富士川高架橋の設計と施工 - jasbc.or.jpThis viaduct features a two-girder construction...

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Transcript of 富士川高架橋の設計と施工 - jasbc.or.jpThis viaduct features a two-girder construction...

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U.D.C. 628.474

富士川高架橋の設計と施工 Hitz技報 Vol.68 No.1 2007.11 富士川高架橋の設計と施工工 事 報 告

Design and Construction of the Fujikawa Viaduct

あ ら ま し 近年、公共工事のコスト縮減が強く要望されている中、構造の単純化による製作費および、維持管理費の低減を目的として、合理化橋の取り組みが盛んに行われている。 富士川高架橋(下り線)は従来の鈑桁に比べ、主桁本数・部材数を減らした広幅員PC床版を有する2主鈑桁構

造であり、当社では初めて施工する形式である。 架設はヤードの制限により60 mサイクルによる送り出し工法とした。 本論文は主に主桁および床版の詳細設計検討業務について述べ、その施工に関して概要を報告するものである。

Abstract  Strong demand by the public in recent years for scaling back expenditures for public works projects has brought about a wave of rationalization in bridge design and construction. These newly designed bridges feature simplified structures, with reduced construction and maintenance costs.   The Fujikawa viaduct is a steel girder bridge forming part of The New Tomei Expressway in Shizuoka Prefecture. This viaduct features a two-girder construction with a long span PC slab, which enables the number of main girders to be reduced and the structure simplified relative to conventional viaducts. It was the first time for us to build a viaduct with this structural configuration.   Since the pier height is 40 m or higher and exceeds the range of most cranes, we adopted a launching method. In the launching method, the girder is launched step by step using jacks in the yard. After that, the PC slab is constructed mainly by means of traveling support form partly by fixing support form.   This paper focuses on design and construction considerations for building a two girder bridge with a long span PC slab.

矢 幡 武 人Takehito Yahata

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1 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部

富士川高架橋の設計と施工

【文責者連絡先】 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部  橋梁設計2課 矢幡 武人  Tel : 072-243-6827  Fax : 072-243-6816  e-mail : yahata@hitachizosen.co.jp

図1 一般図

図2 橋梁形式

図3 送り出し時補強材(着色部)

風(暴風時:道示の50%強度を考慮)鋼桁、移動型枠、軌条レールケース1

風(打設時:道示の25%強度を考慮)ケース1+床版ケース2

地震(0.1g強度を考慮)ケース1+床版ケース3

活荷重死荷重

表1 座屈解析荷重ケース

図4 打設解析モデル(固定型枠部)

(a)変形防止対策前

(b)変形防止対策後図5 主桁上面の橋軸直角方向変位

図6 床版断面図

図7 打設順序と移動型枠のカウンターウェイト効果

図8 桁架設状況

図9 固定型枠

図10 移動型枠

図11 型枠設置範囲

1.緒   言 富士川高架橋(下り線)は、中日本高速道路㈱が建設する第二東名高速道路の一部を形成し、静岡県庵原郡富士川町南松野地区に位置する10径間連続の高架橋である。平成14年9月に日立造船㈱・住友重機械工業㈱建設共同企業体として設計・製作・架設一式を受注した。一般図を図1に示す。 本橋は耐荷力・耐久性に優れるPC床版(プレストレストコンクリート床版)を採用した結果、床版支間

が10 mと従来の形式より長支間化され、主桁本数の減少、構造の簡素化を図ることができた。これにより、経済性に優れた形式となっている。(図2参照)さらに、将来における保守・点検や塗装の塗り替え作業も容易となることにより維持補修費用の低減も図れる構造である。また、主桁の現場継手部には、景観上の配慮や重量の軽減等を考慮して現場溶接を採用した。 構造諸元 橋  長:562.0 m(CL上) 道路規格:第1種第1級(A規格) 設計速度:120 km/h

 形  式:鋼10径間連続2主鈑桁橋 設計荷重:B活荷重 支 間 長:40.5 m+8×60.0 m+38.5 m 有効幅員:16.5 m 平面線形:R=4000 m~A=1250~A=1250 縦断勾配:2.00 % 横断勾配:3.00 %~2.63 %(直線片勾配)

2.主桁の設計 2.1 プロポーション 長支間PC床版の採用により主桁間隔が10 mとなっていることと、横桁が下段配置となっていることが特徴である。下段配置としたのは、床版打設時における型枠、支保工の設置と作業空間を確保したことによる。主桁の桁高は、路面計画高と下部工の出来形の制約から2850 mmとした。この桁高により床版スタッドをも含めた構造高が輸送制限値内に収まり、高価なカップラー継手によるねじ付スタッドを削減することができた。横桁間隔は、床版の型枠と支保工を支持する必要があることから6 mとした。

 2.2 断面決定 主桁設計の基本方針は、床版がコンクリートフランジとして挙動することを考慮した連続合成桁としての設計である。しかし、施工時の安全性、将来の床版の打ち替え等への配慮から、主桁断面については非合成桁として1次断面を決定し、連続合成桁として断面照査を行って断面が不足する部分を増厚するというフローにより断面を決定した。断面はP2支点上で最大

97 mm(SM570)の厚板となり、合成作用照査における床版と鋼桁との温度差を考慮した荷重ケースで増厚が必要となった。これは連続桁であることに起因する不静定力が大きくなったことによる。 横桁には床版打設時の型枠、支保工及びコンクリートの荷重が載荷するが、これら施工時の荷重が断面の決定ケースとなっている。

 2.3 架設系照査・送り出し時 本橋は送り出し架設を行うため、架設時には完成時と異なる応力状態が発生する。よって、架設時の断面応力度照査、局部応力度照査およびパネル座屈照査を行い、許容値を満足しない場合は、腹板を増厚した。また、本橋のように桁高が3 m近い2主鈑桁で主桁間隔が10 mと大きい場合では地震、風による横荷重の影響も考えられるため、架設時における横荷重を考慮し、立体FEMモデルを用いて座屈および応力に関して安全性を検討した。その結果、手延べ桁に接合する5パネルにおいて主桁上フランジ面に補強材を配置し、発生応力が降伏応力に対して3倍程度の安全率を確保できるようにした。(図3参照)

・床版打設時 横方向剛性が小さく、平面形状が曲線のため、床版打設時における横倒れ座屈が引き起こされる可能性がある。このため、立体FEMモデルを用いた座屈解析を行った。表1に示すケースを基本荷重とし、漸次荷重を増加させ、座屈発生時の荷重を求めた。これを基

本荷重で除した値を座屈荷重倍率とした。結果、すべてのケースで座屈荷重倍率は3倍以上あり、仮設材追加等の補強は不要なことを確認した。 また、支間中央の床版先行打設部直下については、主桁のねじれ変形によるコンクリートノロ漏れおよび横桁のたわみ変形による支保工の変形の可能性があるため解析による検討を行った。移動型枠部は主桁上フランジ上面の橋軸直角方向の相対変位が大きかったが1 mm程度であり、内型枠が橋軸直角方向に調節可能なので仮設材による変形防止対策は不要とした。固定型枠部は同相対変位が4 mm程度となり、ノロ漏れの危険性があるため、支間中央の床版先行打設範囲にノロ漏れ防止材として引張材を追加し、1 mm以下に制御した。(図4、5参照)以上の検討により実際の床版打設では問題なく施工が可能となった。

3.床版の設計 3.1 完成系の設計 床版は橋軸直角方向にのみプレストレスを導入したPRC床版である。支間長10 mは道路橋示方書の範囲を大きく超えるため、「長支間場所打ちPC床版の設計・施工マニュアル(案)」1)により、設計曲げモーメントや床版厚を設定した。 PCケーブルはプレグラウトタイプのSWPR19L 1S28.6を用い、500 mmピッチの配置を基本としている。図6に床版断面図を示す。 橋軸方向は、連続合成桁としての挙動を考慮したRC部材として設計した。主桁作用の応力度は、床版に引張応力が作用する場合にはコンクリートを無視した断面にて算出し、床版作用と主桁作用の重ね合わせにより設計を行った。また、主桁と床版の逐次合成による施工時の残留応力は完成系の設計においても考慮し、鋼桁の製作にも施工時の累積たわみを製作キャンバーとして設定した。

 3.2 施工時の照査 床版の打設ブロック長は、サイクル工程に乗る打設量と仕上面積を考慮して12 mとし、移動型枠2機と固定型枠の併用による施工としている。照査では、耐久性の高い床版を作る目的から、施工時においてひび割れを許さないこととして設計した。 本橋は従来に比べて主桁位置で最大550 mmと厚い床版を採用していることから、コンクリートの水和反応により、温度上昇と下降に伴う体積収縮による温度応力は無視できないものとなる。施工時の床版引張応力度の許容値としては、この温度応力と打設時の主桁作用応力、施工時のクリープ、乾燥収縮の影響を含めて2.5 N/mm2以下となるよう推奨されている1)。設計工程上、打設ステップ決定が先行したため、実績より温度応力を0.8 N/mm2、クリープ乾燥収縮による応力を0.7 N/mm2と仮定し、主桁作用応力が1.0N/mm2以下となるように打設ステップを決定した。 なお、温度応力は温度応力解析プログラムにより別途検討し最大0.5 N/mm2を確認している。 移動型枠は重量が120 tあることから、打設後の移

動型枠除荷によるリバウンドで打設後の床版に大きな引張応力が発生する。よって2台の移動型枠が相互のカウンターウェイトとして働くようステップを工夫し、カウンターウェイトとなる移動台車も配置することとした。(図7参照)

 これにより大掛かりな設備が必要となる支点のジャッキダウンによるプレストレス導入を不要とすることが可能となった。設計計算は打設済みの床版コンクリートに対しては鋼桁との合成効果を考慮し、ステップ毎で桁の剛性が変化する逐次合成系として解析を行った。

4.架設の特徴 主桁架設は橋脚高さが40 m以上もありクレーンが届かないため送り出し架設工法を採用した。ヤードの制限があるため約60 mごとに桁設置、溶接、塗装を1サイクルとして順次送り出す工法を採用した。 板厚はフランジで最大97 mmとなり、このクラスの現場溶接の実績は少なかった。そこで事前に実物大の試験体により、溶接施工試験を実施し作業性、溶接所要時間、変形などを確認した。 また、送り出し架設はステップごとに3次元光波計測により溶接位置および格点位置において座標管理を行った。

 床版施工は固定型枠と移動型枠を併用した。固定型枠は従来からの実績のある工法であり、移動型枠は屋根があるため雨天時でも高品質で安全性の高い施工が可能な工法である。本橋では横断勾配の少ない部分については移動型枠を採用し、変化の大きい範囲においては移動型枠改造が必要なため固定型枠とした。(図9~図11)

5.結   言 以上、富士川高架橋(下り線)の設計と施工についてその概要を紹介した。本報告が同形式橋梁の設計における参考となれば幸いである。最後に本工事に多くのご助言とご指導をいただいた日本道路公団静岡建設局(当時)の皆様に深く感謝の意を表します。

参考文献(1)日本道路公団:長支間場所打ちPC床版の設計・

施工マニュアル(案),2002

岡   裕 幸Hiroyuki Oka

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15 16 17

U.D.C. 628.474

富士川高架橋の設計と施工 Hitz技報 Vol.68 No.1 2007.11 富士川高架橋の設計と施工工 事 報 告

Design and Construction of the Fujikawa Viaduct

あ ら ま し 近年、公共工事のコスト縮減が強く要望されている中、構造の単純化による製作費および、維持管理費の低減を目的として、合理化橋の取り組みが盛んに行われている。 富士川高架橋(下り線)は従来の鈑桁に比べ、主桁本数・部材数を減らした広幅員PC床版を有する2主鈑桁構

造であり、当社では初めて施工する形式である。 架設はヤードの制限により60 mサイクルによる送り出し工法とした。 本論文は主に主桁および床版の詳細設計検討業務について述べ、その施工に関して概要を報告するものである。

Abstract  Strong demand by the public in recent years for scaling back expenditures for public works projects has brought about a wave of rationalization in bridge design and construction. These newly designed bridges feature simplified structures, with reduced construction and maintenance costs.   The Fujikawa viaduct is a steel girder bridge forming part of The New Tomei Expressway in Shizuoka Prefecture. This viaduct features a two-girder construction with a long span PC slab, which enables the number of main girders to be reduced and the structure simplified relative to conventional viaducts. It was the first time for us to build a viaduct with this structural configuration.   Since the pier height is 40 m or higher and exceeds the range of most cranes, we adopted a launching method. In the launching method, the girder is launched step by step using jacks in the yard. After that, the PC slab is constructed mainly by means of traveling support form partly by fixing support form.   This paper focuses on design and construction considerations for building a two girder bridge with a long span PC slab.

矢 幡 武 人Takehito Yahata

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1 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部

富士川高架橋の設計と施工

【文責者連絡先】 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部  橋梁設計2課 矢幡 武人  Tel : 072-243-6827  Fax : 072-243-6816  e-mail : yahata@hitachizosen.co.jp

図1 一般図

図2 橋梁形式

図3 送り出し時補強材(着色部)

風(暴風時:道示の50%強度を考慮)鋼桁、移動型枠、軌条レールケース1

風(打設時:道示の25%強度を考慮)ケース1+床版ケース2

地震(0.1g強度を考慮)ケース1+床版ケース3

活荷重死荷重

表1 座屈解析荷重ケース

図4 打設解析モデル(固定型枠部)

(a)変形防止対策前

(b)変形防止対策後図5 主桁上面の橋軸直角方向変位

図6 床版断面図

図7 打設順序と移動型枠のカウンターウェイト効果

図8 桁架設状況

図9 固定型枠

図10 移動型枠

図11 型枠設置範囲

1.緒   言 富士川高架橋(下り線)は、中日本高速道路㈱が建設する第二東名高速道路の一部を形成し、静岡県庵原郡富士川町南松野地区に位置する10径間連続の高架橋である。平成14年9月に日立造船㈱・住友重機械工業㈱建設共同企業体として設計・製作・架設一式を受注した。一般図を図1に示す。 本橋は耐荷力・耐久性に優れるPC床版(プレストレストコンクリート床版)を採用した結果、床版支間

が10 mと従来の形式より長支間化され、主桁本数の減少、構造の簡素化を図ることができた。これにより、経済性に優れた形式となっている。(図2参照)さらに、将来における保守・点検や塗装の塗り替え作業も容易となることにより維持補修費用の低減も図れる構造である。また、主桁の現場継手部には、景観上の配慮や重量の軽減等を考慮して現場溶接を採用した。 構造諸元 橋  長:562.0 m(CL上) 道路規格:第1種第1級(A規格) 設計速度:120 km/h

 形  式:鋼10径間連続2主鈑桁橋 設計荷重:B活荷重 支 間 長:40.5 m+8×60.0 m+38.5 m 有効幅員:16.5 m 平面線形:R=4000 m~A=1250~A=1250 縦断勾配:2.00 % 横断勾配:3.00 %~2.63 %(直線片勾配)

2.主桁の設計 2.1 プロポーション 長支間PC床版の採用により主桁間隔が10 mとなっていることと、横桁が下段配置となっていることが特徴である。下段配置としたのは、床版打設時における型枠、支保工の設置と作業空間を確保したことによる。主桁の桁高は、路面計画高と下部工の出来形の制約から2850 mmとした。この桁高により床版スタッドをも含めた構造高が輸送制限値内に収まり、高価なカップラー継手によるねじ付スタッドを削減することができた。横桁間隔は、床版の型枠と支保工を支持する必要があることから6 mとした。

 2.2 断面決定 主桁設計の基本方針は、床版がコンクリートフランジとして挙動することを考慮した連続合成桁としての設計である。しかし、施工時の安全性、将来の床版の打ち替え等への配慮から、主桁断面については非合成桁として1次断面を決定し、連続合成桁として断面照査を行って断面が不足する部分を増厚するというフローにより断面を決定した。断面はP2支点上で最大

97 mm(SM570)の厚板となり、合成作用照査における床版と鋼桁との温度差を考慮した荷重ケースで増厚が必要となった。これは連続桁であることに起因する不静定力が大きくなったことによる。 横桁には床版打設時の型枠、支保工及びコンクリートの荷重が載荷するが、これら施工時の荷重が断面の決定ケースとなっている。

 2.3 架設系照査・送り出し時 本橋は送り出し架設を行うため、架設時には完成時と異なる応力状態が発生する。よって、架設時の断面応力度照査、局部応力度照査およびパネル座屈照査を行い、許容値を満足しない場合は、腹板を増厚した。また、本橋のように桁高が3 m近い2主鈑桁で主桁間隔が10 mと大きい場合では地震、風による横荷重の影響も考えられるため、架設時における横荷重を考慮し、立体FEMモデルを用いて座屈および応力に関して安全性を検討した。その結果、手延べ桁に接合する5パネルにおいて主桁上フランジ面に補強材を配置し、発生応力が降伏応力に対して3倍程度の安全率を確保できるようにした。(図3参照)

・床版打設時 横方向剛性が小さく、平面形状が曲線のため、床版打設時における横倒れ座屈が引き起こされる可能性がある。このため、立体FEMモデルを用いた座屈解析を行った。表1に示すケースを基本荷重とし、漸次荷重を増加させ、座屈発生時の荷重を求めた。これを基

本荷重で除した値を座屈荷重倍率とした。結果、すべてのケースで座屈荷重倍率は3倍以上あり、仮設材追加等の補強は不要なことを確認した。 また、支間中央の床版先行打設部直下については、主桁のねじれ変形によるコンクリートノロ漏れおよび横桁のたわみ変形による支保工の変形の可能性があるため解析による検討を行った。移動型枠部は主桁上フランジ上面の橋軸直角方向の相対変位が大きかったが1 mm程度であり、内型枠が橋軸直角方向に調節可能なので仮設材による変形防止対策は不要とした。固定型枠部は同相対変位が4 mm程度となり、ノロ漏れの危険性があるため、支間中央の床版先行打設範囲にノロ漏れ防止材として引張材を追加し、1 mm以下に制御した。(図4、5参照)以上の検討により実際の床版打設では問題なく施工が可能となった。

3.床版の設計 3.1 完成系の設計 床版は橋軸直角方向にのみプレストレスを導入したPRC床版である。支間長10 mは道路橋示方書の範囲を大きく超えるため、「長支間場所打ちPC床版の設計・施工マニュアル(案)」1)により、設計曲げモーメントや床版厚を設定した。 PCケーブルはプレグラウトタイプのSWPR19L 1S28.6を用い、500 mmピッチの配置を基本としている。図6に床版断面図を示す。 橋軸方向は、連続合成桁としての挙動を考慮したRC部材として設計した。主桁作用の応力度は、床版に引張応力が作用する場合にはコンクリートを無視した断面にて算出し、床版作用と主桁作用の重ね合わせにより設計を行った。また、主桁と床版の逐次合成による施工時の残留応力は完成系の設計においても考慮し、鋼桁の製作にも施工時の累積たわみを製作キャンバーとして設定した。

 3.2 施工時の照査 床版の打設ブロック長は、サイクル工程に乗る打設量と仕上面積を考慮して12 mとし、移動型枠2機と固定型枠の併用による施工としている。照査では、耐久性の高い床版を作る目的から、施工時においてひび割れを許さないこととして設計した。 本橋は従来に比べて主桁位置で最大550 mmと厚い床版を採用していることから、コンクリートの水和反応により、温度上昇と下降に伴う体積収縮による温度応力は無視できないものとなる。施工時の床版引張応力度の許容値としては、この温度応力と打設時の主桁作用応力、施工時のクリープ、乾燥収縮の影響を含めて2.5 N/mm2以下となるよう推奨されている1)。設計工程上、打設ステップ決定が先行したため、実績より温度応力を0.8 N/mm2、クリープ乾燥収縮による応力を0.7 N/mm2と仮定し、主桁作用応力が1.0N/mm2以下となるように打設ステップを決定した。 なお、温度応力は温度応力解析プログラムにより別途検討し最大0.5 N/mm2を確認している。 移動型枠は重量が120 tあることから、打設後の移

動型枠除荷によるリバウンドで打設後の床版に大きな引張応力が発生する。よって2台の移動型枠が相互のカウンターウェイトとして働くようステップを工夫し、カウンターウェイトとなる移動台車も配置することとした。(図7参照)

 これにより大掛かりな設備が必要となる支点のジャッキダウンによるプレストレス導入を不要とすることが可能となった。設計計算は打設済みの床版コンクリートに対しては鋼桁との合成効果を考慮し、ステップ毎で桁の剛性が変化する逐次合成系として解析を行った。

4.架設の特徴 主桁架設は橋脚高さが40 m以上もありクレーンが届かないため送り出し架設工法を採用した。ヤードの制限があるため約60 mごとに桁設置、溶接、塗装を1サイクルとして順次送り出す工法を採用した。 板厚はフランジで最大97 mmとなり、このクラスの現場溶接の実績は少なかった。そこで事前に実物大の試験体により、溶接施工試験を実施し作業性、溶接所要時間、変形などを確認した。 また、送り出し架設はステップごとに3次元光波計測により溶接位置および格点位置において座標管理を行った。

 床版施工は固定型枠と移動型枠を併用した。固定型枠は従来からの実績のある工法であり、移動型枠は屋根があるため雨天時でも高品質で安全性の高い施工が可能な工法である。本橋では横断勾配の少ない部分については移動型枠を採用し、変化の大きい範囲においては移動型枠改造が必要なため固定型枠とした。(図9~図11)

5.結   言 以上、富士川高架橋(下り線)の設計と施工についてその概要を紹介した。本報告が同形式橋梁の設計における参考となれば幸いである。最後に本工事に多くのご助言とご指導をいただいた日本道路公団静岡建設局(当時)の皆様に深く感謝の意を表します。

参考文献(1)日本道路公団:長支間場所打ちPC床版の設計・

施工マニュアル(案),2002

岡   裕 幸Hiroyuki Oka

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U.D.C. 628.474

富士川高架橋の設計と施工 Hitz技報 Vol.68 No.1 2007.11 富士川高架橋の設計と施工工 事 報 告

Design and Construction of the Fujikawa Viaduct

あ ら ま し 近年、公共工事のコスト縮減が強く要望されている中、構造の単純化による製作費および、維持管理費の低減を目的として、合理化橋の取り組みが盛んに行われている。 富士川高架橋(下り線)は従来の鈑桁に比べ、主桁本数・部材数を減らした広幅員PC床版を有する2主鈑桁構

造であり、当社では初めて施工する形式である。 架設はヤードの制限により60 mサイクルによる送り出し工法とした。 本論文は主に主桁および床版の詳細設計検討業務について述べ、その施工に関して概要を報告するものである。

Abstract  Strong demand by the public in recent years for scaling back expenditures for public works projects has brought about a wave of rationalization in bridge design and construction. These newly designed bridges feature simplified structures, with reduced construction and maintenance costs.   The Fujikawa viaduct is a steel girder bridge forming part of The New Tomei Expressway in Shizuoka Prefecture. This viaduct features a two-girder construction with a long span PC slab, which enables the number of main girders to be reduced and the structure simplified relative to conventional viaducts. It was the first time for us to build a viaduct with this structural configuration.   Since the pier height is 40 m or higher and exceeds the range of most cranes, we adopted a launching method. In the launching method, the girder is launched step by step using jacks in the yard. After that, the PC slab is constructed mainly by means of traveling support form partly by fixing support form.   This paper focuses on design and construction considerations for building a two girder bridge with a long span PC slab.

矢 幡 武 人Takehito Yahata

1

1 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部

富士川高架橋の設計と施工

【文責者連絡先】 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部  橋梁設計2課 矢幡 武人  Tel : 072-243-6827  Fax : 072-243-6816  e-mail : yahata@hitachizosen.co.jp

図1 一般図

図2 橋梁形式

図3 送り出し時補強材(着色部)

風(暴風時:道示の50%強度を考慮)鋼桁、移動型枠、軌条レールケース1

風(打設時:道示の25%強度を考慮)ケース1+床版ケース2

地震(0.1g強度を考慮)ケース1+床版ケース3

活荷重死荷重

表1 座屈解析荷重ケース

図4 打設解析モデル(固定型枠部)

(a)変形防止対策前

(b)変形防止対策後図5 主桁上面の橋軸直角方向変位

図6 床版断面図

図7 打設順序と移動型枠のカウンターウェイト効果

図8 桁架設状況

図9 固定型枠

図10 移動型枠

図11 型枠設置範囲

1.緒   言 富士川高架橋(下り線)は、中日本高速道路㈱が建設する第二東名高速道路の一部を形成し、静岡県庵原郡富士川町南松野地区に位置する10径間連続の高架橋である。平成14年9月に日立造船㈱・住友重機械工業㈱建設共同企業体として設計・製作・架設一式を受注した。一般図を図1に示す。 本橋は耐荷力・耐久性に優れるPC床版(プレストレストコンクリート床版)を採用した結果、床版支間

が10 mと従来の形式より長支間化され、主桁本数の減少、構造の簡素化を図ることができた。これにより、経済性に優れた形式となっている。(図2参照)さらに、将来における保守・点検や塗装の塗り替え作業も容易となることにより維持補修費用の低減も図れる構造である。また、主桁の現場継手部には、景観上の配慮や重量の軽減等を考慮して現場溶接を採用した。 構造諸元 橋  長:562.0 m(CL上) 道路規格:第1種第1級(A規格) 設計速度:120 km/h

 形  式:鋼10径間連続2主鈑桁橋 設計荷重:B活荷重 支 間 長:40.5 m+8×60.0 m+38.5 m 有効幅員:16.5 m 平面線形:R=4000 m~A=1250~A=1250 縦断勾配:2.00 % 横断勾配:3.00 %~2.63 %(直線片勾配)

2.主桁の設計 2.1 プロポーション 長支間PC床版の採用により主桁間隔が10 mとなっていることと、横桁が下段配置となっていることが特徴である。下段配置としたのは、床版打設時における型枠、支保工の設置と作業空間を確保したことによる。主桁の桁高は、路面計画高と下部工の出来形の制約から2850 mmとした。この桁高により床版スタッドをも含めた構造高が輸送制限値内に収まり、高価なカップラー継手によるねじ付スタッドを削減することができた。横桁間隔は、床版の型枠と支保工を支持する必要があることから6 mとした。

 2.2 断面決定 主桁設計の基本方針は、床版がコンクリートフランジとして挙動することを考慮した連続合成桁としての設計である。しかし、施工時の安全性、将来の床版の打ち替え等への配慮から、主桁断面については非合成桁として1次断面を決定し、連続合成桁として断面照査を行って断面が不足する部分を増厚するというフローにより断面を決定した。断面はP2支点上で最大

97 mm(SM570)の厚板となり、合成作用照査における床版と鋼桁との温度差を考慮した荷重ケースで増厚が必要となった。これは連続桁であることに起因する不静定力が大きくなったことによる。 横桁には床版打設時の型枠、支保工及びコンクリートの荷重が載荷するが、これら施工時の荷重が断面の決定ケースとなっている。

 2.3 架設系照査・送り出し時 本橋は送り出し架設を行うため、架設時には完成時と異なる応力状態が発生する。よって、架設時の断面応力度照査、局部応力度照査およびパネル座屈照査を行い、許容値を満足しない場合は、腹板を増厚した。また、本橋のように桁高が3 m近い2主鈑桁で主桁間隔が10 mと大きい場合では地震、風による横荷重の影響も考えられるため、架設時における横荷重を考慮し、立体FEMモデルを用いて座屈および応力に関して安全性を検討した。その結果、手延べ桁に接合する5パネルにおいて主桁上フランジ面に補強材を配置し、発生応力が降伏応力に対して3倍程度の安全率を確保できるようにした。(図3参照)

・床版打設時 横方向剛性が小さく、平面形状が曲線のため、床版打設時における横倒れ座屈が引き起こされる可能性がある。このため、立体FEMモデルを用いた座屈解析を行った。表1に示すケースを基本荷重とし、漸次荷重を増加させ、座屈発生時の荷重を求めた。これを基

本荷重で除した値を座屈荷重倍率とした。結果、すべてのケースで座屈荷重倍率は3倍以上あり、仮設材追加等の補強は不要なことを確認した。 また、支間中央の床版先行打設部直下については、主桁のねじれ変形によるコンクリートノロ漏れおよび横桁のたわみ変形による支保工の変形の可能性があるため解析による検討を行った。移動型枠部は主桁上フランジ上面の橋軸直角方向の相対変位が大きかったが1 mm程度であり、内型枠が橋軸直角方向に調節可能なので仮設材による変形防止対策は不要とした。固定型枠部は同相対変位が4 mm程度となり、ノロ漏れの危険性があるため、支間中央の床版先行打設範囲にノロ漏れ防止材として引張材を追加し、1 mm以下に制御した。(図4、5参照)以上の検討により実際の床版打設では問題なく施工が可能となった。

3.床版の設計 3.1 完成系の設計 床版は橋軸直角方向にのみプレストレスを導入したPRC床版である。支間長10 mは道路橋示方書の範囲を大きく超えるため、「長支間場所打ちPC床版の設計・施工マニュアル(案)」1)により、設計曲げモーメントや床版厚を設定した。 PCケーブルはプレグラウトタイプのSWPR19L 1S28.6を用い、500 mmピッチの配置を基本としている。図6に床版断面図を示す。 橋軸方向は、連続合成桁としての挙動を考慮したRC部材として設計した。主桁作用の応力度は、床版に引張応力が作用する場合にはコンクリートを無視した断面にて算出し、床版作用と主桁作用の重ね合わせにより設計を行った。また、主桁と床版の逐次合成による施工時の残留応力は完成系の設計においても考慮し、鋼桁の製作にも施工時の累積たわみを製作キャンバーとして設定した。

 3.2 施工時の照査 床版の打設ブロック長は、サイクル工程に乗る打設量と仕上面積を考慮して12 mとし、移動型枠2機と固定型枠の併用による施工としている。照査では、耐久性の高い床版を作る目的から、施工時においてひび割れを許さないこととして設計した。 本橋は従来に比べて主桁位置で最大550 mmと厚い床版を採用していることから、コンクリートの水和反応により、温度上昇と下降に伴う体積収縮による温度応力は無視できないものとなる。施工時の床版引張応力度の許容値としては、この温度応力と打設時の主桁作用応力、施工時のクリープ、乾燥収縮の影響を含めて2.5 N/mm2以下となるよう推奨されている1)。設計工程上、打設ステップ決定が先行したため、実績より温度応力を0.8 N/mm2、クリープ乾燥収縮による応力を0.7 N/mm2と仮定し、主桁作用応力が1.0N/mm2以下となるように打設ステップを決定した。 なお、温度応力は温度応力解析プログラムにより別途検討し最大0.5 N/mm2を確認している。 移動型枠は重量が120 tあることから、打設後の移

動型枠除荷によるリバウンドで打設後の床版に大きな引張応力が発生する。よって2台の移動型枠が相互のカウンターウェイトとして働くようステップを工夫し、カウンターウェイトとなる移動台車も配置することとした。(図7参照)

 これにより大掛かりな設備が必要となる支点のジャッキダウンによるプレストレス導入を不要とすることが可能となった。設計計算は打設済みの床版コンクリートに対しては鋼桁との合成効果を考慮し、ステップ毎で桁の剛性が変化する逐次合成系として解析を行った。

4.架設の特徴 主桁架設は橋脚高さが40 m以上もありクレーンが届かないため送り出し架設工法を採用した。ヤードの制限があるため約60 mごとに桁設置、溶接、塗装を1サイクルとして順次送り出す工法を採用した。 板厚はフランジで最大97 mmとなり、このクラスの現場溶接の実績は少なかった。そこで事前に実物大の試験体により、溶接施工試験を実施し作業性、溶接所要時間、変形などを確認した。 また、送り出し架設はステップごとに3次元光波計測により溶接位置および格点位置において座標管理を行った。

 床版施工は固定型枠と移動型枠を併用した。固定型枠は従来からの実績のある工法であり、移動型枠は屋根があるため雨天時でも高品質で安全性の高い施工が可能な工法である。本橋では横断勾配の少ない部分については移動型枠を採用し、変化の大きい範囲においては移動型枠改造が必要なため固定型枠とした。(図9~図11)

5.結   言 以上、富士川高架橋(下り線)の設計と施工についてその概要を紹介した。本報告が同形式橋梁の設計における参考となれば幸いである。最後に本工事に多くのご助言とご指導をいただいた日本道路公団静岡建設局(当時)の皆様に深く感謝の意を表します。

参考文献(1)日本道路公団:長支間場所打ちPC床版の設計・

施工マニュアル(案),2002

岡   裕 幸Hiroyuki Oka

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U.D.C. 628.474

富士川高架橋の設計と施工 Hitz技報 Vol.68 No.1 2007.11 富士川高架橋の設計と施工工 事 報 告

Design and Construction of the Fujikawa Viaduct

あ ら ま し 近年、公共工事のコスト縮減が強く要望されている中、構造の単純化による製作費および、維持管理費の低減を目的として、合理化橋の取り組みが盛んに行われている。 富士川高架橋(下り線)は従来の鈑桁に比べ、主桁本数・部材数を減らした広幅員PC床版を有する2主鈑桁構

造であり、当社では初めて施工する形式である。 架設はヤードの制限により60 mサイクルによる送り出し工法とした。 本論文は主に主桁および床版の詳細設計検討業務について述べ、その施工に関して概要を報告するものである。

Abstract  Strong demand by the public in recent years for scaling back expenditures for public works projects has brought about a wave of rationalization in bridge design and construction. These newly designed bridges feature simplified structures, with reduced construction and maintenance costs.   The Fujikawa viaduct is a steel girder bridge forming part of The New Tomei Expressway in Shizuoka Prefecture. This viaduct features a two-girder construction with a long span PC slab, which enables the number of main girders to be reduced and the structure simplified relative to conventional viaducts. It was the first time for us to build a viaduct with this structural configuration.   Since the pier height is 40 m or higher and exceeds the range of most cranes, we adopted a launching method. In the launching method, the girder is launched step by step using jacks in the yard. After that, the PC slab is constructed mainly by means of traveling support form partly by fixing support form.   This paper focuses on design and construction considerations for building a two girder bridge with a long span PC slab.

矢 幡 武 人Takehito Yahata

1

1 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部

富士川高架橋の設計と施工

【文責者連絡先】 日立造船鉄構㈱ 鉄構設計部  橋梁設計2課 矢幡 武人  Tel : 072-243-6827  Fax : 072-243-6816  e-mail : yahata@hitachizosen.co.jp

図1 一般図

図2 橋梁形式

図3 送り出し時補強材(着色部)

風(暴風時:道示の50%強度を考慮)鋼桁、移動型枠、軌条レールケース1

風(打設時:道示の25%強度を考慮)ケース1+床版ケース2

地震(0.1g強度を考慮)ケース1+床版ケース3

活荷重死荷重

表1 座屈解析荷重ケース

図4 打設解析モデル(固定型枠部)

(a)変形防止対策前

(b)変形防止対策後図5 主桁上面の橋軸直角方向変位

図6 床版断面図

図7 打設順序と移動型枠のカウンターウェイト効果

図8 桁架設状況

図9 固定型枠

図10 移動型枠

図11 型枠設置範囲

1.緒   言 富士川高架橋(下り線)は、中日本高速道路㈱が建設する第二東名高速道路の一部を形成し、静岡県庵原郡富士川町南松野地区に位置する10径間連続の高架橋である。平成14年9月に日立造船㈱・住友重機械工業㈱建設共同企業体として設計・製作・架設一式を受注した。一般図を図1に示す。 本橋は耐荷力・耐久性に優れるPC床版(プレストレストコンクリート床版)を採用した結果、床版支間

が10 mと従来の形式より長支間化され、主桁本数の減少、構造の簡素化を図ることができた。これにより、経済性に優れた形式となっている。(図2参照)さらに、将来における保守・点検や塗装の塗り替え作業も容易となることにより維持補修費用の低減も図れる構造である。また、主桁の現場継手部には、景観上の配慮や重量の軽減等を考慮して現場溶接を採用した。 構造諸元 橋  長:562.0 m(CL上) 道路規格:第1種第1級(A規格) 設計速度:120 km/h

 形  式:鋼10径間連続2主鈑桁橋 設計荷重:B活荷重 支 間 長:40.5 m+8×60.0 m+38.5 m 有効幅員:16.5 m 平面線形:R=4000 m~A=1250~A=1250 縦断勾配:2.00 % 横断勾配:3.00 %~2.63 %(直線片勾配)

2.主桁の設計 2.1 プロポーション 長支間PC床版の採用により主桁間隔が10 mとなっていることと、横桁が下段配置となっていることが特徴である。下段配置としたのは、床版打設時における型枠、支保工の設置と作業空間を確保したことによる。主桁の桁高は、路面計画高と下部工の出来形の制約から2850 mmとした。この桁高により床版スタッドをも含めた構造高が輸送制限値内に収まり、高価なカップラー継手によるねじ付スタッドを削減することができた。横桁間隔は、床版の型枠と支保工を支持する必要があることから6 mとした。

 2.2 断面決定 主桁設計の基本方針は、床版がコンクリートフランジとして挙動することを考慮した連続合成桁としての設計である。しかし、施工時の安全性、将来の床版の打ち替え等への配慮から、主桁断面については非合成桁として1次断面を決定し、連続合成桁として断面照査を行って断面が不足する部分を増厚するというフローにより断面を決定した。断面はP2支点上で最大

97 mm(SM570)の厚板となり、合成作用照査における床版と鋼桁との温度差を考慮した荷重ケースで増厚が必要となった。これは連続桁であることに起因する不静定力が大きくなったことによる。 横桁には床版打設時の型枠、支保工及びコンクリートの荷重が載荷するが、これら施工時の荷重が断面の決定ケースとなっている。

 2.3 架設系照査・送り出し時 本橋は送り出し架設を行うため、架設時には完成時と異なる応力状態が発生する。よって、架設時の断面応力度照査、局部応力度照査およびパネル座屈照査を行い、許容値を満足しない場合は、腹板を増厚した。また、本橋のように桁高が3 m近い2主鈑桁で主桁間隔が10 mと大きい場合では地震、風による横荷重の影響も考えられるため、架設時における横荷重を考慮し、立体FEMモデルを用いて座屈および応力に関して安全性を検討した。その結果、手延べ桁に接合する5パネルにおいて主桁上フランジ面に補強材を配置し、発生応力が降伏応力に対して3倍程度の安全率を確保できるようにした。(図3参照)

・床版打設時 横方向剛性が小さく、平面形状が曲線のため、床版打設時における横倒れ座屈が引き起こされる可能性がある。このため、立体FEMモデルを用いた座屈解析を行った。表1に示すケースを基本荷重とし、漸次荷重を増加させ、座屈発生時の荷重を求めた。これを基

本荷重で除した値を座屈荷重倍率とした。結果、すべてのケースで座屈荷重倍率は3倍以上あり、仮設材追加等の補強は不要なことを確認した。 また、支間中央の床版先行打設部直下については、主桁のねじれ変形によるコンクリートノロ漏れおよび横桁のたわみ変形による支保工の変形の可能性があるため解析による検討を行った。移動型枠部は主桁上フランジ上面の橋軸直角方向の相対変位が大きかったが1 mm程度であり、内型枠が橋軸直角方向に調節可能なので仮設材による変形防止対策は不要とした。固定型枠部は同相対変位が4 mm程度となり、ノロ漏れの危険性があるため、支間中央の床版先行打設範囲にノロ漏れ防止材として引張材を追加し、1 mm以下に制御した。(図4、5参照)以上の検討により実際の床版打設では問題なく施工が可能となった。

3.床版の設計 3.1 完成系の設計 床版は橋軸直角方向にのみプレストレスを導入したPRC床版である。支間長10 mは道路橋示方書の範囲を大きく超えるため、「長支間場所打ちPC床版の設計・施工マニュアル(案)」1)により、設計曲げモーメントや床版厚を設定した。 PCケーブルはプレグラウトタイプのSWPR19L 1S28.6を用い、500 mmピッチの配置を基本としている。図6に床版断面図を示す。 橋軸方向は、連続合成桁としての挙動を考慮したRC部材として設計した。主桁作用の応力度は、床版に引張応力が作用する場合にはコンクリートを無視した断面にて算出し、床版作用と主桁作用の重ね合わせにより設計を行った。また、主桁と床版の逐次合成による施工時の残留応力は完成系の設計においても考慮し、鋼桁の製作にも施工時の累積たわみを製作キャンバーとして設定した。

 3.2 施工時の照査 床版の打設ブロック長は、サイクル工程に乗る打設量と仕上面積を考慮して12 mとし、移動型枠2機と固定型枠の併用による施工としている。照査では、耐久性の高い床版を作る目的から、施工時においてひび割れを許さないこととして設計した。 本橋は従来に比べて主桁位置で最大550 mmと厚い床版を採用していることから、コンクリートの水和反応により、温度上昇と下降に伴う体積収縮による温度応力は無視できないものとなる。施工時の床版引張応力度の許容値としては、この温度応力と打設時の主桁作用応力、施工時のクリープ、乾燥収縮の影響を含めて2.5 N/mm2以下となるよう推奨されている1)。設計工程上、打設ステップ決定が先行したため、実績より温度応力を0.8 N/mm2、クリープ乾燥収縮による応力を0.7 N/mm2と仮定し、主桁作用応力が1.0N/mm2以下となるように打設ステップを決定した。 なお、温度応力は温度応力解析プログラムにより別途検討し最大0.5 N/mm2を確認している。 移動型枠は重量が120 tあることから、打設後の移

動型枠除荷によるリバウンドで打設後の床版に大きな引張応力が発生する。よって2台の移動型枠が相互のカウンターウェイトとして働くようステップを工夫し、カウンターウェイトとなる移動台車も配置することとした。(図7参照)

 これにより大掛かりな設備が必要となる支点のジャッキダウンによるプレストレス導入を不要とすることが可能となった。設計計算は打設済みの床版コンクリートに対しては鋼桁との合成効果を考慮し、ステップ毎で桁の剛性が変化する逐次合成系として解析を行った。

4.架設の特徴 主桁架設は橋脚高さが40 m以上もありクレーンが届かないため送り出し架設工法を採用した。ヤードの制限があるため約60 mごとに桁設置、溶接、塗装を1サイクルとして順次送り出す工法を採用した。 板厚はフランジで最大97 mmとなり、このクラスの現場溶接の実績は少なかった。そこで事前に実物大の試験体により、溶接施工試験を実施し作業性、溶接所要時間、変形などを確認した。 また、送り出し架設はステップごとに3次元光波計測により溶接位置および格点位置において座標管理を行った。

 床版施工は固定型枠と移動型枠を併用した。固定型枠は従来からの実績のある工法であり、移動型枠は屋根があるため雨天時でも高品質で安全性の高い施工が可能な工法である。本橋では横断勾配の少ない部分については移動型枠を採用し、変化の大きい範囲においては移動型枠改造が必要なため固定型枠とした。(図9~図11)

5.結   言 以上、富士川高架橋(下り線)の設計と施工についてその概要を紹介した。本報告が同形式橋梁の設計における参考となれば幸いである。最後に本工事に多くのご助言とご指導をいただいた日本道路公団静岡建設局(当時)の皆様に深く感謝の意を表します。

参考文献(1)日本道路公団:長支間場所打ちPC床版の設計・

施工マニュアル(案),2002

岡   裕 幸Hiroyuki Oka

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