用
トランサミン添付文書より
TXAの作用機序
線溶とは、プラスミノゲン活性化因子がプラスミノゲンをプラスミンに変化させることによってプラスミンが主としてフィブリンを分解する現象 。
プラスミノゲンはリジン結合部位を介してフィブリンに結合する。
血栓止血誌 20(3):285~288,2009日臨麻会誌 Vol.29No.7/Nov.2009
TXAの作用機序
TXAは血中で分解され、2分子のεアミノカプロン酸となる。
プラスミノゲンのリジン結合部位と結合しフィブリンへの吸着を阻害することで抗線溶作用を発揮する。
血栓止血誌 20(3):285~288,2009日臨麻会誌 Vol.29No.7/Nov.2009
TXAが注目されたCRASH-2trial【背景】外傷患者において早期・短時間のTXA投与が死亡率・血栓症の発生・輸血量に及ぼす影響を調べた。
【方法】40ヶ国274施設において受傷後8時間以内で重篤な出血がある(低血圧・頻脈などから出血の可能性があると担当医が判断した)成人20,111人を無作為にTXA群(1g/10mnの後、1g/8hで投与)とプラセボ群に分けてdouble-blindedで調査した。Primary-endpointは4週間以内の院内死亡率で、死因別に出血・塞栓症(心筋梗塞・脳梗塞・肺塞栓症など)・多臓器不全・頭部外傷・その他で解析した。解析は全てITT解析。
Lancet2010;376:23-32
TXAが注目されたCRASH-2trial
外傷患者においてTXA群で死亡リスクが有意に減少。出血が原因の死亡リスクも有意に減少。
Lancet2010;376:23-32
2012年火曜勉強会 改変
心臓手術におけるTXA使用
Tranexamic acidreducesbloodtransfusionsinelderlypatientsundergoingcombinedaorticvalveandcoronaryarterybypassgraftsurgery:arandomizedcontrolledtrial
【背景】大動脈弁置換術と冠動脈バイパス術の複合手術を受ける高齢患者で、TXAが術後出血と輸血必要量に及ぼす効果を評価すること
【方法】70才以上の大動脈弁置換術とCABGの複合手術を受ける患者64人を対象とした、大学病院(単施設)での前向き無作為化二重盲式偽薬対照平行群試験である。1人の患者は、術式変更のために主治医によって無作為化の後研究から外れた。残りの患者63人は包括解析として分析された。対象患者は、術中無作為にTXA(10mg/kg)の術前ボーラス投与+術中1mg/kg/h持続注入か、相当量の0.9%生食を投与された。
JCardiothorac Vasc Anesth.2012 ;26 :232-8.
【結果】術後出血は16時間にわたって記録された。血液製剤投与は全入
院期間中にわたり記録された。患者に投与された赤血球製剤輸血単位数は、プラセボ群と比較して、TXA群で有意に低かった(中央値、3.0[四分位領域、2-5] vs5.0[3-7]、p=0.049)。
【結論】大動脈弁置換術とCABGの複合手術を受ける70才以上の患者で、TXAは、投与される赤血球製剤輸血単位数を減らした。
Tranexamic acidreducesbloodtransfusionsinelderlypatientsundergoingcombinedaorticvalveandcoronaryarterybypassgraftsurgery:arandomizedcontrolledtrial.
JCardiothorac Vasc Anesth.2012 ;26 :232-8
【背景】TXAが、OPCAB手術を受ける患者で術後出血と輸血必要量に及ぼす影響を評価した。
【方法】待機的OPCAB予定の231人の一連の患者を研究に登録した。二重盲検法を用いて、患者はTXA(執刀前のボーラス投与1gに引き続き、術中に 400mg/hで注入;n=116)か、偽薬(生理食塩水を同量投与;n=115)を投与されるよう無作為割付けされた。主要転帰は、術後24時間のドレーン排液量であった。同種輸血、死亡率、重大な合併症、医療材料の使用量も記録された。
Tranexamic AcidReducesBloodLossAfterOff-PumpCoronarySurgery:AProspective,Randomized,Double-Blind,Placebo-ControlledStudy
Anesthesia &Analgesia 2012 : 115(2):239-243
【結論】TXAは、オフポンプ冠動脈手術において術後ドレーン排液量と同種輸血の必要性を減らす。
Tranexamic AcidReducesBloodLossAfterOff-PumpCoronarySurgery:AProspective,Randomized,
Double-Blind,Placebo-ControlledStudy
Anesthesia &Analgesia 2012 : 115(2):239-243
その一方で・・・
トラネキサム酸が脳血流量を減少させ、脳梗塞のリスクを増加させることを示している。
CochraneDatabaseSyst Rev2013;8:CD001245
【背景】
TXAと心臓手術後の痙攣の他の危険因子との関係を調査した。
【方法】心臓手術患者(2003年4月~2009年12月)のデータ
ベースを多変量ロジスティック回帰分析を使用して分析し痙攣の危険因子を評価した。
CanJAnaesth.2012Jan;59(1):6-13
Seizuresfollowingcardiacsurgery:theimpactoftranexamic acidandotherriskfactors
【結果】痙攣は5958人中56人(0.94%)に発生
Seizuresfollowingcardiacsurgery:theimpactoftranexamic acidandotherriskfactors
CanJAnaesth.2012Jan;59(1):6-13
Moderatedosageoftranexamic acidduringcardiacsurgerywithcardiopulmonarybypassand
convulsiveseizures:incidenceandclinicaloutcome
【背景】人工心肺を伴う心臓手術後の患者の ~1%に痙攣発作が起こる。高用量のTXA(≧60mg/kg)を投与された場合、痙攣発作が7倍にまで増加することが示された。
【方法】4883人の心臓手術患者を後ろ向きにデータ分析。主要エンドポイントはTXAを投与されなかった参照群に比較して中等量のTXA(24mg/kg)を投与された患者の痙攣発生頻度を調査。副次エンドポイントはICU在室期間と院内死亡率。
BrJAnaesth.2013Jan;110(1):34-40
開心術では中等量のTXA投与でさえ、痙攣発作の頻度と院内死亡率は2倍以上であった。
Moderatedosageoftranexamic acidduringcardiacsurgerywithcardiopulmonarybypassandconvulsiveseizures:incidenceandclinicaloutcome
BrJAnaesth.2013Jan;110(1):34-40
【医薬品名】トラネキサム酸(注射剤)
【措置内容】以下のように使用上の注意を改めること。
[副作用]の「重大な副作用」の項に
「痙攣:人工心肺を用いた心臓大血管手術の周術期に本剤を投与した患者において、術後に痙攣があらわれることがある。また、人工透析患者において痙攣があらわれたとの報告がある。観察を十分に行い、異常が認められた場合には投与を中止し、適切な処置を行うこと。」
を追記する。
H25 厚生労働省による勧告
薬食安発 0423第1号
NEnglJMed.2017Jan12;376(2):136-148
Introduction
トラネキサム酸が、冠状動脈手術を受け
ているリスクのある患者の間で死亡およ
び血栓合併症のリスクを増加させるかど
うかを調べた。
Methods
Design:冠動脈手術を予定されており合併症のリスクが高い患者を2×2要因設計とした多施設二重盲検試験
2×2 : tranexamicacidorplaceboandaspirin orplacebo
期間 : 2004年9月〜2014年10月
施設 : 多施設(数は?)
Participants:年齢や既往歴に関連した重大な合併症の危険性が高く、心臓弁置換術やその他の処置の有無は問わず、オンポンプまたはオフポンプ冠動脈手術を受けようとしている成人
Inclusion criteria
Exclusion criteria
麻酔導入の30分後に、100mg/kgのTXAまたは0.9%生理食塩水(プラセボ)を静脈内投与した。
TXA群では有効血漿中濃度を6-8時間保つ様にした。
薬剤の盲検化を目指したが、治験要員がいない施設では麻酔科医が薬剤の準備を行った。
Methods
Trialの経過中、TXA投与後の痙攣発作については公表され、用量依存性に頻度が高いと推察された。
抗線維素溶解の有効濃度を達成するためにTXAの100mg/kgの投与が必要ないことが推察されたため、1392人の被験者に対しては2012/1月以降、50mg/kgに減量投与された。
Methods
被験者はコンピューターによってランダム化された。
手術チームや術後情報調査員は割り当てを知らなかったが、麻酔科医だけは知っていた。
TXA群かプラセボ群か問わず、その他の全てにおいて普段と変わりない医療の提供を受けた。
Methods
基本的には術中にTXAやその他の抗線維素溶解療法は行われなかったが、プロタミン投与などヘパリン拮抗後も有意な出血が認められた場合は行われた。
12誘導心電図は術前、術後1,2,3日目、退院前に記録された。
採血は術後12-24時間、48-72時間の間に取られ、トロポニン、または測定できない場合はCK-MBを評価した。
Methods
Methods
性別、年齢、糖尿病の有無、前回の心筋梗塞の有無、不安定狭心症の有無、手術リスク(EuroSCOREによって
計算される)、左心室機能、手術中の出血リスク、オンポンプまたはオフポンプ手術および大動脈のクロスクランプ時間
事後サブグループは、オープンチャンバー手術または冠動脈手術のみかに従って定義された。オープンチャンバー手術には、心臓弁置換術、心室動脈瘤の修復、または上行大動脈瘤の修復が含まれる。この事後サブグループは、トラネキサム酸に関連する発作のリスクの分析に用いられた。
Methods
※被験者の割り当てを知らないメンバーによる独立した裁決委員会によって決定された。
Primary outcome
Secondary outcome
Statistical Analysis
OutcomeでTXA群とプラセボ群における臨床的に有意な差(10%対7%)を90%の検出力で検出出来る様に設定。
5%のエラー率でカイ二乗検定を用いた結果、サンプルサイズは4484人必要 → 4600人募集した。
手術を受けたか、治験薬を投与されたかに関わらず無作為化された全ての患者データを使用すると規定。
結局は無作為化された中で手術を受けた患者のデータのみ使用し一次、二次解析を行った。
Secondaryoutcomeはステューデントt検定またはウィルコクソン順位検定を用いて解析された。
Statistical Analysis
Results
2006年3月-2015年7カ国の31ヵ所合計4662人TXA:2329人プラセボ:2333人
TXA群の758人が50mg/kgに減量投与された。
Results
ASA分類 PS4が40%以上(PS3と併せて95%以上)
高血圧、狭心症の合併は多いが心不全の合併は少ない
Results
Results
手術時間は平均3.7時間
麻酔時間は平均4.5時間
95%以上人工心肺使用
Results
PrimaryOutcomeにおいては両群に有意差なし
術中出血、輸血はTXA群が少ない
痙攣発作はTXA群が高い
Results
サブグループの結果において、TXA群とプラセボ群の両群間に有意差を持つ項目はなかった。
Results
ドレーンの排液量、輸血に関しては、TXA群が明らかに少ないという結果を得た。
Results
→再手術になった、痙攣が起きた症例ではともにprimaryoutcomeは悪化する結果となった。
Results
→麻酔科医の関与は結果に影響を及ぼさなかった。
Results
Results
→アスピリンを投与された群とそうでない群に分けて見ても、primary endpointに差は見られなかった。
Discussion本研究において、CABG患者へのTXAの投与がプラセボと
比較して死亡または血栓合併症のリスクが高いというエビデンスは発見されなかった。
但し、TXA群は出血、輸血、再手術のリスクは減少させるが、一方で術後痙攣発作のリスクは増加させた。
事後分析では、術後発作が1つ以上ある患者は、術後発作のない者と比較して術後30日目までに更なる痙攣を発症したり死亡する可能性が上昇した。
CochraneDatabaseSyst Rev2011;3:CD001886Eur JCardiothorac Surg 2010;37:1375-83
TXA群は100人あたり約57単位の血液製剤を節約し得る。
今まで輸血と心臓手術の結果の不良が報告されてきたが、TXAの出血予防効果にも関わらず、心筋梗塞、脳卒中、死亡のリスクは減少しなかった。
出血リスクは減少しても、手術時間の短縮や入院期間の短縮には繋がらなかった。
Discussion
TXAは4時間の手術において30-100mg/kgの用量で投与される。
治験開始時は100mg/kgで投与していたが、用量依存性と思われるTXAによる痙攣発作の報告が増加したため、用量を減らした。
TXAを50mg/kg投与に減らしても、発作の危険性は減らなかった。
Discussion
心臓手術後の痙攣発作と脳卒中は、TXAを投与しなくても強い相関を認めた。
術後痙攣発作と、この研究で見られた脳卒中および死亡との間の関係性は痙攣発作における潜在的な血栓性要因の存在を示唆している。
Discussion
Limitation
治験期間中のTXAの投与量減少は、用量効果について検討する機会となったが、分析が不十分であった。
全体的に高リスクの患者の間で異なる所見を示唆するサブグループ効果を特定することが出来なかった。
麻酔科医が薬剤の割り当てを知っていた。
今回の治験では、オフポンプ手術を受けている患者の割合はごくわずかであり、これらの患者間での効果の推定値は、オンポンプ手術を受けている患者間の値と概ね一致したが、サブグループ間では臨床的に重要な違いをルールアウトすることは出来なかった。
Limitation
Conclusion
TXAはCABG後の死亡および血栓性合併症のリスクを増加させるという結果は得なかった。
TXAはプラセボよりも出血性合併症のリスクは減少
させるが、術後痙攣発作のリスクは増加させるという結果を得た。
私見
TXA投与がoutcomeを手術時間、ICU在室期間、入院期
間において見ると、それらを改善させるというエビデンスはない。
しかも術後痙攣発作のリスクを増加させる。
しかし、死亡率やその他の合併症を増加させるというエビデンスはない。
血液製剤の投与量を減少させる→医療費を減らすという大きな役割があるのでは?
私見
用量に気をつけて(高用量にはしない)投与することは決して悪いことではない。
心臓手術に限らず、出血が多くなりそうな症例についてはリスクを考慮した上で、TXAの投与を行っても良いのではないか。