歴博本『転法輪鈔』密教帖の世界 - 国立歴史民俗博物館71...

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71 稿The World of the “Mikkyo ¯ ” Book of the Tenpo ¯ rinsho ¯ MIYOSHI Toshinori

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    歴博本『転法輪鈔』密教帖の世界

    三好俊徳

    はじめに

    ❶『転法輪鈔』密教帖の構成

    ❷慈円が出仕した法会の表白

    ❸源頼朝の法会とその表白

    まとめ

    [論文要旨]

     

    密教は最澄と空海により日本に伝えられて以降、その教義だけではなく、修法によ

    り祈願成就を得ることができる教えとして、貴族階級を中心に信仰が広まった。修法

    は、国家安泰などを願い朝廷により大規模に行われていたが、その一方で、個人的な

    祈願の成就を期して行われてもいた。

     

    このような中世社会における修法の意義については、歴史学を中心に多くの研究が

    なされているが、その多くは日記や寺院文書をもとにしたものであるため、修法の具

    体的な目的や内容については明らかにされてはいない。このような状況をもとに、本

    稿では、『転法輪鈔』密教帖の特徴を分析することをとおして、表白から具体的に密

    教修法と社会との関わりについて検討を行った。

     『転法輪鈔』は唱導の名手であった安居院澄憲の表白を類聚したものであり、密教

    帖は密教法会に際して読まれた表白を集めている。全三十六篇が収められているが、

    法会の種類や祈願の内容など、いずれの面からみても統一性はなく、多様な内容となっ

    ている。

     

    しかし、いくつか特徴を指摘することもできる。その一つが、慈円が関わった法会

    の表白が多いということである。まず、その表白を分類し、特に祈願の内容に注目し

    ながら、修法と社会との関係について検討を行った。

     

    また、源頼朝に関する表白が含まれていることも特徴として指摘することができる。

    そこで、頼朝の宗教政策として言及されることが多い鶴岡八幡宮五重塔供養の表白に

    注目し、頼朝の政策と法会との関わりを確認した。

     

    以上より、密教帖は、院政期から鎌倉時代初期にかけての社会状況における密教法

    会の位相を踏まえて構成されていることを明らかにした。換言すれば、密教法会は、

    様々なレベルの願いをかなえるという社会的機能を果たしていたということである。

    このような、中世における法会と社会との関係性を考察するための資料としても、『転

    法輪鈔』は有用な資料であることを指摘した。

    【キーワード】転法輪鈔、澄憲、慈円、源頼朝、密教法会

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