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第 10章
土の一軸圧縮試験
10.1 はじめに
室内試験で土のせん断強さを求める方法としては,既に紹介したように特
定のせん断面上のせん断強さを直接求める一面せん断試験(第 9章参照)以
外に,圧縮強さや伸張強さからせん断強さを間接的に求める試験がある.こ
の種の試験方法のうち,代表的なものとしては,一軸圧縮試験や三軸圧縮試
験,三軸伸張試験などが挙げられる.このうち,本章で説明する一軸圧縮試
験は,試験単価が他の 1/2以下(2006年 9月,市場単価調べ)と安価なこ
ともあって,調査・試験業務等で頻繁に行われている.しかし,この試験か
ら直接的に求められるのは一軸条件での圧縮強さであり,実用上のせん断強
さはある一定の条件下で成立させるものであるが,その当たりについてはあ
まり認識されずに試験~設計へと用いられていることが多いように感じられ
る.このような実情を踏まえて,ここでは試験から得られる値の意味や適用
条件等を少しでも理解した上で試験を行ってもらえるように説明したい.
10.2 一軸圧縮試験におけるモールの応力円
一軸圧縮試験から得られる圧縮強さを一軸圧縮強さ(qu)と呼び,土に対
して水平方向から力を加えない状態で鉛直方向に圧縮したときに抵抗する最
大値の応力を指す.この最大の値を σ1,水平方向の拘束圧を σ3( = 0)と
162 第 10章 土の一軸圧縮試験
し,両者の応力差を直径として描く円が,一軸圧縮試験におけるモールの応
力円である.一軸圧縮試験の場合,拘束圧が無いためモール円は直交する軸
の原点を通って qu( = σ1)を直径とした半円状を示し,図 10.1のように表
される.この応力円に接する実線をクーロンの破壊線といい,一般に下式で
表される.
s = c + σ tanϕ (10.1)
ここに,cは粘着力,ϕは内部摩擦力といい,土の強度定数と呼ぶ.数学
的に言うなら,式 (10.1)は一次方程式で cはその切片,ϕは傾きを表してい
る.図 10.1 では,σ 軸に平行な直線(ϕ = 0)と,ϕ の傾きをもつ直線の 2
本の接線を引いているが,前者の場合は ϕ = 0から cのみ,後者の場合は c
,ϕの両成分を有する土,という解釈になる.
図 10.1 一軸圧縮試験におけるモールの応力円
破壊線に接する応力円をモールの破壊円と呼び,クーロンの破壊線と融合
させてモール・クーロンの破壊規準と呼んでいる.この規準では,σ1,σ3 と
c,ϕの関係について次式に示す関係が知られている.
sin ϕ =1/2(σ1 − σ3)
c · cot ϕ + 1/2(σ1 + σ3)(10.2)
σ1 − σ3 = 2c · cos ϕ + (σ1 + σ3) sin ϕ (10.3)
図 10.1に示すような一軸圧縮試験の場合,水平方向の拘束圧 σ3 = 0なの
10.2 一軸圧縮試験におけるモールの応力円 163
で,下式のよう変形できる.
sin ϕ =σ1/2
σ1/2 + c cot ϕ=
σ1
σ1 + 2c cot ϕ(10.4)
c =σ1
2(1 − sinϕ)
cos ϕまたは c =
σ1
2 tan(45 + ϕ/2)(10.5)
また,破壊面と最大主応力面とのなす角 αf は下式のように表すことがで
きる.
2αf = 90 + ϕ (10.6)
αf = 45 + ϕ/2 (10.7)
したがって,もしも試料が飽和粘性土であって,ϕ ; 0のとき(図 10.1で
いうなら σ 軸に平行な直線)には以下のようになる.
cu = σ1/2 = qu/2 (αf = 45◦) (10.8)
ここに,cu は非圧密非排水条件(UU条件;Unconsolidated-Undrained)
の土の粘着力を示す.飽和粘性土の一軸圧縮試験では,比較的速い速度で圧
密せずに圧縮するため,UU条件の三軸圧縮試験における拘束圧ゼロの条件
に相当する.ゆえに,ϕが無視できるような飽和粘性土では,一軸圧縮試験
を行って破壊強さ(圧縮強さ)を求め,その 1/2を粘着力と定義できること
がわかる.
図 10.2 一軸・三軸圧縮試験のモール円
図 10.2には,飽和粘性土で行った一軸圧縮試験と UU条件での三軸圧縮
試験によるモールの応力円を示す.いずれも ϕu = 0◦ で,UU条件から求め
164 第 10章 土の一軸圧縮試験
たモールの破壊円の包絡線は,水平かつ側圧の大きさに関係なく一定の cu
を示している.これは,UU条件下では試料を圧密しないために,拘束圧を
大きくしてもその拘束圧以上には強度が増加しないから,破壊時の軸差応力
(σ1 − σ3,主応力差ともいう)は一定となるのである.
なお,一軸圧縮試験における本来の非排水せん断強さは,すべり面 α上の
値(図 10.2中の破線上の値)である.しかし,一軸圧縮試験ではサンプリン
グによる応力解放や試料運搬・成形等による試料の乱れによって過小評価さ
れた値となる可能性が高いので,同図のようにモール円の頂点をとる(モー
ル円の接線上の値)のが一般的である.
10.3 一軸圧縮試験の適用条件
一軸圧縮試験を行うには,供試体が自立している ことが前提となる.主
として不攪乱状態で採取した粘性土試料を対象とするが,締固めた試料や練
り返した試料,砂質土主体でも自立すれば試験は可能である.透水性の低い
粘性土の一軸圧縮強さからは,その試料の地盤状態での非排水せん断強さ
cu が推定することができるが,透水性が高い砂質土や含水比の高い高有機
質土等では排水を伴うので,応力載荷時に強度を増加させている可能性があ
り,結果の適用に注意する必要がある.
以下に,一軸圧縮試験に適用するには特に注意が必要な土の種類と,それ
ぞれの留意点をまとめたので,実施する際の参考になれば幸いである.
1. 硬質粘性土:せん断破壊でなく縦割れによる引張り破壊を生じること
があるため,破壊状況を詳細に観察した上で,結果の適用には慎重な
検討が必要である(図 10.6参照).
2. 高有機質土:含水比が高く透水性も高いため,排水を伴うせん断破壊
となることが少なくない.1.と同様に結果の適用には慎重な検討が必
要である.
3. 締固め土(不飽和土):締固め土を一軸圧縮試験に用いる場合は,締
固め土の適用用途に沿う条件となるような試料の準備や間隙比,飽和
度,含水比等の 条件を設定する必要がある.
4. 練返した土:練り返した試料で一軸圧縮試験を行うと,乱さない試料
10.4 試験方法 165
により求めた一軸圧縮強さに比べて強度が低下する.両者の強度の違
いは鋭敏比 St として式 (10.9)から求めることができる.
St が 1の土(練返した土と元の土の強度が同じ)は非鋭敏粘土に,8
未満のものは鋭敏粘土に,8以上のものは超鋭敏粘土にそれぞれ分類
される.
St =qu
qur(10.9)
ここに,
qu:乱さない試料の一軸圧縮強さ (kN/m2)
qur:練返した試料の一軸圧縮強さ (kN/m2)
10.4 試験方法
10.4.1 供試体の準備
供試体は円柱状とし,試料の状態に応じてその寸法を選ぶ.ときには成形
が困難な場合もあり,成形時の試料の乱れを考慮して,サンプリングした試
料をそのままの直径で用いることもある.直径は 3.5 cmまたは 5.0 cm,高
さは直径の 1.8~2.5倍を目安とすればよい.
1⃝ 試料は,サンプリング試料を十分に観察のうえ,乱れが少なく対象とす
る土質を代表する部分を選定し,供試体の直径,高さより少し余裕を持った
大きさのものを用意する.
∗ サンプリングチューブの端部や層境界付近は試料の乱れが大きいため,
供試体にはそれ以外の比較的安定した連続部分を用いるのが良い.
2⃝ 供試体の成形は,トリマー,ワイヤーソー,直ナイフ等を用いて,図
10.3及び写真 10.1のように行う.側面は所定の直径になるように,端面は
平行かつ軸方向と直角になるようにする.
∗ 成形には通常ワイヤーソーを用い,ワイヤーソーでは硬くて困難な場合
は直ナイフを用いる.
166 第 10章 土の一軸圧縮試験
∗ 測定値に最も影響を及ぼすのは端面の具合であり,特に応力-ひずみ曲
線の立ち上がり部分に大きく影響するため,端面の成形には細心の注意を払
うべきである.
3⃝ 供試体の高さおよび直径,質量を測定する.
∗ 供試体の高さと直径は,ノギスを用いて複数箇所(直径は上・中・下の 3
箇所,高さは円周を等分する 2箇所以上)を 0.01 cm単位まで測定した平均
値とする.
4⃝ 供試体の成形時に削り取った試料片を用いて含水比を測定する.
∗ 圧縮後の供試体を炉乾燥させて含水比を求める場合は,この作業を省略
しても良い.
図 10.3 ワイヤーソーによる成形 写真 10.1 直ナイフによる成形
10.4.2 試験の手順
1⃝ 図 10.4に示すように,供試体を一軸圧縮試験機(写真 10.2と写真 10.3
参照)に設置する.順序としては,下部加圧板の中央に供試体を置き,供試
体に圧縮力が加わらないように上部加圧板を密着させる.また,変位計*1と
荷重計*2の原点を調整する.
2⃝ 毎分 1 % の圧縮ひずみが生じるように,ストップウォッチで時間を確
認しながら,連続して供試体を圧縮する.
*1 変位計は,供試体高さの ±0.1 %の許容差で圧縮量が測定できること.また,測定範囲20 mm以上で最小目盛が 1/100 mmの変位計,またはこれと同等以上の性能の電気式変位計とする.
*2 荷重計は,供試体の最大圧縮力の ±1 %の許容差で圧縮力の測定可能なもので,プルービングリングまたは電気式荷重計とする.
10.4 試験方法 167
図 10.4 供試体のセット 図 10.5 一軸圧縮試験の終了状態
写真 10.2 一軸圧縮試験機の全景
写真 10.3 加圧板周辺
3⃝ 圧縮中は,圧縮量 ∆H (cm) と圧縮力 P (N) を測定し,記録する.記
録は,あらかじめ定めておいた圧縮量のときの圧縮力を読み取り記録する.
∗ 記録間隔の目安は,圧縮量 0.02 cmピッチで,それ以降は 0.05 cm以内
程度とする.
4⃝ 次の 1.~3.のいずれかの条件を満たしたなら,試験を終了する(図 10.5
参照).
1. 圧縮力が最大となって引き続きひずみが 2%以上生じた場合.
2. 圧縮力が最大を示した後,最大値の 2/3程度まで減少した場合.
168 第 10章 土の一軸圧縮試験
3. 上記の 2つの条件を達しないまま,ひずみが 15%まで達した場合*3.
5⃝ 圧縮終了後,供試体の変形や破壊状況について観察し,記録する(写真
10.4参照).また,強度に影響を及ぼす可能性のある異物の混入状況や不均
質性についても記録する.
∗ 供試体の観察は,破壊挙動の推定や排水条件の確認といった観点から,
定量的ではないが非常に重要な作業である.図 10.6のように様々な破壊形
状を示すことがあり,それによって得られる強度の意味合いが異なってく
る.観察作業は,変形や破壊の状況が最も顕著に見える角度から行い,すべ
り面についてはその傾斜が最も急となる方向を選択する.
写真 10.4 圧縮後の破壊状況
6⃝ 供試体の一部を削り取り,炉乾燥させて含水比を測定する.
∗ 既に削り屑で含水比を測定している場合は,この作業を省略して良い.
*3 3.のようにひずみが 15 % に達しても応力にピークが現れない場合でも,それ以上のひずみレベルでは供試体の変形も大きく,大きな乱れを受けている可能性があるので,結果の適用には注意する.
10.5 結果の整理と解釈 169
図 10.6 一軸圧縮試験の破壊形状
10.5 結果の整理と解釈
試験結果の整理は,はじめに圧縮ひずみ ε (%)および圧縮応力 σ (kN/m2)
を下式から算定する.
ε =∆H
H0× 100 (10.10)
σ =P
A0×
(1 − ε
100
)× 10 =
P
π · D02
4
×(1 − ε
100
)× 10 (10.11)
ここに,
∆H:圧縮量 (cm)
H0:試験前の供試体の高さ (cm)
P:圧縮ひずみが ε (%)のときの圧縮力 (N)
A0:試験前の供試体の断面積 (cm2)
D0:試験前の供試体の直径 (cm)
このようにして求めた ε,σ から,圧縮応力を縦軸に,圧縮ひずみを横
軸に取って,図 10.7 のような応力-ひずみ曲線を描く.この曲線から,
0 < ε < 15 (%)の範囲の圧縮応力の最大値を読み取り,そのときの σ を一
軸圧縮強さ qu (kN/m2),ε を破壊ひずみ εf (%) とする.なお,応力-ひ
ずみ曲線の圧縮初期の部分(曲線の立ち上がり部分)に図 10.4のような変
170 第 10章 土の一軸圧縮試験
曲点が生じる場合は,同図のように変曲点以降(加圧側)の直線部分を延長
し,横軸との交点をひずみの修正原点とする.
また,変形係数 E50 (MN/m2)は式 (10.12)を用いて算定するが,この値
は土の弾性領域における変形を対象とした変形定数として取り扱われること
が多く,応力-ひずみ曲線からその値が示す変形領域を確認しておくべきで
ある(図 10.8参照).
E50
qu
2ε50
÷ 10 (10.12)
ここに,
ε50:σ = qu/2のときの圧縮ひずみ (%)
図 10.7 応力-ひずみ曲線 図 10.8 試験時の応力状態と領域区分
一軸圧縮試験は試料の乱れの影響を受けやすい試験であり,乱れは応力-
ひずみ曲線に表れる.乱れが少ない試料はピークが明確に現れるが,乱れが
大きい試料ではひずみの増加とともに応力も増加し続け,明確なピークを示
さない.
また,砂分の多い試料や地中深くから採取された試料は,特に応力解放の
影響を強く受けるため強度が低下しやすい.
このように,一軸圧縮強さは供試体の状態に影響を受けやすいことから,
コーン貫入試験やベーンせん断試験等の他の試験方法で求めた強度定数と比
10.5 結果の整理と解釈 171
較を行い,その値の妥当性について評価した上で,結果を評価,適用するこ
とが望ましい.
ちなみに,変形係数からは試料の乱れが推定できる.一般に試料の乱れが
大きいと変形係数が小さくなる.また,地盤を弾性体と仮定した変形解析に
おいて,E50 を弾性係数として用いることができる.ただし,一軸圧縮試験
から求められる変形係数は変形領域が大きいため,微小領域を取り扱う場合
は,その他の微小ひずみ領域を取り扱う試験方法により弾性係数を求めるべ
きである.