富士通グループのグリーン調達の取組み - Fujitsu...FUJITSU. 62, 6( 11, 2011) 735...

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FUJITSU. 62, 6, p. 734-739 11, 2011734 あらまし 企業における環境への取組みは,持続可能な社会の実現だけでなく,企業自身が生き 残るために必要不可欠なものである。例えば,欧州のRoHS指令やREACH規則といった 製品中の化学物質にかかわる規制など,世界の環境関連法規制の動向を注視しながらビ ジネスを進めることがリスクマネジメント強化につながっていく。さらに近年では法規 制遵守にとどまらず,植林や生態系保護などの社会貢献的な活動に率先して取り組むこ とが,企業価値向上に不可欠となってきている。 富士通グループでは,環境への取組みを経営の最重要課題の一つととらえ,長年にわ たり環境活動に取り組んでいる。調達部門では2001年度よりグリーン調達活動を実施し ている。2009年度までは,法規制遵守などのリスクマネジメントに重点を置いていたが, 2010年度からは社会貢献的なテーマとして,新たに「CO 2 排出抑制/削減の取組み」と「生物 多様性保全への取組み」の二つを加え,お取引先とともに活動を開始した。 本稿では,富士通グループにおけるグリーン調達活動に新たに加わった,これら二つ の活動について,概要と取組み状況について述べる。 Abstract Environmental activities in enterprises are essential not only for realizing a sustainable society but also for the survival of the enterprises themselves. For example, conducting business with watching the trends of global environmental regulations such as the RoHS Directive and REACH Regulation of Europe, which concern chemical substances in products, leads to stronger risk management. Recently, it has become essential for improving corporate value to take the initiative in social contribution activities including tree planting and ecological protection in addition to regulatory compliance. The Fujitsu Group recognizes environmental activities as a top priority management issue and has long been engaged in environmental efforts. The Purchasing Division has been carrying out green purchasing activities since FY 2001. It focused on risk management including regulatory compliance until FY 2009. In FY 2010, approaches towards limiting or reducing CO 2 emissionsand approaches towards biodiversity preservationwere added as new themes and activities were started in cooperation with business partners. This paper presents an overview and the status of activities under these two new themes of the Fujitsu Groups green purchasing. 若杉 敏   並木崇久   大沼英子 富士通グループのグリーン調達の取組み Fujitsu Group’s Green Purchasing Activities

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FUJITSU. 62, 6, p. 734-739 (11, 2011)734

あ ら ま し

企業における環境への取組みは,持続可能な社会の実現だけでなく,企業自身が生き

残るために必要不可欠なものである。例えば,欧州のRoHS指令やREACH規則といった製品中の化学物質にかかわる規制など,世界の環境関連法規制の動向を注視しながらビ

ジネスを進めることがリスクマネジメント強化につながっていく。さらに近年では法規

制遵守にとどまらず,植林や生態系保護などの社会貢献的な活動に率先して取り組むこ

とが,企業価値向上に不可欠となってきている。

富士通グループでは,環境への取組みを経営の最重要課題の一つととらえ,長年にわ

たり環境活動に取り組んでいる。調達部門では2001年度よりグリーン調達活動を実施している。2009年度までは,法規制遵守などのリスクマネジメントに重点を置いていたが,2010年度からは社会貢献的なテーマとして,新たに「CO2排出抑制/削減の取組み」と「生物多様性保全への取組み」の二つを加え,お取引先とともに活動を開始した。

本稿では,富士通グループにおけるグリーン調達活動に新たに加わった,これら二つ

の活動について,概要と取組み状況について述べる。

Abstract

Environmental activities in enterprises are essential not only for realizing a sustainable society but also for the survival of the enterprises themselves. For example, conducting business with watching the trends of global environmental regulations such as the RoHS Directive and REACH Regulation of Europe, which concern chemical substances in products, leads to stronger risk management. Recently, it has become essential for improving corporate value to take the initiative in social contribution activities including tree planting and ecological protection in addition to regulatory compliance. The Fujitsu Group recognizes environmental activities as a top priority management issue and has long been engaged in environmental efforts. The Purchasing Division has been carrying out green purchasing activities since FY 2001. It focused on risk management including regulatory compliance until FY 2009. In FY 2010, “approaches towards limiting or reducing CO2 emissions” and “approaches towards biodiversity preservation” were added as new themes and activities were started in cooperation with business partners. This paper presents an overview and the status of activities under these two new themes of the Fujitsu Group’s green purchasing.

● 若杉 敏   ● 並木崇久   ● 大沼英子

富士通グループのグリーン調達の取組み

Fujitsu Group’s Green Purchasing Activities

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富士通グループのグリーン調達の取組み

ま え が き

富士通グループでは,「すべてをグリーンにします」というコンセプトのもと,3年を一区切りとした環境活動を実施しており,現在は「第6期環境行動計画」(2010年度~ 2012年度)を展開している。また環境活動はサプライチェーン全体で取り組んでいく必要があるという考えから,環境行動計画に合わせ,グリーン調達活動(1)も3年単位で見直している。「第5期環境行動計画におけるグリーン調達活動」(2007年度~ 2009年度)では,リスクマネジメント強化を目的に,「お取引先の環境マネジメントシステム(EMS)の高度化」「お取引先の製品含有化学物質管理システム(CMS)の構築」の二つの活動を推進した。現在の「第6期環境行動計画におけるグリーン調達活動」(2010年度~ 2012年度)(2)では,上記の活動に加え,新たに二つの活動を開始した。一つは,現在の環境問題で最も深刻な地球温暖化防止のための「CO2排出量の抑制/削減への取組み」であり,もう一つは,生物多様性の喪失防止のための「生物多様性保全への取組み」である。富士通グループは,すべてのお取引先にこれら二つの活動への取組みをお願いしている。本稿では,この二つの活動の策定および実施内容を紹介する。

CO2排出抑制/削減の取組み

深刻な地球環境問題である気候変動への対策として,CO2をはじめとする温室効果ガスの削減が,地球規模で求められている。地球温暖化防止のためには,2020年までにその増加を止め,2050年までに1990年レベルにまで排出量を下げることが必要とされている。(3) 2009年9月の国連気候変動サミットで鳩山首相(当時)は,「2020年までに1990年度比で25%削減」という日本の方針を表明している。富士通グループは,このような社会情勢を踏まえ,お取引先向け活動としての第6期環境行動計画におけるグリーン調達活動において,すべてのお取引先に対し,「CO2排出抑制/削減の取組み」をお願いしている。具体的には,取組み宣言やお取引

ま え が き

CO2排出抑制/削減の取組み

先自身のCO2排出量の把握,目標値で掲げた排出抑制/削減活動などに取り組んでいただくことをお願いしている。富士通グループでは,お取引先の取組み状況を把握するために,取組みの実施内容により3段階に分類した独自の「取組みステージ」(図-1)という指標を策定して,すべてのお取引先にステージ1以上の取組みをお願いしている。また,部材系のお取引先については環境負荷が比較的大きいことから,ステージ2以上の取組みをお願いしている。各ステージの定義について以下に示す(表-1)。

(1) ステージ1:取組み表明自社のCO2排出量を把握するとともに,企業として排出量抑制/削減に取り組む意志を社外に表明する。(2) ステージ2:活動実践自社で,数値目標をもって排出量抑制/削減の取

組みを実施する。(3) ステージ3:取組み範囲の拡大自社内のみの取組みから,自社の外にまで活動を拡大する。具体的には下記3種類のいずれかの活動を実施していることを指す。・サプライチェーン上流へのCO2排出抑制/削減の働きかけ

・外部組織(業界,政府,自治体,経団連,NGO/NPOなどの団体や国際的な関係機関など)との

ステージ1取組み表明

ステージ2活動実践

ステージ3取組み範囲の拡大

図-1 取組みステージFig.1-Stages of activities.

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富士通グループのグリーン調達の取組み

間は,生物多様性から様々な恩恵を享受しながら生活している(食物,自然環境,資源など)。企業もまた,事業活動において生物多様性から恩恵を得るとともに,多大な影響を与えている。近年,森林伐採,鉱物の採掘,生物の乱獲,環境汚染など,経済発展を目的とした企業活動により,その生物多様性の喪失速度が急加速している。このまま生物多様性の喪失が進行すると企業活動が成り立たなくなることから,生物多様性を次の世代に残す,「生物多様性保全」活動が必要なのである。このような背景から富士通グループの第6期環境行動計画におけるグリーン調達活動では,すべてのお取引先に,生物多様性保全の取組みをお願いしている。CO2排出抑制/削減の場合と同様,取組み状況を三つのステージに分類し,すべてのお取引先にステージ1以上の取組みをお願いしている(表-1)。(1) ステージ1:取組み表明生物多様性保全の意義を理解し,企業として取り組む意志を社外に表明する。(2) ステージ2:活動実践全社的な取組み組織を構築するとともに,具体的な取組みを実施する。(3) ステージ3:取組み範囲の拡大自社内のみの取組みから,自社の外にまで活動を拡大する。具体的には下記2種類のいずれかの活動を実施していることを指す。・サプライチェーン上流への生物多様性保全の働き

協働・部品レベルの排出量把握(カーボンフットプリント)これらの活動の指標として,主要なお取引先には「取組みステージ」に適合していただくこととし,2010年度の目標適合率(当社要求を達成しているお取引先数の比率)は60%以上,2011年度は80%以上,2012年度は100%と設定した。

生物多様性保全の取組み

生物多様性保全は,地球温暖化問題ほど一般になじみはないが,地球温暖化問題に次ぐ第二の環境問題と言われている。国際的に取り組まなければならない課題だと認識されたのは,「生物多様性条約」が採択された1992年の地球サミット(リオ・デ・ジャネイロ)においてである。日本は1993年に同条約を締約しており,2011年

7月末時点では192箇国およびEUが締約している。これまで国内ではあまり知られることのない問題であったが,2010年に名古屋でCOP10(生物多様性条約締約国会議)が開かれたことを機に,多くの国民が関心を持つようになった。なお富士通は,ドイツ政府提唱のもと発足した

「ビジネスと生物多様性イニシアチブ」に参加しており,企業としてこの問題に積極的に取り組んでいく旨の「リーダーシップ宣言」に署名している(2008年5月)。生物多様性とは,「地球上に様々な生態系や生物が多種多様に存在している状態」を言う。我々人

生物多様性保全の取組み

表-1 各取組みステージの定義ステージ CO2排出抑制/削減の取組み 生物多様性保全の取組み

3

取組み範囲の拡大(ステージ2を含む)下記(1)~(3)いずれかの実施(1)サプライチェーン上流への働きかけ(2)外部組織との協働(3)カーボンフットプリントへの対応

下記(1)(2)いずれかの実施(1)サプライチェーン上流への働きかけ(2)外部組織との協働

2

活動実践(ステージ1を含む)

数値目標を持った活動の実施

下記(1)(2)両方の実施(1)生物多様性保全に関する全社的組織の

確立(2)具体的な取組みの実践

1

取組み表明下記(1)(2)両方の実施(1)社外に向けたCO2排出抑制/削減の取組

み表明(2)自社のCO2排出量把握

社外に向けた生物多様性保全の取組み表明

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富士通グループのグリーン調達の取組み

かけ・外部組織(業界,政府,自治体,経団連,NGO/

NPOなどの団体や国際的な関係機関など)との協働

お取引先向け説明会と取組み調査

(1) 国内・海外での説明会による取組み依頼活動の開始に先立ち,国内・海外で合計14回のお取引先向け説明会(図-2)を開催し,取組みを依頼した。説明会では,「CO2排出抑制/削減」および「生物多様性保全」を,企業にとって取り組むべき重要な課題と認識してほしいということと,企業として速やかに取組みを開始していただきたいという2点をお願いした。(2) 取組み調査と推進富士通グループでは,お取引先における取組み状況を把握するため,これら2テーマに関する実態調査を行った。調査においては,お取引先に「環境対策調査票」を送付し,回答をお願いした。つぎに,お取引先からの回答内容をあらかじめ定めた判断条件に照らし,お取引先の取組みステージを確認した。確認の結果,取組みが不十分なお取引先(富士通グループが希望している取組みステージに達していないお取引先)には改善を依頼している。改善依頼は,単に取組み強化をお願いするだけではなく,お取引先が自ら活動を開始できるような支援を進めた。具体的には,「CO2排出抑制/削減」については,電気使用量を入力するこ

お取引先向け説明会と取組み調査

とで自社のCO2排出量の把握と目標値の設定や進捗確認まで簡便に実施できる「CO2排出量算出ツール」を提供している。また,お取引先への個別の説明を通じて,CO2排出量の把握,目標値に基づく活動体制の構築を推進している。「生物多様性保全」については,活動の参考になる詳細な説明と取組み事例を紹介した「お取引先向け生物多様性ガイドライン」や,とくに取り組みやすい項目をリスト化した「生物多様性保全取組みチェックツール」を作成しお取引先に提供している。さらに,お取引先向けセミナーを開催し(2010年度はお取引先約20社に参加していただいた),基礎知識から具体的な取組み方法までを説明している(図-3)。生物多様性保全については,多くの企業がトライアルとして自社の環境貢献活動の範囲に終始している中で,いち早くお取引先に具体例を示して,取組みを促している富士通グループの活動は,先進的なものとしてメディアにも取り上げられた。このような支援活動の結果,二つのテーマともに,2010年度の目標値である適合率60%を達成した。

社外からの評価

富士通グループのグリーン調達活動における生物多様性保全の取組みが,外部組織の全国の企業・行政・消費者(民間団体)で構成されているグリーン購入ネットワークに評価され,「第12回グリーン

社外からの評価

図-2 お取引先向け説明会の様子 Fig.2-Briefi ng for business partners.

図-3 生物多様性セミナーの様子Fig.3-Biodiversity seminar.

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富士通グループのグリーン調達の取組み

る活動開始やステージアップのきっかけとしていただくこともねらいの一つとしている。

む  す  び

本稿では,現在活動中のグリーン調達活動の中から「CO2排出抑制/削減の取組み」と「生物多様性保全への取組み」について紹介した。第5期環境行動計画から継続している「EMS高度化」「CMS構築」の活動は,社会的要求や法規制対応が背景にあった。これに対して,「CO2排出抑制/削減」「生物多様性保全」は社会貢献活動の意味合いが大きい。社会的な要求や法規制対応に基づくお取引先への取組み要求は,お互いのビジネス関係をより強固にする意味からも,お取引先の理解が得られやすい。一方,社会貢献的な取組み要求は,お取引先の理解を得られにくい面がある。しかし,現在の地球環境問題の原因の大部分は,産業革命以降の急速な技術革新に伴う,我々の大量生産/大量消費にあるのは明らかである。富士通グループは,これらの問題にIT企業のかかわりが強く期待されていることから,自らの事業活動における活動の推進と,サプライチェーンに連なる多くのお取引先と一緒に取り組んでいくことが必要と考える。

参 考 文 献

(1) 富士通:グリーン調達. http://jp.fujitsu.com/about/csr/eco/products/ procurement/index.html(2) 富士通:富士通グループ グリーン調達基準. http://procurement.fujitsu.com/jp/gr_guide.pdf(3) 環境省:IPCC第4次評価報告書(日本語訳). http://www.env.go.jp/earth/ipcc/4th/syr_spm.pdf(4) 富士通:「第12回グリーン購入大賞」において生物多様性保全の取り組みで「大賞」を受賞.

http://pr.fujitsu.com/jp/news/2010/10/6-2.html

む  す  び

購入大賞」の大賞を受賞した。(4)

グリーン購入大賞は,環境に配慮した製品やサービスを優先的に購入する「グリーン購入」に先進的に取り組む団体を表彰し,活動事例を紹介することにより,グリーン購入を普及することを目的とした表彰制度である。富士通グループが,生物多様性保全をお取引先に促している点や,お取引先へのガイドラインの提供,評価指標の策定など,先進的かつ独自性が高い活動を行っていると評価され,受賞に至った(図-4)。

今後の取組み

今後,2011年度の適合率80%以上,2012年度100%という目標の達成を目指して,2010年度に引き続き,取組み推進のためのセミナーやツール提供を行い,お取引先の取組み強化,ステージアップを推進していく。また,新たな支援策として,「体験型の啓発活動」の実施を検討している。具体的には,富士通が社員向けに企画する植林活動や生態系保全活動などの環境保全活動にお取引先も参加していただき,机上では得られない体験や気づきを得ていただきたいと考えている。さらに,体験型の啓発活動を,お取引先におけ

今後の取組み

図-4 「グリーン購入大賞」授賞式の様子Fig.4-Presentation ceremony at Green Purchasing

Awards.

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富士通グループのグリーン調達の取組み

若杉 敏(わかすぎ さとし)

購買本部エンジニアリング購買統括部 所属現在,富士通グループのグリーン調達活動の推進に従事。

並木崇久(なみき たかひさ)

購買本部エンジニアリング購買統括部 所属現在,富士通グループのグリーン調達活動の推進に従事。

大沼英子(おおぬま えいこ)

購買本部エンジニアリング購買統括部 所属現在,富士通グループのグリーン調達活動の推進に従事。

著 者 紹 介